MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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 いや~、もう前回の更新から5か月経ってしまいましたね()。時間が経つのって本当に早い!(認識災害)


第38話:武器

「「不器用さを武器に?」」

 

「ウン」

 

 フォックがゼファーから戦い方を示された日の翌日。いつもの三人組はいつもの海岸に集まっていた。そこでフォックは昨日ゼファーに言われたことを二人にも話した。

 

「でもどうすればイいか、ワかんないんだ」

 

「どうすればって……ゼファー先生は何も言わなかったの?」

 

 ライカはゼファーの性格からして、何かしらアドバイスくらいはしているだろうと踏んでいた。

 

「それが――」

 

『どうやって不器用さを武器にするかって? それはお前自身が考えるべきことだ。他人から答えが与えられたんじゃあ、真にそれを武器にできたとは言えない』

 

「――って」

 

 つまりはノーヒント。ゼファーの言いたいことも分かるが、しかし少しはヒントになるようなことを言ってくれても良かったのではないかと、フォックとライカは頭を抱えた。

 そんな二人は置いといて、ギルバートは別のことが気になっていた。

 

「ちょっと待て。それなら俺たちは手伝わない方がいいんじゃねえのか?」

 

「えっ」

 

 ゼファーの思惑を聞かされたギルバートはそう溢した。自分やライカがこの件に答えを出してしまったら、それこそ『他人から答えを与えられた』ことになってしまうのではないか。フォックのためを思うからこそ辿り着いた厳しい意見であった。

 

「それも一理あるけど……でも、飽くまで答えを出すところを本人がやらなきゃいけないだけで、誰の助けも借りちゃいけないってことではないんじゃないかしら?」

 

「そうなのか? いや、でも、結局のところ最終的な目標はフォックが強くなることだしなあ……」

 

「…………」

 

 当事者(フォック)を無視して保護者二人(ライカとギルバート)の方がヒートアップし始める。フォックは話についていけなくなって黙ってしまった。

 

「そうだよな……アドバイスくらいなら大丈夫だよな……。というかコイツの頭脳じゃアドバイス無しで新しい戦い方を身に付けるとか絶対無理だろうし」

 

「ギル、その言い方はちょっと失礼過ぎるわよ。でも正直、私もそうだろうと思ってる。フォックのためを思うなら、やっぱりアドバイスくらいは絶対に必要だと思うわ」

 

「仕方ねえ、じゃあ俺たちが手伝ってやるしかないか!」

 

 言葉とは裏腹に、ギルバートは笑顔でそう頷く。本人不在の議論は、最終的に二人ともフォックを手伝うことで終着したようだ。

 

「そうと決まれば早速考えるぞ! どうすればフォックが不器用さを武器にできるかをな!」

 

「オーケー! 三人寄れば文殊の知恵って言うし、みんなで考えればきっと何か思いつくはずよ!」

 

「……ウン!」

 

 とりあえず二人が協力してくれることだけは分かったフォックは、笑顔で頷いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が砂浜を支配している。この場にいる誰もが何かを発さなければと思っているのに、誰も何も発せない。黙りこくる三人を無視して、ざあざあと波の音だけが響き渡る。いつもは気にならないはずのその音は、今の三人にはいやに鮮明に聞こえた。

 

「だあああぁぁぁっ!! 何っ、にもっ、思いつかねえぇぇぇっ!!」

 

 とうとうその沈黙に耐えられなくなり、ギルバートが天に向かって叫んだ。

 

「だいたいどうやったら不器用さが武器になんだよ! どう考えても不器用さは欠点でしかないだろ! 先生適当言ってんじゃねえだろうなぁ!?」

 

 ギルバートにはどうしても「不器用さを武器に」する方法が思いつかなかった。しかし、それが普通であろう。彼の言う通り、一般的にどんな分野であっても不器用さは欠点としか見做されない。ましてや今は戦闘という非常に高度な分野についての話だ。不器用さが武器になどなるはずがないと、そう思ってしまっても仕方がない。

 

「でも先生は才能の無さを武器にしたんでしょう? 先生の言う通り、それに比べれば不器用さを武器にすることの方がまだ……いえ、どっちもどっちね」

 

 結局何も思いついていない二人は、駄目元でフォックの方に視線を向けた。

 

「…………ナニもオモいつかない」

 

(まあ、そんな気はしていたわ……)

 

「まあ、そうだろうと思ったよ……」

 

 誰一人として何一つ思いついていない。三人は完全に行き詰っていた。

 

「どうすんだよ、マジで何にも進展してないぞ? もう一時間は考えてるのに」

 

「……闇雲に考えても駄目ね。一度不器用さを活かすことについて考えるのは止めて、フォックが何が得意で何が不得意なのか、それを先に整理した方が良いと思うわ。そこから何かヒントが得られるかもしれない」

 

「それもそうだな。お前の言う通りだ」

 

 ギルバートはライカに同意した。三人とも闇雲に考えるのは止めて、フォックの長所短所を明確化することに注力する。

 

「まあ、フォックと言えば身体能力と直感だよな。あれは器用不器用とか関係ない、間違いのないコイツの強みだ」

 

「ええ、そうね。その二つに関しては、フォックはこの学校一と言っても過言ではない」

 

 それは最早学校では知らないものはいないレベルで知られた事実であった。

 

「だけど今更そんな常識を再確認してもな……。他には何かないのか?」

 

「他、ね……」

 

 ギルバートの指摘を受けて、ライカは考える。

 

(フォックが得意な他のこと……あれ?)

 

「何も……無い?」

 

 ライカは自身が至ってしまった結論を恐る恐る口にした。

 

「いや、そんなことはないだろ。いくらフォックでも、身体能力と直感だけだなんてそんな……」

 

 やはりギルバートもそれ以外が全く思いつかない。

 

「なあ、フォック。お前は自分が何を得意としていると思ってるんだ?」

 

 仕方がないのでギルバートは本人に聞くことにした。自分のことは自分が一番良く知っている……かどうかは微妙だが、しかしこれならば二人が気付けなかった答えが得られる可能性はある。

 

「オレのトクイなこと……タタカうのはトクイだぞ」

 

「じゃあ、戦うこと以外だと?」

 

 フォックは空を見上げて考える。暫くそうして顔を顰めていて、そして何かを思いついたのか顔をハッとさせて答えた。

 

「ココにキてから、ゆガラらのおカゲでベンキョウがトクイに――」

 

「なってない。絶対になってない」

 

 フォックが言い終わる前にギルバートが否定した。その顔は心なしか怒りに満ち溢れているように見える。

 

「ああそうだ次の試験はフォックの卒業のためにせめて最低限の点数を取らせなきゃいけないんだった次の試験範囲どこだっけそうだ海兵として活動するにあたって守らなきゃいけない法律だうわあ複雑だ覚えさせることが多すぎるああでも時間が無いどうしようどうしようどうしよう」

 

 その隣では思い出したくないことを思い出したせいか、ライカが頭を抱えて蹲り、錯乱したかのようにブツブツと何かを呟いている。フォックに勉強を教えることは、二人に相当なストレスを与えているようだ。

 

「……とりあえずフォックが得意なことは身体能力を高めることと直感。これは満場一致だろうな」

 

 機能しなくなったライカに代わり、ギルバートが話を纏めた。

 

「じゃあ次は不得意なことか……」

 

 ギルバートは黙る。それは思いつかないからではない。思いつくことが多すぎるからだ。

 

(勉強関連は全部駄目。コミュニケーションも正直怪しい。身体能力は高くてもその制御は苦手……コイツここ(学校)に来る前はどうやって生きてきたんだよ……)

 

 思わずそう思ってしまった彼を誰が責められようか。「不器用」の一言で片付けられていたフォックの短所を細かく分析していけば、これほどまでに致命的な欠点が見えてくるのだ。事実上の保護者となってしまったギルバートとしては、思わず天を仰いでしまうほどに心配になってしまう。

 

(それともう一つ……。これは推測でしかないが、恐らくは――)

 

『確かミンク族の人は“エレクトロ”っていう電気を放つ能力を持っているのよね? 私も電気を使う能力者だから、何か参考になる話でも――』

 

 脳裏に思い浮かぶのはフォックが学校に来てすぐの頃(第32話)。ライカが“エレクトロ”について尋ねたとき、フォックは明らかに表情を引き攣らせていた。

 

(コイツがそれらしき能力を使ったことなんて一度も見たことない。つまり――)

 

――フォックはエレクトロが使えない。そうギルバートは推測していた。

 

(本当に武器になるのかよ? コイツの不器用さが。こんな欠点が。なあ、ゼファー先生?)

 

 その後も議論は続いたが、機能停止したライカと元々機能しないフォックを抱えていては進む議論も進まない。

 結局その日は何も得られないまま議論が終了したのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 次の日、「不器用さを武器に」するためのヒントを求め、三人はまたしても砂浜に集まっていた。昨日の結果を踏まえ、議論では解決不可能という結論に至った三人は別のアプローチを試みようという話になった。そこでライカが提案したのは、フォックと他二人のうちのどちらか一方とによる模擬戦であった。

 

「模擬戦だと? そんなのいつもやってるじゃないか。今更そんなんで新しい発想が得られるとは思えないんだが……」

 

 ギルバートはそう反論したが、そのくらいのことはライカとて分かっている。

 

「そう思うのも無理はないわ。でも、同じ行動をしていても意識が違えばまた別の感想が得られたりすることって、結構あるじゃない? 例えばミステリー小説の二周目とかさ」

 

「あ~……ミステリー小説は読んだことないが、まあ言わんとしていることは分かった」

 

 つまりは「フォックの不器用さを戦闘に活かす」ということを頭の片隅に置いた状態で模擬戦をすれば、今までの模擬戦では得られなかった知見が得られるのではないのか、とライカは言いたいのだ。

 

「うじうじ悩んでても昨日みたいなことになるだけだろうし、それで行こう。フォックもそれでいいか?」

 

「ウン!」

 

 フォックとしても、頭を使うことよりも身体を動かすことの方がずっと得意だ。だから、断る理由は無い。

 そうして模擬戦が始まったのだが――

 

「魚人槍術! “猛夜棲(たけやす)”!」

 

「ウオォォオオ!!」

 

 ギルバートとフォックがぶつかり合い、それを横からライカが眺めている。ライカはフォックの一挙手一投足全てをつぶさに観察して、不器用さを活かすためのヒントを探している。

 

「セァッ!」

 

「甘いな!」

 

 フォックがギルバートの腹を狙って乱打を繰り出す。しかし、その乱打はギルバートが構えるハルバードによってあっさりと防がれた。

 

「ハァッ!!」

 

「っ! うおっと! 危ねえ!」

 

 直後、フォックがギルバートの頭を狙って拳を突き出した。ギルバートは何とかギリギリで避けることに成功したが、今彼が避けられたのはたまたま運が良かっただけであろう。腹狙いの乱打で腹を守ることに意識を向けさせ、その直後に頭を狙う。以前のフォックには絶対に不可能なその陽動は、普通なら避けられない。

 

(フォックのパンチも本当に綺麗になったわね……。ここに来た当初は威力こそあれど狙いがブレブレで、戦況に応じて狙いを変えるなんて絶対無理だったでしょうに……)

 

 何故だかライカは我が子の成長を見守る親のような気持ちになっていた。フォックにこの戦い方を教えたのは彼女ではなくゼファーであるはずなのに。

 

「“月歩”! からの“大瀑布落とし”!」

 

「ッ!」

 

 そんなことを考えている内に、どうやら決着がついたようだ。訓練用に刃を潰されたハルバードがフォックの頭をかち割り、フォックが地面に倒れる。

 

「勝負あったわね。二人ともお疲れ様」

 

 ライカは二人に駆け寄りながらタオルを投げ渡した。

 

「不器用とは言われてるけど、フォックも十分器用な立ち回りができるようになってると私は思うわ。さっきの陽動も――」

 

「チガう」

 

「――え?」

 

 フォックはライカの言葉を遮った。

 

「センセイのタタカいカタはキュウクツだ。オレにはアわない。オレがやるべきなのは――」

 

 それっきりフォックは黙ってしまった。ライカもギルバートも、黙ったままのフォックを見守ることにする。

 口を出すのは簡単だが、それでは彼のためにならない。保護者二人はそう直感したのだった。

 

「ギル、もうイッセンつきあってくれるか?タメしたいことがある」

 

「ああ、いいぞ。何度でも付き合ってやるさ」

 

 何かを思いついた様子のフォックは、もう一回模擬戦をやろうと提案した。当然ギルバートはそれを快諾する。

 

「じゃあ変わらず審判は私ね。二人とも用意!」

 

 ライカの掛け声で、二人は構えを取る。

 

(フォックの奴、何か閃いたみたいだが……何を見せてくれる?)

 

 内心期待しつつ、ギルバートは始まりの時を待つ。そして――

 

「始め!」

 

「ハァッ!」

 

 開幕と同時にフォックはギルバートへと駆け出した。その動きは“剃”と見紛うほど速いが――

 

(何だあの出鱈目な走り方は……身体の制御をかなぐり捨てれば出せる力も増えるだろうけどさあ、それじゃあ意味が――)

 

(どうしたの、フォック!? 先生の教えた戦い方はどうしちゃったのよ!? あんなブレブレの軌道で走っても――)

 

――同時にどこまでも拙かった。一切の制御を捨て去ったその動きは速いには速いが、動きに無駄が多く、どう見ても非効率的。

 

「ウオオォォォァァァアアア!!!」

 

 フォックが拳を振りかぶる。そこにさっきの模擬戦のような洗練された動きは無く、二人には破れかぶれにしか感じられない。

 

(フォックの奴、ヤケクソになっちまったのか? だったら気付けに一発手痛い敗北を味合わせてやる!)

 

 勢いだけは良いブレブレの拳が飛んでくる。ギルバートはそれを避け――

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「勝負あり! 勝者、ギルバート!」

 

 ライカの声が砂浜に響き渡る。

 結論から言えば、フォックは負けた。しかし――

 

「ハァッ、ハァッ、おい、フォック……。さっきの戦い、何をしやがった?」

 

 息も絶え絶えなギルバートはフォックに問いかけるが、返事はない。

 

「コレが……コレこそが……」

 

 フォックは自分の手を見つめて、呆然とした様子でそう呟いていた。

 

「凄いよ! フォック! 多分だけど、()()()()()()()こそが『不器用さを武器に』するってことなんだわ!」

 

 興奮した様子でライカがフォックに駆け寄った。

 

「不器用さを武器に……ああ、()()()のはそういうことか。成程ね。流石だよフォック。想像以上だ」

 

 ギルバートも得心がいったらしく、自分の想像を遥かに超えた戦い方を見せてくれたフォックに惜しみない賞賛を与えた。

 

「なあ、フォック。今まで先生が教えてきた戦い方と、()()()()()を組み合わせたら多分今まで以上に強くなれると思ったんだが……どうだ?」

 

「? そうなのか?」

 

「ああ、一回試してみろ! きっと強くなれるはずだ! おい、ライカ! 次は俺が審判をやるからフォックと戦ってくれないか? フォックの()()()()()()をもっと洗練させるにはそれが一番だ!」

 

「オーケー! 望むところよ!」

 

 とんとん拍子で話が進んでゆく。昨日の、否、今までの停滞感が嘘のような進展ぶりに、フォックは思わず笑みを溢した。

 

「二人とも準備は良いか?」

 

「大丈夫!」

 

「モンダイない」

 

「よし! それじゃあ用意…………始め!」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 フォックは目の前の光景が信じられなかった。二人が六式を体得してから、フォックは二人に殆ど勝てなくなっていた。たまに勝ったとしても、ギリギリの辛勝ばかりだった。それが今はどうだ。

 

「勝負あり! フォックの勝ちだ!」

 

 目の前で地面に伸びているライカと、両足で砂浜を踏みしめているフォック。それは、彼が彼だけの武器を手にしたことの証明であった。




ライカ、ギルバート
 完全に保護者。

フォック
 新しい戦い方を覚えました。その詳細はもう少しだけ引っ張らせてもらうんじゃ。あと、前々から示唆してましたけど、彼がエレクトロを使えないかもしれないということ、明文化されたのは今話が初だったかな?

 という訳で新戦法開発回。「不器用さを武器に」する戦法とは一体?
 それと、士官学校編は多分残り4か5話くらいで終わると思います。相変わらずテンポが悪くて申し訳ない……。でも漸く三人を海に出せるぞぉ!
 今回は謎の爆速更新(当社比)ができたけど、次回はきっと鈍足更新に戻ります。多分7か月後くらいになるんじゃないかな()
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