機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-26「矜持の剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間です」

 

 歌い上げるような、ムルタ・アズラエルの楽しげな声。

 

 それを合図として、展開した地球連合軍艦隊は、一斉に砲撃を開始する。

 

 ついに、地球連合軍による、オーブ侵攻が開始された。

 

 コード名「オーブ解放作戦」

 

 コーディネイターを擁護する「悪しき現政権」から、オーブを解放すると称した、傲慢極まりない作戦名は、もはや大西洋連邦の行く手を遮る者が存在し得ない事を表していた。

 

 対するオーブ連合首長国も、カガリ・ユラ・アスハを最高司令官として全軍を展開、一歩も引かぬ構えを見せていた。

 

「迎撃開始せよ!!」

 

 カガリの号令一下、オーブ軍は出撃を開始する。

 

 航空機が舞い上がり、沿岸線に配置された戦車が迎撃の砲門を開く。

 

 そして、量産体制に移行したばかりのM1アストレイが次々と出撃していく。

 

 アークエンジェルもまた、修理されたその巨体を再び戦場上空へ進ませる。

 

 同時に、艦載機の発進シークエンスを開始した。

 

《APU起動、オンライン、カタパルト、接続、ストライカーパックは、エールを装備します》

 

 ミリアリアのアナウンスとともに、カタパルト上には復活成った機体が、新たな乗り手と共に出撃準備に入る。

 

「ムウ・ラ・フラガ、ストライク出るぞ!!」

 

 エールパックを装備したストライクは、蒼穹へと打ち出され、戦場への空を目指す。

 

 そして、もう1機。

 

《発進準備完了、イリュージョン発進、どうぞ!!》

 

 2つの魂が重なりあい、出撃の準備は整った。

 

 うなずきあう2人。

 

「キラ・ヒビキ」

「エスト・リーランド」

「「イリュージョン、行きます!!」」

 

 射出されると同時に、幻想の翼が蒼天へ舞った。

 

 その間にも、地球軍の侵攻は続く。

 

事前砲撃に続いて、上陸に成功した地球軍のストライクダガー隊も砲撃を開始し、沖の空母群からはシルフィードダガーが発進していく。

 

 カガリはただちに迎撃の為の部隊を差し向けるが、それに覆いかぶせるように、オノゴロ島上空には大型機が飛来し、内部に搭載したシルフィードダガーを射出していく。

 

 押し寄せる地球軍の大軍に対し、オーブ軍のM1隊は果敢に応戦を行う。

 

 しかし、この戦いに地球軍は500機近いモビルスーツを投入している。

 

 対するオーブ軍が投入可能なモビルスーツ隊は100機を上回る程度。

 

 戦況はあっという間に、オーブ軍が押され始めた。

 

 今にも一部のオーブ軍陣地が食い破られそうになった瞬間、

 

 その上空に、双翼が舞った。

 

「5時、及び9時方向、敵機多数。攻撃、5秒後」

「了解!!」

 

 エストのオペレートに従い、キラはマルチロックオンを起動、同時に背部に装備した290ミリ狙撃砲を展開、矢継ぎ早にトリガーを引いた。

 

 ほとばしる閃光は、着実に狙った獲物をとらえる。

 

 吹き飛ぶストライクダガー。

 

 そのどれもが、頭部を、手足を、武装を破壊されるのみで、胴体部分を狙った物は1機もなかった。

 

 更にイリュージョンは、両腰から2本のラケルタを抜き放つと、敵陣のど真ん中に飛び込み、一瞬にして3機のストライクダガーを切り裂いた。

 

 進行中の部隊が後退を始めたのを確認すると、キラは機体を上昇させ、次の戦場へと向かう。

 

「うわ~・・・・・・」

「す、すごい・・・・・・」

 

 複数の敵機を一瞬で葬ったイリュージョンの姿に、M1に乗ったアサギとマユラは呆けたように声を発する。

 

 そこへ更に、飛び込んでくる機体がある。

 

「おーおー、格好良いねえ。どうせ、俺は新人だけどね!!」

 

 言いながら、ムウはビームライフルでストライクダガーを撃ち抜いた。こちらも、初陣とは思えない見事な機体さばきである。

 

「ほら、お譲ちゃん達。ボーっとすんなよ!!」

 

 そう言うと、ストライクは先陣を切って飛び込んでいく。

 

 海上では、接近しようとする地球軍艦隊と防衛に回るオーブ艦隊との間で激しい砲火が交わされている。

 

 そこへ、アークエンジェルも加わり、強力な火砲で敵艦を着実に仕留めていった。

 

 

 

 

 

 津波のように押し寄せた地球軍。戦線はオーブ北域全土に広がりつつあり、少数のオーブ軍では全戦線をカバーしきれなくなりつつある。

 

 キラ達は一つ所にとどまらず、イリュージョンの機動力を駆使して駆け回り、広い戦線をカバーするように動いていた。

 

 空中を進撃してくるシルフィードダガーの前に立つと、ビームライフルやビームガトリングを駆使して進撃を阻止しに掛る。航空戦力の弱いオーブ軍にとって、イリュージョンは正に守りの要であると言える。

 

「敵編隊、10時より接近」

 

 エストのオペレートも正確を極め、最適なタイミングと正確な敵情をキラに伝え、砲火舞う戦場の空を誘導している。

 

 もちろん、地球軍もイリュージョンをしとめようと、攻撃してくる。

 

 編隊を組んで、イリュージョンを取り囲もうとするシルフィードダガー。

 

 だが、イリュージョンはそれよりも速く動く。

 

 背中から対艦刀ティルフィングを抜き放つと、スラスターを全開まで上げて飛翔。一気に接近する。

 

 その急加速ぶりに、シルフィードダガーは照準が追い付かない。

 

 接近したイリュージョンは、手にした大剣でその頭部や武装を斬り飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 地球連合軍の艦隊の中で、一部が突出して海岸線に近づきつつあった。

 

 前衛の任を負ったその艦隊は、上陸したモビルスーツ部隊を艦砲射撃で援護すべく、本隊から独立して行動していたのだ。

 

 艦隊は洋上に展開するオーブ艦隊の防衛線をすり抜け、陸地に接近すると、砲塔を旋回させて砲撃を開始しようとした。

 

 まさにその時、予期しなかった海上方向から砲撃され、数隻の艦が火を噴く。

 

 見れば、いつの間に現れたのか、オーブ艦隊が地球軍艦隊に対して砲門を開いていた。

 

 オーブは群島国家でありオーブ軍には土地勘もある。島影に艦隊を隠し、不用意に近づいてきた敵艦隊に奇襲を掛けるなど造作もない事だった。

 

 奇襲するつもりが逆に奇襲された形になり、浮き足立つ地球軍艦隊は、それでもなんとか反撃しようと陸地に向けていた砲塔を旋回させるが、そこへオーブ艦隊は砲撃を集中させ沈黙に追い込んでいく。

 

 更に陸上で密かに待ち伏せていたM1部隊や戦車隊も攻撃に加わり、身動きできない地球軍艦隊は次々と炎を吹き上げていく。

 

 開戦前にトウゴウがユウキに語っていた作戦がこれだった。地球軍艦隊は必ず、陸上部隊支援の為に砲戦部隊を突出させるはず。それを精鋭部隊で待ち伏せて包囲殲滅するのだ。

 

 炎を吹き上げながら、隊列を乱す地球軍艦隊に、オーブ軍の正確な砲撃が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 戦況は、オーブにとって苦しいながらも、辛うじて拮抗させる事に成功していた。

 

 海上ではオーブ艦隊に交じってアークエンジェルが奮闘し、陸上ではストライクを始めM1部隊が敵を抑え、空中ではイリュージョンが向かってくる敵を迎え撃っている。

 

 このままなら、押し返す事も可能なのではないか。

 

 誰もがそう思い始めていた。

 

 その頃、地球軍艦隊総旗艦パウエルに動きがあった。

 

 搭載されている3機の機体が立ちあげられ、発進準備が整えられる。

 

 カラミティ、フォビドゥン、レイダーと名付けられたその機体に乗り組んだパイロットたちは、今だに少年と呼んでも差し支えが無い者達である。

 

 その彼等に、隊長を務める少女から通信が入った。

 

《あなた達、モルゲンレーテとマスドライバーは傷付けちゃだめよ。良いわね》

「他は何やってもいいんだろ?」

「ですね」

「うっせーよ、お前ら」

 

 それぞれに返事を返して、発進していく機体。

 

 その背中をパウエル艦橋に立つアズラエルは、ほくそ笑むように見つめていた。

 

 

 

 

 

 変化が起こった。

 

 今までは苦戦しながらも戦線を維持していたオーブ軍が、突如現れた機体によって、次々と吹き飛ばされていく。

 

 背中から巨大な大砲を2門突き出した機体は、その強大な砲撃力で陸上部隊を薙ぎ払っていく。

 

 鳥のような形をした黒い機体は、その圧倒的な機動力を武器にして戦場を駆け回り、鎖の付いた鉄球で獲物を叩き潰していく。

 

 そしてカーキ色をし、巨大なカニの甲羅のようなものを背負った奇妙な機体は、手にした鎌やレールガンで、見つけた獲物を片っ端から葬っていく。

 

どの機体もXナンバーの特徴を受け継いでいるようだが、その姿や性能は禍々しい物を感じる。

 

 その内に、レイダーと名付けられた黒い機体は、海上で砲撃を行うアークエンジェルに目をつけて接近、防御砲火をすり抜けると、直前で人型に変形し、腕部に内蔵された大口径バルカンでブリッジを潰そうとした。

 

 しかし、その砲門が開かれる事はない。

 

 間一髪間に合ったイリュージョンが強烈な蹴りを食らわせ、レイダーは吹き飛ばされて海面へ落ちたのだ。

 

 その様子を見ていたカーキ色の機体、フォビドゥンがイリュージョンへと向かってくる。

 

「なに、お前?」

 

 フォビドゥンのパイロットである、シャニ・アンドラスは、残忍そうに眼を細めると、手にした鎌でイリュージョンへ向かってくる。

 

 対抗するようにティルフィングを抜き放つイリュージョン。

 

「正面、接触まで4秒!!」

「はぁっ!!」

 

 エストに導かれ、先制すべく大剣を振りかざすキラ。

 

 だが、

 

「待ってください、背後、7時より新手」

 

 とっさに情報を修正し、新たな戦況を伝えるエスト。

 

 先ほど蹴り飛ばしたレイダーが海上から浮上し、背後から鉄球を叩きつけようとしていたのだ。

 

「テメェ、抹殺!!」

 

 パイロット、クロト・ブエルの奇妙な掛け声とともに打ち出されるブースター付きの鉄球。

 

 とっさにフォビドゥンへの攻撃を中止、上昇して鉄球を回避するイリュージョン。

 

 デュアルリンクシステムの情報もすかさず更新され、2機を相手した場合の戦況予測がなされる。

 

 フォビドゥンからの砲撃、レイダーの機動性を考慮し、イリュージョンは巧みに戦場の空を舞う。

 

 ビームガトリングを、フォビドゥンに向けて放つイリュージョン。

 

 だが、放たれたビームの弾丸は、命中直前に奇妙な軌道を描いて逸れた。

 

「ビームが、曲がる!?」

 

 呻き声を発するキラ。流石にこの事は予測できなかったエストも、無言で目を見開いている。

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーという装備を持つフォビドゥンは、ビームを捻じ曲げる事で攻撃や防御に応用しているのだ。

 

 更に、自機の放ったビームも曲げる事の出来るフォビドゥンは、トリッキーな戦術を駆使してイリュージョンを攻撃してくる。

 

 ならば、と戦術を切り替える。

 

 大剣を保持したまま、左腕のビームガトリングを使い、向かって来るレイダーへ弾丸をばらまくように放つ。

 

 その攻撃に一瞬、レイダーの動きが乱れた。

 

 その隙を、キラは見逃さない。

 

 ティルフィングを振りかざして、動きの鈍ったレイダーへと斬り掛かる。

 

 レイダーも逃れようと推力を上げるが、立ち遅れた事もあり、イリュージョンの間合いにまで踏み込まれる。

 

 ティルフィングを振りかぶるイリュージョン。

 

 まずは1機。そう思った時だった。

 

「危険、回避を!!」

 

 エストの鋭い警告。

 

 とっさにキラは、機体を傾ける。

 

 次の瞬間、薙ぎ払うような一撃がイリュージョンのいた空間を駆け抜けた。

 

「な、何だ!?」

「三時より敵機、新手です。速い」

 

 エストの報告通り、高速で接近してくる白い機体が、イリュージョンに対し砲門を開いている。

 

 奇妙な機体だった。

 

 基本的なフレームはXナンバーに似ているが、大きさは一回り大きく、その四肢はずんぐりとし、力士のような外観がある。肩と脛、胸部、両手にそれぞれ、巨大な砲を計7門装備して、イリュージョンを攻撃している。

 

「クッ!?」

 

 その嵐のような攻撃の前に、イリュージョンもビームシールドを翳して一時後退を余儀なくされる。

 

 距離を詰めに掛かる白い機体。

 

 対してイリュージョンは、上昇して砲火を回避すると、ティルフィングを振りかざして切り込んだ。

 

 振り下ろされる大剣。

 

 しかし、白い機体は、その巨体からは想像もできないような俊敏な機動で、イリュージョンの攻撃を回避して見せた。

 

「クッ!?」

「そんなっ!?」

 

 驚きの声を上げるキラとエスト。

 

 その時、イリュージョンを追ってくる敵機から通信が入った。

 

《・・・・・・その動き、覚えがあるわ》

 

 どうやら短波通信を使っているらしいそのパイロットの声は少女の物である。

 

《あなた、キラね》

「えっ!?」

 

 いきなり名指しされて、キラは戸惑いを隠せなかった。

 

 アークエンジェル以外の地球連合軍に知り合いなどいない。ヴァイオレット・フォックスとしてのキラなら知っている人間がいたとしてもおかしくはないが、機体の動きで正体を悟れるような人間はいないはずだ。

 

《死んだって聞いた時は落ち込みもしたけど、生きてたんだ。うれしいわ》

 

 まるで地獄から這い上がってくる亡者のような声がスピーカーから流れてくる。声質自体が奇麗だから、余計に不気味である。

 

 そして、キラとエストは、ほぼ同時にある事に気がついた。

 

「この声は・・・・・・」

「まさかっ」

 

 一層激しさを増す攻撃。

 

 その中にあって、少女はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「フレイ・アルスター・・・・・・」

「そんな・・・・・・」

 

 だが、2人の疑念を肯定するように返事が返された。

 

《あら、その声はエストね。あなたも生きていてくれて嬉しいわ》

 

 少女、フレイは笑みを強めた。

 

《これであたしは、復讐する事が出来る。パパを殺したあんた達にねェ!!》

 

 言い放つと同時に全砲門を一斉発射する。

 

 双翼を広げて回避するイリュージョン。

 

 それを追うフレイ。

 

《この機体の名は「アヴェンジャー」。復讐者という意味よ。まさに、今の私にふさわしい名前だと思わない?》

「クッ!!」

 

 激しさを増すアヴェンジャーの攻撃。

 

 アークエンジェルを降りて以降、フレイの身に何があったのかは判らない。しかし、父を殺した(救えなかった)キラとエストへの復讐心を滾らせて今日まで過ごしてきたことだけは想像に難くない。

 

 アヴェンジャーの攻撃をかわし、イリュージョンは斬り込もうとする。

 

 いかにフレイの復讐に正当性があろうと、こちらも黙ってやられるわけにはいかない。

 

 だが、その背後から迫る機体がある。

 

「キラ、6時方向!!」

 

 エストの警告に振り返ると、レイダーとフォビドゥンが砲撃を行いながら向かってくるところであった。

 

 回避行動に移るイリュージョン。

 

 更に、地上からも砲撃が来る。

 

「何遊んでんだよ、テメェら!!」

 

 砲戦主体の青い機体、カラミティを操るオルガ・サブナックは、地上への砲撃も飽きて、上空の戦いに参加する。

 

《邪魔すんなよ、オルガ!!》

「うるせえよ!!」

 

 レイダーのパイロットであるクロト・ブエルと共に、協調性皆無なやり取りをしながらも、イリュージョンを徐々に追い詰めていく。

 

 1対4という状況では、いかに圧倒的な性能を誇るイリュージョンといえども、対応能力が過負荷を迎えつつあった。

 

 そして更に、イリュージョンが戦線から抜けた事で、オーブ軍は再び劣勢に立たされつつある。

 

 キラ達の活躍で、辛うじて戦線を維持していたオーブ軍は、押し寄せる大軍に抗いきれず、徐々に後退を始めていた。

 

 戦車部隊や水上艦艇は撃破され、奮戦するM1も多数のダガー隊に押し包まれて打ち取られる。

 

 このままでは、戦線崩壊も時間の問題のように思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子は、艦内でも確認できた。

 

「艦長、準備整いました」

「うむ」

 

 ユウキの言葉に、トウゴウは頷く。

 

 味方は苦戦し、戦線は押されつつある。今ここで押し返さねば、オーブに後はなかった。

 

 トウゴウは立ち上がると、艦内につながるマイクを取った。

 

「皆、手を止めずに聞け。これより本艦は出撃する事になる。皆の中には、初めての実戦で不安に思う者もいるだろう。だが、今我々がこうしている間にも、激しい砲火にさらされて味方が命を落としている。我々の前には助けを待つ友軍があり、我々の背には無力なオーブの民がある。ならばこそ、我々は恐れずして行かねばならんのだ」

 

 トウゴウは視線をユウキに向ける。

 

 頷くユウキ。

 

 トウゴウは頷きを返すと、艦長席に座して正面を向いた。

 

「出撃する」

「補助エンジン始動。エネルギー全回路開け」

 

 艦内の各部署に灯が入り、システムが立ちあがっていく。

 

「ドッグ注水開始。10パーセント・・・・・・15パーセント・・・・・・注水完了まで、あと180秒」

「武装チェック、完了」

「センサー系統チェック、オールグリーン」

 

 艦内の準備が急速に整いつつある。

 

「ドッグ注水、完了!!」

「ゲート、開きます!!」

 

 海水に満たされたドッグが開かれる。

 

 同時に、トウゴウの目が開かれた。

 

「発進!!」

「微速前進!!」

 

 ユウキの命令を受けて、艦はゆっくりと前に出る。

 

 やがてドッグを抜け海中に出ると、艦首を上に向けて海面を目指した。

 

 

 

 

 

「海底より、急速接近する物体あり。これは・・・大きい!? 戦艦クラスです!!」

「何ですって!?」

 

 ソナーを見ていたサイの報告を受けて、マリューは驚いて声を上げる。

 

 まさにその瞬間、海面に巨大な水柱を上げ、それは出現した。

 

 巨大な艦だった。

 

 長い船体に、多くの砲を搭載している。

 

 アークエンジェルがザフトから「足付き」というコードネームを与えられたとおり、馬が2本の足を前方に突き出したような形をしているのに対し、その艦は水上艦艇のフォルムをそのまま残しているようだ。

 

 甲板上には艦の中心線に沿って、3連装の主砲が前部に2基、後部に1基背負い式に配置されている。後部に設置されたスラスターノズルは巨大で、この戦艦に十分な推力を与えている。

 

 これこそが、オーブ軍が長期国防計画の主眼として進めていた八八艦隊計画。そのメインとして建造した大型戦艦。強靭な防御力と強力な火砲を駆使して国の防波堤になるべく設計された戦闘用艦艇。

 

 開発コード「壱號艦」

 

 その名は、戦艦大和。

 

「取り舵20、主砲、右砲戦用意!!」

 

 ユウキの指示を受け、艦は左へ回頭しつつ、前部甲板に装備した第1、第2主砲塔は右へ砲門を向ける。

 

 地球軍艦隊も大和の存在を認めて、慌てて砲門を向けてくるが、命中弾はない。

 

「敵艦、本艦の軸線上に乗りました!!」

 

 報告に、トウゴウは頷くと、一閃するように右腕をふるった。

 

「主砲、撃ち方はじめ!!」

 

 前部6門の主砲が、一斉に火を噴いた。

 

 迸る、太いビーム。

 

 その一撃は、一瞬にして地球軍艦隊の先頭を進む、恐らくは戦隊旗艦と思われる巡洋艦に突き刺さった。

 

 閃光が、一瞬にして巡洋艦に命中し刺し貫く。

 

 一撃。

 

 たった一撃で、地球軍艦艇は真っ二つに折れ、海面下に沈んでいった。

 

 驚愕と共に沸き立つオーブ軍。

 

 その大和の直上から、今度はシルフィードダガーの編隊が迫ってくる。

 

 手にしたライフルを放ち、大和を攻撃するシルフィード。

 

 しかし、ビームの直撃を受けても、大和の装甲は小揺るぎすらしない。

 

「この大和は、設計段階からモビルスーツ運用、及び対戦闘を考慮して改訂、建造されている。その程度の攻撃ではびくともせんよ」

 

 トウゴウのつぶやきと共に、お返しとばかりに放った対空砲が、シルフィードダガーを次々と撃ち落としていく。

 

 そして、格納庫では機体の準備も進められていた。

 

《ライア、準備は良いかい?》

「ばっちりよ」

 

 ユウキの問いに、コックピットに座したライアは答える。

 

 同時にライアは奇妙な感覚にとらわれていた。

 

 まさか、あれほどの死闘を繰り広げた機体に、自分が乗り込む事になるとは思ってもみなかった。

 

 だが、感慨もそこまでだった。

 

 カタパルトに灯が入る。

 

《カタパルト接続。発進、どうぞ》

 

 オペレーターの声に、頷きを返した。

 

「ライア・ハーネット、シルフィード出るわよ!!」

 

 強いGと共に、機体が打ち出される。同時にスタビライザーが開き、機体は蒼穹へ舞いあがった。

 

 新手の存在に気づいたシルフィードダガー隊が向かってくるのに対し、シルフィードもまた速度を上げる。その右腕には、かつて砂漠で失われた高周波振動ブレードがある。修復に当たって、モルゲンレーテが必要なレアメタルを調達し復元していたのだ。

 

 すれ違うとともに放たれた一閃によって、ダガーは両断される。

 

 戦果を確認したライアは、次の目標に向かって機体を飛翔させた。

 

 

 

 

 

 大和の参戦によって、崩壊しかけた戦線を立て直したオーブ海軍だったが、地上での戦闘は相変わらず地球軍優位に進んでいた。

 

 序盤の逆奇襲で砲戦部隊を駆逐し、海岸線付近の制海権を確保したオーブ艦隊が、海上から地球軍地上部隊に艦砲射撃を仕掛け援護を行い、上陸した部隊を撃破していくが、海上という限定された場所からの攻撃では全ての戦線をカバーしきれず、焼け石に水である。

 

 ムウのストライクも奮戦してはいるが、それでも一度にカバーできる戦線は一方面のみ。その間に別の戦線が押されていく有様だ。

 

 それは、イリュージョンを駆るキラやエストにとっても同様であった。

 

 自分達が新型4機に苦戦している間に、地上では味方が厳しい戦いを強いられている。

 

 だが、激しい攻撃をしてくる4機を相手に、なかなか包囲網を破る隙が見いだせない。

 

 それに、

 

「ほらほら、背中ががら空きよ!!」

 

 フレイの駆るアヴェンジャーが、7門の砲を駆使して狙い撃ってくる。

 

 嵐のような砲撃は、油断すると機体をかすめそうになり、キラ達の背を冷やりとする。

 

 だが、アヴェンジャーの一撃を回避した事で、イリュージョンに一瞬の隙が生まれた。

 

 その瞬間を逃さず、レイダーの放った鉄球がイリュージョンの腹部を直撃する。

 

「グアッ!?」「あぁっ!?」

 

 バランスを崩すイリュージョン。

 

 高度が急激に下がり、姿勢保持の為に双翼を広げるが、その為に一瞬、動きが止まってしまった。

 

 その背後から、フォビドゥンが迫った。

 

「終わり?」

 

 シャニの不気味な笑み。

 

 放たれたフラスベルク ビーム砲。

 

 その一撃が、背中を見せたイリュージョンに迫り・・・・・・・・・・・・

 

 突如、割って入った真紅の機体が、シールドを掲げて防いだ。

 

「え?」

「何が?」

 

 驚くキラとエスト。

 

 鮮やかな赤い色の機体。背中には巨大なリフターを背負い、引き絞られた四肢がいかにも俊敏そうな印象を与えている。

 

 イリュージョンのOSは自動で、自分達を守った機体の解析を行う。

 

『ZGMF-X09Aジャスティス』

 

 イリュージョンと同時期に開発された機体である。

 

 そのジャスティスから、通信が入った。

 

《こちら、ザフト軍特務隊、アスラン・ザラだ。イリュージョン、聞こえるか?》

 

 その言葉に、キラは驚いた。

 

《パイロットの1人は、キラ・ヒビキだな?》

「あ、アスラン?」

 

 キラは呆然とつぶやき、エストも状況がつかめずに怪訝な面持ちになる。

 

 しかし、戦況は油断を許されない。

 

 レイダーが人型に変形して鉄球を放ってくるが、ジャスティスはそれを回避すると、2本のビームサーベルの柄を連結させてアンビテクストラスハルバードにすると斬り込む。

 

 イリュージョンも2本のビームサーベルを抜き放ち、ジャスティスに続く。

 

「どういうつもりだ!? ザフトがこの戦闘に介入するのか!?」

 

 オーブはザフトの戦線介入を拒否して戦争に突入している。ならば、アスランがこの場にいて戦う理由が思いつかなかった。

 

 レイダーの攻撃を回避して、ジャスティスはハルバードを手に斬り込む。

 

《軍からは、何の命令も受けていない。この介入は、俺自身の意志だ》

 

 そう答えるアスランの脳裏には、数日前の情景が思い浮かべられた。

 

 地球に来てからアスランは、巡礼のようにかつての激戦地をめぐった。

 

 アラスカのグランドホロー跡地、パナマ、そして最後に、キラとの死闘を演じた島に降り立った。

 

 そこで、マルキオ導師と出会う事が出来た。

 

 彼が養っていた少年の1人から、こんな事を言われた。

 

『ザフトなんか、俺が大きくなったらみんなやっつけてやる!!』

 

 カーペンタリア制圧戦で両親を失ったというその少年は、憎しみの籠った視線でアスランを見ていた。

 

 対してアスランは、返す言葉もなくただ立ち尽くすしかなかった。

 

『殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後は本当に平和になるのかよ!!』

 

 かつて、奇妙な少女に言われた言葉が思い出された。

 

 確かに、撃ちあって得られた平和など、必ずどこかに禍根を残す事になる。

 

 だからこそ、アスランは初めて奪う為でなく、守るために戦いに臨む。

 

 一度は自らの手で、失ったと思っていた友を守る為に。

 

 突如参入したジャスティスの様子は、オーブ軍本部でも確認する事が出来た。

 

「なんだ、あの機体は?」

「地球軍の新型か?」

「い、いや、見ろ、イリュージョンを援護している」

 

 その様子を、カガリもまた、奇妙な面持ちで眺めていた。

 

 戦況は、またも変化を呼ぶ。

 

 ジャスティスの参戦によって、それまでは押される一方であったイリュージョンが反撃に出たのだ。

 

 アヴェンジャーからの執拗な砲撃を振り切り、ビームサーベルを翳してフォビドゥンに斬り込む。

 

 対して、後退する事で回避するフォビドゥン。

 

 すかさずイリュージョンは追撃のビームライフルを放つが、フォビドゥンはゲシュマイディッヒパンツァーを展開して回避した。

 

 アヴェンジャーは尚も、イリュージョンに向けて砲撃を行ってくる。

 

 しかし、ジャスティスの参戦によって負担が減った事で、キラ達もフリーハンドに近い形で動けるようになった。

 

 砲撃を回避すると一気に距離を詰め、ティルフィングを振るうイリュージョン。

 

「クッ!?」

 

 振り下ろされる対艦刀を後退する事で回避するアヴェンジャー。

 

 フレイはコックピットの中で舌打ちする。

 

 もう少しで、キラとエストをしとめられるはずだったのに。あの余計な赤い機体が邪魔したばかりに・・・・・・

 

「よくもォォォォォォ!!」

 

 放たれる砲撃。

 

 しかし、先程とは違い、イリュージョンは余裕で回避して見せた。

 

 接近するイリュージョンに対し、砲撃を続行するアヴェンジャー。

 

 ハルバードを振りかざして斬り込むジャスティスを、フォビドゥンとレイダーが牽制し、折を見てカラミティが砲撃する。

 

 互いのコックピットの中で、それぞれの思いが螺旋のように渦巻いていく。

 

 互いの存在を削りあう戦いの中で、少年少女達は、互いに相手を打ち砕かんと砲火を交えていた。

 

 

 

 

 

PHASE-26「矜持の剣」   終わり

 

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