機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-24「激流、流れるままに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラはラダーから降りてくるエストの脇に手を入れ、地面に下してやる。

 

 振り返れば、アークエンジェルから降りてきたマリューやサイ達が、不思議な物でも見るかのように、こちらを見ていた。

 

 歩み寄り、笑みを向けた。

 

「間に合って、良かったです」

「キラ君・・・・・・エストさん・・・・・・」

 

 呆然とするマリュー。彼女達からすれば、幽霊が生きて帰って来たようなものである。驚くのも無理はなかった。

 

「キラ!!」

「この野郎、お前、生きてたのか!!」

 

 サイとトールがキラに駆け寄って腕を首に巻きつける。

 

 一方、ミリアリアとリリアは、エストへ駆け寄った。

 

「良かった。ほんとに良かった」

「苦しいです、ミリアリア・ハウ」

 

 首っ玉に抱きつかれながらも、無表情で返すエスト。

 

「ほんとに、心配したんだからね!!」

 

 リリアはそう言いながら、無事なほうの手でクシャクシャになるまでエストの頭を撫でる。

 

 子供達の再会の風景を眺めながら、マリューが声をかけた。

 

「お話ししなくちゃいけない事が、たくさんあるわね」

「ええ、僕達も、聞きたい事があります」

 

 そこでふと、2人が着ているパイロットスーツに目をやったムウが口を開いた。

 

「ザフトに、行っていたのか?」

「・・・・・・はい。でも僕達はザフトじゃありません。そしてもう、地球軍でもありません」

 

 そう告げるキラの目には、強い意志が浮かぶ。エストもまた、同調するように強く頷いた。

 

 その意志を受け、マリューも頷きを返した。

 

「判ったわ。それで、あの機体については、どうすればいいの?」

 

 マリューの目は、膝をついて駐機しているイリュージョンへ向けられる。先ほどまで目の覚めるような蒼だった装甲も、今はPS装甲を解除され、鉄灰色になっていた。

 

「補給や整備については、今のところ問題ありません。あれにはNジャマーキャンセラーが積んでありますから」

 

 その言葉に、一同は驚愕した。それはつまり、核エンジンが使用可能になっている音を意味している。

 

 しかし、キラは強い意志を込めた瞳で言う。

 

「解析しようというなら、お断りします。そして、奪おうとするなら、敵対してでも守ります。それが、あれを託された僕達の責任ですから」

 

 その意志を前に、マリューも少年が変わった事を知った。

 

 今までのキラは、元テロリストという手前か、必要以上に、自分たちに意思を示すようなことはなかった。しかし、今のキラは、はっきりとした意思を持って歩いているのが判る。

 

 それはエストも同様である。いや、かつての感情の希薄ぶりからすれば、彼女の変化はより顕著であると言える。

 

 いったい、オーブ沖でのMIAから今まで、彼らの身に何があったのか。

 

 マリューは戸惑いとも、頼もしさともつかない感情と共に、キラとエストを見ていた。

 

 

 

 

 

 アスランが議長室に入ると、パトリックが数人の議員や兵士に指示を飛ばしているところだった。

 

 彼らの顔もみな、一様に緊張と焦燥の色が強い。

 

 スピットブレイク失敗の損害は凄まじく、参加兵力の8割を喪失したザフト軍は、今や戦線の維持すら難しくなっている状態である。

 

「クルーゼはどうした?」

「まだ、コンタクトはとれていませんが、無事との報告が入っています」

 

 その言葉に、アスランはそっと息をついた。

 

 どうやらラウは無事らしい。ならば、一緒にいるはずのイザークやディアッカも無事である可能性が高い。

 

「とにかく、残存する部隊はカーペンタリアへ集結を急がせろ。浮足立つな。欲しいのは、冷静かつ客観的な情報だ。クライン等の行方はどうなっている?」

「まだです。どうやら、地下に相当なルートを構築していたらしく、発見には時間がかかることが予想されます」

「急がせろ。司法局を動かしてもかまわん。何としても奴らを見つけ出すのだ。カナーバ等、クラインと親交のあった議員も、全て拘束しろ」

 

 その言葉に、議員たちは渋った様子を見せる。そんな事をしていったいどうしようというのか。

 

 だが、戸惑う彼らに、パトリックは語気を強めて言う。

 

「スパイを幇助したラクス・クライン。行方の分からぬその父、そして漏洩されていたスピットブレイクの情報。子供でも判る図式ぞ!!」

 

 その言葉に、アスランは顔をしかめる。

 

 確かに、言われてみれば筋道だっていなくもない。だが、あまりにも強引過ぎる。これでは「子供でも判る図式」ではなく、「子供でも判る図式に無理やり押し込めている」ようにしか見えない。

 

 やがて、議員たちが出ていくと、アスランはパトリックに近づいた。

 

「・・・・・・父上」

「何だそれはっ」

 

 父の冷たい言葉に、アスランはあわてて敬礼を返す。

 

「失礼しました、ザラ議長」

 

 態度を改めた息子に、パトリックはフンっと鼻を鳴らしてねめつけた。

 

「まだ、正式な発表はないが、ラクス・クラインは国家反逆罪として、指名手配されることになる。お前はZGMF-X09Aジャスティスのパイロットとして、奪われたZGMF-X14Aイリュージョン追撃の任に付け。目的は機体の奪回、及び、それに関わった人物の抹殺、施設の全破壊だ」

「そんな、関わった人物や、施設に至るまで、全てですか?」

「そうだ」

 

 驚くアスランに、パトリックは冷酷に告げる。

 

「あれらの機体には、Nジャマーキャンセラーが積まれている。敵に奪われたままにしておくことはできん」

「そんな、Nジャマーキャンセラー、それでは!!」

 

 核エンジンを積んでいる。

 

 ユニウスセブンを、

 

 母、レノアを殺した火を、父は手にしたというのか。

 

「勝つ為に必要なのだ、あの力が!!」

 

 強硬に叫ぶ父の姿が、アスランには狂気に捉われているようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、作戦だったんですか?」

 

 ブリッジの壁に寄りかかり、キラは尋ねた。ひと段落した彼は、着なれた地球軍の青い軍服を着ている。エストも同様で、ピンク色の軍服に着替えていた。

 

 アラスカ基地で行われた事の一部始終を聞かされ、キラは苦い顔をした。

 

 伝えられなかった作戦内容。仕掛けられたサイクロプス。

 

 エストの身の上に起こった事も勘案すれば、これまで見えていなかった地球軍の実態がここにきて一気に浮き彫りになった感がある。

 

 一歩遅かったら友人の命が失われていたと思うと、反連邦テロリストとして戦ってきたキラにとっても苦々しい思いである。

 

「それで、これからどうするのですか?」

 

 尋ねたのはエストだ。

 

 アークエンジェルは、幸か不幸か生き残ってしまった。ならば、今後の身の振り方も考えなくてはならない。

 

 本来であるならば、主力軍が集結しているパナマへ行くべきなのだが。

 

「歓迎してくれるのかね、色々知っちゃってる俺達をさ」

 

 嘯くように言うムウの言葉は、一同の気持ちを総括している。

 

 アラスカの真実。それを知った上で、抗命して生き残ったアークエンジェルである。良い顔をされない事だけは間違いない。よくて監禁、悪くすれば口封じに全員が殺されかねない。

 

 パナマに行く。その選択肢は、今や完全にゼロといえた。

 

 では、どうする?

 

 今後の身の振り方を、どう決める?

 

 アークエンジェルの舳先が向く先は、今や完全に混迷の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃屋と化した劇場の前に立ち、アスランは息をのむ。

 

 吹き付ける風がなお一層寂寥感を呼び、終わった時代への哀悼をうかがわせる。

 

 なおも包帯を巻いた腕には、ピンク色の球体が握られている。

 

 それは、ラクスが最もかわいがっていたピンク色のハロだった。

 

 父との殺伐とした会見を終えたあと、アスランはその足でクライン亭へと向かった。

 

 美しい景観を誇っていた屋敷は、すでに踏み込んだ司法局員の手によって手当たりしだいに荒らされ、無残な姿を晒していた。

 

 調度品はすべて破壊され、窓ガラスも叩き割られていた。

 

 ここにはもう、何の手がかりもないだろう。

 

 そう思って立ち去ろうとした時に、飛び出して来たのがこのハロだった。

 

 ハロはアスランを導くように、一つの花壇の前で止まった。

 

『ホワイトシンフォニー』

 

 そう名付けられた薔薇の花壇。

 

 その名前には、覚えがあった。

 

 確か、ラクスが一番はじめに歌を披露した場所の名前。いわば、歌姫ラクス・クラインの原点とも言うべき場所であった。

 

 全てを察したアスランは、そのままこの場所へと赴いたわけである。

 

 左手にハロを持ち、右手には銃を抜いて中に入る。

 

 コンサートホールまで来ると、それまで沈黙していたハロが、突然目を点滅させてアスランの手から飛び出した。

 

「ハロハロ、ラクス~」

 

 相変わらず、間の抜けた声とともに、ステージに飛び乗るハロ。

 

 そこには果たして、探し求めていた人物の姿があった。

 

「まあ、ピンクちゃん」

 

 ラクスは跳ねてきたハロを抱きとめると、アスランに向き直った。

 

「やはり、あなたが連れて来てくださいましたのね、アスラン」

「ラクス・・・・・・・・・・・・」

 

 ラクスは薄青色のステージ衣装を着て、長い髪をツインテールにしている。まるで、本当にこれからここで、彼女のステージが始まるかのようだ。

 

 そんなラクスの前に立ち、緊張した面持ちで銃口を向けるアスラン。

 

「どういう事なのです? 本当なのですか? あなたがスパイの手引をしたなどと」

 

 こうして対峙してみると、余計に現実感のない話に思える。

 

 目の前の少女が、スパイを幇助したなど。できるなら、本人の口から否定してほしかった。

 

 やがて、ラクスは口を開く。

 

「スパイの手引などしていません」

 

 その言葉に、一瞬歓喜を浮かべかけたアスランだが、すぐに続けられたラクスの言葉に、さらなる衝撃を受けた。

 

「ただ、渡しただけですわ。キラと、エストに、守るための剣を」

「っ!?」

 

 その言葉に、アスランは息をのむ。

 

 いったい何を言っているのだ?

 

 キラに渡した?

 

 なぜ、そこでキラが出てくる?

 

「そんなはずはない・・・・・・キラは、あいつは・・・・・・」

「あなたが殺しましたか?」

「ッ!?」

 

 冷たく突きつけられるラクスの言葉に、一瞬息をのむ。

 

 あの時の衝撃。

 

 シルフィードをイージスの剣で貫いた時の感触が、今も手に残っている。

 

 対して、ラクスは一瞬後には凍りつきそうな空気を融解させ、アスランに笑いかけた。

 

「大丈夫。キラは無事ですわ」

 

 だが、その言葉が余計にアスランを刺激する。

 

「嘘だッ あいつが、キラが、生きているはずがない!! いったいどういう企みなのです、ラクス・クライン!?」

 

 激高するアスランに、ラクスはあくまで穏やかに言葉をつづる。

 

「マルキオ様がお連れになりましたの。あなたとキラが戦った場所の近くには、マルキオ様の庵があったのです」

 

 マルキオ導師の事は知っている。確か、プラントと地球の仲立ちをし、戦争の早期終結に尽力している人物であると。

 

「言葉は信じませんか?」

 

 ラクスは、舌鋒も鋭くアスランを見る。

 

「では、ご自分でご覧になったものは? 戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、何もご覧になりませんでしたか?」

 

 狂気を孕んだような父。その父が開発した、核を動力とした機体。

 

 それらがまともではない事は、アスランにも判る。

 

「ラクス・・・・・・」

 

 もはや何を信じればいいのかさえ判らなくなりつつあるアスランに、ラクスは続ける。

 

「アスランが信じて戦う物は何ですか? いただいた勲章ですか? お父様の命令ですか?」

「ラクス!」

「そうであるならば、キラは再びあなたの敵となるかもしれません。そして、この私も・・・・・・」

 

ラクスは立ち上がり、ゆっくりとアスランへと歩み寄る。

 

「敵だというのなら、私を撃ちますか? 『ザフトのアスラン・ザラ』?」

 

 瞳はまっすぐにアスランを射抜く。

 

 なにも武器を持たず、戦う事すら知らないはずの少女は完全にアスランを圧倒している。

 

 ザフトの兵士としてのアスランなら、確かにこの場でラクスを撃たねばならない。

 

 だが、本当にそれで良いのか?

 

迷うアスラン。

 

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 

 それすら、今のアスランには分からない。

 

耳に複数の足音が聞こえてきたのはその時だった。ハッとしたアスランは咄嗟にラクスを背後に庇い、新たに現れた一団に銃を向ける。

 

「ご苦労様でした、アスラン・ザラ」

 

 先頭の男が、慇懃に言う。

 

 司法局の人間であることは、すぐに判った。どうやら、アスランは尾行されたらしい。

 

 数は10以上。向けられる銃口は、どうやら問答無用を意味しているらしい。

 

「やはり婚約者ですね。実に手際がいい。さあ、彼女をこちらに渡してください。国家反逆罪の逃亡犯です。この場での射殺もやむなしとの命令を受けています」

「そんなバカな!?」

 

 話が早すぎる。これでははじめから犯人扱いではないか。

 

 どうやらパトリックは、穏健派や中立派が騒ぎ立てる前に、主謀者死亡で事件を闇に葬り、もって自分の権力を確立するつもりらしい。

 

 銃を持つ手に力を込めるアスラン。

 

 こんな事が許されて良い筈が無い。確かにラクスがした事は重罪だが、このような陰謀によって彼女が葬られる事は、アスランの良心が許さなかった。

 

 しかし、分が悪すぎる。数が違う上に、今のアスランは片手を怪我している。これではラクスを守る事も叶わない。

 

 そう思った時だった。

 

 突然の銃声が響き、司法局の男が倒れる。

 

 その一瞬のすきを突いて銃を投げ捨てると、アスランはラクスを抱えてステージから飛び降りる。

 

 なおも銃撃戦は続いていたが、奇襲を受けたこともあり、司法局側が全滅するのに1分も掛からなかった。

 

「もう、良いですか、ラクスさん」

 

 銃声が止んだ頃、舞台袖から出てきた人物を見て、アスランは思わず声を上げた。

 

「二コル、君もか!?」

 

 アスランにとっても友人であり、プラントを代表するピアニストの少年、二コル・アマルフィがそこに立っていた。

 

「お久しぶりです、アスラン」

「あ、ああ」

 

 ほほ笑む少年は、次いでラクスに目を向けた。

 

「行きましょう、ラクスさん。ここにこれ以上いるのは危険です」

「そうですわね、それではアスラン、ピンクちゃんをありがとうございました」

「マ~イド、マイド!!」

 

 主従ともに、場違いな声を発する。

 

 だが、すれ違う一瞬、ラクスはアスランに告げた。

 

「キラは地球です。会って、お話しされてはいかがですか?」

 

 

 

 

 

 ザフト最新鋭の機体だけあって、ジャスティスはそれまで乗っていたイージスとは段違いの性能を示していた。

 

 ビームライフル1基に、腰にはビームサーベルを装備、背中には巨大なリフターを装備して機動性向上が図られている。引き絞られた四肢はいかにも接近戦向けで、アスランの特性に合わせたかのようだ。

 

 そのコックピットに座し、アスランはラクスの言葉を考える。

 

 地球にいるキラ。

 

 彼と話す事が出来れば、自分の中の疑問にも答えを出す事が出来るのだろうか?

 

 判らない。

 

 判らないが、今は動き出すしかなかった。

 

 機体のOSに灯を入れ、同時にPS装甲を起動する。

 

 纏う衣の色は深紅。血に塗れた自分には相応しい色に思える。

 

 眦を上げる。

 

 全ては、ここから始まるのだ。

 

 上方のハッチが一斉に開き、発進準備が整った。

 

「アスラン・ザラ、ジャスティス出る!!」

 

 鋭い叫びと共に、迷いを抱えた紅き騎士が飛翔する。

 

 目指すは地球。友がいる場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入港して来る白亜の艦を見て、カガリは思わず涙が出そうになった。

 

 潜り抜けてきた激闘のすさまじさを物語るように、装甲のあちこちに損傷が目立っていた。

 

 迷った末に、アークエンジェルは縁のあるオーブ連合首長国を頼って亡命する事にした。

 

 だが、カガリを驚かせたのは、そんな事ではなかった。

 

 事前に提出されたクルー名簿の中に、あり得ない2人の名前を見つけたからだ。

 

 キラ・ヒビキとエスト・リーランド。死んだと思っていた2人が、あの船に乗っている。

 

 カガリが歓喜に包まれたのは言うまでもない事である。

 

 艦が桟橋に停止すると、居ても立ってもいられずに、隣に立つキサカをほっぽり出して駆けていく。

 

 途中、艦に入ろうとした瞬間、担架に乗せられた重傷人の列に阻まれ、踏鞴を踏む。

 

 運び出されてくる誰もが苦痛に顔を歪め、戦いのすさまじさを物語っていた。

 

 カガリはさらに、勝手知ったる艦内の廊下を駆け、やがて、目指す2人を見つけた。

 

「キラ!! エスト!!」

 

 呼びかけられ、振り返る2人。

 

 だが、その時には回避不能な距離にカガリが飛び込んできた。

 

「カガリ、うわっ!?」

 

 勢いあまって、もつれるように床に転がる3人。キラとエストにいたっては、そのまま床に後頭部をぶつける。

 

「か、カガリッ!?」

「痛いです」

 

 カガリに押しつぶされて、2人はそれぞれ声を洩らすが、カガリはそんな事お構いなしに、2人を抱きしめる。

 

「お前ら、本当に、本当に生きてるんだな!?」

「生きてるよ。僕も、エストもね」

「重いです」

 

 2人の心のこもった声を聞きながら、カガリは嗚咽を漏らす。

 

 良かった。

 

 本当に、良かった。

 

 

 

 

 

 入港してすぐに、アークエンジェル代表としてマリュー、ムウ、キラ、エストの4人はカガリの父であるウズミ・ナラ・アスハと会談を持つ事になった。

 

 同席者としてカガリとキサカもいる中で、会談は重苦しい雰囲気のまますすめられる。

 

「まさか、サイクロプスを使うとは。いかに情報の漏洩があったとはいえ、そのような作戦、常軌を逸しているとしか思えぬ」

「ですが、地球軍はそれで、ザフト攻撃軍の8割の戦力をうばいました。もっとも、作戦を立案した側の都合の良い、冷たい計算ですが」

 

 ウズミの言葉に、キサカも苦い調子で答える。

 

「その結果が、これか」

 

 つけられたテレビには、大西洋連邦のスポークスマンが映り、アラスカ戦の様子を伝えている。

 

 背後に映っているのは、崩壊したグランドホローの跡地で、今は海水が流れ込み、見る影もない様相になっていた。

 

《我々は、このJOSH-A崩壊の日を、大いなる悲しみを持って歴史に刻まねばならない》

 

 映像は切り替わり、そこには傷ついた兵士や、亡骸にしがみついて号泣する家族の映像が映りこんでいる。

 

 悲しみを誘う映像ではあるが、あの地獄を生き延びたマリュー達からすればそれは欺瞞以外の何物でもなかった。そもそも、サイクロプスで全て吹き飛んでしまったのだから、負傷者や遺体などが出る筈もないのだ。つまり、この映像自体が単なるプロパガンダに過ぎない事を如実に表している。

 

《だが、 我々は決して屈しない!! 我々の生きる平和な大地を、安全な空を奪う権利が一体コーディネイターのどこにあるというのか!?》

 

 平和な大地? 安全な空? そんな事を言う権利が彼等にあるというのか? そもそも、先に手を出したのはナチュラルの側である。それを棚上げしての言い分は不快でしかなかった。

 

《この犠牲は大きい。だが、我々は それを乗り越え、立ち向かわなければならない!! 地球の安全と平和、そして未来を守るために!! 今こそ力を結集させ、思い上がったコーディネイターらと戦うのだ!》

 

 聞くに堪えない美辞麗句に、ウズミは嫌気がさしたようにテレビを切った。

 

 終始、この調子である。

 

 地球軍はアラスカ基地崩壊をザフト軍の新兵器が投入された為と発表している。随分と都合のいい言い訳であった。

 

「既に大西洋連邦は、中立を掲げる地球の国々へ参戦の呼びかけを行っている。それはわが国も同様だ。従わない場合は、ザフト支援国とみなし攻撃する、とな」

「そんなっ」

 

 マリューが思わず声を上げた。

 

 無茶にもほどがある。内政干渉というレベルの話ではない。国の主権を何だと思っているのか。

 

「奴等は、このオーブの力が欲しいんだ。オーブの持つ、モルゲンレーテの技術力と、マスドライバーがな」

 

 カガリが吐き捨てるように言う。

 

 モルゲンレーテの技術力は、小国でありながら群を抜いており、大西洋連邦としても喉から手が出るほど欲しいだろう。そしてマスドライバー。オーブのカグヤ島には、地球でも最大規模のマスドライバー施設がある。地球軍はそれらを狙っているのだ。

 

「我らも、歩むべき道を見定めねばならぬときが来たのかもしれぬ」

「ウズミ様は、どうお考えなのですか?」

 

 尋ねたのはキラである。少年でありながら、深い光を宿すようになった瞳は、真っ直ぐにオーブの獅子を見据えている。

 

 その瞳を、ウズミは感慨深くみつめる。

 

 やがて、ウズミは頷きながら答えた。

 

「ただ剣を飾っておけばいいと言う訳ではなくなった。そう考えておるよ」

 

 そう答えたウズミの瞳には、オーブの獅子と呼ばれるに相応しい闘志と知性が備わっているようだった。

 

 

 

 

 

 仕立ての良いスーツを着たその男は、一見すると軍施設には似つかわしくないようにも思えた。

 

 だが、彼はモニターの先で行われている模擬戦闘を、面白そうな表情で眺めている。

 

 男は大西洋連邦軍、国防連合産業理事、ムルタ・アズラエル。反コーディネイター組織を束ねるブルーコスモスの首魁を務める人物でもある。

 

 1機の白い機体が、敵機役の複数の機体を相手にした戦闘。

 

 通常であるならば、白い機体に勝ち目はないように思える。

 

 しかし、一見すると、ずんぐりとして巨大な大砲を何門も装備し、機動性には縁がないように思えるその機体は、巧みなバーニア噴射で全ての攻撃をかわし、反撃として撃ったビームは確実に敵を撃ち抜いていく。

 

 最後の1機が倒れるのを確認したアズラエルは、モニター前を離れて格納庫へと向かった。

 

 メンテナンスベッドに固定された機体から出てきたパイロットに、アズラエルは近づく。

 

「いや~、お見事ですよ。新記録じゃないですか。あい変わらず流石ですね」

 

 パイロットはアズラエルの方に振り返ると、億劫そうにかぶったヘルメットを取る。

 

 驚いた事に、あれだけの操縦の冴えを見せたパイロットは、まだ少女と言ってもいい年齢の女だった。

 

「全然歯ごたえが無いわ。もっとましな連中はいないの?」

 

 冷めた調子で尋ねる少女に、アズラエルは肩をすくめる。

 

「すいませんね。今、例の3機は調整中ですし。もう暫くは、一般機のやつらで我慢してくださいよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 望んだ回答が得られなかった少女は、面白くもなさそうに踵を返して立ち去ろうとした。

 

 その背中へ、アズラエルが思い出したように付け加えた。

 

「ああ、そうそう、もしかしたら・・・・・・、」

 

 少女が足を止めるのを確認してから、アズラエルは続けた。

 

「もうすぐ、あなたの力を存分に振ってもらう事になるかもしれませんよ」

「・・・・・・・・・・・・期待しないで待ってるわ」

 

 それだけ言うと、少女は赤い髪をなびかせて、今度こそ歩き去って行った。

 

 その背中を見据えながら、アズラエルは密かにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

PHASE-24「激流、流れるままに」   終わり

 

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