~鴉羽の狩人の言葉より~
白い花が咲き乱れている。小さな黒い家は扉が開きそこから光が漏れている。そして、背の高い人形が来訪者を出迎える。
「狩人様」
そこで夢は終わった。
村娘が目覚めた時、先程までの事は悪い夢だったのだと思った。しかし、それは勘違いであり、また夢で見た場所に立っていると知った。
「何なのよ…。私…。なんで…。」
村娘は泣き崩れた。ゴブリンに腹を刺された時の事を覚えている。あの痛みは夢ではなかった。父母は殺され、恋人はどうなったか分からない。全てただの悪夢なら良かった。しかし、違うのだ。
そして、今いる場所は天国とは思えない。悪夢で見たここはその細部までが夢で見た物と変わらない。
何もかもが理解の外側の事で、少女を追い詰めるには十分だった。だから、泣くしかなかった。それが村娘に許された抵抗であったから。
「狩人様。」
不意に声をかけられる。理性ある"人"の声。しかし村娘は知っている。それは人などではない事を。悪夢で何度なく見て、聞いたその存在を"知って"いる。
「良い夢は見られましたでしょうか。」
「誰よ、あなた。」
「忘れてしまわれたのですね。狩人様。
私は人形です。ずっと貴女と共にありました。」
人形。白く、大きく、灰色の髪を持つ人形。悪夢の中で幾度となく現れたそれが目の前に立っていた。
「…あなたなんて知らない。私を帰してよぉ…。」
「お寒いでしょう狩人様。貴女はまた、目覚めたばかりなのですから。」
どこからか取り出したローブを掛けられる。母が子にする様に。村娘は人形に抱き締められた。そこで全てを思い出す。
「う"っ、あ"っ…。」
記憶の奔流が脳髄へ流れ込む。直接、頭の中を弄くり回され、目茶苦茶にかき混ぜられる様な気持ち悪さと頭痛が収まった時、そこに有ったのは少女ではなく狩人だった。
「行かなくちゃ。」
「思い出しましたか…?」
「全て。」
「では…、また目覚めるのですね。」
何も言わず、一つの墓石へ歩いていく。墓石に触れ、夢から覚める。夢から覚め、新たな夢の中へ覚める。
「狩人様、貴方の目覚めが有意なものでありますように…。」
人形の呟きか、祈りか、それが狩人として目覚めた少女に届いたのかは分からない。
狩人が目覚めた時、そこは先程自分が害された場所と何も変わりがなかった。しかし、突然現れた狩人にゴブリン達が何事か喚いている。それも当然だろう。先程、死んだ筈の女が消えていて、代わりに闇に溶ける黒を纏った何かが立っていたのだから。
村娘、否、女狩人は何事が喚く小鬼共を見て五月蝿い奴らだと思う。先程まではこんな塵以下の連中に無様を晒したのかと。しかし、心は波立たず、ただ狩りの獲物を狩る為に腕を振るう。その度に小鬼の首が飛ぶ。これならあの獣共の方が余程固い。ぎゃいぎゃいと喚きながら跳び、襲いかかってくる。また、逃げ出す奴らもいる。
面倒だと思うと同時に手にした武器を変形させ、大鎌を振るう。それだけで一度に複数のゴブリン共の首が、手足が、胴が、当たった場所から吹き飛びそこに血の池を作る。
粗方殺し終え、周囲の惨状を観察する余裕が出来る。
慰み物にされていたと思しき女が横たわっていた。
よく見れば、何かと世話を焼いてくれた近所に住む年上のお姉さんだ。
それを見ても心は波立たず、それが悲しく思えた。
せめて身体についた汚物を拭ってやりたいところだが、生憎とそんな物は無かった。
「…。」
無言で見つめ、それでも何も出来ず背を向ける。まだ、足を止める訳にはいかない。幼馴染みの、狩人の息子が見つかっていない。一縷の望みをかけて夜へ駆け出した。
前書きの鴉の字は、誤字ではなくわざとです。
かっこいいからね。仕方ないね。