MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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初仕事編
第43話:着任


 波を斬り裂き、一隻の軍艦が海の上を行く。マリンフォードを出て、G-8支部を目指すその船の甲板には、三つの影があった。その影の内の一つは、何度も跳ねたり大袈裟に腕を振り回したりしていて、明らかにはしゃいでいることが窺える。対照的に、残り二つは項垂れていて、暗い空気を醸し出していた。

 

「ライカ! ギル! ホントウにヨかった! まさかハナれバナれにならずにスむなんて、ホントウにサイコウだな!」

 

「うん、そうね……」

 

「ああ、そうだな……」

 

((超気まずい……))

 

 二つの影――ライカとギルバートは同時に溜息をついた。まさかあれだけ綺麗に別れた翌日に、即三人一緒になるとは。別れが感動的であっただけに、なおさら気まずい。今朝上官から配属先を知らされたときは、二人とも思わず口をあんぐりと開けて、暫く呆然としたものだった。

 

「またイッショにタタかえるんだ! ああ、ウレしいなあ!!」

 

「そうね……」

 

「そうだな……」

 

 フォックはそんな二人の様子もつゆ知らず、身体全体で喜びを表現している。彼に気まずいという概念は存在しないらしい。

 

「ん? フタリともどうしたんだ? イッショになれてウレしくないのか?」

 

「いえ、嬉しいわ……嬉しい、けど……」

 

「ああ、嬉しいのは間違いない。間違いないんだが……」

 

「「ハァァァ……」」

 

 またしても二人同時に溜息をつく。フォックはそんな二人に首を傾げるだけだった。

 

「もっと早く知らせることはできなかったのかよ……」

 

「できたらやってるわよ。無理だからこうなったんでしょ……」

 

「今だけはフォックの馬鹿さ加減が羨ましいよ……」

 

「ちょっと、ギル。そんな言い方は……でも今だけは正直全面的に同意だわ……」

 

「「ハァァァァァ……」」

 

 三度溜息をつく。一方のフォックは、そんな二人を怪訝そうに見つめるだけだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ナバロンが見えてきたぞー!」

 

 船内から聞こえてきた声に、ライカたちはふと顔を上げる。船首の方に顔を向ければ、船の進む先に巨大な島が見えた。

 

「あれが……」

 

「海軍要塞、ナバロン……」

 

「ナンだあれ……トゲトゲしてる……」

 

 その島はとにかく異様であった。遠目から見えるその巨大な円環状の島は、側面の至る所が装甲に覆われており、一目見ただけで要塞の名に恥じない堅牢さを持っていることがわかる。

 

「凄い数の砲台……無敵の海軍要塞の名は伊達じゃないみたい」

 

 島に近づくにつれて、徐々にその全貌が明らかになってきた。側面には装甲だけでなく砲台も無数に設置されており、その全てから大砲が顔を覗かせている。まさにハリネズミの異名に恥じない凄まじい威容であった。

 

「これが本当に閑職なのか? どう見ても滅茶苦茶金がかかってるが」

 

 事前に聞いていた話とのギャップにギルバートは驚愕する。しかしそれもある意味当然であった。

 海軍内外から不要論を唱えられているナバロン要塞は、実際閑職であり、体のいい左遷先扱いをされている。しかし、それでもナバロンが無くならないのは、ナバロンの司令官が海軍大将赤犬の子飼いであり、しかもその赤犬がナバロンの必要性を強く推していることにある。そう言った事情もあって、ナバロンは窓際部署でありながら装備も設備も充実しているのだ。

 

 やがて三人の乗る船はナバロンの外周を周り、円環状の島の唯一の切れ目へと向かって行った。そこは重厚な海門によって封鎖されており、強固に閉ざされている。

 

「水門開けェー!」

 

 島の中からそんな声が響き渡り、それに続いて水門がゆっくりと海中へと沈んでいった。水門が開き、その円環の内側が顕になる。

 

「わぁ……」

 

「すっげェ……」

 

「おォ……」

 

 ナバロンの全貌を目の当たりにして、三人は驚嘆のあまり言葉にならない声を上げた。円環の内部には広大な湾が広がっており、その中心には巨大な島が鎮座している。そして、円環の内側も、中央の島も、見える範囲の陸地の殆どが装甲と砲台に覆われていた。

 

「内側まで砲台まみれじゃねえか……そこまでする必要あるのか?」

 

「侵入した敵を一網打尽に……って言いたいところだけど、普通の海賊なら外の砲台で十分よね……何を想定した作りなのかしら」

 

 ライカとギルバートの二人は、ナバロンの行き過ぎた堅牢さにもはや呆れすら感じ始めていた。果たしてここまで全面を武装する必要はあるのか。そう思わざるを得なかった。

 

「ん。オモったよりもヒトがイッパイ。ニギやか」

 

 フォックは円環部分や中央の島を見つめていて、そこに無数の窓と、さらにその奥に蠢く無数の人影があることに気付いた。そもそもナバロンは、元からある島の中身をくり抜き、そこを改造することで基地化した要塞である。故に、島の内部には基地としての建物が広がっており、今も無数の海兵及び軍属の職員たちがその中を蠢いているのだった。

 

「本当だ。閑職って聞いたからもっと寂れてるのかと思ってたけど、結構活気に満ちてるじゃない」

 

 ライカも改めて周囲を見渡して、想像よりも遥かに活気があることに気付いた。円環部分の足元に配置されたドックでは整備士たちが忙しなく走り回っているし、ちらりと見えた窓の奥では数十人のコックたちが一心不乱に料理している。中央部と円環部とを繋ぐ橋の上では見回りの海兵たちが暢気に歌を歌っていた。

 仕事中に歌っているのはどうかとライカは一瞬思ったが、しかし歌えるほど余裕があることはそこまで悪いことではないのかもしれないと思い直す。

 

「これが本当に閑職なのかしら? 随分楽しそうだけど」

 

 思わずそう溢してしまう。しかし、隣で聞いていたギルバートは首を横に振った。

 

「いや、あのあたりのドックを見てみろ。壊れた軍艦が放置されてる。もう長い間使われてないみたいだ」

 

「本当だ! 気付かなかったわ」

 

 円環部の足元にはたくさんのドックが備え付けられているが、その中で最近まで使われた形跡があるものは少数だけだった。大半のドックは船や設備が放棄されていて、ほとんど使われていないことが窺えた。

 

「やっぱり閑職であることに間違いはなさそうだ。きっと、ナバロン不要論とかの煽りを受けて、設備も縮小せざるを得なかったんだろうな」

 

 ギルバートの推測は概ね正解であった。いくら大将がこの要塞を強く推していても、限界というものが存在する。ナバロンは建造当初に比べれば与えられる予算もかなり渋くなっており、こうして設備を縮小しなければやっていけなくなっていたのだった。

 

「う〜ん。でも、まあ、少なくとも悪い職場ではなさそうね」

 

「ああ、それは同意だな」

 

 ナバロンに色々思うところはあれど、それでも概ね期待できそうであると、そう二人は結論づけたのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ナバロンの円環部分の足元は多くの部分がドックやら装甲やらに改造されているが、元の島そのままの自然を残している部分も存在する。その一つである岸にて、のんびり座って釣りを楽しむ男がいた。

 

「ふ~む、今日も丸坊主だな」

 

 白い軍服に赤茶けた髪、そして整えられた口ひげを持つ彼は、一向に釣れる気配のない釣りでありながら、それでも穏やかな表情を浮かべて楽し気にしている。その様は海兵にしては珍しいまでの物腰の柔らかさを感じさせた。

 

「水門開けェー!」

 

「ん? おっと、もうそんな時間か。これは急いで戻らねばな」

 

 遠くから響いてきた声に男が顔を上げると、そこには沈んでいく水門と、その前に待機する軍艦が見えた。男は急いで釣り用具を片付け始める。

 

「やはりここにいらっしゃいましたか、()()()

 

 そんな彼に話しかけたのは、青いスーツの上にお馴染み“正義”のコートを羽織り、海兵の帽子をかぶった男であった。その豊かなもみあげを口元まで伸ばしているその男は、釣りの男とは対照的に、表情は引き締まった真顔であり、堅物な印象を抱かせた。

 

「おお、()()。わざわざ出迎えご苦労」

 

「司令官、今日は新任の者たちが来る日なのですよ。なのにまたこうやって司令室を空けて……これでは下の者に示しがつきません」

 

「そう堅いことを言いなさんな。これでもちゃんと、今から司令室に戻るつもりだったんだぞ? あ~あ、今やろうと思ってたのに、やる気が無くなってしまうよ」

 

「子供みたいな言い訳しないでください。ほら、司令室に戻りますよ」

 

「そうだな。結局、今日も坊主ということか」

 

 司令官と呼ばれたその男は、近くにかけてあったコートを羽織る。当然、その背中には“正義”の二文字が刻まれていた。

 

「よし。では少佐はドックで新入りたちを出迎えてくれ。私は中央司令室で彼らを待つ。そこまで案内してやってくれ」

 

「ハッ! 司令官も、なるべく早く司令室へお戻りください」

 

「分かっておる」

 

 司令官の指示を聞くや否や、少佐はドックへと駆けていった。それを見送った司令官は、のんびり背伸びをしてから歩き出す。

 

「さて……期待の大型新人が同時に三人……この要塞も賑やかになるかもしれんな」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ナバロンのドックの一つにて。新人たちの船を待つその場所では、彼らの噂で持ち切りになっていた。

 

「なあ、聞いたか? 今日ここに来るっていう新人の噂」

 

「ああ。海軍大将に勝ったってやつか? そんなの嘘に決まってんだろ。だいたい、そんな大層な奴がホントにいたとして、こんな窓際基地に来るわけないだろ」

 

「そうか……そりゃそうだよな。じゃあ、新人が魚人やミンク族って噂も――」

 

「それは本当らしい」

 

「マジかよ……魚人もミンク族も、狂暴って話じゃないか。俺上手くやっていけるかなぁ……」

 

「新人には可愛い女の子もいるって話だ。その子目当てに頑張るしかないだろ」

 

 くだらない雑談に花を咲かせているのは、このナバロンの整備士たちだった。オレンジ色のツナギと帽子がトレードマークの彼らは、まだ見ぬ新人たちに対して様々な憶測を立てていた。

 

「こぉらぁぁ〜!! な〜にサボってるんじゃ! そろそろ船が着くんじゃぞ! ボケっとしとらんでさっさと入港準備を済ませんかい!」

 

「「「「「は、はいッ!」」」」」

 

 そんな整備士たちを怒鳴り飛ばしたのは、一人の老人であった。彼は他の整備士たちと同様、オレンジのツナギを着ているが、帽子は着けていなかった。遮るものの無い頭髪はボサボサの白髪であり、帽子の代わりに額にゴーグルを着用しているその男は、名をメカオと言う。彼はナバロンで一番の熟練整備士であった。

 水門をくぐってこちらへと向かってくる船を見つけて、メカオは目を細める。

 

「さて、今度の新人は船を大切にできる奴だとええんじゃがのう……」

 

 それだけ呟いて、彼自身も入港準備に加わった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「あ、()()()()少佐!」

 

 入港準備を進めるドックに、一人の男が入ってきた。それを見た整備士たちは、一斉に敬礼をする。男の方も、彼らに敬礼を返した。

 

「皆の者、ご苦労。私が新任の案内を頼まれることになった。ここで一緒に船を待たせてもらう。私のことは気にせず、入港準備に励んでくれ」

 

「「「「「了解です! 少佐!」」」」」

 

 再びの敬礼をして、整備士たちは散り散りに分かれて各々の作業を再開する。ドレイクはそんな整備士たちを眺め、そしてこちらへと近づいて来る船へと視線を向けた。

 その甲板の上にいる三人の海兵。手加減していたとはいえ、海軍大将すら退けたという期待の新星。事前に伝えられていた彼らの情報を、今一度ドレイクは思い起こす。

 一人は特異な『体質』を持った少女。一人は史上初の魚人海兵。そしてもう一人は同じく史上初のミンク族海兵。今までの常識から遥かに()()()()()存在である彼らに対して、ドレイクは否応なしに警戒心を抱いてしまう。

 

(いかんな。直接会ってもいないのに、勝手な偏見でこうも意識してしまうとは……)

 

 ドレイクは心の中で自分に喝を入れ、改めて船を見据えた。遂にドックに辿り着いた船を、整備士たちが固定している。いよいよ対面のときが来たのだ。自ずと緊張感が湧きあがってくる。

 

「固定終わりました! 今タラップを――」

 

「あ、大丈夫です。必要ありません」

 

 甲板から鈴の音のような、甲高く済んだ声が響く。直後、船から三つの影が落ちてきた。

 

「よっと!」

 

「うしっ」

 

 その内二つの影は音もなく柔らかくドックに着地する。ドックにダメージを与えないよう、着地と同時に力を逃がした見事な着地であった。そして――

 

「フンッ!」

 

バキィィィ!

 

 三つ目の影は落ちる勢いそのままにドックの床を踏み砕いた。着地した場所から大きな罅が広がり、衝撃でドックの設備が幾つか倒壊してしまった。

 

「な、な、な……何しとるんじゃこのバカモぉ~~~ン!!?」

 

 ドックにメカオの雷が落ちた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「君たちが新任の海兵だな? 私はドレイク。階級は少佐だ。よろしく頼む」

 

 ドックに整列する三人に、ドレイクはそう挨拶した。

 

「はい! 私は海軍少尉、エルンスト・ライカと申します! 本日よりこの海軍本部第8支部の配属となりました! よろしくお願いします!」

 

 まずは元気よくライカが敬礼をする。本人の容姿も相まって、ドレイクにはそれが背伸びをする子供のようにも見えた。

 

「同じく、メイウェザー・ギルバートです。 よろしくお願いします」

 

 続いてギルバートも敬礼した。こちらはライカとは反対に、妙に様になっている。ライカとは同い年であるはずなのに、容姿だけでこうも印象が変わるのかと、ドレイクは内心笑ってしまう。

 

「お゛なじぐ、フ゛ォッグでず……よろじぐお゛ねがいじまず……」

 

 最後に、顔をボコボコに腫らしたフォックがふらつきながら敬礼をきめた。そのあまりの有様にフォック以外の三人は、メカオだけは絶対に怒らせないことを心に誓った。

 

「あ、ああ。よろしく。君たちには、今から中央司令室まで来てもらう。ついて来い」

 

「「「はい!」」」

 

 ドレイクは三人を連れて歩き出す。向かう先は中央の島の中に作られた司令室だ。

 道中、三人は基地の海兵たちの視線に晒される。

 

(また見られてる……。けど、なんだろう……いつもみたいな、敵意とか恐怖の感情は感じられない。これは一体……?)

 

 視線に込められる感情がいつもと異なり、ライカは困惑した。どちらかと言えば好意的なものに感じられるが、しかし単に歓迎しているだけとは思えない。何かもっと別のものを感じる。まるで観察されているような、そんな感覚だった。

 実は、幼少期から敵意と恐怖ばかり向けられていたせいで本人に自覚は無いが、ライカの容姿は整っている方である。だからこそ男所帯のナバロンでは、こうして異性の目を惹いているのだった。

 ナバロンの海兵たちにはまだ“魔女”の噂が伝わっていないのか、あるいはそれを嘘だと思われているのか。とにかく、ライカはナバロンの男たちから好意的に見られているのであった。

 一方、ギルバートとフォックはいつものように浴びせられる好奇の視線、及び怯えた視線に、もはや安心感すら覚えていた。

 

(まあ、そうだよな。どうせそんなことだろうと思ってた)

 

(またコワがられてる。ライカみたいなニンゲンってスクないんだな)

 

 どこかの誰かみたいに、直接悪口言ってきたり、暴力すら振るってくる奴がいないだけまだマシかと思う二人であった。

 そんなこんながありながらも、三人は無事に中央司令室へと辿り着いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ここが中央司令室だ」

 

 そう言ってドレイクは目の前の扉をノックする。四回扉を叩く音が響いた後に、扉の奥から「どうぞ」という声が聞こえてきた。ドレイクは扉を開け、三人を連れて中に入った。

 

「司令官殿、新任の者たちを連れてまいりました」

 

「ご苦労だったな、ドレイク少佐。そこで待機していてくれたまえ」

 

 部屋の奥に座っていたのは、赤茶けた髪と整えられた口ひげが特徴の男だった。恐らくここの司令官であるはずのその男は、しかし気楽な様子で椅子にもたれかかっていた。

 

「さて、君たちが噂の新人たちだね。私はこの第8支部、ナバロンの司令官、ジョナサンだ。階級は中将。君たちの先輩になるわけだが、まあ気軽に接してくれて構わんよ」

 

 そう言ってジョナサンはゆっくりと椅子から立ち上がった。言葉にすればたったそれだけの動作であるが、しかしその動きはライカとギルバートに緊張感を与えるには十分だった。

 

(この人……飄々としてるように見えて、立ち振る舞いに隙が無い……。ゼファー先生ほどではないけど、間違いなく強い……)

 

(ナバロンのジョナサンと言えば、知将として有名だが、コイツそれだけじゃないな……直接戦っても絶対に強い……!)

 

(よくわかんないけど、センセイやガープにカンじたナニカを、このヒトからもカンじる。……このヒト、イガイとツヨい?)

 

 三人はこの一瞬で、目の前の人物が自分たちより遥かに格上であることを理解した。ライカとギルバートはゼファーに鍛えられたその観察眼で、フォックはその直感で。即座に彼我の実力差に気付いたのだった。

 

「ふむ。なるほど、確かに噂通りみたいだな」

 

 三人の反応を見て、ジョナサンは小さく笑った。緊張していた空気が一気に弛緩し、三人も急激に気が緩むのを感じた。

 ふと、ここに至って漸くライカたちは、自分たちがまだ挨拶をしていないことに気が付いた。

 

「も、申し遅れました! 私は海軍少尉、エルンスト・ライカと――」

 

「ああ、大丈夫。君たちのことは既にゼファー教官から聞いているからね」

 

 慌てて敬礼するライカを、ジョナサンは手を挙げて制した。その穏やかな様子からは、さっきまでの威圧感は毛ほども感じられない。

 

「さっきはすまなかったね。ちょっと噂の新人とやらを試したくなったもので。怖がらせてしまったようだ」

 

「い、いえ、そんなこと――」

 

 ジョナサンが再び椅子に座る。椅子から立ち上がるだけで三人を威嚇できるような男は、もはやどこにも見当たらなかった。

 

(何なんだこの男……全く底が見えてこない……。ただまあ、上司としては当たりっぽいな。少なくとも理不尽な命令とかはしてこなさそうだし、何よりも――)

 

「――人間以外への差別意識が感じられない、かな。それが長所として成立してしまうのは悲しいことではあるがね」

 

「えっ!?」

 

 自分が考えていたことをピタリと当てられて、ギルバートは驚く。

 

「……見聞色!」

 

「ハハハ、その通り。これでも中将だからね」

 

 ジョナサンは相も変わらず柔らかな笑顔を浮かべている。しかし、その笑顔はむしろギルバートたちの警戒心を引き上げた。

 

「まあまあ、そう警戒しなさんな。と言っても無理な話だろうがね。私としては君たちを信頼しているということを伝えたかったんだ」

 

 ジョナサンはさっきまでの笑みを消して、真面目な顔になった。

 

「君たちが士官学校でどういう扱いを受けていたかは全てゼファー教官から聞いている。辛かったろう?」

 

 ジョナサンの眉が八の字を描く。彼は三人の境遇を本気で憂いていた。

 

「逃げることだってできたはずだ。諦めて、学校を辞めるという選択肢もあったはずだ。それなのに君たちは、皆諦めずに学校に残り続け、そしてこうして海兵となった。私は君たちのその覚悟に心から敬意を表する」

 

「い、いえ、そんな、覚悟だなんて……俺なんて、海兵になったのは飽くまで故郷のためで、そんな大層な覚悟は……」

 

 気恥ずかしくなったギルバートが、慌ててジョナサンの発言を否定するが、しかしジョナサンは譲らない。

 

「どんな理由で海兵になったとしても、君たちが三年間を耐え抜いてここに来たのは事実だ。ならばその覚悟は、一片も疑われるべきではない。どんな人種だろうと、どんな体質を持っていようと、そんな些細な事はどうでもいい。私は君たちを絶対に信頼すると、ここに約束しよう」

 

「そんな理由で……」

 

 ギルバートは信じられなかった。今まで自分たちを散々苦しめてきた人種や体質を、“些細な事”と切って捨てた目の前の男が。

 

「わかりました。あなたが俺たちを信じるように、俺たちもあなたを信じさせてもらいます。これからよろしくお願いします、ジョナサン中将」

 

「ああ、よろしく。ギルバート少尉、ライカ少尉、フォック少尉」

 

 そして、ジョナサンは再び朗らかな笑顔を浮かべて言った。

 

「ようこそ我らがナバロンへ。君たちを歓迎しよう」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「本格的な任務は明日からだ。今日のところはこのナバロンの構造を覚えることに勤めてくれ。少佐、案内を」

 

「ハッ!」

 

 ドレイクは一礼し、三人に「ついて来い」とだけ言って先導し始めた。三人はドレイクに連れられて司令室を出た。

 

「防犯上の理由から、この基地の地図はほんの数枚しか存在していない。後で君たちにもそれは見せるつもりだが、それを携帯することはできない。だから施設の場所や廊下の構造は全て覚えるつもりでいろ」

 

歩きながらドレイクはそう説明した。

 

「それって、万一侵入者が出た場合に、内部の構造を把握されないようにするため、ですか?」

 

「ああ、そうだ。物分かりが早くて助かるよ」

 

 ライカの疑問に、ドレイクは快く答えた。

 

「厳しすぎるだとか、無駄だとか、そう言った声もある。実際、今まで一度として海賊に内部への侵入を許したことがない以上、対策を怠りたくなる気持ちも分かる。しかし、このナバロンを“鉄壁の要塞”足らしめているのは強固な装甲でも無数の砲台でもなく、ここにいる我々の意識なのだ。だからこそ、万一への備えを疎かにせず、いつも万全な状態にすることを心掛けなければならん」

 

 ドレイクの声に力が籠る。彼は自分がこの要塞を守る一人であること、そしてナバロンが無敵の要塞であることに相当な誇りを抱いているようだった。

 

「しかし、そう言う割にはここの人たちの士気は低いように見えますが」

 

 ギルバートは思わずといった風で、そう溢してしまう。あまりに歯に衣を着せない言動に、ライカが横目でギルバートを睨んだ。

 

「いや、いいんだ、ライカ少尉。そういうことをハッキリ言ってくれる人間も、こういう場には必要だ」

 

 しかし、ドレイクは気分を害した様子も無くそう返した。

 

「君の言う通りだ。嘆かわしいことに、ここの士気はとても低い。無敵の要塞の評判は今や海賊にまで知れ渡り、もはやここに近づく海賊などほとんど存在しない。そんな状況が何年も続いたせいで、ここの人々は皆腑抜けてしまっている」

 

 ドレイクは拳を握る。ナバロンの人々の頑張りが、その名声が皮肉にも裏目に出てしまっている現状に彼は悔しさを感じていた。

 

「この大海賊時代、何が起こるか分からない。今は閑職扱いのナバロンだが、きっと再び必要になる日が来る。そのためにも、我々はナバロンの必要性を示し続けなければならないんだ」

 

 そう言うドレイクの顔は決意に満ちていた。彼は本当にこのナバロンを愛しているのだろう。

 

「さあ、着いたぞ。まずは宿舎だ。ここは兵卒用のだ。君たちのはもっと奥の方にある」

 

 話している間に目的地に着いたようだ。廊下の左右には無数の扉が並び、その奥には簡易的な二段ベッドがあるだけの質素な部屋が見える。複数人で一部屋を使っているようで、お世辞にも住み心地は良さそうとは言えなかった。

 

「君たちの部屋はここだ。将校は一人一部屋与えられることになっている」

 

 兵卒用の部屋を素通りして進んでいった先には、これまた沢山の扉が立ち並ぶ廊下があった。扉の奥には、あまり広くはないが先の部屋と比べれば断然住みやすそうな一人部屋が見える。

 並んでいる扉の中に、三人の名前がそれぞれ書かれた扉を見つけた。そこが彼らに割り当てられた部屋なのだろう。

 

「君たちの荷物は司令室で話している間に職員たちが届けてくれたはずだ。後で確認してくれ」

 

 そう言ってドレイクは宿舎を後にする。三人もそれについていくが、ライカはその時に何となく扉越しに将校用の部屋を除き見た。

 

(殆どの部屋に使われた形跡がある……昔はそれだけの数の将校がここで働いていたのかしら……)

 

 しかし、今現在も使われている部屋は、自分たちのを除けばたった二つしかない。もうここに残っている将校はドレイクとジョナサンの二人だけなのだろう。ライカは、ドレイクが感じている無念の一端が理解できたような気がした。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ところで君たちはまだ第8支部のモットーを聞いていよな?」

 

「はい、まだ聞いていません」

 

 次の施設に向かう道中で、ドレイクが唐突にそんなことを尋ねてきた。当然三人ともそんなことを聞かされた覚えは無いので、首を横に振る。

 

「そうか。では、今日覚えておきたまえ。第8支部のモットーは四つある」

 

 ドレイクは神妙な顔で語り始める。釣られて三人も自ずと表情が引き締まった。

 

「その一、食事の前に手を洗う」

 

「「「はい(ハイ)!」」」

 

「その二、絶対食事を残さない」

 

「ハイ!」

「「はい……?」」

 

「その三、食事中は絶対仕事を持ち込まない」

 

「ハイ!」

「「あれ……?」」

 

「その四、食事の後は歯を磨く」

 

「ハ「「食事のことしか言ってないじゃないですか!?」」

 

 フォックだけが真面目に返事をしていたが、耐えきれなくなった二人が思わずそうツッコんでしまった。

 

「それって本当にここのモットーなんですか? 海軍基地のモットーなんだから、もっとこう、市民を思えとかそういうのとかじゃ――」

 

「そういうのは海兵なら誰でも心得ていて然るべきものだ。わざわざモットーに書き起こすようなものではない」

 

「えぇ……」

 

 まさかの暴論に、ギルバートは閉口せざるを得ない。真面目一辺倒に見えていたドレイクの印象が、音を立ててガラガラと崩れていくような気がした。

 

「君たちもいずれ分かる時が来る。食事というのは、海兵にとってそれだけ大事なものなのだ。まあ、とにかくだ。これが守れないようであれば、君たちにナバロンでの居場所はないと思ってくれ」

 

「「はい……」」

 

 有無を言わせない口調で言うドレイクの言葉に気圧され、二人はただ肯定することしかできなかった。

 

「当然、他のどこよりも食事の重要性を認識できている我々は、日々の食事でも一切手を抜いたりはしない」

 

 話しながら歩いているうちに、いつの間にか目的地に着いていたようだ。四人の前には大きな両開きの扉がある。ドレイクが扉を開ける。

 

「だからこそ、ナバロンが誇るこの海軍食堂は、本要塞の最重要拠点と言っても過言ではない」

 

 そこには、無数のテーブルと椅子が並べられた広大な空間があった。いずれもよく磨き上げられており、天井に備え付けられた照明の光を受けて輝いている。相当大事に扱われているようだ。

 

「ナバロンにおいて、食事とは何よりも重要な、神聖な行為だ。遅れたり、抜かしたりするなど言語道断。士官学校でどうだったかは知らんが、ここではよっぽどのことがない限り、食事の時間になったら仕事は中断しろ。これは義務だ。分かったな?」

 

「ハイ!」

「「は、はい」」

 

 海兵としてそれでいいのかと疑問に思うものの、この()()()()()な上官に逆らえばどうなるか分かったもんじゃない。だから二人は表面上従順に振る舞うしかないのだった。

 

「あら、騒がしいから何かと思って来てみれば、またいつもの新人教育をしてるのかい?」

 

 ふと、横合いから声を掛けられ、全員がそちらに振りむいた。そこには、白コートにコック帽という、まさに誰もが想像する料理人の装いに身を包んだ女性が立っていた。

 

「そこにいるのが噂の新人たちかい?」

 

「ああ。右からエルンスト・ライカ、メイウェザー・ギルバート、フォックだ」

 

 ドレイクと気さくに話すその女性は、男勝りという言葉がピッタリ当てはまるような女性であった。彼女は三人の方に向き直ると、ニッコリと笑って口を開いた。

 

「アタシはジェシカ。ナバロンの総料理長よ。よろしくね」

 

「「「よろしくお(ネガ)いします!」」」

 

 即座に元気な挨拶を返してきた三人に、ジェシカは再びニッコリと笑う。そして、三人をざっと見渡して、そのうちの一人と目を合わせた。

 

「アンタがゼファーさんの言っていた……」

 

「ん? オレ?」

 

 フォックはジェシカを不思議そうに見つめ返す。

 

「ゼファーさんから聞いてるよ。アンタ、ミンク族なんでしょう?」

 

 そう問われたフォックは当然縦に首を振った。

 

「ミンク族は毛のある動物の肉を食べれないんだったわよね? 大丈夫。アタシたちは今日に備えて、毛のない動物の調理もしっかり習得してきたからね。日々の料理は任せなさい!」

 

「おお! それはアリガタい!」

 

 フォックは目を輝かせてはしゃぐ。そんな彼に、ライカとギルバートは暖かい視線を送っていた。

 

「閑職って聞いてたが……こりゃ存外当たりかもな」

 

「ええ。理解ある人がいてくれて助かったわ」

 

 士官学校時代のフォックの食事を思い出した二人は、そうしみじみと呟いた。

 彼の入学当初は、食堂の人たちにまでミンク族の文化のことが周知されておらず、度々食事に関してトラブルが起きていた。そんなこともあって、当時のフォックは碌に肉も食べられない日々が続いていたことさえあった。

 そんなフォックの食事事情を知る二人からすれば、ジェシカはあまりにも出来すぎた人間であった。ライカは思わず涙が零れてしまうのを抑えられない。

 

「立ち話はそこまでだ。次の施設に行くぞ。ナバロンは広いんだ。時間が惜しい」

 

 ドレイクがそこで会話を切り上げさせた。

 

「あら、もうなのかい? 仕方ないわね。狐のボウヤ、今日の料理は期待して待ってなさい!」

 

「ウン! タノしみにマってる!」

 

 ジェシカに手を振るフォックを引き連れて、四人は食堂を後にした。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ここが医務室だ。怪我をしたときはここの世話になる」

 

 次に向かったのは医務室であった。ベッドや医療器具が所狭しと並べられたその場所は、まさに医務室と聞いて想像する部屋そのものであった。

 

「彼が医務室長だ。今後お世話になるだろう。挨拶しておけ」

 

 ドレイクが示す先には、白衣を着た小太りの男がいた。年齢は中年くらいだろうか。

 

「「「よろしくお(ネガ)いします」」」

 

「あ、ああ……よろしく……」

 

 三人の挨拶からやや間があってから、医務室長も挨拶を返す。その声には明らかに怯えが混じっていた。

 

(料理長は大当たりだったが、医務室長はハズレみたいだな。間違いなく頼りにならん)

 

 ギルバートは即座に頭の中でそう判断を下す。初めて会った人種に多少の恐怖を抱くのは仕方ないにしても、それをこうもはっきりと表に出すような人物に自分の命を預けられるわけが無い。ギルバートは最悪医務室には一切頼らないことすら考慮に入れ始めていた。

 隣の二人も同じ結論に達しているらしい。ライカは親しいものでなければ気付けないくらいに隠してあるが、しかし確実に不信感が顔に表れているし、フォックははっきりと不満を表情に見せてしまっている。医務室が険悪な空気に沈みかけたその時だった。

 

「あ、あの、あなたがエルンスト・ライカさん、ですよね? あの、エルンスト・アルフさんのお姉さんの……」

 

 短い紫髪に眼鏡という装いの女性が、ライカに話しかけてきた。白衣を着ているので、恐らくこの医務室の医者の一人なのだろう。

 

「はい、そうですけど……なぜ妹の名を?」

 

 ライカはそれに応えながら、当然の疑問を口にした。

 

「あ、はい。えっと……私がマリンフォードの医学校にいた時に、彼女と寮が同室だったんです」

 

「なんと、それは……」

 

 ライカは手を口に当てて驚いた。妹が医者を目指して医学校に通っていることは良く知っているが、そこで妹が関わった人間と自分がこうして会うことになるとは。とんだ偶然である。

 

「大丈夫でしたか? うちの妹はお転婆が過ぎますし、何かご迷惑でも――」

 

「――いえいえ! 全然! むしろこんな私を気に掛けてくれて、本当に優しい子でしたよ!」

 

 ライカが頭を下げようとしたのを、女性は慌てて止めた。しかし、そのとき女性の笑顔が若干引き攣ったのをライカは見逃さなかった。これはやはりうちの妹に苦労させられている。今日まで士官学校が忙しくて妹の所業までは気に掛けられなかったが、これからはしっかり妹に連絡を取り、事と次第によっては両親に報告するのもやむなしと、そうライカは判断したのだった。

 

「あ、紹介が遅れました! 私はコバトと申します! よろしくお願いしますね!」

 

 ライカの胸中などつゆ知らず、コバトは三人に対して深々と頭を下げた。その様子には怯えや恐怖といった感情は一切見受けられず、ただ純粋に三人と会えた喜びだけが感じられた。

 

「妹から聞いているかもしれませんが、私はエルンスト・ライカと申します。よろしくお願いしますね、コバト先生!」

 

「そ、そんな、先生だなんて、私はまだ――」

 

(室長がハズレだったから期待してなかったが、この分ならここもアタリだったか? ジョナサンといい、ジェシカといい、閑職が聞いて呆れる。それとも閑職だからこそそういう人間が集まっているのか?)

 

 女二人談笑に花を咲かせるライカとコバトを見つめながら、ギルバートはそう考える。士官学校であれだけ魚人差別主義者に囲まれていた身からすれば、たった三人でも自分に一切の怯えを示さない人物がいることは奇跡にも等しかった。

 

「ふーん。こりゃあ室長よりもよっぽど頼りになりそうな方じゃないですか。俺が怪我したときは、彼女に頼らせてもらいましょうかねえ」

 

 そう言ってギルバートは横目で室長を睨む。室長は小さく悲鳴を漏らし、肌を震わせた。わかりやすい男である。しかし、そんなギルバートの発言に待ったをかける人物がいた。

 

「え……? ちょ、ちょっと待ってください! 誰が、誰を頼りにするって言いましたか?」

 

 それは、他ならぬコバト本人であった。

 

「え? だから、俺が、あなたを――」

 

「いやいやいや、無理です!! 私なんかがあなたたちを治すなんて、絶対に無理です!!」

 

 コバトは勢いよく首を左右に振った。余りの勢いに眼鏡がずり落ちそうになっている。そんな彼女を訝しげに見つめるギルバートに、ドレイクが補足を入れた。

 

「コバトは臆病な性格でな……それこそ、血を見ただけで気絶してしまうほど臆病なのだ。外傷の治療で彼女を頼るのは無理だろう」

 

「ええ……じゃあなんで医者なんかやってるんですか……」

 

「ちょっと、ギル! そんな言い方――!」

 

「いえ、いいんです。自分でもわかってますから……」

 

 コバトとしても自覚はあるのだろう。項垂れてどんよりとしたオーラを放っている。それを見たギルバートは流石に明け透けに言い過ぎたと反省し、ライカはそんなギルバートを横目で睨んでいた。

 

「……彼女の名誉のために言っておくが、そもそも彼女の専門は小児科だ。だから臆病でも仕事はちゃんと――」

 

「え? ここって子供いるんですか?」

 

「……今はいない」

 

「……」

 

 医務室に微妙な空気が流れ始める。それに伴ってコバトもますます縮こまってしまった。

 

「そ、そうだ! 海兵なら出先で身寄りのない子供を拾ったり、海賊に攫われた子供を助けることもあるじゃないですか! そういうときのためにコバト先生がいらっしゃるんですよね? 私も子供の頃海兵に拾われた身ですから、そういう存在がどれほど大切なのかは存じてます! ですから、コバト先生は胸を張ってください! 落ち込むことはないですよ!」

 

「……はい……」

 

 コバトのあまりの惨状に耐えきれなくなったライカが咄嵯のフォローを入れるが、それも空しくコバトの意気消沈した声が響くだけであった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ふう、今日は充実した一日だったな……」

 

 ナバロンの将校用の部屋の一つ。そのベッドで横になりながら、ライカは今日一日を振り返る。

 あの後いくつかの施設を見て回ったのちに案内は終了となり、三人で夕食を取って今は消灯時間となっていた。

 ライカの脳裏には、夢中でワニ肉のソテーに齧り付くフォックの姿が妙に印象に残ってしまっており、どうしても口角が上がるのを抑えきれない。

 

「あんなに美味しそうに食べるフォックを見たの、初めてだもん」

 

 今朝まで心の中一杯に広がっていたはずの不安は、もはや重石にならないくらいには小さくなっていた。

 まだ不安が完全に無くなったわけではない。例の遠足を経て急速に友達が消えていった経験をしているライカとしては、やはりどうしても今は好意的な人々がいつか自分に敵意を向けるのではないかという恐れを抱いてしまう。

 自分のこの()()()()体質を実際に目の当たりにすれば、ジョナサンやジェシカや、あるいはコバトでさえ自分のことを疎むようになるのではないかと、そう思ってしまう。

 

(でも、どうしてだろう……あの人たちならきっと受け容れてくれると、そう自然と思ってしまう)

 

 しかし同時に、なぜだかそう信じようとする心もあった。自分の不安が見せた単なる希望的観測かとも思ったが、どうもそうではない気がする。

 

「それに、二人がいる」

 

 ギルが。フォックが。だからきっと、大丈夫。ナバロンの人々との関係も、明日から任務が始まることも、拭いきれない不安として心の中に積もっている。だけど、今まで共に困難を乗り越えてきた戦友が隣にいるのだ。

 

「きっと、上手くいく」

 

 口にした言葉が、すっとライカの胸の中に染み渡っていく。一縷の不安を胸の奥にしまい、ライカは安らかな気持ちで目を閉じた。

 




ナバロン
 あの構造を文章で説明するの難しすぎません? 私の拙い文章でわからなかった人は本編を見て、どうぞ。

ライカ
 ドックの人たちを気遣ってタラップを断ったら、むしろドックの人たちの仕事を増やすことになった女。まさかの妹の知人発見でテンション↑。

フォック
 ↑の気遣いを無に帰した男。罰としてメカオに絞られました。飯が上手いのでテンション↑。

ギルバート
 相変わらずデリカシーが無い男。コイツいつもライカに横目で睨まれてんな。上司が当たりっぽくてテンション↑。

メカオ
 ナバロン編の原作キャラその一。今回ではあんまり出番が無かった。間違いなく船に対する愛は本物な面白いじっちゃんなので、気になる人は原作を見て。見ろ(豹変)

ドレイク
 原作キャラその二。堅物。あのもみあげを文章で説明するのは初心者には荷が重いと思うんだ。

ジョナサン
 原作キャラその三。ちょっと強く描き過ぎた気もするけど、原作からして足踏みでルフィを威圧できるような人なんで、やっぱりこれくらいの描写でいいのかもしれない。

第8支部のモットー
 これが原作通りってマジ? やっぱり平和ボケしてるじゃないか(呆れ)

ジェシカ
 原作キャラその四。この人ならきっとミンク族や人魚族みたいな人間と違う食文化にも理解を持ってくれると思うんだ。

医務室長
 オリキャラ。原作ではコバト以外出払ってた医務室ですが、じゃあ普段はどんな人がいるのかなって想像したら生まれた人。もう二度と出て来ません。

コバト
 原作キャラその五。ライカとまさかの接点が加えられた人。妹との関係はいずれ詳細に描きます。

 というわけで始まりました「初仕事編」。今回はただのナバロン紹介回。次回は正式な海兵としては初の実戦……まで書けたらいいな。少なくとも三人が海に出るとこまでは書きます。
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