機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-35「光の聖剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L4同盟軍がヤキン・ドゥーエ宙域を目指して航行している頃、既に地球連合軍とプラント防衛軍との間では戦端が開かれていた。

 

 数では圧倒的に勝る地球連合軍は弓なりの形状になっているヤキン・ドゥーエ前面へ怒涛の如く押し寄せ、圧倒的な火力をザフト軍へと叩きつけている。

 

 対するザフト軍は、いかに精鋭を集めた主力軍とは言え、地球軍に比べると圧倒的に数は少ない。せいぜい3分の1程度の戦力しか無い。

 

 しかしザフト兵士達の技量は、今なお地球軍兵士のそれを凌駕している。それは地球軍がモビルスーツを正式採用してからも変わりは無い。火力戦ならともかく、機動兵器を投入しての接近戦であるなら、ザフト軍の側に分がある。

 

 こうして地球軍とザフト軍は、要塞前面において一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 ザフト軍の懸念材料としては、要塞ボアズを完全破壊した核攻撃部隊の存在だった。

 

 あの部隊に要塞に取り付かれたら、ヤキン・ドゥーエもボアズと同様、崩壊の憂き目にあう事は間違いない。

 

 だが、既に映像解析により、核攻撃部隊は巨大なミサイルを抱えたメビウスによって構成されている事が判っている。

 

 相手がメビウスなら何百機来た所でモビルスーツの敵ではないし、ただでさえ鈍い運動性が、ミサイルを抱えた事で更に鈍くなっている事は疑いない。出て来た所で、ザフト軍にとっては良いカモでしか無かった。

 

 その為、地球軍としてはまず先にザフトの防衛ラインに穴をあけ、そこからメビウス隊を突入させる筈だ。既にボアズから辛うじて敗走してきた兵士達から、地球軍が同様の作戦を行った事が齎されている。

 

 つまり、防衛ラインさえ強固に保っていれば、地球軍は核攻撃部隊を発進させる事ができない事を意味している。

 

 その為ザフト軍は、ほぼ全軍を出撃させて地球軍の迎撃に当たっていた。

 

 そしてその中には、ジュール隊とエルスマン隊の両部隊も加わっていた。

 

「怯むなッ!! ここを抜かれたら、もう後は無いぞ!!」

 

 イザークはデュエルを駆って最前線に立ちながら、向かって来るだがー部隊を次々と撃ち抜いて行く。

 

 元々、エリート部隊であるクルーゼ隊の出身であり、数々の激戦を潜り抜け、名実ともにザフトトップの歴戦パイロットとして名が知られているイザークである。その下に配属された部下達の士気も高い。

 

「隊長に続け!!」

 

 量産化された緑色のゲイツが、デュエルに続いて敵陣へと斬り込んで行く。

 

 彼等はここに至るまで、イザークの厳しい訓練に耐えて来た者達だ。実戦経験は無くとも、ナチュラル兵士を上回る戦闘力を発揮し、突撃する隊長に追随していた。

 

 その隣の宙域では、エルスマン隊も奮戦していた。

 

「このォ 近寄らせる訳にはいかないっての!!」

 

 ディアッカが叫ぶと同時に、バスターは対装甲散弾砲と肩部のミサイルを一斉発射し、群がって来るダガーを根こそぎにする。

 

 その脇では、同様に砲撃を行っているエルスマン隊のゲイツが見える。

 

 こちらは隊長と共に突撃したジュール隊とは違い、一定の距離を置きつつ火力を集中するやり方で、地球軍の進行を阻んでいる。

 

 しかも、ただ砲撃を行っているのではない。ディアッカは部隊の火力を可能な限り、一点に集中させるように指示していた。これにより、地球軍の隊列には無視し得ない穴が開く事になり、そこを別の部隊が更に突っ込んで攻撃し、戦線崩壊を誘発している。

 

 今まで火力重視の機体を乗りこなし、ザフトの誰よりも砲撃戦を理解しているディアッカならではの戦術と言える。

 

 その他の部隊も、各宙域で戦線を支え、地球軍の進行を水際で撃退している。

 

 全体的に見て両者互角、ややザフトが有利と言う形で戦局は推移している。

 

 このまま守りに徹すれば、地球軍を撃退する事も不可能ではない。

 

 ザフト軍の誰もが、そう思うようになっていた。

 

 その様を、戦場から遥かに離れた宙域から見守る目があった。

 

「そろそろ、ですかね」

 

 ドミニオンの艦橋で、アズラエルはそう言ってほくそ笑む。

 

 モニターには、必死の防戦で地球軍の主力部隊を押しとどめているザフト軍の姿が映っている。

 

 その様を見て、アズラエルは笑っていた。

 

 これが笑わずにいられようか。奴等は自分達を「優れた種」などと自称しておきながら、こっちの作戦に誰一人として気付いていないのだから。

 

「さあ、始めましょう」

 

 謳い上げるように、アズラエルは指示を出した。

 

 

 

 

 

 出し抜けにデュエルのセンサーが、プラントに向かう一群の機影を捉えた。

 

「あれはッ!?」

 

 呻くイザーク。

 

 その目には、腹に巨大なミサイルを抱えた多数のメビウスが、ゆっくりした速度でプラント方面へ向かう様子が見えていた。

 

 その瞬間、全てを理解する。

 

 地球軍の狙いは、初めから要塞では無かったのだ。主力軍で持ってザフトを引きつけておき、その間にプラント本国を叩く目的なのだ。

 

 ザフト軍は今や、完全に要塞前面に釘付けとなり、核攻撃部隊の進路を阻める者は1人もいない。

 

「奴等を止めろ!!」

 

 イザークの叫びに、周囲の部隊が一斉に反転する。

 

 しかし、それを待っていたかのように地球軍は、進路を変えたザフト軍に猛攻撃を加えて来た。

 

 横撃を行う形で行われた攻撃に、ザフト軍のモビルスーツ隊は次々と火球に包まれ爆砕して行く。

 

 更に、4機の不吉な影がザフト軍の進路を遮る。

 

 ピースメーカー隊と共に出撃したアヴェンジャー、カラミティ、フォビドゥン、レイダーもまた、戦線に加わり、ザフト軍のモビルスーツを叩き落として行く。

 

「行かせないわッ!!」

 

 フレイが言い放つと同時に、アヴェンジャーは7つの砲門を一斉発射、ゲイツを砕き、シグーを吹き飛ばし、ジンを炎に沈めていく。

 

 そこへ、デュエルが飛来する。

 

「貴様ァ そこをどけェェェェェェ!!」

 

 ビームサーベルを抜き放ち、アヴェンジャーに斬りかかるデュエル。

 

 だが、フレイは巧みに機体を操って後退、デュエルの斬撃を回避すると同時に、苛烈な砲撃によって反撃を行う。

 

「クッ!!」

 

 イザークはとっさにシールドを掲げて防御するが、嵐のようなアヴェンジャーの攻撃を前に、身動きが取れなくなってしまう。

 

 そこへ、ディアッカ率いるエルスマン隊も戦場に到着する。

 

「やらせないっての!!」

 

 叫ぶと同時に、バスターが持つ超高インパルス長射程狙撃ライフルを放つディアッカ。

 

 しかし、戦艦の装甲すら紙のように貫く太い閃光は、その前に立ちはだかったフォビドゥンがゲシュマイディッヒパンツァーを展開して防御。明後日の方向に軌道を逸らされてしまう。

 

 それまで秩序だった防衛戦を展開していたザフト軍の戦列は、今や完全にバラバラとなり、各所で地球軍の大軍に押され始めている。

 

 その脇を、ピースメーカー隊が悠々と通過して行く。

 

 ザフト軍の兵士達は、その様を指をくわえて見ている事しかできない。

 

「誰か、誰か止めろ!!」

 

 アヴェンジャーの攻撃を必死にかわしながら、イザークもどうにか前に進もうとするが、フレイは巧みにデュエルの進路を遮って行く手を阻む。

 

 やがて、ピースメーカー隊は一斉にミサイルを発射した。

 

 ただ1発で、かつてプラント1基を完全破壊したミサイル。それが100発以上。コーディネイターを殺しつくして尚、お釣りがくる威力だ。

 

 絶望が、戦場を覆い尽くす。

 

 最早、止める事はできない。

 

 ゆっくりと流れていくミサイルを、ザフトの兵士達は呆然と眺める。

 

 やがて、閃光と爆炎が彼等の大切な物を全て飲み込む事になるだろう。

 

 プラントは、コーディネイターは終わる。

 

 最早、奇跡でも起こらない限りは、未来を覆す事はできない。

 

 そう奇跡が起こらない限りは。

 

 

 

 

 

 次の瞬間

 

 

 

 

 

 起こった

 

 

 

 

 

 奇跡が

 

 

 

 

 

 二条の流星が、遥か彼方から飛来する。

 

 絶望を払い、奇跡を起こす光が舞い降りる。

 

「あれはッ!?」

 

 いち早く、イザークがその存在に気付いた。

 

 ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスは、プラントに向かう各ミサイル群に追いすがる形で飛来、一斉にロックオンを掛ける。

 

「やるぞ、ラクス!!」

《はいッ!!》

 

 アスランとラクスは頷き合うと同時に、ミーティアの持つ全火力を解放した。

 

 ミサイルが飛び、ビームが奔る。

 

 たった2機のモビルスーツ。

 

 しかし、その2機のモビルスーツが、戦艦並みの火力で持って砲撃を開始した。

 

 プラントに向けて放たれた核ミサイルは、フリーダムとジャスティスからの砲撃を受け、目標のはるか手前で、次々と爆砕され、誘爆して行く。

 

 元々、圧倒的な火力で敵部隊を殲滅する事を目的としたミーティアである。ただ、ゆっくりと真っ直ぐ飛ぶだけのミサイルを撃ち落とすくらい訳無かった。

 

 次々とミサイルが誘爆し、光の壁を形成して行く。

 

 戦っていたザフト軍と地球連合軍が、それぞれ別の意味で唖然としたのは言うまでも無い事である。

 

 だが、まだ終わりでは無い。何しろミサイルは無数にある。フリーダムとジャスティスがカバーしきれなかったミサイルが、未だにプラント目指して飛翔している。

 

 その数は、まだ数10発を数え、プラントを壊滅状態に陥らせるには充分である。

 

 だが、二の矢は既に放たれていた。

 

 飛んで来るミサイル群の前に、双翼を広げた幻想の戦天使が立ちはだかる。

 

 フリーダムとジャスティスの後方から追いすがる形で続行したイリュージョンだったが、今にも絶望と共に訪れようとする破滅に、辛うじて間にあったのだ。

 

「良いね、エスト?」

「はい」

 

 コックピット内で、キラとエストは言葉を交わすと、キーボード上のキーを手早く押しパスワードを打ち込む。

 

「パスワード認証。コード『ヌァザ』封印解除」

「承認。回路接続。全動力を『光の聖剣』へ」

「イリュージョン、砲撃モードへ移行」

 

 変化が起こる。

 

 イリュージョンの背部に備わった双翼の一部が開き、中から何かがせり出してきた。

 

 それは肩越しに展開し、更にジョイントがロックされると、長さが倍にまで伸びる。

 

 大砲である。それも、かなり巨大な。

 

「砲身展開完了。エネルギー充填開始」

「砲撃モードは『拡散』に設定」

「設定良し。目標、マルチロックオン。砲撃準備完了」

 

 イリュージョンの持つ全エネルギーが、砲塔へと充填され、砲門が光り輝く。

 

 既に核ミサイルは至近に迫っている。

 

 ここが最終防衛ラインだ。ここで防げなかったら、プラントは終わり、そして坂を転がるように人類は終焉へと向かうだろう。

 

 キラの、そしてエストの目が、迫りくる多数のミサイルをしっかりと睨み据えた。

 

 そして、次の瞬間、

 

 

 

 

 

「「クラウ・ソラス、発射ァ!!」」

 

 

 

 

 

 閃光が、迸る。

 

 イリュージョンが備えた2門の砲身から、人間の可視限界を越えた光の奔流が解き放たれた。

 

 超高密度プラズマ収束ビーム砲「クラウ・ソラス」

 

 光の聖剣の名を冠したこの武器こそが、イリュージョンの最後の切り札である。

 

 Nジャマーキャンセラーと核エンジンによってもたらされた莫大なエネルギーを、ただ1回の砲撃に注ぎ込む事によって、戦艦の主砲すら上回る砲撃を可能とする一撃。

 

 一点にエネルギーを集中する収束モードと、空間その物を薙ぎ払う拡散モードへと切り替えが可能で、その絶大な威力は想像を絶するとさえ言える。

 

 その威力の高さゆえに、キラとエストはこれまで使用を躊躇い、長く封印してきたのだ。

 

 しかし今、イリュージョンはプラントを守る為に、自身の最強の力を解き放っていた。

 

 あるいはそれは、初めて全力を発揮できる場所を与えられたイリュージョンの、歓喜の叫びであったのかもしれない。

 

 イリュージョンは多数のミサイルを一網打尽にする為、拡散モードでクラウ・ソラスを放った。

 

 フリーダムとジャスティスの迎撃を振り切った残存ミサイルも、文字通り、空間ごと根こそぎにする砲撃を前にしては成す術も無く、次々と火球に変じる形で爆砕して行く。

 

 勿論、プラントにはかすり傷一つない。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・」

 

 呆然とそう呟いたのは、ドミニオン艦上のアズラエルである。

 

 彼が自信を持って放ったピースメーカー隊が、

 

 憎きコーディネイター共を焼き殺す核ミサイルが、

 

 僅か一瞬で壊滅してしまったのだ。

 

 追いついて来た同盟軍の主力部隊も戦線に加わり、残ったミサイルやメビウスを駆逐して行く。

 

 更に、戦線を突破したザフト軍の部隊も攻撃に加わり、今やピースメーカー隊は、凶悪な猟犬に狩られるだけの、無力な兎と化していた。

 

《地球軍は、ただちに攻撃を中止してください》

 

 そこへ、全通信回線を通じて、澄み渡るような少女の声が聞こえて来た。

 

 ラクスである。

 

 フリーダムを操縦する彼女は、エターナルに中継してもらう形で、宙域全体に自分の声を流しているのだ。地球軍にも、そしてザフト軍にも聞かせるように。

 

《あなた方は何を撃とうとしているのか、本当におわかりですか?》

 

 その声に、ザフト軍にさざ波の様な動揺が奔る。

 

 ラクス・クラインが、

 

 プラントを裏切ったかつての歌姫が、今この段になって、自分達の前に現われた。

 

 しかも彼女達は、身を呈して自分達の故郷を、プラントを守ってくれた。

 

 その事実が、彼等の中に動揺を呼びこんでいる。

 

 政府の発表で、ラクスが裏切った事は知っていても、潜在的なラクスの支持者は未だに根強くザフト兵士の中に存在している。そんな彼等にとって、政府の発表は俄かには信じられないものであったのだ。

 

 彼等にとっての事実は一つ。ラクスが目の前に現れ、プラントの危機を救ってくれた。

 

 ただ、その一点のみであった。

 

 

 

 

 

 一方、そんなラクスの演説を苦々しく聞いている者もいる。

 

 現プラント最高評議会議長パトリック・ザラである。

 

「フンッ 小娘が、小賢しい真似をッ」

 

 彼にはラクスの腹の内が読めていた。

 

 あの、したり顔の小娘は自分達でNジャマーキャンセラーの情報をナチュラルに売り渡し、プラントの危機を誘発しておいて、絶好のタイミングで現われてその危機を救って見せたのだ。

 

 大したパフォーマーだ。流石は元歌姫と言うべきだろう。

 

 だが、そんな汚い手に誰が乗ってやる物か。死んだ父親の代わりにプラントに返り咲いて、政権を奪取しようと言うのだろうが、そうはいかない。

 

「構わん、放っておけ。こちらの準備も整った!!」

 

 そう、たった今、準備が整ったとの報告があげられたばかりだ。

 

 ラクス達は、その手伝いをしてくれたような物だ。その点だけは、感謝してやっても良い。だが、最後に勝つのはラクス・クラインなどと言う、道理も何もわきまえない、無知な小娘では無い。このパトリック・ザラなのだ。

 

「全部隊を下がらせろ。エザリア、ジェネシス、最終段階だ!!」

 

 パトリックの命を受けて、衛星の軍本部で指揮をとっているエザリアは頷きを返す。

 

「我等の真の力、今こそ見せてくれるわ!!」

 

 

 

 

 

 その電文は、ザフト全軍に送信されていた。

 

 最前線近くで通信を受け取ったイザークは、訝りながら読み上げる。

 

「『全軍、射線上より退避。これよりジェネシスを使用する』だと!?」

 

 驚愕に目を見開く。

 

 ザフト軍が決戦に向けて最終兵器の開発を秘密裏に行っており、それがジェネシスと言うコードネームであると言う事は知っていたが、イザークとしては話半分の眉つば程度に聞いていたのだが。

 

 まさか、実在したとは。

 

 そこで、ハッと顔を上げた。

 

「下がれ、ジャスティス、フリーダム!! ジェネシスが撃たれる!!」

 

 絶叫に近いイザークの声は、ジャスティスの通信機でも拾う事ができた。

 

「イザーク?」

 

 核ミサイルを一掃したフリーダムとジャスティスは、ミサイルを撃ち尽くした事で、一旦退避に掛かっていた所だ。そこへきて、突然昔の仲間からの通信に、アスランは戸惑いを覚えていた。

 

 しかも、ジェネシスと言う単語には聞き憶えがない。いったいそれは如何なる物なのか?

 

《とにかく、ここは退きましょうアスラン。何か嫌な予感がいたします》

「そうだな」

 

 ラクスの言葉に頷き、機体を宙域から離脱させる。

 

 変化は、そのすぐ後に起こった。

 

 ヤキン・ドゥーエの後方。

 

 それまで何もないと思っていた空間に、突如として巨大な物体が出現したのだ。

 

「馬鹿な・・・・・・どうして今まで気づかなかったの!?」

 

 アークエンジェルの艦橋で、マリューが驚愕の呻きを発する。

 

 全体的に通信用のパラボラアンテナのように見えるそれは、それ自体が小型の要塞並みの大きさを誇っている。

 

 これこそがジェネシス。

 

 ザフト軍が総力を上げて建造した、決戦の為の切り札である。

 

 表面は全面にフェイズ・シフト装甲を施されているが、今の今までミラージュコロイドを展開して、ヤキン・ドゥーエ後方に伏せていたのだ。肉眼でもセンサーでも発見できなかったのはその為である。

 

「Nジャマーキャンセラーを起動。ニュークリアカードリッジを単発発射に設定」

「全システムオールグリーン。発射準備完了」

 

 ジェネシス前面に、円錐状をした一次反射用ミラーが展開される。

 

 これで、全ての準備は整った。

 

 パトリックは立ち上がり、腕を鋭く振るう。

 

「この一撃が、我らコーディネイターの創世の光とならん事を」

 

 一拍置いて、命を下す。

 

「発射ァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ジェネシスから溢れ出た光がミラーへと反射。

 

 それが爆発的な閃光となって迸る。

 

 想像を絶するに余りある、巨大な閃光。

 

 それが真っ直ぐに伸び、深淵の宇宙空間をまがまがしい光で斬り裂いて行く。

 

 その射線上には、コーディネイターを撃滅する為に長駆進行してきた、地球連合軍の大艦隊が存在している。

 

 ジェネシスから伸びた光は、

 

 地球軍艦隊の主力を薙ぎ払う形で直撃した。

 

 射線上にあった全ての艦艇が、モビルスーツが、

 

 あらゆる物が光に飲み込まれ、そして爆散して行く。

 

 この世に顕現する、阿鼻叫喚の地獄。

 

 逃れられた者は、存在しなかった。

 

 通信機からは、耳を劈くような悲鳴が迸って来て、聞いていた通信手は思わずヘッドホンを投げ捨て、その場で嘔吐する。

 

 だが、その悲鳴すら、やがては光の中に飲み込まれて消滅して行く。

 

 惨劇と言うほかに形容のしようの無い状況。

 

 一撃。

 

 ただの一撃で、地球軍は壊滅的な損害を被ったのだ。

 

 多くの艦や機動兵器が破壊され、生き残った艦艇も損傷艦が多数存在している。

 

 地球軍は核攻撃などと言う安易な手段に出た報いを、その何十倍もの規模に拡大して叩き返されたのだ。

 

 やがて光が終息した時、地球軍艦隊の隊列にはぽっかりと穴があき、恐るべき量の人命が失われた事を如実に表していた。

 

 敵も、味方も、誰もが言葉を失い呆然としている。

 

 あまりに現実離れした光景に、誰もが目の前の光景を現実として受け入れる事ができないでいるのだ。

 

「ジェネシスは、最大出力の60パーセントで照射」

「地球軍は、戦力の5割を喪失したと判定」

「冷却開始、照準ミラーブロック、換装始め」

 

 次々と齎される報告を聞きながら、パトリックは満足な笑みを浮かべていた。

 

 これでボアズの借りは返した。だが、まだ足りない。ナチュラルどもが今までしでかしてきた罪の重さを思えば、こんな物はまだ序章に過ぎないのだ。

 

「流石ですな、ザラ議長」

 

 発言したのは、彼の背後に控えていたクルーゼだった。

 

「ジェネシスの威力。これほどの物とは」

 

 それに対し、パトリックは何も答えない。ただ一瞥をくれただけで、視線はモニターに映っているエザリアの方へと移された。

 

「何をしている、エザリア。これを機に、奴等を叩き潰してやれ」

 

 指示を受けて、エザリアは慌てて指揮下の部隊に命令を下して行く。

 

 ジェネシスの一撃によって、既に地球連合軍は体を成していない。これを機に、徹底的な掃討戦を行うのだ。

 

「・・・・・・戦争は、勝って終わらなくては意味があるまい?」

「確かに」

 

 パトリックの言葉に、クルーゼは追従するように頷く。

 

 だが、その仮面の下では、酷薄な笑みがくっきりと刻まれていた。

 

 

 

 

 

 ドミニオンは、辛うじて生き残っていた。ジェネシスの射線が、僅かに艦のいる宙域から外れていた為だ。

 

 だが、状況は最悪の極北を極めている。

 

 先程から通信回線を通して、自軍の惨状が伝えられて来る。

 

 機関が損傷して動けなくなった艦、司令部と連絡が取れなくなった部隊、母艦が撃沈されたモビルスーツが、悲鳴に近い声を通信機でアがている。

 

 それはドミニオンの艦橋でも同じで、誰もがあまりの事態に呆然としていた。

 

「浮足立つな!! 旗艦ワシントンの信号は確認できるか!?」

 

 ナタルの声に叱咤されるように、クルー達は慌てて確認作業に入る。

 

「ダメです。ワシントンの識別コード、確認できません!!」

「クルック、およびクラントの反応も無し!!」

 

 つまり地球軍は、総旗艦と、次席指揮官を一度に失った事になる。

 

 ナタルは視線を、先程までしたり顔をしていた男へと向ける。

 

 アズラエルは沈黙したまま、強く椅子のアームレストを握りしめている。どうやら敵に対する怒りによって、出る言葉も失っているらしい。

 

 だが、ナタルはアズラエルに構っている暇は無い。黙っているならちょうど良い、その身分を拝借させてもらおう。

 

「信号弾上げろッ 全軍を本艦を中心に集結させるんだ!!」

 

 民間人とは言えアズラエルの名前は大きい。彼がこの艦に乗っている以上、艦隊を集結させる理由としては充分だった。

 

 ザフト軍の追撃がいつ来るか判らない以上、何としても残っている味方を救う必要がある。その為にも、一刻も早い部隊の集結が必要であった。

 

 

 

 

 

《我等が勇敢なる、ザフト兵士の諸君!!》

 

 パトリックの声が、全宙域に発せられる。

 

《傲慢なるナチュラル共の暴挙を、これ以上許してはならない!!》

 

 その声は、同盟軍の戦艦や機体でも受信されている。

 

 聞いているアスランなどは、複雑な思いを隠せずにいる。

 

《プラントに向けて放たれた核・・・・・・これは最早、戦争では無い。虐殺だ!!》

 

 イリュージョンのコックピットで、キラは思わず操縦桿を強く握りしめた。

 

 ならば、たった今自分達がした事は何だ?

 

 これを虐殺と呼ばずして、何と言うのだ?

 

 テロリストだったキラも、何度か無抵抗の人間を殺戮した事はある。しかし一度として、自分の成した行為を欺瞞で塗り固めて言い訳をした事は無い。

 

 無論、自分がしてきた行為を正当化するつもりはないが、だからこそ、欺瞞に満ちたパトリックの言葉には苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

《そのような残虐な行為を平然と行うナチュラル共を、もはや我等は、決して許す事はできない!!》

 

 その言葉に煽られるように、ザフト軍の反撃が開始された。

 

 指揮系統が混乱し、右往左往している地球軍に襲い掛かると、次々と砲撃を浴びせて撃ち落として行く。

 

「キラ、あれを!!」

「ッ!?」

 

 エストの言葉に導かれて振り返ると、ザフト軍のモビルスーツが、身動きの取れなくなった地球軍機に襲い掛かっているのが見えた。

 

 地球軍は武装も推進機も破壊されている機体が多く、どの機体も抵抗らしい抵抗ができないでいる。

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

 キラの叫びと共に、イリュージョンは両腰からラケルタを抜き放って斬り込む。

 

 クラウ・ソラスは1発撃つと長い冷却時間が必要になる為、事実上、1度の会戦で1発が限界だった。キラ達が使用を控えていたのは、その為でもある。

 

 狂騒に走っているザフト軍に斬り込むと、その武装を、手足を、頭部を斬り飛ばして行く。

 

 離れた敵には狙撃砲やビームライフル、ビームガトリングを容赦なく浴びせる。

 

 イリュージョンの圧倒的な戦闘力を前に、次々と戦闘力を喪失して行くザフト軍機。

 

 だが、いかにイリュージョンが強大な力を発揮し、キラが超人的な操縦で圧倒し、エストが的確にサポートしたとしても、カバーできるのはほんの一握りの区画だけでしか無い。

 

 奮戦するキラ達の手から零れ落ちるように、ザフト軍は飢えた獣のように地球軍へ襲い掛かっている。

 

 もはや、イリュージョン1機で押さえられる物では無い。

 

《キラ、エスト、戻って!! こっちも一旦、体勢を立て直すわよ!!》

 

 悲鳴に近いミリアリアの声が、スピーカーから聞こえて来る。

 

 あまりの事態に、新たな対処が必要となっている。その為、同盟軍としても対応の仕方を変える必要性が出ていた。

 

「戻りましょうキラ。どのみち、このままでは何もできません」

「クッ!!」

 

 唇をかむキラ。

 

 エストの言っている事は正しい。どんなに頑張ったところで、狂躁状態のザフト軍を1人で押しとどめる事は不可能だ。

 

 だが、しかし・・・・・・

 

 今もキラの目の前では、地球軍機が次々と犠牲になっていく。

 

 その状況を、キラは手をこまねいて見ている事しかできないでいた。

 

「キラッ!!」

「・・・・・・判った」

 

 悔しさを滲ませて、キラはイリュージョンを反転させる。

 

 核を止めれば、戦争は終わると思っていた。

 

 人類は救われると思っていた。

 

 だが、現実は更なる悲劇を呼び起こしたに過ぎない。

 

 いったい、自分達がした事は何だったのか?

 

 ただやるせない徒労感だけが、キラとエストの心を支配していた。

 

 

 

 

 

PHASE-35「光の聖剣」      終わり

 

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