機動戦士ガンダムSEED Illusion 作:ファルクラム
1
月の表面から高々と立ち上る巨大な噴煙は、ドミニオンからも観測する事ができた。
たった今、虚空を迸った閃光。そして月から送られてきた映像。その2つが成す答えは、自ずと決まっている。
地球連合軍プトレマイオス基地壊滅。
あそこには多くの将兵が、大軍を維持する為の大量の物資が、そして何より、この戦争を終わらせるのに必要不可欠な核兵器が貯蔵されていた。
それが一瞬にして吹き飛ばされてしまったのは明白だった。
しかも、事はそれだけにとどまらなかった。
「後続の支援部隊より連絡。『我、艦隊の半数を喪失。救援の見込み立たず』!!」
その報告にナタルは、そしてアズラエルは戦慄する。
通信は、プトレマイオス基地を出発してこちらに向かっている筈の増援部隊からであった。
ジェネシスから放たれた閃光は、その射線上を航行していた増援部隊をも薙ぎ払ったのだ。
部隊の半数を失い、指揮系統もバラバラになった今、増援部隊が合流する事は不可能。
そして、それが意味を成す所は、一つしかあり得ない。
地球連合軍は敗北したのだ。
《アズラエル様》
《い、如何いたしましょう、この事態?》
モニターにはサザーランドとラーズが映る。
想定外の事態に何をしていいかも判らず「お伺い」を立てて来たのだ。
兵力も失い、物資も失い、士気も落ちた今、これ以上進撃を強行する事は自殺行為でしか無い。ここは速やかに撤退した方が得策だろう。
客観的に現状を分析してそのように考えたナタルだが、しかし、彼女の上司はそうは考えなかったらしい。
「ピースメーカー隊を出せ!! 目標はプラント群だ!!」
「理事ッ!?」
「あの忌々しい砂時計を、ひとつ残らず吹き飛ばしてやる!!」
アズラエルは勝機を失ったように、血走った叫ぶ。
「Gを呼び戻して道を開かせろ!!」
「しかし、それでは地球に対する脅威の排除になりません!!」
どうせ攻撃を続行するなら、このままジェネシス破壊へ向かうべきだ。そうすれば、仮に全滅しても、地球への脅威を排除できる。今更、プラントを滅ぼしたとして、何の意味も無い筈だ。
だが、そんなナタルに対し、アズラエルはだだっ子のように癇癪を起して喚き散らす。
「ああ、ああ、ああッ!! どうしていちいち煩いんだ、あんたは!?」
そう叫んで掲げたアズラエルの手には、小型の拳銃が握られ、ナタルに向けられていた。
その様子を、ナタルはもはや何の感慨も湧かず、冷ややかな目で見つめる。
もはやアズラエルの姿からは、地球連合の重責たる姿は一切見受けられない。
ナタルは今や、完全に目の前の男の事を理解していた。
ようするにムルタ・アズラエルと言う人物は、偉そうな肩書きを持ち、偉そうな事を口にしているが、本質的に中身はガキなのだ。あえて「子供」と表現しないのは、彼女の知っている子供は、立場の違いはさておいても、その殆どが少なくとも自制する術を心得ているからである。
それはキラ・ヒビキであり、エスト・リーランドであり、サイ・アーガイルであり、ミリアリア・ハウであり、トール・ケーニッヒであり、リリア・クラウディスであり、カズイ・バスカークであった。
彼等とこの男を同列に置くのは、彼等に対して失礼と言うものだろう。
「・・・・・・そんな物を持ちだして、どうなさるおつもりですか? 艦を乗っ取ろうと言うのですか?」
「乗っ取るも何も、初めから指揮しているのは僕だ!!」
完全に間違いではない。確かに、ここまでこの戦いを主導してきたのはアズラエルだろう。それ故に、決定的な敗北を免れなかったのもまた、この男の責任なのだが。
こんなガキに牛耳られた地球軍の、何と滑稽な事か。
「君達はそれに従うのが仕事だろう!! なのに何で、いちいちアンタは逆らうんだよ!!」
ヒステリックにアズラエルが叫んだ時、オペレーターが報告を上げて来た。
「ドゥーリットルとカーチス・ルメイから報告。『ピースメーカー隊、発進準備完了』との事ですが・・・・・・」
「すぐに発進させろ! アヴェンジャー、フォビドゥン、カラミティ、レイダーは!?」
「は、はいッ!!」
慌てて自分の仕事に戻るオペレーターには目もくれず、アズラエルは勝ち誇ってナタルを見下す。
「いくらあんな物を、振り翳したって、プラントを陥とせば戦争は終わる!! 」
理屈の上ではそうだろう。しかし、プラントを陥とされて逆上したザフト軍が、ジェネシスを地球に放ったらどうするつもりなのか。
そんな考えは、恐らくアズラエルには無いのだろう。
ただ、コーディネイターを絶滅させたいと言う欲求だけが、際限無く肥大した姿が目の前にある。
「だいたい、コーディネイター全てが地球に対する脅威なんだぞ!! 僕達はそれを討ちに来てるんだ!!」
「しかし・・・・・・」
「自軍の損害は最小限に、そして敵には最大の損害を!! 戦争ってのはそうやってやるもんだろ!!」
ここに至るまで戦線を崩壊させ、多くの兵士達を死に追いやった男の言葉とは思えないセリフである。
ナタルは苦い表情のまま、アズラエルを睨み返す。
かつて、自分もこの男と同じ考えを持ってた。
自軍の損害を最小限に、敵には最大の損害を与える。その為だったら、如何なる手段も肯定されるべき。そう固く信じていた。
言わば目の前の男は、かつての自分の成れの果てと言うべきだ。否、その「成れの果て」に付き合っている自分自身も、所詮は同じ穴の狢と言うべきだった。
だが、かつての上官は違った。
彼女は、たとえ困難であっても、自分達よりも一歩先を見据え、重大な決断を下していた。
かつての彼女と今の自分。
階級も、立場も一緒だと言うのに、何故にこうまで違ってしまったのだろうか?
ナタルが苦悩の内に沈黙する中、ドゥーリットルとカーチス・ルメイを発したピースメーカー隊が、プラントを目指して飛翔を開始していた。
地球軍の一部が反転し、プラント方面へと向かう様子は、進撃する同盟軍からも観測する事ができた。
「・・・・・・ナタル?」
アークエンジェルのブリッジで、マリューはかつての副長の名を呼ぶ。
彼等の進路の先にある物を見て、その意図を察したのだ。
《クソッ 奴等の狙いはプラントか!?》
バルトフェルドも、地球軍の意図に気付いて毒づく。
マリューは素早く決断した。
「追います!! エターナル、クサナギ、大和はジェネシスを!!」
《判った!!》
進撃する3隻から離れ、進路を変えるアークエンジェル。
その頃、ジュール隊、エルスマン隊を始めとする一部の部隊も、ピースメーカー隊を中心とした地球軍と交戦を開始していた。
イザークは戦闘に先立ち、軍を取り仕切る母の裁量によって、戦線後方へと配置替えとなった。
イザークの身を案じたが故の母の行動であったが、それが却って、迂回進撃してきたピースメーカー隊と正面からぶつかり合う事となった。
勿論、母の想いとは裏腹に、イザークが勇み立ったのは言うまでも無い事である。
「来るぞッ プラントへ放たれる砲火、一つたりとも通すんじゃない!!」
一声叫び、突撃するデュエルに続いて進撃するジュール隊。
その後方からは、バスターを中心としたエルスマン隊が支援砲火を行っている。
大打撃を受けて尚、地球軍は圧倒的な物量を持っている。
そこに加えて、4機のGが先陣切って攻撃を加えて来る為、ザフト軍の一般兵士達では抗する事はできず、次々と吹き抜ける砲火の餌食となっていく。
イザークのデュエルは、部隊の先頭に立って奮戦するも、なかなか地球軍の護衛部隊を突破できないでいる。
「クソッ このままでは!?」
焦慮を吐き捨てるも、しつこくまとわりついて来る敵を振りきれない。
正直、イザークの中では、ある種の迷いのような物が生じていた。
イザークは今まで、自軍の勝利を目指して戦って来た。そして、ジェネシスが勝利を目指して造られた物であると言う事も理解している。
しかしもし、あれが地球に向けられたらどうなるか?
そう考えるとイザークは、背筋を寒くせずにはいられず、かつてパナマ攻略戦の折りに見た、狂騒化した味方兵士の事を思い出していた。
勿論、戦っている以上は勝ちたい。だが、その為に地球を壊滅させると言う考えには、真っ向から反対だった。
自分達は人類の叡智を結集した存在であり、優れた種である筈だ。
そんな自分達が地球を撃ち、多くの人間を死に至らしめるなどと言う、短絡的な事をする筈が無い。
そんな事をする筈が無い。
だが、いくら心の中で言い聞かせても、湧きあがった疑念は消えようとしなかった。
そこへ、接近したフォビドゥンがフレスベルクでデュエルを砲撃して来る。
屈曲するビームを、間一髪で回避するデュエル。
しかし、その隙を突かれ、レイダーの鉄球を背中から浴びてしまった。
「グァッ!?」
のけぞるようにしてバランスを崩すデュエル。
その光景は、離れたところで見守っていたバスターでも見て取れた。
「イザーク!!」
ディアッカが叫ぶが彼自身、カラミティと交戦中である為、救援に赴く事ができない。
親友の駆る機体が、今にも砲火に包まれようとした時、
駆け抜けた太い閃光が、レイダーとフォビドゥンを遮るようにして迸った。
「何ッ!?」
どうにか体勢を立て直し、ビームが飛んできた方向へカメラを向けるイザーク。
そこには、巨大なミーティアを構えたジャスティスの姿がある。
《油断するなイザークッ まだ来るぞ!!》
聞き慣れた声が、叱咤するように叫んでいる。
ある意味、命令口調とも取れるその声を、イザークは呆然と聞き入る。
「アスラン・・・・・・?」
それがかつてのライバルの言葉であったと知り、殆ど反射的に機体を操り、ジャスティスの脇に付ける。
「貴様ァ、今更どの面下げて命令している!!」
言いつつも、一緒になってビームライフルを撃ち、地球軍機を撃ち落として行く。
ジャスティスが巨大な火力で敵陣に穴をあけ、取りこぼした敵はデュエルが掃討して行く。
恐ろしい程に息が合った連携プレイを前に、地球軍は手も足も出せずに撃退されて行った。
その間に、戦線を突破したフリーダムやイリュージョンが、ピースメーカー隊に迫っていた。
放たれたミサイルに対し、ミーティアを装備したフリーダムが一斉掃射を掛け、次々と撃ち落として行く。
イリュージョンもビームライフルや狙撃砲を使い、ミサイルを的確に排除して行く。
今度はクラウ・ソラスは使わない。イリュージョン最大の火力を使うには、一定時間機体を固定する必要があるし、発射後はエネルギーを一時的に食いつぶしてしまう為、無防備な時間ができてしまう。何より、こうも敵味方が入り乱れた状態で、あれほどの大出力兵器を使う事ができない。
その為、キラ達はフリーダムが取りこぼしたミサイルを、ライフル、ガトリング、狙撃砲を用いて的確に撃ち落として行く。
更に、ストライク、シルフィード、ルージュ、ヴァイオレットを始め、同盟軍の各部隊も戦線に加わり、核ミサイルの掃討に努めている。
その後方では、アークエンジェルも接近し、核を搭載したドゥーリットル、カーチス・ルメイを守ろうとするドミニオンとの間に砲門を開いている。
お互いに所属する陣営は違う中、今この時だけはプラントを守る為、共に戦い続けていた。
その頃、イザークの憂慮を肯定するかのような動きが、ヤキン・ドゥーエのザフト軍本部で行われていた。
月基地を壊滅に追いやったパトリックは、ただちに第3射の準備をするように命じたのだ。
流石に、多くの幕僚達に疑念が湧き始める。
議長は、これ以上どこを撃とうと言うのだろうか?
地球軍は壊滅的な打撃を蒙り、残存する部隊が絶望的な抵抗をしているのみである。
この戦いは既に、ザフトの勝利が確定している。にも拘らず、3度目の砲撃準備をしようとするのは、どう言う事だろうか?
しかし、同時にまだ、肯定的な空気もある。
ジェネシスは発射までに時間が掛かる。それ故、すぐ撃てる状態にしておかなければ、敵に対する脅しにならない。その為に発射準備を進めているのだと。
自軍の正義を信じる者の中には、そのように考える者も少なく無かった。
そのジェネシスに、地球軍の一部隊が接近しつつある。
ストライク・ダガーによって構成されたその部隊は、多くの犠牲を払って戦線を突破し、ようやくの思いでこの場所へと辿り着いたのだ。
まだ勝機はある。
目の前にあるこの巨大な兵器さえ破壊すれば、地球を守る事はできる。
そう思って更に接近しようとした時、
出し抜けに、四方八方からビームによる砲撃を浴びせられ、部隊は一瞬にして全滅の憂き目にあった。
複数のストライク・ダガーが、訳も判らないうちに弾け飛び四散する。
地球軍のパイロット達は、恐らく自分の死すら知覚できないうちに炎に飲み込まれた事だろう。
後には、ドラグーンを引き戻したプロヴィデンスのコックピットで、薄く笑うクルーゼの姿があるだけだった。
また、別の宙域では、シルフィード・ダガーを含む部隊も、ジェネシスに至ろうとしていた。
数に勝る地球軍は、殊更に一方向の進行に固執せず、複数のルートから飽和的に攻撃を仕掛ければいくらでもザフト軍の防衛線を抜ける事ができるのだ。
だが、その試みもジェネシスを間近にして、徒労に終わる事になる。
突如、嵐と見紛わんばかりの砲撃が、複数のシルフィード・ダガーを一度に絡め取る。
敵部隊の奇襲か、と思い反転しようとした地球軍は、そこを更に容赦無く砲撃を浴びせられ数を減らしていく。
その内、1機が辛うじて難を逃れ、急いで離脱しようとする。
しかし、一瞬の間を置いて、彼の努力は無駄な物となった。
突如現れた巨大な手が、シルフィード・ダガーの機体を鷲掴みにしたのだ。
シルフィード・ダガーを捉えた腕は、そのまま圧力を強める。
それだけで、機体に亀裂が走り圧壊して行く。
やがて、パイロットのこの世の物とは思えない悲鳴を残し、シルフィード・ダガーは文字通り握りつぶされた。
この残忍極まるとしか表現のしようが無い行為を平然とやった男は、鮮血のように真っ赤な機体のコックピットでほくそ笑む。
「良いなァ、こいつは!!」
たった今握りつぶした敵機の残滓を見詰めながら、クライブは不敵に笑った。
ZGMF-X15A「フォーヴィア」
プロヴィデンスと同じく、核を主動力とする機体である。
基本的な武装はフリーダムと似通っている部分がある。ルプスビームライフルにラケルタビームサーベル、クスィフィアスレールガン、パラエーナプラズマビーム砲。アンチビームシールド、ピクウス機関砲と、ここまではほぼフリーダムと同じであろう。
しかし、フリーダムなら鮮やかな10枚の翼がある筈の背中に、フォーヴィアは禍々しくも巨大な2本の「腕」を背負っている。
破砕腕「ギガス」
接近戦を考慮した武装であり、用途としては今実際にやったように、敵機を捉えて握り潰すと言う他、合計10本の指先からは「爪」に当たるビームソードを発振可能、更に手掌部分には350ミリ複列位相砲スキュラを装備している。その他、腹部にも同様にスキュラを装備している。
砲撃戦にも接近戦にも対応可能な機体。イリュージョンも同様のコンセプトとして開発された機体だが、可能な限りコンパクトに武装を纏める事を目指したイリュージョンに対し、フォーヴィアは詰め込めるだけの武装をありったけ詰め込んだ感がある。
それだけにかなり癖の強い機体だが、クライブはそれを軽々と操っていた。
「行くぜ、ジュート、ハリソン。奴等を狩りまくるぞ!!」
《おうッ!!》
《了解っす!!》
開戦以来、自分につき従う2人の部下と共に、クライブは勇躍して出撃する。
目標は勿論、言うまでも無い事であった。
2
カガリの駆るストライク・ルージュはM1部隊の先頭に立ち、飛来するミサイルを狙撃で撃ち落とす事に専念していた。
元々カガリは、オーブ軍で同年代、あるいはもっと上の年齢の者達と一緒になって軍事教練を一通り修めている。だからこそ、砂漠ではゲリラ兵士として戦う事ができたのだ。
そこに加えてパイロットとしても、元々ある程度の素養はあったと思われ、ルージュは今やカガリの手足のように自由に動いていた。
パワーエクステンダーと言うバッテリー増幅装置を搭載し、更に余剰エネルギーで防御力を強化したルージュは、オリジナルのストライクに比べて、若干機動力では劣るものの、それでもザフトや連合の量産機を上回るスペックを与えられていた。
そのルージュを取り囲むように、3機のM1が護衛についている。
アサギ、マユラ、ジュリの3人は、カガリの気の置けない友人達であり、オーブ防衛戦以来、数々の戦いを潜り抜けて来た少女達は、今やベテランパイロットと称しても良い存在に成長していた。
だが、そんな彼女達を持ってしても、押し寄せて来る敵の大軍には抗しきれない。
カガリを守るように敵機を狙撃していたマユラは、自分に向かって来るゲイツの存在に気付き、とっさにビームサーベルを抜きながら振り返る。
次の瞬間、M1のサーベルとゲイツのビームクローは、同時に互いの機体を貫いた。
爆発するマユラのM1
中にいた少女の運命もまた、炎の中に消えた事は言うまでも無い。
それに気を取られたのだろう。
一瞬、気が削がれたジュリ機にダガー隊の砲撃が集中。彼女のM1が爆発、四散する。
「ジュリッ!! マユラッ!! くっそォォォォォォ!!」
爆炎の中に散る友人達の姿に、カガリの脳が沸騰する。
次の瞬間、何かが弾けた。
視界が一気にクリアとなり、あらゆる状況が、カガリには手に取るように判った。
次の瞬間、限界を遥かに超えた速度でルージュは駆けライフルを連射。的確な攻撃でダガーを屠る。
更にカガリは、向かって来るビームを次々と回避して接近すると、ルージュはビームサーベルを抜いて斬り込む。
ただ1機となって護衛するアサギの方が、慌てて追随する始末である。
だが、そんなカガリを、密かに狙う影があった。
カーキ色の甲羅を被った機体。フォビドゥンである。
シャニは、突出して来るルージュに狙いを定め、フレスベルクを放った。
《カガリ様、危ない!!》
アサギが警告を発するが、既に遅い。
放たれたビームはルージュを貫く。
そう思われた瞬間、
《やらせるかァァァァァァ!!》
紫色の機体が割って入り、掲げたシールドでフレスベルクを防ぎ切った。
「シンッ!!」
驚いて声を上げるカガリ。
シンの駆るストライク・ヴァイオレットは、カガリの機体とは逆に機動性を若干底上げした機体である。故にこそ、致死の一撃に間に合ったのだ。
《あんまりはしゃいで突出すんなよッ あんたがやられちゃったら、どうすんだッ!?》
乱暴に怒鳴りながら、シンはヴァイオレットのビームサーベルを抜いてフォビドゥンに斬りかかっていく。
「お前ェェェ 邪魔するなァ!!」
対するシャニも、フォビドゥンにニーズヘグを装備させてヴァイオレットを迎え撃とうとする。
次の瞬間、
シンの中で、何かが弾けた。
一瞬にしてフォビドゥンに接近するヴァイオレット。
そのスペックを越える程の高速の動きに、本来なら上位機である筈のフォビドゥンは対応できない。
斬り上げるようなビームサーベルの一閃は、ニーズヘッグの鎌柄を斬り飛ばした。
「ッ!?」
その動きに驚き、とっさにゼロ距離からフレスベルクを放つフォビドゥン。
タイミング的にかわしようが無い一撃。
直撃する閃光。
爆炎が一瞬、紫色の機体を包み込んだ。
撃墜されたか?
そう思った瞬間、
しかし爆炎が晴れた時、
シールドを翳したヴァイオレットの姿があった。
とっさに後退しようとするシャニ。
しかし、遅かった。
一瞬早くビームライフルを構えるヴァイオレット。
この近距離では、自慢のゲシュマイディッヒパンツァーも用を成さない。
一閃。
その一撃はフォビドゥンのコクピットを貫き、内部のシャニは悲鳴を上げる間もなく蒸発させられた。
フォビドゥン撃墜の様子は、少し離れた場所でデュエルと戦っていたカラミティでも観測できた。
仲間が死んだ事に対して、オルガは何の感慨も湧かない。
元々、そんな物を悼むような仲では無いし、そもそも彼等の中には「仲間」と言う概念からして存在しなかった。
ただ楽しければそれでいい。
その思いだけによって繋がれているのだ。
戦いは楽しい。これに勝る快楽は無い。生きていれば、まだまだ楽しい戦いができる筈だった。
その楽しい戦いをこれからできなくなるシャニには少しだけ同情したが、それも一瞬の事。
さしあたり、自分に向かって来るザフトの間抜けな機体を血祭にあげてやろう。
そう考え、カラミティの全火力をデュエルに叩きつけた。
イザークはとっさに、デュエルのシールドを掲げてカラミティの砲撃を防ぎに掛るが、圧倒的な火力の前にシールドは崩壊、デュエルを直撃した。
倒した。
確かな手ごたえと共に、口元に笑みを浮かべるオルガ。
しかし次の瞬間、
爆炎を突いて飛び出してきたデュエルが、手にしたビームサーベルをカラミティのコックピットにつき刺した。
イザークは直撃する一瞬、とっさにデュエルが纏った追加装甲アサルトシュラウドをパージして砲撃を回避したのだ。
コックピット部分に大穴を開けられ、爆発するカラミティ。
操るオルガは、さほど間を置く事も無く「お仲間」の後を追う羽目となった。
フリーダムとジャスティスを先頭に、地球軍の防衛線を突破した部隊は、そのまま核攻撃部隊の母艦群へと襲い掛かった。
先陣を切ったのはバスターである。
真っ先に地球軍の隊列に突入すると、対装甲散弾砲を発射。アガメムノン級戦艦の舷側を打ち破り撃沈する。
更にフリーダムとジャスティスも、ミーティアに備えられた大型ビームソードで核搭載艦のブリッジを切り裂いて行く。
モビルスーツ隊の突入を受けたピースメーカー隊は大混乱に陥っている。
自分達を守る直掩機を失った状態である為、戦場は完全に、同盟軍とザフト軍の草刈り場と化していた。
防御砲火を抜けたデュエルは、サザーランドが座乗するドゥーリットルへと肉薄しビームライフルを構える。
ドゥーリットルの艦橋に立つサザーランドは、驚愕に目を見開き、差し迫った己の運命を悟るが、もはや運命は彼の手から主導権を奪い去っていた。
デュエルがライフルに付属したグレネードランチャーを放つ。
その一撃はドゥーリットルのブリッジを貫き、内部で砲弾を破砕、そこから一気に傷口を広げる。
かつて太平洋戦争の折り、初めて敵国首都を爆撃したアメリカ軍パイロットの名を冠した艦は、一気に火球に包まれて沈んで行く。
艦橋にいたサザーランドが、艦と運命を共にした事は言うまでも無い事である。
今一方のピースメーカー隊を統べる戦艦にも、運命の時は迫っていた。
ラーズが座乗する戦艦カーチス・ルメイは、防衛線が突破された事を悟ると、ただちに艦を反転させ離脱するように命じた。
この時彼は、原初の強迫観念に駆られていた。
ブルーコスモスとしての使命も、地球連合軍人としての任務も、誠心誠意仕えて来た盟主の命すら、今の彼にはどうでもよかった。
とにかく、自分が生き残る。
それが叶うのだったら、自分以外のどんな物でも犠牲の祭壇に捧げるつもりだった。
だが、それから僅か5分後、運命は強引に彼の襟首をつかんで現実に引き戻した。
圧倒的な機動力で地球軍の戦線を飛び越えて来たイリュージョンが、1隻だけ離脱しようとしているアガメムノン級戦艦に気付いたのだ。
「逃してはいけません、キラ」
「うん、判ってる」
エストの言葉に頷くと、キラはイリュージョンをカーチス・ルメイに接近させる。
あれが核搭載艦である事は既に分かっている。ここで逃がせば将来にいくらでも禍根が残るだろう。それを座視する事はできない。
カーチス・ルメイの方でもイリュージョンの接近に気付いて迎撃の砲火を上げてくるが、幻想の戦天使の影すら捉える事ができない。
右肩のバッセルを抜き放ち、投擲するイリュージョン。
旋回しながら飛翔するビームブーメランは、カーチス・ルメイの艦橋を切り裂き、戦闘不能に追いやる。
ドゥーリットルの名前の由来となった人物と、同時期に同じ国の軍人であり、戦略爆撃を初めて立案し実行した人物から名前を取られた艦は、首を失ったような形で暫く航行していたが、やがて全ての動力を失って停止した。
今回ばかり不殺と言う訳にはいかなかったが、その中にベルンスト・ラーズの名前があったのは単なる偶然である。
彼は地球軍におけるエクステンデット開発の責任者であり、エストにとっては間接的な意味で自分の人生を狂わせた仇とも言える。
言わば全くの偶然から、エストは積年の恨みを晴らした事になる。当然の事ながら、当の少女がその事に気付く筈も無かったが。
一方、ドゥーリットル、カーチス・ルメイの撃沈を、蒼白になって見守っていた人物がいる。
言うまでも無く、ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルである。
先に放ったミサイルは全滅し、今また母艦群も壊滅している。
アークエンジェルが砲撃を行いながら接近してきているが、それすら目に入らず、目はうつろになって呆然としている。
それに対して彼の懐には、1枚のカードも残っていない。
もはや疑いようも無い。彼は負けたのだ。
その様子を、ナタルは冷めた目で見つめている。
こうなって、彼女としてはいっそ満足だった。
核兵器をプラントに撃ち込むなど、控えめに見ても常軌を逸している。そんな事をするくらいなら、全戦力をジェネシスに叩きつけるべきだったのだ。そうすれば少なくとも、地球に対する脅威は排除できた筈だった。
結局のところ、素人がしたり顔でいらぬ口出しをするから、こんな事になった。
自分達の負けは最早覆しようも無いが、ナタルは妙に晴れやかな気分になっていた。
だが、戦場は尚も混沌としている。
そして、地球に対する脅威は、厳然としてそこに存在していた。
PHASE-37「絶対阻止線」 終わり