機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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FINAL PHASE「それでも世界は廻り続ける」

 

 

 

 

 まるで、あの戦いが嘘であったかのように、世界は変わり無く過ぎようとしていた。

 

 一度は人類が絶滅しかけた事など知らぬげに。

 

 後に最終決戦の舞台となった戦場から名前を取られ、「ヤキン・ドゥーエ戦役」と言う名称で呼ばれる戦争が停戦合意に達してから3か月が経過し、地球連合、並びにプラントの代表団は、連日のように講和案の検討に追われていた。

 

 戦端が開かれる原因となった場所で締結された事から「ユニウス条約」の名前で呼ばれる事になる講和条約の草文の内容としては主に、賠償問題、戦争犯罪人の取り扱い、軍縮、Nジャマーキャンセラー等一部技術の兵器転用禁止、占領地の処遇などに言及されている。

 

 尚この間、大戦初期に大西洋連邦によって占領、併合された南アメリカ合衆国において独立戦争が起こるなど、世界は必ずしも平たんな道を歩んでいる訳ではない。

 

 だがそれでも大多数の人達にとって、戦争は昨日よりも過去の出来事になろうとしていた。

 

 緩慢に、しかし確実に、激動の時代は過去の記憶の中にのみ存在する物になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 宇宙ステーション「アシハラ」

 

 戦前から進められてきた軍主導による「宇宙艦隊建造計画」その拠点となるべく、オーブ連合首長国がデブリ帯の中に建設を進められてきた基地である。

 

 軍施設だけでは無く、民間用船舶の活動拠点としての機能も備えられ、オーブの宇宙進出の拠点として期待されていた。

 

 オーブ陥落と共に建造も半ばで中断されていたが、主権が回復するとともに建造再開され、つい先頃、完成を見た。

 

 そのアシハラの周囲を、数機の機体が飛翔していく。

 

 3機編隊で宇宙空間を飛翔するその機体は、かなりのスピードだ。大戦中の機体ですら、ここまでの速度を出せる機体はそうはいなかったように思える。

 

 と、3機は一斉に形を崩したかと思うと、突然人型に変形。同時にまた編隊を組んで飛翔する。

 

 XMVF-M11C

 

 開発コード「ムラサメ」。

 

 オーブ軍が実戦配備を見据え、トライアルを進めている機体である。

 

 先のオーブ防衛戦での戦訓を見据え、代表首長に就任したカガリ主導の下、沿岸防備型の軍隊から外洋制圧型の軍隊を目指しているオーブ軍は、航空戦力の拡充にも力を入れている。

 

 ムラサメの開発も、その一環である。

 

 現在、オーブ空軍では、既存のM1アストレイに2基の回転翼を外付けしたアストレイ・シュライクが主力を務めているが、機動力と後続力に難がある事が指摘されている。

 

 そこでこのムラサメは、戦闘機型のモビルアーマーへ変形する機構が設けられ、機動力は飛躍的に高まっており、オーブを守る新たな翼として期待を寄せられていた。

 

 このムラサメは宇宙専用の改良を施した機体だが、同時並行して、宇宙戦では不要な翼を取り外し、武装と索敵能力を強化した機体も設計されている。

 

「オーケー、リリア、シン、今日のテストは終了、帰投するわよ」

 

 編隊長をと止めるライア・ハーネット二尉は、列機に対しそう告げる。

 

 彼女が率いる小隊には、かつての戦友であるシン・アスカ軍曹とリリア・クラウディス曹長も所属していた。

 

 かつては民間人としてオーブに住み、地球軍の侵攻によって両親を失ったシン。

 

 彼は若輩ながら、戦中には同盟軍の中核として活躍し、戦後もオーブ軍に在籍し続けていた。

 

 今やオーブ軍内でも、彼に勝るパイロットはそう多くないだろう。

 

 そしてリリア。

 

 サイ、トール、ミリアリア等、ヘリオポリスの友人達が軍を抜ける中、彼女だけは戦後も軍に留まり続けている。どうやら、アークエンジェルで整備兵やパイロットとして戦っている内に、メカニック関係に対する興味が強くなったようだ。元々、機械工学系の学生であっただけに、その選択にも頷ける物がある。

 

 ライアも戦時中から言っていた通り、プラントには戻らずそのままオーブへと移籍し、そのままオーブ軍へと在籍。今ではオーブ軍においてモビルスーツ隊の隊長を任されるまでになっていた。

 

《なあ》

 

 間もなく母艦が見えて来る宙域まで来た時、シンが声を掛けて来た。

 

「ん、何?」

《このトライアルって、いつまでやるんだっけ?》

 

 シンの質問に対し、リリアは自分の脳内のスケジュール表を開いて答える。

 

「明日は、向こうのチームが最終調整する予定だから、模擬戦は明後日ね。それが済めば評価段階に入る事になるわ」

《なら、評価は地上でやる筈だから、模擬戦さえ終われば、俺達は帰れるんだよな?》

「そうね」

 

 そもそも、評価自体は設計に携わった技術陣や、作戦担当の参謀も加わる為、後日改めて、と言う形になる。自分達の任務は、あくまで模擬戦と、その後、パイロット独自の意見を纏める事だけだ。これは地上に戻ってからでもできる。

 

《やったねシン。これで、どうにか間に合いそうだよ》

「ん、何かあるの?」

 

 リリアが弾んだ声を出したのを、ライアは怪訝そうに尋ねる。

 

 彼女の記憶には、何か重大な予定があったようには思えない。と言う事は、シンとリリアの間で、何か個人的な予定があったのかもしれない。

 

《ああ~ うん。実はさ、もうすぐマユちゃんの授業参観の日なの。シンはさ、それに行こうと思ってずっと頑張って来たんだ》

 

 その言葉に、ライアは納得した。

 

 シンの妹であるマユは今、オーブ本国で中学校に通っている。その授業参観日が迫っているらしい。

 

 両親が死んでからシンは、マユを目の中に入れても痛くない程に溺愛している。そのマユの為なら、任務すらすっぽかしかねない勢いである。もっとも、流石にそれはまずいので、リリアがブレーキ役を務める事が多いのだが。

 

《それよりシン、マユちゃんの修学旅行の積立金、もう振り込んだ?》

《・・・・・・・・・・・・あッ》

 

 突然、家庭じみた会話になったと思ったら、シンがすっとぼけた声を上げる。どうやら、今の今まで完全に忘れていたらしい。

 

 途端に、スピーカーからリリアの呆れ声が聞こえて来る。

 

《ハァ? あれ確か、今日まででしょ? どうすんのよ?》

《き、基地に帰ったらやるよ!!》

《それだけじゃないわよ。マユちゃんの進路調査のプリントも、ちゃんと見た?》

《あ、当たり前だろ・・・・・・》

《あと、マユちゃん成長期だから、もうすぐ新しい制服も必要になるわよ。学年上がるから、教科書も買わなきゃいけないし》

《わ、判ってるよ!!》

 

 何やら通信越しに痴話げんかを始める2人。

 

 1人、盛大に置いてけぼりを食らったライアは、深々と溜息をつく。

 

「・・・・・・つーかアンタ達、それ、どこの御父兄の会話よ?」

 

 そんな事を言っていると、大型のデブリの影から母艦の姿が見えて来た。

 

 水上艦を思わせる長大なフォルムに、船体から突き出した無数の砲台。

 

 戦艦大和は、戦時中から変わらぬ雄姿を、今も宇宙空間にとどめ置いている。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役における殊勲艦は、同時にオーブ軍宇宙艦隊の初代総旗艦に就任し、オーブの宇宙を守り続けている。

 

 ライアの口元に、笑みが浮かぶ。

 

 今、あの艦の艦橋では、2代目艦長となったユウキが指揮を執り続けている。

 

 彼とまた会う事ができる。そう考えると、自然と心が浮き立つのだった。

 

 

 

 

 

 イザーク・ジュールは、不機嫌の極みだった。

 

 元来、生真面目な性格ゆえか堅物と取られがちの彼だが、私生活においてはむしろ気さくな面が強い。

 

 そんなイザークが、ここのところ不機嫌な事が多い。

 

 理由は、彼の新任の副官にあった。

 

「隊長、この報告書、誤字が多いぞ」

「クッ・・・・・・」

「書類にサインはまだか隊長? 早くしてくれないと仕事が滞る」

「ウグッ・・・・・・」

「午後からはエルスマン隊との合同演習も控えているんだ。隊長自ら遅刻してたら様にならないぞ」

「ウグググッ」

 

 バンッ

 

 たまりかねて、掌を机に叩きつけるイザーク。

 

「文句ばかり言ってないで、貴様も少しは手伝ったらどうなんだ!?」

 

 机をたたいたショックで、うずたかく積まれていた書類の何割かが床へと落ちる。

 

 歴戦の隊長の怒号。

 

 並みの兵士なら、それだけで震えあがるだろうが、生憎この副官、その程度のか細い神経の持ち主ではないようだ。

 

 やれやれとばかりに肩を竦め、苦笑気味に口を開く。

 

「おいおい、俺は自分の仕事をきちんとこなしてここにいるんだ。そんな事言われるのは心外だぞ」

「ウググググググッ」

 

 歯ぎしりするイザーク。

 

 だがしかし、相手が言っている事は一分の隙も無く正論なので、言い返す事もできない。

 

 緑服を着たこの副官、有能であるのは確かである。部隊を指揮させれば類稀なる戦術家の才を示し、モビルスーツを手足のように扱い、おまけに事務方の仕事をやらせれば、どんな官僚型軍人よりも、仕事は正確でかつ早かった。

 

 この副官、名前をアスラン・ザラと言う。

 

 ついこの間まで、父親が前プラント最高評議会議長を務めていた男である。

 

 プラントに戻ったアスランは、当然の如くその身を拘束され、裁判の場所に連れ出された。

 

 罪状はあまりに多い。利敵行為、情報漏洩疑惑、スパイ幇助疑惑、ヤキン・ドゥーエにおける破壊工作、エターナル、およびフリーダム強奪時における反逆罪も加味される。そこへ、イリュージョン追撃任務の失敗も加わる。

 

 大破したジャスティスは持ち帰ったものの、充分に国家反逆罪が適用されるレベルだ。

 

 しかし、カナーバ議員を始め、旧クライン派の議員達が温情措置を取った事、プラント壊滅を未然に防いだ事、その他、多くの場所から助命嘆願が寄せられた事により、特務隊としての特権剥奪、及び緑服への降格処分で軍務復帰が命じられた。

 

 そこでイザークは、アスランを新任の副官として自分の部隊に招いたのだ。

 

 いつか宣言した通り、イザークはアスランの上に立つ事ができたのだ。

 

 しかし、

 

 なぜだろう?

 

 ちっとも上に立った気がしなかった。

 

 アスランが優秀な男である事は疑いようも無く、その能力を如何なく発揮して自分を補佐してくれている。

 

 しかし御覧の通り、あまりに優秀すぎる為、何やら傍から見ればイザークの方がアスランに扱き使われているような感じになってしまっていた。

 

 それにしても、

 

 イザークは、改めてアスランに目をやる。

 

 似合わない。

 

 数十万規模のザフト全軍を見回しても、これほど緑が似合わない男も、珍しいのではないだろうか?

 

 評議会の温情措置とはいえ、イザークはそれだけが不満でならなかった。折を見て上伸し、アスランの赤服復帰を訴えようかとも思っているくらいである。

 

 まあ、とは言え、

 

 どうせアスランの事だ、余計な事をしなくても、どの道何れは自分で自分の立場を取り戻す事だろう。

 

 この男に、赤以外の色が似合う筈も無いのだから。

 

 そう考え、フッと笑みを浮かべた。

 

「ああ、そうだ隊長。エルスマン隊との演習後の合同打ち上げ会だが、払いは全部、隊長持ちと言う事で話を通しておいたからな」

「いい加減にしろ、貴様ァッ!!」

 

 

 

 

 

 うちつける波の音が、耳に心地よく響いて来る。

 

 ここには聞き慣れた爆音も無く、モビルスーツの駆動音も聞こえない。

 

 日がな一日、この場に座って過ごすのも悪くないと思っているくらいだ。

 

 「まるで、おばあちゃんになったみたいですよ」とは、ラクスによく言われて笑われている。

 

 エストは、そんな海を、ただ黙って見つめている。

 

 ここはマルキオ導師の庵がある小島。

 

 かつて、ここからほど遠くない場所で、エストとキラは共に戦い、そして共に人生の転機を迎えた。

 

 あの時エストも、そしてキラも、一度死んだ。

 

 そしてラクスやシーゲル、マルキオと言った多くの人達に導かれ、生まれ変わる事ができた。

 

「キラ・・・・・・・・・・・・」

 

 そっと、大好きな少年の名を呼ぶ。

 

 エストの下から、永遠に失われてしまった少年。

 

 だが、

 

 海原を見詰めるエストの目は、虚ろではあるが、何処までも真っ直ぐに先へ先へと注がれている。

 

 キラは生きている。

 

 必ず生きている。

 

 根拠なんてない。事実として、今に至るまでキラが生きていると言う確証は得られていない。

 

 だが約束を、エストは今でも忘れていない。

 

 キラは必ず帰ってくると言った。

 

 ならば、自分は彼の言葉を信じて待ち続けるだけだ。

 

 遠くから、ラクスが呼ぶ声が聞こえる。

 

 今日は確か、本島からカガリが遊びに来る日の筈。多分、料理を作るのを手伝ってほしいのだろう。

 

 立ち上がり、庵へと向かうエスト。

 

 その砂浜に描かれた小さな足跡も、やがて波にさらわれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED Illusion      END

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUE NEXT PHASE

 

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