機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-27「信念の先」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヴェンジャーを操りながら、フレイは苛立ちを募らせる。

 

 圧倒的有利な状況であるにも関わらず、地球連合軍は攻めきれずにいた。

 

 オーブ艦隊は地の利を活かした機動戦術を駆使して巧みに地球軍艦隊を寄せ付けず、モビルスーツ隊も、損害を出しながらも粘り強く抵抗して進行を阻止している。

 

 そして、それは自分達の戦況にも当てはまる。

 

 いちどはキラとエストの乗る機体を撃墜寸前のところまで追い詰めながら、不意に割って入った赤い機体のせいで、打ち損じてしまった。以降、戦況は4対2となり、押し戻されている。

 

 現在、フレイはキラ達の機体を追って、海面すれすれにまで降下している。

 

 アヴェンジャーはその巨体の各所に大小のバーニアを装備し、巨体に似合わぬ俊敏さを誇っている。だが、それでも機動力においては向こうの方が有利なようだ。

 

 フレイの脳裏には、これまでの事が思い出される。

 

 父を殺され、無気力になっていたフレイ。そんなフレイに、父の代理人だという男が接触してきたのは、アークエンジェルが地球に降下する直前だった。父は、万が一自分に何かあった時に備えて、フレイの身の振り方を考えていたのだ。

 

 その人物について地球に戻ったフレイは、そのまま軍へと志願した。

 

 もちろん、目的は復讐の為である。父を殺したコーディネイター。そして、キラとエストをこの手で葬る為に。

 

 驚いた事に、フレイにはもともと素養があったらしく、量産が開始されたモビルスーツを扱わせれば、地球軍でも右に出る者がいないとまで言われるにいたり、ついにはロールアウトしたばかりの新型機まで任されるにいたった。

 

 フレイは幾度も、シュミレート訓練を繰り返した。

 

 ベースにしたのは、シルフィードの戦闘データ。つまり、キラのデータである。

 

 今では、キラの癖なら細部に至るまでに知り尽くしているつもりだった。

 

 その自分が、攻めきれないでいる。

 

 キラ達は、自分の努力をあざ笑うかのように、ひらひらと舞い、アヴェンジャーの攻撃をかわしていく。

 

「このッ!!」

 

 肩部レールガン「ゴルゴーン」、胸部複列位相砲「スキュラ」、頸部インパルス砲「ヒュドラ」、及び両手のプラズマ集束砲を一斉展開する。

 

「落ォちろォォォォォォ!!」

 

 目の眩むような一斉射撃が、イリュージョンへと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 シン・アスカは、港へと通じる道を走っていた。

 

 最後尾を走る彼の眼には、家族の姿が見える。父と母、それに母に手を引かれた妹のマユの姿がある。

 

 行政府から避難命令が出てから、既に1日近くたっており、街には人影はほとんど見られなかった。事実上、シン達が最後である。

 

 準備をしていた為に、避難が遅れたアスカ一家だったが、どうにか脱出の最終便には間に合いそうだった。

 

 目を転じれば眼下の林の先に港があり、脱出船に乗り込もうとする人々が見える。

 

 あと一息だ。

 

 そう思った時、前を走る妹のポケットから何かがこぼれおちた。

 

「あ~、マユの携帯!!」

 

 どうやら、落ちたのは妹の携帯電話らしい。足元は緩やかな崖になっており、携帯電話はかなり下の方まで落ちてしまった。

 

「諦めなさい。また買ってあげるから!!」

「いや~!!」

 

 母親が手を引っ張るも、マユは足を突っ張ってぐずる。

 

 このままでは埒が明かない。そう思ったシンは、とっさに身を翻した。

 

「俺、取ってくる!!」

「待ちなさい、シン!!」

「マユも行くぅ!!」

 

 母親の一瞬の隙に腕を振り払ったマユも、シンに続いて崖を滑り降りる。

 

 シンは中腹辺りまで滑り降りると、特徴的なピンク色の携帯電話を見つけ、拾い上げた。

 

 ちょうどそこへ、追いかけてきたマユもたどりつく。

 

「ほら、マユ。しっかり持ってろ」

「ありがとう、お兄ちゃん!!」

 

 嬉しそうに携帯電話を受け取るマユ。

 

 その瞬間だった。

 

 閃光が走る。

 

「はっ!?」

 

 とっさに、シンは傍らのマユを抱き寄せると、胸に抱いた。

 

 次の瞬間、突き抜ける衝撃と爆音。

 

 まさにこの時、アヴェンジャーの放った砲撃が回避するイリュージョンを逸れ、薙ぎ払うように山道を直撃していたのだ。

 

 ちょうどそこは、アスカ夫妻がいる場所である。

 

 シン達も衝撃によって吹き飛ばされる。

 

 坂道を転がりながらも、シンは必死になってマユを抱え衝撃をやり過ごす。

 

 やがて、爆風が去った時、シンは顔をあげる。

 

 だが、そこに先ほどまであった風景は存在しなかった。

 

 小高い山は三分の一がえぐれるように粉砕され、見る影もなかった。

 

 そして、両親は・・・・・・

 

 そこで、シンは見た。

 

 視界の先、まるで打ち捨てられたように転がる、変わり果てた両親を。

 

「・・・・・・お兄ちゃん?」

「ッ!?」

 

 腕の中から聞こえた妹の声に、とっさにシンはマユの目を覆った。

 

 両親の無残な死体を、幼い妹に見せるわけにはいかなかった。

 

 同時に、自分の中にある感情を、抑える事が出来なかった。

 

 勝手な理屈を並べて侵攻してきた地球軍。それを阻止できなかったオーブ政府の人間、そして、自分の両親を殺した奴等。

 

「・・・・・・ふざ、けやがって」

「お兄ちゃん?」

 

 兄の不穏な空気に、マユは不安そうに顔をあげた。

 

 上空では、尚も戦闘が継続している。

 

 そのどれもが、シンの激情を駆り立てるには充分だった。

 

「マユ、こっちだ!!」

「あ、お兄ちゃん!!」

 

 妹の手を引いて走り出すシン。

 

 その目には、復讐者特有のギラついた光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 シンはマユの手を引き、走った。

 

 途中、何度か爆音がかすめたような気がしたが、気にしない。

 

 全てが許せなかった。

 

 全てを、自分の手で叩き潰してやりたかった。

 

 やがて、オーブ軍の仮設野戦陣地に飛び込むと、ある物を見つけて駆け寄る。

 

 それは、補給を終えて発進待機中のM1アストレイだった。

 

「お、お兄ちゃん!? 何を・・・・・・」

 

 兄の意図が理解できず、戸惑うマユ。

 

 そんなマユに構わず、シンはラダーに飛び乗ってコックピットへ上がる。

 

「ちょ、ちょっと、何やってるのよ!!」

 

 背後から少女の声で制止されたような気がしたが、構わず無視してコックピットに乗り込んだ。

 

 機体は暖気中であり、わざわざ立ち上げる必要はない。

 

 マユを膝の上に乗せたまま、シンは機体を起き上がらせた。

 

「許さない。絶対に、許さないぞ!!」

 

 叫ぶと同時に、シンは戦場へ飛び出す。

 

 同時に、新手の存在に気付いた地球軍のストライクダガーが応戦してくる。

 

 対してシンは、強引ともいえる機体さばきで回避すると、背中からビームサーベルを構えて斬り込んだ。

 

 一撃でダガーの腕が斬り飛ばされる。

 

「邪魔するなァァァァァァ!!」

 

 復讐鬼と化したシンの咆哮が、戦場に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヴェンジャーの攻撃を回避しながら、イリュージョンは急旋回しつつ斬り込んでいく。

 

「アルスター機、2・5秒後に攻撃態勢に移行、攻撃準備完了までおよそ4秒!!」

「なら、その前に!!」

 

 エストのオペレートの従い機体を操り、アヴェンジャーが攻撃を開始する前に斬り込むべく機体を操るキラ。

 

 対して、アヴェンジャーはとっさに一斉攻撃をあきらめ、両手のプラズマ砲を連射してイリュージョンの接近を阻みに掛る。

 

 エストの予測に従って、それを回避するイリュージョン。しかし、体勢が崩れて、ティルフィングを振るう事ができなくなった。

 

「ならっ!!」

 

 キラはとっさに斬撃を諦め、蹴りを繰り出す。

 

 その蹴りは、退避に掛ろうとしていたアヴェンジャーの腹部に突き刺さった。

 

「グゥゥゥッ!?」

 

 衝撃により、大きく後退するアヴェンジャー。

 

 どうにか着地には成功したものの、大きく体勢を崩し、一瞬、動きを止める。

 

 その隙を逃さず、イリュージョンは狙撃砲を構えた。

 

 狙うのはアヴェンジャーの脚部。コックピットを潰さずに無力化するのが目的だ。

 

 だが、そのトリガーが引かれる事はなかった。

 

 落下したアヴェンジャーに、急接近するM1がある事に気付いたのだ。

 

 

 

 

 

 ここに来るまでに、最低でも3機のダガーを落とした記憶がある。

 

 シンは初めて乗るM1、というより、モビルスーツをがむしゃらに操り、目についた敵を片っ端から倒していた。

 

 そして、また1機、敵の指揮官機らしい機体が目の前に落下し、シンは迷わずにビームサーベルを抜いて斬りかかった。

 

「ウワァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 敵は一時的に機能不全に陥っているのか、動く気配がない。今ならばやれるはずだ。

 

 逸る気持ちを剣に乗せ、斬り込むシン。

 

 だが、それは甘い考えだった。

 

 素質はあるのかもしれない。しかし、シンは初めてモビルスーツに乗った民間人にすぎない。

 

 そんな彼が、正式に訓練を受けたフレイにかなうはずがなかった。

 

 頸部のヒュドラが火を噴き、M1の肩を吹き飛ばした。

 

「ウワァァァァァァ!?」

「キャァァァァァァ!?」

 

 コックピットの中で悲鳴を上げるシンとマユ。

 

 M1は体勢を崩し、その場にて転倒する。

 

 そこへ、機体を立て直したアヴェンジャーが照準を着ける。

 

 両手のプラズマ砲を構えるアヴェンジャー。

 

 だが、迸った2条の閃光が、プラズマ砲を吹き飛ばした。

 

「チッ、さすがに、簡単にはいかないわね」

 

 フレイが目を転じれば、上空からライフルを構えたイリュージョンが接近しつつあるのが見えた。

 

 武装を消耗した今のアヴェンジャーで、キラ達の相手をするのは厳しい。

 

 そう判断したフレイは、仕方なく後退を開始する事にした。

 

 背後からイリュージョンが追撃を仕掛けてくるが、フレイは巧みに機体を操って直撃弾を出さない。

 

 もっとも、ここで退く気はない。すぐに武装を補充して戻ってくるつもりだった。

 

 だが、

 

 ちょうどそのころ、ジャスティスが対峙していた3機、カラミティ、フォビドゥン、レイダーにも異変が起こっていた。

 

 それまでは俊敏な動作でジャスティスと互角に戦っていた3機の動きは急激に鈍り、這うような動きで後退を始めていた。

 

 何かの罠を警戒して、追撃を避けるアスラン。

 

 しかし、やがて、3機は速度を上げて撤退していく。

 

 それに伴い、他のダガー隊も次々と後退していく。

 

 その様子を、オーブ軍は呆気にとられたまま見送る。

 

 こうして、オーブ防衛戦争、その第一次戦闘は、辛うじてオーブ軍の勝利に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 地球軍が撤退する様子は、海上で奮戦していた大和のブリッジでも確認する事が出来た。

 

 地上部隊の撤退に伴い、地球軍艦隊も砲撃を行いつつ回頭していく。

 

 やがて、殿の部隊も撤退を終え、ようやく一息つく事が出来た。

 

「何とか、なりましたね」

 

 副長席に身を預け、ユウキは艦長席を振り返った。

 

 だが、艦長席に座したトウゴウは、何かを思いつめたように黙ったまま考え込んでいる。

 

 やがて、顔を上げてユウキを見た。

 

「副長、すまんが、VTOLを1機用意してくれ。儂は一度、行政府に行ってくる。その間、艦の事を頼むぞ」

「それは、構いませんが、何を?」

 

 ユウキの問いには答えず、トウゴウは再び艦長席に身を沈めた。

 

「急がねばなるまい」

 

 その顔には、焦りにも似た表情が浮かべられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄昏の落ちる海岸に、生き残ったオーブ軍は集結していた。

 

 誰の表情にも、疲労の色は濃い。

 

 本当に、何とか守り切る事が出来たといった感じである。

 

 もっとも、沖には未だに地球軍艦隊が展開しており、予断の許されない状況に変わりはないのだが。

 

 そんな中にあって、2機のモビルスーツ、イリュージョンとジャスティスは向かい合うように降り立った。

 

 コックピットから、キラとアスランがそれぞれ降り立つ。

 

 ザフトのパイロットスーツを着たアスランに、警備兵たちが銃を向けようとした。

 

 しかし、

 

「彼は敵じゃない」

 

 キラは静かにそれを制し、歩みを進める。

 

 様子を見にきたカガリも、遅れて降り立ったエストも、固唾を飲んで見守る。

 

 そんな中で、少年たちは歩みを進め、

 

 バキィッ

 

 リーチに入った瞬間、アスランの拳がキラの顔面に突き刺さった。

 

 もんどりうって背中から倒れるキラ。

 

 誰もが唖然として見守る中、アスランは怒りの籠った瞳をキラへ向ける。

 

「キラ、お前って奴は・・・・・・」

 

 力を込めて拳を震わせるアスラン。

 

 対して、

 

「・・・・・・これで、冷静になって話せるかな。お互いにね」

 

 殴られた頬を拭いながら微笑するキラ。

 

 その笑顔に毒気を抜かれたのか、アスランは、それ以上殴る気にもなれず、倒れているキラに手を差し伸べて助け起こした。

 

 そこへ、

 

「お前等~!!」

 

 手を取り合う2人に向かって、カガリが走って来る。

 

「この、ばっかやろう!!」

 

 そのまま2人の首根っこに跳び付くカガリ。

 

 そんなカガリの様子を見て、キラとアスランは互いに苦笑を洩らした。

 

 

 

 

 

 生き残った機体や損傷し放棄された機体が運び込まれるモルゲンレーテの工廠内はごった返しており、自然、キラ達は隅っこの方へと追いやられる形となった。

 

 しかし、それでも、ようやく友と再会できた事の嬉しさは大きかった為、気にはならなかった。

 

 エストが運んできたドリンクを礼を言って受け取り、キラはアスランを見た。

 

「・・・・・・そんな事が、あったのか」

 

 自分も渡されたドリンクを飲みながら、アスランはつぶやいた。

 

 キラは、この戦闘のあらましをアスランに説明した。

 

「だが、それじゃあ、」

「うん、大変だって事は、僕も判っている。ウズミ様・・・カガリのお父さんの言う通りだと思うから」

 

 言い募ろうとするアスランに覆いかぶせるように、キラは告げる。

 

「オーブが地球軍に着けば、大西洋連邦は、その力を使ってプラントを撃つだろうし、その逆もあり得る。そんな事はもう嫌だから、僕達は戦うと決めたんだ。道を妨げる全ての物と、ね」

 

 語る2人の周りには、いつの間にか人が集まっていた。

 

 エストに、ライア、サイ、トール、ミリアリア。

 

 彼等は皆、誰も一言も云わずに会話に聞き入っていた。

 

「アスラン、僕は、君を殺そうとした」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 突き刺さるようなキラの言葉に、アスランは黙り込む。

 

 だが、キラは柔らかい調子で続ける。

 

「でも、僕は君が死んだと思った時、すごい寂しさを感じた」

 

 それは、アスランも感じたことだった。

 

 あの戦いの後、生き残ったアスランが感じた、たとえようもない喪失感。そして、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感は、一種のトラウマのように、今も胸にしこりを残している。

 

「そんな事を、早く終わらせたい。だから、僕達は戦うんだ」

 

 矛盾してるのは分かってるんだけどね。そう言って、キラは苦笑する。

 

 そこへ、見計らったようにエストが歩み寄った。

 

「お話し中すみません。キラ、そろそろ作業に戻りましょう」

「あ、そうだね」

 

 久しぶりに親友と話せて、つい時間が過ぎるのも忘れてしまっていたが今はまだ警戒中である。いつ地球軍が再襲するか分からない以上、補給と整備は早めにやっておかねばならなかった。

 

 作業に戻るべくキラは歩きだす。

 

 その背中に、アスランは呼びかけるように言った。

 

「待ってくれ。ひとつだけ聞かせてくれ」

 

 足を止め、キラは振り返ると、アスランはこれまでに無いほど真剣なまなざしで尋ねた。

 

「イリュージョンにはNジャマーキャンセラーが搭載されている。お前、それを、」

「ここであれを何かに利用しようとする人がいたら、」

 

 アスランの言葉を遮るように言いながら、キラは傍らのエストの頭を優しく撫でる。

 

「僕達が撃つよ」

 

 静かな、しかし固い決意。

 

 それだけで、アスランは目の前の親友を信じてもいいような気がしていた。

 

 

 

 

 

 冷静になりきれない頭は、この状況に理不尽を否応なく感じていた。

 

 軍施設に戻った後、シンは当局に拘束されて、尋問を受けていた。

 

 彼の罪状は明白である。軍の最高機密であるモビルスーツの強奪と無断使用。そのまま収監されてもおかしくはない。

 

 だが、シンは理不尽をぶつけるように喚き続け、局員も困り顔になっていた。

 

 カガリが隣の監視ルームに入って来たのは、そんな時だった。

 

「お、これはカガリ様、お疲れ様です」

 

 少し崩した感じに敬礼してきたのは、海軍情報部のケン・シュトランゼン一尉である。彼がシンを拘束した人物である。その傍らには、たまたま居合わせたリリア・クラウディスの姿もあった。

 

「どうだ、調子は?」

「どうもこうも、終始あんな感じですよ」

 

 マジックミラー越しに中の様子を伺いながら、ケンはやや辟易した調子で言った。

 

 中を覗きこめば、問題の少年がわめいているのが見える。

 

《だから、国の代表に、アスハに会わせろって言ってるだろ!!》

《そんな事、できるはずないだろうが!! いいから座れ!!》

《こんなバカな戦争を始めた奴に、思い知らせてやるんだ!!》

 

 そう言って暴れているシンを局員が2人がかりで取り押さえようとしている。

 

 その様子を見ていたカガリは、何かを決意したように頷く。

 

 今の彼は、かつての自分に似ている部分がある。目の前の事実のみを追い、本当に何をするべきなのか見えていないのだ。

 

「・・・・・・リリア、頼みがある」

「うん、何?」

 

 リリアが部屋を出ていくと、カガリは尋問室へと足を踏み入れた。

 

 喧騒に包まれていた部屋の中が、一瞬にして静まり返る。

 

 シンを押さえていた局員は、入ってきたカガリに、思わずシンを離して敬礼する。

 

「あんたは・・・・・・」

 

 呆然とするシンを真っ直ぐに見返し、カガリは口を開いた。

 

「お望みどおり、出て来てやったぞ。私は、カガリ・ユラ・アスハだ」

 

 その言葉に、シンの怒気は一気に膨れ上がった。

 

「あんた・・・・・・あんたが!!」

 

 掴みかかろうとするシン。

 

 その前にケンが立ちはだかって、カガリを守るように立つ。

 

「どけよ!!」

「悪いんだけど、立場上それはできないんだよね」

 

 飄々と言いながらも、絶対に通さないという意思を見せるケン。もしシンが、指一本でもカガリに触れようものなら、その時は容赦なくシンを取り押さえるつもりだった。

 

 そのケンの背後から、カガリは静かに歩み出る。

 

「だいたいの事情は聞いている。先の戦闘で、家族を失ったそうだな」

「ああ、そうさッ あんた達アスハが馬鹿な決断をしたせいでな!!」

 

 シンは憎しみの籠った赤い瞳を突き刺さん勢いで、カガリをにらみつける。

 

「あんた達が、ちゃんとこの国を守ってくれていたら、俺の両親は死ぬ事はなかったんだ!!」

「それに関しては、申し訳なく思っている」

「申し訳ないだって? そんな事言う資格が、あんたにあるのかよ!?」

 

 激昂するシンに対してカガリは冷静になって返す。こういう時互いに熱を帯びてしまってはまとまる話もまとまらなくなる事を、過去の自分自身の経験からカガリは知っていた。

 

「だが、それでモビルスーツを奪って戦場に行くのは、どうなんだ?」

「あんな奴等、俺がみんなやっつけてやるんだ! 不甲斐無いあんた達に代わってな!!」

 

 その言葉に、カガリは眩しい物を見るように、目を細めた。

 

 見れば見るほど、目の前の少年は過去の自分に似ている。状況に流され、自分自身の力も弁えずに突っ走ろうとする。人1人が成せる事など、たかが知れているというのに。

 

 こういう人間には、抑えてやれるものが必要なのだ。そう、かつての自分に、父ウズミや、キサカ、ユウキと言った忠臣達がいたように。

 

「お前の言い分は判った」

 

 カガリは落ち着いた調子で言う。

 

「だが、その上でお前に問いたい。お前がいま、一番にすべきこととは何だ?」

「え?」

 

 カガリの質問に、シンは動きを止めてカガリを見る。

 

「地球軍を撃って両親の仇を取る事か? それとも私達を糾弾する事か?」

 

 カガリがそこまで言った時、扉が開いて、2人の人物が取り調べ室に入ってきた。

 

 それはリリアと、彼女に付き添われたシンの妹のマユだった。

 

「マユ・・・・・・」

「お兄ちゃん」

 

 マユの額には包帯が巻かれ、側頭部に血が滲んでいるのが見える。先の戦闘によるものである事は明白だった。

 

 それを見て、カガリはシンに言う。

 

「この子を、守る事なんじゃないのか?」

「ッ!?」

 

 言われて、シンはハッとする。

 

 マユは自分にとって大切な妹であり、今や唯一の肉親だ。その大切な存在を、自分は危険な戦場に連れまわしていたのだ。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 泣きながら胸に飛び込んでくるマユを抱きとめるシン。

 

 妹の存在が、復讐に猛っていた心を静めていくようだった。

 

 その様子に、カガリは安堵する。もう、この2人の事は大丈夫だろう。シンの罪状に関しては、状況が状況だし、被害と言えば使われたM1が中破したくらいである。痛くないと言えば嘘になるが、そのくらいならカガリの裁量で不問にしても問題はなかった。

 

 だが、立ち去ろうとするカガリを、シンが呼び止めた。

 

「あんたに、頼みがある」

 

 立ち止まって振り返るカガリに、シンは言う。

 

「俺にも、戦わせてくれ」

 

 静かに言うシンに、カガリは驚いたように目を開いた。

 

「何だと!? お前、まだ・・・・・・」

「違う!!」

 

 説得の意味がなかったと思っているカガリに覆いかぶせるように、シンは否定の言葉を投げた。

 

 そっと、マユを抱く腕に力を込めて言う。

 

「守る為に、戦いたいんだ」

 

 決意の籠った、赤い瞳に、カガリは戸惑いを隠せなかった。

 

 妹を守れと言ったのはカガリだが、それがこんな形で表出するとは思わなかった。

 

「カガリ様」

 

 困り顔のカガリに、ケンはそっと耳打ちする。

 

「M1に残ってた、この坊主の戦闘データ見ましたけど、いや、すごいですね。たぶん、うちの軍の並みのパイロットじゃ、こいつには敵わないと思いますよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ケンの言葉に、カガリはますます戸惑いを強める。

 

 オーブ軍の戦力不足は明白である。特に、モビルスーツのパイロットはいくらいても足りないくらいだ。それが優秀な人材ともなると宝石よりも貴重だろう。

 

 だが、だからと言って民間人の少年を巻き込むのは気が引けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パウエルの格納庫では、今日の戦闘で活躍した4機の機体が鎮座している。

 

 従来のXナンバーと違い、装甲にTP(トランス・フェイズ)装甲を使用しているこの4機は、機体に灯が入っていない状況でも、装甲の色が落ちる事はない。

 

 TP装甲とは、PS装甲の上から通常の装甲で覆った二重装甲の事で、着弾の一瞬のみセンサーが起動して内部PS装甲が作動、物理衝撃を無力化する仕組みになっている。PS装甲装備機の弱点であったバッテリー消耗を極限に抑える事が出来る新技術であった。

 

 その内の1機、アヴェンジャーの前にフレイは立ち、愛機を見つめている。

 

 キラが生きていた。そしてエストも。

 

 父を殺し、フレイにたとえようもない孤独を味あわせた2人。その2人をこの手で殺す機会を与えてくれた事に、フレイはいる筈もない神に感謝したいくらいであった。

 

 だが、2人は新たな力と共に、フレイの前に立ちはだかった。

 

 こちらの猛攻にも関わらず、2人は生き残った。フレイの復讐心をあざ笑うかのように。

 

 新型の機体も、フレイの技術も、猛る心も2人には通用しなかった。

 

「クッ」

 

 舌打ちしたとき、こちらに向かって歩いて来る存在に気付いた。

 

「いかがでしたか、初めての戦闘は?」

 

 アズラエルの問いに、フレイは振り返らない。

 

 ラーズを従えたアズラエルは、フレイと並ぶようにしてアヴェンジャーを見る。

 

「まあまあだったわ」

「それは何よりです」

 

 フレイの地球軍における階級は中尉である。本来なら雲の上の存在であるアズラエルが話しかけるような関係ではない。だが、アズラエルはかつてフレイの父、ジョージの部下だった事もあり、フレイには気を使っていた。

 

 もっともフレイとしては、アズラエルの事を額面通りに信用している訳ではない。本当なら傍にいられるだけで生理的不快感を感じるのだが、取り敢えず他に頼る相手がいないので妥協しているだけだ。

 

 それはアズラエルの方も同じで、彼としてはフレイの美貌と活躍に軍としての宣伝効果を活躍しているからこそ、便宜を図っているとも言える。

 

「間もなく、第二次攻撃が始まります。またお願いしますよ」

 

 その言葉に、フレイは怪訝な面持で振り返った。

 

「オーブからは会談要請が来てるって聞いてるけど?」

「そんな物、無視するに決まっているだろう」

 

 答えたラーズは、吐き捨てるように言う。

 

「あの戦力で攻めて落とせなかった国だぞ。放置すれば、いつ背中から撃たれるかわかったものではない」

「そう言う事です。今後の事もありますから、オーブにはきっちりと消えてもらいましょう」

 

 一国家の消滅を、まるで午後の予定のように言うアズラエル。

 

 そんなアズラエルに、フレイは一言「そう」とだけ返し、再び愛機に向き直った。

 

「連中も、そろそろ『お仕置き』も十分でしょうし。次こそはお願いしますよ」

 

 お仕置きとは、他の3人のパイロット、正確にはカラミティ、フォビドゥン、レイダーの生体CPU、オルガ、クロト、シャニの3人が受けているであろう罰則の事だった。

 

 コーディネイターに対抗する為に肉体の改造を受けた3人は、定期的に投薬処置を受けないと、身体に凄まじい過負荷がかかり、苦痛に苛まれる事になる。

 

 先の戦闘で、3機が突如として機首を巡らしたのは、そう言った事情であった。

 

 そうまでして、コーディネイターに対抗したい物なのかと疑問に思いたくなるフレイだが、口には出さない。目的遂行に有用なら何でも利用するつもりだった。

 

 いずれにしても、オーブにキラとエストがいるのなら、そこを攻める事にはフレイも賛成だった。

 

 

 

 

 

 行政府の一室にてウズミはトウゴウと向かい合っていた。

 

 立場と年齢を超えた友人として長年付き合いのある2人だが、今は互いに厳しい顔のまま、向かい合っている。

 

「では、どうしても、了承してはもらえんと言うのか?」

「うむ。お前の言っている事は判るのだが、この国の長として、譲るわけにはいかん」

 

 重々しい調子で、ウズミはトウゴウへ頷いた。

 

 今日1日の戦闘で、オーブ軍は全体の3割を超える損害を出している。艦隊戦力は半減し、要となる地上部隊も損害が大きい。まだ7割が健在と言えば聞こえはいいが、指揮系統が寸断している部隊もある事を考えれば、次の戦闘で出撃できるのは5割が限界であろうとトウゴウは踏んでいた。

 

 地球軍にも相応の損害を与えたと信じたいところであったが、仮に自軍の倍の損害を与えていたとしても、地球軍はオーブ軍の4~5倍の戦力を投入してきている。次回戦闘では、より厳しい戦いを強いられることになる。

 

 そうなる前に、トウゴウは先手を打つべきだと主張していた。

 

 イリュージョン、ストライクと言った特機を含む精鋭部隊を用いて海中から地球軍艦隊に接近し、指揮中枢を壊滅に追いやる。

 

 戦闘が始まってしまえば、戦力は防衛に振り向けなければならなくなる。今、一時的に地球軍が引いているからこそ可能な作戦だ。これ以外にオーブが生き残る道はないように思えた。

 

 だが、トウゴウの提案に対し、ウズミは首を横に振った。

 

 現在、オーブ行政府は、大西洋連邦に対し会談要請をしている。兎にも角にも、緒戦の勝利は物にできた訳だから、この状況を利用して停戦交渉に持ち込もうとしているのだ。

 

 勿論、ウズミも簡単に受け入れられるとは思っていない。だが、国の舵取りをする人間として、これ以上損害を出す事なく、戦火を治められる可能性を自ら閉ざす事は出来なかった。

 

「・・・・・・判った。お前がそう言うのであれば、仕方があるまい」

 

 トウゴウは仕方なく、自分の案をひっこめる事にした。

 

 軍人と政治家では見るべき物が違う。軍人は自軍の損害をいかに抑えるかを考えるが、政治家はまず先に国を守る事を考える。

 

 だからこそ、ウズミはトウゴウの意見を退けるしかなかった。

 

「だが、ウズミ、お前はそれで良いのか?」

「何がだ?」

「これで、後世の歴史家の、お前に対する評価は二分する事になるだろう。『信念を貫いた偉大な男』と、『信念の為に国を焼いた愚かな男』としてな」

「構わんよ。今の私に必要なのは、今をどうするかという決断であって、後世の歴史家の戯言ではない」

 

 そう告げたウズミの背中には、不退転の悲壮感が漂っているようだった。

 

「万が一のことを考え、カグヤとクサナギの準備はさせている。何かあった時はトウゴウ、頼んだぞ」

「判った」

 

 静かに頷くトウゴウには、この長年の友人が既にある種の覚悟を決めている事を悟った。

 

 

 

 

 

「君の後輩?」

 

 イリュージョンから降りたキラは、エストへキラは尋ねた。

 

 調整を終え、機体から降りようとした時、エストが先の戦闘で戦った3機の話題を出した。

 

 フレイの機体はともかく、正体不明の3機の戦闘力もまた、フレイ機に劣らず凄まじい物があった。

 

 機体性能もさる事ながら、正直あれがナチュラルの操縦によるものだとはどうしても思えなかった。

 

「後輩と言うより、後継作と言った方がいいかも知れません。プロトタイプ・エクステンデットである私を元に、開発は継続されていたはずです。大西洋連邦が、対ザフト戦のテストベンチとして、オーブ戦にエクステンデットの完成品を投入してきたとしてもおかしくはありません」

 

 ナチュラルでありながらコーディネイターを超える為に開発された人間。そんな存在に来られては、兵士の多くをナチュラルによって構成しているオーブ軍では対抗しきれないだろう。キラであっても、複数を同時に相手にするのは難しい。

 

 だが、それとは別に、キラは真剣な表情でエストに向き直った。

 

「話は判ったよ。けど、エスト」

「はい」

「自分の事を、人形か何かの部品のように言っちゃだめだ。君はエクステンデットなんかじゃなく、普通の人間の女の子だ。少なくとも、僕はそう思っている」

「キラ・・・・・・」

「君は僕の相棒だ。それも、かけがえのない、ね。だから、お願いだから、そんな風には言わないでくれ」

「はい。すみませんでした」

 

 謝るエストの長い髪を、キラは優しく撫でてやると、少しくすぐったそうにエストは目を細めた。

 

 その様子を、微笑を浮かべて眺めながら、キラはある種の頼もしさのようなものを感じていた。

 

 状況は、オーブにとって決してよくはない。地球軍は尚も圧倒的な兵力でオーブ沖に展開しているし、フレイ達の事もある。

 

 だがそれでも、この子と共に戦い続ける限り、自分は負ける気がしなかった。

 

 

 

 

 

PHASE-27「信念の先」   終わり

 

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