機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-39「想い、重なる時」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況は終局に向かいつつ、尚も混沌としていた。

 

 既に指揮系統が壊滅した地球軍は、戦闘停止命令も出されないまま無秩序に戦闘を続行する部隊が続出し、ザフト軍は尚も地球に照準を向けようとするジェネシスを守り続けていた。

 

 そしてL4同盟軍は、それらを止める為に苦しい戦いを続けていた。

 

 同盟軍は既に、戦力の半数以上が撃墜されるか戦闘不能に追い込まれている。

 

 そのような中で、ザフト最強とも言える2機のモビルスーツが、同盟軍の前に立ちはだかっていた。

 

 四方から降り注ぐビームの嵐を回避し、イリュージョンはティルフィングを掲げて斬り込んで行く。

 

 迎え撃つプロヴィデンスは、矢継ぎ早にドラグーンを放ち、イリュージョンの接近を阻んでいる。

 

 プロヴィデンスのドラグーンは、9門の砲を備えた円錐状の大型ドラグーンが3基、2門の砲を備えた小型ドラグーンが8基、合計43門から成っている。その絶大な火力はフリーダムやフォーヴィア、カラミティ、アヴェンジャー、バスターと言った砲撃重視の機体を凌駕し、現状、地球圏最強の機体と言って過言では無かった。

 

《まさか、君達が私の方に来るとはな》

 

 プロヴィデンスからイリュージョンへ、クルーゼの声が届く。

 

《てっきり、ラクス嬢が私の前に現れるかと思っていたのだがな》

「あなたを、ここで止める必要があるのに変わりは無い!!」

 

 キラは答えながら、エストのオペレートに従って機体を操り、四方から迫るビームを回避して行く。

 

 砲撃を終えたドラグーンが、エネルギー補給の為にプロヴィデンス本隊へ引き戻される。

 

 すかさず接近し、斬り込もうとするイリュージョン。

 

 しかし、その前に別のドラグーンが展開し、ビームの壁が築かれて立ち往生を余儀なくされる。

 

《厄介な存在だよ、君は!!》

 

 忌々しそうに言いながら、どこか楽しそうにクルーゼの声が響く。

 

 彼にとって、この状況も一時の余興に過ぎないのだ。故にこそ、命のやり取りですら娯楽でしか無くなる。

 

 接近を阻まれたイリュージョンは、後退しながら290ミリ狙撃砲を放つ。

 

 その攻撃を、余裕の動きで回避するプロヴィデンス。

 

「あなたはッ!!」

 

 叫ぶキラ。

 

 返礼とばかりに放たれるプロヴィデンスのビームライフルを、イリュージョンは急旋回し紙一重で回避する。

 

《あってはならない存在だと言うのに!!》

「何をッ!!」

 

 互いにビームライフルを放つが、敵機を捉えるには至らない。

 

 その間にプロヴィデンスは、ドラグーンを次々と放ってイリュージョンを包囲、一斉攻撃を仕掛けて来る。

 

 自立砲台を装備した機体の強みは、型に嵌らない攻撃と、矢継ぎ早の攻め手にある。息つく暇も無く、相手を攻め立てる事ができるのだ。

 

 あまりの攻撃の苛烈さに、イリュージョンは攻めあぐねる。

 

「回避を!!」

 

 エストの声に導かれ、急速にイリュージョンを後退させるキラ。

 

 だが距離を置いても、ドラグーンは執拗に追撃して来る。

 

 ビームは容赦なく、四方八方から奔流となって襲い掛かってくる。

 

「距離を置いての戦闘は不利です」

「みたいだ、ねッ」

 

 エストの声にキラは苦しげに答えながら、ドラグーンの一射を回避する。

 

 接近戦重視のジャスティス、砲撃戦重視のフリーダムに対し、イリュージョンはあらゆるレンジに対応したオールラウンダー型の機体である。しかし、それは同時に器用貧乏的な側面がある事も否めなかった。

 

《知れば誰もが望むだろう!!》

 

 ラウは叫びながら、イリュージョンめがけてビームライフルを放って来る。

 

《君のようになりたいと!!》

 

 更にドラグーンも、執拗に距離を詰めて攻撃してくる。

 

 対してキラとエストは、手出しする事ができずにその回避に専念させられる。

 

《君のようでありたいと!!》

「そんな事ッ!!」

 

 ビームが機体を掠めるのも構わず、強引に突破を図るイリュージョン。

 

 そのままティルフィングを振り翳し、プロヴィデンスに斬りかかる。

 

《故に許されない!! 君と言う存在は!!》

「だから殺したって言うのか!? 僕の仲間達を!?」

《その通りだ。君と言う存在がいた事を、誰かに知られる訳にはいかなかったからな。彼等には悪いが、もろともに消し去らせてもらった!!》

 

 イリュージョンの大剣を、シールドで払うプロヴィデンス。

 

《君のような者が存在すると知れば、またどこかで別の君を作ろうとする者が現れるだろう。そんな事が許される筈が無いと言うのにな!!》

 

 尚も斬り込んでこようとするイリュージョンを、ドラグーンを呼びもどして牽制するプロヴィデンス。

 

 無数のビームに行く手を阻まれ、イリュージョンは仕方なく後退を余儀なくされた。

 

《だが、よりによって君だけは生き残った。まったく誤算だったよ!!》

 

 プロヴィデンスはビームライフルとシールドに備えたビーム砲で、後退しようとするイリュージョンを追撃する。

 

 その攻撃を、ビームシールドで防ぐイリュージョン。代わって放ったビームガトリングは、プロヴィデンスが回避したことで命中せずに終わった。

 

「そんな事の為に、みんなを!!」

 

 キラの脳裏に、仲間達の顔が次々と浮かぶ。

 

 大切な仲間達を、

 

 多くの人達を殺す権利が、

 

「あなたに、ある筈が無い!!」

 

 叫ぶと同時に、

 

 キラの中で何かが弾けた。

 

 飛んで来るビームを次々と回避、同時に狙撃砲を構えて連射し、ドラグーン3基を立て続けに撃ち落とした。

 

 だがそのうち一発は、迎撃が間に合わず、真っ直ぐにイリュージョンへと向かって来る。

 

 その一発を、

 

「力だけが、僕の全てじゃないんだ!!」

 

 キラはあろう事か、ティルフィングの刃で斬り飛ばした。

 

 更に四方八方から飛んで来る攻撃を、同様に斬り飛ばし、あるいはシールドで弾いて行く。

 

 そして一瞬の隙を突いて、大剣を構え斬り込むイリュージョン。

 

 対してプロヴィデンスも、ビームサーベルを出力して迎えうった。

 

 

 

 

 

 先行する形で進撃を続ける同眼軍主力もまた、大損害を受けて歩みを停滞させていた。

 

 未だに圧倒的な戦力を誇っているザフト主力軍を前に、いかに地球圏最強クラスの質を誇るとは言え戦艦3隻と、搭載モビルスーツだけで堅固な防衛陣に穴を開けるのは容易では無かった。

 

 そこに来て、ザフト軍には最凶とも言える増援が到着していた。

 

 背中から巨大な「手」を生やしたフォーヴィアの姿は禍々しく、砲撃にも白兵にも長けた戦闘力は、同盟軍にとって脅威以外の何物でもない。

 

 フォーヴィアの圧倒的な攻撃力を前にしては、同盟軍のM1など風前の灯のように思えた。

 

 だがしかし、そんなフォーヴィアの前に自由の歌姫が立ちはだかる。

 

「やらせません!!」

 

 大破したシルフィードに、今にもとどめを刺そうとしていたフォーヴィア。

 

 そのフォーヴィアに対し、フリーダムを駆るラクスはミーティアの全火力を解放。フォーヴィアに一斉攻撃を仕掛ける。

 

 空間を薙ぎ払うような、圧倒的な攻撃。

 

 対してクライブはフォーヴィアは自在に操り、全ての攻撃を回避し、あるいはビームライフルで狙撃して、飛来したミサイルを撃ち落として行く。

 

「ハッ テメェが来たのか、お姫様よォ!!」

 

 言いながら、3門のスキュラを発射する。

 

 その攻撃を、ラクスはエンジンをフル加速させることで回避した。

 

「あちらは、わたくしが押さえます。皆さんはライアさんを!!」

《は、はいッ!!》

 

 ラクスの指示により、生き残ったM1がシルフィードに取り付き曳航して行くのが見える。

 

 それを確認してから、ラクスはフォーヴィアに向き直った。

 

《やれやれ、勇ましい事だな、このお姫様よォ》

 

 聞き憶えのある嘲笑するかのような声に、ラクスは僅かに眉を潜めた。

 

「その声、クライブ・ラオス隊長ですねッ」

《おうよ、お久しぶりですわねってか》

 

 ちょうどその時、後方から同様にミーティアを装備したジャスティスが追いついて来た。

 

《ラクス、油断するな!!》

 

 アスランは警戒を飛ばしながら、ミーティアの大型ビームソードを出力しフォーヴィアに斬りかかる。

 

 対艦刀を遥かに上回る巨大な刃は、しかしジャスティスの膂力を持ってしても振りまわすには容易では無く、フォーヴィアは巧みに回避してしまう。

 

《なんだ腰巾着ッ テメェも来やがったのか!?》

《ラオス隊長!!》

 

 アスランはビームソード2本を出力して、フォーヴィアへと斬りかかる。

 

 ラクスもまた、ジャスティスを援護するように後方から砲撃を仕掛ける。

 

 ビーム砲とミサイルの一斉攻撃。

 

 逃げ場など無いかのような、熾烈な砲撃。

 

 だが、当たらない。

 

 クライブは、まるで攻撃される場所が判っているかのように、2機の攻撃をヒラリヒラリと回避する。

 

《滑稽だな、テメェ等は!!》

「何をッ!?」

《口では綺麗ごと抜かしながら、昔のお仲間をぶっ殺す為にこんな所まで来やがって。これ以上のギャグが他にあるってのかよ!?》

「クッ そんな事!!」

 

 アスランが叫んだ瞬間、フォーヴィアの右のギガスが振るわれる。

 

 その指先に装備された5本のビームソードが一閃。ジャスティスが持つ右のアームが、半ばから斬り飛ばされた。

 

「チッ!?」

 

 アスランはとっさに右のアームをパージ。爆発するに任せると、残った左のビームソードを振り翳す。

 

 だが、

 

《ハッハー 遅ェぜ!!》

 

 ジャスティスの攻撃を余裕で回避するフォーヴィア。

 

 そのままスキュラ、パラエーナ、クスィフィアスを一斉展開する。

 

 奔流のような砲撃。

 

 アスランもとっさに機体を加速させるが一瞬遅く、推進部のユニットを直撃されてしまった

 

 舌打ちしながら、ミーティアユニットをパージするアスラン。

 

 巨大な機体はデッドウェイトであり、却って的になり易い事に気付いたのだ。軽快なモビルスーツを相手にする場合、寧ろ邪魔になり易い。

 

 一拍置いて、ミーティアは火球となり吹き飛ぶ。

 

《アスラン!!》

「ラクス、君は援護を!!」

 

 言い放つと、アスランはビームサーベルをアンビテクストラスハルバードに連結し、フォーヴィアへと斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《それが、誰に判る!?》

 

 虚空で火花を散らし、斬り結ぶイリュージョンとプロヴィデンス。

 

 互いの剣をシールドで防ぎ、再び距離を置いて砲撃を交わし合う。

 

 高速ですれ違いながら、砲撃を交わし合う両者。

 

 しかし、やはり手数ではプロヴィデンスの方が圧倒的である。

 

 正面からのドラグーンの一撃。

 

 その一撃が、イリュージョンの手からビームライフルを吹き飛ばした。

 

「クッ!!」

「中距離砲撃能力低下。キラ、距離に注意をッ」

 

 エストの警告に導かれながら、キラはイリュージョンの両肩からバッセルを抜き放ち、プロヴィデンスへ投げつける。

 

 旋回しながら飛んで行く2基のブーメラン。

 

 しかし、命中の直前、またしてもドラグーンが網を掛けるように砲撃し、バッセルを撃ち落としてしまった。

 

《判らんさッ 誰にもな!!》

 

 距離を置きながら狙撃砲を撃つイリュージョン。

 

 その攻撃を回避しながら、プロヴィデンスはビームライフルでイリュージョンに逆撃を加える。

 

 辛うじて攻撃を回避するイリュージョンだが、操縦桿を握るキラの中では、徐々に焦りが生じ始めていた。

 

 このままではまずい。

 

 技量においてキラは、クルーゼに劣っている訳ではない。

 

 しかし、手数が違い過ぎる。

 

 いかにデュアルリンクシステムの予測演算を持ってしても、機体の動きが相手の攻撃に追いつけないのだ。

 

 その時だった。

 

「・・・・・・私には判ります」

 

 それまで黙っていたエストが、静かに、

 

 しかし、力強く言い放った。

 

「エスト?」

「かつて、私とキラは殺し合う仲だった」

 

 怪訝なキラの声に促されるように、エストは語り続ける。

 

「でも長い時を一緒に過ごし、一緒に同じ機体を操り、私は私の中でキラに対する確かな想いを自覚するようになりました」

 

 エストは、彼女らしく淡々と、それでいていっそ誇らしく言い放った。

 

「キラ、私はあなたが好きです」

「え・・・・・・エスト?」

「世界中の誰よりも、あなたが好きです」

 

 戦場の、今まさに砲火を交えている中での告白。

 

 普通ならば、場違いと言うほかない。

 

 しかし、元テロリストの少年と、元特殊部隊員の少女。

 

 ある意味、これほど相応しい状況は無いのかもしれない。

 

「・・・・・・・・・・・・僕も」

 

 ややあって、キラも口を開いた。

 

「僕も、君が好きだ、エスト。できれば、ずっと傍にいてほしい」

「キラ・・・・・・・・・・・・」

 

 笑顔を浮かべるエスト。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言ってから、再び口調を改めて、破滅を望む男へ語りかける。

 

「私のこの想いこそが、あなたの言葉を否定する何よりの証です」

 

 対して、

 

 クルーゼもまた、低い声で応じた。

 

《美しい事だな、お嬢さん。しかし青いな。傲慢ですらあるッ 君達の想いが何程だと言うのだ? 君達が人類全てを代表している訳ではあるまい!!》

 

 クルーゼの叫びと同時に、ドラグーンをさし向けて来るプロヴィデンス。

 

 対して、

 

「そうかもしれません・・・・・・・・・・・・」

 

 低い声で言ってから、同時に、でも、と続けるエスト。

 

「私達の想いは、あなたには負けませんッ 絶対に!!」

 

 エストは今、心の底から、破滅を望む男に対しNOを突きつけたのだ。

 

 クルーゼが破滅を望むなら、自分達は、それに抗う為にあくまで戦う、と。

 

 次の瞬間、

 

 エストの中で、何かが弾けた。

 

 

 

 

 

 ザフト軍の執拗な攻撃に耐えながら、大和は尚も前線で踏ん張り続けていた。

 

 その艦体各所には被弾跡が多数に上り、イーゲルシュテルンも何基か破壊されている。

 

 しかし、主砲と副砲は未だに全門健在であり、比類ない砲撃力を発揮して、進撃を続けるエターナルとクサナギを守り続けていた。

 

 その大和に、ジュートのゲイツが迫る。

 

「このデカブツがァ!! 無駄にデカけりゃ良いってもんじゃないんだよ!!」

 

 言いながら、ビームライフルを連射する。

 

 しかし、対モビルスーツ戦闘を考慮して建造された大和の装甲は、並みのビーム程度では貫通しきれない。

 

 放ったビームはけんもほろろに弾かれて飛散する。

 

 その様子に、ジュートは舌打ちを洩らした。

 

「何なんだよ、こいつはッ!?」

 

 これまで相手にした地球軍の戦艦程度なら、既に2~3隻は撃沈していそうな火力を叩きつけている。

 

 にも拘らず大和は撃沈はおろか、未だに戦闘力すら喪失していない。

 

 その様子を見て、ジュートはニヤリと笑う。

 

「だがよ、どんなデカブツも、頭潰せば終わりってな」

 

 言い放つと同時に。大和のブリッジを目指してゲイツを飛ばす。

 

 大和の方でも、ジュートの動きには気付いていた。

 

「敵機、接近!!」

「迎撃!!」

 

 ユウキの指示を受けて、イーゲルシュテルンや副砲が砲撃を開始する。

 

 しかし、既にここまでに多くの対空砲を潰された大和の迎撃力は、戦闘開始前に比べて見る影もない程に落ち込んでいる。

 

 ジュート機はあっさりと迎撃網を抜けると、大和のブリッジへ銃口を向けた。

 

「そォら、これで終わりだデカブツ!!」

 

 ビームライフルの銃口が光る。

 

 しかし次の瞬間、

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

 飛翔してきた深紅の機体が、ライフルを撃ちながらジュートを牽制しに掛る。

 

 カガリのルージュだ。ジャスティスのミーティアに掴まって戦場に到着した彼女は、間一髪で大和の危機を救ったのだ。

 

 ライフルを放って来るルージュに対し、ジュートのゲイツも後退しながらライフルで応戦する。

 

「このッ 邪魔すんじゃねえよ!!」

 

 拮抗したのはほんの一瞬。すぐにゲイツは、ルージュを圧倒し始める。

 

 ジュートもザフト歴戦のパイロットである。カガリも決して素人ではないが、それでも経験の差は大き過ぎる。

 

 ジュートのビームライフル放った一撃が、ルージュのビームライフルを吹き飛ばした。

 

「クッ!?」

 

 すかさず、ビームサーベルを抜き放つルージュ。

 

 だが、

 

「遅ェッ これで、終わりだァ!!」

 

 ジュートは言い放つと、ゲイツの両腰にあるエクステンショナルアレスターを射出した。

 

 ワイヤー付きのビーム刃はストライク・ルージュの左肩と右大腿部に突き刺さり、切断する。

 

 バランスを崩すルージュ。

 

 これで勝負あった。

 

 そう思った瞬間、

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 カガリは残った右腕にビームサーベルを構えて、スラスターの出力を全開まで高める。

 

 その動きに、ジュートは対応できない。

 

 次の瞬間、ルージュのビームサーベルはジュート機のエンジンを貫き、爆炎の中へと叩き込んだ。

 

 その様子は、少し離れた場所で大和を攻撃していたハリソンからも確認できた。

 

「ジュート!! くっそォ!!」

 

 ジュートを殺した生意気な赤い機体を葬ろうと、ゲイツを反転させるハリソン。

 

 しかし次の瞬間、

 

 ハリソンは顔をひきつらせた。

 

 大和の前部甲板に備えられた、巨大な大砲。

 

 6門の主砲が、真っ直ぐにハリソン機に向けられているのだ。

 

「な・・・・・・なァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 悲鳴を上げるが、既に遅い。

 

 容赦なく、大和の主砲が発射される。

 

 奔流が吹き荒れる。

 

 その光の中で、ハリソンは己の機体と共に、一瞬で焼き尽くされた。

 

 この時大和は、狙ってハリソン機を砲撃した訳ではない。別の敵戦艦を砲撃した射線上に、たまたまハリソンが不用意に飛び込んだだけの事であった。

 

《カガリ様!!》

 

 片腕、片足を欠損したルージュに、アサギのM1が接近して取り付いた。

 

「アサギか。すまん、どうやら私はここまでみたいだ」

《もう。無茶し過ぎですよ》

 

 呆れたようにぼやくアサギ。そう言う彼女の機体も、あちこち損傷している場所があり、無傷とはいかないようだ。

 

「すまんが、クサナギに運んでくれないか」

《判りました!!》

 

 片腕片足になった機体では、流石にこれ以上戦う事はできない。

 

 カガリはアサギのM1に手を引かれる形で、戦線を離脱して行った。

 

 

 

 

 

 飛んで来るビームの嵐を、ジャスティスは紙一重で回避しながら進んで行く。

 

 クライブのフォーヴィアも、装備している8門全てをジャスティスに向けて迎え撃っている。

 

 嵐のような砲撃。

 

 しかし、その全てがアスランの巧みな操縦によって回避されて行く。

 

「うォォォォォォ!!」

 

 ハルバードを振り翳して斬り込むジャスティス。

 

 接近戦主体の機体として開発されたジャスティスの鋭い斬撃。

 

 間合いに入った瞬間、真っ向から斬り下ろされる。

 

 しかし、

 

《ハッ 当たるかよ、そんなもんに!!》

 

 対してフォーヴィアは、ジャスティスの剣をシールドで受け止めると巨大なギガスを操って、逆に掴みかかる。

 

 こちらも接近戦は考慮の内だ。

 

「ッ!?」

 

 その動きを察知し、ジャスティスを後退させるアスラン。

 

 だが、更にクライブはフォーヴィアのビームサーベルを抜き放って、後退しようとするジャスティスを追い、斬りかかって来る。

 

「クッ!?」

 

 その動きに対し、舌を打つアスラン。

 

 とっさに機体を翻して回避する。

 

 そこへ、再び砲撃体勢に入ろうとするフォーヴィア。

 

 だが、

 

「させません!!」

 

 フォーヴィアから見て頭上の方向に占位したフリーダムが、ミーティアの全火力を解放して撃ちかける。

 

 しかし、それを読んでいたかのように、クライブは機体を回避させる。

 

 同時に、クライブは目標を変更してフリーダムへと向かう。

 

 対してラクスも、ミーティアのビームソードを出力して迎え撃つ。

 

「ラオス隊長、あなたは何を守っているのか、本当にお判りなのですか!?」

《ハァ? 頭湧いてんのかテメェ?》

 

 フリーダムが振るうビームソードを、あっさりと回避するフォーヴィア。

 

《自分とこの仲間護るのは当たり前だろうが、電波野郎!! その為に必要なら何だって守るさ!!》

 

 更に追撃を仕掛けようとビームソードを振り翳すフリーダムを、フォーヴィアは全門開放して迎え撃つ。

 

「あんな物を守る事が、本当に正しいとお考えですか!?」

《そんな難しい事判りませ~ん!!》

 

 ラクスの叫びを、おどけた調子でまぜっかえすクライブ。

 

 その間にギガスを起動して、フリーダムの懐へと斬り込んで行く。

 

「あれはあってはならないものですッ それを!!」

《知らねェッってんだろ。ゴチャゴチャと阿呆みてえな御託並べんなよ!!》

 

 巨大な腕が一閃。

 

 その一撃で、ミーティアの左のアームが折れる。

 

《戦場で敵は殺すッ 叩き潰すッ それが全てだろうが!!》

 

 更にギガスを振るい、もう一方のアームも叩き折る。

 

「あぐッ!?」

 

 思わず機体を後退させるラクス。

 

《だいたい、前から目障りだったんだよ、テメェは!!》

 

 一瞬、操縦不能に陥ったフリーダムに対し、全砲門を解放するフォーヴィア。

 

 対してラクスは、とっさにデッドウェイトのミーティアをパージして、フリーダム本体を退避させる。

 

《戦場にいちいち博愛主義なんぞ持ち出しやがってよッ!!》

 

 全門発射するフォーヴィア。

 

 直撃を受けたミーティアは、完全に破壊されて吹き飛ぶ。

 

 だが、直前で回避したフリーダムは、どうにか被害を免れた。

 

《挙句の果て、反逆だァ!? 金持ちの考える事はさっぱりだな。どんな道楽だよ、そいつは!? 付き合わされて死ぬ兵士はたまったもんじゃねえよ!!》

「よくも、そのような事を!!」

 

 ラクスは、普段の穏やかさをかなぐり捨てるような激情に駆られるのを感じた。

 

 自分達の理想が、ついてきてくれたみんなの想いが、土足で踏みにじられたような感覚に襲われる。

 

 ラクスはフリーダムのビームライフルを抜いて反撃する。

 

 しかしクライブも、巧みにフォーヴィアを操ってフリーダムの攻撃を回避、逆に斬りかかる。

 

《テメェは大人しく、ヘタクソな歌だけ歌ってりゃ良かったんだよッ そうすりゃ、頭が空っぽの連中がチヤホヤとしてくれただろうに!!》

「クッ!?」

《それを、ノコノコとこんな所にまで阿呆面晒しに来やがってよォ!!》

 

 2基のギガスを振るい、フリーダムに掴みかかるフォーヴィア。

 

 その巨大な手が、歌姫の乗る機体を捉えようとした瞬間。

 

「ラクスゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 急降下に近い角度で、ジャスティスが斬り込んで来た。

 

 勢いに任せて手にしたハルバードを一閃。

 

 その一撃が、フィーヴィアの右のギガスを斬り飛ばした。

 

《チッ やってくれるじゃねえか、腰巾着野郎が!!》

 

 ジャスティスの突然の参入に、フリーダムへの攻撃は空振りに終わる。

 

 舌打ち交じりに、クライブは再びジャスティスに向き直った。

 

《テメェもだ、アスラン。この売女とはいくらで寝たんだ!?》

「何をッ!?」

《「私を好きにしてください。その代わり、力を貸して下さい」とでも言われたか!?》

 

 言いながら、クライブはクスィフィアスを発射。ジャスティスの動きを牽制しに掛る。

 

《そうでもしなきゃ、とてもじゃねえけど、こんなキチガイみてェな事はできねえよなァッ 俺にはとても無理だよ、自分の親父を裏切るなんて!!》

「クッ 違うッ そんな事!!」

《同情するぜ、アスラン。こんな売女に唆されてこんな落ちぶれちまって。スーパーエリート様が、今じゃ反逆者の犬とはな。ああ、それとも、お前的には本望か? 阿呆なカップル同士、お似合いだよ、お前等は!!》

「クッ 黙れェ!!」

 

 アスランの叫びと共に、ハルバードを振り翳し正面からフォーヴィアへ斬りかかるジャスティス。

 

 普段の冷静なアスランからは、想像できないような短絡的な攻め手。

 

「いけません、アスラン!!」

 

 ラクスが警告を発する。

 

 しかし、その時には既に、ジャスティスはフォーヴィアの懐に不用意に飛び込んでしまっていた。

 

 振るわれるハルバード。

 

 しかし、光刃の切っ先は、紙一重で回避したフォーヴィアを捉えるには至らない。

 

《バァーカ!!》

 

 クライブの嘲笑が響く。

 

 次の瞬間、残ったギガスが振るわれる。

 

 とっさに回避しようとするアスラン。

 

 しかし、遅かった。

 

 巨大な「手」から出力した5本のビームソードは、ジャスティスの右半身を襲い、右腕と右足を削ぎ落して行った。

 

「アスラン!!」

 

 ラクスの悲痛な叫びが響く中、ジャスティスは力を失って漂い始めた。

 

 ラクスはとっさにパラエーナを放ち、フォーヴィアを牽制、戦闘不能になったジャスティスを守ろうとする。

 

《後はテメェだよ、クソ歌姫がッ》

「ラオス隊長!!」 

《心配すんな。テメェを殺した後、他の連中も全員あの世へ送ってやるからよッ 全員の首を斬り落として晒し物にしてやるよ!!》

「そんな事は、させません!!」

 

 ラクスの叫びと共に、ビームサーベルを抜き放って斬り込むフリーダム。

 

 対抗するように、フォーヴィアもギガスとビームサーベルを構える。

 

《弱ェ奴の言い分なんぞ、聞くだけ虫唾が走るぜ!! それとも、テメェをとっ捕まえてひん剥いて、兵士達の中に放り込んでやるッ!? さぞかし愉快な光景が見られるだろうなァ!!》

「ッ!?」

 

 女性なら聞くだけで吐き気がする様な物言いに、ラクスは肌が泡立つのを止められなかった。

 

 クライブは1基だけになったギガスとビームサーベル、その他の火砲を駆使してフリーダムを追い詰めていく。

 

 対してラクスは、次第に防戦一方になって行くのを止められなかった。

 

 その頃、撃破されたジャスティスだが、コックピットに座したアスランはまだ生きていた。

 

 右腕と右足の欠損に加えて、推進機にも若干の不調をきたしている。接近戦主体の機体としては、致命的に近い。

 

 だが、

 

「ラクス・・・・・・」

 

 アスランの目にも、苦戦するフリーダムの姿は見えている。

 

 このまま手をこまねいている訳にはいかなかった。

 

 しかし、援護しようにも、今のジャスティスは大幅に戦闘力を喪失している。ビームサーベルは右腕と共に失われたし、砲撃で援護しようにも、ジャスティスの砲撃力はそれほど高く無い。

 

 後はリフターを単独で突撃させる事くらいだが、それも推進機が不調とあっては、どれほどの効果があるか。

 

 何かないか? そう思った時。

 

「あれは・・・・・・・・・・・・」

 

 アスランの目に、ある物が映った。

 

 それは、ミーティアから外れたビームソードのアームだった。

 

 恐らくジャスティスの物だ。爆発に吹き飛ばされ、ここに漂っていたのだろう。

 

 アスランは傷付いたジャスティスを動かし、アームまで泳ぎ着くと、残っている左腕でグリップ部分を掴んだ。

 

 幸いな事にアーム部分は本体から外れただけで損傷も無い。使おうと思えば使えそうだった。

 

 機体のコンジットを接続し、回路をオンラインにする。

 

 ジャスティスの核エンジンからエネルギーが供給され、アームに灯が入った。

 

 いける。カタログ通りのスペックは発揮できないかもしれないが、当座の武器としては、これで充分だった。

 

 目を転じれば、交戦するフリーダムとフォーヴィアの姿が見える。

 

 ラクスはよく戦っているが、やはり歴戦のパイロットであるクライブには敵わない様子だ。加えて機体性能も互角と来ている。

 

 クライブはフリーダムが離れようとすれば一斉砲撃を仕掛け、近付いてはギガスやビームサーベルで斬りかかっている。

 

 このままでは、ラクスがやられるのも時間の問題だ。

 

 だが、アスランは焦る気持ちを押さえて慎重に狙いを定める。

 

 これが最後の一撃だ。これを外せば後が無い。

 

「今だ!!」

 

 アスランは叫ぶと同時に、ジャスティスのスラスターを全開まで吹かした。

 

 その時、クライブはラクスが一瞬見せた隙を突き、距離を詰めていた。

 

《おらッ 死ねやクソ姫が!!》

「あぐッ!?」

 

 フォーヴィアの強力な蹴りを食らい、吹き飛ばされるフリーダム。

 

 体勢が崩れ錐揉みになったところへ、フォーヴィアが全砲門を開く。

 

《ヘヘッ これで、この下らねえ茶番も終わりだな!! あの世でせいぜいさえずってな!!》

 

 これまでにたまった鬱憤を全て晴らそうと、トリガーに指を掛けるクライブ。

 

 次の瞬間、

 

「させるかァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 アスランの懇親の叫び。

 

 同時に、ビームソードを振り翳したジャスティスが斬り込んで来た。

 

「何ィッ!?」

 

 驚愕に目を見開くクライブ。

 

 フォーヴィアはこの時、フリーダムに対する砲撃体勢に入っていた為、このジャスティスの動きに全く対抗できなかった。

 

 振り翳したビームソードが、フォーヴィアの両脚を一刀の下に薙ぎ払った。

 

 バランスを崩すフォーヴィア。同時に、フリーダムに照準していたロックが外れ、砲撃は虚しく虚空へ迸った。

 

《野郎、死に損いの分際でェッ!!》

 

 クライブは機体の制御を取り戻すのももどかしく、駆け去ろうとするジャスティスの背中に照準を合わせると、一斉砲撃を行う。

 

 対して、既に激しく損傷しているジャスティスに、回避する手段は無い。

 

 次々と命中弾を受け、ついには爆発を起こすジャスティス。

 

「アスランッ!!」

 

 炎に包まれたジャスティスを見て、悲痛な叫びを発するラクス。

 

 次の瞬間、

 

 ラクスの中で何かが弾けた。

 

 ビームライフル、パラエーナ、クスィフィアスを一斉展開。フルバーストモードに移行するフリーダム。

 

 5つの砲門全てにエネルギーが充填され、光を帯びる。

 

《・・・・・・く、そがッ!?》

 

 クライブもその事に気付くが、既に遅い。

 

 放たれる一斉砲撃。

 

 両脚を失い、バランスの低下を来たしたフォーヴィアは、とっさに回避する事は出来ない。

 

 次の瞬間、フォーヴィアを直撃する閃光。

 

 その閃光の中でフォーヴィアは、残った四肢を吹き飛ばされ、頭部が蒸発し、やがて大爆発を起こして消滅した。

 

 全ての光が晴れた時、既にそこには何も無く、僅かに残骸が散乱しているだけだった。

 

 フォーヴィア撃墜を確認したラクスは、ただちに踵を返してジャスティスの方へと向かう。

 

「アスランッ アスラン無事ですか!?」

 

 必死に呼びかけるラクス。

 

 果たして、

 

《・・・・・・ら、ラクス・・・・・・》

 

 か細く聞こえて来る、聞き慣れた声。

 

 アスランは辛うじて生きていた。

 

 もっとも、ジャスティスはひどい状態である。両腕は欠損し、リフターも失っている。PS装甲も落ちて、機体は無機質な鉄灰色へと戻っていた。

 

 アスランはフォーヴィアの攻撃が直撃した瞬間、とっさにリフターをパージして盾代わりに使い、ジャスティス本体を逃がしたのだ。

 

 ラクスはホッとすると同時に、涙が零れそうになった。

 

 だが、敵がいつ現れるのかも判らない状況で、のんびりしている暇は無い。

 

「大丈夫ですか? 動けますか?」

《いや、ちょっと、無理そうだ》

 

 実際、ジャスティスは全動力が完全に遮断されており、OSが僅かに動いているにすぎない状態だった。

 

「では、わたくしがエターナルまで曳航します。アスランは、そのままでいてください」

《判った。済まない》

 

 アスランの返事を聞くと、ラクスはただちに曳航の準備に入る。

 

 だがこの時、前線ではこの戦争の趨勢その物を左右する、驚愕の事態が起こっている事に、ラクスもアスランもまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリュージョンとプロヴィデンスの死闘は、互いに一歩も譲らないまま続いていた。

 

 圧倒的な火力で攻め立てるプロヴィデンス。

 

 対してイリュージョンは、デュアルリンクシステムを操るエストの的確なオペレートとキラの操縦により、攻撃を回避しながらプロヴィデンスへと徐々に接近して行く。

 

「3時、4時、7時より敵の攻撃、放射状に来ます!!」

「クッ!!」

 

 エストの声に導かれ、キラはイリュージョンの両腕に装備したビームガトリングを起動、同時に左右から迫ろうとするドラグーンを撃ち落とす。

 

 先程からエストのオペレートは正確無比となり、手数において圧倒的に勝るプロヴィデンスの攻撃を的確に回避して行く。

 

 だが、

 

「敵機攻撃、正面!!」

 

 一瞬の隙を突かれ、プロヴィデンスに斬り込まれる。

 

 キラはその攻撃を、とっさにビームシールドを展開する事で防ぐ。

 

 火花を散らす剣と楯。

 

 スパークがモニターを焼く中、互いは機体の視線越しに睨み合う。

 

「あなただけは、あなただけは絶対にここで倒す!!」

《ハッ いくら叫ぼうが、今更!!》

 

 言い放つと、クルーゼはビームサーベルを振るってイリュージョンを弾き飛ばす。

 

 距離が開く両機。

 

 とっさにイリュージョンは狙撃砲を構え、プロヴィデンスはビームライフルを構える。

 

 互いに引き金を引き、閃光が虚空を走る。

 

 しかし、どちらも相手を捉えるには至らない。

 

 互いの閃光は、虚しく脇を掠めていくに留まる。

 

《これが運命さ。知りながらも突き進んだ道だろう!!》

「何をッ!?」

 

 キラの叫びと共に、ティルフィングを振り翳して斬り込むイリュージョン。

 

 その一撃をプロヴィデンスは盾で受け止め、弾き返しながらクルーゼは叫ぶ。

 

《正義と信じ!! 判らぬと逃げ!! 知らず!! 聞かず!! その果ての終局だ!! もはや止める術など無い!!》

 

 確かに。

 

 今のこの状況は、ナチュラルとコーディネイター言う、相争う陣営が互いに憎む事から始まっている。

 

 自分達の正義を盲目的に信じ、正論を吐かれればそんな物は判らないと逃げ、無知故に己を誇り、相手の言葉を聞こうともしなかった者達。それこそがブルーコスモスであり、プラントの強硬派だった。否、突き詰めれば、彼等の言葉を盲目的に信じた全ての人類も含まれる事になる。

 

 その結果、現われたのがこの地獄だ。

 

 互いが互いの種を、今まさに食いつぶそうとしている。

 

 そして失った命達はもう二度と戻ってくる事は無く、そこから生じる憎しみは今、更なる憎しみを生もうとしている。

 

《そして滅ぶ!! 人は!! 滅ぶべくしてな!!》

「そんな物は、あなたの理屈ですッ」

 

 静かに、しかし力強い口調で反論を返すエスト。

 

 だが、冷静なその言葉も、狂気を孕んだ男の耳には届かない。

 

《それが「人」だよ、お嬢さん》

「違う。人は、そんな物じゃありません」

《ハッ! 何が違うッ? 何故、違う?》

 

 イリュージョンが放った狙撃砲の一射が、大型ドラグーンを1基叩き落とす。

 

 が、他のドラグーンは怯んだ様子も無く、イリュージョンを包囲すべく向かって来る。

 

《この、憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で、何を信じる? なぜ信じる!?》

 

 ドラグーンの一撃がイリュージョンの狙撃砲を吹き飛ばす。

 

「あなたは、それしか知らない!!」

《知らぬさ》

 

 キラの言葉を、クルーゼは嘲笑を持って返す。

 

《所詮、人は己の知る事しか知らぬ!!》

 

 ティルフィングを振り翳して斬り込んで来るイリュージョン。

 

 迎え撃つように放ったプロヴィデンスのビームライフルは、イリュージョンの右足の、膝から下を薙ぎ払う。

 

 だがキラは崩れたバランスにも構わず、ティルフィングを真っ向からプロヴィデンスへ振り下ろす。

 

 対して、その大剣の一撃を、シールドで防ぐプロヴィデンス。

 

 次の瞬間、キラは動く。

 

 イリュージョンは左手をティルフィングの柄から外し、逆手にビームサーベルを抜き放つと、斬り上げるように一閃した。

 

 その一撃が、プロヴィデンスの右腕をビームライフルごと斬り飛ばす。

 

 これには、流石のクルーゼも怯み、とっさに機体を後退させようとする。

 

 すかさず、追撃を掛けようとするキラ。

 

 だが、その前に四方八方からドラグーンの攻撃を受け、逆に後退を余儀なくされた。

 

《まだ苦しみたいか!?》

 

 腕を斬り落とされた事に苛立ったように、クルーゼは執拗に、後退するイリュージョンをドラグーンで追撃する。

 

《いつかは、やがていつかはと、そんな甘い毒に踊らされ、いったいどれほどの時を戦い続けて来た!?》

 

 ドラグーンの一斉攻撃。

 

 しかしイリュージョンは片足を失ったバランスの悪い状態ながら、エストの誘導とキラの巧みな操縦で、その全てを回避する。

 

 のみならず、両腕のビームガトリングを展開、接近して来るドラグーンを片っ端から撃ち落として行く。

 

《どの道、人は滅ぶ! もはや止める術は無い! 地は焼かれ、涙と悲鳴は新たな戦いの狼煙となる!! 人が数多持つ予言の日だ!!》

「そんな事はッ」

「させませんッ」

《それだけの業ッ 重ねて来たのは誰だ!?》

 

 ついに、ドラグーンの一斉射撃が、イリュージョンの右腕ごとティルフィングを吹き飛ばした。

 

《君等とて、その一つである事に変わりは無い!!》

 

 勝ち誇って言い放つクルーゼ。

 

 生き残っているドラグーンは、容赦無くイリュージョンを追い詰めていく。

 

 その中で、キラは、

 

 そしてエストは、静かに相手を見据える。

 

「確かに、あなたの言う通りなのかもしれない。人は過ちを侵したからこそ、こんな事になってしまった」

「けど、あなたは知らない。人は過ちに気付く事ができる。それを正す事もできる」

 

 飛んで来るビームが機体を掠めるのにも構わず、2人は静かに語り続ける。

 

「一度、道を誤ってしまったからと言って、それを責めていたのでは、そんな物は、ただの諦めだ」

「道を間違えたのなら、何度でもやり直せばいい。それこそが人の強さだ」

「共に歩んでくれる仲間達が一緒にいる限り、どんなに間違っても勇気を振り絞って、来た道を戻る事ができる」

 

 残った左手でビームサーベルを抜き放つイリュージョン。

 

「「だから!!」」

 

 最後の力を振り絞るように、飛翔する幻想の翼。

 

 迎え撃つように、残った火力を集中させる天帝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「護りたい人達が、いるんだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加速するイリュージョン。

 

 ドラグーンから放たれたビームが、翼を、頭部を、吹き飛ばして行く。

 

 だがイリュージョンは、その身を傷付けられながらも突撃するのをやめない。

 

 こいつだけは、

 

 この男だけは、何としてもこの場で止める。

 

 キラとエスト。共に戦い続けて来た2人は、その想いを愛機に託し、虚空を翔ける。

 

 そして、ついにイリュージョンはプロヴィデンスを剣の間合いに捉えた。

 

 振るわれる斬撃。

 

 プロヴィデンスはその一撃をシールドで防ごうとする。

 

 だが、遅い。

 

 斬り下げられた、イリュージョンのビームサーベル。

 

 交錯する一瞬。

 

 次の瞬間、

 

 イリュージョンの刃は、プロヴィデンスの肩口から入り、一気にエンジン部分まで達した。

 

 膨張する光。

 

 その光が、クルーゼを飲み込む。

 

 仮面の下で、男が一瞬自嘲の笑みを浮かべる。

 

 しかしそれすらも一瞬の事。

 

 あっという間に光に飲み込まれ、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同盟軍がジェネシス目指して進軍を続けている頃、ヤキン・ドゥーエのザフト軍司令本部では、ジェネシスの発射準備が着々と進められていた。

 

 既に地球軍も、小賢しいラクス・クラインの一党も完全にザフトの精鋭によって押さえられ、手出しできる状態では無い。

 

 この戦い、事実上ザフトの勝利だった。

 

「第3射、準備まだか!?」

「もう間もなく、完了するとの事です」

「急がせろッ 我々の勝利は目前なのだぞ」

 

 指示を飛ばしながら、パトリック・ザラは感慨に耽る。

 

 ようやくだ。

 

 ようやくここまで来た。

 

 あの「血のバレンタイン」から始まり、多くの犠牲を出しながら、ようやくこの日を迎える事ができた。

 

 あと一撃。それで全てが終わるのだ。

 

 傲慢なナチュラルどもに裁きが下され、コーディネイターの未来が確立される。

 

 そう思った時、背後の扉が開かれた。

 

 作戦中に入ってくるとは何事か。

 

 そう叫ぼうとした瞬間、

 

 先制の一撃は、銃弾の嵐によって行われた。

 

「なッ!?」

 

 目を見開くパトリック。

 

 次の瞬間、その体は無数の銃弾によって貫かれていた。

 

「ば・・・・・・馬鹿・・・・・・な?」

 

 一瞬で、様々な事が思い浮かばれる。

 

 なぜ、このような事態になったのか?

 

 反乱? それとも敵兵の侵入?

 

 ただ理由が何れにあったとしても、それはもはやパトリックにとっては何の意味も無い事だった。

 

 その目は、既に現実を見ていない。

 

 瞳は遥か先。そこに佇む、2人の人物に向けられている。

 

 それは、彼の愛する妻と、そして大切な息子。

 

「・・・・・・レノア・・・・・・ア・・・アスラン・・・・・・・・・・・・」

 

 必死に手を伸ばし、彼等に触れようとする。

 

 だが、手を伸ばせば伸ばす程に、彼等の姿は遠ざかっていく。

 

 待ってくれ。私を置いて行かないでくれ!!

 

 そう叫んだつもりだったが、実際に声は出ず、ただ口からは、血の塊が零れ落ちただけであった。

 

 やがて、パトリックの視界は急速に閉ざされ、冷たい闇の底へと落ちていった。

 

「ぎ、議長!!」

 

 突然の事態に、驚く側近たち。

 

 そこへ、容赦無く銃弾の嵐が浴びせられ、血しぶきを上げて倒れていく。

 

 悲鳴は連鎖的に、司令室全体に広がり、広い室内が真っ赤に染め上げられていく。

 

 この場にいるオペレーター達も、勿論コーディネイターではあるが、奇襲を食らった事に加え、襲って来た者達も高い戦闘力を誇っており、またたく間に制圧されて行く。

 

 なす術も無く、人類の叡智を自認する者達は、己の体から迸った血に体を濡らし、物言わぬ躯と化して行く。

 

 さほど時を置かずして、ヤキン・ドゥーエの司令室は、その所有者を変える事となった。

 

 地獄の様相と化した司令室。

 

 そこへ、指揮官である赤髪の少女が静かに入ってきた。

 

「勝利を目前にした時程、人は脆いものね」

 

 大した感慨も無く、周囲を見回すと、それと気付かない程度に眉を顰める。

 

 目障りだった。周りには魂を失った躯が、無重力に従って無数に浮かび少女の視界を妨げている。

 

 コーディネイターは死んでも私の邪魔をするのか、と心の中で舌打ちする。

 

 しかし差し当たり、個人的な不快感よりも優先すべき事があった。

 

「さ、時間が無いわ。さっさと始めて」

「了解」

 

 命令を受けて、作業を開始する兵士達。

 

 その様子を見て、

 

「さあ、終わりの始まりよ」

 

 フレイ・アルスターはニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

PHASE-39「想い、重なる時」      終わり

 

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