~とある少女の言葉~
そのゴブリン、田舎者と呼ばれるそれは今日は良き日だと思っていた。何せ、村を一つ奪ったのだ。腹一杯食えて、女を犯せる。最高の夜だ。だから、いつもなら目障りなだけの只人のガキとの、決闘を楽しむ余裕もあった。上手くやれる奴なら"慈悲"を与える用意もあった。
楽しみの最中に乱入者があった。そいつは、群れの何匹かを殺し、この俺様に何かを放った。それで不覚を取ったが、何、次は上手くやる。それにその乱入者は女だ。顔を隠しているが、好みの顔をしていれば孕み袋にして楽しんでやる。気に入らなければあの小僧の前で痛ぶってから食ってしまおう。そんな未来を妄想しながら。武器を振り上げ突進する。その妄想は叶うことなく、ゴブリンはその何の意味もない生を終えた。
そのゴブリンは確かにゴブリンの中では強者であったが、同時にやはり愚かなゴブリンでしかなかった。
醜悪な顔を更に歪め、ゴブリンが下卑た笑みを浮かべている。奴は何を見ていたのだろうか。群れの数匹を殺し、奴の一撃を銃撃でもって止めた。にも関わらず、奴は勝った後の事を考えている。今を見ていない。獣以下の思考だ。
一瞬で終わる。終わらせる。
手に持つ棍棒を大きく振りかぶりながら突進してくる。
恐怖は感じない。獣狩りの下男や、残酷な守り人のそれよりも遅く、殺気の籠らない攻撃に遅れを取る理由はない。
狙うは振り下ろしの時の僅かな隙。一瞬の油断が生まれるその時のみ。
女狩人にはゴブリンの動きがスローモーションの様に見えていた。突進の勢いが少し弱まる。攻撃の前兆。僅かに振りかぶった。
「そこ」
左手の短銃を持ち上げる。照準は必要ない。この手の敵の撃つべき場所など分かりきっている。引き金を引く。爆音と共に女狩人の血の混ぜられた"水銀弾"が翔んでいく。
見事にその胸に直撃し、致命的な隙が生まれる。
女狩人は、弾が飛んでいくと同時に前に飛び出していた。
右手を奴の臟腑に突き刺す。狙うは心臓。
掴み取り、握り潰しながら引き抜く。
それで全てが終わった。ホブゴブリンは絶命し、残るは汚物が詰まった肉塊だ。
周囲のゴブリン達はその光景に、呆気にとられて黙り混む。一瞬の後、蜂の巣でもつついたかの様に騒ぎだした。逃げ出すもの、命乞いをするもの様々だったが、そんな雑音を無視し、女狩人は振り向く。
「終わったわ。」
「…でも…、ゴブリンはまだいるぞ…。」
「なら、皆殺しね。手伝ってくれる?」
少年は一瞬、迷った。迷った後、その手を取る。
「ああ。あいつらは許せない。」
好機と見たか、一匹のゴブリンが二人へ飛びかかってきた。そちらを見ることなく、女狩人は短銃を撃ち、それを処理した。
そこからはただ、殺戮が繰り広げられた。
命乞いをするものには慈悲なく死を与えた。逃げるものは脚を撃ち、動けなくしてからその心臓を抉った。死んだ振りでやり過ごそうとするものがいた。二度と目覚める事の無いよう、その首を断ち切った。勇敢にも立ち向かってくるものには容赦なく武器を振るい命を奪った。
ゴブリン達はその命をもって積み上げた因果に報いを受けた。
殺しに殺し、血に塗れた二人が気付いた時、夜が明けていた。二人は阿呆の様に、ただ、昇る太陽を見つめていた。
どこかで鶏の鳴く声が聞こえた頃、少年の父親が冒険者を連れて戻ってきた。血塗れの二人を見て驚き立ち止まった少年の父は、それが息子と、その恋人だとみとめると二人を抱き締め"すまなかった"と繰り返した。
冒険者達や、着いてきた他村の者達から様々な言葉をかけられた。
しかし、二人は答えない。答えられない。二人は平穏を失った。少年は村での暮らしを、女狩人は文字通りの全てを。言葉など無い。ただ、その夜に起きた事に決着をつけた。それ以外に、何も無かった。
その日、何処にでも有る一つの開墾村は廃村となった。
私はいつだって間違っていたし、いつだって間に合わなかった。それでも、こんな人生でも何か意味が有ると信じたかった。だから、あの子のお願いだけは何とかしてあげたかった。
結局、希望は最悪な形で砕かれた。
~ある狩人の回想~
ここまでがプロローグです。
ゴブスレさん達との絡みは次から…かな?