今年も波乱の1年がようやく幕を閉じる。
魔法省の刺客、ドローレス・アンブリッジにかき回され。
あげく闇の帝王・ヴォルデモートの完全復活が確定し、魔法界全てが混乱と絶望に叩き落とされた。
それでも日々は過ぎていく。学校も通常の運行をしなければならない。
生徒たちを無事に列車で送り返し、残る教職員たちも各々に残した仕事を片付け、家に帰ろうという頃であった。
「あらセブルス、今日も残業かしら。大変ね」
夜も遅く。もう生徒たちの規則違反の出歩きを見張る必要も無い。
それでも働くスネイプの勤労を、職員室に現れたトレローニーは深く感心した。
シビル・パトリシア・トレローニー。著名な予言者であるカッサンドラ・トレローニーの曾々孫であり、本物の預言者。
ヴォルデモートがリリーを含めたハリー・ポッター殺害を決めたのは彼女の予言によるものが大きく、スネイプにとっては恨めしい相手であった。
「ふっ、それを言うならトレローニー先生こそ今年は厄年だったな。しかし珍しいのではないか? 貴女が部屋から離れるとは」
「今年は色々あったから。最後にみんなにお礼を言って回ろうと思ってね」
この年、トレローニーはアンブリッジにホグワーツを追い出されそうになっていた。
スネイプもまた。アンブリッジ関連で多難の年。それ以外にも色々とありすぎたが、公には2人ともがアンブリッジ難を労り合う状況であった。
「紅茶でも淹れようか」
「ありがとうセブルス」
仕事に一区切りがついたスネイプが淹れた紅茶を囲み、一息つく2人。
「あら、その模様・・・」
スネイプの飲み干したカップに残った滓を見て、トレローニーは何かに気付いた。
『紅茶占い』
彼女がよく授業でも取り入れる占いの方法である。残った茶葉の形で占うのだ。
正直に言えばスネイプは占いが嫌いであった。
無論、例の本物の占いがリリーを死に至らしめたこともあるが、そもそもが占いを信じていない。
占いなんてものは所詮は心理術。マグルですら真似が可能な言葉遊び。
相手の言って欲しい言葉を探り当てるだけでもいい。
良い結果が出れば心に残り、悪い結果が外れれば安心する。
結局のところ結果は二の次。
いい事を言っておけば丸く収まる。
『が・・・それを指摘したところで角が立つだけ。この女、たしかに吾輩にとってはリリーの仇とも解釈できなくもないが、ハリーの未来のために必要になるかもしれん。ここはとりあえず・・・』
スネイプは今回のトレローニーの占いに対して・・・大人の対応を決める。
どんなことを言われようが、とりあえずは聞き流す。トレローニーが気持ち良く帰ってもらえればそれでいい。
「長年の願いが叶う。そう、セブルス。あなたには近々、今までずっと叶わなかった願いが叶う。そう出たわ」
「ほぉ、それはありがたい」
スネイプは半分聞き流していた。
長年の願い。抽象的な表現だ。人は誰しもが生まれながら何かを願い生きている。
美味しいものを食べたい。健康でいたい。そういったものでいい。
それは当たるだろう。解釈次第の内容なのだから。
「次に・・・あなたの知り合いの子供さん。その子のために、あなたは命を賭けることになるわ。その行動、最初は大変になるかもしれないけど、結果的に良い方向に向かう。そう出ているわ」
「ほぉほぉ」
スネイプはまたも聞き流した。またしても内容に具体性が無い。
知人の子供。ホグワーツの生徒の親も大概がホグワーツ出身。スネイプの知人の息子何て言えば、学校の生徒のほとんどがそれに該当する。
命がけ。これも言ってしまえば匙加減。魔法薬の教職に属する以上、普段の授業でも誰か生徒が調合を間違えれば命の危機に瀕する爆発が起こる。それを未然に防ぐために神経をとがらせているスネイプにとってはそれが普段なのだ。
「あとその子、魔法薬学で良い成績を出せるようになるわ。すっごくいい成績よ」
「なるほど」
スネイプにとってそんなことは当たり前である。
今の所、そのすごくいい成績に該当しそうなのはハーマイオニー・グレンジャーだけであるが、意外と新一年生に優秀な生徒が現れるかもしれない。
それだけのこと。それだけのことなのだ。
「それと・・・あなた、皆が使えない術を持っているわね。その術をその子が使えるようになるわ」
「・・・そうか」
スネイプには心当たりがあった。
彼には学生の頃に開発したいくつかのオリジナル魔法がある。一部は他の生徒にも教えたため専売特許ではないが、それ以外の術は皆が使えない術に該当するだろう。
今まで口外してきたこともないため、それをトレローニーが言い当てたことにスネイプは驚いた。
となると、オリジナル魔法が漏洩するか・・・もしくは自力で誰か生徒が使えるようになるということか?
スネイプはここで初めて占いに興味を示した。
「あと。うふふ。次のホグワーツの校長、あなたが選ばれるみたいよ」
「ほぉ・・・ククク。校長はまだご存命ですぞ」
スネイプはこの時点で察した。
これまでのトレローニーの占いは全てがリップサービス。口から出まかせ。
全てはスネイプに気持ち良く付き合ってもらうための気遣い。
「じゃあそろそろ行くわ。セブルスもお仕事がんばって。来年もいい年になると良いわね」
「うむ」
こうして去っていったトレローニー。
が、彼女は最後まで言わなかった。
スネイプの紅茶占いの結果、死神犬・グリムが出ていたことを。
死の前兆グリム。
それはもう、ものすごいグリムであったことを。