半純血教師録スネイプ   作:三柱 努

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それは闇の帝王ヴォルデモート最初の破滅から8年。
ハリーポッターの入学を2年後に控えた、ある日のことだった。



ホグワーツ魔法魔術学校最上階。校長室にねちっこい声が響いていた。


「油断ならぬ種族だの、ホグワーツ以外で世界一安全な場所だの。
全て似非っ。どいつもこいつもセキュリティの本質をわかっとらん。
贋作。紛い物。
ワシは本物が欲しい。絶対に破られることのない絶対安全。それこそが真の金庫。

そうは思わぬか? のぅ? セブルスよ」


長々とした白髪と白髭。その口から長々と語られる言葉にスネイプは即答した。

「は・・思います」

反論は無意味。非効率。非生産的。全てを肯定することこそ寛容。
スネイプが賛成することを当然のように流し、ダンブルドアは次の言葉に繋げた。

「ならば立案しなさい。ヴォルデモートすら完封させるような絶対防壁。ワシらが守るべきものを守ることができる、生命がけの試練を」

「かしこまりました」


独裁はそれ即ち悪法ではない。圧倒的一極政による統治には安定が宿ることも多い。
ホグワーツにおける全ての最終決定権は校長にある。
そこに生徒や教授たちの予定が優先される隙など一切ないのだ。


『くそっ。またも水泡・・・霧散・・・週末のホグズミードがパァ』




賢者の石 第0.1話

ホグワーツ魔法魔術学校、魔法薬保管庫。

魔法薬の材料が置かれた棚がひしめく空間は、校内の喧騒から隔離されたスネイプにとってホグワーツで唯一のプライべートスペース。

瞑想にもピッタリなこの場所で、スネイプは校長から出された無理難題に向き合っていた。

 

「さて、どうしたものか」

 

 

このようにスネイプは悩む度、その答えを見つけるべく、本人の脳内、その無意識下では毎回開催されている。

自分たちによる緊急会議。

 

参列しているのはいずれも、幼少期から学生時代、青年期、現代に至るまで、波乱に満ちた人生におけるストレスから自らを守るために形成された歴代スネイプたち。

 

 

「校長より命令があった。教授たちからアイディアを募り、金庫部屋を作る。各部屋に1つずつ試練を置き、グリンゴッツ以上のセキュリティ。その1部屋を任されたわけだが」

司会スネイプの言葉にスネイプたちにざわめきが走る。

 

「具体的に試練とは? 校長は吾輩たちに何を求めているのだ?」

「うむ。試練がただの突破不可能の難関という話であれば、溶岩でも敷き詰めた部屋を用意すればよかろう。だが今回は金庫としての機能を求めている。

それはとどのつまり、回収性」

 

「回収性?」

司会スネイプの口から聞き慣れぬ単語にざわめきを増すスネイプたち。

 

「何人たりとも寄せつけぬ守りは必須。だが金庫であるならば、当然必要。所有者であるダンブルドア校長の求めに応じて容易に通過、物を出し入れできる突破口」

そう。この金庫試練における最も重要な要素。それは裏の攻略法。

一見して突破不可能、敗北濃厚の中に一筋の光明を用意しておくこと。早い話がダンブルドア専用のイカサマルートの用意。

 

 

「難解なのは重々承知。だからこそ出し合わなければならない。吾輩たちの知恵を。半純血のプリンスの英知を」

轟く司会スネイプの力説。

 

だが、スネイプたちの腰は軽くはならなかった。

それも当然。あまりにも高いハードル。あまりにも足場が薄氷。

第一声が。先駆者が現れる地盤が無いのだ。

 

 

「・・・・皆も知っての通り」

その沈黙から指揮の低さを察した司会スネイプは切り出した。

 

「これは校長から受けた直々の命。成果は直接、校長からの評価に結びつく。つまり・・・これはチャンス」

そう言うと司会スネイプは両手をパンッと叩き合わせた。

「吾輩たちが闇の魔術に対する防衛術の担任になるための、未曽有のチャンスなのだ」

 

この檄に一瞬はたじろいだものの、徐々に体を前のめりにしていくスネイプたち。

闇の魔術に対する防衛術。長年、スネイプが所望し続けながらも、ダンブルドアから却下されていた役職。

 

 

山が動き出した

最初に道開いた者。勇者は、現職の魔法薬担任スネイプであった。

 

「魔法薬を使った試練、なんてどうだろうか? 例えば炎の壁を突破できる魔法薬を、用意された材料で調合する・・・という。校長には事前に調合方法を教えておけば・・・」

「魔法薬か・・・」

 

担任スネイプの言葉に司会スネイプはフゥと息を吐いた。

「なるほど、吾輩らしさが押し出されている。出たな、いきなり妙案」

司会スネイプの賞賛に歓喜する担任スネイプ。

 

 

基本スネイプは他人にも自分にも厳しい男。

だが潜在意識の自分たちには・・・甘い!

何故なら彼らは歴代ストレスから生み出された存在。

よって非常にセンシティブ。繊細であるがゆえに、基本的に自分の事は自分で褒める!

 

 

続く各スネイプたちの提案に、司会スネイプの賛辞が飛んだ。

「あの・・・上から斧が吊られた場所でクイズなんてのは」「悪魔的発想!」

「4分の1の紐無しバンジージャンプ」「秀逸!」

「ゴミ屋敷の中で宝探しを」「卓抜!奇抜!」

「トランプ100枚でポーカー」「素晴らしいっ」

褒められると伸びるタイプ。セブルス・スネイプから溢れ出るアイディアの数々。

 

その中で最も輝いていたのは、最初に出た魔法薬のアイディ・・・

 

 

「ん~~~? 調合できますかね、土壇場で魔法薬」

差された水。ようやく決まりかけていた議論に反論を投げかけたスネイプがいた。

 

司会スネイプが「あ・・・?」と不満を露わにする。

スネイプたちの間の空気が凍り付く中、そのスネイプは話を続けた。

 

 

「いや、その。20世紀最高の魔法使いとはいえ、おじいちゃん。調合の仕方を教えたところで、今回の魔法薬ってコツがいるから。かなり難しいっていうか。無理っていうか。インポッシブルっていうか」

 

そのスネイプの指摘にたちこめる暗雲。

 

「そもそもグリンゴッツ以上の金庫? ホグワーツから何かを盗もうとするのって、もう元・我が君くらいしかいないでしょ? 元・我が君って、ホグワーツ始まって以来の秀才だったっていうし。普通に突破されちゃう可能性もあるっていうか・・・ミッションポッシブル?」

 

 

このスネイプの指摘は的を射ていた。的確。

司会スネイプを始め、各スネイプは反論できずにいた。

しかしそれは安易に屈したわけではない。

 

一見すれば代案も無しに頭ごなしのケチをつける無礼。

だが迂闊に叱れない理由がある。

 

それはこのスネイプが・・・・かつて最愛の女性、リリーと過ごした日々。母親に抑圧された日々から生まれた人格。

 

幼少期スネイプであったからだ。

 

歴代スネイプの中で最もスネイプの加護を受けるべきスネイプ。

彼によって、この脳内会議・・・荒れたまま終わってしまうことに・・・

 

 

「代わりに、これならどうかな?」

「え?」

青天の霹靂。幼少期スネイプがおもむろに出した案に、スネイプの間の空気が一瞬変わった。

 

「元・我が君の根幹。それは徹底した反マグル的思想。だからこそ突破口はマグルにある」

そう言うと幼少期スネイプは精神空間にホワイトボードを出現させ、板書を始めた。

 

 

『2つの扉。必ず嘘をつくか真実を語るかわからない門番に一回だけ質問をして、正解の扉を開けるにはなんと聞けばいいか?』

 

「こ・・・これは、まさか、いや、間違いない。論理パズル!」

気付き愕然。司会スネイプの目から落ちるウロコ。

 

「そう。リリーと楽しく解いた懐かしの論理パズル。これを応用して提示すればいい。設問と『この中から、炎の壁を突破できる薬はどれ?』と」

まさに、マグルであったリリーと共に過ごした幼少期スネイプならではの、マグル的発想!

 

盲点。

魔法使いは論理的思考に弱い。

普通の魔法使いに同じことを問えば、『真実薬を飲ませる』『両方の扉にアロホモーラする』と答えるだろう。

魔法で何でも解決しようとする悪い癖が身についてしまっている。

魔法使いには培われにくいが、マグルには育まれやすい論理性。

 

ことマグルを排することにおいて右に出る者のいない魔法使い・ヴォルデモートにおいては、天敵とも言える試練になるであろう。

 

 

「つくづく面白いものだ。リリー・エバンズとの蜜月。よもやここでも吾輩を支えてくれる。幼少期の吾輩よ、採用だ。面白い、圧倒的に」

司会スネイプの言葉はスネイプの総意であった。

 

満場一致のスタンディングオベーション!

 

 

決定。

スネイプの試練

『論理パズル』に!

 

 

 




だがこの時、スネイプには知る由も無かった。
2年後、この試練に挑む侵入者。ヴォルデモートの手先。
悪魔に魂を売る予定の男。
ホグワーツの裏切り者
クィリナス・クィレル教授。


ホグワーツで一番、マグルに詳しい。
現・マグル学担任っ!
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