MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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 今回、六式に関する独自解釈が多分に出てきます。そういうのが苦手な方はご注意を。


第41話:オレのタタかいカタ

 試験が始まっても棒立ちのままなクザンに対して、ライカたちは三方に分かれて突撃した。フォックは正面から突撃し、ライカとギルバートはそれぞれクザンを左右から挟み込むように回り込む。

 それに対してクザンは、試験中につき手加減モードであるため飽くまで棒立ちで受け身の姿勢を貫いている。クザンは黙って三人に囲まれてあげて、次の出方を窺った。

 

(狐が正面戦闘、嬢ちゃんと魚人が左右から挟撃か)

 

 左右からクザンを挟んだライカ、ギルバートはクザンと距離を保って様子見に徹している。こちらはまだ攻撃する気は無さそうだ。

 対して、正面から迫りくるフォックは思いっきり拳を振りかぶっており、明らかに攻撃する気満々であった。

 

(狐がメインで攻撃して、嬢ちゃんと魚人でサポートするって感じね。なるほど)

 

 クザンは冷静に分析する。まだ左右の二人からは攻撃する意思が感じられない。ならば正面の一人に対処するのみ。そう判断したクザンは思いっきり振り抜かれたフォックの拳をギリギリで回避しようとして――

 

「ッ!?」

 

――大きく後ろへ跳んだ。ギリギリで避けようとしていたフォックの拳が、当たる直前になってクザンのいる方向へと()()()からだ。

 

(……今のは一体……。俺が避ける方向を予測してそっちに狙いを変えた……という訳ではなさそうだな)

 

 クザンはフォックに回避先を予測されたのかと考えたが、何も考えていない様子のフォックを見ているとそうではないような気がしていた。実際フォックはクザンの回避先を予測した訳ではない。

 

(! また来た!)

 

 再びフォックが正面から突撃をかます。相も変わらず左右の二人は様子見に徹している。先のこともあって、クザンはフォックに最大限の警戒を払っていた。再度振るわれるフォックの拳にあらん限りの注意を注ぎ、そして――

 

「えっ?」

 

「アッ」

 

――見当違いの方向に拳を突き出すフォックを見て思わず呆然としてしまった。

 

「「!」」

 

 瞬間、左右の二人が同時に動き出した。

 

「“指向性放電(テスラスパーク)”!」

「“猛夜棲(たけやす)”!」

 

 左右から迫る電撃とハルバードを、クザンは身を捩ることで躱す。

 

(なるほど……()()()()()()ね)

 

 今のたった二回の応酬でクザンは完全に三人の作戦を理解した。

 

(恐らく狐の少年は恐ろしく不器用だ。だからこそパンチの軌道が読めない)

 

 それが最初の応酬でフォックが見せた、ギリギリでクザンに当たる拳の正体。フォックほど不器用な人間が力の制御など考えずに全力で拳を振るえば、それは本人にすら何処に飛ぶのか分からない一撃となる。当然、本人すら予測できないその軌道を、受ける側の人間が先読みすることなどできるはずがない。それはフォックの不器用さが生み出した、ある意味で究極の初見殺しであった。

 

(だけど、不器用さによる不規則性頼みだと、二回目みたいにそもそも当たらない可能性もある。だからこその――)

 

――左右の二人。本人すら予測できないということは、ちゃんと当たってくれるかどうかは完全に運任せということである。当然、一回目のように偶々上手くいくこともあれば、二回目のように的外れな方向へと飛んでいってしまうこともある。事実上の博打であった。

 

(狐の少年が外さなかったらそれで良し、外しても嬢ちゃんと魚人が即座にフォローに入って反撃を許さない。いいねェ、面白くなってきたじゃないの)

 

 フォックの攻撃はクザンほどの実力者ですら読むことができない。故に何度もこの応酬を許せば、手加減モードであるとはいえクザンすら仕留められる可能性があるのであった。

 

(なるほど、先生がお気に入りと言うわけだ)

 

 自分の強み、弱みを正確に理解し、それを仲間の力を借りて活かすことができる。彼らならきっと合格判定を貰えるだろうと、クザンは掛け値なしにそう思った。

 そんなことを考えている間に、再びフォックが突っ込んできた。両手を握りしめている辺り、今度は一撃に終わらず連撃を繰り出すつもりなのだろう。

 

(まあ、合格レベルに達してるって分かった以上、黙ってこのまま食らってやっても良いんだが……)

 

 だらけた思考を打ち切り、クザンは試験前にゼファーと交わした言葉を思い出す。ゼファーは言っていた。訓練生たちを一人前に成長させるためにも、なるべく()()()になってやってくれと。ならば他ならぬ恩師の頼み、彼らの成長のためにもギリギリ超えられない壁になってみせよう。そう決意したクザンは手加減の程度を一段落とすことにした。

 フォックが()()()に入っているのを確認したクザンは、自身を中心として円を描くように両腕を前から後ろへ回した。ただそれだけの動作で、フォックとクザン以外を締め出す分厚い氷のドームが出来上がった。

 

「! フォック!?」

 

「まずい! 分断されたぞ!」

 

「ッ!!」

 

「これで二人からの援護は期待できなくなった。さて、どうする?」

 

 氷のドームで分断された今、二人がフォックをフォローすることは不可能。つまり、さっきまでしていた不器用さを活かした攻撃は、外れるリスクを考えるとおいそれと使えない。

 

「フゥゥー……」

 

 フォックはゆっくりと息を吐き、意識を切り替える。元々こうなる可能性は予測していた。そもそも戦場という不確定要素の塊のような場所で、いつも仲間と一緒に戦えると考えられるほど三人は楽観的ではなかった。故にこそ、フォックは孤立した場合に備えた戦い方も事前に訓練していた。

 

「シィィィィイ……」

 

「その力の込め方……“六式”か?」

 

 ドームの中にフォックの呼吸音が響き渡る。氷壁で反響する息遣いは、フォックに否が応でも自分が独りであることを自覚させた。

 対するクザンは、制服の上からフォックの筋肉の動きを感じ取り、彼の次の手札が“六式”であると予測を付けていた。

 

(一対一でサイコロを振る気は無いか。まあ、援護を期待できない以上、安定を取るのは正解だが――)

 

「“()()”!」

 

 脚に溜めていた力を解放し、フォックが駆け出した。それは海軍でもよく知られる、“六式”の“剃”――

 

「何だその走り方は!?」

 

――ではない。そもそもフォックは不器用過ぎて“六式”を扱うことができなかったはずだ。

 

「ウォオオオオオ!」

 

 フォックは一瞬の間に地面を10回ほど()()()()ことによって高速移動していた。しかし、そんな非効率的な力の使い方をしてまともな走りができるはずがない。実際フォックの走る軌道は“剃”と比較して大きくブレていた。

 

「っ! 走る軌道まで読めんとはね!」

 

 だが、今はそれがプラスに働いていた。やはり軌道が予測できないということは、戦闘においては大きなアドバンテージになる。

 

「“シガン”!」

 

 “ソル”でクザンに接近したフォックは、“六式”が一つにして相手を指で貫く暗殺技、“指銃”を――

 

「それが“指銃”だと? ただのパンチにしか見えないけどねェ!」

 

――繰り出さなかった。繰り出したのは真っ直ぐ腕を突き出して放つパンチ。その突き出し方はどことなく“指銃”を訪仏とさせるが、指を突き出していない以上少なくとも“指銃”ではなかった。

 しかし、()()()()()()()()()()()は手加減モードのクザンには十分過ぎるほどに速く、クザンの頬を拳が掠める。

 

(なるほどッ! 不器用過ぎて通常の“六式”は使えないから、自分に合うように独自に改良して使っているのか!)

 

 それこそがフォックが扱う“六式”の正体。以前(第38話)ライカとギルバートと共にフォックが新しい戦い方を模索していたときに、ギルバートはフォックにこう言っていた。

 

『なあ、フォック。今まで先生が教えてきた戦い方(力を制御して安定させること)と、今の戦い方(不器用さを予測不可能性として活かすこと)を組み合わせたら多分今まで以上に強くなれると思ったんだが……どうだ?』

 

 三人でどうすればそれが可能なのか試行錯誤を繰り返し、そして遂にモノにした戦い方。安定した『技術』と運任せな『博打』のちょうど中間に位置する戦術。その名は――

 

「イくぞ!! “独式(ドクシキ)”――!!」

 

 自分ですら予測できない不規則性をゼファーの教えを元に制御し、自分には予測できて相手には予測できない程度にまで安定化する。それこそが“独式”。“六式”を独自に発展させた、彼だけの戦い方だった。

 

「――“肢銃(シガン)”!!」

 

 フォックでは指先にだけ力を込めて相手を貫くことは不可能。ならばいっそのこと貫通力など捨てて、ただ素早くて直進性のあるパンチとして放った方が良いのではないか? そんな発想を形にしたのが“肢銃(シガン)”。弾丸の速さで拳打を放つ彼だけの技だ。

 

「くっ!」

 

 クザンは咄嗟に後方へ跳び、ドームの壁を蹴ってフォックの頭上へと舞い上がった。そのまま手の中に氷の塊を作り出し、それをフォックに向けて放つ。

 

「“(ソル)”!」

 

 フォックはさっきも使った高速移動でその場を離れ、氷を回避した。

 フォックでは一瞬の間に何度も地面を蹴って、その蹴った反動を制御して真っ直ぐ進むことは不可能。ならばいっそのこと反動の制御など捨てて、不規則かつ高速で移動する技として活用した方が良いのではないか? そんな発想を形にしたのが“(ソル)”。移動技として見れば“剃”に劣るが、不規則性故相手に接近するための技として見れば“剃”すら超え得る彼だけの移動法だ。

 

「好き放題やってくれちゃって――!」

 

「ッ!?」

 

 いつの間にかクザンがフォックのすぐ傍にまで近づいていた。“薙”に“剃”で追いついたクザンは、お返しと言わんばかりにフォックの腹を目掛けて殴打を繰り出す。それは最早避けられるタイミングではなく、フォックの腹にクザンの拳が突き刺さり――

 

「“鉄回(テッカイ)”!」

 

「! 弾かれた!?」

 

――そして弾かれた。拳を弾かれたクザンはその勢いでよろめき、たたらを踏んだ。

 フォックでは全身に力を込めて身体を鉄の硬度にすることは不可能。ならば鉄の硬度など捨てて、全身に込めた力を別の形で使った方が良いのではないか? そんな発想を形にしたのが“鉄回(テッカイ)”。不器用さ故に生まれた力のむらが身体に硬い部分と柔らかい部分を生み出し、結果硬度の差から全身がバネとなる。鉄の硬さを捨て鉄の弾性を再現したその技は、攻撃してきた相手を弾き飛ばし強制的に体勢を崩させることが可能なカウンター技だ。

 

「グッ!?」

 

 クザンを弾いたフォックがその場に蹲る。“鉄回”は“鉄塊”と違い、身体全体が硬くなっている訳ではない。故に、“鉄塊”と比べると防御性能は大きく落ちる。クザンの放った腹への一撃は確実にフォックにダメージを与えていた。

 

「なかなか面白いことしてくれたじゃない。次はどんな手品を見せてくれるワケ?」

 

「ッ!」

 

 ここに来てフォックは判断ミスを犯した。どれだけ手加減していても、大将は大将だ。フォックたちとは隔絶とした実力差がある。フォックが痛みから立ち直るよりも前に、クザンは既に体勢を立て直していた。

 

(マズイ! まだカラダがウゴかない……!)

 

 尚も屈みこまっているフォックにゆっくりとクザンが近づいていく。ドームで囲われている以上、助けが来る可能性は無い。完全に詰みだとフォックが諦めかけたそのときだった。

 

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 突如としてクザンの後方のドームの壁に穴が空き、ライカが二刀を構えてクザンに刺突を放った。その二刀の刃は赤熱していて、相当な温度にまで熱せられていることが窺える。この熱せられた刀を用いて氷の壁を溶かしたのだろう。

 

「おおっとぉ!」

 

 しかしクザンは身体を捻ってそれを躱す。そして刺突を躱されて無防備なライカと、未だ蹲るフォックを叩きにかかった。しかし、クザンに狙われているはずのライカは笑顔を浮かべていた。

 

「隙は作った! 今よ、ギル!」

 

「了解! “極大瀑布落とし”!!」

 

 

 

ドガァァァアンッッ!!

 

 

 

 その瞬間、凄まじい爆音がドームの頂点から響き渡った。分厚い氷の天井がまるで砂糖細工のように粉々に砕け散る。そこから降ってきたのはギルバートだった。ギルバートは天井を突き破った勢いそのままに、大量の水が纏わりついたハルバードをクザンに向けて振り下ろす。

 ライカとギルバートは、フウライと戦ったとき(第26話)のように刀とハルバードでペルチェ効果を起こしていたのだ。それによってライカは刀を熱して氷壁を貫けるようにし、ギルバートはハルバードを冷やして、ライカが溶かした水をハルバードに纏えるようにしたのだった。

 

「ぐぁッ!?」

 

 ライカとフォックを攻撃する体勢に入っていたクザンは、ギルバートの必殺の振り下ろしを避けられない。咄嗟に腕を交差させて防ごうとしたが、水の分だけ強化されたギルバートの斬撃を受けきることはできなかった。

 クザンは吹き飛ばされて、ドームの壁に打ち付けられる。それは今日の試験で初めてまともにクザンに入ったダメージだった。

 

「……はぁ、こりゃ試験とは言え手加減し過ぎたかな。悪いが、ちょっとギアを上げさせてもらうよ、お三方」

 

 罅の入った壁を背に、よろめくクザンが立ち上がる。その目つきは明らかに試験開始時点よりも鋭くなっていた。

 

「ついてきな! お三方!」

 

 クザンは“月歩”を使ってドームの天井に空いた穴から外へと飛び出る。

 

「「“月歩”!」」

 

 ライカとギルバートはすぐさま“月歩”でそれを追いかけた。それを上から眺めるクザンは考える。

 

(俺の見立てが正しけりゃ、狐くんは“月歩”を使えない。あれだけ不器用なら足で空気を捉えるのは無理だ。さて、狐くんはそれを補う技を持ち合わせているかどうか――!)

 

 クザンは期待にも似た感情をフォックへと向ける。彼ならきっと空にいる自分にもついて来るだろうと、何故だかクザンは確信していた。そしてその確信は正しかった。

 

「“激歩(ゲッポウ)”!」

 

 足から破裂音を立てながらフォックは空を蹴る。それは“薙”と同じように、制御を捨てることで不規則性を増した空中歩行。

 二人が真っ直ぐに、一人がジグザグに空を駆け、クザンへと迫った。クザンは腕を振るい、大量の氷塊を三人に向けてばら撒く。

 

「ギル、フォック! 私の後ろに! “放電(スパーク)”!」

 

 ライカの掛け声に応じて、ギルバートとフォックはライカの後ろへとついた。それと同時にライカは全身から放電する。彼女の身体を中心として放たれる球状の電撃は、飛来する氷塊を防ぐ盾となる。

 

「ここまで近づけば!」

 

「オレたちでイける!」

 

 ライカの背後から一斉に二人が飛び出し、クザンを狙う。対するクザンは、今度はばら撒きではなく正確に二人を狙って氷塊を打ち出した。

 

「っと! 危ねえ!」

 

「こんなもの、アたらない!」

 

 ギルバートは咄嗟に中空を横に蹴って回避したが、フォックは前だけを見て突貫した。“激歩”による不規則なジグザグ軌道は、クザンの正確な射撃を外させるのに十分だった。フォックの顔のすぐ横を氷塊が通り過ぎ、しかしフォックはそれに臆することなく前へと跳び続ける。

 

「まずい、フォック! 罠だ!」

 

「えっ?」

 

 だが、それこそがクザンの狙いだった。氷塊を避けていてクザンと距離を詰められないギルバートと、ガンガン前へと突き進むフォックとでは、必然的に二人の間に距離が生まれる。知らぬ間に彼は再び孤立していたのだ。

 

「そういうことだ。海兵ならちゃんと足並みを揃えなさいな」

 

 気付けばフォックの頭上には大量の氷塊が待ち受けており、更にはクザン本人もその手に氷の剣を作り出している。頭上と正面からの同時攻撃を仕掛けるつもりのようだ。

 

「「フォック!!」」

 

 二人の叫びを背に受けて、フォックは漸く事態を理解した。しかし時すでに遅く、頭上からの氷塊の雨とクザンの袈裟斬りが同時にフォックに迫り――

 

「“紙柄(カミエ)”!」

 

――フォックはその攻撃をもろに食らってしまった。しかし、クザンは攻撃をクリーンヒットさせたはずなのに、妙に手応えが軽く感じられた。それもそのはず、それこそがフォックの“紙柄(カミエ)”の効果であった。

 “六式”が一つ、“紙絵”は相手の攻撃を読むのと同時に、極限まで身体から力を抜くことで相手の攻撃を紙のようにヒラヒラと避ける技だ。しかしフォックではどうしても身体に余計な力が入ってしまい、全身から一切の力を抜き切ることなど不可能。ならば紙のように回避することなど諦めて、余計な力すら活かして()()()()()()()()方が良いのではないか? そんな発想を形にしたのが“紙柄(カミエ)”。不器用さ故に抜けきらなかった力があることでフォックの身体には力のむらが出来るが、それを“鉄回”と同じように利用することで身体をバネにする。“鉄回”では身体を鉄のバネとしたが、“紙柄”では紙のバネとすることで、衝撃を加えられても紙のようにヒラヒラと吹き飛んでダメージを最小限に抑える。そんな受け身技こそが“紙柄”なのだ。

 “紙柄”を使ったフォックはクザンの袈裟斬りを食らい、斬られずに地面へと吹き飛ばされる。しかし、ただ吹き飛ばされるだけでは終われない。後続のライカとギルバートのためにもせめてもう一撃を、と考えたフォックは落ちながら独式最後の技を放った。

 

「“乱脚(ランキャク)”!」

 

 フォックが蹴りを放つと、その脚力によって飛ばされた空気が真空の刃となりクザンへと飛んでいく。しかしその刃は“嵐脚(ランキャク)”のような一つの大きな刃ではなく、ショットガンの如き多数の小さな刃であった。

 

(これは避けきれんな……防ぐことはできるが、防いだ後は――ッ!)

 

 クザンはこの至近距離では刃の散弾は避けきれないと判断した。しかし、それを防御することはできない。何故ならフォックを吹き飛ばしている間にギルバートがクザンに迫りつつあったから。今“乱脚”を防げばギルバートに無防備なところを晒してしまうことになる。

 

「ッ! 本当に良くやるッ!」

 

 クザンは“乱脚”を身体で受けてギルバートに集中する。この様子ならフォックが復帰するまでに時間がかかるだろうから、その間にライカとギルバートを――

 

(……! 嬢ちゃんがいない?)

 

 さっきまでギルバートの後ろからこちらを追っていたはずのライカがいない。手加減モードで見聞色の覇気も何も使えないクザンは、ギルバートから注意を逸らさないようにしながらも素早く左右を確認し――

 

「“二刀類(にとうるい)熱温絡刀須(ネオラクトース)”!」

 

――そして真上から赤熱した二振りの刃が迫ってきていることに、当たる直前になって気付いた。

 クザンは即座に腕を交差して刃を防ぐ。しかし、試験中につき武装色の覇気を封じている以上防御手段は“鉄塊”しかない。そして“鉄塊”は身体を硬質化させるが、身体そのものを変化させている訳ではないので、高熱による攻撃は防げない。

 

「ッッ!! ちょ~っと、やりすぎなんじゃないの!?」

 

 クザンは赤熱した鋼の温度に顔を歪ませながらも、それでも二刀をまともに食らう訳にはいかないので防ぎ続ける。しかし、その瞬間にクザンは己の終わりを悟った。ライカの攻撃を防ぎ続けなければいけないということは、他二人に対処することができないということ。

 

「“猛夜棲(たけやす)・極大流れ槍”!」

 

「“独式・増肢銃(マシンガン)”!」

 

 正面から来た水を纏ったハルバードによる刺突、そして真下から来た弾丸の速度を持つ拳の連打は、同時にクザンの身体を貫いた。

 

「……参ったね」

 

 三人の一斉攻撃を受けて、クザンはゆっくりと落ちていく。

 

「……こりゃ次の世代は安泰かな」

 

 クザンが地面に落ち、遅れて三人もそれぞれ落ちてきて着地した。予想外の結末に訓練場にいる人々は誰も何も発せなかった。何なら当事者であるはずの三人も目を白黒させていて、今自分たちが為したことが現実なのか信じ切れずにいた。

 

「勝負あり! 勝者、ライカ、ギルバート、フォックチーム!!」

 

 ゼファーの一喝で全員の意識が現実に引き戻される。相手が手加減をしていたとはいえ、未だ訓練生の身でしかないはずのはみ出し者三人が大将に打ち勝った。それこそが今ここにある現実であった。




フォック
 今回の主役。遂に戦い方が判明しました。今後は独式をメインに戦っていきます。彼の活躍を書いてて「不器用ってなんだよ……」ってなったけど書いちまったモンはしょうがねェ。

独式
 六式にフォックの不器用さを足して突然変異してできた新技術。各技の理屈が無理矢理すぎる気がするけど、ワンピ時空だし多分問題ない。
Q.何でフォックはいつもひらがなカタカナしか喋らないのに技名だけ漢字なの?
A.実は独式って名前及びその技名を考えたのはフォック本人じゃなくてライカとギルバートだったりします。その名残。

ライカ、ギルバート
 今回は脇役。フォックのサポートに回りました。

クザン
 技名を一回も叫ばない辺り、滅茶苦茶手加減してます。当たり前ですが、手加減してなかったら三人を瞬殺できます。でもそれだと試験にならないんじゃ。

 ということで試験回&フォックの戦法初公開回。なんかこの小説の主人公勢の相手役、クルーエルといいフウライといいクザンといい、格上とばっか当たってる気がする。でも、次々回あたりで海に出るので、それ以降はきっと適正レベルでマッチングしてくれるはずです。もうこんなガバマッチングは起こりません。……多分。
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