そして私は夢を見る   作:ぱちぱち

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誤字修正、トリアーエズBRT2様ありがとうございました!


閑話2

「同時に二人のメイクデビューとは、随分思い切ったでありますな?」

 

 ポリポリと頭をかきながら沖野トレーナーが理事長室を出ると、待ち構えていたかのように帽子をかぶった女が彼に声をかけた。

 

「……神山の姐さんか。学園に居るとは珍しい」

「年中合宿所に詰める理由はないでありますからな」

 

 振り返った沖野の言葉に微妙にズレた回答を返して、神山教官はくいくいと手で先へ進めと合図を出しながら沖野の隣に立つ。

 

 続きは歩きながらという事だろう。軽く肩をすくめて沖野は彼女に遅れないよう歩み始める。

 

「耳が早いな。普段合宿所から出てこないのに」

「おハナからのタレコミであります」

「えぇ……」

「本気で二人共、クラシック路線で走らせるそうでありますな?」

 

 神山が覗き込むように沖野の顔を見上げる。誰のことかは言うまでもない、と言外に語るその視線に横目で答えながら、沖野は口に咥えたキャンディを舌で転がした。

 

 その沖野の反応に神山は数秒ほど彼を見上げた後、小さくため息をつきながら視線を切り口を開く。

 

「アールの奴はまだ走らせるべきじゃない。合宿の際、私はお前にそう伝えた筈であります」

「アイツの本格化はとっくに終わっている。今のうちから」

「アイツの資質についてはよく理解しているでありますよ」

 

 遮るように話す神山の言葉に、沖野の言葉が止まる。口をモゴモゴと動かす彼に、今度は視線を向けずに神山は言葉を続けた。

 

「無尽蔵のスタミナ、圧倒的なパワー。アイツの素質は小生も認めるものであります。走り方がど下手くそなのと足の回転が遅いという致命傷に近い欠点があれど、アイツのスタミナはそれを補って余りある代物でありましょう。最初から最後までスパートをかけても走り切る。アレはそれが出来る化け物であります」

「よくご存知で。たった一度の合宿でそこまで分かるのはさすが」

「1万メートル以上のレースがあればアイツは史上最強でありましょうな。保証するでありますよ」

「……フルマラソンでも走れってか?」

「アールの進路としてはそれもありでしょうな」

「おい。アイツは中央トレセン学園の学生だぞ」

「ゴールドシップのオマケのような扱いで入学した、でありますな。アイツがレースを走ることになってるのはゴールド先輩の無理押しと生徒会長の悪い癖でありましょう」

「そこら編は俺も否定しないが、アイツには走る才能がある。本人もそれを嫌がっては」

「それだよ、沖野」

 

 言葉を切り、神山の手が沖野のネクタイをつかみ、引く。ぐいっと引っ張られたネクタイによって、無理やり向き直させられた沖野と神山の視線がぶつかり合った。

 

「中央トレセン学園の学生なんてなぁな。地元じゃトップ、敵なしなんて煽てられて集められたガキどもの集まりなんだ。ウマ娘の本能に忠実で、同世代全部のウマ娘の羨望を背負って中央のターフを誰よりも早く駆ける事に人生のほぼすべてを注ぎ込んできた。それしか無い奴らばっかりなんだ」

 

 何を、と文句を言おうとした沖野の口を、神山の言葉が閉じさせる。

 

 走ることを嫌がっていない(・・・・・・・・・・・)なんて当たり前だ。どんなウマ娘にも他者と競い合い、誰よりも早くゴールを駆け抜けたいという本能が刻まれているのだから。レースが走れるなら大喜びするに決まっている。

 

 本来なら。

 

「そんな奴らの中でアイツがどれだけ異質なのか、お前も分かってるんでありましょう? アイツの精神性はウマ娘のソレじゃない。今のアイツは、本人の資質だけが独り歩きしている状態だ」

 

 神山の言葉に、沖野は口をつぐんだまま彼女の視線に答える。そんなことは、彼も分かっているのだ。たった一度合宿所で面倒を見た神山と違い、沖野は毎日のように彼女と接しているのだから。

 

 ネクタイをつかむ神山の手を沖野の手が掴むと、神山はあっさりとネクタイを手放した。

 

「アイツを中央で走らせるのは、本当に正しいことなのか? 力があるから、出来るからと言って走らせて、それで良いのか?」

 

 手放した後、再度前を向いて歩き出した神山が、ぽつりと呟くようにそう問いかける。

 

「……俺は、」

 

 沖野に向けたようでそうではない問いかけに答えようとして、沖野は小さく頭を振ってそれを止めた。その拍子にふと視界の隅に入った見知った顔に注意を惹かれ、そちらへ視線を向ける。

 

 そこでは即席だろう白いマットで構成されたリングに水着のような衣装を身にまとって立つアルが、同じような衣装を身に着けたマスクを被ったウマ娘と対峙する姿があった。

 

 リング脇には審判のような服装をしたゴールドシップが立ち、ラウンドガールだろうスクール水着を着たメジロマックイーンがやけくそ気味に笑顔とラウンド1と書かれたボードを振り回し、それらを見物するように集まった学生たちが思い思いの格好と食べ物や飲み物を持ち寄ってリングを囲っている。

 

「わからん。なんもわからん」

「はぁ?」

 

 思わず口から漏れ出た言葉に前をゆく神山の足が止まる。

 

 あいつをレースの道に行かせるのはやっぱり間違いかもしれん。

 

 

 

 トン。トン。トン。

 

 リズムよくリングの上でステップを踏みながら、新入生は不敵な笑みを浮かべながら眼前に立つ上級生を睨む。コッテコテの正統派だろうか、打撃にも精通していそうだ。立ち振舞いから香る技術と修練の匂いに、弾む胸の期待を抑えながら隙を伺う。

 

 トン。トン。トン。

 

 リズムを刻む度に少しずつ。少しずつ距離を縮めていく。対峙する上級生の笑顔が深く、獰猛になっていく。

 

 校門近くで『会員求む! プロレス同好会』と書かれたプラカードを持っていた時はずぅっと何を考えているか分からない表情だったが、リングの上に立った瞬間からの彼女は、まるで別人のように全身で感情を表している。

 

 ――きっと、面白い人だ。彼女との試合は、学園生活はきっと楽しくなるに違いない。

 

 その願いを込めて、更に一歩。一歩分だけ前へと進み――その一歩へ合わせた上級生の弓のように飛んできた右拳を、サイドステップでかわす。余裕を持っての回避のはずが、髪を拳がかすめた。早い!

 

 がら空きになった右脇腹にキックを放つも、戻りの早い右腕にそれを防がれる。鉛の塊を蹴り飛ばしたような感覚。慌てて距離を取ると間髪入れずに横薙ぎのラリアットが襲ってくる。新入生は風切り音に肝を冷やしながら、喉を鳴らす。

 

 強い

 

 ただ一言、新入生の胸の中に浮かんだ言葉はそれだ。受けなくても分かる。今の拳もラリアットも、下手な受け方をすればそれで試合が決まるほどの威力を秘めていた。力だけではない。距離の詰め方、攻撃後の残心と垣間見える高い技術力。強く、固く、上手い。およそ正統派と呼ばれるプロレスラーが求める全てを彼女は持っていた。

  強いウマ娘は居るだろう。早いウマ娘も居るだろう。だがプロレス後進国、特にウマ娘の、と冠言葉がつく日本。そんな場所に、自分以上の技術力を持った人物が居るなんて。

 

 新入生は眼の前で深い笑みを浮かべたまま、ファイティングポーズを取る少女を見やる。確かアール・バ……なんといったか。まだメイクデビュー前の2つ上の先輩であったはずだ。これほどの人物の正式な名前も知らない自分が恥ずかくなり、新入生は唇を噛んだ。

 

 ――入学前に持っていた驕りを捨てろ! 自分は、明確な格下だ!

 

 トン。トン。トトン。

 

 リズムを刻む。少しのフェイント。ギアを切り替える。目の前に居るアールをこの程度の小細工で惑わせるとは思えないが、リズムを掴まれれば瞬く間に勝負が終わる。新入生は必死に頭を巡らせて、変則的なリズムを刻む。

 

 普段と違う負荷のかけ方に、疲労が加速度的に溜まっていく。体力勝負では不利。勝負をかけるなら、一瞬しかない。

 

 トン。トン。。。

 

 一歩目、二歩目と刻み、そして止まる。3歩目を刻むタイミングで足に力を溜める。待ち構えるスタイルのアールの意表を突くならば、全力で賭けなければいけない。訝しげなアール先輩の視線に微笑みを返して、ロープに向かって"飛ぶ”

 

 ――対地上では分が悪い。おそらく勝機は万に一つなら御の字というもの。

 

 ゲートを最高のスタートでくぐったような感覚。一息で目の前に迫ったロープに左足を乗せ、反動を利用して"蹴り上がる”

 

 ――であればどうするか。勝機を諦めて観客受けのいい勝負を狙う、それもレスラーとしての、一つの選択肢だろう

 

 ロープの最上段を右足が"噛む”。ロープが千切れない限界を見越して足に力を入れ――

 

 ――エルコンドルパサー()は真っ平御免だが!

 

 飛び上がる。ロープの反動と脚力の限界点を見極め、両腕()を広げて空へと舞い上がる。青く広がる空。このままどこまでも行けてしまいそうな感覚に、エルコンドルパサーの顔に自然と微笑みが漏れ出る。

 

 くるりと天空高く回転し、眼下のリングを見る。

 

「おぉ……」

 

 ざわめく観客の声の中、ぽつりとつぶやかれたアール先輩の感嘆の息がやけにクリアに耳に入る。その声が、目に映る彼女の表情が誇らしくて、嬉しい。

 

「エルの全力、イきますよ、先輩」

 

 口だけでそう呟いて、落下に合わせて両腕をクロスさせる。自重と落下速度、勢い。全てを乗せた通常の3倍近い威力の突撃。クロスチョップとでも呼ぶべきこの技は相手が受けてくれる事を前提に放たれている。

 

 避けられればその威力の全ては自分に跳ね返ってくる諸刃の剣。相手との信頼がなければ打てない大技。

 

 あるいは命にすら関わるその技に、対するアールは笑顔を浮かべて右拳で答えた。

 

 落下してくる新入生の勢いを横合いから殺すように、絶妙な力加減でアールが拳を振るう。空中で拳に射抜かれたエルコンドルパサーが肺の空気全てを吐き出し、がくりと項垂れる。

 

「エルコンドルパサー、か。なるほど、最後の一撃は荒鷲の羽撃きを感じさせるものだった。コンドルクロスチョップとでも呼ぶべきかな?」

「ワーン!」

 

 リングの上に優しく寝かされ、アールがエルコンドルパサーの上に覆いかぶさった。ゴールドシップがカウントとともにリングを叩く。

 

「一線級のルチャドーラとの対戦は久しぶりだが中々幻惑されたよ。君がもう少し実戦経験を積んでいれば、今日の結果は逆になっていてもおかしくなかった」

「ツー!」

 

 ヒュー、ヒュー、と必死に呼吸を行う。ひっくり返す力も出て来ない。

 

「是非うちのプロレス同好会に来てほしい。部室は〇〇のチームルームだ。君の来訪を、心待ちにしている」

「スリー! フォー! ファーイブブブちょ、アルやめ」

 

 カウントスリーのフォール負け。ぐうの音も出ない完敗。

 

 覆いかぶさっていた先輩が離れる。呼吸を整えるために大きく息を吸って、吐き出す。

 

 新鮮な空気が、心地よい。

 

「……空」

 

 寝転がったまま空を見上げる。青い空。どこまでも、それこそ故郷まで続いている空。幼かったエルコンドルパサーを抱き抱えながら、彼女の父はいつも語っていた。

 

 ――この広い空をいけ。誰よりも自由にいくんだ。その先にはお前や私が見たことも聞いたこともないような喜びや驚きが満ち溢れているだろう

 

 ――お前はエルコンドルパサー(コンドルは飛んでいく)。どこまでも、望めば望むだけ飛んでいけるさ

 

『お父さん……』

 

 母国で待つ父親を思い浮かべる。もし今の姿を彼が見たら……きっとよく戦ったと褒めてくれるだろう。

 

『この空の下には、凄いものが沢山あるみたいだよ。私もう、一つ見つけちゃった』

 

 視界の隅でセラヘーラ(卍固め)を芦毛のウマ娘にかけているアールを眺めながら、エルコンドルパサーはそう呟いた。

 

 

 

「お前らはなにをやってるんだ?」

「おっすトレーナー! 何ってレフェリーだよ見りゃ分かんだろ」

「おっす沖野トレーナー。何って新入生歓迎試合だよ見りゃ分かんだろ」

「分かんねーよ」

 

 どこの世界に新入生歓迎と称して新入生とプロレスのマッチバトルを繰り広げる先達が居るというのか。そう尋ねればこいつらは自分と隣に立つ奴を指さして「ココに」とでも言うだろう。1年ほどトレーナーとして接してその辺りを学習した沖野は頭をガリガリとかきながらため息を一つつく。

 

「シンボリルドルフ会長には新入生歓迎のレクリエーションをやるとは伝えてあるし万一の事故に備えて救護要員も確保してある」

「救護要員ってあの怪しい笹針師が?」

「あの怪しい笹針師が」

 

 沖野とアル、ゴールドシップの視線がエルコンドルパサーに付き纏うボディコンを着た怪しい女に向けられる。打撲用の氷を手に持ち、打ち据えられた胸部に処置を施す姿は応急処置に手慣れた印象を周囲に与えており、見た目の怪しさを補……補えていないかもしれないが、即通報される事態は起きていなやたらとデカい注射を取り出した所で駿川たづなが走ってきた。やっぱり通報されてたかもしれない。

 

「……よくルドルフが許可を出したな」

「シンボリルドルフ会長は最近お忙しいからな。なんでも我がトレセン学園にスカウト攻勢をかけてくるばんえい某学園の代表者とのやり取りが終わらないそうだ」

「おい、それ本当に許可は貰ったんだな? たんに口頭で伝えて終わりとかじゃないよな?」

 

 半ば願いが込められた沖野の言葉に、アルは無言のままぐっと親指を立てて答えた。信用できねぇと沖野は確信し、誤魔化しきれなかったとアルは確信した。そんな二人のやり取りに飽きたのかゴールドシップは4月の肌寒い中水着で震えるメジロマックイーンに風よけに使ってもらおうと同好会勧誘用のプラカードを渡そうとし、メジロマックイーンにどつかれた。

 

「漫才はもういいでありますか?」

「漫才じゃねぇよ!」

「神山教官、お久しぶりですね。私は至極真面目に対応していますが」

「お前それマジで言ってるでありますか?」

「……あ、ちょうちょ」

 

 冗談が一切含まれていない神山の言葉にアルは目の前を飛ぶちょうちょの美しさに心奪われた風を装って答える。もちろん誤魔化せない。

 

 そんなアルの姿に何を思ったのか。何度も言いたいことがせり上がってきて、けれど言葉にできないという表情を浮かべた後。

 

「はぁ…………なんで私はこんな奴のために…………」

 

 神山は深く、深ぁいため息を付きながら頭を抱える。なにか色々と馬鹿らしくなったのかもしれない。真面目に考えるやつがバカを見やすいのはどの時代も同じなのかもしれない。時代といえばそろそろ年齢が。婚期を理由にたづなさんや東条トレーナーを笑えなくなっちまうな!」

「ゴールドシップお前後で屋上来い絶対許さないぞ絶対にだ」

「ってうちのトレピッピが言ってた」

「言ってねぇ!」

「沖野ぉぉお?」

「だから言ってねぇって!」

 

 ワイワイガヤガヤと騒ぎが始まる。その騒ぎの輪から少し離れた所で、アルはやれやれとため息を付いた。彼女はこの騒動に自分は関係がないと本気で信じている。アルの脳内では全ての問題はゴールドシップから始まりゴールドシップで終わるからだ。

 

「おい、そこでさも『こいつらガキだなぁやれやれ』みたいな顔してる問題児1号」

 

 やれやれ、筋トレでもすっか、とその場から離れようとしたアルの背中に、神山が声をかける。

 

「…………?」

「『問題児、誰?』みたいな顔してるお前でありますよ、アル。諦めてこっち向けおい」

「神山教官と私との認識には随分と齟齬がぶっ」

 

 神山の言葉に心外だ、と振り返ったアルの顔に白い封筒が叩きつけられる。沖野にコブラツイストをかけながら、空いた右手で神山が投げつけたものだ。

 

 ギブ、ギブ!と叫ぶ沖野の言葉を無視しながら、神山はビシッとアルを指さした。

 

「お前が中央を走るのになんか言うつもりはもう無くなったであります。とはいえこのままお前のズブい走りを目の肥えた中央レースファンに見られて、トレセン学園が無礼(ナメ)られるのも業腹であります」

「ズブいとは、また古風な表現ですね」

「やかましい。ダバダバと足をバタつかせながら走りやがって。お前のアレは走ってるんじゃなくてスキップと言うんでありますよ。アレでそこそこタイム出してるから信じられんでありますが」

「……私。これでも真面目に走ってるし成績もそこそこ良いんですが」

「お前ほどのポテンシャルでそこそこ止まりなのがおかしいんでありますよ。足の回転数が少ないのに蹴り足が強すぎるんだよお前は。沖野が必死に矯正してソレなら、普通の走り方じゃお前はそこそこ以上にはいけないでありましょうな」

 

 そこまで口にした後、だから。と前置きをして、心底から、本当に嫌そうな表情を浮かべて神山は続きを口にした。沖野の口から泡が出ているが、そろそろ止めないと不味いだろうかとアルは思案した。

 

「その封筒に書かれた住所に一週間以内に行くであります。そこにいる人なら、たぶん、おそらく、お前にターフの走り方を叩き込んでくれるでありますよ」

「多分と恐らくが続いたんですが」

「100%の答えなんて世の中そうはないでありますよ。本当なら、絶対に、こんな事でお手を煩わせたくない人でありますが……その人も、体躯に比してパワーがありすぎて、まともな走り方が出来なかった人であります。お前の力になってくれるでありましょう」

 

 ぐったりとした沖野を担ぎ直し、タワーブリッジに移行しながら神山は懐かしむように空を眺める。まだ追撃をかけるのか、と戦慄するアルを尻目に、タワーブリッジを維持しながら神山は校舎へと歩いていく。恐らくゴールドシップを探すのだろう。

 

 ゴールドシップの悲鳴はいつ頃聞こえるか。いやでもアイツ逃げる時は全力出すし逃げ切りそうだな、などと益体もないことを考えながら、アルは地面に落ちた封筒を拾い上げる。

 

 ここに居る人物というが、はて。書かれた住所――アラブ首長国連邦大使館に首を傾げる。

 

 まぁ神山があれだけ言ったのだ。変な輩が出てくることはあるまい。彼女には合宿所でも世話になったし、一度尋ねるくらいなら。

 

 そう考えて、アルは次の週末にアラブ首長国連邦大使館を尋ねることを決めて、一先ず封筒を置いてくるか、と自寮に足を向けた。部屋に戻った瞬間生徒会副会長のエアグルーヴに怒鳴り込まれ、リングの撤収を一人で行う羽目になったがこれは重要ではないので割愛しておく。ゴールドシップはどうやら捕まったらしく学園中に響き渡る悲鳴をあげていた。

 

 

 

 それから数日を挟み、週末は土曜の午前。

 

 大使館の警備員に封筒を見せるとやたらと丁寧な対応で待合室に通され、待つこと数十分。

 

 係員らしき高級そうなスーツに身を包んだ男性に案内された先には、ドアの前に黒服を着たボディガードらしき屈強なウマ娘と執事服を着たウマ娘が列を並べて頭をさげる空間が広がっていた。

 

 あ、これやばい。彼らの前を通る際に思わず目眩に襲われ、目の前がまっくらになるような感覚に襲われながら扉を開く。

 

 そして、アルは出会った。

 

「んちゃ!」

 

 自身を圧倒的に上回る、理不尽なまでの存在に。




ゴルシちゃん「やめて! 地球が割れるパンチ力で殴られたら月までぶっ飛ばされちゃう! お願い、死なないでアル! お前が今ここで倒れたらこの後の展開はどうなっちゃうんだ! 時間はまだ残ってる! ここで起死回生のアイディアが浮かべば生き残れるんだから! 次回『サンデー篠原 死す』デュエルスタンバイ!」
アルちゃん「コロチュ」
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