舞台「アサルトリリィ Lost Memories」のその後を妄想したお話です。

※ネタバレ全開なのでご注意ください。

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ロストしたいメモリーズ

 都庁での激闘から少し経ち、わたし――白井夢結――を含めた関係者たちはそれぞれの日常を過ごしていた。

 時折違う道を歩んでいるであろう咲朱お姉様のことを思うけど……あの人ならきっと大丈夫。

 だって変わってしまったとは言えわたしの尊敬したお姉様なのだから。

 

 

「夢結、大変だゾ!」

 

「何かしら梅?」

 

 

 一柳隊の控室で紅茶を飲んでいると普段の彼女からは想像できない程慌てている梅が飛び込んできた。

 まさかヒュージの襲撃?

 それにしては警報は出ていないようだけど。

 

「とりあえず来い!」

 

「あっ」

 

 ティーカップを机に置くが早いか手を引っ張られ行き先も分からず連行される。

 一体何なのかしら?

 

 

 

 

「ほら、早く中に!」

 

「食堂?」

 

 梅に言われるまま食堂の人だかりを掻き分け前に進むとそこには――

 

 

「琴陽、ご飯おかわり。大盛で」

 

「はい、ただいま」

 

 何故か百合ヶ丘の制服を着た咲朱お姉様と琴陽さんがいた。

 しかもイメージにそぐわないとんかつ定食とカツカレーを食べさらに琴陽さんにおかわりを取りに行かせている。

 

 それじゃあカツとカツがダブって……はぁ!?

 

「あ、夢結じゃない。流石百合ヶ丘は相変わらずご飯が美味しいわね」

 

「お、お姉様……」

 

「夢結様ごきげんよう。咲朱様、おかわりのご飯と漬物とカツサンドをいただいてきました」

 

「流石琴陽、気が利くわね」

 

「光栄です」

 

 何事も無く食事を続ける二人。

 周囲の人だかりのコソコソ話にわたしの名前も含まれているのが凄い気になるのだけれど。

 カツ、米、カレー+米、キャベツ、みそ汁、カツサンド――ノンストップなその食事はギガント級以上。

 え、そのタイミングで追いソースからの食塩!?

 わたしは何を見せられているのだろうか?

 いくら強化リリィは多くの食事を必要とするとしても……。

 上品で清楚で優しい過去の記憶が汚染されていく。

 

「ふぅ、ご馳走様」

 

「食後のお茶です」

 

「ありがとう」

 

 お茶を飲みながら爪楊枝を使う目の前の女性を実の姉だと認めたくなくなってきた。

 勝手に食堂のテレビで下品な内容のワイドショーを見て大笑いしないでほしい。

 

「何故百合丘に? それにその服装は」

 

 空気を読んで席を譲ってくれた琴陽さんの代わりにお姉様の前に座り思い切って聞いてみた。

 当然テレビは消してから。

 

「お金が無くなったの」

 

「はぁ!?」

 

「いやー、ゲヘナの研究所潰して現金ゲットしてたらやつら現金置かなくなりやがったの」

 

「そんなことをしてたんですか!?」

 

「で、私も琴陽も強化リリィってことを思い出して百合ヶ丘の理事長代行をおど、じゃなくてお願いして保護してもらったの♪」

 

 ……不穏な言葉が出かかった気がしたけれどこの際無視しよう。

 でもそれにしたって――

 

「実家の白井家に帰ればよかったのでは?」

 

「立派な自分のお墓あると気まずいというか……ゲヘナ時代にお父様が建設した要塞を何個か落としてるし」

 

「……それは確かに気まずいですね」

 

「でしょ? だから十三回忌くらいのタイミングで帰ろうかなーって。だから対外的には同姓同名扱いでよろしく♪」

 

 軽いな、おい。

 

「そういうわけで永遠の十八歳枠で参戦よ。どうせなら夢結のシュッツエンゲルになるのも悪くないかしら?」

 

「……わたしのシュッツエンゲルは美鈴お姉様だけです」

 

「あら、残念」

 

 あまり残念がっていない様子なのは結果が見えていたからだろうか。

 露骨にホッとした様子の琴陽さんが可愛い。

 

 

『それでこそ僕の夢結だよ』

 

「美鈴お姉様っ!?」

 

 幻聴で嫌というほど聞いた美鈴お姉様の声が聞こえた方を振り向けば百由、その手には因縁のダインスレイフ。

 しっかりけりを付けたのにまた幻聴だなんて……。

 

「あら、まだ成仏してなかったの?」

 

『しぶとさじゃ君に負けないからね』

 

 ダインスレイフと会話する咲朱お姉様、幻聴じゃなかった!

 喋るCHARM!?

 

「百由、どういうことなの!?」

 

「いやー、解析してたらついさっき急に喋りだして『夢結の危機だ』って」

 

「失礼な話ね。大事な大事な実の妹に危害を加えるわけないじゃない」

 

 いや、普通に殺されかけたような。

 死んだあとに強化失敗して生き返らなかったらどうするつもりだったんだろう?

 

「そもそもあなたが夢結から私の記憶を消したりあっさり死ぬから話がややこしくなったじゃない!」

 

「仕方ないだろ、僕だって強化の影響でギリギリだったんだから! ストーカー化した姉よりましさ」

 

「……溶鉱炉が良い? 日本海溝が良い?」

 

「おっと、血税八億円以上のCHARMを不法投棄して百合ヶ丘に居続けられるかな?」

 

 実の姉っぽい人と喋るCHARMがみっともなく口喧嘩。

 もう憧れの二人はいない……自室で泣いていい?

 

「もう、二人とも喧嘩は駄目なの!」

 

 そこへ割って入った梨璃に似た少女……今日はお盆だったかしら?

 

「Lどこに行ってたの?」

 

「梨璃に遊んでもらってた!」

 

「Lちゃん……待って……」

 

 そこへ疲れ切った様子の梨璃が。

 随分激しい遊びだったようね。

 

「咲朱お姉様、これはどういうことですか!? 彼女はあの時……それに性格が以前と違うような」

 

「私もよく分からないのよね。埋葬する場所が無かったから理事長代行にお願いして百合ヶ丘の墓地に埋めたら……生き返っちゃった♪」

 

「うわ……」

 

「引かないでよ! ちゃんと冷凍保存してたから腐ってないし! ノーゾンビ!」

 

「そういう問題ではありません! ……あなたは本当にL? それとも――」

 

「分かんない! でも梨璃や夢結ついでに楓と一緒にいると何だか懐かしい気がするの!」

 

 彼女の陽光を思わせる眩しい笑顔、これ以上詮索するのは野暮というものね。

 梨璃も満更でもなさそうだし一柳隊で面倒を見るというのもいいかも。

 

 

 ……異常事態だらけで思考がどんどん短絡的になってきているような。

 

 

「咲朱様、食堂で騒がれては困るのですが」

 

 流石にこれだけの騒ぎになれば生徒会が出てくるわね。

 オルトリンデ代行秦祀、愚姉が面倒を掛けてごめんなさい。

 

「あ、祀じゃない。ビール置いてない?」

 

「置いてません!」

 

 馬鹿は死ななきゃ治らないとは言うけど死んだら馬鹿になるのかしら?

 

 チラッ。

 

「何だい、夢結?」

 

「いいえ、美鈴お姉様も大分お変わりになられたようだと思いまして」

 

「そうだねー、強化リリィも末期になると常時生理みたいな気分だったからね。あの時は本当に殺してほしいと思っていたよ」

 

 言い方!

 

「今は新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のような気分さ♪」

 

 表現!

 

 もうあの頃のお姉様たちはいないのね……。

 

 

「そうだ祀、贈り物よ」

 

「えっ!?」

 

「こちらです」

 

 琴陽さんがどこからか抱きかかえてきたのは何の変哲もない灰色の毛の猫。

 色合いは祀に似てなくもないけど……いや、その前に食堂に猫を入れないで。

 

「♪~」

 

「あら」

 

 琴陽さんから飛び降りると祀の足に頬を擦りつけ始めた。

 初対面だというのに随分懐かれたわね。

 祀も何か感じるものがあったのか抱きかかえた。

 

「その子の個体名は山田、この前潰したゲヘナの研究所で保護したわ」

 

「山田……ちなみにそこで行われていた研究内容は分かりますか?」

 

「聞かない方が良いわよ?」

 

「…………リリィの細胞を動物に移植することでのスキル発現あたりですか?」

 

「……………………」

 

 祀の言葉に沈黙をもって答える咲朱お姉様。

 シルト候補の山田嬉詩さんの戦死のことは知っていると思うけど……まさか。

 祀の心中を察するといたたまれない。

 

「はぁ……あなたが無事着任していればどれだけの優れたリリィが育成できたことか」

 

「これからは片手間で血反吐を吐くレベルのスパルタ指導してあげるから期待しててね♪」

 

 祀の器の大きさに救われたわね。

 わたしだったら……ルナティックトランサー発動させてゲヘナ襲撃?

 

「ちなみに別のラボにいたクローンのМはルド女にクール便で送っておいたわ。記憶なんてズキュウウウンってキスすれば引き継がれるわよ」

 

 わたしの時と随分違う上にМって誰!?

 お願いだからルド女に喧嘩売らないで!

 

 

 

 

「あ、琴陽さんがいましたよ」

 

「本当ですか!?」

 

 今度は二水さんと……グラン・エプレの土岐紅巴さん。

 東京のガーデンの彼女が何故ここに?

 

「初めまして、グラン・エプレの土岐紅巴と申します」

 

「あ、はい、戸田琴陽です。ごきげんよう」

 

「早速本題に入らさせていただきますが、下北沢防衛線では当方の今叶星がお世話になったそうで」

 

「いや、それは、その」

 

 普段の紅巴さんとはまるで別人のような言葉遣いと圧倒的殺気。

 思わずCHARMを探して……いや、あのダインスレイフは使いたくない。

 持っただけで精神汚染されそう、ねちゃっと。

 

「わたしも以前御台場女学校で学んだ身として是非手合わせをお願いしたく」

 

「待って――」

 

「その話を御台場の旧友にしたらなんと御台場百人組手が開催されることになりました。こちら招待状になります」

 

「一人のリリィが百人のリリィとCHARMありレアスキルありのタイマン! 御台場の伝統を生で見られるなんて感激です~」

 

「ちょ」

 

「琴陽さんも満足いただける様に御台場の精鋭は勿論のこと船田予備隊も久しぶりに勢揃いとなりますので」

 

「これは大変名誉なことですよ! あ、ちゃんと食事は出るので武装だけしてきてくださいね♪」

 

「………………」

 

「当日が楽しみですね。もし当日交通機関が使えなくても地球の裏側だろうがネストの中だろうがお迎えに参りますのでそのつもりで」

 

「早速リリィ新聞の号外を出しますね。見出しは『季節外れの大型編入生、御台場百人組手に勝機アリ!? 船田予備隊緊急参戦の裏側!!』」

 

「………………ピー」

 

 あ、琴陽さんの魂が抜けかかってる。

 あなたがいなくなったら誰がこのなんちゃって女学生と駄剣の面倒を見るというの?

 

 

 ……こうなったら生き残れるように一柳隊全員で鍛え上げるしかないわね。

 

 

 大丈夫よ、助けられなかったあなたの親友の為にも全力でしごくから!




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<備考>

白井夢結:周りがやばいせいで強制的に自立、若白髪が増えたともっぱらの噂。

白井咲朱:燃費が最悪だが三分間だけなら最強クラス、妹愛が重すぎてパスを受けられるリリィがいないためフィニッシュショット要員。

川添・ダインスレイフ・美鈴:レアスキルの使えるチートCHARMだが鹵獲が怖いのでお留守番が多い。

戸田琴陽:51勝49敗で乗り切るも船田姉妹に気に入られ度々呼び出される。

M:全裸で配送、キスやらリボンやらで記憶が継承されるも争奪戦が起こりまたルド女崩壊。

今回の話は?

  • アルトラ
  • ギガント
  • ラージ
  • ミドル
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