機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-23「絶望からの一矢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆炎は、そこら中で立ち上る。

 

 単機で突出したディンが、地球軍の戦闘機隊に包囲され、四方八方から攻撃を食らう。

 

 しかし、そこはザフト軍のエースパイロット。巧みに機体をかわして、手にした突撃銃を放ち反撃を行う。

 

 砕け散る戦闘機。

 

 しかし、喝采を上げる暇は無い。

 

 次の瞬間には、四方八方から弾丸を食らい、ディンの方が吹き飛んだ。

 

 もっとも、その勝利も一瞬である。

 

 次の瞬間には、突入してきたザフト軍のモビルスーツ隊によって、戦闘機部隊は散り散りになる。

 

 編隊を崩した戦闘機隊など、ただの的でしかない。

 

 次々と火を噴いて落ちて行く戦闘機。

 

 地上では、地球軍の戦車とザフト軍のバクゥ、ザウートが砲火を交わしている。

 

 戦車の砲撃によって、ザウートがキャタピラを破壊されて擱座したかと思えば、破壊された機体を飛び越えてバクゥが迫り、砲撃によって戦車を潰していく。

 

 戦車隊も反撃に転じようと火砲を集中させるが、その前に上空からの砲撃によって叩きつぶされる。

 

「チッ、面白くもない的だな。こんなのしかないのか?」

 

 デュエルを駆りながら、イザークが苛立たしげに呟く。

 

 今までがシルフィードやストライクと言った難敵を相手にしてきた彼にとって、相対する敵は全て、彼を満足させるには到底足りない代物ばかりであった。

 

 横に並んだバスターが両手のライフルを放ち、更に追撃としてミサイルをばらまき、残敵を掃討する。

 

 火力に置いてデュエルに優るバスターの方が、こう言う場合は効率的な掃討戦が展開できる。

 

《あ~あ、まったく詰まんないよねえ。これじゃあ、弱い物いじめだ》

 

 ディアッカもまた、イザークと同じ考えらしい。

 

 2人にとっては、この程度の敵は欠伸しながらでも勝てる程度の物でしか無かった。

 

 とは言え、グランドホロー侵攻に向けて、あまりのんびりもしていられない。

 

「よし、このまま一気に抜くぞ!!」

《了~解!!」

 

 そう言うと、デュエルとバスターは散り散りになった地球軍を掃討しながら進撃を続けた。

 

 

 

 

 

 アラスカ基地メインゲートを背にして、アークエンジェルの奮闘は続いていた。

 

 向かってくる敵機を、その強力な火砲によって寄せ付けず、手痛い逆撃を食らわして行く。

 

 守備軍の主力艦隊を配したメインゲートは、最も強固な防衛ラインによって守られている為、さしものザフト軍も攻めあぐねているのが現状であった。

 

 しかし、それでも目の前の艦隊に目を奪われていると、海中から接近したモビルスーツ隊に足元を掬われることになる。

 

 グーンの放った魚雷が巡洋艦の艦腹を抉り、隙を突いて戦艦の甲板上に跳び上がったゾノが、フォノンメーザー砲でブリッジを潰す。

 

 アークエンジェルも無傷ではない。

 

 四方八方から、包み込むようにミサイルが接近してくる。

 

「ミサイル接近!!」

「回避、取り舵!!」

 

 マリューが命令を下す。

 

 左へ回頭するアークエンジェル。

 

 しかし、回避しきれずに、1発が轟音と共に右舷を直撃した。

 

「右舷、フライトデッキ被弾!!」

 

 機体発着用のハッチが吹き飛ばされ、カタパルトデッキがむき出しとなった。

 

 しかし、戦闘力自体に低下は無い。まだまだアークエンジェルは全力発揮が可能な状態だった。

 

「オレーグ、撃沈!!」

 

 味方艦の1隻が、モビルスーツ隊の猛攻を受けて撃沈した。

 

 その報告を聞きながら、マリューは先程から異和感のような物を感じていた。

 

 何かは判らない。だが、頭の奥に引っ掛かるような物が拭えなかった。

 

 しかし、今は不確かな違和感に構っている場合ではない。

 

「取り舵、オレーグの抜けた穴を埋める!!」

 

 回頭しながら主砲による砲撃し、迫るモビルスーツ隊を吹き飛ばした。

 

 しかし、仲間の爆炎を突き破って、更にモビルスーツはやって来る。きりが無かった。

 

「この陣容じゃ、対抗しきれませんよ!!」

 

 艦を操りながら、ノイマンが必死に叫ぶ。

 

 確かに、今のところメインゲートは死守できているが、それもいつまで持つか。更に、他のゲートを破られれば、メインゲートだけを守っていても意味は無くなる。

 

「くそっ、まんまとしてやられたもんだぜ、司令部も!!」

「主力隊は、みんなパナマなんですか!?」

 

 苛立たしげなチャンドラの言葉に、サイは問いかける。

 

「ああ、そう言う事だね」

「本当に、間にあうんですか?」

「こっちが全滅する前に来てくれれば良いけどね」

 

 リリアの言葉に投げやりに答えたのはトノムラである。

 

 処理しきれないほどの敵の数に、彼等の限界も近かった。

 

 

 

 

 

 氷の中を、数隻の潜水艦が航行して行く。

 

 ザフト軍が攻撃を始める前に、アラスカ基地を脱出した部隊である。

 

 その一室に、身なりの良い将官クラスの人間が数人集っていた。

 

 彼等は皆、本来ならば今頃、JOSH-Aにあって、必死に防衛戦の指揮を取っていなくてはならない者たちである。

 

 しかし、彼等にはそんな緊迫感は無い。ただ対岸の火事を眺めているような野次馬的な雰囲気があるだけである。

 

 そこへ、サザーランドが入って来る。

 

「第4ゲートが突破されました。地下本部への侵攻が始まりました」

 

 サザーランドの報告を受けて、居並ぶ将官達は鼻を鳴らす。

 

「もう少し、持つかと思ったのですが、ね」

「たるんでいるのではありませんか、ユーラシアの連中は」

「いやいや、あまり粘られても困りますしな」

 

 自軍の損害を、嘲りを持って酷評する。

 

 ラーズはコーヒーをすすりながら言う。

 

「最低でも、8割は誘い込まないといけないからな」

「同感です。それくらい引き込めれば、戦局の逆転も容易いでしょう」

 

 ラーズの言葉に、サザーランドは頷きを返す。

 

 2人の前には、何かの操作盤が置かれていた。

 

 

 

 

 

 船倉では、多くの兵士達が押し込まれるようにして身を寄せていた。

 

 ナタルもその中にいる。

 

 自分の右手を眺めると、そこには最後に交わした握手の感触が残っていた。

 

 マリュー・ラミアス。

 

 本当に、何もかも型破りな上官だった。

 

 だが、別れてみれば、寂寥感のような物が押し寄せて来るのを拭えなかった。

 

 もっと、腹を割って話してみたかった。

 

 だが、そう心配する事もない。と、ナタルは柄にもなく楽観視していた。

 

 あの艦の強運は、誰よりも自分がよく知っている。彼女が指揮をしている限り、決してアークエンジェルが沈む事は無いだろう。

 

 そう思った時だった。

 

「何だって!?」

 

 だしぬけに、隣にいた男が声を上げたので、そちらに振り返った。

 

 すぐに、もう1人の男が制する。

 

「シッ、やばい話なんだから、これは」

 

 そう言うと、更に声を潜める。

 

「じゃあ、残った連中は・・・・・・」

「ああ、『奮戦空しく、全滅』だろうな。そして、上の連中は最後の手段に出る。全てドカンさ」

 

 その言葉に、ナタルは息を呑んだ。

 

 何を、言っているのだ? それでは、残ったアークエンジェルは? みんなは?

 

「おい、その話!」

 

 気が付くと、ナタルは立ちあがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僚艦は次々と沈められ、アークエンジェル周囲の火線が一寸刻みに薄くなって行く。

 

 それに伴い、アークエンジェルの被弾率も上がる。

 

「バリアント、1番、2番、沈黙!!」

「艦稼働率、30パーセント低下!!」

 

 艦の損害が急速に増えて行く。

 

 そしてまた、集中攻撃を受けていた右舷側の艦が炎を吹き上げるのが見えた。

 

「イエルマーク、ヤロスラフ、轟沈!!」

 

 まただ。

 

 僚艦が沈む度に走るノイズめいた物が先程から、報告を聞くマリューの中で引っ掛かっていた。

 

「司令部とのコンタクトは!?」

「ありませんよ。『各自防衛線を維持しつつ、臨機応変に応戦せよ』って、さっきから繰り返しているだけです!!」

 

 カズイが半泣きになって返して来る。

 

 マリューは唇を噛む。

 

 司令部は一体、何を考えているのか。この段になって防衛線を維持して何になる。ここは残存兵力が残っている内に基地を放棄して撤退すべきだろうに。一時アラスカを放棄しても、補給面から言ってザフト軍が長く地上に大軍を置いておける物では無い。そこで反攻に転じれば、アラスカを奪われても、最終的な勝利は地球軍の物となる筈なのだ。

 

「パナマからの援軍は!?」

「全然、影も見えねえよ!!」

 

 サイからの問いかけに返されるトノムラの声も、悲鳴じみている。

 

 その時、ミリアリアが、驚いたように声を上げた。

 

「友軍機接近。被弾している模様!!」

 

 モニターに目を転じれば、煙を上げた戦闘機が、真っ直ぐこちらに向かってくるのが見える。どうやら、そのまま着艦する気らしい。

 

 何と言う無謀。とは言え、手を打たない訳にはいかない。

 

 マリューは受話器を引っ掴んで格納庫に繋ぐ。

 

「格納庫、どっかの馬鹿が1機突っ込んで来るわ。退避を!!」

 

 戦闘機のパイロットは余程の腕なのか、被弾してバランスも欠いた機体を巧みに操り、見事にハッチを吹き飛ばされた右舷のフライトデッキに突っ込んだ。

 

 ホッと息をつくマリュー。

 

 しかし、数分後、ブリッジに駆けあがって来た人物に、驚愕の声を上げた。

 

「艦長!!」

 

 それは人事異動を受けて艦を降りた筈のムウ・ラ・フラガだった。どうやら、さっきの戦闘機には彼が乗っていたらしい。

 

 ムウは急いでマリューに駆けよる。

 

「少佐、あなた一体・・・転属は!?」

「そんな事はどうでも良い!! それより、すぐに撤退だ!!」

 

 ムウは混乱するマリューに、叩きつけるように言う。

 

「こいつはとんだ作戦だ。守備軍はどんな命令を受けてるんだ!?」

「な、何を」

 

 突然現れてまくし立てるムウに、戸惑いを隠せないマリュー。

 

 その反応で事情を察したムウが、話を進める。

 

「良いか、よく聞け。本部の地下にサイクロプスが仕掛けられてる。作動したら、半径10キロは溶鉱炉になるってサイズの代物がな」

 

 その言葉に、ブリッジにいた誰もが息を呑んだ。

 

 サイクロプス。

 

 それはかつて、月のグリマルディ戦線で地球軍が使用した大量破壊兵器。マイクロウェーブを高出力で発振する事で、周囲の物を焼きつくす。言わば電子レンジの超大型版である。

 

 そんな物が作動したら、ザフト軍はおろか、守備軍も巻き込まれてしまう。

 

「この戦力で防衛は不可能。パナマからの援軍は間にあわない。やがてゲートは突破され、司令部は本部の破棄も兼ねてサイクロプスを作動させる。それでザフトの戦力の大半を奪う気なんだよ。それが、お偉いさんが書いた、この戦闘のシナリオだ」

「そんな・・・・・・」

 

 それだけの言葉を、ようやく絞り出すマリュー。

 

 まさか、味方の司令部がそんな作戦を立てるとは。

 

「俺はこの目で見て来たんだよ。司令部は蛻の殻さ。残ってるのは、ユーラシアの部隊と、アークエンジェルのように、向こうの都合で切り捨てられた奴らばかりさ」

 

 そこで、マリューは先程から自分が感じていた異和感の正体に気付いた。周囲を取り巻く艦が、全てユーラシア連邦所属の艦ばかりなのだ。大西洋連邦所属の艦はアークエンジェルだけである。

 

 それが意味する事はただ一つ。自分達が「切り捨てられた手足」だと言う事だ。

 

「俺達に、ここで死ねって事ですか?」

「撤退した事を、悟られないように奮戦してな」

 

 ノイマンの掠れた声に、ムウは苦い顔で応じた。

 

 その時、CICからか細い声が聞こえて来た。

 

「・・・・・・こう言うのが、作戦なの?」

「ミリィ?」

 

 声を発したのはミリアリアだった。

 

「戦争だから、私達軍人だから・・・・・・そう言われたら、言われた通りに死ななきゃいけないの?」

 

 その言葉に、誰も答える事ができない。

 

 誰だって、こんな作戦に納得がいくはずが無かった。

 

 「統率の外道」と言う言葉がある。絶対に生還不可能な作戦に、「死んで来い」と言って部下を送り出す事である。しかし、これは、それにすら劣る。何しろ、味方である守備軍すら騙して死地に立たせているのだから。

 

 やがて、マリューは苦痛に満ちた決断と共に顔を上げた。

 

「・・・・・・ザフト軍を誘い込むのが作戦なら、本艦は既に、その任を果たしたと判断します」

 

 誰にも文句は言わせない。不退転の決意と共に、マリューは続ける。

 

「なお、この決断は、アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの独断であり、乗員には一切の責任がありません」

 

 その姿勢に、ムウは感服すると同時に痛ましさも感じ、慰めの言葉を駆ける。

 

「そう、気張るなって」

 

 その言葉に、マリューは少しだけ泣きそうになりながらも続ける。

 

「本艦はこれより、現戦闘海域を放棄、離脱します。僚艦に打電。『我に続け』。取り舵、湾部の左翼を突破します!!」

 

 命令を終えて、マリューは艦長席に座り直す。

 

 そのマリューに、ムウが囁きかけた。

 

「脱出もかなり難しいが、諦めるな。俺も出る」

「少佐!?」

 

 驚くマリューに、ムウは不敵に笑い掛ける。

 

「忘れた? 俺は不可能を可能にする男だって事」

 

 

 

 

 

 守り手がいなくなれば、脆い物である。

 

 アークエンジェル以下、残存艦が退避した事によって無防備となったメインゲートは、攻撃を集中されてあっさりと崩れ落ちる。

 

 そこから一気に内部へと突入を開始するザフト軍。

 

 次々と砲火を開き、内部で破壊の限りを尽くしていく。

 

 だが無論、それで終わりと言う訳にはいかない。退避に掛かろうとするアークエンジェル以下の艦隊にも、ザフト軍の追撃の手が伸びる。

 

 その様子は、ランチャーストライカー装備のスカイグラスパーで出撃したムウからも見て取れた。

 

「くそッ ゲートはくれてやったんだ。こっちは見逃してくれたっていいだろ!!」

 

 叫びながら放ったアグニが、ディンを撃墜する。

 

 アークエンジェルは僚艦をひきつれて湾口を目指すが、既にザフト艦隊が封鎖線を形成して待ち構えている。

 

 一斉に放たれるミサイル。

 

 空中にあって高い機動力を誇るアークエンジェルは回避に成功するが、僚艦は雨霰とミサイルを食らい炎を上げる。

 

「リューリク、航行不能!!」

「ロロ、撃沈!!」

 

 更に、事態は最悪を告げる。

 

「後方より、デュエル、およびバスター!!」

 

 クルーゼからの命令を受けて、アークエンジェル撃沈の為にやって来たイザークとディアッカであった。

 

「足付き、今日で最後だな!!」

「これで、きっちり終わらせてやるよ!!」

 

 相手が因縁の艦とあって、2人の意気は否が応でも上がる。

 

 駆け抜ける2機。

 

 それを防ごうと、スカイグラスパーが立ちはだかる。

 

「やらせるかよ!!」

 

 デュエルを狙って放つアグニ。

 

 しかし、デュエルはあっさりと回避してのける。

 

「舐めるな!!」

 

 お返しに放ったライフルは、スカイグラスパーのアグニを貫いた。

 

 とっさに、ストライカーパックをパージするムウ。

 

 しかし、その間にバスターはアークエンジェルへと迫る。

 

「逃がすかよ!!」

 

 放たれたライフルの一撃は、今にも発射しようとしていた後部ミサイル発射管を直撃。誘爆によってダメージは機関にも及ぶ。

 

「クッ、アークエンジェル!!」

 

 ムウが見ている前で、艦がみるみる傾斜していく。

 

「64から72ブロック、閉鎖!!」

「艦稼働率、42パーセントに落ちます!!」

 

 既に艦の機能は殆ど失われてしまっている。それでも残った火器を動員して敵を防ごうとするアークエンジェル。

 

 尚も迫る敵機を幾ばくか撃ち落とすが、それも気休め以上にはならない。

 

ブリッジ付近にも命中弾があり、大きな衝撃が来る。

 

「うわぁぁぁ、もうダメだぁ!!」

「落ち着け、バカやろう!!」

 

 恐慌に陥ったカズイを、パルが怒鳴り付けるが、その彼の顔にも焦りが隠せない。

 

「艦の姿勢、維持できません!!」

「こっちもダメです!!」

 

 ノイマンとトールの悲鳴じみた報告。

 

 艦が急速に傾斜し、海面が近付いて来る。

 

 同時に、ブリッジの目の前で敵機が長大なライフルを構えた。

 

 カーキ色の機体はバスターである。

 

 敵に奪われた、本来なら自分達の物になる筈だった機体。

 

 その機体が、自分達にとどめをさすのか。

 

 向けられる銃口。

 

 ミリアリアは、迫る死から逃れるように、目を逸らし、リリアは唇をかみしめる。サイとトールは、迫る敵を睨みつけ、カズイは逃げ出そうと立ち上がる。

 

 マリューもまた、モニターの中の敵機を睨みつける。

 

 あの苦しい戦いは何だったのか。

 

 ヘリオポリスから続いた苦しい戦いを潜り抜け、ようやくたどり着いたアラスカでは味方に裏切られ、そして死のうとしている。

 

 子供達も、こんな事なら拘束なんてしなければ良かった。

 

 キラと、エスト、そしてついには、全員を死なせる事になってしまうなんて。

 

 一方、バスターのコックピットでは、ディアッカが不敵な笑みを浮かべていた。

 

「今までさんざん手こずらせてくれたけど、これで終わりだ」

 

 言い放つと同時に、超高インパルス長射程ライフルを構えるバスター。

 

 その銃口が、光を帯びる。

 

 これで終わり・・・・・・

 

 マリューがそう思った瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空から降り注いだ一条の閃光が、バスターの掲げる銃身を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 突然の事で、とっさに理解が追いつかないディアッカ。

 

 次の瞬間、上空から急降下してきた機体が、バスターの頭部を一撃で斬り落とした。

 

「な、何なんだよ!?」

 

 損傷して、後退していくバスター。

 

 迫る脅威を排除した後、アークエンジェルの窮地を救った機体は、艦を守るようにしてブリッジの前に陣取り翼を広げる。

 

 流麗な機体だった。蒼いボディに、天使を思わせる白い双翼。基本的な形状は、Xナンバーと似通っているが、大部分が異なっている。

 

 唖然とするブリッジに、通信が入った。

 

《こちら、キラ・ヒビキ。援護します。今のうちに退艦を!!》

 

 その言葉に、一同は息を呑む。

 

「き、キラ?」

「キラだ」

「生きてたんだ!!」

 

 サイが、リリアが、ミリアリアが声を上げる。

 

 その間にも、キラと、そしてエストはイリュージョンを駆って前へと出る。

 

 エストは、目の前のモニターに目をやる。

 

 同時にキラが、搭載されているマルチロックオン機能を起動、イリュージョンの背部に装備した290ミリ長射程狙撃砲を展開して構えた。

 

「攻撃、今」

「了解!!」

 

 エストの指示に従い、キラがマルチロックオン。

 

 殆ど間断ない射撃を放つ。

 

 それだけで、前方から向かってくるモビルスーツ群が、頭部を、手足を、武装を撃ち抜かれて戦闘不能に陥る。

 

「次!!」

「11時方向より、モビルスーツ群。その次に4時、次は1時」

 

 エストは戦況を見据え、次々と敵の攻撃パターンを割り出す。

 

 これこそが、イリュージョン最大の武器「デュアルリンク・システム」である。

 

 イリュージョンのOSには数億にも及ぶ戦闘パターンが登録されており、それを駆使して可能性の高い順に3パターンの攻撃を予測する、短期未来予測が可能となっている。ただし、データは膨大であり戦闘中にパイロットがその処理をする事は事実上不可能。そこでイリュージョンは複座式となり、サブパイロットが戦況予測を担当、メインパイロットが操縦と攻撃を担当するのである。これとマルチロックオン機能を合わせれば、敵機の攻撃を完璧に先読みし、相手が行動を起こす前に制圧する事も不可能ではない。

 

イリュージョンは更に、対艦刀ティルフィングを抜き放って斬り込む。

 

 反撃しようと火線を放つザフト軍だが、幻影の名を持つ機体を捉える事はできない。

 

 急接近したイリュージョンは、長大な大剣を、まるで腕の延長のように軽々と振るい、迫るモビルスーツを片っ端から斬り飛ばしていく。

 

 アークエンジェルを包囲する部隊が壊滅するまでに1分も掛からなかった。しかも、驚くべき事に、全てがコックピットやエンジン部を外しての攻撃であった。

 

 一息ついた所で、キラは再びアークエンジェルへ通信を入れた。

 

「マリューさん、早く退艦を!!」

《き、キラ君!?》

 

 キラの言葉に、マリューは混乱しているのか、たどたどしく現状を伝えて来る。

 

《あ・・・・・・いえ、あの、本部の地下に、サイクロプスが仕掛けられていて、私達は、囮に・・・・・・》

 

 伝えながら、マリューは情けない気持ちになる。地球軍の士官として、キラの仲間を預かる艦長として、このような事を伝えなくてはならないのがつらかった。

 

 その間にも向かってくる攻撃を、イリュージョンはビームシールドで防ぎ、お返しに腕部に内蔵されたビームガトリングを放ち、攻撃してきたディンの頭部を吹き飛ばした。

 

《作戦なの。知らなかったのよ!!》

 

 マリューの悲痛な叫び。最後の方は、殆ど涙交じりである。

 

《だから、ここでは退艦できないわ。もっと、基地から離れないと》

 

 その事で、大体の事情を察する。

 

「キラ」

「うん、判ってる」

 

 キラとエストは短いやり取りの後、イリュージョンは再びティルフィングを構えて斬り込む。

 

 同時にキラは、回線をオープンチャンネルにして叫ぶ。

 

「ザフト、連合、両軍に伝えます。アラスカ基地は間もなく、サイクロプスを作動させ、自爆します。両軍ともただちに戦闘を停止し、撤退してください。繰り返します・・・・・・」

 

 キラの声は、包囲するザフト全軍に伝えられる。

 

 しかし、モビルスーツ隊の勢いは留まる事を知らず、次々と押し寄せてはイリュージョンの大剣によって、頭部や手足を斬り飛ばされて後退を余儀なくされる機体が続出する。

 

 勝ちに乗っている軍隊が、敵の勧告などに従う筈もないのだ。

 

 その筆頭とも言うべき存在が、イザークである。

 

「下手な脅しを!!」

 

 彼にはそれが、命惜しさの戯言にしか聞こえていなかった。

 

 どうせ味方を逃がす為に欺瞞を並べ立てているにすぎないのだ。その手には乗らない。

 

 ビームサーベルを抜き放ち、イリュージョンに斬りかかるデュエル。

 

 対してイリュージョンは、斬りかかられる前にデュエルの拳を掴む。

 

《やめろと言っているだろう。死にたいのか!?》

「何を!?」

 

 通信機から聞こえた若い男の声に、イザークは突発的に食いかかる。まるで自分ではかなわないと言っているような口ぶりが許せなかった。

 

 ゼロ距離からイリュージョンの頭部に向けてレールガンを放つデュエル。

 

 しかし、その砲撃を、イリュージョンはあっさりと回避してのけた。

 

 いったん離れる2機。

 

 しかし、イリュージョンはデュエルが体勢を立て直す前にティルフィングを構えて斬り込む。

 

 真っ直ぐコックピットを目指す刃。

 

 イザークは一瞬、死を予感したが、命中の直前にイリュージョンは剣閃を下げ、デュエルの足を薙ぐに留めた。

 

《早く脱出しろ。もうやめるんだ!!》

 

 キラはそう言うと、デュエルを蹴り飛ばす。

 

 落下するデュエルは、空中でディンに拾われる。

 

 そのコックピットの中で、イザークは遠ざかって行く蒼い機体を不思議な面持ちで眺めていた。

 

 あの時、確かに大剣はコックピットを狙っていた。しかし、あのパイロットは直前で、不自然に剣を下げた。まるでイザークを助けるかのように。

 

「あいつは、いったい・・・・・・」

 

 イザークには理解できない事だった。

 

 

 

 

 

 潜水艦の艦長室で歓談する将校たちの中にあって、サザーランドはふと時計を見てから呟いた。

 

「そろそろですかな」

 

 まるで、これからちょっとした余興でも始まるかのような口ぶりである。

 

 サザーランドとラーズは、それぞれ首に下げた鍵を取りだすと、目の前の装置の付けられたカバーを開いて、鍵を差し込む。

 

 両者は互いに頷き合うと、鍵に両手を添える。

 

「コーディネイターどもに死の鉄槌が下されん事を」

「青き清浄なる世界の為に。3・・・2・・・1」

 

 カチリッ と言う音と共に、いっそ呆気なく鍵は回された。

 

 

 

 

 

 変化は、唐突に起こった。

 

 アラスカ基地内部へと進行中だったザフト軍の兵士は、自分達に向かってくる電磁波の嵐を目撃する。

 

 しかし、それが、彼等が見た最後の光景だった。

 

 まず、脳が電磁波によって焼きつぶされ、次いで体内の水分が膨張したかと思うと、肉体が一瞬で膨れ上がり、内側から弾け飛んだ。

 

 更にモビルスーツも、電装系を侵食されて爆発する。

 

 電磁波の影響は、敵味方の区別なく、効果範囲にある物を全ての見込み、破壊しつくしていく。

 

 あまりに強力。あまりに非人道的。

 

 サイクロプスが忌み嫌われる理由はここにあった。

 

「機関全速、退避!!」

 

 マリューが必死になって叫ぶ。

 

 生き残ったエンジンを総動員して退避するアークエンジェル。

 

 迫る電磁波が足首をつかむ恐怖を必死に押し殺して、退避を急いだ。

 

 

 

 

 

 その光景は、ザフト艦隊でも観測する事が出来た。

 

 巨大な電磁波の嵐がアラスカ基地全体を包み、内部にいる全てを焼き尽くしていく。

 

 生存者の存在など、考えるだけ時間の無駄であろう。

 

「馬鹿な・・・・・・」

 

 誰もが呆然とする中、1人、その様子に笑みを見せる者がいる。

 

「してやられましたな、ナチュラルどもに」

 

 ラウ・ル・クルーゼはそう言って、仮面の奥で笑みを閃かせた。

 

 

 

 

 

 近くの小島にある海岸に、アークエンジェルはつんのめるようにして突っ込んでいた。

 

 誰もが脱力して、目の前の機器に顔を埋めている。

 

「た、助かった、のか?」

「・・・・・・た、たぶん」

 

 本当に、息も絶え絶えと言った感じである。もし今、ザフト軍の攻撃を受けたら、成す術もなく撃沈されてしまう事は想像に難くない。

 

 しかし、今はそんな事どうでも良かった。

 

 生きている。

 

 その実感だけが、今の彼らの全てだった。

 

 モニターを見れば、少し離れた場所にイリュージョンが着陸しているのが見える。どうやら、向こうも生き残ることに成功したらしい。その脇には、ムウのスカイグラスパーも着陸していた。

 

 だが、地球軍で生き残ったのはアークエンジェル1隻のみ。あれだけいた味方は全て、敵に撃沈されるか電磁波に巻き込まれて全滅してしまった。

 

 これからどうするか。

 

 そんな言葉が、艦長席で項垂れるマリューの脳裏をよぎる。

 

 が、今はともかく、助かった事を喜ぶべきだった。

 

 

 

 

 

 アスランが到着すると、総司令部はハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

 行きかう兵士はみな、緊張した表情を浮かべ、中には怒号さえ上げているものもいる。

 

 いったいどうしたというのか? まさか、スピットブレイクの隙を突いて、地球軍がプラント本国に奇襲でもしかけて来たのだろうか。

 

 そんな事を考えていると、見知った顔を見つけた。

 

「ユウキ隊長!!」

 

 アスランに呼ばれて振り返った黒服の男は、かつてアスランがアカデミー時代に世話になった人物である。今は司令部幕僚として本部勤務をしているはずだ。

 

「アスラン・ザラ、戻っていたのか?」

「ええ、つい先ほど。それよりも、この騒ぎは一体・・・・・・」

 

 言っている内にも、兵士が血相を変えて走り回っている。

 

 ユウキは苦い顔をして、アスランに言う。

 

「未確認情報だが、スピットブレイクが失敗したらしい」

 

 その言葉に、アスランは目を見開く。

 

 まさか、ザフト全軍の7割以上を投入して敗れるなど、いったい誰が想像しただろう?

 

 それに作戦に参加したラウやイザーク、ディアッカ達の事が気がかりだった。

 

「では、パナマは・・・・・・」

「いや、スピットブレイクの目標はパナマじゃない。アラスカに変更されたんだ」

「ええ!?」

 

 驚愕するアスランに、ユウキは言いにくそうに声をひそめて顔を近づけた。

 

「君にはもう1つ、悪い報せがある。開発が進められていた新型モビルスーツが1機、スパイの手に奪われた。そのスパイの幇助をしたのが、ラクス・クラインだという話だ」

「そんな!?」

 

 ラクスが? 何で?

 

 アスランは訳が判らないまま、足元の地面が崩れていくような錯覚に捉われていた。

 

 

 

 

 

PHASE-23「絶望からの一矢」   終わり

 

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