10ハロンの暴風   作:永谷河

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テンペストの欧州遠征の出走ローテの参考にしたジャイアンツコーズウェイですが、BCクラシック初挑戦でティズナウと対等に戦っているのはいったいどういうことなんでしょうね。


片鱗

テンペストクェークは9月1日のウッドワードSで2着に敗れた。1着のインヴァソールはケガ前と全く能力が落ちていないことを見せつけた。

テンペストクェークのGⅠ連勝記録は10でストップし、重賞の連勝記録も14でストップした。そのため、GⅡ以下のレースに出走してダートにならせばよかったのではないかという意見も散在されたが、陣営は想定の範囲内として意に介さなかった。

 

テンペストクェークも無敵ではないのだなあと楽観視していたのはどちらかと言えば日本の競馬ファンであった。

一方、米国の競馬関係者はテンペストクェークの能力が想定を遥かに上回っていることに気が付いたのである。

 

1着のインヴァソールは昨年から今年にかけて、米国の競馬を圧倒した馬である。ケガからの復帰戦とはいえ、その馬にダート初挑戦の馬がクビ差まで迫ったのである。

3着には3馬身差をつけており、米国最強馬がいなければ余裕で勝利していたことになる。

レース結果を受けて、テンペストを止めるには米国最強馬を充てる必要があると認識されてたのであった。少なくとも、BCクラシック連覇を達成したティズナウと対等に戦ったジャイアンツコーズウェイやサキーと同等かそれ以上の力を米国のダートでも有していると認識されたのである。

 

 

 

 

9月も下旬に差し掛かり、モンマスパーク競馬場では、テンペストクェークがダイワメジャーとの併せ馬をしていた。その様子を藤山調教師と本村は見守っていた。今日乗っているのは高森騎手であった。

テンペストは、9月30日のジョッキークラブGCSに向けて、休養と調教が行われていた。ウッドワードSでそこまで消耗していなかったので、すぐにテンペストが元気いっぱいになり、調教を積み始めたのである。

併せ馬が終わり、高森が調教師のところに戻ってくる。

 

 

「乗った感じはどうですか」

 

 

「おそらく、この調子ならジョッキークラブGCSにも出走できます」

 

 

テンペストはダートに完全に適応するまではフルパワーでは走ることできていなかったのである。そのため、消耗もそこまで激しいものではなかった。

 

 

「本当にタフな馬ですね。本番はあくまでBCクラシックなので、追い込みすぎないように気を付けないといけませんが」

 

 

「次のレースでは消耗させすぎないように気を付けます。ただ、負けるつもりはありませんけど」

 

 

負けたことで面倒な批判を藤山陣営は受けている。もちろん陣営はすべて無視しているが。

 

 

「その心意気で頑張ってください。それとダイワメジャーの方はどうですか?」

 

 

「ダイワメジャーもいい感じで仕上がっていますね。マイルの方はそこまでメンツはそろわなさそうですし、彼が本来の力を発揮できれば獲れると思いますね」

 

 

ダイワメジャーは10月6日のシャドウェルターフマイルSに向けて調整が行われていた。何やら気合が入っているようで、遠征先とは思えないほど充実した日々を送っているようである。

 

 

「それにしても、アドマイヤムーンは惜しかったですね」

 

 

高森も日本でレースの映像を見ていた。

 

 

「負けたといっても2着ですからね。ターフの方も期待できますよ」

 

 

アドマイヤムーンは、9月8日のマンノウォーSに出走し、惜しくも2着に敗れた。テンペストについで2着であったため、日本の競馬ファンたちは惜しい競馬にやきもきしていただろうとこっちの関係者は思っていた。

 

 

「あと、アドマイヤムーンもテンペストやダイワメジャーと競い合って高め合っているので、同時遠征は成功だと思いますね。特にソラを使う癖がだいぶ治ったと聞きました」

 

 

藤山もアドマイヤムーンの悪い癖の話は聞いていたが、それが治りつつあることを聞いていた。

 

 

「それは本当に助かるでしょうね。前のレースもそれで差し切られたみたいなので」

 

 

「……どうもテンペストが関係してるみたいなんですよね」

 

 

「もう私は驚きませんよ」

 

 

高森は自分のお手馬がUMAであることに慣れていたのであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

俺は馬である。

悔しい敗戦を糧に俺はまたトレーニングを頑張るつもりだ。ただ、今はレースの疲れを癒す時間だから、しっかり休もう。

まあ、そこまで疲れていないので、すぐに走りたいけどね。

久しぶりに仲間たちのところに帰ると、後輩君がいなかった。

俺と同じように別の場所でレースでも走っているのだろうか。頑張れ!とエールだけは送っておこう。

ふむ、暇なので隣の奴と話すか。

 

 

【負けました!】

 

 

【おい!】

 

 

俺が負けたことが気に入らなかったのがいつものように唸っていた。

 

 

【強かったか?】

 

 

お前はいつもそれだな。

まあ、その気持ちはわからんでもない。

 

 

【ああ、強かった】

 

 

【そうか……】

 

 

【お前は勝てよ】

 

 

【当たり前だ!俺は強い!】

 

 

日本にいるときともう調子は変わらないな。彼はこれなら勝てるだろう。

まあ、他馬の心配している場合じゃないけどね。

 

疲れを癒して、トレーニングを再開してしばらくすると、後輩君も戻ってきた。

疲れているようで、飲み食いの量も減っていたので、大丈夫かと思ったが、すぐに回復したので良かった。

 

 

【どうだった?】

 

 

【負けました……】

 

 

そうか、負けたのか。

俺と同じだな

 

 

【俺もだよ】

 

 

【ええ……】

 

 

【次は勝つ!】

 

 

そして今日は俺と一緒に走っている。

うーん、やっぱり気のせいじゃないよな。

 

俺が前で走り、彼は追い抜くというトレーニングをするとき、彼はいつも俺を抜いた瞬間に力を抜く癖がある。

彼も結構賢いので、ゴールというか、走りの終わりの地点を覚えているみたいで、終わりの地点の前あたりでちょっと力を抜いているように見えるのよね。

まあ、彼も強いから並の馬では抜けないと思うけど……

 

 

【俺にはできるんだな】

 

 

少し本気に近い速度で走り、ゴール直前で彼を抜き返す。

 

 

【こうなるから気をつけろ】

 

 

【……?】

 

 

……あ、これ無意識にやってるのかもしれん。

 

 

【ゴール前で力抜かない!】

 

 

【……!はい!】

 

 

……あれ?なんで俺はこんなことをしているんだ?

まあいいか。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

9月30日、ベルモントパーク競馬場。

天候は良好で、馬場状態も良好であった。

メインレースのジョッキークラブGCSは夕方の出走であり、夕日が競馬場を照らしていた。

すでにアメリカの競馬関係者はテンペストのことを舐めるのを止めていた。東洋人の馬だからという理由だけで侮る関係者は、このGⅠレースの場にすら立てないだろう。

最大限の警戒をテンペストクェークに払っていた。

藤山調教師もテンペストなら勝てると考えつつも、ライバルの強さも考えていた。

ちなみに西崎オーナーは仕事が立て込んでいるらしく、アメリカに来ることはできていなかった。BCクラシックには絶対に来るとのことである。

 

 

「正直このレースで警戒すべき馬はカーリンですね。あとはローヤーロンくらいですね」

 

 

ハイレベルな3歳路線でプリークネスSを勝利し、残りの三冠競走でも好走している。前走のハスケルHでは斤量差もあり3着に敗れているが、強い馬であることに変わりはない。少々詰めが甘いようにも見れるため、そこが狙いどころかもしれない。

ただ、今日に限っては調子がよさそうに見えていた。

 

 

「わかりました。米国での初GⅠを獲ってきます」

 

 

高森は、勝つつもりでいた。もちろん約1か月後のBCクラシックへの疲労は残さないようにするつもりであったが。

テンペストの気合も十分であり、顔を撫でてから乗り込む。

 

 

「頼んだよ、テンペスト」

 

 

首を叩いてテンペストが反応する。

いつもの光景である。

 

 

「大丈夫ですよ、先生。勝てますから」

 

 

その顔は誰にも見られていなかったが、テンペストは首を後ろに向けてみていたのであった。

 

 

【怖っ!何考えてんだろう】

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

テンペストはいつも通り落ち着いていた。

もうこんな時間か。夕日がまぶしいな。ただ、きれいだ。

 

 

「テンペスト。今日はお前の真の力を見せてやろうぜ」

 

 

ウォーミングアップで走り始める。

ヨシ!本番でもちゃんと走れそうだ。

 

4番のゲートにも特に問題なく入る。

本当に集中しているな。

もう前しか向いていない。頼もしいよ。

 

係員の声、そしてゲートの開く音と同時にテンペストは前に動き始めた。

ベルの音も聞こえるが、その時には俺たちはゲートから完全に抜け出していた。

いいスタートだ。

 

先頭は1番の馬が行くようなので、無理に競ることはしないでいい。

3番の葦毛の馬とローヤーロンがその後ろにいるな。

ローヤーロンが積極的に前に行くみたいだが、ここは付き合う必要はない。

 

コーナーが終わるところでローヤーロンの後ろ、3番手につける。

このあたりでしばらく様子を見よう。極端なハイペースでなければな。

 

先頭は1番の馬、次にローヤーロン。そこから1馬身くらい後ろに俺たち。かぶせるように外側に3番の馬、そしてその後ろにカーリンがいるのが分かった。

 

向こう正面を走っているが、ペースはそこまで早いペースではないな。

あとカーリンが後ろにつけてきた。

……やっぱマークされている?

 

1000メートルは59秒くらいか?

 

 

「テンペストは……大丈夫だな」

 

 

呼吸も大丈夫だ。変な汗も泡も吹いていない。

順調だ。

 

コーナーに入ると、少しずつペースが上がってくるのが分かった。

途中で外からカーリンが加速して上がってくる。

まだだ、まだ我慢だよ。

 

最後のコーナーの途中でカーリンに先行されるが、問題はない。

前の2頭は……

1番の逃げ馬はダメそうだな。ローヤーロンは多分残る。

 

予想通り、1番の馬がローヤーロンとカーリンに抜かされていくのが見えた。

こういう逃げ馬が垂れてくるのが邪魔なんだけど、最内が開いているから大丈夫だな。

 

 

「テンペスト!内を通るぞ!」

 

 

コーナーが終わり直線に入る瞬間、苦しそうな1番の馬と内ラチとの間にテンペストを滑り込ませる。

 

 

「行くぞ!テンペスト!」

 

 

鞭を入れる。

もうテンペストに違和感はない。

1馬身前にローヤーロン、半馬身前にローヤーロンの外側にいるのがカーリン。

やはり強い。

ローヤーロンの騎手と体がぶつかるほどまで近づく。

テンペストに叩き合いを挑むのが間違いだと教えてやる。

 

外からカーリンが加速してくるのもみえる。

 

 

「行くぞ!」

 

 

残り100メートルを切った。

使うのは残り数秒だけでいい。

今はそれだけでもいい。

 

俺はテンペストに軽く鞭を入れた。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

いつもより軽く鞭でたたかれた。

……なるほど、理解した。

 

本気を出すのは最後だけってことだな。

 

隣の馬は息も絶え絶えだ。こいつには勝てるだろう。

だが、その外側にいる馬。奴には今のままではぎりぎりで負けるだろう。

なんとなく俺にはわかる。

 

今のままではな

 

 

俺は一気に力を解放させる。

土を蹴り上げ、全身の筋肉を躍動させる。

前に、前に行け。

イメージしろ!俺の前にいるあいつの姿を!

 

わずか数秒の時間だっただろう。

すぐに騎手君から減速の指示が出される。

なんだ、もう終わりか。

 

 

「テンペスト、ありがとう。俺たちの勝ちだ」

 

 

まあ、結構ギリギリって感じだったけどね。

 

 

「テンペスト、疲れているか?」

 

 

俺をねぎらってくれる。

今日は勝てたぞ。

みんな。

 

 

ただ、まだ本当の闘いは残っているんでしょ、騎手君。

だって、前のレースも、今日のレースも、ピリピリした雰囲気が少し和らいでいるし。そういうのは目ざといんだぜ。俺たち馬って。

 

俺は騎手君の指示に従うよ。

君が俺に全力を出せという指示をくれるときを待っているよ。

次が楽しみだ。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

『……先頭は依然として逃げるブラザーボビー。すぐ後ろにローヤーロンがいます。テンペストクェークは3番手、ポリティカルフォース、カーリンと続きます……』

 

『第3コーナーに入って、カーリン4番手。テンペストクェークの後ろにいます。依然としてブラザーボビーとローヤーロンが先頭集団を形成しております』

 

 

2頭が先頭で逃げており、その2馬身ほど後ろでテンペストクェークとカーリンは控えていた。

 

 

『……第4コーナーでカーリンが上がってきた。テンペストクェークはまだ動かない。先頭のブラザーボビーは厳しいか……』

 

『……テンペストクェークがインをついて上がってくる。ここがテンペストのすごいところだ。内ラチに沿って一気に前に向かいます。先頭は変わってローヤーロン。カーリンも外から伸びてくる!』

 

 

4番手となっていたテンペストクェークは第4コーナーの終わりで、後退するブラザーボビーを交わして、最内から一気に上がってきた。

 

 

『残り300メートル。先頭はローヤーロン。粘る粘る。外からカーリン、そして内からテンペストだ』

 

 

残り200メートルを切るころには、テンペストとローヤーロンとの競り合いが始まっていた。

 

 

『テンペストが並んだ!これは2頭の競り合いになった。しかし外からカーリンも伸びてくる。2頭かわすか!』

 

 

外から伸びてきたカーリンが残り100メートルを切ったあたりで競り合いを演じる2頭に並びかけ、抜かそうとした瞬間、高森騎手が一回だけ鞭を入れた。

 

 

『カーリンが差し切るか!いや、テンペストクェークが抜け出した。これはテンペストだ!カーリン間に合わない!テンペストクェークが先に抜け出した!』

 

『テンペストクェーク1着で今ゴール!2着はカーリン。3着はローヤーロンです』

 

 

残り50メートルほどで外から差し切ろうとしたカーリンだったが、叩き合いから抜け出したテンペストの加速をとらえることができず、アタマ差で2着となった。

 

 

『テンペストクェーク、伝統あるジョッキークラブGCS制覇です。米国GⅠ初制覇!そして日本勢初の米国、海外ダートGⅠ制覇です。芝もダートも関係ない。絶対王者が帰ってきたぞ!』

 

『前哨戦とはいえ、本当に強い馬です。テンペストクェークに走れない場所はないのでしょう。あとは本番に期待するだけです』

 

 

 

 

クールダウンが終わり、高森騎手とテンペストは歓声を受けながら藤山調教師のところに戻ってきた。

 

 

「お疲れ様です。よくやりました」

 

 

「ありがとうございます。もう、テンペストに死角はありません。彼が最強です」

 

 

「断言できるほどか……」

 

 

テンペストは疲れた様子を見せることなく、馬体のチェックをするスタッフたちに従っている。

 

 

「余力も残しました。切り札も軽く使えましたし、前哨戦として最高の結果です」

 

 

「まだ検査をしないとはっきりとはいえんが……」

 

 

藤山はテンペストの様子を見る。

まだ走り足りないといった感じで、闘志が一向に衰えていない。

 

 

「まだ走り足りないか?」

 

 

その通りだと言わんばかりに前足を掻いて軽く嘶く。

 

 

「次はぞんぶんに走らせてやるからな」

 

 

やっぱりこいつは強い奴だと再認識した藤山であった。

 

 

 

 

 

 




テンペストのダート適正が◎になった
スピードはもう上がらない
パワーはもう上がらない
闘志は最高潮だ
調子は絶好調だ
体力が30減った
二段階加速(米国ダート)を取得した

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