機動戦士ガンダムSEED Illusion 作:ファルクラム
1
カガリは身の回りの荷物をまとめている。
服装は、砂漠で戦っていた時と同じ、野戦服で、用意したバッグには着替えを詰め、傍らには愛用の拳銃も弾を込めた状態で置いてある。
アークエンジェルの修理は数日前に終了し補給も滞りなく完了した為、ついに出港する事となったのだ。
カガリは、アークエンジェルについていこうとしていた。
理由はキラ、そしてエスト。あの2人だ。
僅かな期間とはいえ、同じ船に乗って触れ合った一組の少年少女は、あまりにも儚く、あまりにも脆い存在のようにカガリには見えた。
キラは確かに強い。ゲリラ兵士として、そしてテロリストとしてカガリとは比較にならないほどの凄惨な戦場を駆け抜けて来た彼は、どんな屈強な兵士よりも強く、強かだ。だが、その立場は天秤の上の振り子よりも危うい物となっている。このままではいつか必ず振り子は倒れ、そして立ち上がれなくなるだろう。
危ういのは、エストも同じ。いや、ある意味でキラ以上に危うい存在である。どうも彼女は、自分の行動にリスクと言う物を考えていないような気がしてならない。単純に言えば、彼女は自分の命を軽視し過ぎているのではと思う事がある。
テロリストと、それを捕縛した連邦のエージェント。正しく対極に立つ筈の2人だが、その根幹は驚くほどに似通っている。誰かが傍にいて守ってやらなければ、2人はいつか必ず潰れてしまう。そんな気がしてならなかった。
必要な荷物を揃えて、チェックをした時だった。
ドアがノックされ、父、ウズミが部屋の中に入って来た。
ウズミは冷めて目で娘を、そして散らばった荷物を見ると口を開いた。
「あの艦と共に行くつもりか?」
「はい」
カガリは硬い調子で返事を開けした。止めても無駄だと言う事を態度で表す。
これまで、カガリにとってウズミは尊敬し、憧れ、そして何よりも大切な家族である筈だった。しかしヘリオポリスでの一件以来、彼女の中には不信感が蔓延し、ウズミの言葉が全て虚飾に思えてならなかった。
エリカやトウゴウはウズミの擁護をしていたが、カガリはそれでも父を信じる事ができなかった。
「では、地球軍の兵士として戦うのか?」
皮肉の混じったウズミの言葉に、カガリは反射的に振り返る。
「違いますっ!!」
「では何だ?」
「彼等を助けたいのです。そして、戦争を早く終わらせたい!!」
「お前が戦えば、戦争は終わるのか?」
「それは、私1人の力では・・・でも・・・」
口ごもるカガリ。
なまじ、生身で戦場に立った経験から、1人の人間が持つ力の頼りなさを、カガリは身を持って体験している。だからこそ、ウズミの問いには沈黙せざるを得なかった。
反撃の言葉も見つからないままのカガリに、ウズミは更に口調を強める。
「お前が誰かの夫を撃てば、その妻はお前を恨むだろう。お前が誰かの息子を撃てば、その母はお前を恨むだろう。そして、お前が誰かに撃たれれば、私はそいつを恨むだろう。こんな簡単な連鎖がなぜ判らんっ!?」
もはや怒号に近いウズミの問いは、カガリを激しく打ち据える。
僅かに逸らした視界には、ホルスターに収まったままの拳銃がある。
自分が誰かを撃ち、その家族に恨まれる。考えてみれば単純すぎる理屈に、なぜ今まで気付かなかったのだろう。
よろけるカガリを支えるように、父の大きな手が肩に添えられる。
「銃を取るばかりが戦争ではない。戦争の根を学ぶのだ」
「お父様・・・・・・」
見上げる父の顔。そこには深い知性と共に、娘を想う愛情が滲み出ていた。
「撃ちあっていては、何も変わらん」
その言葉が、カガリの心に深く突き刺さった。
海風が、僅かにはだけた首筋をなでていく。
目を転じれば、パイプを伸ばす補給艦の姿が映る。カーペンタリアにアスランが要請して来てもらったのだ。現在、クストーに補給を行っている。
甲板に腰掛けながら、アスランは先日の事を思い出していた。
アスランが主張したオーブ北方海上にて「足付き」を待ち伏せ、捕捉撃沈する案に対して、当然ながら部隊内からは非難の声が上がった。
「足付き」、アークエンジェルはオーブにいる。しかし、それを証明する手段はアスランには無い。敵モビルスーツ、シルフィードのパイロットであるキラの顔を知っているのはアスランだけなのだから。
イザークやディアッカはおろか、この件に関してはライアですら否定的な意見を持っている。
3人は口を揃えて、一度カーペンタリアへ帰還する事を提案したが、アスランは隊長の権限で押し通した。
「キラ・・・・・・」
月面都市コペルニクス時代、幼年学校で出会った親友。
転校してきて、そしていつの間にか消えていた少年。
そして、再会した時には、地球軍のパイロットになっていた。
差し伸べた手は振り払われ、今も彼と自分は刃を交え続けている。
『僕はザフトにはいけない』
かつてキラが言った言葉の意味は、今でもアスランには判らない。だが、説得が難しい以上、戦わなければならなかった。
だが、勝てるのか? 先の戦いでは、イザークとライアが殆ど抗する事も出来ずにやられている。
幼年学校からいなくなって以後、キラが何をしていたかは知らないが、少なくともモビルスーツに乗るような生活をしていたとは思えない。にも拘らず、歴戦のザフト兵を相手に、苦もなく勝利してしまう程の腕を持つに至っている。
この短期間で驚くほどの成長速度だ。いや、もしかしたら、今こうしている間にも成長を続けているかもしれない。だとすると、自分ですら敵わないかもしれない。
その時、
「な~に黄昏てんのよ」
いきなり、後頭部を小突かれた。
振り返れば、腰に手を当てたライア・ハーネットがアスランの顔を覗きこんでいる。
「お前な・・・・・・」
痛む頭を押さえながら、何か文句を言ってやろうとするアスランを制してライアは口を開く。
「どうせまた、イザーク達とやりあった事、ウジウジと悩んでいたんでしょ。良いのよ、あんなの言わせておけば。あんたは隊長なんだから、もっとどっしり構えてなさいよ」
「・・・・・・君は、俺の意見に反対じゃなかったのか?」
意外そうな顔でアスランは聞く。先の作戦会議においても、ライアの態度は「消極的否定」と言う感じであった。だが、今の彼女は、まるでアスランをけしかけるような言動をしている。
「勿論、今でも反対よ」
ライアはあっさりと言った。
「けどさ、あんたには何らかの確信がある。『足付き』がオーブにいるってさ。あたし達には判らない何かが、あんたには判っている。違う?」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、あんたは隊長らしく、どーんと命令だけしてくれればいいのよ」
アスランは答えない。ただ黙ってライアを見詰め、そしてフッと笑う。
「そうだな」
アスランは立ち上がる。
ライアの心配事は的外れなのだが、確かに悩んでも答が出る訳ではない。あとはキラ自身に直接ぶつけるだけだった。
立ち去ろうとして、ふと立ち止まって振り返る。
「ああ、そうだ、ライア」
「ん?」
「見えてるぞ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて指差す先を見下ろすと、アスランの指はライアのスカートを差していた。
意味を理解し、一気に顔を真っ赤に染めるライア。
「こっの、セクハラ隊長!!」
殴りかかって来るライアをかわしながら、アスランは艦内へと一目散に逃げていった。
朝霧と共に出港したアークエンジェルは、領海線まで護衛してくれたオーブ軍護衛艦と別れると、艦首を北へと向けた。
航行する速度は速い。
オーブ近海は未だにザフト軍の行動圏内であるが、北回帰線を越えれば、目指すアラスカ本部はすぐそこである。
つまり、ここ数日が正念場と言えた。
そんな中、いち早くパイロットスーツに着替えたキラは、キャットウォークを歩き、シルフィードのコックピットへと滑り込む。
敵が来ると判っている以上、待機しておくにこした事は無かった。
スイッチを弾きながら、システムをチェックしていく。
そこへ、隣に固定されたストライクから通信が入った。
《キラ》
「エスト、そっちはどう?」
《準備完了です。あとは命令があり次第出撃可能です、が、》
エストは無表情のまま、視線を真っ直ぐにキラへと向けて言う。
《敵は本当に来るのですか?》
「うん、間違いなくね」
答えるキラは、先日のオーブでの騒動を思い出す。
襲撃してきたザフト兵。それは、キラにとって因縁深い相手だった。
クライブ・ラオス。
かつて、同じゲリラ組織に所属していた兵士で、キラとも何度か肩を並べて戦った事もある。
驚くほど強く、キラですら敵わない技能を持ち、タフな精神力と知略に長けた男。
ゲリラ内の誰もがクライブを信頼し、キラの養父であった部隊長も、彼に全幅の心配を置いていた。
しかしただ1人、キラだけは一度としてクライブに心を許した事は無かった。
目が笑っていないのだ。
普通、どんな兵士であっても、戦闘での勝利や困難な状況を脱すれば、それなりの表情をするものである。
しかしクライブは違った。あの男は一度として、キラ達の前で気を緩めた事は無かった。まるで、いつかは裏切る事を前提としているかのように。
そして、その予感は杞憂ではなかった。
あの日、キラは補給物資の調達交渉の為に、隣の村まで足を運んでいた。
隣村と言っても、直線距離にしたら100キロ以上あるような場所である。当然、徒歩ではなくバイクを使って往復し、伝票と料金を渡して後日、配送してもらうのが通例だった。
予想よりも時間が掛り、帰って来た時には既に夕刻に差しかかっていた。
そこで見た光景を、キラは一生忘れないだろう。
燃え上がる村を、包囲する大西洋連邦軍。
みんな死んでしまった。
偵察要員で、面倒見の良かったジョン。
寡黙なスナイパーとして、皆から信頼されていたモイダート。
高い戦闘力と、女らしい気配りで隊内でも人気が高かったマリー
陽気な性格で、部隊のムードメーカーだったコリンズ。
そして、厳格ながらも、隊員全員を家族のように愛していた養父。
皆死に、生き残ったのはキラだけだった。
燃え盛る炎を背景に立つクライブ。
一瞬で理解した。誰が裏切り者で、誰が連邦軍を呼び込んだのか。
その後、地下に潜伏したキラは自分の能力をフルに活用し、クライブの経歴を調べ上げた。
驚いた事にクライブは、大小9カ国以上の国に国籍を持ち、特定の小国では軍事教官まで勤めていたほどである。更には大西洋連邦とプラントと言う、敵対国にまで籍を持っている事だった。
だが、先の大西洋連邦軍によるレッド・クロウ壊滅作戦の詳細を調べて行くうちに、更に驚くべき事実に突き当たった。
作戦を実行したのは連邦軍だが、そうするように仕向けたのは、思想的には味方である筈のプラントだったと言う事。軍部強硬派の意思を受けたクライブが情報をリークしたのだと言う事が判ったのだ。
だから、キラは決してプラントへは行かない。親友のアスランからの誘いを幾度も断って来たのは、サイ達の事もあるが半分はそういった事情からだった。
この事はサイ達も知らない。知っているのはエストだけである。流石に先日の事件の後、問い詰められて話す羽目になった。
警報によって思考が中断されたのは、そこまで考えた時だった。
《レーダーにアンノウン捕捉。数、3・・・いや、4!!》
キラは顔を上げる。
ついに来たか。
だが、次の報告は、キラを驚かせる物だった。
《機種特定、イージス、ブリッツ、バスター、デュエルです!!》
思わず、計器を調整する手を止めた。
「アスラン? クライブじゃない?」
意外だった。てっきり、オーブで接触したクライブが現れると思っていたのだが。
だが、どちらにしても敵襲である事には変わりない。
《対潜、対モビルスーツ戦闘用意!!》
マリューの緊張に満ちた声が聞こえてくる。
静かに目を閉じる。
いつも通りだ。いつも通り戦い、またここに帰って来ればいい。
ゆっくりと目を開いた。
今は戦おう。たとえ相手が親友でも。自分達の行く手を阻むなら、疾風の剣を持ちて切り裂くのみ。
闘志の籠った紫の瞳を開き、キラは今や自分の分身とも言えるほどに馴染んだ機体を、カタパルトデッキへ進ませた。
アークエンジェルのオーブ領海線脱出を見越して襲撃したザフト軍ザラ隊の作戦はシンプルだった。オーブを出た後、アークエンジェルは必ずアラスカを目指して北方に進路を取る。ならばオーブ北方に母艦を配置して待ち伏せれば良い。
対してアークエンジェル側は、第一に逃げ切る事を前提に作戦を組む。出撃機動兵器は、過去最多の5機。シルフィード、ストライク、そして3機のスカイグラスパー。
スカイグラスパーのパイロットは、1号機のムウの他に、2号機には砂漠戦での経験を買われてリリアが搭乗し、以前カガリが乗った3号機には、シュミレーター3位のトールが乗り込む事となった。
ストライカーパックは、初期装備としてストライクがランチャー、1号機がエール、2号機がソード、3号機がIWSPとなっている。
煙幕を展張し、光学センサーを無力化した状態から、ストライクは甲板上に配置し、アークエンジェルからのデータをもとにして照準を補正して遠距離狙撃。その間、残る4機は上空に張り付いて直俺を行う手筈になっている。
接近するアスラン達からは、煙幕に包まれたアークエンジェルを視認する事はできない。
と、次の瞬間、白煙を割って、一条の閃光が跳び抜けた。
とっさに回避する4機のモビルスーツ。
艦にエネルギーケーブルを接続したストライクが、アグニで狙撃したのだ。
更に追い打ちを掛けるように、アークエンジェルはゴッドフリート、ヴァリアント、ウォンバットを放つ。
ザラ隊の陣形が乱れた一瞬、
煙幕から飛び出す影があった。
グランドスラムを構えたシルフィードである。
すぐさま、デュエルとバスターが反撃に転じるが、空中戦を想定したシルフィードは難なく攻撃をかわして接近してくる。
振るわれる大剣は、一撃でデュエルの乗ったグゥルを叩き斬った。
「イザーク!!」
落ちていくデュエルを見て、ディアッカが声を上げる。
が、それも長く続かない。
煙幕の中から飛び出してきたスカイグラスパー1号機が、バスターに狙いを定めて急襲したのだ。
グゥルを上昇させてかわしつつ、反撃するバスター。
対して1号機も、機体の翼を翻し、容易には取り付かせようとしない。
その間にシルフィードは、残る2機、イージスとブリッツへと向かってくる。
イージスとブリッツは、とっさにビームライフルとトリケロスを放ち、シルフィードの接近を阻もうとするが、シルフィードはまるで小石でも避けるかのような調子で機体を操り、飛んで来るビームや杭を容易に避けていく。
そして大剣を背中に戻すと、腰からビームサーベルを抜き放った。
「この!!」
左腕のグレイプニールを射出するブリッツ。
だが、ワイヤーを引いて伸びるグレイプニールは、シルフィードの剣であっさりと斬り飛ばされてしまう。
「クッ そんな!!」
ライアの叫びと共に、ブリッツがトリケロスからビームサーベルを発振し振り翳す。
しかし、シルフィードは、ブリッツの斬撃を完璧に読み切って回避すると、下から斬り上げるような一撃で、ブリッツの右腕を一刀のもとに切り飛ばしてしまった。
「ああっ!?」
右腕のトリケロスには、ライフル、サーベル、ダートの3種類の武装が集中している。先に失ったグレイプニールと合わせて、これがブリッツの武装の全てとなる。
武装を全て失い、一瞬自失するライア。
その隙を逃さず、シルフィードはブリッツを蹴り飛ばして海面に叩きつけた。
その光景に、アスランは息を呑む。
この短時間に2機。ザフトのトップエース。隊長クラスでさえ、こうも鮮やかな操縦技術を持つ者は5人といないだろう。
だが、やるしかない。
イージスは右手首に装備したサーベルを発振して、シルフィードへと向かう。
対してシルフィードも、向かってくる深紅の機体を迎え撃つべく、サーベルとシールドを構えた。
ぶつかり合う、青と赤の機体。
互いに振り下ろした剣を、縦で防ぎ、勢いで後退する。
「そこをどいてくれ、アスラン!!」
再び斬り込むタイミングを計りつつ、キラが叫ぶ。
対してアスランは、冷徹に返す。
《何を言う。撃てばいいだろう。そう言ったのは、お前だ!!》
ビームサーベルを振りかざし、斬り込んで来るイージスに対し、シルフィードは上昇して回避、同時に抜いたライフルを構える。
ライフルを構えたのはイージスも同時だった。
2条の閃光が互いを掠める。しかし、直撃はしない。
キラは舌を巻く思いだった。
元々、空戦用に作られたシルフィードと違い、イージスは宇宙戦闘をメインに置いた設計がなされている。モビルアーマー形態への変形機構がその証拠である。
当然、大気圏内戦闘ではシルフィードの方が有利の筈なのだが、アスランはその戦力差を感じさせないほど、鮮やかな機体捌きでシルフィードへと迫って来る。
「強いっ!?」
突撃して来る紅い機体を見据えながら、キラは知らずの内に呟いていた。
光線が、互いに交錯する。
シルフィードの一撃は、グゥルを貫く。
イージスの一撃は、シルフィードのライフルを破壊した。
「クッ!!」
とっさに跳び上がり、グゥルの爆発から逃れるイージス。
バーニアを吹かしながら体勢を整えるイージスに対し、シルフィードはビームサーベルを抜いて向かってくる。
自身もサーベルを発振、迎え撃つイージス。
ぶつかり合う2機。
シルフィードとイージスは、互いにもつれるようにして近くの小島へと落下していった。
戦局は、アークエンジェル有利に働いていた。
既に敵機2機を戦線から引き離し、うち1機には中破に相当する損害を与えている。
エストはアグニをケーブルから外す。
キラのシルフィードは、イージスと交戦し、フラガは尚もバスターと対峙している。
アークエンジェルには、エストのストライクの他に、トールとリリアが操るスカイグラスパーも張り付いている。不意の襲撃にも備える事が可能なはずだ。
《エスト、今のうちに、こっちに交換しておけ》
「了解」
トールからの通信を受け、エストは武装換装の準備に入る。確かに、戦闘が推移した以上、甲板からの狙撃機会が再びあるとは思えない。それよりもIWSPを装備し、空中戦に備えた方が良い。
ランチャー・ストライカーを甲板上にパージし、ドッキング体勢に入る。
スカイグラスパー3号機がパージしたIWSPとドッキングする。
視界の先では尚も、シルフィードとイージスが激しい戦いが繰り広げられている。
ここで改めてストライクが戦線に加われば、勝利は確実だろう。
しかし、そうなると艦を守るのは実戦経験の浅い2人が操る戦闘機2機のみと言う事になる。これでは不測の事態に対処できない。
再び甲板に足を下ろすストライク。
次の瞬間だった。
《何、あれ?》
不意に聞こえた、リリアの訝るような声。
何事かと問おうとした瞬間、彼女の機体は下からの閃光に主翼を打ち抜かれた。
《キャァァァァァァァァァァァァ!!》
《リリア!!》
リリアの悲鳴と、トールの叫びが重なる。
撃ち抜かれた2号機はアークエンジェルの後甲板に突っ込み、ブリッジに激突するようにして停止した。幸い、胴体から落ちた為、偶然にも不時着のような状態になったようだ。あれなら生存の可能性は充分にある。
しかし、いったい何が?
センサーを走らせ、状況を確認する。
すると突然、背後に3機の機体が現れた。
《敵機確認、シグー1、ディン2!!》
ロメロの声と、新たな衝撃が重なる。
ザフト軍の攻撃がアークエンジェルのメインエンジンを直撃、2基の噴射ノズルを吹き飛ばしたのだ。
推力が一気に低下するアークエンジェル。
「クッ!!」
衝撃を殺しながら、エストはストライクを反転して迫る3機のザフト機へと向かい合った。
そのシグーのコックピット内。
キラが本来想定していた敵、クライブ・ラオスは肩頬を釣り上げて笑みを見せた。
「ガキどもに露払いをさせた甲斐があったな。これで俺達は獲物を独り占めできるってもんだ」
元々、ザラ隊が罠を張っていたのは知っている。クライブはそれを利用してアークエンジェル襲撃計画を立てていたのだ。
「このまま復隊したんじゃ、割に合わないんでな。ちょっとばかり、箔をつけさせてもらうぜ!!」
言いながらライフルを構えるシグー。
その前に、IWSPを装備したストライクが立ちはだかる。
「やらせない」
エストの低い呟きと共にライフルを放つストライク。
しかし、クライブは巧みにグゥルを操り、ストライクの射線から逃れる。
「はっ、当たるかよ、そんなもんに!!」
振り翳されるビームサーベル。
その一撃を、エストはシールドを掲げて防ぐ。
だが、そこへ、背後からの攻撃が迫る。
回り込んだジュートとハリソンのディンが、ストライクに向けてライフルを放って来ているのだ。
「クッ!?」
それらの攻撃を回避しながら反撃の隙を探る。
だが、状況が不利になりつつあるのは間違いない。IWSPは元々試作の意味合いが強く、ひとつのパックに武装を詰め込み過ぎた結果、長時間の稼働が不可能なのだ。実戦配備に当たって改良はくわえられているが、それでも他の3種パックに比べると、稼働時間の短さは否めない。
キラは前線でイージスと対峙し、バスターはムウが押さえている。トールは戦闘に出るのが初めてである以上、艦の護りは事実上エストの細い双肩に掛かっていると言っても過言ではない。
2本の対艦刀を抜き放ち、クライブのシグーへと斬りかかるエスト。
対してクライブは、コックピットの中でニヤリと笑う。
「はっ、そう来たか。ワンパターンすぎて欠伸が出るぜ!!」
言いながら、シールドに内蔵されたビームガトリングを放つ。
向かってくる光の射線を、巧みに回避して接近するストライク。
間合いに入った瞬間、エストは対艦刀を振りかぶって斬りかかった。
「ハァァァァァァ!!」
迫る2本の刃。
その攻撃を、片方をシールドで弾き、他方を回避するシグー。
「遅ェ やる気あんのかッ!?」
クライブの嘲笑に満ちた叫びと共に、手にしたビームサーベルをで斬りかかるシグー。
その一撃は、ストライクの左に持った対艦刀を捉えて、刀身を半ばから斬り飛ばす。
「クッ!?」
エストはとっさに距離を置こうとするも、シグーは機動力を活かして食らいついてくる。
「だから、遅ェ つってんだろ!!」
更に、ジュートとハリソンは、エストがシグーに拘束されている隙にアークエンジェルへと接近し攻撃を行う。
アークエンジェルは盛んに対空砲を放って迎撃しようとするが、エンジンを強化されたディンの機動には付いて行けず、砲火は虚しく空を切る。
オーブのドッグで修理してもらった艦体が、次々と破壊されていく。
「クッ、このままではッ!?」
エストの中で、焦りが見え始める。
艦の護りを任されたと言うのに、敵を阻止できないでいる。
一瞬、気が反れた。
「おいおい、」
そこに付け入るクライブ。
「よそ見するとは、随分余裕じゃねえか!!」
「ッ!?」
接近するシグーに気付き、とっさにビームガトリングを向けようとしたが、既に遅い。
振るわれたシグーの光刃によって、ストライクの左腕はシールドごと斬り飛ばされた。
「あっ!?」
シールドを失い、更にバランスまで崩したストライク。
そこへ、サーベルを掲げたシグーが迫る。
「これで、ジ・エンド。地獄への片道切符。ご乗車ありがとうございましたってな!!」
ビームサーベルの切っ先は真っ直ぐにストライクのコックピットへと向けられる。
「これで・・・・・・終わり?」
コックピットの中で、エストは呟く。
シグーはもはや至近にまで迫っている。回避は不可能だし、シールドを失ったストライクには防御の手段が無い。
やけにゆっくりと迫る刃を凝視しながらも、その脳裏には、アークエンジェルに乗り込んでから、最も接する機会の多かった少年の顔が浮かんでいた。
「キラ・・・・・・」
自分が死んだら、彼は悲しむだろうか。
きっと悲しむに違いない。
あの最凶最悪とまで言われながら、ちっともテロリストらしくない少年の事だ。きっと、誰よりも悲しむに違いない。
「・・・・・・ごめんなさい」
誰に向けるでもない、謝罪の言葉。
次の瞬間、
数条の閃光が、ストライクとシグーの間を駆け抜けた。
「チッ!?」
舌を打つクライブ。シグーの剣尖は僅かに反れ、ストライクの肩口に食い込んだ。
そのまま、深々と斬り下げられる。
動力は停止し、PS装甲の灯が落ちて機体は鉄灰色に変じる。
戦闘力を失ったストライクは、真っ逆さまに地上へと落下し、叩きつけられると同時に爆炎を発した。
「エストォォォォォォ!!」
どうにかイージスを振り切って駆け付けたキラが見た物は、シグーのサーベルによって切り捨てられ、炎を上げるストライクの姿だった。
とっさに放ったBWSの牽制は間にあわなかった。
ストライクにとどめを刺したシグーが振り返る。
《よう、キラ、遅かったじゃねえか》
スピーカーから聞こえる、仇敵の声。
あの男が、
憎むべきあの男が、
またしても、自分の仲間を・・・・・・
《残念だったな。お仲間の事は。同情するぜ。また、てめぇのせいで死んじまったんだからな!!》
「ッ!?」
クライブの言葉は、容赦無くキラの精神を切り刻む。
そうだ。
またしても、キラは目の前の男から仲間を救う事ができなかったのだ。
《なんつーか、アレなんじゃね? お前ってば疫病神なんじゃねえの? あちこちで、お前がいる場所で人死にが起こるんだからよォ!!》
クライブの下卑た笑い声が鼓膜を貫く。
「・・・・・・・・・・・・」
思考が紅く染まる。
全ての感情が、流れて行き、何も考える事ができなくなる。
ただ、目の前にいるあいつ。
憎むべき敵を斬り捨てる。
それだけによって、支配される。
次の瞬間、
何かが弾けた。
「ウォォォォォォォォォォォォ!!」
キラの、否、ヴァイオレットフォックスの咆哮が鳴り響く。
スラスター全開。同時にBWSを放ちながら、グランドスラムを振り翳すシルフィード。
対して、クライブのシグーもビームガトリングとビームサーベルを構える。
「良いぜ、さあ、来いよキラ!! 狐らしく、テメェを殺して皮を剥いで売り飛ばしてやるよ!!」
言いながら、ジュートとハリソンには「足付き」への攻撃続行を命じるクライブ。
既にアークエンジェルは武装や機関にダメージが及び始めている。このままいけば、撃沈に追い込む事ができるかもしれない。
そこまで考えた時、シルフィードの大剣が襲い掛かって来た。
「ハッ、甘ぇ!!」
その重い一撃を、軽くシールドで払いのけるシグー。
しかし、次の瞬間、一瞬動きを止めたシグーの腹を、シルフィードの足が蹴り付けた。
《ぐッ!?》
予期し得なかった一撃を前に、思わずグゥルの上でバランスを取りつつ距離を取るクライブ。
しかし、後退しながらも、その口元にはうっすらと笑みが浮かぶ。
《そうだよ。そうこなくっちゃあなァ》
スラスターを吹かして、シルフィードへと斬りかかるシグー。
対してシルフィードも、スタビライザーを広げ、大出力のスラスターを噴射し距離を詰める。
《さあ、楽しもうぜ、キラァァァ!!》
「クライブゥゥゥゥゥゥ!!」
ぶつかり合う2つの機体。
攻撃は、キラの方が速い。
シルフィードの振るったグランドスラムが、シグーのガトリングの銃身を斬り飛ばした。
しかし、その間にシグーは下方に回り込み、ビームライフルを構えた。
《おらおら、どうしたキラ!? 足元がガラ空きだぜ!!》
銃口を向けた瞬間、
しかし、照準の先にシルフィードの姿は無い。
《何ィッ!?》
更にカメラアイを振り仰いだ瞬間、その頭部に、急降下してきたシルフィードの蹴りが決まった。
バランスを崩すシグー。
しかし、ただでは落ちないとばかりに、その手はシルフィードの足に掴み掛り、そのまま自機の重量を上乗せして引きずり落としに掛った。
「キラ!!」
その様子は、ようやく追いついて来たイージスでも確認できた。
アスランの見ている前で、シルフィードとシグーがもつれ合うようにして落下していくのが見える。
なぜここにクライブがいるのかと言う疑問が湧いたが、今はどうでも良い事でもある。
シルフィードとの戦いでの消耗はあるが、イージスはまだまだ戦う事ができる。
アスランはグゥルを飛ばして、2人が墜ちた島へと急いだ。
落下直前にどうにかシグーを振り払ったシルフィードは、体勢を立て直して着地。
同時に、BWSを展開して一斉に撃ちかける。
その攻撃を巧みに回避して迫るシグー。
《クソがッ そんな気の無い弾が当たるかよ!!》
振り翳したビームサーベルが、シルフィードの肩を掠めていく。
「クッ!!」
舌を打つキラ。指揮官専用機とは言え、量産型の機体でXナンバーと互角に戦っているクライブの技量は、やはり卓越していると言える。
後退し、シルフィードはグランドスラムを構え直した。
サーベルを振り翳して迫るシグー。
対してシルフィードはグランドスラムを振りかぶらず、突き込むように構えると、最小限の動きで距離を詰める。
交錯する刃。
シグーの剣はシルフィードのショルダー装甲を破壊する。
対して、シルフィードの剣は空を切った。
《ハッ、ノロマの亀さんこっちですよ~ てか。そんな攻撃じゃ100年たっても俺には当たらんぜ!!》
嘲りの声がスピーカーから響く。
シルフィードを追い込むように、ライフルを放つシグー。
対してキラはよけない。
真っ直ぐに突っ込み、グランドスラムを振り翳す。
《ハッ 馬鹿が。当たらねえっつってんだろうが!!》
振り下ろされた大剣の一撃を、後退してかわすシグー。
機動力を強化した機体を相手に、大威力を誇るとは言え、重量のある大剣では命中率に難がある。加えて、グランドスラムは元々シルフィード用に作られた武装でもない為、どうしても動きにぎこちなさが残る。
その事はキラも気付いている。だからこそ、単調な攻めを切り替える必要がある。
グランドスラムを振りかぶるシルフィード。
その様に、クライブは嗤う。
《はっ、ヤキが回ったかよキラ。つまんね。もう死にな!!》
迎え撃つように、サーベルとシールドを掲げるシグー。
だが、次の瞬間、クライブは目を見張った。
自機に向かって飛んでくる物がある。
「なッ!?」
驚愕に目を見開くクライブ。
次の瞬間、それはシグーの右肩に突き刺さりジョイントを破壊。シグーの右腕はもぎ取られるような形で地面へと落ちた。
シルフィードは接近戦を行うと見せかけて、手に持ったグランドスラムを投擲したのだ。
その一撃が、シグーの右腕を文字通りもぎ取ったのだ。
《チィッ!?》
初めて、クライブの顔に焦りが浮かんだ。
その隙を、キラは見逃さない。
シルフィードはスラスターを使って一気にダッシュ。同時にビームサーベルを抜き放った。
「エストの、みんなの、仇だ。クライブ!! 思い知れ!!」
《クッ!?》
とっさにシールドを掲げて防ごうとするクライブ。
だが、キラはそれにも構わず、サーベルを掲げる。
シルフィードが振りかざしたビームサーベルは、シグーを真っ向から斬り下ろした。
爆発するシグー。
悲鳴は聞こえなかった。
炎は一瞬で機体を飲み込み、灰燼へと帰していく。
爆炎の中に、悪鬼の如く立つシルフィード。
キラは声を発しない。
ただ、コックピットの中にあって黙然としている。
父や、仲間達の仇は撃った。この2年、キラの心にのしかかり続けて来た復讐心が満たされたのだ。
だが、エストが。
ここまで共に戦って来た少女が、命を落としてしまった。
「エスト・・・・・・」
自分があの時、もう少し早く駆けつけていたら。彼女は死なずに済んだかもしれない。
「クッ・・・・・・」
嗚咽にも似た声が、口元から零れる。
その時、センサーが上空から接近してくる機体を感知した。
振り仰ぐ先には、グゥルに乗って飛翔する深紅の機体がいる。
そこにはシルフィードとシグーの戦いを追って来たイージスだった。
次の瞬間、キラの瞳にスパークが走る。
感情の撃鉄が起こされ、撃ちつける瞬間を待ちわびる。
それはある意味、新たな獲物を見付けた獣の行動にも等しい。
地面に突き刺さっていたグランドスラムを引き抜く。
《キラ》
呼びかけるアスランの声にも、今のキラは答えない。
手にした大剣を掲げると、イージスを睨んだ。
来るッ
アスランがそう思った瞬間、シルフィードはスラスターを吹かして上昇、イージスに斬り込んで来る。
「チッ!?」
あまりのスピードに、回避が追いつかない。
アスランはとっさに判断すると、グゥルを蹴ってイージスを上昇させる。
シルフィードの大剣はグゥルを切り裂き、爆炎の中に叩き込む。
地上に降り立つイージス。
それを追って、シルフィードも降下する。
しかし、そこでキラは動きを止めない。
大剣を振りかざし、シルフィードを突撃させる。
対してイージスもビームライフルで応戦するが、シルフィードの動きを捉えられず、ビームは虚しく空を切る。
シルフィードの動きは、これまでにないくらい俊敏だ。生半可な攻撃では仕留めきれないだろう。
「クッ、なら、これで!!」
アスランはイージスの腕に内蔵されたビームソードを発振、迎え撃つように突撃する。
2機は互いに剣を掲げてぶつかり合う。
イージスの攻撃を回避して、大剣を振り下ろすシルフィード。
シルフィードの大剣をシールドで防ぎ、逆に斬り付けるイージス。
両者ともに一歩も引かずに応酬を続ける。
しかし、その攻防も、徐々にシルフィード優位に進み始める。
飛び上がると同時に、シルフィードの蹴りがイージスのボディに突き刺さる。
その衝撃に、イージスは大きくバランスを崩す。
「グアッ!?」
叩きつけられた衝撃で、コクピット内で息を吐くアスラン。
その動きを止めたイージスに向けて、狂気の切っ先が向けられる。
「これで、とどめだァァァァァァ!!」
これまでにないくらい、感情をむき出しにしたキラの叫び。
激情と共にスラスターを全開。突撃するシルフィード。
イージスも動きだすが、既に遅い。
切っ先はイージスを捉えるかと思った瞬間、
突然、漆黒の機体が両者の間に出現した。
《アスラン、下がって!!》
聞こえる少女の声。
ミラージュコロイドで姿を消して接近したブリッツが、イージスを守るように、間に割って入ったのだ。
片腕とトリケロスを失ったブリッツは、既に殆どの戦闘力を喪失しているに等しい。それでもライアは、苦戦するアスランを援護しようと、姿を隠してここまでやって来たのだ。
本来、ミラージュコロイドは地上での使用には向いていない。機体各部にコロイド粒子を付着させる事で不可視化するミラージュコロイドでは、スラスター炎や機体の音を隠す事はできないのだ。
しかし、戦闘に躍起になっていたキラとアスランには、接近するブリッツの存在に全く気付かなかった。
突き込まれる切っ先。
それは、ブリッツの胸部に突き刺さった。
「ライア!!」
アスランが悲痛な叫びを発する中、動きを止めるブリッツ。
実体剣でPS装甲を貫く事が出来ない。だがいかに強靭な装甲で鎧っても、内部の機構まで強固になっている訳ではない。
そこへ、モビルスーツ1機分の質量を上乗せし、切っ先に圧力を集中した一撃が、装甲のジョイント部分を破壊して押しつぶしたのだ。
《あ、アス・・・ラン・・・・・・》
スピーカーから聞こえてくる、少女のひび割れた声。
次の瞬間、ブリッツは閃光と共に爆散した。
「ら、ライア・・・・・・そんな・・・・・・」
アスランの目の前で、炎に包まれていくブリッツ。
中にいた少女の運命は、明白だった。
「ライア・・・・・・・・・・・・・」
脳裏には、彼女の姿が鮮明に思い出される。
年下のくせに、いつも年上の姉のように振舞っていた少女。
出撃前に、自分とじゃれ合っていた少女。
それが今、炎の中に消えていく。
「・・・・・・・・・・・・」
アスランは、自分の頭が急速に冷えて行くのを感じた。
頭の回転が、思考を追いこしていく。
あらゆる情報が遅延化し、意味を無くす。
次の瞬間、
何かが弾けた。
「う・・・・・・ウオォォォォォォォォォォォォ!!」
スラスター全開で飛び上がる。
同時に、両腕、両脚部からビームソードを発振。4本の光刃で持って、シルフィードへと斬りかかるイージス。
降下と同時に繰り出した蹴りによって、シルフィードの持つグランドスラムは半ばから真っ二つになった。
「クッ!!」
キラは舌を打ち、折れて用を成さなくなった大剣を投げ捨てると、シルフィードのビームサーベルを抜き放つ。
そこへ斬り込むイージス。
振り下ろされる斬撃を、とっさに上昇して回避するシルフィード。
だが、
「逃がさん!!」
アスランもまた、何かに取り付かれたようにシルフィードを追う。
互いの剣が空中で交錯する。
一合
二合
三合
吹き抜ける疾風の刃と、迎え撃つ守護の盾。
互いの攻撃は、相手を傷付けるには至らない。
手数で言えば、4本の刃を操るイージスが圧倒的に有利である。
しかし、機動力と言う点ではシルフィードが上を行っている為、互いに決定打を見いだせないのだ。
「アァァァスラァァァァァン!!」
「キィラァァァァァァァァァ!!」
互いに悪鬼にでも取り付かれたかのように、接近、斬撃、防御、回避、離脱を繰り返す。
2人の実力が伯仲している事を示すように、剣は未だに斬撃の凶音を奏でる事は無い。
しかし、それも終わりを告げる時が来る。
幾度目かの応酬が繰り返された時だった。
「ハァァァァァァァァァァァァ!!」
シルフィードが急降下と同時に、サーベルを振るう。
しかし、間一髪、イージスは後退する事で回避。更に反攻に転じようとした瞬間、
既にシルフィードは目前まで迫っていた。
「ッ!?」
アスランはとっさに回避しようとするも、間にあわず、振り下ろされた剣によってイージスの右腕は斬り飛ばされた。
だが、反撃はすぐに行われた。
体勢を崩しかけたイージスが、強引に左腕の剣を振るう。
その一撃によって、シルフィードのシールドを持つ左腕を斬り飛ばした。
更にシルフィードの剣は、イージスの頭部を斬り落とす。
お返しに放った足のソードでで、シルフィードのコックピットハッチが切り裂かれた。
逆にシルフィードのサーベルがイージスの脇腹を切り裂き、内部の機構を剥き出しにした。
自身が傷つく事も厭わずに剣を振るい続ける様は、狂気をはらんだ剣闘のようにも思える。
キラも、そしてアスランも、もはや自分の命すら削って相手を殺す事にのみ傾注しているかのようだ。
だが、それも唐突に終わりが来た。
後退するイージスを追って、シルフィードを前に出そうとした時だった。
突如、シルフィードの装甲が、鉄灰色に変じる。同時に、手にしたサーベルもビーム刃を失い、ただの細長い筒と化す。
「なっ!?」
コックピットの中で、キラは呻いた。
バッテリー残量が危険域に入っている。PS装甲を維持できるだけの電力が尽きたのだ。元々、70パーセントのみの搭載しか許されていないシルフィードにとって、これだけ派手に戦って限界が来ない筈が無い。むしろ、今まで持ったのが奇跡なのだ。
そして、それは対峙するイージスに絶好の機会を与える事になる。
「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」
アスランの口から放たれる獣の如き咆哮。
一気に接近し、左腕のサーベルを振るうイージス。
その一撃は、シルフィードの機体を肩口から切り裂く。
斬撃は装甲表面に留まらず、一気に切り下げて行く。
肩口を抉られ、動きを止めるシルフィード。
決まった。
確かな手ごたえを感じ、アスランは息をつこうとする。
だが、まだ終わっていなかった。
確かにシルフィードの装甲は落ち、致命傷となる損傷も負わせた。
しかし、シルフィードはまだ、完全に停止した訳ではない。キラも戦意を喪失した訳ではない。そして、イージスは、あまりにも不用意に懐に入りすぎていた。
「グゥッ!!」
最後の力を振り絞るように、キラは機体を操作。脚部に収納されたアーマーシュナイダーを抜き放つと、その短い刃をイージスに向かって突きいれた。
その一撃は、偶然か、それとも故意か、先程、シルフィードがビームサーベルで斬り裂いた装甲の裂け目に突き刺さり、イージスのエンジン部を直撃する。
次の瞬間、2体の鉄騎は閃光に包まれた。
爆発の様子は、海上で戦闘中のアークエンジェルからも観測できた。
既に武装の大半を失い、機関にも損傷を追ったアークエンジェルは微速での航行がやっとの状態である。
そんな中、モビルスーツの管制をしているミリアリアは、目の前のモニターが変化するのを見た。
「え?」
モニターに踊る文字。それは「SIGNAL LOST」。
信号途絶。
どういう意味だろう?
つい先ほど、ストライクの画面にも、その文字が浮かんだ。
いったい、どういう意味なのだろう。
2人の身に、何があったのか。
ミリアリアには、判らなかった。
PHASE-19「終末の閃光」 終わり