イラストレーターの私は引退させられたVTuberの幼馴染を最強にすると誓った   作:バーチャルカボチャ

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第3話 ウル・アトモスフィア

「ああぁあああー!ノノの手料理が全身に染み渡るぅ。美味しいが流れてるぅ」

 

「食レポのワードセンスが鬼だね」

 

 天羽は本当に幸せそうにご飯を食べるから作った身としては作り甲斐のある相手だ。全身で美味しいを表現してあむあむ食べる姿は小動物のようで可愛い。昔から私の料理を食べてきてる癖に初めて食べたみたいな感動的リアクションを取れるのは本当に疑問ではあるけど。

 

「世界一うまいっ!」

 

「このカニの足も食べな。身がしっかりしてるから美味しいよ」

 

「食べるっ!」

 

 この生き物を前にして甘やかさずにいられる人間はたぶん血が通っていない。

 私は終始笑顔の天羽を眺めつつ、食を進めた。明日の朝食は何にしようかと、残りの食材と天羽の反応を考えながら。

 

 

 ◆

 

 

 

 完食後、食器を片付けて一息つくと私はペンを走らせていた。

別に締切が近いわけでもないし、急いで描かなければならないものがあるわけでもないのだけど、一日何も描かないというのも落ち着かないのは職業病というやつなのだろうか。出先なので液晶タブレットで描いているが、描き始めるまでずっと落ち着かなかった。

 今日は何となく久しぶりに天羽と会ったからなのか、中学生の時に好きだったアニメのキャラクターを描いてみた。懐かしい気持ちになりつつ、折角描いたのでSNSに投稿しようとアプリを開く。こういうのはあまり得意な方ではないんだけど、仕事をする上で自身を宣伝する重要なツールなのでなんとか覚えて使っている。

 

「ウル・アトモスフィア?なんか盛り上がってるのかな」

 

 アプリを開くと、現在話題になっているキーワードが表示されるトレンド欄に同じような文字が羅列されているのを見て、何やら盛り上がっているんだなと少しだけ関心を持った。

 

【ウル・アトモスフィア】

【起きろ、ウル】

【寝ろ、ウル】

【記録更新の可能性】

 

 ウル・アトモスフィアというのは人気ジャンルであるVTuberの一人らしい。

 どうやら、このVTuberが予定していた配信に遅刻していることからトレンド入りしているということのようだ。不名誉なトレンド入りであるが、お祭りみたいに盛り上がっているし知名度アップのチャンスになるだろう。

 ただもう2時間くらい遅刻している様で、待っているファンからすれば良い迷惑であることは間違いない。私がそのVTuber本人だったら申し訳なさすぎて暫く立ち直れなくなるかもしれない。何せ、このVTuber『ウル・アトモスフィア』はチャンネル登録者数100万人越えの人気者。待機している人は相当いるだろうから遅刻による影響は凄まじい。

 

 早く起きられれば良いけど、と思いつつ完成したばかりのイラストを投稿する。すぐに反応しくれるファンの人もいて、いつもありがとうございますと心の中で感謝した。

 投稿も終わったことだし、まだ読んでいなかった漫画雑誌の今週号をスマフォで開いて読んでいると、微かな電子音が鳴り響いていることに気がついた。これは音が小さいというより遠い感じ。たぶん、別の部屋から聞こえてくるのだろう。

今日はほぼこの部屋の掃除で終わってしまったので、魔境と化している可能性のある別の部屋は怖すぎて開けてすらいない。電話の呼び出し音のような音楽だけど、これは天羽を起こしたほうが良いのだろうか。

 

「すぅ……」

 

 そう、天羽は私の膝を枕にして爆睡中だ。私がせっせと絵を描いている間も起きなかった。

ゲームして、食べて、寝て、大変に良いご身分だと思うが、この愛らしい寝顔を見ていると許してしまう私のチョロさよ。器用に丸まって寝転がっている天羽の、さらっさらの髪を撫でてやれば、ちょっと嬉しそうに口をむにょむにょして可愛いし、ぷにぷにの頬もつんつんし放題だ。起こすのは忍びない。

 

 とはいえだ。急用とか重要なお話かもしれないし、私もずっとこのままというわけにはいかないし、そろそろお風呂にも入りたい。私は幸せそうな寝顔に罪悪感を懐きつつ、天羽を揺すって起こすことにする。

 

「天羽〜起きな。たぶん電話鳴ってるよ」

 

「ん……このまま寝りゅぅ」

 

「私の足を石化させる気ですかね」

 

 枕として最適の太ももって、なんか嫌だな。もしかして肉付き過ぎてる?

私があまりに起きない天羽に、自らの体型を気にし始めた頃、鳴っていた電子音が止まった。天羽が出ないから諦めたのか、それとも大した用ではなかったのか、そもそも電話ですらなかったのか。もう天羽は暫く起きなそうだし、何にしろ待ってもらうしかないだろう。

 

「お風呂行きたいんだけどなぁ」

 

 また寝に入ってしまった天羽が膝を占拠しているせいで私はここを動くことができない。ただそうは言っても、いつまでもこうしているわけにはいかないのも事実。今日は人混みに揉まれたし、地獄みたいな部屋を掃除したし、早くお風呂に入ってリセットしたいのだ。

私は近くにあったクッションを丸め、そっと天羽の頭を上げて太ももから移動させる。天羽はすやすやと眠り続けており、上手いこといったみたいだ。

 

「お風呂借りるよ」

 

 私は天羽の髪を一撫でして、お風呂へ向かうことにした。お風呂は事前にチェックしたけど綺麗に保たれていたから安心して向かえる。まあ、お風呂場で散らかるようなものもないんだけど、しっかり掃除をしていたのは本当に良かったと思う。トイレやお風呂の掃除を怠っている様だったら人としてもう擁護できない。いや、あのリビングの汚さはもう人間として駄目な部類で間違いないんだけど、最低限のラインを超えてなくて良かったな、っていう低いハードルでの話だ。

 

「あわぁあああああああー!?」

 

 防音設備なしだったら通報間違いなしの、そんな天羽の大絶叫が響いてきたのは、私がすっかりシャワーを浴びて、お風呂に浸かってのんびりしだしたそんな時間帯だった。

 

 私に休息の時はないんですかねぇ……。




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