機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-25「迫りくる狂風」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 払暁を迎えると共に、沖に展開した艦隊は一斉にミサイルを放った。

 

 着弾したミサイルは、沿岸施設を次々と破壊していく。

 

 地球連合軍マスドライバー基地、パナマ。

 

 オペレーション・スピットブレイク本来の攻撃目標であったこの基地に今、ザフト軍は攻撃を仕掛けていた。

 

「ウロボロスの輪を閉じ、ナチュラル共を地球に押し込めねば、危ういからな、議長も、プラントも」

 

 そう皮肉交じりに嘯くのは、再び総指揮官の任に就いたラウ・ル・クルーゼだった。

 

 改めてこの地に攻撃を仕掛け、マスドライバーの殲滅を図るのだ。

 

 だが、ザフト軍の兵力は、当初予定されていた兵力の4割にも満たない。さらに今回は降下部隊の援護もなく、海上からの上陸作戦に限定された戦術しか取れなかった。

 

 全てはアラスカ戦での大敗が原因だった。

 

 地球軍のサイクロプスによって戦力の過半を喪失したザフト軍に、もはや贅沢な作戦指導を行う余裕は無かった。

 

 それでも、戦闘機や戦車といった旧来の兵器相手なら、ザフト軍のモビルスーツはまだまだ十分な実力発揮が可能である。

 

 バクゥが戦車を蹴り飛ばし、ジンが砲座を潰し、ディンが戦闘機を落とし、ゾノやグーンが施設を破壊していく。

 

 これまでも見てきた、当たり前の光景。

 

 だが、それが覆される日が来るとは、この時、誰も信じていなかった。

 

 突如、大気を焼いた数条の閃光。

 

 それは、圧倒的な戦闘力で殺戮を繰り返していたザフト軍のモビルスーツ達を吹き飛ばしていく。

 

《な、何だ!?》

 

 ザフト軍に緊張が走る。

 

 向けたカメラの先には、こちらに向けて砲門を開くモビルスーツの一群が映った。

 

《あれは!?》

《ストライクとかいう、地球軍のモビルスーツか!?》

 

 正確には違った。

 

 その機体はストライクダガー。その名が示すとおり、ストライクの戦闘データをもとに、量産が開始された地球軍の主力機動兵器である。

 

 第13独立部隊と呼ばれる部隊に所属するストライクダガーは次々と地下に繋がるハッチから飛び出し、グレネードランチャー付きのビームライフルやビームサーベルを駆使して、ザフト軍のジンやバクゥを駆逐していく。

 

 更に空でも、

 

 バックパックに大振りのスタビライザーを装備した機体が、ディンを次々と打倒していく。

 

 こちらはシルフィードダガー。やはり、高速機動で飛び回り、それまで我が物顔で飛び回っていたディンを駆逐していく。

 

 戦況は一変した。

 

 予期しなかった地球軍のモビルスーツ隊の出現により、ザフト軍は浮足立つ。彼等がモビルスーツと言う、ほぼ一方的に敵を駆逐する兵器を有するという特権から、転げ落ちた瞬間であった。

 

 更に、顕著な違いが戦術にも現れる。

 

 これまで主に戦車や航空機、モビルアーマーを相手にしてきたザフト軍は、対モビルスーツ戦闘の技術が確立されていなかったのに対し、地球軍はザフト軍の戦術を徹底的に解析し、対モビルスーツ戦闘のノウハウを独自に確立しており、ザフト軍のモビルスーツ隊を圧倒していく。

 

 三位一体の戦術で1機のジンに掛かるストライクダガー。

 

 高空では、1機のシルフィードダガーがディンを引き付けている内に、別の1機が背後から仕留めるペア攻撃が展開されている。

 

 地球軍は、巧みな戦術の数々を駆使して、能力にまさるザフトのエースパイロット達を相手に互角以上の奮戦をしていた。

 

「この、これ以上やらせるか!!」

 

 その様子を見て、飛び出したのは機体の修理が完了して戦線に戻っていたイザークであった。

 

 デュエルは敵中のど真ん中に飛び込むと、手にしたビームライフルでストライクダガーを次々と打倒していく。

 

 流石に歴戦の闘士である彼の手にかかれば、間に合わせの戦術を駆使したナチュラルの機体ごとき、物の数ではない。

 

 上空に目を転じれば、グゥルに乗ったバスターが、対装甲散弾砲を構えて、シルフィードダガーの編隊にぶち込む。

 

「これで、どうよ!!」

 

 ディアッカの叫びと共に放たれるビームの嵐は、敵編隊を一網打尽にする。

 

 しかし、2人の奮闘にも関わらず、全体的にザフト軍の劣勢は否めなかった。

 

 数に置いて劣っているというのに、ここに来て質においても一気に差が埋まりはじめていた。

 

 いかにイザークやディアッカ達が奮戦しようと、単独で支えれるわけではない。

 

 このまま地球軍が押し返すか、と思われたとき。

 

 上空からいくつかの機械が降下し、地上に設置された。

 

 それを待っていた一部の特殊任務を帯びた部隊は、所定の場所へ行き、機械を操作していく。

 

 その間にも、地球軍の猛攻は続き、ザフト兵たちは倒れていく。

 

 だが、閃光が走った瞬間、それは終わりを告げた。

 

 先に投下された大型の機材から閃光が発せられると、地球軍の機体は1機残らず機能を停止していく。

 

 グングニルと呼ばれるこの兵器は、強力なプラズマEMPを周囲に発し、電子機器を壊滅させる効果がある。

 

 こうして、地球軍の兵器は全て無力化された。

 

 戦車は機能を停止し、航空機は墜落する。司令部の内部も同じで、全ての電子機器が動きを止めてしまう。

 

 そしてそれは、モビルスーツであっても同じことだった。

 

 ストライクダガーはその場で停止し、シルフィードダガーは揚力を失って墜落する。

 

 更に電磁波は、マスドライバーにも影響を及ぼす。

 

 レール部分が磁力になっているマスドライバーは、プラズマの影響でよじれるように破壊されていき、やがて耐えかねたように倒壊する。

 

 この電磁波の中で動けるのは、あらかじめ対EMP対策を施して作戦に臨んだザフト軍機だけであった。

 

 そして、ザフト軍の反撃が始まった。

 

 否、それはもはや殺戮と言って良かった。

 

《生意気なんだよ。ナチュラルがモビルスーツなんてよ!!》

 

 動きを止めたダガーに対し、ジンがコックピットに集中攻撃をくらわせる。

 

 電装系がいかれ、脱出もままならないまま、ダガーのパイロットはコックピットの中で息絶えていく。

 

 同様の光景は、戦場全体で起こっていた。

 

《アラスカの仇だ!!》

《死ね、ナチュラルども!!》

 

 ザフト兵の誰もが、血に酔ったように殺戮の快楽を欲しいままにしていた。

 

 撃たれ、貫かれ、踏みにじられていく地球軍機。

 

 更に狂気は留まる事無く暴走していく。

 

 交戦の意思を無くし、投降しようとした者達にも銃口が向けられた。

 

《ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!!》

 

 残忍にそう告げると、投降者の群れに容赦なく弾丸が叩き込まれた。

 

 そこかしこで起こる、残忍な風景。

 

 その様子を、苦々しく見守る者達がいた。

 

「・・・・・・無抵抗の者を撃って、何が楽しい!?」

 

 苛立ち紛れにつぶやいたのは、デュエルのコックピットに座したイザークである。

 

 その傍らに立つバスターのコックピットではディアッカもまた、同様の面持ちで、友軍の狂騒を眺めていた。もっとも、彼はイザークに比べれば、まだ幾分冷静でいられている方である。

 

《頼むから、短気を起すなよ》

「解ってる!!」

 

 友人の忠告に、イザークは叩きつけるように返した。

 

「だが、これではアラスカでナチュラル共がやったことと何も変わらないではないか!!」

 

 その思いは、ディアッカも同じである。

 

 たとえば、相手があのシルフィードやストライクのように、命をかけるに値する強敵であるならば、戦いも面白いと感じられる。だが、無抵抗な者や、ましてか投降してきた者まで撃つなど、ディアッカにもとうてい、同調できることではなかった。

 

 一方でイザークは、アラスカで出会った奇妙な機体の事を思い浮かべていた。

 

 確実にイザークの命を奪っていたはずの刃を下げ、撤退を促した機体。

 

《早く脱出しろ。もうやめるんだ!!》

 

 自分にそう言ったあのパイロットの清廉さに比べれば、目の前の味方は吐き気がするほど醜い存在に見える事か。

 

 コーディネイターは進化したすぐれた存在だと言われてきたが、これでは野蛮人となんら変わらないように思えてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エストは辟易した調子で、周囲を見た。

 

「やだ、やっぱり可愛い~!!」

「や~ん、こっち向いてぇ~」

「ほら、これも食べる?」

 

 エストが座ったテーブルを包囲して、アサギ・コードウェル、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウーニェンが取りつている。

 

 アサギはエストの小柄な体を抱きしめ、マユラは頭を撫で、ジュリは手にしたお菓子を口元に近付けている。

 

 もともと口数が少ないエストの事、少女達からすればどうやら、小動物か何かのように思われているらしい。

 

 さっきからこの調子である。

 

 いい加減にしてほしい。

 

 そっとため息をつきながら目を転じれば、部屋の隅で雑誌を読んでいたキラが、微笑ましそうに笑顔を向けて来る。

 

『見てないで助けてください』

 

 そんな事をアイコンタクトで送ってみるが、薄情な相棒はただ笑顔を向けて来るだけで動こうとしない。

 

 後で殴ろうそうしよう。

 

 そんな物騒な考えが浮かぶのと、扉を開いてカガリが入って来るのは同時だった。

 

 カガリは入ってくるなり、室内の混沌とした状況にあきれ顔を見せた。

 

「・・・・・・お前ら、何やってんだ?」

「あ、カガリ様だ」

「お帰りなさ~い」

 

 少女達の意識がカガリに向いたところで、エストは素早く包囲網から逃れる。

 

「キラ、それにエストも、エリカ・シモンズがお前達を呼んでるぞ。何か見せたい物があるってさ」

「え?」

「はい?」

 

 殴りかかってくるエストをキラは雑誌で牽制しながら、2人は振り返った。

 

 

 

 

 

 連れてこられたのは、モルゲンレーテのラボであった。

 

 途中でムウとマリューと合流した3人は、待っていたエリカ・シモンズに導かれて、ラボの奥へと進んでいく。

 

「乗り手がいないから、本当のところ、どうしようかと思っていたんだけど、戻ったのなら、お渡ししたほうがいいと思って」

 

 そう言って、エリカはパネルを操作して扉を開き、工場の内部へ一同を導く。

 

 エリカに続いて、内部へ足を踏み入れた一同。

 

 そこで、息をのんだ。

 

 そこには、2体のモビルスーツが、メンテナンスベッド上で待機しているのが見えた。

 

「シルフィード!?」

「ストライク・・・・・・」

 

 オーブ沖で大破、放棄したはずのかつての愛機がそこにいた。

 

「改修の際に、あなた達が技術協力してくれたOSを積んであるんだけど・・・・・・その、別のパイロットが乗るんじゃないかと思って」

「例の、ナチュラル用の?」

「ええ」

 

 ムウの問いにエリカは頷きを返す。

 

 無理もない。キラもエストも死んだものと思われていたのだから。

 

 だが、戻ってきたとはいえ、今の2人にはイリュージョンという新たな剣がある以上、この2機にはやはり別の人間が乗るべきである。

 

「私が乗る!!」

 

 勢い込んで立候補したのはカガリである。

 

 言ってから、流石に立ち場に気づいてマリューの方へ振り返った。

 

「あ、勿論、そっちが許可してくれたらだけどな」

 

 だが、返事は意外なところから返された。

 

「だめだ」

 

 そう言ったのは、ムウである。

 

「何でっ」

 

 勢い良く振り返るカガリに、ムウは鋭い視線を投げかけて答える。

 

「俺が乗るからだ」

 

 そして、

 

「悪いんだけど、もう1機には私が乗るわ」

 

 少女の声が、背後から発せられ、短い茶髪に、整った顔立ちをした少女である。

 

 モルゲンレーテの作業着を着た、キラよりも年下くらいに見える少女の姿を見て、エリカはため息をつく。

 

「あなた、もう体は大丈夫なの?」

「はい、もうばっちりです。グランド100周だって行けますよ」

「そう、なら今からやってきて」

「いや、嘘です冗談ですごめんなさい」

 

 何やら漫才のようなやり取りをする2人に、一同は唖然とする。

 

 そんな中で、少女はキラに歩み寄ると、値踏みするように顔を近づけて観察する。

 

「・・・・・・ふ~ん」

「な、なに?」

 

 見知らぬ少女の顔がアップになり、ドギマキするキラ。ちょっと後ろの方で、無口系少女が不穏な空気を垂れ流しているが、放っておくことにした。

 

 ややあって、観察を終えた少女が口を開く。

 

「あんたがシルフィードのパイロットか。んで、そっちの子がストライクのパイロットってわけ。よろしくね」

「あの、君は?」

 

 問われて、少女はニコッと笑みを向けた。

 

「元ザフト軍、クルーゼ隊所属、ライア・ハーネットよ。もっとも、あんた達には、ブリッツのパイロットって言った方が良いかな?」

 

 言われた瞬間、キラとエスト、それにムウとマリューは全身に緊張を走らせた。

 

 ヘリオポリスに始まり、アルテミス、低軌道、砂漠、オーブ沖と、ブリッツとは幾度も対峙している。

 

 そのパイロットが目の前にいて、緊張するなという方が無理である。

 

 だが、少女は何でもないという風に笑顔で一同を制する。

 

「心配しなくても、あたしはもうザフト軍じゃないわよ。って言うか、ちょっとプラントには戻れないしね」

「どういう意味ですか?」

「実はな・・・・・・」

 

 カガリが言いにくそうに話した。

 

 アークエンジェルとザラ隊が激突した小島を捜索したオーブ軍が、大破したブリッツの傍らに倒れるライアを発見し搬送したのは、既にザフト軍の迎えが帰ったあとだった。

 

 ちなみにブリッツは、右腕の欠損やエンジン回りの損傷が激しい上に、内部の損傷もひどい為、データのみを回収した上で廃棄が決定。使えるパーツはシルフィードとストライクの修復に回された。

 

 それより問題なのは、ライアの処遇である。

 

 ザフトの軍人である彼女をオーブに入れる事は出来ない。とは言え、今からもう一度連絡して迎えをよこして貰っていたのでは、ライアの体調が持たない可能性もある。

 

 事情を苦慮したオーブ側は、特例措置として、ライア・ハーネットのオーブ国籍を発行し、入国を認めさせたのである。

 

「てなわけで、今のあたしは生粋のオーブ人ってわけ」

「そんな無茶な・・・・・・」

 

 マリューが呆れ気味にため息を漏らした。

 

 確かに、無茶ではある。が、亡命してきたアークエンジェルを船ごと受け入れるほどの包容力を持った国である。ザフト兵とはいえ、少女1人を内密に入国させるくらいは訳が無いのかもしれない。

 

「まあ、あたしも大概、天涯孤独の身だし、プラントに戻って待っていてくれる人がいるわけでもなし、それなら別にわざわざプラントにこだわる必要はないかなって思ってさ」

 

 それで良いのか、とも思ったが、本人がそれで納得している以上、他人が口を出すべきではないのかもしれなかった。

 

「てな訳で、よろしくね」

「は、はあ」

 

 差し出された手を、戸惑い気味に握るキラ。

 

 その横で、エストは少し面白くなさそうに、その様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 新たな部署に配属され、ユウキ・ミナカミ海軍一尉は、多忙な毎日を送っていた。

 

 特に、ここ数日は、軍内においても張り詰めたような空気が漂っている。

 

 大西洋連邦が、地球上の中立国に対して地球連合への加盟と、対プラント戦争への参戦を呼び掛けているのは知っている。

 

 既に多くの国が連合への加盟を決め、回答していないのはオーブを含めて一握りにすぎない。

 

 もし、拒否した場合、大西洋連邦との戦争になるのは目に見えている。そうなった時、オーブははたして勝てるかどうか?

 

「・・・・・・厳しいな」

 

 腐っても、相手は世界最大の国家である。ザフト軍との戦いで消耗しているとはいえ、その力は日々増強されている。対してオーブは技術力が高いとはいえ、小国に過ぎず、国力は低い。M1アストレイの部隊配備は進んでいるが、数は今だに100機を超えた程度だ。情報では大西洋連邦も、ナチュラルに操縦可能なモビルスーツの量産に成功したとか。こうなると、あとは完全に国力と物量の勝負なってしまう。

 

 加えて、オーブは島嶼国家であり、領土の大半が海で占められている。大陸国家なら、重厚な陣地や要塞を建造して迎え撃つという戦術も取れるが、オーブの国土でそれをやっても、構築する陣地は小規模のものにならざるを得ず、また、相互の支援も事実上不可能なものとなる。

 

 つまり、オーブという国は、防衛戦闘には地政学的に向いていないのである。

 

「ならば、どうする?」

 

 突然背後から声をかけられ、ユウキは振り返った。そして、自分に声をかけた人物がだれかを知ると、あわてて立ち上がり、敬礼をした。

 

「艦長!!」

 

 そこに立っていたジュウロウ・トウゴウ准将は、今のユウキの直属の上官に当たる人物である。

 

 トウゴウはユウキに答礼を返してから。改めて問い直した。

 

「それで、お前ならどうする? 今のオーブ軍では、大軍を相手に防衛戦闘は事実上困難。だが、国土を戦火にまみれさせるわけにはいかん。お前ならどうする?」

「はっ」

 

 言われて、ユウキは考える。

 

 本来であるならば、海軍主導で海上機動戦を展開し、敵艦隊が領海に入る前に叩くのが最適である。しかし、それをするには、オーブ海軍の航空機運用能力の低さがネックとなっている。せめて八八艦隊計画の一環で建造される予定だった大型空母が間に合っていたら、まだ望みもあったのだが。

 

 精鋭部隊を用いて、敵陣に強襲を仕掛ける案もあるが、それはリスクが高すぎる。うまくいけばいいが、いかなかったなら、突入部隊は包囲殲滅される事になる。戦力を二分して本土の防衛線が薄くなるのもマイナスだった。

 

 考えた苦心の末、ユウキは言った。

 

「・・・・・・現状では、沿岸部に艦隊を配置し、陸上部隊と連携して陸と海、双方から攻撃を集中するのが得策かと」

「ふむ」

 

 ユウキの意見を聞いたトウゴウは、少し考え込むような素振りを見せてから言った。

 

「65点かの。合格点はやれるが、それでは守るのに手いっぱいで、いずれはじり貧に追い込まれるぞ。艦隊の持ち味である機動力を殺してしまうのも減点対象だ」

 

 そう言うと、トウゴウはユウキのボードを手に取って、何かを書き記していく。

 

「儂ならこうするよ」

 

 そう言って差し出されたボードに、ユウキは思わず感嘆のため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後通牒だと!?」

 

 ウズミの怒号が、会議室に響き渡る。

 

 オーブ連合首長国は、アラスカ戦以降大西洋連邦が呼び掛けている対ザフト参戦要求に対し、頑なに拒否の姿勢を崩さないでいる。その回答が、正式な文書として通達されたのだ。

 

「『現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、頑なに自国の安寧のみを追求し、あまつさえ再三の参戦要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ連合首長国に対し、地球連合軍はその構成国を代表して以下の要求を通告する。

 

1、オーブ連合首長国の現政権即時退陣。

 

2、オーブ全軍の武装解除、並びに解体。

 

48時間以内に要求が達せられない場合、地球連合軍はオーブ連合首長国をザフト支援国と見なし、武力をもって対峙するものである』」

 

 もっともそうな言葉で繕ってはいるが、ようはオーブの技術力とマスドライバー「カグヤ」を狙っての話である。

 

 ホムラ代表が読み上げた地球連合の最後通牒は、オーブからすれば不当以外の何物でもない。が、これが正式な通告である以上、オーブとしてもリアクションを起こさなくてはならない。

 

「どういう茶番だ、それはッ パナマを落とされ、体裁を取り繕う余裕すらなくしたか、大西洋連邦はッ!!」

 

 茶番。確かにウズミの言うとおり、これは茶番にすぎない。だが、茶番はすでに茶番でなくなりつつある。

 

「既に、太平洋を連合軍艦隊が南下中です」

 

 それは探査衛星がキャッチした情報である。オーブ進行を目指して進撃しているのは、大西洋連邦軍第4洋上艦隊。もともと1個艦隊に過ぎない同艦隊だが、数日前に戦力を大幅に増強され、1個艦隊でありながら、その兵力はオーブ全軍の5倍にまで達していると見積もられている。

 

 そんなものに来られたなら、オーブは持ちこたえられないだろう。

 

 事態を受けて、既にカーペンタリアのザフト軍からも会談の要請が来ているが、勿論のこと、オーブはそちらも拒否する姿勢を崩していない。

 

 どの国からも距離を置いてこその中立である。ここでザフトからの会談を受け入れれば、それこそ大西洋連邦に攻め込む口実を与えるようなものだ。

 

「どうあっても世界を二分したいか。大西洋連邦はッ 敵か味方かとッ!! そしてオーブはその理念と法を捨て命じられるままに与えられた敵と戦う国となるのか!?」

 

 その言葉は、居並ぶ首長達全ての心情を代弁している。

 

 だが、いかに吠えたとて、今や地球最大の国家となった大西洋連邦を掣肘出来る国は存在しない。ユーラシア連邦はアラスカで主力軍を失って弱体化し、オーブとは友好的なスカンジナビア王国や赤道連合といった中立国も、今や連合の傘下に組み込まれている。地球上で中立を保っている国家は、もはやオーブのみであった。

 

 誰もが、この先にある悲劇を覚悟していた。

 

「とにかく、避難命令を」

「子供達が戦火に焼かれる事だけは、避けたいですからな」

 

 起こる悲劇を回避できないにしても、打てる最善の手を打つつもりだった。

 

 

 

 

 

 アラスカ戦で受けた損傷の修理が完了したアークエンジェルのブリッジに、マリューは1人佇み、外の様子を眺めていた。

 

 彼女は先刻、クルー全員を呼び出し、去就を決めるよう促した。

 

 このままいけば、オーブは地球連合と全面衝突する事になりかねない。そうなればアークエンジェルは義勇軍として参戦する予定であった。そこで、そうなる前に、クルーの自由意思を尊重しようとした。艦を去りたい者は去るも良し。残る者は最後まで受け入れる、と。

 

 だが、マリューの予想は大きく外れる事になった。

 

「結局、去った連中はほんのわずか。いや~すごいね。やっぱみんな、アラスカでの事が相当頭に来てんのかな」

 

 おどけた調子にそう言ったのは、いつの間にかブリッジに入ってきていたムウだった。当然のように、彼も残った1人である。

 

 他にも、ヘリオポリス組で降りたのは、もともとやめたがっていたカズイ1人である。残る、サイ、トール、ミリアリア、リリアは残留を希望し、特にトールとリリアにいたっては、実戦経験を買われてオーブ軍からM1を提供されていた。

 

 マリューは、うつろ気な面持ちのまま、ムウに訪ねた。

 

「少佐は、どうして戻ってらしたのですか? JOSH-Aで」

 

 あの時ムウは、アークエンジェルに危急を告げる事なく、さっさと自分で逃げる事もできたはずだ。ムウの技術ならそう難しい事でもないし、そうする方が生存率は上がったはずである。

 

 だが、尋ねられたムウは、あっけに取られたような顔を一瞬した後、マリューの腰に腕をまわした。

 

「今更・・・・・・」

 

 マリューが声を上げる間もなく、ムウの顔が近付けられる。

 

「そんな事を聞かれるとは思わなかったよ」

 

 そして、2人の唇が重ねられた。

 

 ややあって唇が放されると、マリューは顔を赤らめて目をそらす。

 

「わ、私は、モビルアーマー乗りは嫌いです!!」

「あ、俺今、モビルスーツのパイロット」

 

 おどけたムウに、そう言う事を言っているのではない。と抗議しようとしたが、その唇はまたも塞がれる。そして今度は、マリューも躊躇うことなく彼を受け入れた。

 

 ちょうどその時、ブリッジの扉が開き、ノイマン、トノムラ、チャンドラの3人が入ってきたが、2人の様子を見て、思わず絶句していた。

 

 

 

 

 

 大西洋連邦軍第4洋上艦隊旗艦、強襲揚陸艦パウエル艦上に置いて、オブザーバーとして同行していたムルタ・アズラエルは手にした文書を愉快そうに読み上げている。

 

「え~、なになに? 『要求は不当な物であり、従う事は出来ない。オーブは今後も中立を貫く意思に変わりはない』ですか」

 

 まるで新種の冗談でも聞かされたように、アズラエルは笑う。

 

「いや~、ほんと、期待を裏切らない人ですね、アスハ代表は。ホントのところ、要求呑まれちゃったらどうしようかと思っていたんですよ、アレの実験」

 

 そう言うアズラエルの脳裏には、パウエルの格納庫に搭載されている、4機の新型が思い浮かべられている。

 

 それぞれが地球連合軍の旗機となるべく開発された機体達は、現状の技術力を最大限に反映した強力な代物である。ぜひ、実戦の場でその性能を見てみたかった。

 

 その為にアズラエルが設定した戦場がオーブである。

 

 彼にとって、南洋の一国家の命運など、どうでも良かったのだ。どのみち、地球連合軍の勝利は動かないのである。ならばせいぜい、役に立ってもらうのが一番であった。

 

 アズラエルは、傍らに立つデップリと太った男に振り返った

 

「彼らの様子はどうです?」

 

 訪ねられたベルンスト・ラーズ少将は、かしこまって頭を下げる。

 

「順調です。規定値も安定していますので、これなら充分、性能を発揮できるでしょう」

「期待していますよ。彼らの開発費だってバカにならなかったんですから」

 

 そう告げるアズラエルの眼は、これから戦争に行こうとする者の緊張感は皆無である。まるで、楽しいショーが始まるのを待ちわびる、子供のようであった。

 

 

 

 

 

 コックピットに座し、機体の調整をしながら、キラは思考を走らせる。

 

 間もなく、戦いが始まる。それも、これまでにないくらい絶望的な戦いだ。

 

 まともに戦ったのでは、オーブ軍に勝ち目がない事は誰の目にも明らかである。

 

 劣勢のオーブ軍。その中にあって、自分達とイリュージョンがいかにうまく立ち回るかが、命運を分ける事になるだろう。

 

「システムの再調整、完了しました」

 

 背後から声をかけられ、振り返る。

 

 後席に座ったエストが、モニターから顔をあげてこちらを見ていた。

 

 先のアラスカ戦での戦闘を踏まえ、デュアルリンクシステムの微調整を行ったのだ。現状蓄積されたデータだけでなく、更に新たなデータを取り込んで発展していくのも、デュアルリンクシステムの特徴である。

 

「エスト」

「はい」

 

 改まった調子で言うキラに、エストもいつもと違う雰囲気を感じて沈黙する。

 

「たぶん、今度の戦いは、僕達が経験した、どの戦いよりも辛いものになると思う」

「・・・・・・まさか、私に降りろ、とは言いませんよね?」

 

 キラは以前、クライン邸でエストを戦場から遠ざけようとした事がある。その事を思い出したのだろう。

 

 だが、キラはにっこりとほほ笑む。

 

「違う違う。今更そんな事言わないよ」

 

 そう言うと、後席に上って、真っ直ぐにエストを見た。

 

「今の僕には、君の力が必要だ。イリュージョンが全力発揮するには、君のサポートがいる。だから、よろしくねって、言おうとしたの」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 その言葉に、エストは面食らう思いだった。

 

 まさか、キラの口からそんな事を聞かされるとは思っていなかったのだ。

 

 笑いかけてくるキラ。

 

 その笑顔を直視できず、そっと視線を逸らしながら、

 

「こ、こちらこそ・・・・・・」

 

 それだけ言うのがやっとだった。

 

 

 

 

 

PHASE-25「迫りくる狂風」   終わり

 

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