機動戦士ガンダムSEED Illusion 作:ファルクラム
色とりどりのハロ達を庭に放つと、ラクスはテラスへと戻ってきた。
そこで待っていたのは2人の少年。
1人は彼女の婚約者であるアスラン・ザラ。
そしてもう1人、緑色の髪をした少年がいる。
彼の名はニコル・アマルフィ。プラントでも有名な少年ピアニストとして知られ、ラクスとも何度か共演している。
アスランともラクスを介して知り合い、今ではすっかり良い友人になっている。
「楽しそうですね」
庭で飛び跳ねるハロ達を見て、二コルは言う。
「確かにな」
それには、アスランも苦笑交じりに同意する。
あのペットロボットには感情などという機能はないはずだが、確かに風景だけを見れば、楽しそうに遊んでいるように見える。
2人と対面になる場所に腰かけ、ラクスも自分のカップを手に取った。
「戦争が、大きくなっている気がします」
そう告げるラクスの目は、悲しげに沈んでいる。
「そうですね。僕の周りからも、志願する者が増えていますよ」
「皆さんが、仲良くして行ける世界ならいいのですが」
ニコルの言葉に頷きながら、ラクスは言う。
「アークエンジェルにいた時に私を助けてくれたキラ様やエスト様のように、誰もが手を携える世界が来れば、戦争など起こりませんのに」
「確かに、そうですね」
言ってから、軍人の自分が肯定すべきせりふじゃないな、とアスランは苦笑を洩らす。
ラクスの言葉は、優しい彼女だからこその理想論だ。すでに引き金は引かれてしまった。あとは、互いの弾丸が胸を貫くまで銃火が止む事は無い。
そして何より、アスラン自身、引き金を引いた側の人間なのだと言う事を自覚せずにはいられなかった。
1
ザフト、アフリカ方面軍司令官アンドリュー・バルトフェルドは、常に余裕を湛えたこの男にしては珍しく、不機嫌の極地にあった。
間もなく、アークエンジェル・レジスタンス連合軍との決戦が始まろうとしている。しかし、バルトフェルド隊はこれまでの戦いで主力となるモビルスーツを多く消耗しており、作戦遂行に支障が出始めていたのだ。その為、決戦に当たり兵力補充の申請をザフト、ヨーロッパ方面軍の本部が置かれているジブラルタル基地に出し、その戦力が先程届いたのだが、
「どうしてザウートなんかよこすかね? バクゥは品切れか?」
「はあ、これ以上は、回せないとの事です」
ダコスタも困ったように言葉を濁す。
バルトフェルドは、できればバクゥをもう5~6機回すように申請したのだが、持ち込まれたのは、重砲撃型の可変モビルスーツ ザウートだった。バクゥの前に陸戦の主力を務めたモビルスーツであるザウートは人型形態とタンク形態に変形可能で、高い火力と装甲を誇るのだが、いかんせん、機動性は極端に鈍い。良く言って移動砲台と言ったところだ。
高速機動戦術を好むバルトフェルドとしては、正直、お荷物をよこされたに等しいのだが、この際、バルトフェルドには現有戦力をうまく運用する事が求められる。敵は少数とはいえ精鋭。大軍で当たったとしても油断できる相手ではない。
その時、指令室のドアが開き、小柄な少女が入ってきて敬礼した。
「バルトフェルド隊長、ブリッツの整備、完了しました」
ライアだった。既にその小柄な体は赤いパイロットスーツに包まれ、出撃の時を待っていた。
今回、彼女のブリッツは、砂漠戦仕様に調整され投入される事になっている。戦力的に優位のように見えて、その実はギリギリの戦いを強いられるバルトフェルド隊である。使える物は何でも使わねばならない。ましてや最新鋭機動兵器であるGATシリーズ。使わない手は無い。
「ご苦労さん。何とか間に合ってくれて何よりだ」
そう言って、ライアを労う。彼女もまた最終調整で明け方近くまで頑張っていたのだ。それから少しだけ休んで出撃準備に入ったのだ。若い体には隠しきれない疲労も残っている事だろう。
「調子はどうかな?」
「はい、ありがとうございます。大丈夫です」
答える返事にも張りがある。疲労はあるかもしれないが、それを押し込めるくらいの余裕はあるらしい。それどころか、因縁の敵を相手に戦意は高いようだ。
彼女の機体が間に合ってくれた事だけが、現状で唯一の明るい材料と言える。
使える戦力は、戦艦3隻、モビルスーツ20機。後はヘリ等の航空戦力となる。
作戦書類を机の上に投げ出し、バルトフェルドは大きく伸びをすると、テーブルの上で手を組み直した。
「少々気に食わんが、これでこちらの体勢は整ったと言う事にしよう」
鋭く光る瞳は、これから始まる「狩り」を待ちわびている獣その物と言える。
剣呑さと共に感じられる、この上ない頼もしさ。絶対的なカリスマに寄せられる。
これこそが砂漠の虎。
これこそがアンドリュー・バルトフェルドなのだ。
艦内通信機が呼び出し音を発したのは、その時だった。
《隊長、レジスタンスの基地に動きがありました。基地を出た後、東へ向けて進行中です》
その報告を聞いて、バルトフェルドは頭の中で地図を思い浮かべる。この地方の地形データは、全て頭の中に入っている。そこからレジスタンスの進撃予想路を割り出す。
「タルパティア工場区跡地へ向かっているか。まあ、そうだろうな。僕が彼らでも、そこを目指すだろうし」
「どんな場所なんですか?」
「元はレアメタル採掘用の工場だったんだが、今は閉鎖されて放置されている。地形的に複雑なせいで、ゲリラ戦向きの場所と言えるだろうね」
尋ねたライアに、ダコスタが答えた。
「もっとも、それは彼等にだけ許された特権ってわけじゃないんだけどね」
後を継いだバルトフェルドの言葉が、低く指令室の中に響いた。
食べる事ができるうちは、まだ大丈夫。とは父の教えである。
もっとも、本当の父ではなく育ての親なのだが。
ケバブを片手にしながら、キラは鮮烈すぎた父の事を思い出していた。
キラは本当の両親の事は何も知らない。まだ赤ん坊の頃に、乗っていた飛行機が墜落した為に死んだと聞かされている。
その事故はひどい物で、キラ以外の生存者は誰もいなかったらしい。キラが助かったのも奇跡と言われている。
もし父が、その時既に大西洋連邦相手に活動していた養父が、たまたま事故現場近くを通りかからなければ、幼いキラの命もまた失われていた事だろう。
ケバブを口に運ぶ。これが戦闘前の最後の食事となるだろう。後は帰って来てからと言う事になる。
無論、帰って来れればの話だが。
傍らでは、準備を整えたエストが同じようにケバブを口に運んでいる。
現在、走るバギーを眼下に従えて、アークエンジェルは戦場へと向かっている。格納庫内は、マードック曹長を中心に、機体の整備に余念が無い。
こちらの戦力は、シルフィードとストライク。そして3機のスカイグラスパーとなる。
キラの考えでは、まともな戦力と考えていいのは、この5機だけだ。カガリやサイーブ達には悪いが、レジスタンスの戦力などあてにはできないだろう。
戦力比を計算した上で、キラは自分の中で採り得る作戦を検討していく。
やはり基本は、機動力の確保。いかに素早く、敵のバクゥを殲滅できるかがカギと言えた。
そこで、ケバブを口に含む。
「・・・・・・あれ?」
「どうしました?」
傍らでドリンクに口を付けていたエストが、突然のキラの声に振り返る。
そのキラはと言うと、手の中にある食べかけのケバブを不思議そうに眺めている。
「いや、ヨーグルトソースも、なかなかおいしいね」
「・・・・・・虎に毒されましたか?」
バギーに揺られながら、カガリは胸に下げた首飾りを眺める。
これは出撃前に、死んだアフメドの母親がカガリに手渡した物だった。
「綺麗な石だね」
傍らでライフルを持つユウキが、覗き込むようにして言った。
「アフメドが、私にって」
「・・・・・・そっか」
アフメドの名前を聞いて、ユウキも言葉を濁した。
あの元気で勇敢な少年は、もういない。ザフトの攻撃を受けて死んでしまった。
しかし、彼の想いは、今もこうしてカガリを守り続けている。
天を振り仰ぐユウキ。届かずとも、祈らずにはいられない。
願わくば、これから始まる凄惨な戦いから、我等の女神を守りたまえ。
異変が起きたのは、主戦場であるタルパティア工場区跡地まで、あと2時間ほどという地点まで来た時だった。
突然、轟音と共に、地平線に火の手が上がったのだ。
「止まれ!!」
先頭を行くサイーブが手を上げて、部隊を停止させる。
炎は地平線を埋め尽くすほどの規模を誇っている。しかし、その火がこちらまで飛び火してくる事はなさそうだ。
だが、
「うろたえるな。攻撃を受けたわけじゃないぞ!!」
遠方に立ち上る炎の壁を、誰もが呆然と眺めている。
確かに攻撃を受けたわけじゃない。だが、同時に何が爆発したのか、その場にいた全員が理解していた。
地雷である。レジスタンスがタルパティアを戦場にしようとした理由は、地形の複雑さもさることながら、そこに仕掛けられた大量の地雷の存在が大きかった。それを利用しない手は無いと考えたのだ。
しかし、その作戦は虎に読まれていた。バルトフェルドは先手を打って、邪魔な地雷の除去を行ったのだ。
炎の規模から言って、地雷原は全滅とみて良いだろう。
連合軍は完璧な形で先制攻撃を食らってしまった。
勿論、地雷など無くても戦いようはある。しかし、レジスタンスにとっては最大の武器とも言える地雷を失った事による心理的ショックは計り知れなかった。地雷無しでモビルスーツと戦う無謀さは、彼等も先日の戦いでイヤと言う程に知っていた。
「虎もいよいよ、本気で牙を剥いて来たな」
サイーブの言葉が、沈黙の中にハッキリと響いた。
確かにそうだ。これまでバルトフェルドは、戦いながらもどこか手を抜いたような対応をする事が目立っていた。しかし、今回は違う。予めこちらの有利となる要素をつぶし、自分のテリトリーの中で戦おうとしている。
これまでのようには行かないかもしれない。
しかし、
カガリは手にしたライフルに力を込めて握る。
良いだろう。望む所だ。今日はとことんまでやってやる。
「だから、1号機にランチャー、2号機にはソード、3号機には例の新型だって言ってるだろ。何でって・・・換装するより、俺が直接乗り換えた方が速いからだよ!!」
艦内通信機相手にムウが怒鳴っている。どうやら、スカイグラスパーの武装に関して整備班に注文を入れているらしい。
ストライカーパックを装備可能なスカイグラスパー3機は、整備が完了し、このほどようやく全力発揮が可能となった。
本体であるストライクを操るエストは、初期装備としてエールストライカーを選んだため、残るはランチャーと、ソード、そして合せて整備完了した新型と言う事になる。
そこでムウは、いちいち換装を行うよりも、自分が艦に着艦して機体を乗り換える案を出したのだ。
指示を終えたムウは、キラとエストに向き直った。こちらも既に出撃準備は万端である。
「連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんか当てにならないだろう」
その意見にはキラとエストも同じなので、黙して頷きを返す。
そんな2人の肩を、ムウは笑って叩く。
「お前等も踏ん張れよ。まあ、お前達なら大丈夫な気もするがね」
ムウがそう言った時だった。
「あの~、これで、良いでしょうか?」
躊躇いがちに顔をのぞかせたのは、リリア・クラウディスだった。しかし、整備班に所属し、本来なら今頃、各機体の最終チェックに携わっている筈の彼女が、なぜかパイロットスーツを着て立っていた。
そんなリリアに、エストが近付き、不備が無いかチェックする。
「問題ありません。機密漏れなどもありませんし」
「そう、良かった」
彼女はこれから、キラ達と一緒に出撃する事になる。
先日の事だ。機体と共に艦に持ち込まれたスカイグラスパーのシュミレーターが完成したので、皆で「試乗」してみる事になった。
何しろ、ここまで娯楽らしい娯楽が全く無い状態だったのである。皆、ゲーム感覚でシュミレーターにかじりつき、一喜一憂しながら見守っていた。
その結果、上位3人は、1位がカガリ、2位がリリア、3位がトールとなったのだが、この中から1人、正式にスカイグラスパーのサブパイロットにしようと言う意見が出たのだ。
戦力不足のアークエンジェルとしては、藁にもすがりたい気持であったのだ。
まず、1位のカガリは、トップを独走している状態であったが、部外者と言う事で除外、3位のトールも艦の副操舵士として重要な役割があると言う事で候補から外れた為、自然、リリアがパイロットとして戦場に出る事となった。
そんなリリアを、キラは優しく肩をたたく。
「大丈夫。戦場では僕達もフォローするし。リリアは、絶対ムウさんから離れないようにしているんだよ」
「う、うん」
「君には2号機に乗ってもらう事になる。2号機はソードストライカーを装備しているが、あまり性能を過信しすぎないように。まずは自分の身を守る事を第一に考え、要請があり次第、可能なら支援に回るようにするんだ」
「は、はい」
ムウからも声を掛けられ、上ずったように返事を返すリリア。
見るからに危なっかしいが、一線兵力にも事欠いているアークエンジェルとしては、こうした窮余の一策も止む終え無い処置だった。
そんなやり取りを横目に見ながら、キラは戦場の先で待っている相手に想いを馳せる。
アンドリュー・バルトフェルド。砂漠の虎。
あのバナディーヤでの一時だけで、キラ達に強烈な印象を植え付けていった相手。今度は確実に、あの人が出てくる事だろう。
倒さねばならない。倒さねば、先に進む事ができない。
ふとすれば迷いそうになる気持ちを、キラは頭を振って振り払う。
迷うな。主力の一翼を担う自分が迷えば、戦線は維持できない。
その時、スピーカーからミリアリアの声が聞こえて来た。
《フラガ少佐、ヒビキ少尉、リーランド准尉、クラウディス二等兵は、搭乗機にて待機してください》
一同は、それぞれの目を見て頷き合う。
いよいよ、決戦の幕開けだった。
2
レセップスからバクゥが次々と発艦していく。
4足でキャタピラ走行するこの陸戦型モビルスーツが、今回の戦いでもバルトフェルド隊の主力となる。
他にも支援用の航空兵力が上部甲板から飛び立っていく。
ただし、ザウートやデザートジンと言った機動性に難のある機体は、全て甲板上に配置して、地面には下ろさない方針である。どのみち、アークエンジェル側も航空戦力を拡充させている情報は掴んでいる。単独で出しても、爆撃で食われるのがおちである。
それでも絶対的な量においてはバルトフェルド隊が大きく上回っている。これならば勝てるはずだ。
既にレジスタンス側の切り札である地雷原は、文字通り根こそぎ潰してある。となると、レジスタンスの戦力は考慮の外に置いても良いだろう。残る脅威は、アークエンジェルとその艦載機だけだった。
「向こうの準備の方はどうだい?」
バルトフェルド自身も虎柄のパイロットスーツに身を固め、出撃の時を待っている。総力戦となる今回は、彼自身も出撃するのだ。既に専用機の出撃準備も整っている。
更に今回は、力押しだけではない。レジスタンスは意気揚々と、バルトフェルドが張り巡らした罠の中に飛び込んで来るのだ。
ここに来た瞬間、彼等は「砂漠の虎」の異名が、単なるパイロットの腕を指しての身言う言葉ではないと知るだろう。
《既に配置が完了しているとの事です。ご命令があり次第、行動を開始できます》
「ご苦労さん。そのまま待機って伝えといて」
通信を切ると、バルトフェルドは振り返った。
そこにはバクゥと同タイプの機体が鎮座している。ただし、デザインはバクゥよりも鋭角的で、よりシャープな外観をしている。
バルトフェルドのパーソナルカラーであるオレンジに塗装されたこの機体は、口部にビームサーベルを装備し、背部には連装ビームランチャーを備えている。奪取したXナンバーの技術を転用したのだ。
TMF/A803「ラゴゥ」。バクゥをベースに強化し、指揮官専用にカスタマイズされた新型機である。
見上げて惚れ惚れする。元々バルトフェルドは、バクゥという機体に惚れ込んでいる。このラゴゥは、そんなバルトフェルド自身の美意識を完全に満足させていた。
勿論、外見が良いだけではない。現状の技術力でギリギリまで強化改造が施されており、その高性能ゆえに、この機体を完璧に使いこなせるのは、4足型モビルスーツの扱いに習熟したバルトフェルドだけと言われている。
「アンディ」
聞き慣れた耳に心地よい声に誘われ振り返ると、同じようにパイロットスーツを着込んだアイシャが歩いてくるのが見えた。彼女はサブパイロットとしてラゴゥに乗り込み砲撃手を務める。
「あの子達、出てくるのかしらね?」
「間違いなく、な」
バルトフェルドの脳裏には、先日、お茶の席を共にした子供達が思い浮かべられた。
本当に、眩しいぐらい真っ直ぐな気性と瞳を持った少女。
無風に舞う蝶のように穏やかかと思えば、その内面に蜂よりも鋭い針を持つ少女。
そして、
忌まわしき大量殺戮者。狡猾かつ残忍なテロリスト。しかし、そんな事を全く感じさせないような弱々しさを持つ少年。
皆が皆、年齢相応の危うさと、初々しさを持つ者達だった。
そんな彼等と、自分は今から戦わねばならないのだ。
「・・・・・・肩入れし過ぎているかな?」
「いいえ、でも、敵よ」
アイシャの微笑の籠った指摘に、バルトフェルドは「ああ、そうだな」と苦笑交じりに返した。
そう、戦うのが嫌なら、あの時捕まえて、監禁でもしておけばよかったのだ。だが、バルトフェルドは彼等を帰してしまった。帰せばこうなる事が判っていたにも関わらずだ。
ならば、今日のこの日は間違いなく、バルトフェルド自身が望んだ必然である。
ならばこそ、悔いが残らない結果を目指そうではないか。
「さて、行こうか」
「ええ」
2人は頷き合うと、鎮座するラゴゥへと足を向ける。
心なしか、魂を持たない筈の鉄の獣が、歓喜の咆哮を上げた気がした。
BWSを搭載したシルフィードが、スタビライザーを広げて上空へ飛び立つ。
既にスカイグラスパー2機とストライクは先行して発進している。
両軍は間もなく接触し、戦端が開かれる事になる。
モニターには、接近してくるザフト軍の姿が映し出されている。その布陣を確認しながら、キラは当初の作戦通りに行動に移す。
「バクゥは・・・・・・6、7機か!!」
まずは、これを殲滅する。そうすれば、戦況を優位に進める事ができる筈。
ビームライフルを構え、キラはシルフィードのスピードを上げる。
接近すると同時に、向かってくる火線が増大する。
キラは迷わずに、機体をその中へ飛び込ませた。
アークエンジェルもまた、全火力を開放して向かってくる敵戦艦へと砲撃を行っている。
敵艦は2隻。レセップスと、それよりも小型の、ピートリー級と呼ばれる中型陸上戦艦である。
隻数、火力においては連合軍が劣っている。キラ達はどうにか、早い段階で敵の機動兵器を殲滅し、アークエンジェルの援護をしなくてはならない。加えて、地上で戦うレジスタンスの援護も並行して行わなくてはならないのだ。
「ゴットフリート、撃てェ!!」
マリューの命令と共に、4門の主砲を放つアークエンジェル。
対抗するように、レセップスも主砲を放つ。
レセップスの主砲はアークエンジェルとは違い、実弾を用いている。重量の問題等があり、一見すると非効率のようにも見えるが、大気による威力減殺が無い分、大気圏内ではむしろこちらの方が効率が良い。
激しい砲撃がアークエンジェルの装甲を叩き、きしみを上げる。
勿論、アークエンジェルからの砲撃も、レセップスに命中していく。
互いに身を削るような砲撃。
だがアークエンジェルもレセップスも、1歩も下がらずに砲撃を続行する。
「ECM、ECCM強度、17パーセントまで上がります!!」
「バリアント、砲身内温度、危険域に入ります!!」
その報告を受けて、CICを預かるナタルが叫ぶ。
「艦長、ローエングリンの使用許可を!!」
陽電子破城砲を使って薙ぎ払えば、敵艦を一撃で沈める事ができる。しかし、それとは別に問題がある。
「ダメよ。あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ!!」
「しかし!!」
「ゴットフリートと、バリアントのチャージサイクルで対応して!!」
この命令に、ナタルは納得がいかない。汚染がどうの言う前に艦が沈んでしまっては元も子もないではないか。
それでも命令である以上、ナタルとしては手持ちの兵器のみで戦う事が求められた。
逡巡と不満を一瞬で抑え込み、ナタルは砲戦の指揮を続行する。今はともかく、戦術論議などをしている場合では無い。
その間にも両軍は激しい砲火を繰り返している。
地上を走行するバクゥが、レジスタンスの車両を追いかけまわしている。
レジスタンス達は必死に砲撃を繰り返しているが、迫撃砲やロケット弾を命中させた所で、バクゥの装甲相手には蚊に差された程度の威力も期待できない。その間にも圧倒的なスピードで距離を詰めるバクゥ。
あわや轢き殺されるか。そう思った時、
シルフィードは高速で舞い降りると、手にしたビームライフルでバクゥを背部から撃ち抜いた。
背中をビームで貫通され走行を保てなくなったバクゥは、急停止するようにしてうずくまると、そのまま爆発四散した。
この時点で既に、キラが3機、エストが1機、バクゥを仕留めている。
既に地上戦に慣れている2人の圧倒的な戦闘力は、数と経験で勝るザフト軍を相手に互角以上の戦いを見せていた。
更にキラは、シルフィードを飛翔させる。
同時に、右腕の高周波振動ブレードを展開、すれ違いざまにバクゥの機体を真っ二つに斬り捨てた。
残ったバクゥは、シルフィードを強敵と見たのか、集中的に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、それは背後を疎かにするという事を意味している。
砲撃を仕掛けるバクゥの背後から、エストのストライクが高速で接近すると、すれ違いざまにビームサーベルを突き刺し、そのまま上空へ舞い上がる。
一拍の間を置いて爆発するバクゥ。
残りは1機。
シルフィードはビームライフルを抜いて突撃する。
対抗するように、口部のサーベルを展開するバクゥ。
振るわれる光刃。
しかし、それよりも一瞬速く、キラはいなすように機体を急上昇させると、バクゥの首を蹴り飛ばした。
カメラを失い迷走するバクゥ。そのエンジン部めがけてライフルを放った。
ややあって、エンジン部分を打ち抜かれたバクゥは、大爆発を起こして炎上する。
その様子は、シルフィードのコックピットに座するキラからも見て取れた。
「これで、7機!!」
これまでの経験から、キラとエストの技量は格段に上がっている。もはや、ザフトのエース級と比肩しても遜色無いほどであった。
バクゥは全滅。これで敵機動戦力の主力は掃討した。
後は敵艦に総攻撃を掛けるだけ。誰もが、そう思っていた。
後方で戦況を見守っていたバルトフェルドの口から、罠を閉じる命令が下されるまでは。
ザフト軍の戦線を始めに突破したのは、ムウとリリアであった。
速度に物を言わせて強引に敵艦に肉薄した2人は、戦艦ピートリーへと機首を向ける。
《行くぞ、お嬢ちゃん。遅れるなよ!!》
「は、はい!!」
ムウの叱咤を耳にしながら、リリアは遅れないようにスロットルを上げる。
ピートリーは盛んに対空砲火を吹き上げ、スカイグラスパーの接近を阻もうとするが、2機は高い機動力で持ってそれを掻い潜る。
《喰らえ!!》
鋭い叫びと共に、ムウは急降下の体勢から装備したアグニを放つ。
「行きます!!」
同時にリリアもソードストライカーのアンカーを射出。更にシュベルトゲベールを展開して斬り込んだ。
ピートリーは主砲をリリアによって切り裂かれ、更に機関部に砲撃を受けて速度が大幅に低下した。
《よっしゃ!!》
煙を噴き上げ落後していくピートリーを見て、ムウは喝采を上げた。
同時に、リリアはホッと息をついた。初めての実戦に、全身から嫌な汗が噴き出るのを止められないでいる。
キラやエストは、いつもこんな世界にいるのか。と、今更ながらに恐怖感が湧いて来た。
手が震える。足が震える。しっかりと操縦しなきゃ墜落すると言うのに、体が言う事を効かなかった。
その時、
《リリア!!》
ついさっきまで聞いていたはずなのに、ひどく懐かしさを感じる声が耳に聞こえて来た。
「キラ?」
《無事みたいだね。良かった》
本当に安堵したような声。この声によって、自分がどれほど救われたか。
不意に流れる涙を止められない。
《・・・リリア、どうしたの?》
黙ったままのリリアが心配になったのだろう。キラがさらに尋ねてくる。
「・・・・・・じゃない」
《え、何? 聞こえないんだけど・・・・・・》
「無事な訳無いじゃない!!」
溜め込んだ物を吐きだすように、リリアは大声でわめいた。
これまでに溜めこまれた、あらゆるストレスが言葉となって流れ出て来る。
「いきなり戦闘機に乗せられて、いきなり戦わされて。それのいったい、どこが無事だっていうのよ!?」
《リリア・・・・・・》
「私達、ついこの間まで、ヘリオポリスにいたのよ。普通に学校行って、普通に勉強して、普通に友達と遊んで・・・・・・それなのに、それなのに・・・・・・」
愚痴に近いリリアの言葉を聞いていたキラ。
しかし不意に、その視線が鋭くアークエンジェルの方に向いた。
《ごめん、リリア。どうやら、悠長に話している場合じゃないみたい》
「え・・・・・・」
リリアの視界の先で、レセップスに向かっていたシルフィードが身を翻すのが見えた。
釣られたように、リリアもアークエンジェルへ視線を向けた。
そこには・・・・・・
突然の砲撃に、アークエンジェルの艦体は大きく傾いだ。
主操舵士のノイマンが必死に立て直しを図るが、一度慣性のついた艦体は高度を維持できず、そのまま工場跡地へと流れていく。
「6時の方向に、新たな敵影!!」
レーダーを見ていたトノムラの声が、冷水となってブリッジクルーの背中を打つ。
モニターには、断崖の影から突如として現われた巨影が映し出されている。
バルトフェルド隊に所属する、もう1隻のピートリー級戦艦が、アークエンジェルの背後に回り込む形で姿を現わしていた。
「まさか、もう1隻伏せていたの!?」
マリューが驚愕と共に叫ぶ。
これがバルトフェルドの作戦だった。レセップスを含む本隊で敵主力を引き付け、その間に別働隊が母艦を叩く。その為に、航空戦力の6割を別働隊に割いていた。
Nジャマーの影響と、戦闘の喧騒により、連合軍側は誰もバルトフェルドの作戦に気付かなかった。虎はこの場所を、完全に自分の「巣」に造り替えていたのだ。
背後からの攻撃に、アークエンジェルは成す術も無いままその巨体を工場跡地に突っ込んでしまった。
そこへ、レセップスからの砲撃も加わり集中される。
これで、アークエンジェルは前後を敵に挟まれた形となってしまった。
「砲撃、来ます!!」
「回避!!」
「撃ち落とせ!!」
マリューとナタルが同時に命令を下すが、そのどちらも実行不可能だった。
身動きも取れず、防御火器も射線が取れないでいる。
2隻の戦艦から放たれる砲撃は、防ぐ術の無いアークエンジェルへと直撃して行く。
その様子は、前線にいる機動部隊でも確認できた。
《くそっ、急いで戻るぞ!!》
ムウの命令を聞くまでも無く、既にキラ達は来た道を戻り始めている。
エストもまた、ストライクの機首を返して戻り始めている。
とにかく、今は一刻も早くアークエンジェル援護へ赴かねばならなかった。
だが、その様子を虎視眈々と狙う目があった。
「ふうん、残念。掛かったのはあんたか。まあ、良いけど。華は隊長に持たせましょう」
エストには聞こえない呟きは、ライアから発せられたものだ。
次の瞬間、自身を隠す幻影をはぎ取った黒い電撃が、砂塵を走った。
その存在にエストが気付いたのは、相手が足元に迫ってからだった。
「あれはっ!?」
視界の端に映った黒い機体。それは、宇宙で何度も遭遇し、砲火を交えた因縁の機体。
「ブリッツ!?」
「貰ったわよ!!」
ブリッツは戦闘の初期からその場にあり、罠の発動までミラージュコロイドを展開して伏せていたのだ。母艦が挟み撃ちにあえば、必ず機動兵器が救援に動く。そこを突く為にだ。
ブリッツはミラージュコロイドを解除、同時にPS装甲を展開して飛び上がると、ストライクの背後に出た。
「クッ!?」
とっさに機体を捻るように操るエスト。
しかし、遅い。
ビームサーベルを展開したブリッツの一撃により、エールの右翼が切り裂かれた。
バランスを失い、砂地に突っ込むストライク。
そこへ、今だ空中にあるブリッツは、ライフルで攻撃を仕掛ける。
「ッ!?」
とっさにスラスターを全開、バランスを無視して射線から逃れるストライク。
そこへブリッツから、容赦無い追撃が来る。
構えようとしたライフルは、それよりも早く放たれたブリッツのビーム攻撃によって破壊される。
ストライクはシールドを掲げて防ごうとするが、その間にブリッツは距離を詰めに掛かる。
とっさにサーベルを抜き放って迎え撃つストライク。
互いの剣が、砂塵の上で交錯した。
一方、キラもまた、横合いからの攻撃に、アークエンジェル救援を断念せざるを得ない状況にあった。
砂塵を掻き分けて迫る機体は、鋭い軌道を描きながら向かって来る。
「バクゥ、いや違う・・・・・・指揮官機。あの人か!?」
バクゥよりも精悍な印象のある4足歩行型モビルスーツ。
明らかにバクゥとは一線を画す、カスタマイズが施された機体。まるで鋼鉄製の虎のような機体に乗っている人物が誰であるか、悟るのにキラは半瞬の時間もいらなかった。
ラゴゥのコックピットの中で、バルトフェルドは機体を操りながら、ようやく強敵と対等な条件で対峙できた事に、無上とも言える喜びを感じていた。
この前戦った時は自分の専用機ではなく、数も3対1だった。だが、今日は違う。完全なる1対1。しかも向こうも、そして自分も専用機での戦いである。これで高揚するなと言う方が無理だ。
「なるほど、良い腕ね」
砲手席のアイシャが、冷静な声で伝えてくる。それを聞いたバルトフェルドは、まるで自慢の玩具をほめられたように嬉しい気分になった。
「だろう。今日は落ち着いて戦っているが、この前は、もっと凄かった」
本当に楽しい。自分が全力を出せる相手など、否、全力を出しても勝てるか判らない相手など初めてのことだった。
そんなバルトフェルドを見ながら、アイシャは不思議そうに口を開く。
「どうして、嬉しそうなの?」
「何?」
「辛いわね、アンディ。ああいう子、好きでしょうに」
その言葉に対して、バルトフェルドは何も言い返す事ができなかった。それは、アイシャの言葉が図星を突いているからに他ならない。
そうだ、バルトフェルドは確かに、あの子供達に好感を抱いている。できるなら、別の形で出会いたかったと思うほどにだ。
しかし、それは最早、叶わぬ事であった。
自分達は戦場で、異なる陣営の者として出会ってしまった。ならば後は、砲火を持って交えるしか道は残されていない。
右腕のブレードを展開して向かってくるシルフィードに対し、バルトフェルドもラゴゥを走らせる。
既に、互いに退けぬ所まで来てしまっているのだ。
ラゴゥの口部に装備したビームサーベルを展開、自身も突撃する。
その間にも、アイシャが背部のビームランチャーを放つ。複座機の強みはここにある。1人が操縦と格闘戦に集中し、もう1人が砲撃を行う。まさに、隙のない攻撃だった。
対してシルフィードもBWS展開し応射するが、その間に機体は停止せざるを得ない為、そこに集中攻撃を食らってしまう。当然、まともな照準は望めない。
「クッ!!」
キラはシルフィードを上空へ飛びあがらせると、ビームライフルを放つが、対抗するようにラゴゥも跳躍、サーベルで斬り掛って来る。
キラの放ったビームを全て回避し、ラゴゥはシルフィードへと迫る。
とっさにブレードを展開するシルフィード。
しかし、
「遅いぞ、少年!!」
ラゴゥの鋭い一撃と共に、高周波振動ブレードは、刀身の半ばから断ち切られた。
「クッ!!」
とっさに後退しながら、ライフルとBWSで応戦するキラ。しかし、後退しながらの攻撃なので、ラゴゥには掠りもしない。
その間に体勢を整えたバルトフェルドは、地上でラゴゥを安定させる。そこへ、アイシャが遠距離から狙撃し、シルフィードのビームライフルを破壊した。
「チィッ!!」
またたく間に主武装2つを破壊されながらも、どうにか体勢を立て直したキラは、腰からビームサーベルを抜き放つ。
額に、汗が流れるのを感じた。
強い。
これまでに戦ったどのパイロットよりも、それこそアスラン達よりも強いかもしれない。
だが、ここで負けられないのはキラも同じである。
スラスターを全開にして突撃。
振るわれる刃が交錯するが、互いにダメージを与えられないままにすれ違う。
「クッ!?」
「チィッ!?」
互いに舌打ちしながら、相手を見る。
バルトフェルドが機体を走らせながら、アイシャが砲撃を行う。
対してキラも急旋回しながら射線をかわし、隙を見て斬り込みを掛ける。
互いに1歩も譲らない。
応酬は幾度となく続けられた。
アークエンジェルへの攻撃は、いよいよ激しくなり始める。
装甲が軋みを上げ、衝撃は艦内にも及んでいる。
それに対する反撃は、沈黙を余儀なくされている。翼端が廃工場に引っ掛かったせいで身動きが取れず、主砲の射線を確保できないのだ。
「スラスター上昇!!」
「やってます。けど・・・・・・」
ノイマンはどうにか艦を上昇させようと奮闘しているが、スラスターは鈍い唸りを上げるだけで、艦体が浮きあがる気配は無い。
その様子は、地上で奮戦するレジスタンスからも見て取れた。
「アークエンジェルが!!」
まるで悲鳴を上げているかのような巨艦の様子に、カガリが声を上げた。
手持ちの弾薬を撃ち尽くし補給に戻る途中だったのだが、その途中での惨状である。
「エンジンをやられたのか。このままでは狙い撃ちだ!!」
キサカの言葉を聞いてカガリは舌打ちした。
キラ達は敵のエース級に阻まれて身動きとれないでいる。何とかしないといけない。
「くそっ!!」
カガリはバギーを飛び出すと走り出した。
後ろでキサカとユウキが制止しようと叫んでいるが、カガリは構わずアークエンジェルへと向かう。
目指したのは格納庫。あそこに行けば「アレ」がある筈だ。
格納庫内は混乱の極みにあった。
手隙のクルーは皆、ダメージコントロールに回っているが、残った者はマードック曹長を中心に整備に奔走している。
そうしたクルー達の間をすり抜けて、カガリは目的の物の場所までやってきた。
スカイグラスパー3号機。新兵装を装備したこの機体は、乗り手がいないまま無為に出撃の時を待っている状態だった。
そのコックピットに、カガリは潜り込む。
マードックが事態に気付いたのは、エンジンがスタートしてからだった。
「お、おい、誰が乗ってやがるんだ!?」
戸惑う整備班の前で、スカイグラスパーは推力を上げていく。
「何やってんだ、おい、嬢ちゃん!!」
「機体を遊ばせておける状況か!! 私がこいつで出る!!」
「な、何だってェ!?」
マードックは仰天した。いきなり来て何を言いだすかと思えば。
しかし、そうしている内にも、スカイグラスパーのエンジン音は上がって行く。
「ハッチ開けろ。でないと吹き飛ばすぞ!!」
「ああ~~~もう!! 今時のガキはァァァァァァ!!」
頭をグシャグシャに掻くマードック。しかし、相手はどう言っても引いてくれそうにない。ぐずぐずしていたら、本当にハッチを吹き飛ばしかねない勢いだ。
「ハッチ開けてやれ!!」
マードックの命令を受けて、ハッチが開かれる。
それを確認すると、カガリはスカイグラスパーを発進デッキへと進ませる。
「壊したら承知しねえぞ!!」
その後ろ姿に、マードックの叫びが空しくこだました。
そんなマードックを尻目に、カガリは機体を飛び立たせた。
強烈なGと共に、スカイグラスパー3号機は上空へ飛び立った。今頃アークエンジェルは、新たな頭痛の種に悩んでいるだろうが、今更そんな事を気にしても始まらない。
鋭く機首を返すと、アークエンジェルを背後から攻撃しているピートリー級戦艦ヘンリー・カーターへと向かう。
その前に、多数のザフト軍航空戦力が立ちふさがるが、カガリはそれに構わず機体を突っ込ませる。
正面からバルカン砲による攻撃を仕掛け、向かってくる敵機を撃ち落とす。数では劣っているが、機動性が段違いである為、群がってきた所で敵ではない。
「行けェェェェェェ!!」
強引に戦線を突破したカガリは、両側に装備したレールガンを発射する。
ミサイルランチャーに直撃を受けたヘンリー・カーターは、誘爆を起こして炎上する。
更にカガリはミサイルを放ち、尚も生きている武装を破壊していく。
《良いぞ、お嬢ちゃん!!》
その後方から響く、頼もしい声。
既に先行して攻撃を開始していたムウが操縦するスカイグラスパー1号機は、接近すると同時にアグニを放った。
太い閃光はヘンリー・カーターの装甲を難なく貫き、その奥にある主砲弾薬庫を直撃した。
内部から膨張したエネルギーによって、ヘンリー・カーターは膨れ上がるようにして爆発する。致命傷である。
いかに巨大な戦艦でも、内部から爆破されてはひとたまりも無い。
その後、尚も暫く惰性で動いていたヘンリー・カーターだが、やがて力尽きたように停止した。
砲撃の密度が低下したのを見計らい、リリアはスカイグラスパー2号機を低空へ舞い下ろす。この隙に、アークエンジェルを救い出すのだ。
シュベルトゲベールを展開、翼に引っ掛かっている瓦礫を慎重に目指す。
「進路良し、推力と操縦桿を固定して慎重に・・・・・・」
緊張で、指が滑りそうになるのを堪えながら、慎重に機体を操る。
そもそも飛行機と言う物は、上へ上がるように設計されている。天井がある場所を飛ぶにははなはだ向かない乗り物である。
しかし、そんな緊張感溢れるアクロバット飛行を、初心者であるリリアはやり遂げた。
本来なら戦艦の装甲をも切り裂く事を前提に設計された大剣は、瓦礫を見事に断ち切ったのだ。
その事は、アークエンジェルのブリッジでも確認できた。
「はずれた!!」
ノイマンの歓喜に満ちた声。
すかさずマリューは叫ぶ。
「面舵60!! ナタル!!」
艦が回頭する。
同時にCICのナタルも動いた。
「ゴットフリート、照準、目標、レセップス!!」
再び浮き上がった大天使。その上甲板に供えられた巨大な2基の主砲が旋回する。
距離は間近。もはや、エネルギー減衰の心配もいらない。
「撃てェェェェェェ!!」
ナタルの号令一下、放たれた4門の主砲がレセップスの巨体を貫いた。
ランサーダートの直撃を受け、シールドが吹き飛ばされた。
崩れそうになるバランスを保ちながら、エストはストライクを走らせる。
手持ちの武装は、既にビームサーベルと、頭部の75ミリ イーゲルシュテルンのみ。イーゲルシュテルンは対モビルスーツ戦闘では全くの無力と言って良い。実質、使えるのはサーベル1本のみ。それも、バッテリーが危険域に入っている以上、いつまで持つか判らない。
「このままでは・・・・・・」
焦燥が首をもたげ始めた。
その時、
「これで、とどめよ!!」
サーベルを振り翳して斬り掛って来るブリッツ。
その足元に、砲弾が直撃した。
「えっ!?」
「くっ、いきなり何よ!?」
ライアはとっさに機体を後退させる。
その上空を、スカイグラスパーが旋回した。先程の攻撃は、スカイグラスパーからの物であった。
「あれは・・・・・・」
スカイグラスパーは、まっすぐにこちらに向かってくる。それは、待機していた筈の3号機である。
《エスト、これを使え!!》
「カガリ・ユラ?」
何故彼女が? と言う疑問が持ち上がりそうになるのを、辛うじて封じる。今はそんな事を考えているわけではない。
モニターには「Docking Standby」の文字。
それを見て、エストは殆ど反射的に動く。
残った推力を使って上空へジャンプ、同時に換装シークエンスへと入る。
損傷したエールストライカーをパージ、カガリが持参した装備とドッキングする。
エールの翼とシールド、そのシールドに装着されたブーメランとガトリング砲。そして右手のライフル。ソードの物よりやや短い対艦刀が2本。肩部から突きだした長大な砲身を持つレールガン。
IWSP、正式名称はIntegrated Weapons Striker Pack。統合兵装ストライカーパックの名称で呼ばれるこの装備は、その名の通り、エール、ランチャー、ソードの各装備を統合した最強のストライカーパックである。
「クッ、これは、まずいかな?」
見た事も無い新型の装備に換装したストライクを見て、状況の逆転を悟り後退しようとするライア。
しかし、エストは、それを許さずに猛ダッシュ。同時に両腰の対艦刀を抜き放った。
レーザーの刃が走り、高速で振るわれる。
「クッ!?」
とっさにトリケロスを掲げて防ごうとするライア。
そこへ、2本の剣が叩きつけられる。
振るわれた剣がシールドとぶつかり合い、異音を立てる。
ブリッツは辛うじて防御が間に合ったものの、大きく後退を余儀なくされた。
「このっ!!」
ブリッツは後退しながら左手のピアサーロック グレイプニルを放つ。
対抗するようにストライクも、シールドに供えられたビームブーメラン マイダスメッサーを取って投げつける。
ぶつかり合うワイヤーとブーメラン。
それが弾かれると同時に、2体の鉄騎は再び激突した。
戦況は、アークエンジェル・レジスタンス連合軍に優位に進みつつあった。
バルトフェルド隊は、バクゥは全滅。航空兵力も混乱している。指揮下の戦艦3隻は全て損傷し戦闘続行はほぼ不可能だ。
頼みのブリッツも、こうなっては逆にストライクに拘束されて身動きが取れない状態にある。
大勢は決しつつある。圧倒的な戦力差を覆されようとしていた。
「まずいわよ、アンディ!!」
アイシャに言われるまでも無く、状況は完全に不利。今やまともな戦力はラゴゥだけである。
その時、完全に停止状態にあるレセップスから通信が入った。
アークエンジェルの主砲を直撃されたレセップスは、既に艦内も火の海と化し、次々と誘爆を引き起こしている。沈没も時間の問題であった。
《隊長。申し訳ありません。艦は大破。部隊も壊滅状態です》
前線に出たバルトフェルドの代わりに部隊の指揮を取っていたダコスタからの報告も、予想と違わず最悪を極めていた。
ひとつ、息を吐く。
大勢は既に決した。味方の負けだ。
だが・・・・・・・・・・・・
「退艦したまえ、ダコスタ君」
《隊長!?》
驚いたようなダコスタの声が響いてくる。
彼は待っていたのだ。この戦局を逆転する妙手を。
彼の上官は「砂漠の虎」なのだ。比類無き陸戦の名手。ザフト最高の智将にして、陸の王者。
アンドリュー・バルトフェルドが負ける筈が無い。そんな事はあり得ない。今もダコスタの中では、それが堅固たる事実として根付いている筈だ。
だが、現実に部隊は壊滅、追い詰められている。
「勝敗は決した。残存する兵力をまとめてバナディーヤに戻り、ジブラルタルに連絡を取るんだ」
《そんな、隊ちょ》
ダコスタが尚も何か言おうとするが、バルトフェルドは構わず通信機を切った。
「君も脱出しろ、アイシャ」
自分でも驚くほど、平坦な口調で告げるバルトフェルド。
対してアイシャは、ただ微笑を作って答える。
「そんな事するくらいなら、『死んだ方がマシ』ね」
その返事に、一瞬呆気にとられるバルトフェルド。だが、すぐに苦笑が閃く。
「馬鹿だな、君も」
「何とでも」
目を見開く。
そこには既に、先程まで感じていた悲壮感は無い。あるのはギラギラした闘争本能のみである。
「なら、付き合ってくれ!!」
言い放つと同時に、ラゴゥを発進させる。
ビーム砲を放ち、口部のサーベルを展開する。
対峙するシルフィードも、サーベルを抜いて構えた。
キラの視界の中では、ビームキャノンを放ちながら突撃してくるラゴゥが見える。
「バルトフェルドさん!!」
《まだだぞ、少年!!》
通信機に叫んだ声に、返事が返った。
その間にも、ビームによる応酬が続く。
シルフィードも、背部のBWSを展開、盛んに応戦する。
交錯する光線の嵐。
シルフィードの放った一撃が、ラゴゥのビームキャノンを破壊する。
しかし、バルトフェルドは突撃をやめない。
振るわれる光刃。
同時にシルフィードもサーベルを振るう。
左のBWSの砲身、その先端部分が斬り飛ばされた。
だが、シルフィードの一撃も、ラゴゥの前肢の片方を叩き斬った。
「もう勝敗は決しました。降伏を!!」
3足になりながらも、ラゴゥは巧みにバランスを保ちながら転倒を避けている。そればかりではなく、その状態で再び斬り込んで来る気だ。
《言った筈だぞ。戦争に明確なルールなど無いと!!》
向かってくるラゴゥに対して、キラも応戦せざるを得ない。
ラゴゥのサーベルがシルフィードのスタビライザーを切り裂く。
シルフィードの光剣も、ラゴゥの片翼を切り飛ばした。
《戦うしか無かろう! 互いが敵である限り、どちらかが滅びるまで!!》
互いに満身創痍。
だが、ここでキラには予想外の事が起こった。
それまで蒼く色づいていた装甲が、鉄灰色に落ちて行くのだ。同時に手にしたビームサーベルも刃を失ってただの細長い筒と化す。
フェイズシフト・ダウン。
見れば、バッテリーが既に危険域に入っている。PS装甲が維持できなくなったのだ。
元々、通常の7割しか無いバッテリー量である。加えて今日1日の戦闘時間は、これまでよりも長かった事で、エネルギーを使いきってしまったのだ。
再びシルフィード目がけて、向かってくるラゴゥ。
そうだ、敵であるならば、撃たねばならない。
自分がこれまで、そうして来たように。
何かが、弾ける。
次の瞬間、シルフィードは損傷したBWSをパージ、更にシールドも投げ捨てると、腿部からアーマーシュナイダーを抜き放ち、砂地を駆ける。
飛びかかる、猛虎。
迎え撃つ、紫狐。
両者の機体がぶつかり合う。
そこを逃さず、キラはラゴゥのエンジン部めがけてアーマーシュナイダーを突き刺した。
次の瞬間、
ラゴゥのコックピットの中で、バルトフェルドは弾かれたようにシートから立ち上がる。同時にアイシャも立ち上がる。
2人が固く抱き合った瞬間、ラゴゥの機体は閃光に包まれた。
その様子を、キラは動力の完全に停止したシルフィードのコックピットで見つめる。
爆発を起こしたラゴゥ。
中にいた人間が、脱出できたとは思えない。
アンドリュー・バルトフェルド。
あの鮮烈すぎるほど鮮烈な印象を、キラ達に与えた敵将。
そのバルトフェルドが、死んだ。キラが殺した。
しかし、
「・・・・・・・・・・・・殺したくなかった。できるなら」
ポツリと囁かれた言葉。
炎は尚も、猛り狂っている。
キラは思う。
いつか自分も、あの炎の中に沈む時が来る。それだけの事を、自分はして来たのだ。
これまでも、
そして、今も。
キラの頬に一筋、涙が零れたのを見た者は、誰もいなかった。
PHASE-14「砂塵の決着」 終わり