10月9日東京競馬場は曇りであった。
競馬場内にはメインレース目当ての客でにぎわっており、盛り上がっていた。
西崎も、テンペストクェークの応援のために競馬場にやってきていた。
弥生賞や皐月賞、日本ダービー後に、知り合いとなった馬主とレースや馬のことを話していた。
「今日のレースですが、西崎さんの馬が唯一の3歳馬ですね」
「そうなんですよね。有力な馬は菊花賞のトライアルレースの方に行くと聞いてます」
「調子は凄くいいと聞いていますし、もしかしたらチャンスがあるかもしれませんね」
因みに彼の馬は毎日王冠を走るわけではなかった。
「期待はしていますよ。藤山先生や高森騎手を信じていますから」
口ではこう言っているが、内心は結構不安であった。
出走表には、昨年の皐月賞馬ダイワメジャー、宝塚記念を勝った牝馬スイープトウショウ、NHKマイルカップと昨年の毎日王冠勝ち馬のテレグノシス。このほかにも重賞を勝ってきている有力馬が多数出走していた。
賞金的にここで優先出走権を得ておかないと天皇賞は厳しいといわれていたこともあり、かなり不安でもあった。
「頼みましたよ……」
パドックでは、特に問題なく自分の乗る馬、テンペストクェークが歩いていた。
「相変わらず、落ち着いているな」
「ただ、ちょっとうずうずしているというか、まあ走りたがってます」
「こりゃあ逆に全力を出しすぎないように注意しないとな」
俺は彼の上に乗る。よろしく頼むよと首元を軽く叩く。
「任せろ!」と嘶き返してくれる。
やっぱり最高だよ、お前は。
「さて、お前の力を見せつけるときが来たぞ」
レース場に入る。
今日は稍重の状態だが、返し馬では時に苦にしている様子はなかった。
こいつはスピードも瞬発力もあるが、パワーもある。それこそダートだってこいつは走れるだろう。血統的にどこから受け継いだのかは知らんが。
「さて、ダイワメジャーが先行策で来るだろうな。ハイペースも考えられる」
まあ、こいつの末脚でぶち抜けばいい。ここの直線は長いのだからな。
ゲートに問題なく入る。
多少なりとも嫌がったり、何かしらの反応をしたりするのが普通なのだが、テンペストは特に変わりがない。
「さあ、行くぞ!」
ゲートが開いた。
それと同時に飛び出す。
『……ゲート開いてスタートしました。好スタートはテンペストクェーク。今日は逃げるのか、いえ、少し後ろに下がっていきました。変わって先頭はダイワメジャー……』
『……第3コーナーを過ぎまして、先頭はダイワメジャー……中団やや後方にテンペストクェークがおります……』
『直線に入った。コスモバルク、サンライズペガサスが先頭。内からダイワメジャー、スイープトウショウも追い込んでくる……大外にテンペストクェーク……』
『残り400メートルを超えて、坂を越えます。先頭はサンライズペガサス。2番手はバランスオブゲーム。ここで大外からテンペストクェークが上がってきた。サンライズペガサスが逃げ切るか、テンペストだ、テンペストクェークが抜いていった。先頭はテンペストクェーク。テンペストクェークがそのまま先頭。サンライズペガサス、テレグノシスも粘るが、これはどうだ……』
『テンペストクェークがそのままゴールイン。テンペストクェークの末脚が決まりました。ラスト100メートル付近で先頭のサンライズペガサスを抜き去り、そのままゴールイン。勝ち時計は1.46.4。2着に1馬身半でした。皐月賞2着の実力を古馬の先輩に見せつけました。』
先頭を行くサンライズペガサスを抜いて、そのまま先頭を走りぬいた。
ゴールした後、テンペストの様子を確認するが、少し息が上がっているくらいであった。余力を残してのゴールだった。
さすがに古馬のレースだけあって、タイムは早い。
だが、こいつはもう古馬と対等に戦える身体と実力を手に入れているようだ。
「天皇賞が楽しみだな……」
テンペスト、そしてオーナーにとっての初めての、俺にとって久しぶりの重賞制覇であった。
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「いけ!いけ!そのまま!そのまま!」
馬主席にいた西崎は、テンペストの激走を見守っていた。
最後の直線まで後ろの方にいたこともあり、日本ダービーのようになるのではないかと思っていたが、400メートルを切ったあたりから一気に加速していき、そのまま先頭の馬を差し切って先頭でゴールした。
「よし!よしよしよーーーし!」
周りにいた馬主たちも悔しそうではあったが、勝ち馬を讃えていた。
「西崎さん。おめでとうございます。初重賞ですね」
様々な祝福の言葉を受けながら口取り式に向かう。装鞍所につくと、藤山調教師一同がすでに集合していた。
「藤山先生、ありがとうございました」
「おめでとうございます。強かったですよ」
握手を交わして、健闘を讃えた。
毎日王冠と書かれた赤色の優勝レイを首に巻いた自分の愛馬は誰よりも輝いて見えた。
「ああ……うれしいです」
「西崎オーナー、おめでとうございます」
騎手の高森がオーナーに感謝の言葉を告げてきた。
「高森さん、ありがとうございました。おかげで重賞を獲れました」
「いえ、彼の力のおかげですよ。私も久しぶりに重賞の勝利を味わうことが出来ました」
高森から見て、オーナーはもう十分というほど喜んでいた。
「オーナー、次の天皇賞でもこの場所に立てますよ。それどころか、何回だってここに立たせてみせます」
「ありがたいことを言ってくれますね……よろしくお願いします」
西崎は、この時はお世辞くらいに捉えていたが、彼は宣言通り、何度もこの栄光の場に立つことになる。
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俺は馬である。
先日のレースでは久しぶりに勝利することが出来た。
夏の前のレースと同じ場所で走ったから、途中まで後ろにいて大丈夫かとひやひやしていたが、彼のタイミングでスパートをかけたら、最後に追い抜いてゴールすることが出来た。
今までは、レースの後に全身の痛み、筋肉痛?が結構長く残っていてつらかった。しかし、今回は数日で痛みがなくなってきていた。
さすがに今走れと言われたら拒否するが、疲労回復の速度や体へのダメージが少なくなった気がする。
「よ~しよし、頑張ったなあ」
騎手君やおっちゃん、兄ちゃんを筆頭に俺に関わっている人はみんな笑顔になっていた。
やはり大きなレースだったのだろう。勝った後は大きなタオルみたいなものを巻き付けられて写真まで撮影されてしまった。
俺のイケメンフェイス?はしっかりと映っていたのだろうか……
「テンペストの調子はどうです?」
「藤山先生、ダメージもだいぶ抜けてきましたね。前よりも回復が早いので、天皇賞もいけると思います」
「そうか。私たちも細心の注意を払うが、担当厩務員としてよろしく頼む」
そういっておっちゃんはどこかに行ってしまった。
「それにしても、ディープインパクト、ディープインパクトってな~んか面白くないなあ。なあテンペスト」
なんだ?そんなに不愉快な顔をして。ほれほれ、俺の顔でも見て癒されなさいな。
「まあ馬には関係ないよなあ……」
なんだよ~
「ああ、悪い悪い。お前もいっぱい勝ってファンに愛されるといいな」
まかせなさいな。
9月中旬以降、阪神競馬場は無敗の二冠馬の圧巻のレースに沸いていた。
菊花賞のトライアルレース、神戸新聞杯(GⅡ)に出走したディープインパクトは、いつもの走りで1着になり、菊花賞に向けて絶好調をアピールしていた。
三冠は確実とまで言われていた。
ディープインパクトが勝つか負けるかではなく、どのように勝つかというレベルであった、
JRAもゴリ押しといえるほどにディープインパクトを宣伝していた。
その喧騒の中、テンペストクェークは天皇賞・秋を走る。