機動戦士ガンダムSEED Illusion 作:ファルクラム
1
アスランと呼応するように、ガモフから発艦したイザーク、ディアッカ、ライアの3人もそれぞれ、機体を駆って背後からアークエンジェルへと接近しつつあった。
その前方には、着々と迎撃準備を整えつつあるアークエンジェルの姿がある。
「目標発見。そうそう逃げられると思うなよ!!」
「ヴェサリウスからはアスランも出る。奴に遅れるなよ!!」
ディアッカは軽く、イザークは少し気負った感じで告げると、白亜の巨艦に向けて加速する。
そんな2人に着いて加速しながら、ライアは先に交戦した青いモビルスーツ、シルフィードに想いを馳せる。
あのミゲルを討ち取り、アスランとも互角に渡り合うほどの機体とパイロットだ。そんな相手に、自分はどれだけ戦えるだろうか? 考えただけで期待に胸が膨らむ想いがある。
「さあ、始めよっか!!」
加速するブリッツ。
その視界の中に、こちらに向かってくるトリコロールの機体が目に入った。
「もう1機、確か、ストライクとか言う奴よね」
出撃してきた敵機のデータを、即座に思い出す。
シルフィードは? とセンサーで走査してみるが、それ以外の反応は見当たらない。
その状況に、ライアはコックピット内で露骨に舌打ちした。
「出し惜しみって訳? 随分余裕あるじゃない!!」
言い放つと同時に、ブリッツは右腕に装備した複合防盾トリケロスからビームを発射する。
ブリッツの武装は、殆どこのトリケロスに集中している。これ1つで、サーベル、ライフル、実体弾攻撃全てを賄えるのだ。
対して、ストライクを駆るエストは、反射的にシールドをかざして初撃を防ぐと、すかさずライフルを構えようとする。
しかし、
「頭上がガラ空きってね!!」
天頂方向から接近したディアッカのバスターが、両手に持ったガンランチャーを放ってくる。
「クッ!?」
二方向からの同時攻撃に、エストは堪らずストライクを後退させる。
そこへ、斬り込みを駆けるイザーク。
「ナチュラルのモビルスーツ如きがノコノコ出てくるから!!」
振り翳されるサーベルをシールドで防ぎつつ、ストライクもビームサーベルを抜いてデュエルへ切り込む。
だが、その前に新手の攻撃が進路を阻む。
戦場に到着したアスランのイージスが、牽制の攻撃を行ったのだ。
腕のビームソードを展開したイージスが、ストライクに斬りかかって来るのを、エストは辛うじて後退する事で回避してのけた。
「・・・・・・・・・・・・」
無言のまま機体を操るエスト。
しかし、焦慮は時間を追うごとに増していく。
4対1と言う事以外に、エストを消耗させる原因があった。
それは、ストライクの操縦その物。戦闘機やモビルアーマーの操縦経験ならあるが、モビルスーツでの戦闘は初めてである。その為、思うに任せずにコックピットの中で苦心せざるを得ない。
「クッ!?」
呻きながら、再び攻撃してくるデュエルのサーベルをシールドで防いだ。
戦闘と操縦。外と内の要素が重なり合い、容赦なくエストの精神を削り取っていく。
それでもエストは飛んでくる火線をよけ、斬り込みをかわし、4機のXナンバーを牽制する事に苦心する。
とにかく、何としてもムウがヴェサリウスを叩くまで時間を稼ぐ必要があった。
独房替わりの個室の壁に頭を付けながら、キラは伝わってくる振動を感じている。
先程聞いた警報と、艦の加速、更に扉の外から伝わってくる喧騒と、断続的に続く爆発音。これらから推察できる事態は1つしかあり得ない。
「戦闘中、か」
ならば自分にお呼びが掛かっても良いと思うのだが、未だにその気配が無い。
何の事はない。テロリストの助けなどいらない。そう言う事なのだろう。
だがそうなると、誰か別の人間が迎撃に出ていることになる。
まず思い当たるのが、あのムウ・ラ・フラガ大尉だ。月のグリマルディ戦線で活躍した「エンデュミオンの鷹」がヘリオポリスに居た事は予想外だったが、彼の機体の修復が完了しているのなら、間違い無く迎撃に出ているだろう。
だが、彼は所詮モビルアーマー乗りだ。モビルスーツ主体のザフト軍を押さえるには、いかにも力不足である。どうしても、もう一手、必要なはずだ。
シルフィードは自分以外に動かせないし、OSもちょっとやそっとでは弄れないようにしてしまっている。ならば動いているのはもう1機、ストライクのほうだろう。
すると自ずから、考えられる答えは1つしかなかった。
「出てるのかな、あの娘が・・・・・・」
自分を捕らえた少女の無表情が思い浮かばれる。
キラを無事に連行するのが任務だと言っていた少女が、今度は自分から危険に飛び込んでいっている。
果たしてあの娘は、自分自身も矛盾に気付いているのだろうか?
そんな事をぼんやりと考えながら、キラは戦闘の起こす振動に身を任せた。
状況は一合毎に悪い方向へと流れていく気がする。
ストライクのコックピットに座すエストはその事に気付きながらも、逆転の一手を模索できずに居た。
今はイージスとデュエルがストライクに向かって来ており、ブリッツとバスターはアークエンジェルへ攻撃を行っている。
見た目通り感情が希薄なエストだが、それでも内面では、何とかしなければと言う気持ちは空回る。
分断されて各個に拘束される。4機全てを押さえられるとは始めから思っていなかったが、これでは完全に敵の掌の上で踊らされているようなものだ。
イージスのサーベルを辛うじて回避するエスト。
だがそこへ、すかさずデュエルがライフルを放ってくる。
回避が間に合わず、僅かに装甲を掠めていく。
一方でアークエンジェルの方も、徐々に追い詰められつつあった。主砲とレールガン、ミサイル、対空砲を総動員で迎撃してはいるが、モビルスーツの機動性には追随できずに居る。
モビルスーツ運用、及び対戦闘を考慮に入れた設計がなされているアークエンジェルも、クルーの技量不足と相まって、その性能をフルに発揮しきれずにいる。
火線の網を縫って接近したバスターとブリッツは、アークエンジェルの装甲に砲火を浴びせていく。さすがに数発喰らったくらいで戦艦の装甲は破れないが、いつまで保つか判らない。
そして、それはストライクも同じだった。
このまま追い込まれれば、いずれはジリ貧になる。
その具体的な瞬間は、もうすぐ傍まで近付いている。バッテリーのゲージが、徐々に磨り減って着ていることに事に、エストはまだ気付いていなかった。
唯一の望みは、進路前方を塞ぐ敵艦に奇襲を掛ける為に先行したムウの存在だ。彼の作戦が成功すれば、逆転の目もある。
だがそれが成らずザフト軍の包囲網が完成してしまったら、その時は自分達の終わりだった。
エストの危惧は、まさに現実の物となっていた。
前にヴェサリウス、後ろにガモフ、懐には4機のXナンバーと囲まれているアークエンジェル。その袋の口が、徐々に閉じようとしている。
「照準レーザー検知。前方の敵艦からです!!」
その報告に、マリュー達は息を呑む。それはすなわち、敵艦の射程距離内にアークエンジェルが捉えられた事を意味している。
「ローエングリン、照準!!」
すかさずナタルが叫ぶ。最早待てなかった。敵の包囲が完成する前に、先制攻撃で活路を見出すべきである。
だが、その声にマリューが待ったをかける。
「駄目よ。まだフラガ大尉が先行しています!!」
「しかし、このままでは撃たれます!!」
アークエンジェル最大の武器である陽電子砲破城砲ローエングリンを放てば、敵艦を撃つ事はできるかもしれないが、それでは先行しているムウのゼロも巻き込む可能性がある。
「とにかく撃つ事はできません。回避を!!」
そう命令を下すマリューにも、切羽詰っている事は認識できている。
「・・・・・・・・・・・・」
こうしている間にも4機のXナンバーの攻撃で、アークエンジェルとストライクは追い詰められていく。
時間が無いのも、また事実。
ここが、ジョーカーの切り時だった。
逡巡したのは一瞬。
マリューは決断を下した。
「警備兵に連絡を!!」
出し抜けに、ラウは自分の中に鳥肌の立つような感覚が浮かぶのを感じた。
ほとんど反射的に叫ぶ。
「アデス、機関最大、艦首上げろ、ピッチ角60!!」
だが、突然の上官の言葉に、アデスを始め誰も反応する事が出来ない。
ラウが舌打ちする間に、オペレーターから報告が入った。
「本艦艦底方向より接近する熱源1、モビルアーマーです!!」
その報告に、ようやく事態を理解したアデスが指示を飛ばす。
しかし、高速で一気に接近したモビルアーマーのスピードに戦艦が勝てるはずも無く、ムウの放ったレールガンとガンバレルが、ヴェサリウスのスラスターを撃ち抜く。
一瞬の激震と共に、ヴェサリウスの速度が急激に低下するのが判った。
「クッ、ムウめ、やるな!?」
憎悪と称賛の念が入り混じった言葉を吐き出すラウ。
まさか、守るべき艦と機体を囮にして奇襲を掛けて来ようとは、流石の彼にも思い及ばなかった。
おかげでヴェサリウスはスラスターが損傷して速度が低下。更に主砲の照準も外されてしまった。
ラウをして、己の好敵手の手腕に舌を巻かざるを得ない。
更にそこへ、ダメ押しとも言うべき一撃が見舞われる。
「前方より高エネルギー反応、足付きの艦砲射撃です!!」
「回避、機関最大。取り舵!!」
だが、損傷の為に半歩遅く、アークエンジェルの放ったローエングリンが右舷艦体を掠め、吹き飛ばす。
装甲が弾け、内部構造が抉り取られる。
機関も損傷した今、撃沈こそ免れるであろうが、ヴェサリウスは完全に戦闘不能となった。
2
作戦成功。これで包囲網の一角が崩れた。
湧き上がるアークエンジェルのブリッジ。
しかし、依然として危機を脱したわけではない。
今も後方からはガモフが迫り、4機のXナンバーが執拗に食いついてきている。
更に悪い事に、ストライクのバッテリーが危険領域に近付きつつあった。
バッテリーが切れ、PS装甲が落ちれば、ストライクは身動きの出来ないまま撃破されてしまう。
「エスト、エスト、戻って!!」
ミリアリアが必死に叫ぶが、デュエルとイージスに拘束されたストライクは離脱できずにいる。
その間にもタイムリミットが迫ってくる。
時間は刻々と流れ、焦慮は否応なく増していく。
その時、格納庫から連絡が入った。
シルフィードの発進準備が整ったのだ。
すぐにマリューは、コックピットとの回線を開いた。
「状況は理解している?」
《はい》
既に出撃準備を終えたキラの声に、ブリッジ居る少年達は複雑な思いで聞き入る。
だが、今は戦闘中。感傷に浸っている暇はない。
「既に敵艦は叩いたわ。あとはストライクを回収できれば離脱できる。その時間を稼いで」
《了解しました。では、僕が出たらすぐに、ストライクの追加武装を射出してください》
ストライクの3種の武装にはそれぞれ、独立したバッテリーが積まれている。その為、うまく使い分ける事ができれば、ストライクは他の5機よりも長い稼働時間を得られるのだ。
先に出撃したストライクの稼動限界が近付いている事は聞いているが、ドッキングに成功すれば、そのストライクを復活させる事ができる。
「キラ・ヒビキ、シルフィード、行きます!!」
発進シークエンスに従い、シルフィードは虚空へと飛び立った。
そのころになってようやく、エストはバッテリーが残り僅かだと言う事に気付いた。
既にメーターはレッドゾーンに入り、今すぐに切れてもおかしくはない。
だが、戻れない。イージスとデュエルに前後を挟まれ、身動きできずに居る。
やはり、初めてのモビルスーツ戦。しかも同クラスの機体に1対4と言う状況下での不利を覆す事は出来なかった。
そして、考えられる限り最悪の事態がエストに降りかかった。
トリコロールに色付いていた装甲が突如、水を引くように灰色に戻っていく。
フェイズ・シフト・ダウン。
Xナンバーの象徴とも言うべき、守りの要が失われてしまった。
「今だ!!」
その瞬間を、アスランは逃がさない。
モビルアーマー形態となってクローを展開すると、その内側にストライクを掴み込んだ。
「クッ!?」
軽く呻くエスト。既に振り切るだけのパワーは、ストライクには無い。
《よくやった、アスラン。後は任せて、お前はそいつをガモフに連れて行け!!》
イザークの言葉に、アスランは僅かに身じろぎする。
まだ、あの機体、キラが乗っているであろうシルフィードは出てきていない。ここで退いてしまったら、キラを説得する機会も失われてしまう。
だが、ストライクをこのまま放してしまうと言う選択肢も無い。
バッテリーゲージに目をやる。
メモリはまだ半分近くあり、ヴェサリウスに戻って再出撃しても間に合う気がした。
「・・・・・・仕方が無い」
急いで戻って急いで再出撃しよう。そう考えて機首を巡らせた時だった。
突如、イージスの進路を遮るように数発のビームが飛来した。
「クッ!?」
とっさに進路を変更するアスラン。
だが、襲撃者はその一瞬の隙を見逃さなかった。
アスランから見て上方から急接近したシルフィードは、その勢いのままモビルアーマー形態のイージスを蹴りつけた。
「クッ!?」
激震がイージスのコックピットを襲う。
同時に。ロックされていたクローも解除され、灰色のストライクが開放される。
「あれは・・・・・・」
思いも掛けない援軍に、僅かに瞳を揺るがせるエスト。だが、続いて入ってきた鋭い口調が、意識を現実に引き戻した。
《急いで戻れ!!》
「え?」
《アークエンジェルが追加武装を射出する。それとドッキングするんだッ 早く!!》
言いながらキラのシルフィードは、ビームライフルでイージスを牽制する。
事態の変化に気付いたイザークも、デュエルを駆って戻ってくる。
「何をやっている、貴様!?」
せっかく捕らえた敵機を逃がされた腹立ちを、そのままライフルに乗せて撃ってくるのを、キラは舞うように回避していく。
キラもモビルスーツの操縦経験は浅いが、その技量は、既に並みのザフト兵を凌駕しつつあった。
だが、そんなキラの進路を遮るように、アスランのイージスが立ちはだかる。
ストライクは逃がしてしまったが、これで当初からの目的であるキラとの接触の場が持てる。
《もうやめろ、キラ!!》
「アスラン!?」
とっさにビームサーベルを抜くキラ。対してアスランも、腕のサーベルを展開してシルフィードと対峙する。
《コーディネイターの君が、なぜ地球軍にいる!? なぜ俺達と戦わなくちゃいけない!?》
「・・・・・・・・・・・・」
さて、どうにも、返答に窮する質問だ。
「成り行きで」と言う答えは間違いではないが、この場合適当には思えない。向こうはこちらの事情も知らないのだから。
そんなキラの少しズレた思案を他所に、アスランは距離を詰めて来る。
《俺と一緒に来るんだ、キラ。お前はこちら側にいるべきだ》
こちら側。つまり自分もザフトに、いや、プラントに来い、と言う事だろう。
その言葉に、キラは僅かに目を細める。
アスラン・ザラ。月の幼年学校で唯一の友人だった彼が、手を差し伸べている光景を容易に想像する事ができる。
《血のバレンタインで母は死んだ。俺はもう、大事な人達を失いたくない!!》
「アスラン・・・・・・」
キラが何かを告げようとした。
だが、その前に接近してくる存在がある。
《敵を前にして何をモタモタしている、アスラン!!》
動きを止めているシルフィードに、デュエルが斬り掛かる。
振るわれる光の剣をシールドで受け流すキラ。
イザークは舌打ちしながら流れた機体を反転させ、再度シルフィードに斬りかかろうとした。
その時だった。
出し抜けに奔った閃光が、デュエルに襲い掛かった。
「なッ!?」
とっさに回避しようとするが間に合わず、サーベルを持つ右腕が閃光にもぎ取られる。
バランサーの狂ったデュエルは、そのまま流されるようにシルフィードの間合いから外れていく。
「何だ!?」
転じる視線の先。
そこには、先程まで撃墜一歩手前まで追い込んでいた筈の機体があった。
ランチャーストライカーを装備したストライクは、320ミリ超高インパルス砲アグニを構えて再度砲撃を加えてくる。
「チィッ!?」
何とかバランサーを調整し、回避するデュエル。その間にも、ストライクの砲撃が襲ってくる。
それはイージスも同様で、太い閃光を回避することに専念している。
そこへ、更なる援軍が到着する。
「俺を忘れるなよ!!」
ヴェサリウスを攻撃して戻ってきたムウのゼロが戦線に加わる。
ガンバレルを展開してムウは、アークエンジェルに砲撃を加えているバスターに襲い掛かった。
その奇襲を前にして、ディアッカは砲撃の手を止めて防御に専念する。
形勢は逆転しつつあった。
数的には未だに3対4とザフト側が有利だが、デュエルが損傷、高火力のバスターもバッテリーが危険域に差し掛かっているのに対し、地球軍側は体勢の立て直しに成功した為、全機全力発揮可能となっている。
実質は3対2。加えて旗艦ヴェサリウスが損傷した為、完全にザフト側が不利となっている。
「アスラン」
対峙したシルフィードから、イージスに通信が入った。
「悪いんだけど、僕はザフトには行けない」
《キラ・・・・・・》
「今は、それしか言えない」
そう言うとキラは、ライフルの銃口をイージスに向ける。
「この場は見逃す。このまま退いてくれ」
《クッ・・・・・・》
この不利な状況で、他に選択肢は無い。
アスランは唇を噛みながら、機首を巡らせる。それに倣うように、残る3機も続いた。
そんな中で1機。ブリッツを駆るライア・ハーネットは、一瞬だけチラッと、すれ違う瞬間に、シルフィードにカメラを向けた。
最初、その機影が見えなかった時にはガックリ来たが、更に遅れてきた事に落胆した。初めから出てきていたら、他を押しのけてでも自分が相手をしたのに。
「来るのが遅いよ、もう」
取り合えず、消せぬフラストレーションを僅かでも緩和する為に独白を流す。
願わくば、次に出会う時は砲火を交える機会に恵まれますように。
そう願いつつ、機首をガモフへと向けた。
コックピットを下りると、また警備兵に銃を突きつけられるのかと思ったが、今回は違った。
代わって、見慣れた顔が開いたハッチから覗き込んできていた。
「キラ、お疲れ」
「リリア?」
意外な顔の登場に、一瞬と惑うキラ。しかも、意外なのは顔だけではなかった。
それは、彼女の格好にある。
「その、格好は?」
リリアは他の整備兵と同じ、黄色と白のツナギを着ていた。
「ああ、これ? あたしは整備の見習いを担当する事になったの。みんなと一緒にブリッジに入っても良かったんだけど、あっちは足りてるみたいだし、それに、あたしはこっちの方が得意だしね」
そう言って、手を差し伸べてくる。
「そんな訳で、よろしくね、これから。 って言うか、これからも」
「う、うん・・・・・・」
そんなリリアの手を取りつつも、キラの戸惑いは更に強くなる。
つい先程、キラは自分の正体を彼女達に明かしたばかりである。つまり、自分が彼女達を騙していたのだと言う事実を。
その事を問い質そうとしたとき、キラの目は格納庫の一角で止まった。
何やら、整備兵達が一箇所に集まっている。
「?」
何の気なしに、キラとリリアもそちらに向かってみる。
それは、ストライクのコックピット前だった。
「どうしたんですか?」
取り合えず、野次馬に混ざっていたムウに尋ねてみた。
「ん、ああ、坊主か。いやな、嬢ちゃんが降りてこないんだよ」
「え?」
嬢ちゃん、とは例の彼女、エストの事なのだろう。
首を傾げて、顔を見合わせるキラとリリア。
ややあって外部のレバーが引かれ、ハッチが強制的に開放される。
覗き込む一同。その複数の視線の中で、エストは操縦桿を握ったまま微動だにせずに前を向いていた。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
ムウの問いかけにも全く反応せず、瞬きを忘れたかのような瞳は真っ直ぐに前を見詰め続けている。
その姿に、キラは納得した。
初めて銃を持って戦場に立ち、そして生き残った時、キラも同じような状態になったものだ。長時間に渡る極度な緊張を強いられ、それが開放された瞬間と言うのは、得てしてそんな物である。
身を乗り出すとキラは、そっとエストの手を包み込んだ。
そこでようやく、エストは顔を上げる。
「もう終わったよ。大丈夫、みんな無事だから」
「あ・・・・・・」
ゆっくりと、キラは操縦桿からエストの指をはがしていった。
「ね」
そんなエストに、キラは優しく笑いかけた。
PHASE-04「友と君と戦場で」 終わり