~灰狼の古狩人~
村の中を走り、向かってくる小鬼をバラバラの肉塊へ変えていく。広くはない村だ。それは直ぐに見つかった。親玉と言うべきそれは村の中心で一人の狩人と対峙していた。
女狩人は急ぐ。何事も成せず、成さず、遅れ続けた。今回だけは間に合わせて見せると…。
少年は、女狩人の幼馴染みは、たった一人で立ち向かっていた。父や、元兵士や元冒険者の大人達は小鬼を殺しながら村の子供だけはと外へ逃げていた。そして、誰よりも足の早い父が助けを求め、隣村へ走る事になっていた。
少年が村に残った理由はただ、恋人の村娘の為だけであった。
ゴブリンを時に殺し、時にやり過ごし、村娘を探し続けていた。そして、ゴブリン共に見つかってしまった。それも群れの親玉と思しき奴もいる集団にだ。だから、父からもらったナイフを構え対峙していた。みっともなく逃げ出してしまいたかった。でも逃げられない。逃げてはいけない。
既に何度か打ち合っている。何発か切り傷を与えたがそれだけだ。それは致命傷になりはしない。取り巻き共は下卑た笑い声を上げながら、只人には分からぬゴブリンの言葉で何事か喚いている。大方、野次の類いだろう。やがて目の前のゴブリンの親玉が余裕たっぷりな顔で腕を振りかぶる。あの一撃を貰えば死ぬ。どう避けるかが運命の分かれ目だ。神のサイコロは残酷な結果を出したようだ。避けようと前に出たのは良かった。だが、その後が続かない。足をつかえさせた。あの棍棒で殴られれば血の染みとなっておしまい。
少年は己の未熟と、そして神を呪った。
「させるかぁぁぁぁぁぁ!」
声が響き、落雷の音にも似た音響が響いた時、周りを囲っていたゴブリンの一部が首を失い倒れる。ゴブリンの親玉は落雷の音の原因となった短銃の一撃に致命的な隙を晒す。その全てが一瞬の内に起き、その全てが成った時、少年の前に立っていたのは黒い影だった。
女狩人は息を荒げながら少年の前に立つ。今度は間に合った。しかし、状況が好転した訳でもない。周囲のゴブリン達も、目の前の大物も、先程までとは違い、新たな脅威に殺気を滲ませる。
「早く立って。」
「な、お前…。」
「そんなのは後、あいつを狩る。周りは頼むわよ。」
少年を無理矢理立たせ、獲物へ向き直る。あれだけの惨状にも平静を保っていた心が荒ぶっている。あいつを殺せと心が騒ぐ。"幼馴染みだけは失う訳にはいかない。"、"幼馴染みを痛ぶって楽しんでいた"、"許さない!!"。それを押さえ付けながら"アレ"を見つめる。お楽しみを邪魔されたという怒り。目の前の黒い影は雌だという下衆な考え。それらが入り交じった瞳をしている。
「GOB、GOBGOB!」
獣以下の言葉など理解出来よう筈もない。しかし、女狩人には、その後ろに立つ少年にすらその意味が理解できた。
"手を出すな、こいつらは俺が仕留める"
大方そんな事を言ったのだろう。
その証拠に先程までとはうって変わり、周囲の下卑た笑みを浮かべた小鬼達は手を出してくる気配はない。
好都合だ。まずは一匹。女狩人は武器を構える。
次話でゴブリン狩りの夜は明けます。