G1レースの連勝記録ですが、G2とかのレースを挟んでの連勝記録とG1レースのみの連勝記録に分かれるみたいです。G1レースのみの連勝記録はドバイDFからの5連勝になります。
ブラックキャビアが8連勝、フランケルとゼニヤッタが9連勝、ウィンクスが10連勝の記録を持っています。
『ディープインパクト。凱旋門賞を制覇』
日本では号外でディープインパクトの凱旋門賞制覇が報道された。
普段のニュース番組でも取り上げられるほどの盛り上がりであった。
主戦騎手、調教師は連日の取材でうれしい悲鳴を上げていた。
「……なんかテンペストのときと反応違いませんか?こっちは3戦全勝しているのに。そりゃあ私も現地ではしゃいでしまいましたけど」
西崎はディープの勝利を祝福しつつも、面白くない気分を味わっていた。テンペストの海外レースは番組が用意されて中継や解説もしっかり行われているので、文句は言えない。しかしながら、ディープインパクトの凱旋門賞制覇に比べると影が薄かった。
「それは仕方がないと思いますよ。凱旋門賞ですからね。日本の競馬界にとって目指すべきレースであり、一種の呪いのようなものでしたから」
凱旋門賞が終わったその日の便で日本に帰国し、その翌日にはすでに会社のオフィスにいた。そして、その昼休みに競馬好きの部下たちと凱旋門賞について話していた。
「海外競馬を追いかけていた私にしてみれば、インターナショナルステークスにアイリッシュチャンピオンステークス、そしてクイーンエリザベスⅡ世ステークスを同一年度に3連勝する方が化け物ですよ。凱旋門賞馬は毎年生まれますけど、テンペストの偉業を達成する馬は今後出てくるかも怪しいくらいだと思いますよ」
実際、テンペストクェークがドバイDFや英国際Sを勝利した後もかなり競馬界は盛り上がっていた。ただ、その後テンペストが当然のように勝つので、「まあテンペストなら勝って当然か」といった空気すら生まれていた。
それでもQEⅡSの末脚にはすべてのファンが驚愕していたのだが。
「テンペストの調子がいいから走って勝ったけど、やっぱり常識外の馬なんだな」
(なんでこんなすごい馬を社長みたいな新人馬主が引き当てられたのだろう……)
競馬好きの部下たちはひっそりと思っていた。
中央で馬主ができるほどではないが地方馬主の資格を持っている部下もいれば、一口馬主をやっている部下もいる。彼らからしてみれば、信じられない領域にいる馬を所有しているのが自分の社長であった。
羨ましいとは思っていたが、いろいろとしがらみも増えて大変そうだとも思っていた。
「テンペストクェークの次走は、チャンピオンステークスを走るとのことですけど、その次はどうなっていますか」
発表されているのは10月14日施行のチャンピオンステークスに出走までである。それ以降は白紙であった。
「いろいろと悩んでいるんだよねえ……一応、香港マイルか香港カップを先生からは勧められているよ」
「香港国際競走ですか。賞金額も高いですし、テンペストクェークなら十分に勝利を見込めますね」
12月に施行される香港国際競走。藤山陣営は、テンペストに何もなければそのまま香港に行くという計画を立てていた。
ワイワイと盛りあがる中、一人の部下が突拍子もない提案をする。
「社長。テンペストクェークですが、ブリーダーズカップなんかはどうでしょうか。欧州馬だと10月開催のレース後にアメリカに行ってブリーダーズカップに出走している馬は多いですよ」
この部下は、以前にBCシリーズについて西崎に教えていた人間だった。西崎が欧州へ行く前の出走計画でBCクラシックに出走させたいという要望を出した間接的な原因であった。
「ブリーダーズカップか。マイルなら確かに可能性はありそうだな。ただこれ以上馬に負担がかかる出走間隔はやめた方がいいと思うけどな」
「来年ならいけるんじゃないか?」
後は昼休みが終わるまでテンペストクェークの次走をどうするかという余計なお世話な話で盛り上がった。
西崎は部下たちの喧騒を見ながら遥か彼方の地で戦っている自分の愛馬のことを考えていた。
場所は変わって、ニューマーケット。
テンペストクェークはクイーンエリザベスⅡ世ステークスの疲れを癒し終え、本番に向けた調整を行っていた。
「うーん。仕上がりはそこそこだが絶好調というわけでもないって感じだな」
「やはりレースが続いていましたからね。獣医による検査では特に異常は見当たりませんでしたが……」
騎手の高森と調教助手の本村がテンペストクェークの調子について話し合っていた。
「乗った感触としては普通に走れてはいます。特に脚を気にする様子もないので、ケガなどの心配はないと思います。ただ、仕上がり具合は欧州遠征で一番よくないですね。ただ、これでも普通の馬に比べたら調子はいいと思いますが」
「レース後の休養から本格的な調教までの期間が短かったですからね……むしろここまで調整が済んでいるほうが驚きます。やはり自己管理能力が高いですよ」
「テンペストは割と嫌なものは嫌とはっきり表現するし、体調がよくないときも人間にしっかりと知らせるからな」
馬は自身の不調を我慢して隠してしまうことがある。野生の本能のようなものである。テンペストはそういった我慢は一切しないので、ある意味わかりやすい馬だったりする。
テンペストはスタッフに自身の不調などを伝えていないため、何か不調があるわけではないと判断していた。もちろん厩務員や調教師、獣医をはじめとしたスタッフが徹底的な検査を行ったうえで最終的な判断はしているが。
「次のチャンピオンステークスもなかなかのメンバーが揃いましたからねえ……」
先週、ロンシャン競馬場にて開催された凱旋門賞でディープインパクトが勝ったことで、今年の欧州競馬の下半期は、日本馬に蹂躙されたと言われている。そのためプライドを傷つけられていた。
ディープやテンペストの血に興味津々ではあったがそれはそれであった。
今回のチャンピオンステークスで、テンペストクェークには土をつけて帰ってもらうという意思を感じるメンバー構成となっていた。
二人は、スタッフに配布された2006年チャンピオンステークス出走馬の概要が書かれた紙を眺めていた。
サーパーシー(1番)
2006年の英国ダービーを制した3歳馬だが、ダービー後に故障しており、このレースが復帰戦である。英2000ギニーを2着以外はすべて勝利しており、全盛期の力が戻っているのであればかなりの強敵である。
プライド(2番)
2006年のサンクルー大賞を勝利し、先日の凱旋門賞では3着に入着している。6歳で初のGⅠタイトルを獲るという大器晩成の牝馬である。凱旋門賞での調子の良さを維持しており、要注意の一頭である。
ノットナウケイト(3番)
8月の英国際Sでテンペストに12馬身差を付けられて2着となった4歳馬。雪辱を果たすべくチャンピオンステークスに挑んできたようである。
ロブロイ(4番)
ベットフレッドドットコムマイルを勝ち、サセックスSを3着に入った馬である。大きなタイトルはないが、こういった馬が突如覚醒する可能性もあることを考慮する必要がある。
オリンピアンオデッセイ(5番)
英2000ギニーを3着と実績らしい実績はない馬である。ロブロイ同様に覚醒に注意が必要な馬である。
レイルリンク(6番)
パリ大賞を勝利し、凱旋門賞ではディープインパクトに敗れ2着に終わった。しかし調子の良さをキープしており、日本馬に負けた雪辱は日本馬で果たさせてもらうという陣営の方針により出走することになった。こちらも油断できない一頭である。
テンペストクェーク(7番)
説明不要。
ディラントーマス(8番)
今年の愛ダービー馬。愛チャンピオンステークスではテンペストにゴール前で内側から差し切られての2着。アメリカ遠征を取りやめて、テンペストへの借りを返しに来たようである。
ハリケーンラン(9番)
昨年の凱旋門賞馬にして世界最高評価を受けた馬。キングジョージ以降、精彩を欠いた走りをしているが、それでも実績と実力は屈指のモノがある。ハーツクライ、ディープインパクトと日本馬に2連敗しているため絶対に勝つと意気込んでいるようである。
マラーヘル(10番)
英国際Sの3着を含めてGⅠは未勝利であるが、欧州の重賞戦線を戦ってきた5歳馬である。特に注意する必要はないが、覚醒する可能性は考慮する必要がある。
エレクトロキューショニスト(11番)
昨年の英国際Sでゼンノロブロイを破って勝利して、今年のドバイWCを勝利している。10ハロン路線ではかなりの力を持つ馬である。9月ごろに体調不良を起こしたらしいが無事に回復して当初の予定通り出走を表明してきた。
コンフィデンシャルレディ(12番)
仏オークスを勝利した3歳牝馬。斤量が55㎏と一番軽いので注意が必要な馬である。
アレキサンダーゴールドラン(13番)
ナッソーSや香港Cを制した5歳牝馬。愛チャンピオンSは4着でテンペストに敗れている。実績もあるので、注意が必要な馬である。
デビッドジュニア(14番)
昨年のチャンピオンステークス。そして今年のエクリプスSを勝利した4歳馬。ドバイDFではテンペストクェークの前に2着に敗れている。日本で種牡馬入りすることが9月に決まった。本来はBCクラシックに出走する予定であったが、日本のテンペストクェークを倒してから種牡馬にしてやりたいと、慣れ親しんだ英国のターフをラストレースに選択した。
出走メンバーを見て高森と本村はめまいがした。
「……なんなんですかね。これ」
14頭中10頭がGⅠ馬であった。
現状10Fを走れる最高峰のメンツが揃っていた。
「こいつらを相手に絶好調でないテンペストが戦うのか……」
「前のレースも相当ですが、こっちも相当ですね。わざわざこっちのレースに来る馬もいるくらいですからね」
「藤山先生は凱旋門の後始末をして帰ると言ってましたけど」
「何それ怖い」
今年のチャンピオンステークスには、凱旋門賞に敗北した馬が3頭出走する予定である。また、ほかのメンバーも凱旋門賞に出走してもおかしくないメンバーである。
藤山調教師は、その馬たちを叩きのめして、欧州を更地にして帰るつもりであった。
「ただ、最優先は馬の調子です。こればかりは最初から変わりません」
「そうですね。テンペストがタフすぎてこの言葉が実現したことはないですけど」
「それが一番なんですよ……」
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俺は馬である。
今回は少し長めの回復期間を過ごしている。
といっても兄ちゃんたちの雰囲気から、そろそろレースがあることがわかる。
前のレースの疲労もなくなって、今は筋力や瞬発力を完璧にするために身体を鍛えなおしている。
ただ、今回は自分の身体を理想の水準までは持っていけなかった。あの小柄な馬と戦ったレースが100%とすると、今の俺は80%台って感じかな。
身体に異常らしい異常はないので、レースを走り切ることはできるだろう。ただ、あの時のように圧倒的な走りができるかどうかはわからない。
ただ、今発揮できる力で最大限を尽くすことに変わりはない。
それにしても、兄ちゃんたちも含めて、最近俺を見る目がたまに恐ろしい生き物を見るような感じになっている。
最近ちょっと調子に乗って馬らしくないことをし過ぎたように思える。研究所送りは嫌なので、自重しようと思う。
そしてレース当日。
普段トレーニングをしている場所から近いところに競馬場があるらしい。
こうやってすぐ近くにあると楽なんだけどなあ。
さて、今日の対戦相手はっと……
結構見知った馬が多い。
それに前回のレース以上に視線が厳しい。
ぱっと見た感じで、4頭ヤバそうな馬がいる。こりゃあ警戒対象だな。
【じ~】
なんかみられている。
そう思ったら少し離れたところから俺の方をじっと見つめる馬がいた。
【……なに?】
【あなた、強い?】
なんだ、いつもの挑発か。この馬もオラオラ系かな?
【俺が一番強い】
【ふ~ん】
そう言うと、視線を外して、ゲートへと入っていった。
なんだこいつ。
というかこいつ、雌か。
なんというか変な馬。
ただ、筋肉の付き方もいい。闘争心もあってオーラを感じる。
この馬もヤバいな。
そう思いながら、俺はゲートに入る。
さあ、騎手君。
今日も頼むぞ!
扉が開くと同時に、俺は飛び出した。
―――――――――――――――
チャンピオンステークス
イギリスニューマーケット競馬場にて1877年から芝10ハロンで施行されているGⅠレースである。日程的に凱旋門賞やブリーダーズカップに参加する馬が回避することもあるため、有名馬が回避することも多かった。しかしマイル~中距離を得意とする馬が参加することも多く、決して格の低いレースではない。
英国屈指の名馬であるブリガディアジェラートや鉄の女と呼ばれた名牝トリプティク、日本になじみのあるピルサドスキーといった馬がこの10ハロンを制していた。
「テンペスト。今日もやばい馬たちがたくさんいるぞ~」
俺は相棒の上にまたがりながら、他の馬たちを見る。
前のレースは最高峰のマイラーが集まったが、こっちは10Fを走れる馬が総力を結集したって感じだな。
さて、今日のテンペストの調子は普通だ。ドバイ以来、まさに絶好調だったテンペストの調子が普通に落ち着いている。いやむしろこれだけ連戦を戦ってきて、普通に走れる状態に持ってきている方が凄いのだと思う。
「今日の状態でディープを差した再加速の脚は使わない方がいいな」
ただし、勝ちを捨てたつもりはない。
今のテンペストは、切り札を封印しても勝負になるレベルの強さを持っている。
あとは実際のレースの展開、そして俺の騎手としての腕次第だ。
ニューマーケット競馬場の2000メートル直線コース。全体的に上り坂のコースで、ラスト300メートルでさらに傾斜がきつくなる。馬場状態も稍重。
タフなコースだ。おそらくテンペスト以外の日本馬だったら適性が合わずに勝負にもならないだろう。
14頭が収まるスターティングゲートに次々と出走予定の馬が入っていく。
途中プライドと目線を合わせて嘶いていたが、喧嘩していたわけではないようだ。そういえばテンペストは牝馬に特に興味を示さないな。助かるといえば助かるのだけど。
特に何か起きることもなく、プライドもゲートに入った。
そして、テンペストもゲートに入って、スタートの準備が整った。
今日は躓かないように気をつけてな。
聞きなれた音と共に俺とテンペストはスタートを飛び出した。
テンペストと共に、好スタートを切ったのがハリケーンラン。そしてサーパーシーであった。ハリケーンランの斜め後ろにつけるようにテンペストを誘導する。
それにしてもハリケーンランが逃げか。凱旋門賞で進路がふさがれて実力を発揮できていなかったからかな。
俺たちの隣にはディラントーマス、内側にノットナウケイト、少し離れた外側にデビッドジュニアがおり、先行ポジションに陣取っていた。
レイルリンクにエレクトロキューショニスト、それにプライドは後方集団にいるな。こいつらはラストで一気に先頭を差し切ってくるタイプだからある意味予想通りだ。
残り7ハロン。
中央に馬群が寄ってきたな。これだけ広いんだからもっと外に行けばいいのに……
もう少し後ろを走っていたら間違いなく囲まれていたな。
先頭はハリケーンランとノットナウケイトがいる。その後ろの先行集団に俺たちとディラントーマス、サーパーシー。他の有力馬はおそらく俺たちの後ろにいる。一番厄介のエレクトロキューショニストが後ろでマークしているな。こいつには、ゼンノロブロイやカネヒキリが負けた雪辱を果たさせてもらうよ。
そう思っていたら露骨に馬体をぶつけられた。
まあこれだけ密集した馬群ならぶつかっても文句は言えないな。
「××○○(放送禁止用語)」
まあこれぐらいの無礼は許されるだろう。
だが残念だったな。テンペストにそんな攻撃は効かない。
残り5ハロン。
先頭はハリケーンラン、ノットナウケイトとサーパーシーが争っている。その後ろにディラントーマスがおり、半馬身後ろに俺とテンペストはいる。末脚が得意な馬が多いから、少しだけ位置を下げさせてもらった。
後ろを覗くと、エレクトロキューショニストとレイルリンクが俺たちをマークするようにぴったりと後ろに張り付いていた。アレキサンダーゴールドラン、マラーヘル、コンフィデンシャルレディも中団あたりで機会をうかがっているのも見えた。大外スタートのデビッドジュニアも外で走っているのも見えた。
それ以外の馬はおそらく後方集団にいるのだろう。自分の目では見えなかった。
残り4ハロン。
ハリケーンランとノットナウケイト、それにサーパーシーが少しずつスピードを上げていくのがわかる。ちょっと早いんじゃないかな。
俺たちはペースを守りつつ、周りの馬の動向を探った。
少しずつだが、後方集団にいた馬が、内ラチ側や外ラチ側から顔をのぞかせているのがわかった。マラーヘル、それにアレキサンダーゴールドラン、外からデビッドジュニア、内からはプライドも。
残り3ハロン。
そろそろスピードを上げるか。すでに両隣にエレクトロキューショニストとレイルリンクに並ばれている。
あ!こいつテンペストの顔に鞭当てやがったな。
テンペストが一瞬反応したが、変に力も入っていない。
「××○○(多分アメリカの南部で使われている汚い英語)」
とりあえず、これくらいは言っておこう。
ペースがどんどん上がってくるのがわかる。
これは先頭の4頭は総崩れだな。ノットナウケイト、サーパーシーは限界に近いのが後ろでもわかった。ただ、ハリケーンランとディラントーマスはまだ疲れ切っていないな。これは粘りそうだ。
差し切るとしたらラスト2ハロンからだ。
残り2ハロン。他の馬がどんどんと横に広がり、横一列になりつつある。
そろそろだな。
テンペストに鞭を入れる。
一気にトップギアに入った。よーいドン!の加速勝負でテンペストに勝てる馬はいない。
「行くぞ、テンペスト!」
加速力を体で感じる。ただ、絶好調のときより加速が鈍いと感じた。
今日はやはり二段階加速は使わない方がいいな。
もしかしたら、ラストは接戦かもしれないな……
2018年にロアリングライオンがテンペストローテを3連勝します。ただ2011年以降、クイーンエリザベスⅡ世ステークスがブリテッシュチャンピオンズデーに組み入れられたこともあり、チャンピオンステークスに出走することはできなくなります。