・馬主西崎の優雅?な生活
テンペストクェークの馬主、西崎浩平は、東京都内で会社を経営している経営者である。父が亡くなった後、いろいろあって、まだ30代中盤だった西崎が社長に就任した。
因みに業務の内容は測量会社である。いくつかの営業所を抱える測量会社であるが、如何せん地味なので、目立つことはなかった。
彼がテンペストクェーク(セオドライトの2002)を購入したのは、藤山などに話した理由のほかに、母馬の名前が「セオドライト」という測量に関わる機器の名前だったからというどうでもいい理由もあった。
因みに、テンペストクェークが美浦でケンカしたゼンノロブロイのオーナーは株式会社ゼンリンの社長である。ゼンリンの地図は業務でも使うため、肝が冷えたようである。
「社長、セントポーリア賞おめでとうございます!」
馬主になって、馬を走らせてから、自分より年上の幹部社員がプライベートでも話しかけてくるようになった。
父がかなり馬好きで、それに影響を受けた社員も多く、一口馬主をやっているのもいると聞いていた。
そしてよく言われることもあった。
「それにしても父がヤマニンゼファーで、母父がサクラチヨノオーというのは、なんというか渋いですね」
西崎は競馬、特に血統などの知識はほとんどなかった。彼が自分なりに調べたところ、主流の血統ではないようだ。
よく馬主になったなともいわれたりもしていた。
父の縁でつながった島本牧場、そしてそこからつながった藤山厩舎。血統的にも見栄え的にも微妙であったテンペストクェークをしっかりと育ててくれたことに恩を感じてもいた。餅は餅屋に、という考えのもと、調教やレースについては彼らに任せていた。要求があるとすれば、彼が健康に走る姿を見たいということだけであった。
ただし、馬主として全くの不勉強では格好がつかないので、レースのことや血統、競馬の規則などを猛勉強中でもあった。
「いや、親父の願いもかなえてやりたいな。天皇賞の盾も……」
そんなささやかな馬主生活に変化が訪れていた。
具体的には弥生賞を2着で終えたあたりからである。
世はディープインパクト一色であったが、ニホンピロウイナーから続く父内国産馬、それにコアな人気があったヤマニンゼファーの血統をもつ馬がクラシックに挑戦するということもあり、テンペストクェークにもひそかに人気が高まっていたのである。
そしてとどめは、皐月賞の激走であった。
あのディープインパクトに半馬身差まで迫ったうえ、信じられない末脚を炸裂させての2着であったからだ。
中山競馬場の馬主席で、最後は大声で彼を応援していた。いい大人がみっともないと思ったが、周りの馬主たちも興奮を隠せない様子で観戦していたため、問題ではなかった。
問題は、彼の走りを見て、彼に興味を持った人々がいたということだ。
「おいおい、これ上場企業の会長の名刺じゃないか、これも社長、これも社長」
彼の父のヤマニンゼファーの馬主や、母父のサクラチヨノオーの馬主から、応援しているとも言われた。
極めつけは、日本最大級のサラブレッドの生産者たちともつながった事であった。
「親父はこういうのを夢見てたのかねえ……」
これからどうするのか悩む西崎であった。
テンペストクェークによって、彼の馬主生活は大きく変化していった。
・皐月賞後の某掲示板
1:名無しの競馬ファン
皐月賞も終わってある程度落ち着いたのでかたりませう
2:名無しの競馬ファン
結局ディープだったな。
3:名無しの競馬ファン
1.3倍だったし、美味しくなかったな。
4:名無しの競馬ファン
>>2 当然の結果といった感じだったな。
5:名無しの競馬ファン
>>2 知ってた
6:名無しの競馬ファン
なんなんだよあの化け物
7:名無しの競馬ファン
未来の三冠馬とか言い過ぎって思ってたけどあの走りを見ると納得してしまうわwww
8:名無しの競馬ファン
距離適性はどうなのよ。菊はいけるか?
9:名無しの競馬ファン
正直はっきりと断言はできないけど、長距離も余裕でこなせそうではある。
10:名無しの競馬ファン
このまま無敗で三冠馬になったら、シンボリルドルフ以来か
11:名無しの競馬ファン
>>10 そうだな。ナリタブライアンは強かったけど無敗ではなかったし。
12:名無しの競馬ファン
凄い事だとは思うけど、なんか面白みに欠けるな
13:名無しの競馬ファン
>>12 もうアンチが湧き始めているんか
14:名無しの競馬ファン
>>12 まあわからんでもないが、未来の三冠馬を応援しようぜ
15:名無しの競馬ファン
>>13 すごいとは思うが、父サンデーサイレンス。生産者も馬主も騎手も調教師全部完璧すぎてなあって感じ。これからもこんな感じの馬しかいなくなるんかねえ
16:名無しの競馬ファン
>>15 確かに超絶エリートって感じだもんなあ。
17:名無しの競馬ファン
>>15 サクラ、メジロの馬もG1レースであまり見なくなったし、多様的ではないよな
18:名無しの競馬ファン
だけどサンデーサイレンスのおかげで日本の競馬のレベルはかなり上がったし、文句は言えんよな。
19:名無しの競馬ファン
そこで弥生賞、皐月賞2着のテンペストクェークですよ。ここはディープインパクトのスレではないので彼のことも語ろう。
20:名無しの競馬ファン
>>19 最初の直線で騎手と喧嘩しながら走って、最後にディープに半馬身まで迫ったもう一頭の怪物のことか。
21:名無しの競馬ファン
>>19 さすがに忘れてないけど、まずは勝ち馬のディープからって感じ
22:名無しの競馬ファン
新馬戦から一貫して逃げていたと思うんだけど、この馬の本質って差しや追い込みなのでは?
23:名無しの競馬ファン
上がり3Fをディープ並みで走っている奴が逃げ馬なわけがない。
24:名無しの競馬ファン
最初ケンカしていたし、逃げたがる性格なのでは?
25:名無しの競馬ファン
>>24 馬群が嫌いなのかね。
26:名無しの競馬ファン
最後の末脚は震えた。馬連買っといてよかった。美味しくはなかったけど
27:名無しの競馬ファン
一瞬行けるかって思ったもんなあ
28:名無しの競馬ファン
ナリタブライアンみたいな末脚だったな。最後の走り方もそっくりだったし。
29:名無しの競馬ファン
面白いうまだな~って思って調べたら父ヤマニンゼファーかよ
30:名無しの競馬ファン
>>29 母父サクラチヨノオーだぞ。平成初期の競馬血統やな
31:名無しの競馬ファン
>>29 祖父はニホンピロウイナーだし、2000mはちょっと長いのかなと思ったけど、そうでもないみたいだ。
32:名無しの競馬ファン
ヤマニンゼファーって産駒成績はそんなに良くないよなあ。なんでこんな馬が?
33:名無しの競馬ファン
>>32 こういう馬が走るのも競馬なんやで
34:名無しの競馬ファン
>>29 弥生賞から恒例の横断幕が張ってあった。
35:名無しの競馬ファン
>>34 あの熱心なファンが作っている奴かwww
36:名無しの競馬ファン
ゼファー:そよ風 テンペスト:暴風
こう考えるといい名前だな。
37:名無しの競馬ファン
全てがエリートのディープインパクトと、雑草魂のテンペストクェークか。
38:名無しの競馬ファン
でも日本ダービー走れるの?マイル~2000メートルくらいが得意な馬だと思うけど。
39:名無しの競馬ファン
母父はダービー馬だし……
40:名無しの競馬ファン
もしかしてたらマイル戦線に行くのかもしれん
41:名無しの競馬ファン
そうなるとこれで2頭の戦いは終わりってことなのか
42:名無しの競馬ファン
>>42 来年の宝塚とか天皇賞秋とかで走るんじゃね
43:名無しの競馬ファン
もしかしたら有馬にも来るかもしれない
44:名無しの競馬ファン
ディープインパクトは間違いなく有馬を走ると思うけど、テンペストクェークはわからんな
45:名無しの競馬ファン
ダービーも楽しみだけど、テンペストクェークの次走も楽しみ。
46:名無しの競馬ファン
ダービーで再びっていうのもあり。
47:名無しの競馬ファン
というかここまで語ってきたけど、2頭以外は……
48:名無しの競馬ファン
5馬身差ついちゃあねえ……
49:名無しの競馬ファン
マイネルレコルトやアドマイヤジャパンもいい馬であると思うけど
50:名無しの競馬ファン
いうてテンペストクェークだって重賞勝ちはまだないからね
51:名無しの競馬ファン
>>50 弥生賞と皐月賞でディープ以外には勝っているからな。世代2番手に一気に躍り出たって感じ。
52:名無しの競馬ファン
テンペストがマイル路線に進むとなると、同世代は短距離かダートに行くしかないのでは。
53:名無しの競馬ファン
王道路線に強敵がいるとき、別路線にも大体強敵がいる。
54:名無しの競馬ファン
そういえば祖父のニホンピロウイナーもルドルフ時代のマイルの王者だったな。
55:名無しの競馬ファン
>>54 他の陣営からしてみればたまったもんじゃないな。
56:名無しの競馬ファン
そういえば、テンペストクェークにも専用スレが立ってたな。そっちで語るか……
57:名無しの競馬ファン
ディープも早々に専用スレが立ってたし、これから盛り上がりそう
58:名無しの競馬ファン
テンペストクェークがタイトルを獲ればもっと対立が盛り上がりそうだな。
59:名無しの競馬ファン
>>58同じ路線なら盛り上がるだろうけど、そうじゃないならそこまでじゃないかなあ
60:名無しの競馬ファン
JRAもごり押ししているし、なんかありそうな気はする。
・テンペストクェーク号、初取材?
皐月賞のダメージも完全に消え、日本ダービーに向けて調教を積んでいる藤山厩舎にとある要望が届けられていた。
「はあ……うちのテンペストに取材ですか」
「正確に言うと、テンペストクェークと我々調教師たちにだね」
藤山は、厩務員や調教助手を集めた会議でテレビ取材のことを話し始める。
「日本ダービーに向けた取材とかではなくて?」
「そうみたいだ。もちろん断ってもいいし、オグリキャップのときのような強引な取材はしないと断言してもらっている」
オグリキャップとメディアに関わる悪評はホースマンの間ではかなり敏感な話題でもある。
「テンペストの担当としては、彼は見知らぬ人が来ても興奮したり、神経質になることはないので、大丈夫だとは思います」
「その辺はあまり心配していないよ。無駄に図太いからな。それに皐月賞前に一度あったケーブルテレビの競馬チャンネルの取材のときも全く問題なかったからな」
この図太さは彼の最大級の長所でもある(レースではズブくないが)。
「確かに皐月賞で有名になったとはいえ、未タイトルの馬をレースとは関係なしに取材したいっていうのは珍しいですね」
ディープインパクトなんかは物凄い取材要請が殺到しているという噂を聞いた。
「まあ、ルールを守らない奴らならたたき出せばいいだけの話だし、むげに断らんでもいいか」
それに、もしこいつが伝説の名馬になるようなら、その時の貴重な映像になるかもしれんしな、とも考えていた。
そういうわけで、テンペストのテレビデビューが決まった。
―――――――――――――――
俺は馬である。
今、俺はテレビカメラに映されている。
前に一度映されたこともあったが、ちょっと自分がふてくされていたというか、あまり集中できていない時期だったので、そっけない対応をしてしまった。
俺を応援してくれるファンもいるし、ここのおっちゃんや俺の世話をしてくれる兄ちゃんにも迷惑はかけたくないので、今日はしっかりと対応したいと思っている。
「今日はありがとうございます。ルール等は全てのクルーに周知させましたので、何卒よろしくお願いいたします」
「はい、テンペストは見知らぬ人にも問題なく接しますが、ここには他の馬もいます。ですので大声やフラッシュなどは注意してください」
何を話しているのかわからないが、俺に取材かな?と思ったので、カメラ映りがいいように部屋から首を出してみる。
「ちょうど、テンペストも出てきましたので、始めましょうか」
「そうですね。では、手順通りにお願いいたします」
お!そろそろ始まるって感じだな。アナウンサーの人は結構きれいな人だな。
まあ、馬なので何とも思わないけど。というか俺、雌の馬とやるの?
それは複雑だな……
「本日は、茨城県にある美浦トレーニングセンター。その中にある、藤山厩舎を訪れています。ここには、皐月賞2着、そして日本ダービー出走を予定しているテンペストクェーク号がおります。今日は、藤山順平調教師や厩務員の方など、テンペストクェーク号を支えるスタッフの皆様にお話を伺おうと思います。藤山調教師、秋山さん、今日は取材を受けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。世間はディープインパクト一色ですし、競馬ファンの方々に何か話題が提供できればと思いますよ」
「まずは日本ダービー出走、おめでとうございます」
「ありがとうございます。オーナー、そしてスタッフを含めた多くの方々の協力のおかげです」
「皐月賞は2着ではありますが、後続に5馬身差をつける強い走りでした。弥生賞まで逃げていたのですが、皐月賞での走りは想定内で?」
「それについてはノーコメントで……ただ、皐月賞では我々の想定を超える走りをしてくれました。テンペストの強さを引き出した高森騎手には感謝しかありません」
「そうなりますと、今後も高森騎手が主戦ということになるのでしょうか」
「はい。彼もなかなかの苦労人ですので、テンペストともども応援よろしくお願いいたします」
どうやら取材が始まっているみたいだな。ちょっとサービスするか……
「テンペスト~ちょっとこっち向いてくれ~」
兄ちゃんが俺に話しかけてきているな。
【俺ちゃんと映ってる?】
「ちゃんと反応するんですね」
「こうやって、懐っこいところもあるので、世話をしていて楽しいですよ」
「身体が大柄なので、怖いイメージがありますが、やさしい子ですよ」
「そうなんですね。って大丈夫ですか?」
首を伸ばして、兄ちゃんの顔を舐める。
どう?俺可愛い?
「ははは。彼は感情を表すときはこうやって色々と反応してくれるんですよ。よく服に噛み付くんですよね。構って欲しい時、不機嫌な時は特に。何回か服を破かれたこともありますよ。ただ、怒っているときでも絶対に服以外の場所には噛みつきませんし、蹴ってくることもないです。その点はかなり助かります。今はあなた方に興味があるみたいですね」
「そうなんですね~かわいらしいです」
「見た目はちょっと怖いですし、頑固なところもありますけどね……」
む?ちょっと悪口言われた気がするぞ、兄ちゃん。
【コラコラ】
「って今度はこっちか……こいつ、自分が悪く言われたりするのがわかるらしく、ちょっと文句を言うとこうやって服を引っ張るんですよね」
「……なんというかとても賢いのですね」
「そうですね。たまに人間が入っているんじゃないかと思うほど賢いんですよね」
「どっかにチャックでもあるかもしれんなあ」
「藤山調教師も面白い冗談をおっしゃりますね」
「「……」」
「……冗談ですよね?」
「まあそれくらい賢いってことです」
ふむ。あまり取材の邪魔をするのも悪いな。カメラの方をずっと見ているか。
ちょっと変顔を……
「このようにとても賢いテンペストクェーク号ですが、日本ダービーの自信のほどは」
「勝ちます!といいたいところですが、ディープインパクトを筆頭に強い馬はいますからね。断言はできません」
「距離の不安が噂されていますが……」
「その辺りを話してしまったら面白くないでしょう。企業秘密ということで」
「なるほど、これは予想するのが大変そうですね」
「それも含めて楽しんでください」
ほーいほいほい
どう?ちゃんと撮れます?
「先ほどからテンペストクェーク号がすごい顔をしていますが……」
「「……」」
「なんでノーコメントなんですか……」
「こういう馬だと思って下さい」
「と、というわけでテンペストクェーク号の日本ダービーに向けた一言をお願いいたします」
「こんな馬ですが、本当に強いので応援よろしくお願いします」
「藤山調教師、秋山さん、ありがとうございました」
「ほれ、テンペスト挨拶」
【終わりか?】
「すごいですね……」
終わりか。俺のファンが増えるといいなあ……
こうして、テンペストの取材は終わった。この後、島本牧場への取材内容も含めた番組が放送された。どうやら好評だったようで、定期的に取材が組まれることになった。
架空馬には欠かせない掲示板と取材のお話。