そして私は夢を見る   作:ぱちぱち

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【※】この話には全裸のモヒカン男が出現します。下ネタやその手のギャグが嫌いな方はご注意ください

ちょっと曖昧だなという方は「幕張 漫画」で検索して出てきた結果で判断お願いします()


幕張

 拝啓、お母様。

 

 はれて私は中央トレセン学園の学生として入学することが出来ました。

 

 一日も早く学校になれ、健やかな学生生活を送ろうと考えています。

 

 ですが――

 

【求む、明日の星! プロレス同好会!】

 

「あるよー、温泉チケットあるよー。今なら1月分の洗剤もついてくるよー」

 

 大きな看板を高々と掲げる私とメガホンを持ち、怪しいサングラスをつけた幼馴染の呼び声に、振り向くものは誰も居ない。

 

 トレセン学園に入学して。プロレスの輪を広げるため同好会を設立し、幼馴染を巻き込んで会員を増やそうと画策し、そして1月が経ち。

 

 一人も会員が増えないまま、GWは終わりを告げた。

 

 ああ。母上。

 

 トレセン学園の風は、冷たいです。

 

 

 

「そもそも走りに来てっからなぁ、私らも、あいつらも」

 

 もちゃもちゃと咀嚼音をたてながら、幼馴染はそう言っておい!お茶ァ!のペットボトルに口をつける。随分と上品な形のたい焼きだ。相変わらず美味そうなものを食ってるな、このブルジョアは。

 

 一つよこせ、と目で催促をかけると、「ん」とだけ返事を返して幼馴染はほい、と私の口にたい焼きを突っ込んだ。

 

「ふぉい」

「んだよ、両手は看板で塞がってんだろ?」

 

 じろりと睨みつけるも、幼馴染は私の視線にどこ吹く風、とばかりにケタケタと笑ってたい焼きを頬張った。もぐもぐと顎を動かす。美味い。

 

「ま、お前も諦めるなんて欠片も考えてねーんだろ? だったら、腹くくって腰を据えていくっきゃねぇさ」

「……ん」

 

 ごくん、とたい焼きを咀嚼し、飲み込んで。ふぅ、とため息をついて、掲げた看板を下ろす。人通りもまばらになってきたし、これ以上看板を掲げていても意味はないだろう。

 

「しっかし。アルがトレセンに入学するなんて思ってなかったぜ。てっきりレースには興味ないって思ってたからなああああそれあたしのお茶ァ!」

「んぐ、んぐ。一口くれ」

「飲んでから言うんじゃねぇ!」

「すまん。ガルビス飲む?」

「飲む」

 

 たい焼きにガルビスは少し甘すぎた。和菓子にはやっぱりお茶が合うな。

 

「私も、まさかここに入学する事になるとは思わなかったよ」

 

 幼馴染の言葉にうん、と一つ頷いて。トレセン学園に入学するまでの紆余曲折が頭の中を過ぎっては消えていく。

 

 まぁ大雑把に言うと幼馴染を一人で野放しにするのを恐れた幼馴染の母が昔のコネを使って私をねじ込んだんだけどそれを幼馴染本人に言うのも野暮ってもんだ。幼馴染の母は私にとって最初の先生とも言うべき相手で、その頼みは無碍に出来ない。

 

 ……幼馴染母子は、得難い出会いと耐え難い別れを経験し。一時期、抜け殻のようになっていた私を、家族以外でもっとも親身になって世話してくれた人たちだ。この頼みを断ったのでは女がすたる、というものだろう。

 

 正直な話、実力で中央トレセン学園に入学するには私は少し実績が足りない。元々レースの道に進むつもりがなかったってのもあるし、なにより小学校の頃はどうしても走らないといけない時はだいたい幼馴染と一緒に走っていたから、2着か3着ばかりだったのだ。幼馴染は、走ることに関しては本当に天才的なんだ。奇行のせいでその辺が目立たないだけで。

 

「まぁ、入学してしまった以上は私も一トレセン学生だ。推薦してくれた先生の顔を潰さない程度には頑張るさ」

「で、入学してそうそうレースそっちのけでプロレス同好会か」

「それとこれとは話が別だから」

 

 私にはトレーナー(社長)の遺志(死んでない)を継ぎ、レース一強のこの世界にプロレスブームを作り上げるという使命があるからな。レースに対しても力を抜く気はないが、闘魂の後継と呼ばれた身としてはそちらを疎かにすることも出来ないのだ。

 

「夢の話だろ」

「夢の話だ。起きて見る、夢の話さ」

「ん、そっか」

 

 茶化すような幼馴染の言葉にそう返すと、何が面白いのか幼馴染はゲラゲラと笑い始めた。一頻り笑い転げた後、幼馴染は私が持つ看板をヒョイ、と取り上げた。

 

「んじゃ、こいつは部室(予定)に戻しとくわ」

「ああ、ありがとう。すまんな、チームの部屋(部室予定)に私物を置かせてもらって」

「あー、いいってことよ。あたしなんか部屋に将棋盤とかダーツボード置いてんぜ?」

「それはそれでチームとしてどうなんだ」

「大丈夫なんじゃねーの? トレーナーからはなんも言われてないし。あ、そのたい焼きは全部やるわ。早めに食べろよ?」

 

 最後に一つをパクっと口に含んで、幼馴染はテクテクと校舎に向かって歩いていった。

 

 その背中を見送りながら幼馴染が置いていったたい焼きを一つ取り、頭から一口、パクリといく。うん、美味しい。

 

「こういうセンスは凄いんだが」

「あら、扇子がどうかしましたの?」

 

 突拍子もない行動が多すぎて眼につきにくい幼馴染の数ある特技に思いを馳せていると、不意に声がかけられる。まさかの会員希望と色めき立ち、よく考えれば看板がないわな、と消沈しながらそちらに視線を向けると、胡乱げな表情を浮かべた芦毛のお嬢様の姿があった。

 

 メジロマックイーン。確か、幼馴染の親戚だったか。

 

 互いに顔は知っている程度の間柄。会釈を交わしさてどう返答を返すかと考えあぐねる。

 

「ゴールドシップの奴は、数多ある長所を行動で塗りつぶすやつだなぁ、と」

「貴女割とズケズケ言うタイプだったのですね」

 

 特に良い例えが思いつかなかったので、最もオブラートに包んだ言葉を口にすると、メジロマックイーンは目をパチクリとさせた。これ以上抑えた表現が思いつかなかったのだが。

 

「……ふふっ。確かに、ゴールドシップさんが言っていた通りの方ですわね」

「それは出来れば聞きたいような聞きたくないような評価だな」

「あら、絶賛ですわよ。『アイツだけは私に付いてこれる』って」

「レースの話だよな。そうだと言ってくれたい焼きやるから」

「あら、ありがとうござ――」

 

 くすくすと笑って私の隣に腰を下ろすメジロマックイーンに、私は祈るような気持ちでそう尋ねた。私は奴のように奇行を繰り返しているつもりはない。ただ、たまに起きたまま夢を見るだけの、少しプロレスが得意などこにでもいるウマ娘だというのに。

 

 思った以上に精神的な衝撃を受けていたのか。歪み、暗くなっていく視界。パチパチと瞬きをしながら頭を振り、返事を促そうとそちらに視線を向け

 

 メジロマックイーンの変わりに全裸で背中に羽を生やしたソフトモヒカンの男が座っていた。体育座りで座っていた

 

「……………うん?」

 

 私の視線に気づいたのか。男はこちらに顔を向ける。眼鏡を掛けた、おそらくは高校生くらいの男性。体つきはそれほど大きくはない。恐らく私と同程度の体格だろうか。

 

 ただし全裸である。

 

「…………」

「…………………」

「ぽっ」

「ぽっとかいうな頬を赤らめないで頼むから」

 

 周囲を見渡す。ここ1月で見慣れたトレセン学園の校舎は露と消え、視界に映るのは並んだロッカー、野球用具らしきバットにボール、何故か備え付けられたバスケットリング。どこぞの狭い部室のような部屋の中を見渡して、私はようやっと理解した。

 

 ああ、分かった。分かったぞ畜生。

 

 私は今、夢を見ている。

 

 

 

 ふぅ、と一つため息をつき、立ち上がってドアを開ける。どうやらココはどこかの学校の部室らしく、周りにはコンテナのようなサイズの小さな小屋が複数並んで置かれていた。一から全てを把握するのは、少し骨がかかりそうだ。

 

「全裸モヒさん、勝手に侵入しているのはどうやら私の方だと理解しました。確かにそれは法律上許されることではありませんね。出来ればここの責任者にお会いして直接謝罪をしたいので場所を教えて頂きたい」

「ご案内したいのだが少し待ってくれ。いま、恥ずかしながらぼっ」

 

 

 

「どちらの校舎になるのでしょうか」

「みぎがわのほうでしゅ……」

 

 顔をパンパンに腫らし、仰向けで床に寝そべる青年にそう声をかけると、彼はフルフルと震えながらそう応えた。意識が落ちないよう手加減するのは存外に難しかったが上手く言ったようだ。これもトレーナー(社長)の導きの賜物だろう。

 

 体育座りで隠していたブツがもろに見えているが、特に感じることはない。こちとら夢の中とはいえ1年間もパン1の男どもと組み合ってた。男の体なんて見飽きるほどに見ている。

 

 それに連中、女子が居る場所でも平然と全裸で更衣室歩き回ってたからな。最初のうちは私も動揺していたが1年もそれを経験すれば流石に慣れてくる。

 

 今更こんなポークビッツを見せつけられても蔑みくらいしか返せるものはない。

 

「……その視線、良い」

「…………………………………うわぁ

 

 ゾゾゾっと背筋を走る悪寒に一歩足を引く。あれほどボコボコにしたというのに、目の前の男はもう立ち上がろうとしている。にじみ出る気迫、背後にオーラすら感じる佇まい。

 

 この私が、気圧された。その事実と湧き上がってくる嫌悪感にこれ以上こいつに付き合うのは、不味いと判断を下す。非科学的であるがそう直感のようなものを感じた私は、そそくさとその場を後にしようとし。

 

「ん、なんだ君は。どこの生徒だ」

 

 最も面倒な時に、教員だろう髭面の男に声をかけられた。

 

「見たこともない制服だ。君、なんで校舎の中に」

「あ、その」

 

 先程までならば望んでいた。だが、一刻も早くこの場を離れたいと思っていたこのタイミングでは。何が不味いのか、自身にすら分からない漠然とした不安を感じて、言うべき言葉が出てこない私に怪訝な表情を浮かべた教員らしき男は私が出てきた部室の中を覗き込み。

 

「………くし」

 

 ギョッとしたような表情を浮かべた後。部室から飛び出してきた肌色の物体に、襲いかかられた。

 

「なっ!?」

 

 その物体は、いや。全裸モヒは教員の男に抱きつくと、その手を自らの股間にいざなった。地獄か。そのまま相手を拘束するように体を絡めさせ、男の耳たぶに口を――地獄か。ここが地獄なのか。

 

 最初は度肝を抜かれていた教員もやがて顔を青くさせ、フルフルと体を震わせながら涙を流し始め、最後には泡を吹いて白目をむく。男が気絶したことに気づいたのか、全裸モヒは拘束を解き。崩れ落ちた男に興味がなさそうな視線を送った後、ゆらりとした動作で私に視線を送る。

 

「吉六会奥義“奈良づくし”」

 

 彼の言葉にビクン、と肩を跳ねさせた私に、ニヤリと口元を歪ませて全裸モヒは私に向き直る。先程までとは別人のような覇気。これが、この男の本性。

 

「君が相手ならば準備運動すらいらない。俺の全てを、受け止めてくれ」

 

 プロレスは相手の全てを受け止めるけどそれは受け止める範囲に入ってないんだが、そんな言葉はこの男には届かないだろう。

 

 男に向き直る。あれだけ与えたダメージは影も形も見受けられない。先程までの男とは別人だと確信し――或いは息の根を止めなければいけないことも考慮に入れて――全力で相手を迎撃するために、私は構えをとった。

 

 互いの闘志がぶつかり合い、空気を歪ませるような感覚。ジリジリと肌を突き刺す視線に目尻を釣り上げながら、私と全裸モヒは少しずつ互いの距離を詰めていき。

 

 ドゴォン!

 

 全く想定外の方面から投げ込まれた白いボールが、全裸モヒの股間を直撃した。

 

 一瞬の空白。互いにぎょっとしたような顔で見つめ合った後、全裸モヒは顔をクシャクシャに歪ませて蹲るように倒れ、「ほぁぁぁ、ほぁぁぁ」と鳴き声を上げながら地面をゴロゴロと転がる。

 

ジャンプ(うち)の恥部がすまんかった」

「ごめんね、汚物を視界に入れちゃって」

 

 ボールが飛んできた方向に視線を向けると、恐らく高校生だろう男女二人がバットとグローブを持って歩いてくる。恐らく先程のボールは彼らが投げたのだろう。野球部だろうか、男性は野球のユニフォームのようなものを身に付けている。

 

 私が二の句も告げずに佇んでいると、彼らは特に気にした風でもなく歩み寄り。

 

 此処から先は口にしないでも良いだろう。ただ、全裸モヒが復活してくることは無かったとだけ言っておく。

 

「じゃあ、これはこちらで処分しとくから。気をつけて帰ってね」

「あ、はい」

 

 一昔前の女子高生、という風な女の子の言葉にうなずきを返す。つい先程まで局部をひたすら足蹴にしていたとは思えない、きれいな笑顔だ。ボロ布のようになった全裸モヒを抱えて、彼らは去っていく、かと思った時、ユニフォーム姿の男がふと思い立ったかのようにこちらを振り返る。

 

「忘れてた。こいつが恥って概念だから」

 

 いや言われんでも分かるがな

 

「えーと、後は。ああ、本当は喧嘩商売の方が良かったかと思ったんだけどほら掲載誌的に問題があるから」

「掲載誌とは」

「ヤングジャンプ好評連載中、ウマ娘シンデレラグレイをよろしく」

 

 そう口にして、全裸モヒを抱えた男女は校舎の影へと消えていく。それに伴うかのようにクラリとめまいがするような感覚。抵抗せずにそれを受け入れ、瞼を閉じて、開く。

 

 見慣れた光景。毎日通っているトレセン学園の校門前の姿が、そこにあった。

 

「……なんなんだ一体」

 

 盛大に疲れただけの夢だった。感覚としては初回のアレに近いというか。顔を歩く亀の感触を思い出して体を震わせながら立ち上がる。さて、そろそろ教室に行かなければ。遅刻は流石に――

 

 そこまで考え、歩き出そうとした時。

 

 ギュッと、背後から抱きしめられるように誰かの両手が回された。

 

「うん?」

 

 はて、と戸惑いながら顔を傾けると、そこには特徴的な芦毛の髪とウマ耳がある。これは、先程まで隣りにいたはずのメジロマックイーンだろうか。

 

「どうしたんだ、メジロマックイーン。私にな」

「たい焼き、美味しかったですか?」

「うんん?」

 

 私の背中に顔を埋めているせいでどうにも表情が見えないが、随分と抑揚のない声がする。

 

「ええと、ああ。たい焼きとは思えないくらいにしっとりとした生地、絶妙な甘さの餡と」

 

 なにか気に触ることをしたか、と怪訝に思いながらも尋ねられた事に答えを返そうとし。

 

「げぷっ」

 

 急激に強まる胸の圧迫感に、無理やり空気が押し出され情けない声をあげてしまう。

 

「そうでしょうね。あのたい焼きを作っている香霖堂は江戸時代から続く老舗の名店。あのたい焼きは、明治時代に当時の店主が開発して以来一日限定200個しか生産されていない、店の看板とも言える商品です。しかも代々の経営方針から予約販売は行っておらず、当日、直接、足を運ばなければ購入することが出来ない逸品」

「メ、メジ……」

「ようやく…………ようやく買えたというのに………」

 

 これは、不味い。生命としての本能が声高に警鐘を鳴らす中、私はなんとか拘束を振りほどこうともがく。が、ただの素人である筈の彼女の拘束を、外すことが出来ない。完璧に背後を取られている、これは、この体制は!

 

「この―――――――泥棒ぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっ!」

「ああああああぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

 グン、と足が地面を離れる感覚。スープレックス、頭浮かんだその言葉が消え去る前に視界が反転し――逆さまになった世界の中、あ、やべっという表情を浮かべた幼馴染の姿が眼に映る。

 

「ゴールドシップ貴様あぁぁぁぁぁぁぴょっ!?」

 

 叫ぶ、衝撃、そして――暗転。

 

 受け身を取ることも出来ずまともにジャーマンを喰らった私はこの日一日をベッドの上で過ごすことになる。

 

 もちろん見舞いに訪れた幼馴染を同じ目に合わせた。




アルちゃん
主人公。メジロマックイーンに類まれな格闘センスを見出した。

ゴールドシップ
退院したアルにバックドロップを決められる。
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