機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-41「LAST SEED」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレイが指揮する地球連合軍には、近隣で戦闘を続けていた部隊も集結し、ある程度の規模にまで膨れ上がっていた。

 

 その大半が奮戦する味方の支援と言う名目ではあったが、要するに勝ち馬に乗ろうという意図は明白であった。

 

 無理も無い。あわや敗戦一歩手前まで追い詰められながら、まさかの逆転劇である。このプラントくんだりまで進撃してきた身としては、その苦労が報われた思いであろう。

 

 あと数時間で、戦いは終わる。

 

 自分達の勝利で戦争は終わり、家族の下へ帰る事ができる。

 

 彼等がそう考えたとしても、責められるいわれは無い。

 

 そう、それが現れるまでは。

 

 出し抜けに、要塞の外周警備に当たっていた一部の部隊から、音信が途切れた。

 

「何だ?」

 

 付近の警戒に当たっていたストライクダガーが、不審に思いカメラを向けようとした。

 

 その時、

 

 出し抜けに、嵐のような砲撃が襲い掛かって来た。

 

「なッ!?」

 

 思わず目を剥く。

 

 激烈としか形容のしようがない、嵐の語気砲撃。

 

 しかし同時に、精緻にして的確。

 

 周囲にいる味方が、武装を、手足を、頭部を次々と吹き飛ばされ、戦闘不能に陥っていく。

 

 エンジンやコックピットを破壊され、爆散する機体は存在しない。

 

 全てが、戦闘能力を奪うだけの攻撃だ。

 

 だが、それだけに戦慄する程の恐怖に襲われる。

 

 恐ろしい程に、正確な砲撃だ。

 

 死んだ人間はいない。だが、コックピットを外して攻撃する事がいかに困難であるかは想像に難くない。

 

 それは裏を返せば、「お前達の命など、奪おうと思えばいつでも奪える」と言う意思表示に思えた。

 

「野郎ッ ふざけやがって!!」

 

 傲慢極まりない敵の態度に、激昂してビームライフルを掲げる。

 

 このふざけた敵に、せめて一矢報いない事には気が収まらない。

 

 そう思った瞬間、

 

 掲げたビームライフルは、飛んで来たビームによって正確に撃ち抜かれ吹き飛ばされた。

 

「なッ!?」

 

 とっさの事で、呆気に取られ動きを止める。

 

 次の瞬間、

 

 そいつは急速に接近してきた。

 

 10枚の蒼翼を広げ、一気に間合いを詰めると腰からビームサーベルを抜き放つ。

 

 一瞬、閃光が走る。

 

 飛び抜けた瞬間、ストライクダガーは頭部と右腕を斬り飛ばされていた。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・」

 

 呆然と言葉を吐く。

 

 一矢報いるどころか、相手の影を捉えるのがやっとだった。

 

 気が付けば、味方は全滅に近い損害を被っている。

 

 やはり、死んだ者はいない。

 

 しかし、まともに動ける機体は1機も残っていない。

 

 どうやら、自分達が予定よりも早い「終戦」を迎えた事だけは、確かだった。

 

 その様子を確認し、フリーダムのコックピットでキラは息をついた。

 

 どうやら、作戦第一段階は成功らしい。

 

 これに先立ってキラは、アークエンジェルに向かおうとした敵部隊を殲滅しているのだが、まだまだフリーダムにもキラ自身にも余裕があった。

 

 ただ、

 

 キラはチラッと、自分の背後に視線をやる。

 

 どうにも、背中が寒いような気がするのだ。

 

 イリュージョンに乗っている時はエストが後席に座り、オペレーターを担当してくれていたから、自分は操縦と攻撃に専念する事ができたのだが、フリーダムでは全て自分1人でやらなくてはならない。

 

 とは言え、贅沢を言っていられる状況では無い。こうしている間にも、作戦は進行中なのだ。

 

 再び蒼翼を広げて、駆け抜けるフリーダム。

 

 戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 守備隊の一部が短時間の内に壊滅させられたという報告はただちに、ヤキン・ドゥーエ司令室にいるフレイの下へももたらされた。

 

 先にアークエンジェル攻撃に向かわせた部隊も、成すところ無く壊滅に追いやられたという報告を受けている。

 

 ニヤリと笑うフレイ。

 

「・・・・・・来たわね」

 

 歓喜と憎悪が、複雑に絡み合った笑み。

 

 誰が来たか、など考えるまでも無かった。

 

 この終焉を飾る最高の舞踏会。

 

 滅亡までの荘厳なる余興において、フレイの相手役を務める存在が、時間に遅れる事無く到着したのだ。

 

 ならば、こちらも相応の準備でもてなさない事には、相手に対して失礼と言う物だろう

 

「ただちに、全守備隊を応援に向かわせて。相手は敵のエースよ。油断しないように!!」

「ハッ」

 

 直ちにフレイの命令は、全部隊に打電される。

 

 現在、フレイの手元には集結した部隊も合わせて、100機近い機体が集結している。

 

 たかが中尉が指揮するには過剰とも言える数だが、フレイがアズラエル直属の部隊長であった事、元大西洋連邦事務次官令嬢だった事によるコネ等が物を言い、この大部隊は完全にフレイの掌握下にあった。

 

 その部隊の大半を、敵機迎撃に振り向ける。

 

 これは恐らく、敵の最後の抵抗だ。これを叩き潰せば全てが終わる。

 

 その時、更に報告が入った。

 

「アルスター中尉。ジェネシス方面を守備している艦隊から報告です。敵戦艦が2隻、ジェネシスに接近中。恐らく、ジェネシスへの攻撃が目的と思われます」

「・・・・・・成程、そう来た訳ね」

 

 フレイは同盟軍の目論見を読み切った。

 

 恐らく、今要塞周辺で行われている攻撃は陽動。本命はジェネシスの直接破壊と見た。

 

 無駄な事をする。スペックを見たが、ジェネシスは艦砲射撃程度で破壊できる代物では無い。それでも念の為と思い、艦隊を配置しておいたのは正解だった。

 

 酷薄な笑みを、フレイは浮かべる。

 

 せいぜいあがくだけあがけば良い。その間に、こちらはする事をするだけだ。

 

 ヘルメットを取ると、フレイは入口の方へと向かう。

 

 既にアヴェンジャーは運び込んである。フレイ自身が行くまでの間、キラ達が持ちこたえるのを祈るだけだ。

 

「それくらいは、期待させてもらうわよ」

 

 そう呟きながら、フレイは港へと急いだ。

 

 

 

 

 

 ジェネシスへの進撃を続けるエターナルとクサナギ。

 

 既に、巨大なパラボラアンテナの姿は、視界の中に捉えている。

 

 しかし、事はそうすんなりと行く物ではないらしい。

 

「ジェネシス前方に敵艦隊。アガメムノン級1、ネルソン級1、ドレイク級2!!」

 

 報告を聞き、バルトフェルドは不敵な笑みを浮かべ、席ガンでモニターを見据える。

 

「やはり、簡単には通してくれんか」

 

 良いだろう。この程度の事は、こちらも想定済みだ。

 

 何より、こちらは囮だ。せいぜい派手に暴れて、敵の目を引き付けてやる。

 

 そう考えれば、敵が多いのは大歓迎だった。

 

「さーて、そんじゃおっぱじめるぞ!!」

 

 何とも珍妙な掛け声を発するバルトフェルド。堅苦しいイメージのある軍には似つかわしく無いやり方だ。

 

 こうした気合の入れ方も、この男ならではと言うべきだ。

 

 地球軍艦隊からも、機動兵器が出撃して来るのが確認された。

 

 だが、その大半がメビウスである。ストライクダガーやシルフィードダガーの数は少ない。

 

 どうやら、モビルスーツ部隊の大半はヤキン・ドゥーエに張り付けたらしい。

 

 懐が苦しいのは、地球軍も一緒である。

 

 もっともこちらは、援護してくれる機体は1機も無いのだが。

 

「全員気張れよッ 生き残ったら、俺のオリジナルブレンドを飲ませてやるからな!!」

「そりゃ、あり難い事で」

「僕は紅茶党なんですけど」

 

 バルトフェルドの言葉に、ダコスタとニコルが苦笑して応じる。

 

 良くも悪くも、楽しい隊長である事は間違いなかった。

 

「敵部隊接近!!」

 

 オペレーターの報告が、容赦無く齎される。

 

 遊びの時間はここまでだ。

 

 否、ここからが遊びの時間と言うべきか。命をかけなきゃいけないのが、色々アレだが。

 

「対艦、対モビルスーツ戦闘用意!! 全砲門開け、目標、接近中の地球軍艦隊!!」

 

 並進するクサナギでも、着々と戦闘準備が進められる。

 

 ここが正念場だ。

 

「撃てェ!!」

 

 バルトフェルドの号令一下、2隻の戦艦は砲撃を開始した。

 

 

 

 

 

 地球軍のモビルスーツ隊はフリーダムによって引っ掻きまわされ、艦隊はエターナルとクサナギを迎撃する為にジェネシスに張り付いている。

 

 要塞を守備していた地球軍は引き離され、一時的にヤキン・ドゥーエ周辺は手薄な状態となっている。

 

 しかし、それは地球軍にとって、さして大きな問題とは言えなかった。

 

 ザフト軍は司令部を壊滅されて狼狽し、軍隊の体を成していない。もう一つの正体不明の抵抗勢力(L4同盟軍)は既に壊滅状態であり、自分達に対抗できようはずも無い。

 

 既に自分達の勝敗は決したも同然である。

 

 そう考えている者達が、ほぼ全員であり、要塞前面を空にしたとしても問題は無い筈だった。

 

 まさかそこへ、

 

 まさにそこへ、

 

 攻撃を仕掛けて来る者がいるとは、誰1人として予想だにしなかった。

 

「敵戦艦、急速接近!!」

「迎撃隊を向かわせろ!!」

「ダメですッ 全部隊が防衛線から離れていて連絡が取れません!!」

「要塞砲で迎え撃てッ 奴等を近付けるな!!」

 

 突如、防衛線上に猛スピードで突っ込んで来た巨大戦艦に、ヤキン・ドゥーエの司令室はパニックに陥っていた。

 

 敵がすぐ目の前まで迫っていると言うのに、迎撃に向かえる者がいない。

 

 ただちに、向けられる全ての砲門が開かれるが、その間にも敵戦艦は急速に接近して来る。

 

 その巨大戦艦の中にあって、

 

 艦長、ジュウロウ・トウゴウはカッと目を見開いた。

 

「バスター・ローエングリン、発射ァ!!」

 

 号令と共に、目もくらむような閃光が大和の艦首から放たれる。

 

 艦載砲としては、現行最強と言っても過言ではない、艦首固定砲の一斉射撃。

 

 掠めただけで戦艦をも叩き潰せる砲撃が、ヤキン・ドゥーエの表層に叩きつけられた。

 

 瞬間、要塞内に激震が湧きおこる。

 

 閃光が発せられ、炎が内部を焼き払う。

 

 勿論、巨大な要塞にはその程度の攻撃など、蚊に刺されたような物だろう。重要区画や弾薬庫を破壊しない限り、大したダメージにはならない。

 

 しかし、今回は要塞を破壊する事が目的では無く、司令室の占拠(奪還)にある。下手に破壊してコントロール不能になってもらっても困るのである。

 

 そこで、砲撃位置については、アスラン、イザーク、ディアッカらと入念に協議した上で選定された。

 

 司令室からある程度離れていなくてはならないが、しかし離れ過ぎても困る。砲撃位置はそのまま要塞上陸地点にもなる為、あまり離れ過ぎると、突入後の移動距離が長くなり、受ける迎撃も激しい事になってしまう。

 

 大和の砲撃が着弾した瞬間、ヤキン・ドゥーエからの砲撃が一瞬停止する。

 

 その瞬間を、トウゴウは見逃さない。

 

「今だ、全速前進ッ 要塞の至近に取り付け!!」

 

 トウゴウの指示の下、大和は機関を最大にして突撃、一気にヤキン・ドゥーエに向けて突進する。

 

 既に、デュエルとバスター、それに、アスラン、シン、ライアの乗るM1は発進し、支援攻撃を開始している。

 

 だが、そんな彼等の前に、数機のストライクダガーが立ちはだかる。

 

 どうやら近くにいた為、状況の変化を嗅ぎつけて、反転して来たらしい。

 

 彼等は要塞砲と共に、接近する大和に向けて砲撃を開始する。

 

 しかし、

 

「構わん、突っ込め!!」

 

 過激とも言えるトウゴウの指示の下、大和は更に加速する。

 

 最早、艦その物を砲弾にするかのような勢いだ。

 

 地球軍の迎撃も一切追いつかず、

 

 大和はヤキン・ドゥーエの至近距離まで一気に斬り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要塞に衝突する。

 

 そう思った瞬間、大和は長大な艦首を急速回頭させ、艦腹を見せる形で横付けする。

 

 右舷方向には先程、バスター・ローエングリンで開けた大穴が開いている。あそこから突入するのだ。

 

「突入隊、発進せよ!!」

 

 トウゴウの指示を受け、大和の格納庫で待機していた突入隊が行動を開始する。

 

 使用するのは、各艦から徴発した連絡艇である。

 

 各艇に10名。それが5隻発進したから、合計で50名の兵士を送り込む事になる。お世辞にも多いとは言い難いが、これが現状、同盟軍が投入できる最大限ギリギリの数字であった。

 

 だが、連絡艇には武装も無ければ装甲も無い。敵の対空砲火を浴びたらあっという間に撃墜されてしまう。そこでトウゴウは、敵の集中砲火を浴びる事も承知の上で、強引に大和をヤキン・ドゥーエに横付けしたのだ。

 

「突入隊帰還までこの場を死守する。総員、己の役割を全うし、全力を尽くせ!!」

 

 トウゴウの指示の下、全砲門を開いて突入隊の援護を開始する大和。

 

 地球圏最強クラスの戦艦の砲撃は、向かって来る敵機や要塞の砲座を次々と叩き潰して行く。

 

 しかし、それに対する反撃もすぐに開始された。

 

 何しろ相手は、ザフトが誇る巨大要塞だ。備えつけている火力も半端な物では無い。

 

 しかも大和は巨大であり、尚且つ突入隊支援の為に停止しているのだ。これほど狙い易い的もあるまい。

 

 一気に集中された砲火により、大和は激震に襲われ、激しい衝撃に見舞われる。

 

 勿論、アスラン以下、発進したモビルスーツ隊も奮戦している。

 

 大和が排除しきれない砲台を潰し、散発的に襲って来る地球軍のモビルスーツを叩き潰している。

 

 しかし、それでも火力は圧倒的である。

 

 アスランがM1を駆り、何機目かのダガーを撃墜した時だった。

 

《アスラン、行け!!》

 

 イザークから、突然、通信が入った。

 

「イザーク!?」

《行くんだアスラン、ここは俺達が引き受ける!!》

 

 突入隊に合流しろ、と言っているのだ。

 

「しかしッ!!」

 

 敵の抵抗がこれほどまでに強烈なのは、完全に予想外だった。これではアスランが抜けたら防ぎ切れないように思える。

 

 しかし、

 

《良いから行きなよ。連中にはお前が必要だろ!!》

《あたし達の事も、少しは信頼してよ!!》

《ここは俺達だけでも大丈夫だから!!》

 

 ディアッカが、ライアが、シンまで、アスランの背中を叩くようにして言って来る。

 

 決断するしかない。確かに、要塞内部の構造を知っている者が突入隊を先導する必要がある。

 

「すまないッ!!」

 

 一言声をかけると、M1を反転させてヤキン・ドゥーエへと向かうアスラン。

 

 だが、近付けば、更に対空砲火の密度が上がっていく。

 

 それらを的確に回避していくアスラン。

 

 ザフト特務隊のエースと言う肩書きは、決して伊達では無い。

 

 だが、それにも限界がある。

 

 ついに1発が、M1の右腕を捉え吹き飛ばす。

 

「クッ!?」

 

 どうにか体勢を立て直そうとするアスラン。

 

 しかしそこへ更に砲撃が集中され、左腕と右足が吹き飛ばされる。

 

 しかし、止まらない。

 

 残った右手でビームライフルを乱射し、更に1基の砲座を叩き潰す。

 

 アスランは辛うじて生きているスラスターを全開まで吹かすと、M1の機体を強引に突入口へねじ込ませる事に成功した。

 

 殆ど墜落するような勢いで突入口に突っ込んだアスランのM1は、周囲に散乱する破壊された機材を巻き込みながら、暫くデッキの上を滑走し、そのまま壁にぶつかって停止した。

 

 その様子を確認したイザークは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 向こうはこれで良いだろう。

 

「・・・・・・問題は、こちらか」

 

 そう言って、大和を見上げる。

 

 ヤキン・ドゥーエからの砲火はいよいよ激しく、更に地球軍のモビルスーツ隊が、続々と集結しつつある。

 

 やはり、フリーダム1機で敵の全ての目を引き付けるには、無理があったようだ。

 

 だが、それがどうしたと言うのだ?

 

 イザークの闘志に答え、シールドとライフルを掲げるデュエル。

 

 既にアサルトシュラウドは無く、ライフルとシールドもデュエル独自の物では無く、撃墜されたストライクから借りた物だ。

 

 だがデュエルの、そしてイザークの闘志は聊かの衰えも無い。

 

「行くぞ、何としても奴等が返ってくるまで持たせるんだ!!」

 

 一声言い放つと、自ら敵陣に向けて突撃を開始した。

 

 一方、突入口に突っ込んだアスランは、どうにかコックピットから這い出すと、そこで待っていた突入隊のメンバーと合流していた。

 

「アスラン!!」

 

 少年の姿を認めたカガリが、駆け寄って来る。

 

 カガリに頷きを返してから、アスランは素早く状況を確認する。

 

「中央指令室は、ここから2ブロック上がった先にある。俺が先頭に立つ。みんなははぐれないようについて来てくれ」

 

 50名の突入隊の内、半数は突入口の橋頭堡を確保する為にこの場に残る事になり、残りは司令室に向かう事になる。

 

 その先頭に立って、アスランが走ろうとした時だった。

 

 廊下の向こうから、数人の兵士がライフルを手に駆け寄ってくるのが見えた。

 

 地球軍の兵士だ。どうやら既に、こちらの動きを察知しているらしい。

 

「やはり、簡単には行かせてくれないか」

 

 目的を達する為には、障害を排除する必要がある。

 

 アスランも拳銃を抜くと、向かって来る兵士に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 死屍累々。

 

 とでも、表現すべきだろうか。

 

 死んだ者はいないようだが。

 

 フレイはゆっくりとアヴェンジャーを進ませながら、周囲の状況を見回す。

 

 手や足、首を吹き飛ばされて戦闘不能になったダガー部隊が、そこら中に浮かんでいる。

 

 これを、ただ1機のモビルスーツがやったのだから、恐怖ですらあるだろう。

 

 この惨憺たる状況を現出した者は、アヴェンジャーに対して背中を向ける形で滞空していた。

 

《よくも、やってくれたわね》

 

 オープン回線で話しかけると、向こうも振り返る。

 

 周囲の地球軍部隊を全滅させたキラ。

 

 その目の前に、ついに復讐に長ける少女が立ちはだかった。

 

 既にフレイの耳には、ヤキン・ドゥーエ内の状況が伝わって来ている。

 

 まさかの二段囮作戦。

 

 モビルスーツによる攻撃で囮を仕掛け、その間にジェネシスを直接破壊するのかと思いきや、それすらも囮。本命は、白兵戦によってコントロールを奪取し砲撃自体を阻止する事にあったとは。

 

「フレイ・・・・・・」

 

 キラもまた、会話に応じる。

 

《完全に嵌められたわ。まさか、少数のアンタ達が戦力をここまで小分けに分散するとはね。けど、まだ負けじゃない。要塞内の味方が発射まで持ちこたえられれば、あたし達の勝ちよ。そして・・・・・・》

 

 言いながらフレイは、アヴェンジャーのプラズマ砲をフリーダムへ向ける。

 

《アンタには、ここで死んでもらう》

「僕も、これ以上、君の暴挙を座視する気は無いよ」

 

 そう言うと、キラもフリーダムのビームライフルを構えて向ける。

 

 両者、これが最後の激突。

 

 螺旋の如く複雑に絡み合った因縁が、今、決着の時を迎える。

 

《やれるものなら、やってみなさいよォッ!!》

 

 フレイが言い放つと同時に、アヴェンジャーは全火力を解放する。

 

 肩部ゴルゴーンレールガン、両手のプラズマ砲、胸部スキュラ、頸部ヒュドラインパルス砲が、一斉に解き放たれ、フリーダムに襲い掛かる。

 

 対して、

 

 キラは蒼翼10枚を広げると、一気にその場から飛び去り、お返しとばかりに、パラエーナプラズマビーム砲、クスィフィアスレールガン、ビームライフルを構え、フルバーストを浴びせる。

 

「クッ!?」

 

 その一撃を、後退する事で回避するアヴェンジャー。

 

 フリーダムはそれを追いながら、ビームライフルを放つ。

 

《今日はエストはどうしたの? 喧嘩でもしたのかしらッ?》

「あの子は艦に置いて来たよ。君は僕1人で止めるッ」

 

 言いながら放ったビームライフルが、アヴェンジャーの脇を掠める。

 

《随分と優しいじゃないッ それとも、見くびられてるのかしらッ? 1人であたしに勝てるとでも!?》

 

 お返しに放つプラズマ砲を、フリーダムは舞うような機動で回避する。

 

「簡単じゃない事は判っているよ。けど、やめる訳にはいかない!!」

 

 ビームサーベルを抜き、斬りかかるフリーダム。

 

 その一撃を、紙一重で回避するアヴェンジャー。

 

 フレイは、すかさず反撃に出る。

 

 背中を向けたフリーダム。

 

 そこへアヴェンジャーは、レールガンを放つ。

 

 対して、キラは一瞬早くフリーダムを宙返りするように反転させると、パラエーナを展開。アヴェンジャーに向けて撃ち放つ。

 

 飛来するプラズマビームを、回避するアヴェンジャー。

 

《御立派な理屈ね。パパを殺した男の言葉とも思えないわ!!》

 

 辛辣な言葉が、キラの胸をえぐる。

 

 フレイの父親を救えなかった。その事は事実だからだ。

 

 だが、

 

「だからって、負けてあげる訳には、いかない!!」

 

 言い放つと同時に、フルバーストを展開。一斉射撃を仕掛ける。

 

 その攻撃に、アヴェンジャーは堪らず後退する。

 

 再びビームサーベルを抜き放ち、斬り込んで行くフリーダム。

 

《それは、こっちのセリフよ!!》

 

 迎え撃つように、全砲門を解放するアヴェンジャー。

 

 キラとフレイ。

 

 両者ともに、一歩も引かないまま激しい攻防を続けていた。

 

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエ前でも、激しい攻防が続いていた。

 

 既に大和は、その身に100発近い攻撃を受け、爆炎と閃光に包まれていた。

 

 装甲は剥がれ落ち、武装は次々と破壊されている。

 

 3基の主砲こそ健在だが、後部の副砲は破壊され、イーゲルシュテルンは全て根こそぎにされている。

 

 艦内各所に爆炎が躍り、通信や回路の断裂が相次いでいる。

 

 いかに最強戦艦と言えど要塞とまともに撃ち合えば、大岩と路傍の小石程度にも差がある。

 

 そしてそれは、周囲を飛び交うモビルスーツにも言える事だった。

 

 デュエル、バスター、そして2機のM1は、圧倒的な大軍の前に獅子奮迅の奮戦をするも、徐々に押し寄せる波に飲み込まれようとしていた。

 

 そして、ついに砲撃がライアのM1を捉えた。

 

「あうッ!?」

《ライア、クソッ!!》

 

 とっさにディアッカがバスターを操り、片腕を吹き飛ばされたライア機の援護に入る。

 

 肩のミサイルを一斉発射し、敵機を退けるバスター。

 

 更に、対装甲散弾砲を発射。向かって来るシルフィードダガーを一掃する。

 

 だが次の瞬間、別方向からの攻撃を受け、バスターは左足を吹き飛ばされた。

 

《くッそッ!?》

「ディアッカ!!」

 

 どうにか、M1頭部のイーゲルシュテルンで応戦しようとするライア。しかし、そんな物は蚊に刺されたほどのダメージも、相手には与えられない。

 

 損傷した2機をカバーするように、デュエルが立ちはだかったビームライフルを放つ。

 

《お前達は大和に戻れ!!》

「でも!! イザーク!!」

 

 押し寄せる大軍を前に、デュエルとシンのM1だけでは到底持ちこたえられない。

 

 しかし、

 

《うろちょろするんじゃないッ 邪魔なだけだ!!》

 

 強引に押しかぶせるように叫ぶイザーク。

 

 これもまた、彼の持つ優しさの一つなのかもしれない。

 

 そんなデュエルの横に、シンのM1が並び立つ。

 

「まだ行けるか?」

《この程度で参るかよ》

 

 イザークの問いかけに、シンは強がるように返事を返す。

 

 その様子が、妙に可笑しくて笑ってしまう。

 

 何となく、少し前までの自分を見ているような気がしたのだ。

 

「なら、もう少し付き合え!!」

 

 言い放つと、イザークは再びトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

「艦首第2装甲板貫通!!」

「左舷、第2機関室に火災ッ 自動消火装置、作動します!!」

「後部砲撃指揮所、全滅ッ 生存者無し!!」

「居住区にて火災発生ッ 手が付けられません!!」

「48から、72番回路、使用不能!!」

「艦稼働率、64パーセントまで落ちます!!」

 

 次々と齎される報告が、大和が一寸刻みに破壊されて行く様子が映し出されている。

 

 既に艦内は破壊と爆炎に席巻され、クルーの命が次々と失われて行っている。

 

 主要な火器も殆どが破壊され、使用不能に追い込まれている。

 

 しかしそれでも、大和はその場から頑として動こうとはしなかった。

 

 まるで根が生えたように、その場にあり続け、生き残っている9門の主砲を放ち続けていた。

 

「艦内、ダメージコントロールッ 手隙のクルーは火災箇所へ!!」

「回路復旧急げッ 敵は待ってくれないぞ!!」

 

 ユウキが声を張り上げて、矢継ぎ早に指示を下している。

 

 状況は加速度的に悪くなっている。このままでは、最悪、撃沈もあり得るだろう。

 

「敵砲撃、来ます!!」

 

 オペレーターが報告した瞬間、

 

 ヤキン・ドゥーエからの砲撃が着弾し、大和を大きく揺らす。

 

「ッ!? 損害報告!!」

「右舷後部、第3装甲板貫通ッ 右舷エンジン被弾ッ 使用不能!!」

 

 その報告に戦慄する。

 

 右舷側のエンジンがやられたと言う事は、大和のエンジンは半分死んだと言う事だ。

 

 更に言えば、大和は装甲を3重に張り巡らせて、防御を強化している。その3番目の装甲が破られたと言う事は、最早、敵の攻撃は防ぎえないレベルにまで達していると言う事だ。

 

「クッ・・・・・・」

 

 唇をかむユウキ。

 

 しかし、今も要塞内で奮戦している突入隊の為にも、こんな所で諦める訳にはいかない。

 

「主砲発射急げッ 狙いは正確にな!!」

 

 その勇気の声にこたえるように、9門の主砲を発射する大和。

 

 しかし、度重なる攻撃で既に、照準装置にも狂いが生じ始めている。放たれる手法の照準も、微妙に合わなくなり始めていた。

 

 次の瞬間、更なる砲撃が襲い掛かって来た。

 

 激震。

 

 同時に艦橋内も、強い衝撃で揺さぶられた。

 

 と、

 

「グッ!?」

 

 ユウキのすぐ後ろ。一段高い艦長席から、くぐもった声が漏れて来た。

 

 振り返ると、そこに泰然と座していた筈のトウゴウの姿が無い。

 

「艦長!!」

 

 慌てて席を放り出し駆け寄ると、トウゴウは床に投げ出される形で転がっていた。

 

「艦長ッ しっかりしてください!! 医療班、ただちに艦橋へ!!」

 

 マイクに向かって叫び、トウゴウを助け起こす。

 

 すると、トウゴウは僅かに目を開く。

 

「ふ、副長・・・・・・」

「しっかりしてください、艦長。間もなく医療班が来ます」

 

 ここで艦長が不在となるのは痛いが、トウゴウはもう高齢だ。無理をさせる訳にはいかない。

 

 しかしトウゴウは、ユウキの声には答えずに、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・・・・まさか、自分がこんな遠くまで来る事になるとは、若い頃には思いもしなかったよ」

「・・・・・・艦長?」

「我等の故郷は、遥か遠くになってしまった。だが、オーブの人々は強い。今はダメでも、何れは復興の道を歩み始めるじゃろう」

 

 そう言うと、トウゴウはユウキを見る。

 

「それを成すのは、儂のような老人では無く、副長、君やカガリ様のような若い者達だ。我々が、それを妨げるような真似は許されんのだ」

 

 言いながら、トウゴウはユウキの手を握る。

 

 節くれだった、皺の寄った厳つい手。長い時を戦いの中で過ごしてきた、武人の手である。

 

「良いか、カガリ様を守るのだ。あの方は我等の希望だ。あの方無くして、オーブはあり得ない」

 

 それは、長くオーブの軍人として、あるいはカガリやウズミと親しい者として接してきたトウゴウだからこそ、言える言葉だった。

 

 そのトウゴウの手を、ユウキもしっかりと握り返す。

 

「判りました」

 

 しっかりと頷くユウキ。

 

 そこへ、報せを受けた医療班が駆けこんで来る。

 

 とにかく、負傷した艦長を治療する為に後走する必要がある。

 

「後は、頼むぞ」

 

 弱々しい一言と共に、トウゴウはストレッチャーに乗せられて運ばれて行く。

 

 それを確認してからユウキは、

 

 改めて副長席に座った。

 

「これより指揮を継承する。主砲は砲撃を続行せよ。ダメコンチームは復旧と戦闘力維持に傾注、突入隊と連携が図れるよう、通信回線は最優先で確保しろ!!」

 

 矢継ぎ早に命令を飛ばす中、ユウキの下へオペレーターから報告が上げられる。

 

「バスター、及びM1、ハーネット機帰還。損傷がある模様です!!」

 

 報告に、ハッと顔を上げてスクリーンを見ると、互いに寄り添うようにして戻って来る2機が映し出されて来る。

 

 この十字砲火が飛び交う中、損傷した機体を引きずって戻ってくるのは容易では無かった事だろう。

 

「直ちに収容準備ッ 右舷フライトデッキ解放、整備班、着艦ネット、及び消火班準備!!」

 

 ユウキの目は、一瞬、抱えられるようにして戻って来るM1へ向けられる。

 

 しかし、それも一瞬の事だ。

 

 すぐに視線を戻し、指揮に集中する。

 

 ライアの事は心配だが、今はその事を気にする時ではない。彼女を助ける為にも、自分は自分のすべきことをしようと思ったのだった。

 

 尚も激しくなる砲撃の中、大和は頑強にその場にあって抵抗を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヴェンジャーからの一斉砲撃。

 

 それをフリーダムは、上昇する事で回避する。

 

 同時に全砲門を展開、フルバーストモードへと移行する。

 

「クッ!?」

 

 その様子を確認したフレイは、とっさに回避する為に機体を逃がそうとする。

 

 しかし、一瞬遅かった。

 

 解き放たれる5つの砲門。

 

 虹を思わせる鮮烈な閃光は、逃げようとするアヴェンジャーを直撃した。

 

 アヴェンジャーの両腕が、そして肩のレールガンが吹き飛ばされる。

 

《クゥッ!?》

 

 唇を噛みながら、後退を掛けるフレイ。

 

 そのまま頸部のヒュドラを撃とうとする。

 

 しかし、

 

 その前にビームサーベルを抜いたフリーダムが、一気に斬り込んで来た。

 

 それに対するアヴェンジャーの動きは、あまりにも遅い。

 

 駆け抜けた瞬間、フリーダムの剣はアヴェンジャーの両脚を大腿部の部分から斬り飛ばしていた。

 

 機体を振り返らせるキラ。

 

 アヴェンジャーの戦闘力は奪った。まだスキュラが残されているが、胸部にある関係で射線が限られているうえ、手足を失った状態ではまともに機体を安定させる事もできまい。

 

「これで終わりだ、フレイ」

 

 宣告するように、語りかける。

 

「降伏しろ、もう君に勝ち目はない」

 

 キラは、元々フレイの命まで取ろうとは思っていない。彼女の父親を助けられなかったという負い目もあるし、何よりフレイはサイの婚約者だ。彼の為にも、どうにか連れ帰ってやりたいと思っていた。

 

 そんなキラに対して、

 

《さすがね、キラ》

 

 フレイはどこか諦念したように、静かに言う。

 

《正直、敵わないわ》

「・・・・・・フレイ?」

 

 少女の言葉に、キラの脳内では正体不明の警告音が鳴り響いている。

 

 まだ終わっていない。フレイは何か企んでいる。

 

 そう告げられていた。

 

《でもね、一つ、教えてあげる》

 

 言いながら、フレイはコックピット内で、ある操作を始める。

 

 コードをいくつか撃ち込み、壁際に現われたレバーを強く引く。

 

《切り札は、最後まで取っておくものよ!!》

 

 次の瞬間、

 

 アヴェンジャーの外装が弾け飛んだ。

 

「自爆!?」

 

 驚き、目を見開くキラ。

 

 閃光と共に外層が吹き飛ぶ様は、傍から見れば自爆以外には見えなかった。

 

 だが、そうじゃない事がすぐに判る。

 

 剥がれた外装の下から、

 

 別の機体が姿を現わした。

 

 ブロックのような外見で、アヴェンジャーの「胴体」部分に格納されていたその機体は、折りたたまれていた手足を伸ばし、背部に薄い羽根を4枚展開し、最後に特徴的なツインアイを光らせた。

 

 それは最早、アヴェンジャーとは全く違う、別モノの機体と言って良いだろう。

 

 まさか、と思った。

 

 アヴェンジャーの不自然に大きな機体は、前からおかしいとは思っていたのだが、それは大出力兵器を扱う為に大型のバッテリーを搭載している為だと思っていた。

 

 だがまさか、このようなカラクリがあったとは。

 

《どう、驚いた?》

 

 可笑しそうに笑いながらフレイが言う。彼女には今キラが呆気にとられた表情をしているであろう事が、手に取るように判っていた。

 

 フレイは更に続ける。

 

《この機体の名前は「トルネード」よ。どう、何か気付かない?》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 フレイに言われるまでも無く、キラは「その事」に気付いていた。

 

 トルネードの設計思想。それは恐らく・・・・・・

 

「シルフィード・・・・・・」

 

 シルエットは殆ど似ていない。トルネードはシルフィードと比べても、四肢がかなり細く造られている。

 

 しかし、そのいかにも俊敏そうな外見は、かつての愛機を連想させるのに充分だった。

 

《御名答》

 

 フレイもまた、ほくそ笑みながら答える。

 

 あり得ない話では無い。初期Xナンバーの思想を、それぞれ受け継ぐ機体に心当たりはある。

 

 バスターの砲撃力はカラミティに、イージスの可変思想はレイダーに、ブリッツのミラージュコロイド技術は、フォビドゥンのゲシュマイディッヒパンツァーにそれぞれ受け継がれている。

 

 そして、シルフィードの高機動性はトルネードに受け継がれた訳だ。

 

《さあ、行くわよッ》

 

 言い放つと同時に、ビームサーベルを抜き放つトルネード。

 

 迎え撃つように、ビームサーベルを構えるフリーダム。

 

 次の瞬間、

 

 両者は激しく激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエ内部では、尚も激しい攻防戦が続けられていた。

 

 アスランとカガリに率いられた突入隊は、中央指令室に向けて進んでいたが、地球軍もまた、激しい砲火で持って同盟軍を迎え撃っていた。

 

 何しろ向こうは数が多い。

 

 一つの区画を制圧しても、次の区画に移ればそこで十字砲火を食らって足止めされる始末だ。

 

 その度に同盟軍は、少なくない犠牲者を出し戦列を削られて行く。

 

 そんな中でアスランは、獅子奮迅とも言える活躍を見せていた。

 

 自前のハンドガン1丁を駆り、1発の銃弾も無駄にする事無く敵兵を屠り続ける。

 

 マガジンが空になると、倒れた兵士からライフルを奪い応戦する。

 

 幸いな事は、要塞内部の構造はアスランの記憶にある物と変わっていない事だった。その為、アスランは迷わず中央指令室への最短距離を進む事ができた。

 

 そしてついに、同盟軍は中央指令室へ通じる区画へと辿り着いた。

 

 ここに来るまでに、戦力の半分近くをやられている。

 

 だが、今更引き返す事はできない。

 

 今こうしている間にも、キラを始め多くの仲間達が戦っているのだ。

 

「行くぞ」

 

 低い声と共に、アスランが駆けだそうとした。

 

 その時、廊下の向こうから地球軍兵士が現れて銃撃を仕掛けて来た。

 

 とっさに身を伏せるアスラン。カガリも、辛うじてそれに続く。

 

 だが、カガリの隣にいた少女は、僅かに間にあわなかった。

 

「あァ!?」

 

 体に銃弾を浴び、悲鳴と共に床に倒れる少女。

 

 その光景が、カガリにはスローモーションのように映った。

 

「アサギィ!!」

 

 とっさにアサギを抱き上げるカガリ。

 

 が、しかし、体から鮮血を噴き出すアサギは、まるで全てを諦めるように笑顔をカガリへと向ける。

 

「あは・・・・・・ちょっと、ドジ踏んじゃいました。これじゃ・・・マユラと、ジュリに・・・怒られちゃいますね」

「しゃべるなアサギッ」

 

 必死に呼びかけるカガリ。

 

 だが、無情にも少女の命の灯は、ゆっくりと消えていく。

 

「・・・・・・カガリ様・・・カレ、絶対に、離しちゃ、ダメですよ・・・・・・約束、です・・・・・・か・・・ら・・・・・・・・・・・・」

 

 静かに目を閉じると、アサギの時は永遠に停止する。

 

 アサギ、マユラ、ジュリ。

 

 オーブからずっとついて来てくれた友人の少女3人は、これで全員、命を落としてしまった事になる。

 

「カガリ・・・・・・」

 

 悄然とするカガリに、地球軍の掃討を終えたアスランが語りかける。

 

 それに対してカガリは、零れ落ちる涙を強引に拭うと立ち上がった。

 

「行こう、もうすぐそこなんだろ」

 

 いっそ淡々とした調子で、カガリは言った。

 

 悲しむのはあとでもできる。今は、これ以上の悲しみを増やさない事が重要だった。

 

 そのカガリの決意をくみ取り、アスランや、他の同盟軍兵士達も後に続く。

 

 破滅の時はたゆむ事無く、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 全ての障害を排除し、突入隊はようやく司令室の扉を開く事に成功した。

 

 まだ内部にいた敵が銃を手に応戦してくるが、それはアスラン達が手早く排除して中へと入る。

 

 中央指令室内部は、そこで行われた惨劇を物語るように、辺り一面血の海と化していた。

 

 嘔吐が込み上げて来る。

 

 ここには100人以上のオペレーターが詰めていた筈。その全員が殺されたとなると、状況は想像を絶している。

 

 しかし、悠長に眩暈を覚えている暇は無い。こうしている間にも、ジェネシスの発射シークエンスは進められているのだ。

 

「2人は見張りに残り、ただちに作業に入れ!!」

「ハッ」

 

 カガリの指示を受け、2人の兵士が入口の見張りに立つと、アスランを含めて数人がコンソールに飛びついて、作業を開始する。

 

 とにかく発射シークエンスを止めるか、せめて射線を逸らすように仕向けなくてはならない。

 

 だが、作業を開始して暫くすると。

 

「カガリ様、ダメです」

 

 兵士の1人が、悲痛な叫びを発した。

 

「既に発射シークエンスは最終段階に入っている。今から発射を止めるのは無理だ」

 

 アスランが、額に汗を滲ませて言う。

 

 既にジェネシスの内部には、充分なエネルギーが充填されてしまっている。今から発射を止めるのは不可能だった。

 

「なら、射線の変更は?」

「それも無理だ。もう時間が無い」

 

 ジェネシスの動きは遅い。射線を変更する前に発射されてしまう。

 

 万事休す。

 

 最早、自分達に打つ手は無い。プラントは撃たれ、多くのコーディネイター達が命を落とす。それを止める手立ては無い。

 

 誰もが絶望に打ちひしがれた。

 

 その時、

 

「・・・・・・・・・・・・ヤキンを自爆させよう」

 

 アスランがポツリと言った。

 

「アスラン?」

 

 怪訝な面持ちのカガリを余所に、アスランは再びコンソールに飛びつくと、一心不乱に指を動かしキーを打ち込んで行く。

 

「ジェネシスはヤキン・ドゥーエで発射シークエンスを管理している関係で、システムがリンクしている。ヤキン・ドゥーエの自爆と連動させることで、ジェネシスを自爆させる事ができるかもしれない」

 

 言いながらも、アスランは目を逸らさずにキーを打ち続ける。

 

 やがて、

 

「よし、行けるぞッ」

 

 システムをダイレクトに繋ぎ、シグナルを連動させる。同時並行でヤキン・ドゥーエの自爆シークエンスを立ち上げ進めていく。

 

 アスランの意図を理解した他の兵士達も、手伝って作業を進めていく。

 

 その時、入口の方で銃声が響いた。

 

「カガリ様、お急ぎくださいッ 敵の増援です!!」

 

 見張りに立っていた兵士が、応戦しながら叫ぶ。

 

「まだか、アスラン!?」

「もう少し・・・・・・よし、できたッ」

 

 最後にエンターキーを押しこむと同時に、パネルにはカウントダウンの数字が流れ始める。

 

 自分達が脱出する時間も含めて、タイムリミットは15分に設定。数字は勢い良く減り始める。

 

「よし、良いぞ、急げ!!」

 

 アスランに促され、撤収を開始する一同。

 

 目的を達した以上、長居は無用だった。

 

 

 

 

 

 速い

 

 キラはコックピットの中で、思わず息を飲む。

 

 フレイの操る機体。

 

 トルネード。

 

 外装を強制排除して現れた機体は、それまでのデッドウェイトを振り払ったかのように、圧倒的な加速力と機動力でフリーダムへ迫ってきた。

 

「クッ!?」

 

 振るわれるビームサーベルの一閃。

 

 その一撃を、フリーダムはシールドを翳して、辛うじて回避する。

 

《やるわねッ けど、まだまだ!!》

 

 言い放ちながら、トルネードを反転させるフレイ。

 

 そこへ、フリーダムはビームライフルを撃ち放つ。

 

 しかし当たらない。

 

 フレイは機体を急激にターンさせて、攻撃を回避したのだ。

 

 その急な動きに、フリーダムの照準が追いつかない。

 

「クッ そんなッ!!」

 

 焦ったキラは更に立て続けにライフルを放つが、トルネードはヒラリヒラリと回避する。

 

《遅いわよ!!》

 

 叫びながら、腕に仕込んだビームガンを放つトルネード。

 

 その攻撃を、キラはフリーダムを上昇させて回避する。

 

 そこへ、トルネードが追撃として斬り込んで来る。

 

 振るわれる光剣の一撃。

 

 その攻撃を、フリーダムは辛うじて回避する。

 

「何だ、この動きは!?」

 

 常識を遥かに超える程の攻撃を前に、キラは反撃もままならず後退しようとする。

 

 しかし、その時には既に、トルネードはフリーダムの前に接近していた。

 

《逃がさないわよォ!!》

 

 斬り上げるようなビームサーベルの一撃。

 

 その一閃が、フリーダムの前面装甲を掠める。

 

「クッ!?」

 

 どうにか後退しながら、フリーダムのビームライフルを放つキラ。

 

 しかし、やはりトルネードは、ヒラリヒラリと回避して、全く命中しない。

 

 トルネードは言わば、シルフィードの設計思想を極限まで先鋭化した存在だ。

 

 基本は「防御力を犠牲にした上での機動性の確保」だが、例えばM1の場合は「防御力を維持したまま可能な限り軽量化する」事を目指し、装甲には、鋼鉄より軽量で、かつ強度も高い発砲金属装甲を採用している。

 

 しかしトルネードはそれらとは異なり、「戦闘が可能なぎりぎりのラインまで装甲を削りきる」事を目的としている。その為、装甲には強化プラスチックを採用。武装もビームサーベル2本に、アンチビームスモールシールド2基、そして腕部のシールド下に仕込んだビームガン2基のみである。

 

 フリーダムが天使なら、トルネードはさしずめ妖精だろうか? それくらい華奢な機体は、宇宙空間にいるにもかかわらず、まるで風に舞うようにフリーダムの攻撃を回避する。

 

 一発でも食らえば、撃墜必至のトルネード。

 

 故に、パイロットには全ての攻撃を回避する技量が求められる。

 

《逃がさないと、言ったわよ!!》

 

 両腕のビームガンを連射してくるトルネード。

 

 その攻撃を回避するフリーダム。

 

 しかし、

 

《遅いィィィ!!》

 

 フレイの叫びと共に、一気に斬り込んで来るトルネード。

 

 その一撃が、フリーダムの右足を斬り飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 とっさに距離を置くキラ。

 

 全砲門を展開し、フルバーストモードへ移行する。

 

 迸る虹色の閃光。

 

 しかし、

 

 それすらフレイは、あっさりと回避してしまった。

 

《そんな遅い攻撃ィッ 当たる筈ないでしょうがァァァ!!》

 

 言いながら、ビームガンを連射。

 

 フルバーストモードに移行していたフリーダムは、ビームライフルと、左腰のクスィフィアスを一気に吹き飛ばされた。

 

「そんな・・・・・・」

 

 愕然としつつも、キラはビームサーベルを抜き放つ。

 

 自分が、

 

 この自分がこうまで一方的にやられて行くとは。

 

 自慢ではないが、キラにも今までの戦いを生き抜いて来たという自負がある。その自分が、まさか手も足も出ないとは。

 

《どうかしら、昔の自分の機体に嬲られる気持は?》

 

 ビームガンを放ちながら、フレイが話しかけて来る。

 

《圧倒的な力でねじ伏せられる気持はどうかしら?》

 

 その攻撃を、シールドで防ぎながら、どうにか距離を置こうとするキラ。

 

 それを追って、フレイも前へ出る。

 

《でもね・・・・・・》

 

 一瞬、砲撃が止む。

 

 次の瞬間、

 

《あたしの苦しみは、こんなもんじゃなかったわよ!!》

 

 一気に接近して来るトルネード。

 

《その苦しみを、アンタにも味あわせてあげるわ!!》

 

 振るわれる光刃。

 

 その攻撃を、フリーダムはとっさに後退して回避する。

 

《もうすぐ、この世に絶望が降り注ぐ!!》

 

 それを追って、前に出るトルネード。

 

《あたしが、絶望を振りまく!!》

 

 振り下ろす光刃。

 

《そして、世界を終わらせてあげるわ!!》

 

 その一撃を、後退しながら

 

 キラは、シールドで振り払った。

 

《アンタ達にパパを殺されッ 地球軍に入ったあたしは、来る日も来る日も、過酷な訓練ばかり!!》

 

 振るわれる剣の一撃を、フリーダムは辛うじてシールドで防ぐ。

 

《罵られ!! 貶められ!! けなされ!! 自分のあらゆる人格が否定されるような日々!!》

 

 フリーダムはとっさに反撃の剣を振るうが、その前にトルネードは、後方に飛び退く。

 

《いつしか、昔の自分がどんなだったかすら判らなくなった!!》

 

 後退しながらトルネードがビームガンを放ってくるのに対し、フリーダムはシールドで防ぎながら後退するしかない。

 

《そんな気持ちが、アンタに判る!?》

「それでも、こんな事が許される訳が無い!!」

 

 加速するフリーダム。

 

 その一瞬の行動に、フレイは対応が追い付かなかった。

 

 トルネードの剣を、シールドで跳ね上げるフリーダム。それと同時に振るった光刃が、トルネードの左足を斬り払う。

 

「君の気持は判った。けど、それでもコーディネイターを全滅させようとするなんて、絶対に間違っている!!」

《クッ!?》

 

 後退しながら、ビームガンを放つトルネード。

 

 しかし、片足を失ったバランスの補正が追いつかず、僅かにフリーダムの翼端を削るに留まる。

 

 その間にキラは更に接近しビームサーベルを一閃、トルネードの左腕を斬り飛ばした。

 

「目を覚ますんだ、フレイッ こんな事をしちゃいけない!!」

《アンタが言うなァァァァァァ!!》

 

 叩きつけるような一言。

 

《あたしから幸せを奪ったアンタが、偉そうに綺麗事言ってんじゃないわよ!!》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 静寂が両者の間に訪れる。

 

 フリーダムは直撃弾多数を受けて、既にボロボロの状態。

 

 対して、トルネードも片腕片足の状態にまでなっている。

 

「・・・・・・・・・・・・そうだね」

 

 暫くしてから、キラは口を開いた。

 

「今の君を、そんな風にしてしまったのは、僕だ。それはもう、償えないかもしれない」

 

 ゆっくりとしゃべるキラに対し、フレイは無言のまま聞き入る。

 

「けどね、もう戻る事は出来ないの?」

《・・・・・・え?》

 

 キラの言葉に、

 

 初めてフレイの中で、動揺が起こった。

 

「確かに、君は変わってしまったのかもしれない。以前の君じゃないのかもしれない。けど、勇気を出せば、昔の君にだって戻る事ができる筈だよ」

《そんな・・・・・・そんな事・・・・・・》

 

 昔の自分。

 

 昔の、まだ無垢だった頃の自分。

 

 友達と楽しくおしゃべりして、休日、遊びに行く予定を立てて、流行のオシャレ情報を読み漁ってた頃。

 

 そんな光り輝いていた頃の自分。

 

 そして、

 

「サイも、きっと君の事を待ってる」

「あ・・・・・・さ、サイ・・・・・・」

 

 婚約者だった少年。親の決めた事とか、そんな事は全く関係なく大好きだったサイ。

 

「どう、して・・・・・・」

 

 どうして、今まで、彼の事を思い出せなかったのだろう?

 

 あんなに大切に思っていたのに。

 

 涙が、零れ落ちる。

 

 ここにくるまでに失った物の、何と多い事か。

 

 優しかった父、大切な友人、幸せだった生活、大好きなサイ。

 

 そして、自分自身。

 

 何もかもが、あまりに変わり果ててしまっていた。

 

《・・・・・・・・・・・・戻、れるの?》

 

 ややあって、フレイはか細い声で尋ねた。

 

《また、あの生活に、戻れるの?》

「戻れる。君が望みさえすれば、きっと戻れる」

 

 そう言って、手を伸ばすキラ。

 

 フレイも、それに導かれるように、キラに向けて手を伸ばす。

 

 2人の手が結ばれる。

 

 これで、全てが終わった。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 トルネードのコックピットを、閃光が貫いた。

 

 

 

 

 

《あ・・・・・・・・・・・・》

 

 キラが呆気にとられる中、

 

 フレイが、声を漏らす。

 

 次の瞬間、トルネードは閃光と爆炎に包まれ、四散した。

 

「フレェェェェェェイ!!」

 

 手を伸ばしたキラの目の前で、少女は炎の中に沈み、消えていった。

 

 そして、

 

《クハハハハハハハハハハハハハハ!!》

 

 耳障りな哄笑が、スピーカーから流れ出て来た。

 

 視線を向けるキラ。

 

 そこには、

 

《残念だったなァ キラァッ もうちょっとだったのになァ!!》

 

 忘れる筈も無い、仇敵の姿が。

 

 ジャスティス、フリーダムと交戦して半壊したフォーヴィアは、頭部、両脚、両腕を失い、下半身もごっそり抉られて、殆ど残骸のような様相をしている。

 

「クライブッ!!」

 

 フォーヴィアは見た限り、動くかどうかも怪しい程に損壊しているが、それでも唯一残ったギガスのスキュラを使い、トルネードを背後から撃ち抜き撃墜したのだ。

 

《折角おもしろそうだと思って覗いてみれば、何だよ、この茶番はよ? がっかりさせてんじゃねえよ!!》

 

 言いながら放ったスキュラが、フリーダムの左肩を直撃し、肩から先を吹き飛ばす。

 

《目障り過ぎて目ヤニが湧くぜッ 良いからテメェも、もう死ねよ!!》

 

 更にスキュラを放つフォーヴィア。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 キラの中でSEEDが弾けた。

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 キラは残ったフリーダムの右手でビームサーベルを抜き放つと、もう一方のサーベルの柄と連結させ、アンビテクストラスハルバードを構える。

 

 そして、スラスターを全開まで吹かし、フォーヴィアへと突撃する。

 

「クライブッ お前は、お前だけは、絶対に許さない!!」

 

 その鬼神の如き、凄まじい咆哮。

 

「うッ!?」

 

 あまりの激しさに、思わずクライブはのけ反った。

 

 放たれたスキュラが、僅かに逸れ、フリーダムの左翼を薙ぎ払う。

 

 しかし、クライブにできたのはそこまでだった。

 

 スキュラを撃ち切り、動きを止めたフォーヴィア。

 

 そのコックピットへ、

 

 フリーダムのビームサーベルが、根元まで深々と突き刺さった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 サーベルを突き刺した状態で、動きを止めるキラ。

 

 対して、

 

《・・・・・・ク・・・・・・ハハ、ハ・・・・・・》

 

 通信回線から、僅かに聞こえて来るクライブのくぐもった笑い。

 

 正に、その瞬間だった。

 

 フリーダムとフォーヴィア。

 

 2機の足元、ヤキン・ドゥーエの地上に巨大な亀裂が走った。

 

 それを認識した瞬間、

 

 亀裂から炎が噴き出し、2機をあっという間に包み、飲み込んで行く。

 

 キラは、とっさに機体を脱出させようとするが、それももう叶わない。

 

「・・・・・・・・・・・・エスト」

 

 最後に、自分自身でそう呟いた気がしたが、それすらももう判らない。

 

 そのまま、キラの意識は炎に呑まれて消えていった。

 

 

 

 

 

 自爆シークエンスが始まった時、アスラン達はちょうど脱出の為に連絡艇に乗り込んだところだった。

 

 激しい戦闘により、突入隊は当初の5分の1以下にまで減少していた。

 

 その全員が連絡艇に乗り込んだ瞬間、思わず立っていられなくなる程の激震が走り、廊下側から炎が一気に迫って来るのが見えた。

 

「始まったぞ、急げ!!」

 

 カガリの声に急かされるように、アスランは連絡艇のエンジンを点火し、スラスターを逆噴射に入れる。

 

 急激な加速により、一気に後退する連絡艇。

 

 その連絡艇に掴みかかるように、炎が迸って来る。

 

 間一髪、橋頭堡が炎に飲み込まれた瞬間、連絡艇は宇宙空間に放り出されるように脱出する事に成功した。

 

 その姿は、ボロボロに大破しながらも奮戦を続けていた大和でも確認できた。

 

「味方連絡艇の脱出を確認!!」

 

 オペレーターの声にモニターを振り仰ぐと、真っ直ぐにこちらへと向かって来る脱出艇の姿が映った。

 

「すぐに収容準備急げッ それからデュエル、及びアスカ機へ打電。『作戦完了、ただちに帰還せよ』。脱出するぞ!!」

 

 ユウキの命令に従い、ただちに収容準備が開始される。

 

 唯一、要塞から戻って来る事ができた連絡艇をフライトデッキに収容する。

 

 同時に、反対舷からはデュエルと、シンのM1がふらつくように着艦するのが見える。

 

 両機ともボロボロに傷付いているが、それでもパイロットは健在なようで、開いたフライトデッキに無難に着艦する。

 

 それを確認すると、大和は長大な艦首を振り、よろめくように要塞から離れていく。

 

 突入隊の上陸から帰還まで橋頭堡を守り抜いた事を満足するように、その傷付いた体を再び虚空へと泳がせる大和。

 

 一拍置いて、ヤキン・ドゥーエ表層の亀裂は、一気に回復不能なレベルまで拡大する。

 

 そこかしこから炎と閃光が躍り、要塞その物を飲み込んで行った。

 

 ほぼ同時に、ジェネシスでも異変が起こった。

 

 巨大なパラボラアンテナ型の大量破壊兵器は、突如、その表面に閃光が走ったかと思うと、一気に爆炎が噴き出し、崩壊していく。

 

 その様子は、地球軍艦隊と交戦しているエターナルとクサナギからも確認する事ができた。

 

 内部にエネルギーをため込んだジェネシスの爆発は凄まじく、近くに陣取っていた地球軍艦隊は巻き込まれる物もあるくらいである。

 

 その様子を見て、バルトフェルドは反転離脱を命じる。

 

 誰もが呆然と見守る中、

 

 人類を震撼させた大量破壊兵器は、ゆっくりとその身を炎の中へと沈めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終戦の鐘の音が、響き渡る。

 

 ジェネシス崩壊とほぼ時を同じくして、ザフト軍、地球連合軍は共に戦闘行動を停止した。

 

 地下で活動を続けていたクライン派が、監禁されていたアイリーン・カナーバ以下、旧プラント穏健派を奪還する事に成功した事が大きな原因である。

 

 救出されたアイリーンはその足で兵士達を率い、衛星にある軍本部を制圧。エザリア・ジュール以下、強硬派議員達を逮捕、拘束し主導権を奪取する事に成功したのだ。

 

 アイリーン・カナーバの名前で、地球連合軍に停戦の申し入れが成され、地球連合軍次席指揮官がその申し出を受諾。停戦協定に合意が成された。

 

 両軍とも、この一戦で凄まじいまでの損害を出している。

 

 事実上、戦闘不能による行動停止に近いが、なにはともあれ、これで2年続いた戦争が事実上の集結を迎えた事だけは確かだった。

 

 そして、

 

 

 

 

 

「すまない」

 

 悄然としたまま、アスランは目の前の少女に詫びる。

 

 ここはアークエンジェルの艦内。

 

 ヤキン・ドゥーエとジェネシスの崩壊を確認したL4同盟軍は、旗艦アークエンジェルと合流後、戦場からの離脱を計っていた。

 

 何しろ戦闘が終結したとはいえ、同盟軍は地球軍ともザフト軍とも敵対した身である。血の気の余っている両軍の部隊から襲撃を受ける可能性は考えられる。

 

 それに対して同盟軍には、最早まともな戦闘力を保持した機体は1機も残っていなかった。

 

 故に、安全確保の為にも速やかに戦場を離脱する必要があるのだ。

 

 だが、

 

 撤収する同盟軍の中に、功労者の1人である少年の姿は無かった。

 

 キラは、ついに戻らなかったのだ。

 

 念の為、損傷の小さいエターナルがギリギリまで戦場宙域に留まり捜索に当たったが、フリーダムが帰還する気配も、固有の救難信号をキャッチする事もできなかった。

 

 MIA。そう認識せざるを得なかった。

 

「・・・・・・別にアスランが謝る事でもないと思います」

 

 ややあって、エストは淡々と言った。

 

 いつも通りの抑揚を欠いた言葉づかい。

 

 傍らで見守っているラクスとカガリも、心配そうな目を少女へ向けて来ている。

 

「どうせ、あの人は碌な死に方はしないだろうと思っていましたし。約束も守れないような、人でしたから・・・・・・」

「エスト?」

 

 カガリが声を掛けるのも構わず、エストは語り続ける。

 

「むしろ、贅沢な死にかただったかもしれません。テロリストとして処刑されるよりも、地球やプラントを守って死ぬ事ができたんですから」

 

 突き放すように、冷たい言葉を吐くエスト。

 

 そんな少女に対して、

 

「エスト・・・・・・」

 

 ラクスが、そっと語りかける。

 

「無理をしなくても、良いのですよ」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 ラクスの言葉に振り返るエスト。

 

 その瞳から、

 

 一筋の涙が零れ落ちた。

 

「クッ」

 

 その姿を見て、カガリが駆け寄ると、少女の小さな体を抱きしめる。

 

「・・・・・・カガリ?」

「馬鹿野郎ッ 泣きたい時は、泣けば良いんだよッ いつまで、そうやって気取ってるつもりだよ!?」

 

 カガリのその一言が、エストの精神を支えていた最後の糸を断ち切る。

 

 堰を切ったように、つぶらな瞳からはポロポロと涙が零れ落ち、顎を伝って床へと落ちていく。

 

「・・・・・・・・・・・・キ・・・・・・ラ・・・・・・」

 

 最早、感情の激流を、止める事ができなかった。

 

「・・・・・・キラ・・・・・・・・・・・・キラァッ・・・・・・・・・・・・」

 

 自らが初めて発する程、大きな感情の波に翻弄され、少女は止め処無く慟哭の声を上げる。

 

「おねがい・・・・・・ひとりにしないで・・・・・・・・・・・・」

 

 愛する少年を失い、泣き続ける少女の声。

 

 ただそれだけが、失われた者達への弔鐘として、いつまでも静かに鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

PHASE-41「LAST SEED」      終わり

 

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