イラストレーターの私は引退させられたVTuberの幼馴染を最強にすると誓った   作:バーチャルカボチャ

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第4話 イラストレーターの私は引退させられたVTuberの幼馴染を最強にすると誓った

 私も一応女子なので、数分でお風呂から出るなんてことは出来ない。親しき仲にも礼儀あり、というより私はそこまで女子捨ててないぞ。とはいえ急ぎで身支度したのは間違いなく、そんなに時間は経ってないと思う。

 

「天羽〜、何かあった?」

 

 髪を悠長に乾かしていられなかったのでタオルで髪を拭きながらお風呂場から出ると、先程電子音が鳴っていた部屋からばったばったと慌ただしい音が聞こえてくる。

 

「どうしたの?」

 

「やっばい!やっばい!あうあうあう!」

 

 半泣きの天羽が何やら機械をパソコンと繋いで騒いでいる。というかこの部屋、凄い数の機材やらゲームが置かれていて天羽らしくない部屋だ。デスクの上にはディスプレイが3つも置かれていて、マイクのようなものがセッティングされている。

 

「ノノなんで起こしてくれなかったのぉ!」

 

「起こしてって言われてないから」

 

「そうだったぁ!」

 

 機械に詳しくない私でも、こういった設備が何に使われているのかくらい察しがつく。ああ、というよりものすっごい嫌な予感がする。

 

「天羽さ、動画配信とかしてる?」

 

「してるよ!それが私のお仕事だからね!」

 

 天羽がまともに社会人をやっていられるわけがないとは思ってた。東京に飛び出して一年くらいで天職を見つけたとか言い出して、それから会う暇もないくらい忙しそうにしていたのは知っていたけど、頑なにどんな仕事なのか教えてくれなくて心配していたのだ。

 どうやらそんな心配はする必要なくて、確かにそれ(・・)は天職だと思う。

 

「そう、私こそが最強無敵の大魔王、ウル・アトモスフィアなのだぁあー!!」

 

「世界トレンド1位おめでとう」

 

「嫌だよぉおおおお!!」

 

私の幼馴染は現在寝坊で世界を騒がせているVTuber様でした。

 

 

 ◆

 

 

【新しい単位が誕生したな】

 

【3時間寝坊=1ウル】

 

【最近ストレス溜まってただろうし、寝れてえらい】

 

【嫌な事件だよね】

 

【運営の怠慢、タレントを守ろうって気持ちが感じられない】

 

【会社は悪くないだろ。そういう契約だし、ほいほい認めてたら体裁保てなくなる】

 

【イラストレーターの気持ちも分からんではないけど、やり方が賛同できない】

 

【いや、普通に害悪だろ】

 

 

 バーチャルアイドル。

VTuberという方が通りが良いだろうか。これはとある動画共有プラットフォームにて爆発的に人気になったことの名残りであるが、主な活動の場がVTuber専門の動画共有プラットフォームである『Vプラネット』に移った今もそう呼ばれている。

 

「コメント荒れてるな」

 

 天羽、つまりはウルが配信する予定の画面には、SNSで話題になったからか、既に待機している人が何千人とおり、そこで暇潰しの雑談とばかりに吐き出される言葉は、かなり荒れている。それはこの数ヶ月、ウルが大きな問題を抱えていたからだった。

 

 簡単に纏めると、ウルのキャラクターデザインを担当したイラストレーターが契約の関係で、運営会社と揉めて、その内容をSNSにて暴露。さらには会社だけでなくキャラクター、つまりはウルであり天羽への誹謗中傷を書き込みまくり、大炎上中、と。よし、いまからちょっと殺ってくるか。

 

 契約が気に入らないなら裏で何とでも揉めれば良いと思うけど、それを態々表に出して、剰え、契約には関係ないであろうウルの誹謗中傷を書き込むなど擁護のしようもない八つ当たりだ。VTuberには、自らのイラストレーターをママと呼ぶ風習があるらしいが、親が子に八つ当たりして傷つけるなんてことは、あってはならないことなのだ。

 質が悪いことに、このイラストレーターには信者と呼ばれるような厄介なファンもおり、それらがウルに誹謗中傷やコメントの荒らしなどによる攻撃を繰り返していた。よし、全員まとめてかかってこい。

 ウルの大多数のファンは、この騒動はウルのせいじゃないって理解してくれているけども、アンチの攻撃、風評被害や、フェイクニュースなどによって、天羽が傷ついていたことは間違いないのだから。

 

 気が付けなかった自分が情けなくて仕方がない。

天羽は後輩が来るのに部屋が汚いから私を呼んだのだと思っていた。かなりの期間まともに会えていなかった幼馴染をそんなことで呼ぶなと思ったけど、まともに会えないくらい天羽は頑張って忙しく活動していて、そんな中、私を呼ばないといけないくらい追い込まれてたんだと思う。

 天羽は能天気だし、アホだし、気分屋だけど、実は他人を気にし過ぎるところがある。きっと自分のせいでこんなことになったとか、誹謗中傷されるのは自分が上手くできてないからとか、そんな風に勝手に追い込まれていって、キツくて辛くてどうしようもないくせに、私に言い出せなくて、回りくどく、不器用に呼び出したんだろう。昔からバカなくせに弱みを隠すのが上手い奴なんだ。

 

 ああ、駅で会ったときもっとぎゅっとしてやれば良かった。

カニが食べたいって言うならいくらでも食べさせてあげるし、膝枕で寝たいっていうなら最悪足が壊れても朝まで耐えてみせる。だから。

 

「もっと早く言えバカ」

 

「うぐ、今日かっこよくもう一人の私を紹介しようと思ってたよ」

 

この期に及んでまだ誤魔化そうとするので、その頬を外側から引っ掴んでこちらを向かせた。目を逸らさせないで、その宝石みたいな瞳に私だけを映させる。頬の潰れたアホ面はそれでも可愛いが、今の私は誤魔化されない。

 

「そうじゃないだろ。辛いとき辛いって言わないの、私気に入らないんだけど」

 

 掴んでいた手で頭をぐしゃぐしゃに撫でてやる。気がつけない私も悪いけど、隠す天羽はもっと悪い。だからこれから配信だとかそんなことは気にしてやんない。ぐずぐずに甘やかして、全部吐き出させる。待っている何万人には悪いけど、私にとってはその何万人よりも天羽の方が大切なのだ。

 

「だって、だって、ノノに言ったらノノはきっと頑張っちゃう。私のせいでノノに迷惑かけたくないよぉ」

 

涙を堪えるようにして、やっと言ったと思えば下らなすぎて怒りを通り越して呆れる。迷惑なんて今更私達の間にそんなものを出してくるなんて。それにそんなこと言ってますけど。

 

「私、瀕死になりながら、散々部屋掃除してるんですが」

 

「あ、揚げ足取るなぁ」

 

 ぽこぽこと痛くもないキッズパンチを繰り出してくる天羽。

はぁ、天羽がこんな風に私に中々言えなくなってしまったのって私が過保護なんだろうか。何せ。

 

「まだ何か隠してるよね?」

 

私にはもう隠し事とかさせないので。

断固たる意志で問い詰めれば、天羽は、うぐぐっと言葉を詰まらせ、やがて観念したのか俯きながら、小さな声で言った。

 

「ぅ……その、事務所から……引退しろって言われてる。お前がいると箱の雰囲気が悪くなるって……」

 

キレちまったよ、とはこの事で。自分でも知らなかったことだけど、私はどうも完全にキレると逆に冷静に怒りを溜め込むタイプらしい。

 

 実際、ここから紆余曲折あるわけだけども。

たぶん、この時に私は決めてしまったんだと思う。何の計画もなくて、何の確信も無かったけれど、この幼馴染を最強のVTuberにして、何もかもを見返してやるよって。

 

 だからこれは、そう、単純明快爽快な逆襲の物語。

タイトルを付けるとするならば。

 

 ――イラストレーターの私は引退させられたVTuberの幼馴染を最強にすると誓った。





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