機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-01「天空の大地で」

 炎が視界全てを覆う。

 

 圧倒的な物量と戦力差を前にしては、多少の個人技量などさしたる気休めにもなりはしないだろう。

 

「逃げろ!!」

 

 手にした武器は、迫る兵士の群れを前にしては竹槍程度の威力しか期待できない。

 

 閃光が瞬く度に、仲間達が吹き飛ばされていく。

 

 涙さえ、降りしきる炎の前に乾ききる。

 

「逃げろ!!」

 

 誰かが叫んでいるのに、ようやく気付く。

 

 見渡せば1人、周りには誰も居ない。

 

 そこへ、施設の間を縫って現れる無数の敵兵。

 

 死神にも似たその姿と目が合う。

 

 恐怖は、感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PHASE-01「その少年、過去あり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コズミック・イラ70

 

 血のバレンタインの悲劇によって、地球、プラント間の緊張は、一気に交戦状態へと突入した。

 

 誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。

 

 しかし戦線は膠着したまま、既に11ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 

 

 

 

「こ~ら、起きなさい!!」

 

 耳元で思いっきり怒鳴られて、意識は一気に覚醒した。

 

 耳が痛い。少しは加減して欲しいと思う。

 

 不機嫌たっぷりな顔を上げると、そこにはそれ以上な不機嫌顔があり、思わず苦笑を洩らしてしまう。

 

 その笑いが面白くなかったのか、相手の顔の不機嫌度合いがさらに増すのが判る。

 

 大きな瞳に、サイドに纏めた緑色の髪が目を引く少女の顔は、呆れたようにこちらに向けられていた。

 

「起きた? まったく、教場に行ってもいないと思ったらこんな所で寝てるんだから」

 

 怒ったような声は、キラ・ヒビキの意識を徐々に覚醒させて行く。

 

 ここはヘリオポリスにある工業カレッジ。

 

 どうやら頼まれた仕事をこなしている内に、眠り込んでしまったらしい。

 

「や、おはようリリア」

 

 腰に手を当てて仁王立ちしている目の前のリリア・クラウディスに、取り合えず挨拶する。

 

 同じゼミの彼女が、どうやら探しに来てくれたという事は、寝ぼけた頭でも理解する事ができた。

 

「『おはよう』じゃないでしょ。サイ達が呼んでたわよッ」

「ああ、ごめんごめん。何しろ昨夜は徹夜だったから」

 

 そう言って、鞄の中からディスクを掲げてみせる。

 

 担当教授のカトウに頼まれた仕事が、ここの所連続して頼まれているのだ。その為キラは、眠れない日々が続いていた。

 

「また? まったく、あの教授も・・・・・・」

 

 今に始まった事でもないので、リリアも呆れ気味に言った。

 

 同期の中でも飛びぬけて成績の良いキラは、しばしばこうして、担当教授であるカトウから助手のように扱われる。ついこの間も訳の判らないOSシステムの改定を頼まれたばかりである。

 

「あのさあキラ。ちょっとは断ろうよ。そんな事してたらあんた、体壊すわよ」

「うん、まあ、そうなんだけどね」

 

 曖昧に返事をするキラを、諦めにも似た視線で見るリリア。

 

 このちょっと優柔不断気味の少年が、この手の他人からの頼みを断れない事を知っている為、既に忠言する事も疲れてきていた。

 

 その時、点けっ放しにしていた端末のテレビから、ニュースの状況が伝えられてきた。

 

 瓦礫の中に立つリポーターの後ろで、砲撃を行いながら歩いていく巨人の姿が見える。

 

《・・・・・・未明から始まったザフト軍の総攻撃により、華南(かおしゅん)宇宙基地の7キロ手前では激戦が続けられ・・・・・・》

 

「うわ~、これって1週間前の映像だよね」

「うん、今頃華南は陥ちているかも」

 

 リアルタイムではないものの、戦況はそれなりに把握している。

 

 華南と言うのは東アジア共和国が保有するマスドライバー基地であり、宇宙と地球を結ぶ大切な補給路である。ここを抑えられると、いかに物量を誇る地球軍と言えど、補給に窮して戦線を維持できない事が始まる

 

 ザフト軍が実施した「ウロボロス作戦」は順調に進行し、各戦線で地球軍は押されているようだ。

 

 もっとも、それを知ったからと言って、ある意味ヘリオポリスで「隠棲」しているに等しい今のキラには、何も出来ないのだが。

 

「この分だと、本土も危ないかな?」

「まさか、オーブが戦場になるなんて在り得ないよ」

 

 苦笑しつつ答えるキラ。

 

 現状オーブ連合首長国は永世中立を掲げており、今次大戦には不干渉を決め込んでいた。その為、連合とザフトの戦いの戦火が及ぶ可能性は少ないだろうと言われている。

 

 まあ、だからこそキラはこの土地を選んだわけだが。

 

 端末を閉じ、鞄に入れる。

 

 その時、キラの腕が横から取られた。

 

「わっ!?」

 

 思わず崩しそうになるバランスを、リリアが腕を引っ張って支えた。

 

「ほらほら、早く行こうよ。みんな待ってるんだから」

 

 そう言うと、笑顔を浮かべて走り出すリリア。

 

 それに釣られて、キラの足も勝手に速くなってしまう。

 

 幾多の学生達の波を押し分けながら、2人は駆けて行く。

 

 まったく、この強引さは、彼女の美点であると思う。おかげで、まだ越して来て日の浅いキラも、退屈せずに済んでいた。

 

 先を走るリリアの背中を見ながら、キラはフッと目を細める。

 

 ここは、本当に平和だ。

 

 だが、

 

 キラはスッと目を細める。

 

 気の無い振りをしている心算なのだろうが、キラの鋭い勘は、既にその存在を感知していた。

 

 後方、たった今通り過ぎた建物の影から、こちらを伺うようにする視線を感じる。

 

 深く溜息を吐く。どうやら、外の世界よりも先に、キラの平和は終わりを告げたのだと言うのを感じた。

 

「ごめんリリア」

 

 キラは持っていたパソコンをリリアに預けると、踵を返して駆け出した。

 

「ちょ、ちょっとキラ、どこ行くのよ!?」

「ごめん、ちょっと用事思い出したから、先に行ってて」

 

 それだけ告げるとキラは、抗議の声を上げるリリアを残して、建物の中に駆け込んでいった。

 

 

 

 

 

 深遠の中に浮かび上がるように滲む色は青と緑。

 

 独特の形をしたそれらから突き出る黒々とした砲身が、その存在が武装艦である事を示している。

 

 ナスカ級高速戦艦ヴェサリウス、ローラシア級戦闘母艦ガモフ。

 

 いずれもザフト軍に所属する艦である。

 

旗艦ヴェサリウスの艦橋にあって、仮面を付けた男が写真を片手に指揮板を睨んでいる。

 

 その傍らに立つ男は、帽子の下からやや不満げな顔を覗かせている。

 

 それを見てラウ・ル・クルーゼは、苦笑気味に口を開いた。

 

「そう難しい顔をするなアデス」

「ハッ」

 

 フレデリック・アデスは上官に窘められながらも、それでも元来の性格から来ているのか、謹厳な表情を崩そうとしない。

 

 彼自身、今回の作戦には心から賛同している訳ではない。ただ、目の前にいる仮面の上官が、これまで判断をミスした事がない事から、従っておいて損は無いと考えている。

 

「評議会からの返答を待ってからでも遅くは無かったのでは?」

「遅いな。私の勘が告げている。今ここで見過せば、その代価、いずれ我等の命で購う事となるぞ」

 

 間髪いれずにアデスの主張を切り捨て、ラウが返しながら投げて遣した写真には、機動兵器の物と思しき頭部が映されている。

 

 これが今回の作戦の目的であり、目標である。

 

「地球軍の機動兵器、動き出す前に我等の手で奪取する」

 

 ニヤリと笑うラウ。

 

 その仮面の奥の瞳は、モニターに映し出されたヘリオポリスをしっかりと捉えていた。

 

 

 

 

 

 リリアが教場に入ると、既に数人の友人達が集まっていた。

 

「お、やっと来た」

「遅いわよ」

 

 早速、トール・ケーニッヒとミリアリア・ハウの両名が挨拶してくる。だが、両名ともすぐに、本来ならあるべき人物の影が見えない事に、怪訝そうな顔を作った。

 

「てっ、あれ、キラは?」

「知らないわよ、全くもう」

 

 ぶっきらぼうに言い捨てると、キラから預かったノートパソコンを乱暴に教卓の上に置いた。

 

 まったく、せっかく呼びに行ってあげたと言うのに、それをすっぽかすとは。

 

「信じられないわよ、あいつ」

 

 キラの顔を思い出しただけで、血管が浮き立ちそうになる。

 

「まあまあ、落ち着けって」

 

 そんなリリアの様子を見かねて、眼鏡を掛けた少年が苦笑気味に声を掛けてくる。サイ・アーガイルと言う子の少年は、このゼミではリーダー的な役割を担う場合が多い。

 

 そんなサイの言葉に、リリアはようやく少し落ち着きを取り戻す。

 

 そこでふと、この場にいるはずの、もう1人の仲間がいない事に気付いた。

 

「あれ、そう言えばカズイは?」

 

 友人の1人であるカズイ・バスカークは、本来なら既にこの場に来ているはずだが、

 

 その時、たった今キラ達が入ってきた扉が開き、当のカズイ本人が入ってくる。その手に大量の缶ジュースを抱えて。

 

「た、ただいま・・・・・・」

「お、ご苦労さん」

 

 どうやらジャンケンか何かで負けて、罰ゲームを受けていたらしい。その結果が、彼の抱えているジュースの山である。

 

「そんじゃ、リリアも来た事だし、もう1回頼むな」

「そんな!?」

 

 トールの言葉に対し、悲鳴を上げるカズイの姿を見て苦笑するリリア。

 

「い、いや、別に私はいいよ」

「もちろん冗談だけどな」

 

 言ったトールは、満足そうに胸を逸らす。

 

 そのトールの頭を小突くミリアリアの様子を見ながら、リリアが席に座ろうとした時だった。

 

 部屋の隅の壁に寄り掛かっている人物がいる事に、ようやく気付いた。

 

「・・・・・・誰?」

「さあ、何でも、教授にお客さんらしいけど・・・・・・」

 

 尋ねられたサイもよく判っていないらしく、曖昧に答える。

 

 小柄な体をした、(恐らく)少年。目深に被った帽子のせいで表情は見えないが、その淵から金髪が零れているのが見えた。

 

「ふうん」

 

 興味はあるが、教授に来たお客さんなら、気にしても仕方がないだろう。

 

 リリアはそれ以上その人物に興味を失い、自分の作業の準備に入った。

 

 

 

 

 

 周囲に人の気配がなくなったところで、キラは足を止めた。

 

 ここに足を向けた理由は2つ。1つは一般人の巻き添えを極力減らす事。そしてもう1つは、人目を避けること。

 

 瞬間、キラは床を転がった。

 

 一瞬の間を置いて、足元を兆弾が跳ねる。

 

「ッ!?」

 

 転がりながら鞄を投げ捨て、手は腰裏に回す。引き抜かれると同時に、手の中には黒光りするハンドガンが握られていた。

 

「警告無しで撃ってくるなんて、僕も有名になった証拠かな」

 

 軽口と共にキラは軽く唇を湿らせてから、相手の気配を探る。

 

 果たして何人来ている? 

 

 6・・・いや7人。まあ、そこら辺だろう。

 

 溜息は、自然と口から出た。同時に脳裏には、このヘリオポリスでの暮らしがフラッシュバックのように思い出された。

 

「・・・・・・居心地の良い場所だったんだけどな」

 

 1年も住んでいれば、どんな土地でもそれなりに愛着も湧いてくる。こんな事さえなければ、このままずっと住んでいたいくらいだった。

 

 だが、そんな感傷すら相手は、否、自分の境遇は許してはくれないらしい。

 

 飛び出ると同時に、照準そっちのけで発砲する。何をするにしても、牽制は必要だった。

 

 たちまち反撃の銃弾が飛んでくるが、キラ自身が命中を期待せず動いている為、向こうの命中率も悪い。

 

 だが、キラには別の狙いがあった。

 

 コーディネイターとして、ナチュラルの成人男性よりも高い能力を持つキラ。それは身体能力のみならず、五感にも作用している。

 

 優れた動体視力が、発砲された方向、場所、弾道を瞬時に割り出す。

 

 瞬間、キラはハンドガンを構えて、狙った場所へ発砲する。

 

 くぐもった悲鳴が響き、狙い通りに銃弾が命中した事を物語っていた。

 

 これで1人。

 

 再び、壁を背にしてキラはハンドガンを構え直す。

 

 自分を相手にするには、数が少ないのが気になる。まさか、この程度の数で、本当に自分の相手をする気なのだろうか? この程度なら、勝てないまでも逃走は充分可能である。

 

 僅かに顔を影から出し、向こうを伺う。

 

 スーツを着た数人の男が、同じように物陰からこちらを伺っているのが見える。

 

 やはり、数が少ない。一体、何を考えている?

 

 そこまで考えた瞬間、再び銃撃が始まり、慌てて首を引っ込めた。

 

「さて、どう行こうか・・・・・・」

 

 手持ちの弾丸は、ハンドガンに装填されている物のみ。予備のマガジンは持ってきていない。数発は撃ってしまったので、残りの弾丸だけでケリを着けなければならない。

 

 こちらの反撃が無いと判断したのか、少しずつ距離を詰めてくる気配がある。

 

 3歩・・・2歩・・・1歩

 

 次の瞬間、キラは物陰から躍り出て、空中を跳びながらハンドガンを放つ。

 

 放った弾丸は、的確に黒服の男達を撃ち抜き、戦闘不能に追い込んでいく。

 

 その時だった。

 

 突然、キラを追撃するように銃弾の嵐が吹き荒れる。

 

「クッ!?」

 

 慌てて新たな物影に転がり込むキラ。

 

「サブマシンガン? カレッジの構内で?」

 

 いつ人が来るかも判らない状況で、そんな物を使う相手の神経が判らなかった。最早自分を殺すなり捕縛するなりに、形振りは構わなくなったと言う事か? たかがテロリスト1人に大仰な話と苦笑して良いのか呆れて良いのか。

 

 僅かに首を出し、相手を確認する。

 

 相手は撃ち尽くしたマガジンを交換している所だった。

 

 その姿に、思わず息を呑んだ。

 

「・・・・・・目標捕捉、コードネーム『ヴァイオレット・フォックス』と確認。これより、対象の抹殺行動に入ります」

 

 ひどく抑揚の抑えられた言葉を発したのは、恐らくはキラよりも年下と思われる少女であった。

 

 同時に、手にしたサブマシンガンの銃口が、真っ直ぐに向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の出来事に、管制官達がパニック寸前に陥る。

 

 先程から付近宙域を航行していたザフト艦の存在は察知していたが、まさかこうまで露骨な行動に出るとは思っても見なかった。

 

《接近中のザフト艦に告げる。貴艦の行動は我が国との条約に大きく違反するものである。直ちに停船されたし!!》

 

 オーブ連合首長国は今次大戦に厳正中立を貫いている。にも拘らず2隻のザフト艦は構わず接近して来る。これは明らかに条約違反だ。

 

 狂ったような声も、まるで宇宙の暗闇に溶けるかのように空しく消えて行く。

 

 ナスカ級とローラシア級1隻ずつのザフト艦は、ゆっくりとヘリオポリスへ向かって来る。

 

 疑いようの無い領域侵犯。

 

 そしてその事は直ちに、駐留していたもう1つの陣営にも知られる事となった。

 

 ムウ・ラ・フラガ大尉は慌しく愛機に駆け寄ると、コックピットに滑り込んだ。

 

 「エンデュミオンの鷹」と言う異名で呼ばれるこの青年は、敗勢にある地球連合軍の中にあって、トップクラスを誇るエースである。

 

「敵は!?」

 

 モニターに映った輸送艦の艦長に向かって怒鳴る。

 

 油断していた感は否めない。しかし中立コロニーに向けて攻撃を仕掛けてくるなど、誰が予測しえただろう。

 

 モニターに映る艦長の顔も、緊張に引き攣っている。

 

《2隻だ。ナスカ級とローラシア級、電波干渉の後、モビルスーツの発進を確認した》

「ひよっこどもは?」

《もうモルゲンレーテに着いている頃だろう》

「せめてもの幸いですな」

 

 新型機動兵器のパイロットに選ばれた5人のトップガン達。彼等を護衛してきた身としては、その事が最大の心配事でもあった。

 

「ルークとゲイルはメビウスにて待機、まだ出すなよ!」

 

 部下2人に指示を出し、自身は発進の準備を進める。

 

 地球連合軍の宇宙における主力機動兵器であるモビルアーマー。その中でも、4つの樽をくっつけた外観を持つメビウスゼロを操れるパイロットは、現状ではこの男しかいない。

 

 射出される機体。

 

 そのモニターに、頭に鶏冠を付けた人型の鉄騎兵が映る。

 

 モビルスーツ ジン。

 

 物量的には圧倒的に不利なザフト軍の戦線を支え、今尚拮抗を許している、現状の地球圏における最強の機動兵器である。

 

 たとえムウとメビウスゼロの組み合わせを持ってしても、容易に倒せる機体ではない。

 

「行くぜ!!」

 

 鷹はひと啼きすると、鋭く飛び掛った。

 

 

 

 

 

 まさか、ここまで苦戦させられるとは。

 

 飛んでくる銃弾の嵐を避けながら、キラは軽く舌打ちする。いかに不利な状況とは言え、ここまで追い込まれるとは思っても見なかった。

 

 しかも、先程少女が言った「ヴァイオレット・フォックス」と言う言葉。まさか、自分の素性が連邦当局に漏れていると言う事か。

 

 あり得ない話ではない。組織が壊滅した時、メンバーの情報が漏れていたとしても何ら不思議は無かった。

 

 もっともキラにとっては、そんな過去の事よりも今のこの状況をどうするかが重要であった。

 

 少女の攻撃は、ますます苛烈さを増してきている。なかなか、反撃の隙が掴めなかった。

 

 コーディネイターである自分をここまで追い込むとは、相手の実力は相当な物であると推察できる。ひょっとしたら、傭兵でも雇い入れたのかもしれない。

 

「・・・・・・手の込んだ事を」

 

 舌打ち交じりの言葉。しかしこれで、相手が少数であった理由が判った。こんな隠し玉があるなら確かに大人数は必要無い。そして事実として、キラは追い込まれている。

 

「どうする?」

 

 残弾は少ない。加えて件の少女だけでなく、他の敵もキラの包囲網を狭めてきている。袋叩きにされるのは時間の問題だった。

 

 残る手段は、包囲網の薄い場所を突破する以外に無い。

 

 何か、きっかけがあれば。

 

 その時だった。

 

 轟音と共に、足元が大きく揺れた。

 

「な、何だ!?」

 

 突然の事態に、たじろく黒服達。だが、その瞬間を逃さずにキラは動いた。

 

 飛び出すと同時に発砲、少女の両脇にいた男2人を倒す。そこで弾丸は切れた。

 

 少女はキラの行動に虚を突かれながらも、サブマシンガンを向けてくる。

 

 だが、

 

「遅い!!」

 

 弾切れを起こしたハンドガンを、少女に向かって投げ付ける。

 

 それが、相手の意表を突く事が出来たようだ。

 

 銃口がキラから逸れる。その隙に距離を詰めたキラは、少女の腕を鋭く蹴り上げ、その手からマシンガンを弾き飛ばした。

 

「ッ!?」

 

手首を押さえながらも、どうにかキラの追撃を振り切り、体勢を立て直す少女。

 

 得物を失った2人が、互いに睨み合いながら対峙する。こうなると、元々の身体能力が高いキラの方が有利になるが、そのキラにしても、相手の応援が来る前に逃げなければならない手前、決して有利とは言えない。

 

「・・・・・・ここで退いてくれると、僕としてはありがたいんだけど?」

 

 無駄と承知として、取り合えず相手の気を逸らす為に話しかけて見る。

 

 結果は、全くの予想通りだった。

 

「論外ですね」

 

 間髪と言う言葉すらどこかに置き忘れて、少女は言い捨てた。

 

「S級指定広域特別指名手配犯、コードネーム『ヴァイオレット・フォックス』。あなたにはデッド・オア・アライブ指定が出ています。大人しく抵抗を放棄するなら生命は保証します。しかし、抵抗した場合は射殺の許可が下りています」

「僕も偉くなったね」

 

 デッド・オア・アライブ。生死は問わず。予想通り、形振り構わない手で来たようだ。

 

 話しているうちにも、キラは次の手を模索する。

 

 そう言えば、先程の振動は何だったのだろう?

 

 そう思った瞬間、再び振動が襲った。

 

「クッ!?」

 

 予想外の事態にも、体が動く。

 

 転がっていたサブマシンガンを拾って構えるのと、少女がサイドアームのハンドガンを引き抜くのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 その一団を一言で表すなら「奇妙」以外の何者でもないだろう。

 

 全員が緑か赤のスーツに身を包み、何かから隠れるようにして岩塊の陰に身を潜めている。

 

 その眼下では、何かを運び出す作業が成されている。

 

「隊長の言った通りだな」

「つけば慌てて巣穴から出てくるってか?」

 

 イザーク・ジュールの言葉に、ディアッカ・エルスマンが笑みを噛み殺しながら同意する。

 

 本隊に先駆けてヘリオポリス潜入を果たしたこの特殊部隊こそが、今回の作戦の主役となる。

 

 その目標が今、間抜けな姿を晒して眼下を移動している。

 

 目標となるトレーラーは3台である。

 

 しかし、

 

「おかしいな。たしか情報では6機のはずだが?」

「搬出に手間取ってるんだろう。そっちは俺とラスティで行く」

 

 イザークの言葉に冷静な声が返る。

 

 手にしたアサルトライフルをチェックしながら答えたアスラン・ザラは、静かに見据える瞳の中に、既に戦闘に対する意思を宿している。

 

「OK、任せよう」

 

 特殊部隊は2班に別れる事となった。

 

 1隊はアスラン・ザラとラスティ・マッケンジーを中心とした隊。

 

 もう1隊の中心はイザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、そして、

 

「熱くならないようにねアスラン」

 

 乾いたような女の声。

 

 アスラン達と同じ赤いパイロットスーツに身を包んだ少女は、彼等よりも若干年下に見える。

 

「判っているさ、ライア」

 

 ライア・ハーネットに対し、アスランは振り返らずに答える。

 

 対してライアも、それ以上アスランの事は気にせずに出る準備をする。

 

「時間だ」

 

 イザークの声と供に、工場区や港湾施設から爆炎があがった。予め仕掛けておいた時限式の爆薬が炸裂したのだ。

 

 そして破壊されたメインハッチを潜り、陽動を兼ねた本隊のジンがコロニー内に進入してきた。

 

 

 

 

 

 振動は、カトウゼミのラボにも伝わり、サイ達は一斉によろける。

 

「な、何だ!?」

「爆発だろうか?」

 

 かなりの振動だった。もし爆発だとするのなら、ここも危ないかもしれない。

 

 振動で尻餅をついていたミリアリアを、サイが助け起こしている。トールも着ていたパワードスーツを脱いで、不安そうな顔を見せていた。

 

「と、とにかく、ここは危ないかもしれないから、一応、外に避難しよう」

 

 サイの言葉に頷くと、一同は廊下に通じるドアに向かう。

 

 と、その時、リリアは先程の人物が何を思ったのか、ラボの奥へと走っていくのを見た。

 

「ちょっと、あなた!!」

 

 ここに居ては危険である事を理解していないのか?

 

 少し躊躇ってから、リリアは後を追いかける。

 

「おい、リリア!!」

「ごめん、先行ってて!!」

 

 呼び止めるトールにそう告げると、リリアも奥へと向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 逃げて撃つ。追って撃つ。

 

 両者はそれを繰り返しながら、いつしかラボの奥の奥へと進んでいた。

 

 その間にも振動は続き、どうやら異常事態を察知したコロニー管理局が、避難警報を出しているらしい。

 

 更に先程、すぐ至近のブロックで爆発があり、一帯が吹き飛んでしまった。

 

 事故かそれとも別の何かかは判らない。しかしここでこうしていると、こちらも危ない可能性がある。

 

 キラは、ゆっくりと相手の様子を伺う。手にある奪ったマシンガンの残弾は少ないが、それでも少女以外の敵を倒す事には、既に成功していた。

 

 つまり、後はあの少女さえかわす事ができれば、逃げ切れるはずだ。

 

 一方で、少女の方も残弾が乏しいのか、積極的な射撃は控えるようになっていた。

 

 このままなら逃げ切れる可能性も出て来ている。

 

 光が見える。数メートル先には開けた空間があるようだ。

 

「あそこまで行ければ・・・・・・」

 

 僅かな可能性に賭けて、キラは走る。牽制の為に背後にマシンガンを撃ちながら。

 

 追撃の発砲が来るが、命中は無い。そのまま全力で走って、外に出た。

 

 そこは大型の工廠になった場所の、キャットウォークの上だった。開けた空間の下には眼下の光景が見える。

 

「え!?」

 

 思わず息を呑んだ。

 

 視線の先に、眠るように横たわる大きな影が3つ。

 

「モビルスーツ・・・・・・」

 

 ザフト軍が主力兵器とした正式採用している、人型の機動兵器。寡兵であるザフトをして、圧倒的物量を誇る連合相手に膠着状態を作り出している源。

 

 だが、キラの記憶にあるどのモビルスーツとも、眼下の3機はフォルムが一致しなかった。

 

「・・・・・・オーブの、新型?」

 

 そう考えるのが妥当だろうが、しかしそれなら、本国で開発すればいいのに、なぜわざわざ、輸送の手間が掛る辺境のヘリオポリスで開発しているのだろう?

 

 思考を巡らすキラだったが、鳴り響く銃声が現実に引き戻した。

 

 見れば、眼下でも銃撃戦が繰り広げられている。

 

 つなぎを着た整備兵と、後は緑や赤のパイロットスーツを着た兵士。ザフト軍である。

 

 ならば、この騒動はザフト軍の襲撃と言う事になる。しかし、

 

「なぜ、ザフトがこんな所に?」

 

 意味が判らない事だらけだったが、その思考は唐突に断ち切られた。

 

「お父様の裏切り者!?」

 

 横合いからの叫び声。

 

 見れば、手摺に縋るようにして眼下を見ている人物がいる。恐らくはキラと同年代と思われるその人物は、肩口で揃えた金髪を震わせて泣いている。

 

「女の子!?」

 

 キラはとっさに少女に駆け寄ると、その腕を取った。

 

「な、何を!?」

「泣いてちゃ駄目だ。走って!!」

 

 相手の意見を遮断して、キラは走る。

 

 追っ手の少女もキラの姿を見てハンドガンを向けてくるが、既に弾切れを起こしており、撃てないようだ。

 

 そのうちにキラはシェルターの入り口に辿り着く。

 

「入れてください!!」

 

 通話ボタンのスイッチを叩きつけるように入れてから、相手の返事を聞かずに叫ぶ。

 

 ややあって、返事があった。

 

《こっちはもう一杯だ。反対側のブロックへは行けないか?》

「あっちはもう、ドアもありません!!」

 

 先程の爆発で、シェルターブロックごと吹き飛ばされてしまっている。シェルターその物が万が一無事でも、もう入る事はできない。

 

 キラは諦めずに告げる。

 

「なら、1人だけ。女の子なんです!!」

《・・・・・・判った。すまん》

 

 それを聞くと同時に、キラは少女の体を引っ張ってドアの中に押し込む。

 

「お、おい、お前!!」

 

 えらく乱暴なしゃべり方の女の子だとは思ったが、今はそんな事を気にしている時ではなかった。

 

「良いから入れッ 僕は別の場所を探す!!」

 

 更に少女は何かを言おうとしたが、その前にシャッターが下りて、何も聞こえなくなった。

 

 これで良し。後は、自分自身をどうするかだ。

 

 そう、思考した時、

 

 ナイフの一閃が掠める。

 

 どうやら、先程から交戦していた少女に追いつかれたらしい。

 

 少女が放った白刃の一閃を、とっさにマシンガンの銃身で受け止めるキラ。

 

 だが、とっさの事で力が入らず、マシンガンは跳ね飛ばされて床を転がった。

 

「クッ!?」

 

 後退しながら、体を眼下に躍らせる。

 

 丸腰で身体能力が同等の敵を相手に、これ以上付き合う謂れはない。

 

 では、どうする? どうやって逃げる?

 

 一瞬で判断を下した。

 

 横たわる3機のうち、1機の胸に降り立つキラ。

 

 既にラボ内の戦闘も終盤のようで、作業員もザフトも、双方共に1人ずつ生き残っているのみである。

 

 その時、

 

 赤いパイロットスーツを着た、最後のザフト兵と目があった。

 

「え!?」

 

 思わず、声を漏らした。

 

 相手も同様に、動きを止めてこちらを見ている。

 

「キラ・・・ヒビキ?」

「アス、ラン?」

 

 硬直は一瞬、しかしすぐに我に返ったキラは、開いていたコクピットに飛び込み、機体を起動させていく。

 

 次々と灯が入り、モニターにOS起動を示すサインが出る。

 

G eneral

U nilateral

N euro - link

D ispersive

A utonomic

M aneuver

___Synthesis System

 

 踊る視界の中で、その文字が鮮明に浮かび上がった。

 

「ガン、ダム?」

 

 知らずの内にキラは、そう呟いていた。

 

 同時に爆炎が、ラボ内部を覆いつくした。

 

 吹き上がる炎を背景に、鉄騎は立ち上がった。

 

 

 

 

 

PHASE―01「天空の大地で」      終わり

 

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