・・・それに、ビルゲンワースは医療教会の禁域にも指定されています。
~血族狩りの狩人の言葉~
衛兵に連れられ、一際豪華に見える森人の住居へ足を踏み入れる。迎えたのは森人は森人でも、上森人であった。
「遠路はるばるよく来てくれた。ギルファロス。」
「貴殿らのからの依頼で参上した。拝謁の栄誉を頂き感謝する。」
最低限の礼儀に則り、挨拶を返す。その後の話は辺境の街で聞いたのと同じ内容であったが、一部、新たな情報が伝えられた。それは女狩人にとっては悪夢の再来であった。
「さて、貴公への依頼の内容はこんなところだ。が、ここに来るまで話す訳にはいかなかった情報が一つ。」
「…。情報とは?」
「我らが森に見慣れぬ遺跡が出現した。」
「"出現"した?」
「うむ。ある日突然現れたのだ。森は移ろいゆくものだ。不変は無い。しかし、かの遺跡は突然現れた。それからなのだ。邪教の者が姿を見せる様になったのは。」
「…。この事を他種族の王達は?」
「内々には。表向きは知らない事になっている。」
「"銀"ではなく"金"の仕事だな…?」
「金は腰が重い。故に銀なのだ。」
エルフが言うには含蓄が有るという皮肉は口にせず、女狩人は話を先へ進める事にした。
「しかし、森人ですら見慣れぬとなれば普通の遺跡ではない事は間違い無いだろう。もう少し情報はないのか?」
「里の者達を幾人か見に行かせた。が、貴殿の様な秘術を使う者に襲われた。それ以来、警戒の為の偵察を送りはしても足を踏み入れる事はしていない。」
女狩人にとって、その情報は正に求めた手がかりだ。そこで森人を襲った者も。が、語らう事の出来る相手ではないだろう。
「最期に一つ。教えて頂きたい。分かる限りで良い。かの遺跡には"何"が有った?」
「我等も知らぬ文字が載る書物と目玉が転がっていたと。」
「化物は?」
「出くわしたのは貴殿と似た術を使う者だけと…。」
「感謝する。上の森人。森人の長。この依頼は必ず達成すると誓おう。」
「…。貴殿の狩りの成就を祈る。異郷の狩人…、月光の狩人よ…。」
女狩人は一礼し、森へくり出した。
「異郷の者よ…。そなたの行く道には何が有るのだろうな…?」
上森人の呟きは誰にも聞かれることは無く、一日の終わりを告げる夕陽の輝きの中へと消えていった。
得物を両手に女狩人は森を進む。既に何匹かの獣を仕留めていた為、狩りの武器は血にまみれている。そのどれもが、かの忌まわしき悪夢の中で屠った病の罹患者と同じであった。しかし、邪教の者はまだ見ない。
道なき道を進み、森人の里で聞いた道順通りに進めているか時折確認する。闇夜の中で読む地図は常で有れば読む事は叶わないだろうが、月明かりに照らされたこの森ではそれが叶う。そして、何度目かの中継点を過ぎ、休憩を挟みながら歩き続けると有る種見慣れた景色が目の前に広がる。
湖畔に建てられた学舎の一角。狩人の全てが始まった地。忌まわしき悪夢の根元、その源がそこに有った。
女狩人は辺りを警戒しながら歩く。あのおぞましい化物の成り損ないや、気色悪い長虫はいない。しかし脅威が無い訳でも無いだろう。それを裏付ける様に森を歩くには不釣り合いな学生服であろうローブをまとった者達が現れる。
「噂の邪教とは貴公らの事か?」
「殺せ」
リーダー格なのだろう一人が呟くと、残りの二人と共に襲いかかってきた。
三名共、獣狩りの「仕込み杖」をその手に持っている。しかし、右手に銃を持っているのは一人だけだ。数の上では不利だが、銃持ちが少ないのは幸運か…。
銃を持った一人が何発か撃ってくるが、これをかわす。そこへ変形前状態の杖を振りかぶって来る学徒。三人目の姿を見失うが構わず「獣狩りの短銃」を撃ち放つ。吸い込まれる様に水銀弾が学徒の胸を貫く。のけ反り、致命的な隙をさらす二人目の臓腑を引き抜くべく右手を学徒の身体へ突き刺し内臓を抉る。
「ぐわっ」
まだ死なない。まずはこの一人。
そこへ蛇腹剣の一撃が飛んでくる。攻撃を貰ってしまうが、浅い。そのまま、前にステップを踏む。下がれば銃撃が飛んでくる。前へ。ただ前へ。
三人目の変形攻撃も掻い潜り、致命の一撃を叩き込んだ一人に肉薄し「ノコギリ鉈」を振るう。縦に横に、袈裟斬りに。体力の続く限りに振るう。たまらず下がる学徒。追撃の為に、武器を変形させリーチの長い鉈で更に兜割りの要領で縦に切り裂く。怯み、足を止めたところへノコギリへ戻しつつ踏み込み更にラッシュを叩き込んだ。
仲間へ攻撃が当たる事を厭う残りの二人は攻めあぐねている。これならまだ、獣達の方が手強い。女狩人は最後の一撃を叩き込み、一人を屠る。
「次はどちらだ?」
二人の学徒は問うてくる女狩人の姿に、自身らがあい見える事を望む"上位者"の姿を幻視する。
そんな事があり得る筈がない。有っていい筈がない。志を同じくする彼女が教えてくれた神秘は今まで秘されてきたものだ。それを、たかが冒険者風情にあばかれるなどと。
二人の間違いは、その傲慢さ、そして浅はかさ。いかに森人達が知らぬ神秘であっても、人の身でそれに見え、半分の同志が狂死する神秘などまともなモノである筈もなく。ましてや知らぬ事であったとは言え、目の前にいるのは狩人なのだ。獣を狩り、上位者を狩り、遂に上位者へと至った、人の成れの果て、或いは血に塗れた好奇にみいられた狂人達の夢の体現者なのだ。成り立てですらなく、その初歩の初歩へ触れたのみの"只人"などが殺せる存在ではないのだ。
二人は女狩人を殺す為、武器を振るった。その内の何発かはその身体へ当たるが、それは死神の足音を遠ざけるのみ。何とか連携を以て、女狩人の攻撃をしぼらせず仕込み杖の本懐である間合いの外からの攻撃と銃撃によって女狩人を押し返して行く。
ー勝てるー
それは戦いの中で二人が共有した結論であった。
余裕は必要だ。気の弛みも。問題はそれを出すべきではない相手が目の前にいる事を認識出来ていなかった事だ。
気の弛みを見いだした女狩人は銃持ちの一人へ対象をしぼる。前衛の学徒の脇を抜け肉薄、そのまま首を落とした。
「二つ目」
一人になった学徒は破れかぶれに突撃する。最早、勝てる等とは思えない。しかし、諦める事は出来ない。最後のあがき。その一撃は確かに女狩人を捉らえた。
ーやった!ー
それが彼の最後の意識となった。
確かにその一撃は女狩人を捉えていた。しかし、それは女狩人からしても同じこと。一撃を貰う代わりに確実にその命を奪ったのだ。
人の命を奪った事に何の感慨も抱くことはなく、女狩人は始まりの学舎へ足を踏み入れる。秘匿された神秘を白日の元に曝し滅ぼす為に。
その先に待つであろう最後の学び手を滅ぼす為に。
スッゲェ長くなりましたね。
まぁ、戦闘シーンだからね。
冒頭部分のギルファロスは、ネットの海を漁って探してきたエルフ語の命名表からでっち上げました。
エルフの里へ行くんだからエルフ語っぽいのを出したかった。それだけです。
さて、何となく先の展開が読めてしまうでしょうが、秘匿は破られます。
蜘蛛は皆殺しだ。