~とある助言者の言葉~
狩りの夜だ。緑の肌を持った怪物。四方世界最弱のそれらはニヤリと嗤う。奴らは食い物を溜め込んだ。腹一杯食える。女共は孕み袋にして楽しもう。俺達はずっと虐げられる側だった。今度は俺達が奪う番だ。
卑しく、矮小な小鬼ーゴブリンー共は夜の村へ忍び寄った。
最初に異変に気付いたのは狩人の親子だった。ここのところ、山の獣が姿を見せない。否、見せない事は珍しくもない。問題は小鳥や栗鼠の様な小動物の姿が、異様な程に少ないのだ。山で異変が起きている。そして、狩人達は痕跡を見つける。子供ほどの小さな足跡。しかして、悪意に満ちた残虐な小動物の死骸。食べる為に殺されたのではない。楽しむためだけに殺されたそれは山の生き物ではあり得ない。
痕跡を持ち帰り、村の大人衆で話し合う。しかし、議題も結論も決まっていた。ゴブリンだ。四方世界最弱の魔物。あれらがどこかに潜んでいる。そんな奴らに襲撃等されては堪らない。故に殺しつくしてしまえと。
しかし、それが出来ない理由がある。"元"冒険者と"元"兵士、現役の狩人がいる。しかし、あれらをよく知るからこそ村を空ける事は出来ない。奴らは間抜けだが馬鹿ではない。学ぶ存在だ。そして、只人のように数と知識を武器にする。最も知恵者な小鬼とて所詮はゴブリンでしかないのだが。しかし、上位種のいる群れが相手となるとあまりにも心許なく、冒険者を雇うだけの金を集めれば冬を越す事が出来なくなる。
結局のところ、その日の暮らしの為に働く必要のある開墾村で、余計な事に費やす金も時間も労働力も無いということだ。
最悪の未来を予想出来ていても現状維持以上は望めないのであった。それがこの村の不幸であり、何処にでもあるよく聞く不幸な話の一つでしかなかった。
夜になり村の周囲には小鬼どもが集まる。只人にとっては眠る時間。小鬼にとっては真昼の時間だ。
そこからは早かった。蹂躙し、破壊し、犯し、略奪し、弄ぶ。
「ゴブ、ゴブゴブ!」
「ゴブゥ!」
戦利品で彼等は楽しんでいた。ずっと暗く、湿った地の底で忍耐を強いられて来たのだ、孕み袋を一つ先に楽しんだとて罰は当たるまい。彼等は力に酔い、血に酔い、快楽に酔っていた。だから彼等は最期の時まで、自分達は狩る側であり狩られる側ではないと信じたまま矮小な生を終えた。
弄ばれていた女は全てを諦めたその瞳で、小鬼どもが血を噴き出しながら倒れていくのを無感動に見ていた。そして気を失う前に見たのは死神の鎌であった。
静かな夜だ。祭りの前の夜。明日に備えて皆、寝てしまった。それは村娘の一家にとっても同じである。村娘を除いて。
彼女は悪夢を見る。見たこともない服装で、見たこともない街の中を歩く。そして、お伽噺の中でしか聞いたことのない狼人間の様な化物を血祭りに上げていく。無感動に、作業的に、しかし無駄に苦しめる事なく。そして大きな聖堂に辿り着く。司祭と思われる女性が何か呟いている。声をかけようとした。女司祭はこちらを振り向き、化物へと変貌していく。元の身体の何倍もの体躯を持つ獣に成り終わった時、正にぶつかり合う直前に目が覚めた。
目が覚めて異変に気付く。村が騒がしい。寝室からは父と母の気配が消えている。悪夢から目覚めて直ぐの異変に、未だ悪夢を見ているのかとも思う。開きかけた扉から外が見えた。緑肌の化物達が地獄を創っていた。
声が出そうになる。声を出してはいけない。咄嗟に口に手をあて、声を殺す。しかし足音を立ててしまった。
ゴブリン達が獲物の気配に嫌らしい笑みを浮かべ、音の方へ歩き出したのを見た。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。逃げる。しかし、逃げ場がない。ゴブリン達が扉を破り、家の中へ踏みいってきた。
「ゴブ?」
「ゴブゴブ。」
下卑た笑みを浮かべたまま、ゴブリン達が父母の寝室へ入って行くのを見た。まだ、見つかってはいない。今の内だと村娘は部屋を飛び出し、家を飛び出した。ゴブリンに追い付かれるより早く逃げる。ただそれだけを考え懸命に脚を動かした。
村娘の不運は周りを見るよりも逃げる事に集中していたこと。そして幸運もまたそうであったことが彼女の首を絞める事になった。
なんの事はない。ただ、つまづいただけ。それが致命的であり、彼女の命運を決めた。
立ち上がり際に彼女はつまづいた物を見た。見てしまった。ソレは光の消えた瞳で彼女を見つめていた。しかし、有るべき筈の身体が無い。生首。それは父だ。そして母と思しき肉の塊が近くに横たわっていた。
「ッ…。ッ…。」
声にならぬ悲鳴と、惨すぎる現実。気付けばゴブリン達が追い付き、更に増え囲まれていた。
「嫌っ、いやぁッ!来ないで!来ないでぇ!」
村娘は半狂乱になりながら喚き、近くに有った棒を振り回した。それが人間の腕である事に気付かず。
ゴブリン達はニヤニヤと笑いながら、半狂乱の村娘を見つめる。最早獲物を追い詰めたと言わんばかりに、村娘へ一匹が飛び掛かる。しかし、偶然にも村娘の振り回す腕に殴られる形となってしまった。
「ゴブ、ゴブゴブwww」
周囲のゴブリン達が失敗した一匹を嗤う。そう嗤った。
嗤われたゴブリンはゴブリンとしては気位が高いそれだった。「こいつせいで」、ゴブリンは苛立ち腰に挿していた、猛毒のナイフを村娘の腹へ突き立てた。
「ああっ、あ"あ"あ"あ"っ!」
あまりの激痛に、獣のように声を上げながらのたうち回る。村娘は何もなさぬまま、その意識を暗闇へと落としていった。
長くなるので分けます。
最近やっとブラボをクリアしました。
エルデンリングは(持って)ないです…。