MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第07話:訓練

 マリンフォード襲撃事件から数日。街にはいつも通りの日常が戻り、皆以前と同じように過ごしている。それはライカとて例外ではないはずだった。

 ライカも以前と同じように学校に行き、以前と同じように生活し、以前と同じように授業を受けた。ここまでは何も変わらない。しかし、ここからが違う。

 授業が終わり、皆が帰りの支度をする。

 

「ライカちゃん! 今日は一緒に遊ばないの?」

 

「ごめんなさい。私、今日は訓練があるから」

 

 そう言ってライカは早々に学校を出た。そして向かう先は家ではない。辿り着いた場所は海軍の駐屯地。マリンフォードは広大な島であるため、本部だけでは街を守る防衛網は作れない。そこでマリンフォードの街の中にはいくつか海軍の駐屯地がある。ライカはそのうちの一つに来ていた。

 

「おお! 君がライカちゃんか! 事情は聴いてるよ。ささ、こっちだ」

 

 門番の海兵がライカを見るなり、駐屯地の門を開けた。そのままライカは広々とした空間まで連れていかれる。そこはこの駐屯地の訓練場だった。

 何故ライカが駐屯地に入ることを許されているのか。ことの経緯は襲撃事件の翌日まで遡る。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「お父さん、私にも海軍の訓練を受けさせてください」

 

「え?」

 

 ライカは事件の翌日にベルツに直談判した。

 

「私はヒーローになりたい。だから、強くなるためにも、正式な海軍の訓練を受けたいの」

 

「いや、そう言われても……」

 

 ベルツは困ってしまった。どれだけ頼まれようとも、まだ6歳のライカに正式な訓練を受けさせることはできない。というのも、いくら身体能力の高いライカでも、正式な訓練にはまだ耐えられないだろうし、何より規則がそれを許さない。海軍学校に入れる最低年齢は14歳だ。ライカはそれよりも8歳も若い。

 

(しかし、だからといってライカの意思を捻じ曲げるようなこともしたくないなあ)

 

 ゼファーにでも預けられれば最善なのだが、今彼は教官の業務で非常に忙しい。

悩んだ末にベルツは一応の答えを出した。

 

「まだ君に正式な訓練は早い。だから、街の駐屯地で訓練を受けさせる。あそこなら少しずつ訓練の強度を上げることができるし、何よりあいつ(・・・)がいる」

 

 ベルツの出した答えは、ライカを駐屯地に連れていき、そこで当番の海兵の一人に簡単な訓練を施してもらうことだった。その後、善は急げということで、その日のうちにベルツは駐屯地に話を通した。以降、ライカは、放課後は殆ど毎日のようにこの駐屯地を訪れている。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 今日も今日とて訓練場に連れていかれたライカだが、彼女の前に、眼鏡をかけた海兵が表れた。ライカはその海兵に見覚えがあった。

 

「あなたはミミの……」

 

「久しぶりだね、ライカちゃん!」

 

 そう、この男はミミの父親である。ベルツとは、どちらも父親であるという繋がりからか非常に仲が良く、訓練兵時代はベルツと持ちつ持たれつの関係であったようだ。ライカは、ベルツが彼について「大嵐の中甲板で釣りをしただけで諫めてくる真面目ちゃん」と言っていたことを覚えている。名前は確か――

 

「えっと、ダスティさん、であってますよね?」

 

「よく覚えてるね、ライカちゃん!」

 

 ダスティが訓練をしてくれるのはこれが初めてだ。そして、ライカはベルツから、ダスティが無能力者でありながらベルツと同じくらい強いことを聞いていた。必然、ライカは今日の訓練にいつも以上の訓練ができるのではないかと、期待を抱いていた。

 

「よし、じゃあ早速始めるとするか!」

 

「はい!」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ライカの訓練はいつも単純な体力作りから始まる。基礎的な筋力トレーニングに始まり、ランニングや腕立て伏せなどの筋トレ、柔軟など、普通の子供であれば音を上げるようなメニューばかりだ。しかし、ライカは普通の子供ではない。

 

「……ハア、ハア、ふう」

 

 息を乱しながらも全てのメニューをこなす。6歳児とは思えぬ光景であった。

 

「うんうん、流石はライカちゃんだね」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、一旦休憩を挟んで、その後戦闘訓練をしよっか」

 

「はい!」

 

 休憩して体力を回復させた後に、戦闘訓練に入る。この訓練の目的はあくまでも基礎体力作りにあるので、ライカが能力を使うことは許されていない。それ故、戦闘訓練では必然的に純粋な格闘戦をすることになる。

 ライカは木刀を持った。昨日の訓練で自分に合う武器の選定をしていたのだが、ライカが最もしっくりきたのは刀であった。そのため、ライカは戦闘訓練では木刀を使うようにしている。

 一方ダスティも木刀を構えている。構えは完全に様になっていて、ダスティの刀の腕前がかなりのものであることが察せられる。

 

「準備は良いかな」

 

「はい」

 

「よし、それじゃ……始め!」

 

 ダスティの宣言と同時に、二人は同時に動いた。先に仕掛けたのはライカであった。あえてダスティの正面から接近し、木刀を上段から振り下ろす。

 

「いい一撃だよ、ライカちゃん」

 

 言葉とは裏腹に、ダスティは横に構えた木刀であっさりと受け止めてみせる。しかし、こうなることくらいライカは予想済みだ。

 ライカは打ち合った姿勢から、木刀を横に滑らせて離脱。そのまま地面を転がりながらダスティの懐に飛び込む。この間合いならば、小柄なライカの方が有利である。ライカはそのままダスティを押し切ろうと木刀を振り上げる。

 

「おっと!」

 

「!」

 

 しかし、ダスティはライカが木刀を振り下ろす前にライカに向き直り、その勢いを利用して真横に木刀を振ってきた。木刀を振り上げたままのライカに防御する術はない。

 

「はい、勝負あったね」

 

 ライカの胴に木刀が当たる寸前でダスティは動きを止めた。

 

「いやあ、流石はライカちゃん。いい動きだったよ! でも折角懐に飛び込めたのに焦って大振りの一撃を出そうとしたのは反省点だね」

 

「……はい」

 

 実際ライカは懐に飛び込んだ瞬間、頭の中から反撃される可能性を排除してしまっていた。故に、大振りの一撃で一気に決めてしまおうとした。

 

「でも、最初に正面から行くと見せかけて僕の懐に飛び込んだのは見事だったよ!」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「これでまだ訓練を始めて数日なんだから、本当に筋が良い。やっぱり、血は繋がってなくても親子は親子なんだね」

 

「……っ! はい!」

 

 遠回しにベルツに似ていると言われたライカは、嬉しくて笑顔を浮かべている。

 

「よし、それじゃあ第2回戦と行こうか! 準備はいい? ライカちゃん!」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

「それじゃ行くよ! 始め!」

 

 その後も二人は何度も木刀を交えた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ライカはその後一度も勝てなかった。

 

「ハアッ、ハアッ、勝てない……」

 

「そりゃそうさ、僕らは正式に訓練を受けている。まだまだ子供には負けてやれないさ」

 

「……でも、昨日までは、勝ててた」

 

「……それ本当? あいつら、鍛え直してやらないとな……」

 

 昨日まで戦闘訓練をつけてくれた海兵たちは、訓練を続けていくうちにどんどん成長していくライカについて来られなくなり、遅かれ早かれ最後には必ずライカが勝っていた。

 しかし今日は違った。いくらライカが成長していっても、ダスティには追いつけなかった。あと少しで追い越せそうと毎回の戦闘で思わされて、しかし実際は全く追いつけない。まるで自分の成長に合わせて相手も強くなっているようであった。

 現に、ダスティはライカの成長に合わせて段階的に手加減のレベルを変えていた。そんな芸当ができるあたり、やはりダスティは相当な実力者である。

 

「あの、ダスティさん」

 

「ん? どうしたのかな、ライカちゃん?」

 

「……一度、あなたの本気を見せてくれませんか?」

 

 ダスティが手加減していることはライカも薄々気付いていた。だからこそ気になった。自分の父が認めるほどの海兵が、一体どれほどの実力を持っているかが。

 

「……うん、一度見せておくのも悪くないな。じゃあ本気でいかせてもらうね。僕は君のお父さんほどじゃないけど、それでも結構強いよ。少し痛いかもしれないけど、良いかい?」

 

「はい」

 

 ライカはその言葉が謙遜でしかないことを知っている。ベルツは言っていた。俺の同期で俺と互角に戦えるのはあいつしかいないと。流石は次席卒業者だと。

 

「よし、ならば早速準備しないとね。僕が今出せる全力を君に見せてあげる」

 

 ダスティは左手にもう一本木刀を持ち、さっきまでとはまるで違う構えを見せる。二本の刀を持って、半身になり、右腕を前に、左腕を後ろに構える。これが本来のダスティの戦闘スタイルだった。

 ダスティの纏う雰囲気が重く、鋭くなっていく。

 

「じゃあいくよ。……始め!」

 

 開始の合図が為される。ライカはダスティに突撃しようとして、出来なかった。

 

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 勝負は一瞬だった。ライカは、ダスティに弾き飛ばされて初めて自分が敗北したことを理解した。ダスティの動きは全く目で追えなかった。

 

「はい、僕の勝ちだね」

 

「……ありがとうございました」

 

「うんうん、良い経験になったみたいだね。良かったよ」

 

「はい」

 

「じゃあ、もう日が沈み始めたし、訓練はここまでにするか」

 

 いつの間にか太陽は地平線と重なっていて、空も赤くなっている。随分と長い間訓練をしていたようだ。

 

「もう遅いから、僕が家まで送るよ」

 

「いえ、大丈夫です。そこまでしてもらうわけにはいきません」

 

「気にしないでいいよ。僕は海兵だから。それに女の子を一人で帰らせるなんて、そんなことできないよ」

 

「……分かりました」

 

 結局ダスティに送らせてしまった。申し訳なく思いながらも、同時に感謝していた。

 こうして、今日のライカの訓練は終わりを迎えた。ライカは自分が前よりも強くなっていることを感じて嬉しくなったが、同時に、もっともっと強くなりたいと思った。

 

(着実に、一歩ずつ強くなれている。私もいつかはお父さんみたいなヒーローに……)

 

 ライカの夢までの道のりは、まだまだ遠い。




ライカ
 憧れが高じて駐屯地に入り浸ってます。

ダスティ
 1話以来の登場。眼鏡の海兵さんその人です。じつはミミのパパだった。

二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)
 ワンピ的技名を目指したけど、何故か漂うコレジャナイ感。ちなみに丸刀須(マルトース)は二刀で同時に前方を突き刺す技なんだけど、速度がライカの動体視力を超えるほどだったせいで、まさかの技描写の消滅という事態を招いた。ライカちゃん、俺が描写しやすくするためにも、もっと動体視力上げて(無茶振り)

 訓練回。何気に今回が主人公の初戦闘シーンでしたね。なお瞬殺された模様。
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