イラストレーターの私は引退させられたVTuberの幼馴染を最強にすると誓った   作:バーチャルカボチャ

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第1話 私は幼馴染に甘い

 私、鷲矢 希望(わしや のの)には幼馴染がいる。

 

 その幼馴染はとにかく直情的で、刹那的な発想を即座に行動に移してしまう暴走機関車みたいな女の子だった。だからきっとそうなるのだろうと、どこかで思っていたのだけど彼女は高校を卒業すると同時にノープランで東京に飛び出した。私はビックで最強になるんだ、とお馬鹿なことを宣言して。

 

 あれから一年半。そんな幼馴染に感化された私は、好きだった絵を仕事にしたくて専門学校に通いつつ、なんとかイラストレーターとして仕事を確立することが出来始め、ちょっと忙しくなって来たかなという時期。

 

「ノノ、私はピンチなのだ!」

 

 幼馴染のSOSによって私は東京へと赴くことになった。

暫く会ってなかった彼女の顔を見たかったというのもあるし、幸い、私の仕事は機材を持ち歩けばどこでも成立するものだ。買ってからずっとしまい込んでいたキャリーケースにあれもこれもと詰め込んで、小旅行くらいの気持ちで家を出た。

 

 これが私の人生を賭けた大冒険に繋がるだなんてこの時は思ってもいなかったのだから。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「人に酔った……」

 

 職業柄、最近あまり家の外に出ていなかったこともあっていきなりの大都会は相当に堪えた。ダンジョンのように広く複雑な都会の駅を単独で脱出する力はもう残されていないので、既に幼馴染には救出依頼を発信済みだ。私はどうも方向オンチなようで、こういう時は待つのがいいと経験上分かっている。

 

「ノノぉおー!!」

 

 何人もが振り返るくらいの、常識的に考えて恥ずかしいレベルの大声で、私の名前を呼びながら爆走してくる人が見える。正直他人のふりをしたい。

 どっと身体の疲れが出た状態で、そこに飛び込んでくる彼女をどうにか抱きとめる。これはもう『爆走してくる女の子を抱きとめる検定1級』の私でなければ到底耐えられない突撃だった。

 

 私があまりの衝撃に悶絶している間、頭をぐりぐりと私の胸に押し付けてくるので、軽く頭を叩いて止めさせる。相変わらず、行動が犬みたいだ。

 

「駅で大声出さない、走らない、突撃しない」

 

「久しぶりなんだからお説教は無し無し!早く行こうよ!」

 

 ああ、このマジで人の話を聞かない感じ。懐かしさすら感じる。疲れた身体に染み渡るこの理不尽よ。

 

 我が幼馴染、琴畑 天羽(ことはた あもう)

目が覚めるくらい顔が良くて、ストロベリーブロンドの淡くふわっとした派手な髪も、浮つかず似合ってしまうくらい。

華奢で、童顔な美少女顔だから、一見すると中学生か高校生のように錯覚してしまいそうだけど、彼女は私と同級生なのである。実はちゃんと胸もある方だし、スタイルも良いけど、背が小さいからかキッズ感が否めない。

 ただ、こんなちんちくりんも、残念ながらもうすぐ成人なのだ。

 

「ちゃんとご飯食べてる?」

 

「お母さん、都会ではねデリバリーサービスが充実しているのだよ」

 

「誰がお母さんか」

 

 私の身長は女子にしては高め。天羽と並ぶと大人と子供みたいになることをちょっと気にしていたりする。そんな私にお母さんなんて、完全には否定できない程度には甘やかしている自覚があるので止めてほしい。

 

「今日は久し振りにノノの手料理が食べられるから幸せだなぁ」

 

「えっ、呼び出しといて料理までさせるんですかー?」

 

「ワタシ、テリョウリ、タベタイ」

 

「なんでカタコト……」

 

 まあ、なんかそうなる気はしていたので別に良いのだけど。心配なのはちゃんと調理器具が揃っているのかってことと、そもそもキッチン使える状態だよねってこと。天羽はお米もまともに炊けないくらい料理しないから。

 

「ねぇ、歩きづらい」

 

「近いから大丈夫っ!」

 

 腕に張り付いてくる天羽はちっさいけども、やはり腕につけて歩くには重いのでとても邪魔だ。ただでさえキャリーケースで片手が塞がっているのに。ニッコニコしている天羽を見てるとこれ以上強くは言えないので我慢して歩く。これ、昔から天羽がやるけど、抱きついてる方の腕だけ太くなってたりするのかな。もしそうだったら流石に禁止する。ただでさえ利き腕である左は仕事で酷使されているのだ。可哀想過ぎる。

 

 近い、という天羽の言葉は本当で程なくして天羽が住んでいるらしいマンションまで辿り着いた。物件に対してほぼ素人の未だに実家暮らしである私でも分かるけど、ここ所謂億ションというところだろう。これだけ駅から近くて、新しそうなマンションがお値打ちだ!なんて事故物件でもありえない。そもそも、幽霊やら妖怪やらにビビり散らすタイプの天羽は住むわけがないのだけど。

 

「防音設備がしっかりしているから良いところだよ」

 

 防音設備なんて、そんな繊細なものを気にするような性格だっただろうか。ガサツとまでは言わないけれど、大雑把な性格の天羽はその辺あんまり気にしなそうなのに。都会に染まってしまったのか……と少し考え深い気持ちでいると、乗り込んだエレベーターは、天羽の部屋があるらしい階にまで辿り着いていた。最上階ではないけれど、かなり高い。不便そうだなって思ってしまうのは私が田舎者なんだろうな。

 

 

「ねぇ、天羽。そういえば私へのSOSの理由聞いてなかったけど……」

 

 案内された部屋はとても広かった。いや、元々は(・・・)広かったのであろう。

大きな窓のある日当たりの良い部屋は、その心地良さを台なしにするくらい散らかっており、ダンボールやら、お菓子のゴミやら、パンパンに詰まったゴミ袋やら、脱ぎ散らかした服やら……目眩がするくらい汚かった。人がまともに生活できる環境ではない。ちなみに、今日私はここに泊まる予定である。泊まる、予定である。

 

 

「うん!部屋めっちゃ汚くなっちゃったから掃除して綺麗にしてちょ!」

 

「…………じゃ、帰るね」

 

「うわぁああああん!待って待って待ってぇ!綺麗にしないとヤバいんだよぉ!後輩が来てしまうんだよぉ!」

 

 

 縋り付いて引っ付く天羽の泣き落としにまんまと落とされた私が渋々と掃除を開始するまで後30分。

 

ああ、なんで、どうして、私はこの幼馴染にとても甘い。

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