半純血教師録スネイプ   作:三柱 努

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時は9月。オータムの風吹く季節。
ホグワーツ魔法魔術学校に吹く新たな風たち。
ピカピカの1年生。11歳の魔法少年、魔法少女たち。

毎年恒例の儀礼、入学式。
組み分け帽子によって決まる配属先の寮。
グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフそしてスリザリン。
期待に胸膨らませ、緊張に強張る顔との面通し。晩餐会。

豪華絢爛な食事を前に、スネイプは憂鬱していた。
『くっ、またこの季節がやってきたか』
スネイプの辟易の理由。それは翌日から始まる業務にあった。



賢者の石 第0.2話

 

 

魔法薬学。今年も魔法薬学。

セブルス・スネイプ。ホグワーツ魔法魔術学校魔法薬学担任。

今年も叶わず。闇の魔術に対する防衛術担任。もはや諦めの境地。

 

今それよりも苦痛なのは、たとえ防衛術担任になったとて不可避の関門。

 

『覚えなければならない。生徒たちの顔と名前!』

 

ホグワーツの教師には与えられている。生徒を処罰、評価する権限。

だがそれは生徒がどこの寮に所属する何年生の誰なのかを言い当てる必要がある。

ましてスネイプは寮監。他の教師よりも強い権限が与えられる管理統率ポジション。

確実に覚えなければならない。

この毎年更新される面倒な一覧を。

 

セブルス・スネイプ。現在29歳。決して記憶力の衰えを感じるわけではないが・・・

『どいつもこいつも似たり寄ったり。

画一的というか・・・無個性というか・・・

10歳そこらの男子女子が揃いも揃って・・・同じ黒いローブに同じとんがり帽子

 

つくかっ 区別!』

 

スネイプは荒れていた。

生徒たちの服装は学校の決まり。他ならぬ歴史の産物。抗うことができないマトリックス。

 

 

が、ともあれ・・・対面は避けられない。

生徒たちとのファーストコンタクト。

はじめての魔法薬学。

 

 

教室にズラリと揃うピカピカのいっちねんせい。

スネイプ教授の入室に不安、緊張、興奮の入り混じった顔ぶれが揃う。

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。

そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。

フツフツと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力・・・

諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。

我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である

ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 

毎年恒例の決めセリフ。スネイプ自身もお気に入りのポエミー。

生徒たちにますます程よい緊張が走る。出だしはまずまず。

 

「とはいえ今日、吾輩は諸君らに最初にやってもらうのは・・・自己紹介。名前と所属、趣味や特技。自己紹介・・・順ぐりに」

緊張からの緩和。魔法的な覚悟を学校的な定番でほぐす。

この緩急により、生徒たちに余裕が生まれる。自己紹介に自由が生まれる。より覚えやすくなる。

 

「まずは・・・君から」

スネイプに指名された女子生徒はスッと席を立った。活発な印象をうける黒人の娘であった。

 

「アンジェリーナ・ジョンソンと言います。グリフィンドールです。趣味はクィディッチです」

ハキハキとした自己紹介。悪くはなかった。

強いて言えばもっと特徴的な名前、趣味であってくれたほうが。

及第点といったところか。

『アンジェリーナ・ジョンソン。ジョンソン。グリ、クィディ・・・うむ』

心の中で何度か呟き、頭に叩き込むスネイプ。

 

 

「では次」

次の男子生徒はなかなかにハンサムで優しそうな顔をしていた。

 

「セドリック・ディゴリーです。ハッフルパフです。趣味は・・・クィディッチです」

『ほぉディゴリー家か』

 

スネイプは内心喜んだ。

ディゴリー家と言えば魔法族の名門。闇の魔法使いと戦う闇祓いの組織を創設した魔法大臣エルドリッチ・ディゴリーの一族であれば覚えやすい。

無論、スネイプ自身はその敵の側の一員だったことはあるが・・・

 

 

「では次・・・」

次の生徒は赤毛の生徒であった。何の変哲もない普通の生徒・・・

だがその瞬間『ぞっ』っと、不意に正体不明の悪寒がスネイプを襲った。

何が原因か分からないが・・・首元にねっとりとまとわりつく

嫌な予感・・・

 

 

「フレッド・ウィーズリーです」

「ジョージ・ウィーズリーです」

「「グリフィンドールです」」

「「趣味はクィディッチです」」

 

 

『なるほど・・・フレッ・・・』

その瞬間、スネイプは嫌な予感の正体に直面した。

「あ? 待て・・・今なんか・・・二人。二人分くらい名前を言わなかったか?」

 

[なんか]どころではない。言っていた。たしかに二人。

フレッドとジョージ。隣同士に座る赤毛の男子生徒。

同じ顔っ・・・判別不可の

双子。一卵性双生児!

 

 

『ぐっ何ィ 邪魔! このただでさえたくさんの名前を覚えようって時に。なんと面倒くさい・・・

はっ!?』

心の中で怒りを滲ませるスネイプ。

だがまだ終わらない。そのことにスネイプは気付いてしまった。

 

『ウィーズリー!? またしても、ウィーズリーだと』

ウィーズリー家。聖28一族にも数えられる、最も古くから続く魔法族の家系。

赤毛が特徴で・・・もっとも厄介なのが、その数の多さ。子沢山。

2年に1度は現れるウィーズリー。うんざりする。記憶力を働かせなければならない盤面において最も厄介な感情“うんざり”を抱かせるバッドファミリーネーム。

『せめてもの救いは・・・ウィーズリー家は漏れなくグリフィンドール所属。そこを覚えなくてもいいというところか・・・』

 

 

だがスネイプはまた気付いてしまった。

崩壊への一歩を・・・

 

 

『クィディッチ!? 

 

 

 

どいつもこいつも、口を揃えてクィディッチクィディッチって

差別化できん!

クアッフルではない! スニッチなどもってのほか!

 

こやつら全員、ブラッジャー! ブラッジャーなんだ!』

 

 

スネイプの心は折れかけていた。

無理っ。インポッシブル。

誰か・・・助けてくれ。

 

 

『早く・・・早く来てくれ、リリーの息子よ! ハリー!

 

スリザリンに入ってくれ!

 

そして吾輩が闇の魔術に対する防衛術を手取り足取り教えてあげたい

 

来てくれ、吾輩の心のオアシスッ!』

 




スネイプの心の雄叫びは虚しく響いた。




リリーの息子、ハリーは2年後、配属される。

ご存じグリフィンドール!
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