機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-05「疾風VS電撃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の幕を前にして、アークエンジェルはゆっくりと反転していく。

 

 クルーゼ隊の追撃を振り切ったアークエンジェルは、ようやく味方の拠点である宇宙要塞アルテミスへの入港が許され、その身を光の幕の中へと沈めていく。

 

 当初に危惧されていた識別コードの未発行から来る混乱も無く、アルテミス側は入港許可を求めてきたアークエンジェルに対し、僅か数分のやり取りのみで受け入れ受諾の意を送ってきた。

 

 アルテミスは光波防御帯と呼ばれる防御フィールドで全体を覆われている。この防御フィールドは実体弾もビームも通さず、鉄壁の防御力を誇っている。「アルテミスの傘」と言う通称で呼ばれる、この鉄壁のカーテンがあるからこそ、アルテミスは開戦から11ヶ月経った現在も、ザフト軍の攻撃に対して難攻不落を誇っていた。

 

 もっともそれは、辺境航路に位置するアルテミスには、大して戦略的価値が無い為に、捨て置かれている事も原因ではあるのだが。

 

 何はともあれ、アークエンジェルはようやく一息つけた感じである。

 

 やがてアルテミス側から、入港上の手続きを行う為にユーラシアの士官が訪れる。

 

 異変は、アークエンジェルが船体を固定した時に起こった。

 

 ハッチが開くと同時に、銃を持った兵士が艦内に駆け込んでくる。そして兵達はクルーや民間人達に銃口を向けてきた。

 

「これはどういう事ですか!?」

 

 自らも銃を向けられ戸惑いながら、マリューは声の抗議を上げる。

 

 対してユーラシア軍の仕官は、冷めた目をマリューに向けてくる。

 

「一応の措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただく。仕方ないでしょう。貴艦は船籍登録も無ければ我が軍の識別コードも無い。状況から判断して入港は許可しましたが、貴艦はまだ友軍と認められた訳ではありません」

 

 白々しい言葉が、鼓膜を撫で付ける。

 

 まさかこんな事になるとは。

 

 マリューは何が起こっているのかわからないまま、ただ困惑した瞳で成り行きを見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 そろそろ食事の時間だろうか?

 

 監禁されているとそれくらいしか娯楽が無い為、キラはそんな事を考えている。

 

 せめて携帯端末でもあれば良い暇つぶしが出来るのだが、そう言った類の物は一切遠ざけられていた。まあ、ハッキングの可能性がある以上、携帯端末など頼んでも用意してくれる事はないだろうが。

 

「・・・・・・そう言えば」

 

 ハッキングで思い出したが、先の戦闘のあと、ムウはキラとエストを呼びつけて妙な事を言ったものである。

 

 何でもシルフィードとストライクのOSにロックを掛けろとの事。

 

 何でそんな必要があるのか、キラには理解できなかったが、取り合えず言われた通りにした。もっともストライクの方は作業に時間が掛かるため、キラが手伝ったのだが。

 

 お陰で現在、シルフィードとストライクは簡単には起動できないようになっている。もしこれで、敵が来たらどうする心算なのだろうか?

 

 正直なところキラは、アルテミスの光波防御帯に過剰な期待感は抱いていなかった。

 

 確かに、事が防御力においては、この傘を上回る物は地球圏に存在しない、最強の盾であると言える。だが、その力が強ければ強いほど、人間はそれに依存する心もまた強くなる。「もし万が一、破られたら」と言う事を考えられなくなるのだ。

 

 光波防御帯が破れる時。それは、アルテミスが陥落する時だろうと。キラは考えている。願わくば、そこに巻き込まれたくはないものであるが。

 

 そんな事を考えていると、急に廊下が騒がしくなったような気がした。

 

「何だろう?」

 

 扉に寄って開閉の操作をしてみると、扉はあっさりと開いた。

 

「あれ?」

 

 随分と杜撰である。この艦のセキュリティは、一体どうなっているのだろう?

 

 そんな事を考えた時だった。

 

「おい、そこのお前!!」

 

 振り返る。

 

 と、同時に、目の前にライフルの銃口を突きつけられた。

 

「はい?」

 

 思わず目を丸くするキラに対し、ライフルを構えた兵士は居丈高に命ずる。

 

「大人しくこちらの指示に従え!!」

 

 対してキラは、戸惑いながらも手を上げて、その言葉に従うしか無かった。

 

 

 

 

 プラント本国からラウ・ル・クルーゼに帰還命令が下ったのは、先の戦闘の直後であった。

 

 どのみち激闘の末、部隊の半数近くを失い、旗艦ヴェサリウスも中破に相当する被害を受けた為、一度帰還せざるを得ないのは確かだった。

 

 加えて中立国所有のコロニーであるヘリオポリスを崩壊させた一件がある。その事で、恐らく所有国であるオーブ連合首長国から抗議が来たのだろう。当事者であるクルーゼが召還されるのは至極当然な流れであった。

 

 そこでクルーゼは、どうにか航行可能な程度に応急修理を施したヴェサリウスに、アスランとイージスを伴って帰国の途に着いた。

 

 そこで残った戦闘母艦ガモフは、残った機動兵器であるデュエル、バスター、ブリッツと共に引き続き「足付き」追撃の任務に就いたのだが、時既に遅く、アークエンジェルはアルテミスに入港済みで、ガモフは要塞の周囲を周回する以外に手が無かった。

 

「知っての通り、光波防御帯はビームも実体弾も通さない。それ故に、今まで放置されてきたのだ。まあ、それは向こうからも同じなわけだが」

「だから攻撃もしてこないって事? 馬鹿みたいな話だね」

 

 ガモフ艦長ゼルマンの説明に、ディアッカは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

 実際、両者共に攻撃可能な圏内に相手を捉えているのに手出しできないなど、傍から見れば間抜けの極みでしかない。

 

「なら、どうする? このまま何もしないで黙って見てる?」

 

 おどけた調子で話すディアッカを、イザークがキッと睨み付けた。

 

「ふざけるなよディアッカ。お前は隊長が用を終えて戻られた時、何もできませんでしたと報告したいのか?」

 

 そう告げるイザークとしては、逸る気持ちが大きかった。

 

 配属されたばかりの頃から、何かに付けてアスランをライバル視する事の多いイザークとしては、アスランが戦線を離れたこの隙に差を付けたい所であった。

 

 何とかあの忌々しい光の幕を破って、足付きとその艦載機を沈める。ついでに要塞を陥とす事ができれば、かなりの大戦果だ。ライバルを一気に引き離すチャンスである。

 

 そんな2人のやり取りを他所に、要塞の構造図を眺めていたライアは、不意に顔を上げた。

 

「あの傘って、常に展開されているの?」

「いや、敵が居ないときは閉じている。さすがにアレだけの代物だ。電力も馬鹿にならんだろうからな。だが、閉じている所を見計らって接近しても、すぐに展開されてしまう」

 

 ゼルマンの説明を聞いて、ライアは「フム」と鼻を鳴らした。次いで、笑みを浮かべる。

 

「なら、何とかなるかも」

 

 ようは、あの光波防御帯さえ何とかすれば良い。それさえ出来れば、後はあの程度の要塞1つ、何とでもなるだろう。

 

 集中する周囲の視線を浴びながら、ライアは1人で自分の考え付いた作戦を検討していた。

 

 

 

 

 

 艦を掌握された後、マリュー、ムウ、ナタルの3人のみ司令官室へと連行されてきた。

 

 アルテミスの司令官はジェラード・ガルシア准将と言い、かつてはムウと同じ月のグリマルディ戦線で戦った事もある人物であった。

 

 だが3人を前にしたガルシアは、まるで値踏みでもするような視線を向け、口には笑みを浮かべている。

 

「ようこそ、アルテミスへ。歓迎するよ。君等のIDは見せてもらったが、確かに大西洋連邦の物のようだ」

「お手間を取らせて申し訳ありません」

 

 慇懃に答えるムウに、ガルシアは視線を向けた。

 

「噂に高い『エンデュミオンの鷹』に会えるとは、光栄の極みだよ。しかし、何故君が、あんな艦と共にここに現れたのかね?」

「特務につき、お答えできません」

 

 答えるムウには既に、ガルシアの腹の内が読めていた。

 

 この男がアークエンジェルを受け入れてから拘束したのは、Xナンバーの奪取、と言うより、正しく横取りを目的としている事は明白だった。だからこそムウは、前もってシルフィードとストライクのOSをロックさせたのだ。今頃格納庫では、乗り込んできた技術者が2機のコックピットに張り付いて、アレコレと弄り回している頃合だろう。

 

大西洋連邦が開発したザフト軍にも対抗可能な機動兵器ともなると喉から手が出るほど欲しいだろう。ユーラシアも、そして出世が掛かっているこの男自身も。

 

 だが、事情が飲み込めていないナタルは、当たり前の要請を口にする。

 

「なるべく早く、補給と整備をお願いします。我々は一刻も早く月の司令部へ行かねばなりませんので。それに、ザフト軍の追っ手もありますし」

「ザフト? これかね」

 

 ナタルの言葉を遮ってガルシアが点けたモニターには、アルテミスの周りを航行するガモフの様子が映し出された。

 

「ローラシア級!?」

「先程から要塞の周りをウロウロしとるよ。これでは補給を受けても出られまい」

「しかし、連中は我々を追ってきたわけですし」

 

 無駄と知りつつも、ムウは抗弁してみる。

 

「このまま居座っていては、アルテミスにも被害を及ぼす事になりかねません」

「被害? 被害かね?」

 

 さも、おかしな話でも聞いたかのように、ガルシアは笑い声を立てる。

 

 唖然とする3人を眺めながら、ひとしきり笑い終えると、ガルシアは再びねめつけるような視線を向けてくる。

 

「馬鹿馬鹿しい。奴らはこの要塞の恐ろしさをよく知っている。その内に去る事になるだろうさ。いつものように、何も出来ずにな」

 

 自らの要塞に一片の疑いも持たずに、ガルシアは言い切った。

 

「奴等が去れば月本部との連絡も付けられる。それまでは、ゆっくりしていたまえ」

 

 要するに、体の良い監禁と言うわけである。

 

 ムウはスッと目を細めて、ガルシアを見た。

 

「アルテミスは、それほど安全ですかね?」

「ああ、安全だとも。まるで母親の腕の中に居るようにな」

 

 そう言うとガルシアはせせら笑うように笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 作戦は大きく分けて二段階で展開させる事になった。

 

 一段目はガモフがアルテミスの索敵圏外に退避してみせる。

 

 そして二段目。敵が警戒を解除して光波防御隊を収納した時を見計らい、ブリッツを先鋒として突入戦を仕掛ける。

 

 ブリッツは元々、強襲用に開発された機体であり、その為の装備も実装している。まさに今回の任務にはうってつけであった。

 

 ガモフが充分に距離を取ったところで、ブリッツはカタパルトデッキから密かに発進していく。

 

 同時にコックピットに座したライアは、件の装備を起動させる。

 

「ミラージュコロイド、生成開始・・・・・・使用限界は80分か。まあ、それくらいあればね」

 

 呟く傍らから、ブリッツの姿は闇に溶けて消えていき、やがて全く見えなくなってしまった。

 

 これがミラージュコロイド。従来のステルスシステムを大幅に上回り、各種センサーは勿論、肉眼ですら捉える事が不可能となるシステムである。

 

 ライアがこのミラージュコロイドを使うのは、これで2度目。1度目はヘリオポリスでアスランのイージスと共にシルフィードと対峙した時である。あの時、キラがセンサーでブリッツを捉えていなかったのは、このシステムの影響であった。

 

 闇に潜行するブリッツ。

 

 その見えない姿を、イザークとディアッカは待機所のモニターで見送る。

 

「しかし、地球軍も姑息な物を作るよな」

「だが良い気味じゃないか。その地球軍の造った兵器が奴らを破滅させると思えばな」

「確かにね」

 

 彼等の目には既に、炎に包まれる要塞の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 拘束されたクルー達は、全て食堂に集められていた。

 

 その中には、訳の判らないまま連れてこられたキラも居る。

 

 周囲を見回せばサイやトールを初めヘリオポリスの学生達やブリッジクルーに整備兵、武装解除された警備兵も居る。

 

 そんな中にあってキラは、あえて見知った少女の隣に腰を下ろした。

 

「・・・・・・説明してもらいたいんだけど?」

 

 キラに話しかけられ、エストは僅かに振り返る。

 

「・・・・・・標準時間14:37。アークエンジェルは入港を認められ、宇宙要塞アルテミスに入りました。それより約420秒後、ユーラシア連邦軍の警備兵が艦内へ突入、ブリッジ、機関区、格納庫、全区画を占拠、クルーを拘束の上、現在に至る。以上です」

「・・・・・・いや、僕が聞きたいのは、そうなった理由なんだけど?」

 

 あまりにもズレたエストの返事に呆れつつ、キラは更なる質問をする。対してエストは、相変わらず感情を滲ませない口調で続ける。

 

「不明です。現在までに推察される理由は味方識別コードの不所持から来る警戒と見るのが妥当かと思われます」

 

 エストの答に、キラは僅かに考え込む。

 

 成る程、有り得ない話ではないだろう。識別コードが無い為、一時的に拘束するというのは一応筋が通ってはいる。だが、それにしてはいくつか矛盾してくる点がある。

 

 まず、先程の戦闘の事はモニターしていたはず。ならば、アークエンジェルがザフト軍と交戦していたのは知っているはずだ。所属はともかく敵か味方かは判別できている筈だから、IDを確認するにしても拘束は短時間でいいはず。

 

 第二に、ここまで過剰な戦力は必要とは思えない。一時的に拘束するにしても、艦内全てを制圧する必要は無く、主要区画のみで問題は無いはず。これでは正しく「拿捕」と呼んでも良い感じがある。

 

 つまり、現在の状況はどう見ても過剰であると言わざるを得ない。

 

「結局、コードが無い事がまずいんだよなあ」

 

 2人の会話を聞いていたのか、通信担当のパル伍長がぼやくが聞こえてくる。

 

 だが、問題なのはそこではないのだろう。

 

 そこまで考えた時、数人の兵士を連れた士官が入って来た。恰幅の良い禿頭のその仕官はガルシアである。

 

 入ってくるなりガルシアは、一同を見回して告げた。

 

「君達に訪ねたい事がある。搭載されているモビルスーツのパイロットは誰かね? 2人居るはずだが」

 

 その言葉で、キラの中で完成までリーチが掛かっていたパズルがガチッと組み合った。

 

 味方識別コードの不所持や艦の制圧は全て建前。本当の狙いはシルフィードとストライクの奪取にあるようだ。恐らくムウは、この事を見越してOSのロックを命じたのだろう。奪取しようとしても、簡単には起動できないように。

 

 それにしても、

 

 キラは気付かれないように溜息を吐いた。

 

 大西洋連邦とユーラシア連邦の不仲振りは、一応の社会情勢として知ってはいたが、まさかここまで露骨な真似をするとは。協調すべき相手の足を引っ張ってどうするのだろう? そりゃ、ザフト軍のモビルスーツを上回る新兵器を前にすれば喉から手が出るほど欲しいのは判らないでもないが。

 

彼等は戦争に勝ちたいのか、それとも戦争ゴッコを楽しみたいだけなのか。正直、キラには理解が苦しむ事だった。

 

 と、そんな事を考えていると、隣に座ったエストが立ち上がろうとするのを見て、とっさにキラは、机の下で少女の腕を掴んで引き戻した。

 

 無表情のまま、視線だけをキラに向けてくるエスト。どうやら、彼女なりにキラの行動に納得が行かずに抗議しているのだろう。

 

 対してキラは、そんなエストに視線を黙殺して、手は離さない。どうやら名乗り出る心算だったようだが、今彼女がストライクのパイロットであると名乗り出るのは、正直得策とは言いがたい。

 

 どうやら向かいに座った、操舵手のノイマン曹長も同じ考えだったらしく、目配せすると頷きを返して口を開いた。

 

「フラガ大尉ですよ。お話を聞きたいのなら大尉にどうぞ」

 

 だが、そんなノイマンの言葉を、ガルシアは鼻で笑う。

 

「先程の戦闘はこちらでもモニターしていた。ガンバレル付きのゼロを操れるのは大尉だけだと言う事も判っている。それに、仮にそうだとしても、まさか2機とも大尉が操っていたわけではあるまい?」

 

 そう言うとガルシアは、口元に粘着質のような笑みを浮かべる。と同時に腕を伸ばし、傍らに居たリリアの腕を掴んで捻り上げた。

 

「キャッ!?」

 

 突然の事に悲鳴を上げるリリア。

 

 何をするのかと、今度はキラが立ち上がりかけるが、そこは辛うじて自制心で押さえた。その代わり、殺気すら滲ませる視線をガルシアに向ける。

 

 そんなキラの殺気に気付く様子も無く、ガルシアは暢気にしゃべり続ける。

 

「まさか女がパイロットと言う事もあるまいが、この艦は艦長も女性である事だしな」

 

 好い加減名乗り出るべきか。

 

 キラが逡巡した、その一瞬先にガルシアに向かっていく人物があった。サイである。

 

「やめてくださいよ!!」

 

 仲間内でもリーダー格にあるサイには、このような横暴は見過ごせなかった。

 

 だが、所詮は学生と軍人。その膂力の前には大きな差がある。

 

「うるさい!!」

 

 サイは殴り飛ばされ、床に転がった。

 

「サイ!!」

 

 キラは叫びながら、立ち上がる。

 

 同時に、転んだサイに駆け寄る影があった。

 

 フレイは自分の婚約者に駆け寄ると、慌てて縋りつく。

 

「サイ、大丈夫!? もうやめてよ、パイロットならその子よ。それに、そっちの娘も!!」

 

 そう言って指差す先には、立ち尽くしているキラと、黙って座っているエストがいた。

 

 対してガルシアは鼻で笑い飛ばす。

 

「お嬢さん。お友達を助けたいと思う気持ちは判らないでもないがね。あんな子供がパイロットな訳が無いだろう。馬鹿も休み休み言いたまえ」

 

 その手がフレイの胸倉を掴もうとして、

 

 横から伸びた手に逆に掴まれた。

 

「何ッ!?」

 

 振り向くガルシアの目に飛び込む、線の細い少年。キラである。

 

 自分でエストを止めておいて何だが、好い加減我慢も限界だった。

 

 キラはそのままガルシアの腕を背中側に捻り上げる。

 

「グオォッ!?」

 

 状況が掴めず、無様に悲鳴を上げるガルシア。慌てて兵士達が銃を向けようとしたが、キラはその前に、彼等に向かってガルシアの体を蹴り飛ばした。

 

 突然蹴り飛ばされたガルシアを受け止めるには体勢が悪く、さりとてよけるわけにも行かない兵士達は、そのままもつれ合いながら床に転がった。

 

 それを見計らっていたかのように、フレイは再び口を開いた。

 

「本当よッ だってこの子、コーディネイターだもの!!」

 

 決定的な一言を口にしてしまった。

 

 思わず溜息を吐くキラ。マードック軍曹やノイマン曹長も額に手を当てて首を振っている。

 

 どうにもここの所、事態は悪い方向にしか流れていない気がするのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 仕方無しにキラは、両手を上げた。

 

 

 

 

 

 数分後、キラとエストは警備兵数名に銃を突きつけられたまま、格納庫のシルフィードとストライクの前に連れて来られた。

 

「それで、OSのロックを外せばいいんですか?」

 

 向けられた銃口をうんざりと見やりながら、背後のガルシアへ尋ねる。

 

 そのガルシアはと言うと、先程の事を警戒しているのか、警備兵の後ろに立ったままキラに近付こうとしない。

 

 何の事はない。どうやらキラが掛けたOSのロックを突破することが出来ず、その為にわざわざあんな騒ぎを起こしたと言う事だった。

 

「それは勿論だが、君にはもっと他の事もできるだろう?」

 

 拘束できた事で気持ちが大きくなったのだろう。ガルシアは口元に笑みを見せながら高圧的に言ってくる。

 

「たとえば、こいつの構造を解析して同じ物を造るとか、逆に対抗可能な兵器を造るとか」

「それをやれと?」

 

 どんどん大きくなっていく話に、キラは少しうんざりし始める。今のキラの目には、ガルシアは宝箱を前にした盗賊にしか見えない。

 

 そんなキラの態度にも気付かず、ガルシアは暢気に告げる。

 

「君は裏切り者のコーディネイターだ」

「・・・・・・・・・・・・」

「地球軍に味方するコーディネイターと言うのは貴重だよ。君は歓迎されるだろう。ユーラシアでもね」

 

 「裏切り者のコーディネイター」

 

 まあ。間違いではないだろう。多分に、色眼鏡越しに見られている事を主張したいが。

 

 最早言い返す気にもなれないキラは、黙ってシルフィードのコックピットへ向かう。

 

 一方で、そんなキラの背中を、エストは立ち尽くしたまま見送る。

 

 そのエストの様子に気付いたガルシアが、不振そうに見ながら口を開く。

 

「どうした? 君も早く行きたまえ」

 

 対してエストは、ゆっくりと振り返る。

 

「申し訳ありません准将閣下。私ではOSのロックを解除する事はできません」

「どういう事だ? 君はあの機体のパイロットではないのか?」

「パイロットには間違いありませんが、私はコーディネイターではありません。ナチュラルです」

 

 淡々と告げるその返事に、ガルシアは訳が判らないと言った風に首をかしげた。

 

 モビルスーツを操縦できるのはコーディネイターと相場が決まっている。だが、彼女自身は自分がナチュラルだと主張している。

 

 その言葉が意味する内容を考え、やがて合点が言ったように手を叩いた。

 

「そうか、貴様は『人形』か」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 人形、と言われた瞬間、エストの細い肩が僅かに震えた気がした。

 

 その様子を、キラは少し離れて見詰めている。

 

 人形、と言う言葉が引っかかっていた。

 

「しかも、こんな艦に乗っているところを見ると、出来損ないの類と言う事か」

 

 ガルシアの顔には、明らかな侮蔑が現れている。最早、エストに対する興味も失せたとばかりに、視線を逸らす。

 

「あ~、ほらほら、何をしとる。君は早く作業に入りたまえ」

 

 立ち尽くしているキラの姿を見て、追い立てるように手を振ってくる。

 

 そんなガルシアの後ろで、エストは所在無げに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 ちょうどその頃、アルテミスの管制室では、遠ざかっていくガモフの姿を確認していた。

 

 既に充分な距離があり、艦砲の射程から離れている。

 

「よし、もう良いだろう。傘を解除しろ。警戒レベルも通常シフトにダウン」

「了解」

 

 当直仕官がそう判断したのも、無理からぬ事である。

 

 ガモフの姿は、今や遠距離センサーで辛うじて捉えられる程度。今から反転してきたとしても、艦砲の射程に入る前に傘を再展開する事は充分可能である。

 

 ならば、電力消費の多い傘を無理に開いておく理由は無い。

 

 電力の供給を切られ、アルテミスの傘は徐々にすぼめられて行く。

 

 だが、彼等は知らない。

 

 その懐の内には既に、黒雷を携えた暗殺者が忍び込んでいる事を。

 

「目標消滅を確認。それじゃ、ボチボチ始めましょうか」

 

 音も無くアルテミス地表に降り立ったブリッツのコックピットで、ライアは呟くと、ミラージュコロイドを解除し、PS装甲を起動する。

 

 黒く染まる電撃の名を持つ機体。

 

 その右腕に装着したトリケロスのライフルが火を吹いた。

 

 要塞表面からは排熱口や採光装置など、宇宙施設に必要な物が設置されているが、ライアはその中で、自分の目的の物だけを破壊していく。

 

 光波防御帯の発生装置。それさえ破壊してしまえば、後続するイザーク達が外部から進入する事ができる。

 

 ライアは更にビームサーベルを展開すると、次々と発生器を斬り飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 技術者達は皆、目を丸くして見守っている。

 

 その目の前でキラは目にも止まらないスピードで指を動かし、キーボードを叩いていく。

 

 技術者数人掛かり薄皮一枚剥がす事ができなかったOSのロックを、キラはあっさりと解除していく。

 

 その様子を、少し離れた所からエストも見守っていた。

 

 だが瞳は、何か別の物を見ているかのように揺らいでいる。

 

 人形。

 

 先程、ガルシアに言われた言葉が、なおも脳内に反響しているのが判った。

 

 軽く頭を振るう。

 

 考えるな。自分はただ、任務に忠実であればいい。それ以外の事など必要無い。

 

 その時、

 

突如として格納庫を振動が襲った。

 

「な、何事だ!?」

 

 突然の事でよろけたガルシアは、何とか通信機に取り付きながら怒鳴る。

 

「一体、何が起こっている!?」

《不明です。周囲に敵影無し!!》

「馬鹿を言うな。これは爆発の振動だろうが!!」

 

 要領を得ないオペレーターの回答に、ガルシアは苛立ちを直接ぶつける。

 

 ややあって、ようやく返事があった。

 

《防御エリア内にモビルスーツを確認!!》

「何だと、接近を許したと言うのか。見張りは何をやっていた!?」

 

 光波防御帯の防御力を絶対視し、過信しすぎたツケが回ってきていた。キラの危惧は正しかったのだ。

 

 OSロックの解除に成功したその瞬間、キラはコックピットハッチに乗っていた技術者数名を蹴り飛ばした。

 

「な、何をする気だ小僧!?」

 

 その様子に慌てたガルシアが声を上げるが、その間にキラはハッチを閉じ、機体を強引に起動させる。

 

《敵が来ますよ》

 

 外部スピーカーを入れて、それだけ告げるキラ。

 

「何だと!?」

《こんな事してる場合じゃないでしょう》

 

 そう告げると、内部からカタパルトデッキのハッチを開き、シルフィードを進ませる。

 

 基本武装であるシールドとライフルを受け取ると、カタパルトのコントロールを掌握し、機体を発進させた。

 

 

 

 

 

 ハッチを突き破ると、ライアはブリッツをアルテミスの港口に突入させた。

 

 すぐに進入に気付いたメビウスやミストラルが、スクランブルし向かってくるが、それらが近付く前に、ブリッツはライフルを放って撃ち落していく。

 

 弱い。てんで相手にならない。他の戦線で戦った敵の方が、まだ歯応えがあった気がする。

 

 結局の所、こんな辺境にある無敵の要塞と言う、平たく言えば暇なポストが彼等の緊張感を削ぎ、腕を劣化させたのだろう。加えて光波防御帯と言う、ハードウェアに対する信仰も根深かったに違いない。その二つの要素が、アルテミス守備隊の技量低下に繋がっていた。

 

 ものの1分強で向かってきた敵を全滅させると、ライアは更に奥へとブリッツを飛ばす。

 

 自分の相手はこいつらじゃない。こんなつまらない奴らを相手にする為に、ここまで来たんじゃない。

 

 目指す相手は、すぐに見付かった。

 

 奇妙な形をした白亜の巨艦。コードネーム「足付き」だ。

 

 そして、まさにタイミングを計ったように、特徴的な片足―カタパルトデッキから青い機体がスタビライザーを広げて飛び出してきた。

 

 その様子に、思わず笑みが零れるのを止められない。

 

「こう言うの、なんて言うんだっけッ!?」

 

 機体をそちらに向かわせながら、ライアは叫ぶ。

 

「そうそう、『ここで会ったが100年目』だったっけかッ!?」

 

 言い放つと同時に左腕に装備したピアサーロック「グレイプニール」を放った。

 

 対してキラも、自分に向かってくる敵の存在に気付いた。

 

「ブリッツ!?」

 

 黒い機体は自分に敵意を示し、真っ直ぐに向かってくる。

 

 放たれるグレイプニールを、沈み込むことによって回避する。

 

 そこへすかさず、今度はランサーダートを放つブリッツ。

 

「クッ!?」

 

 対してシルフィードはライフルを放って、飛んで来る3本の杭を迎え撃った。

 

 1本目と2本目は、ビームに弾かれて飛散するが、残った1本が真っ直ぐシルフィードに向かってきた。

 

「あたるか!!」

 

 キラはとっさにライフルを仕舞い、高周波ブレードを展開してランサーダートを斬り飛ばした。

 

 そのままスラスターを吹かせてブリッツに急接近、勢いのままに斬り付ける。

 

 とっさにライアの防御が間に合わず、ブリッツはシルフィードの刃を胸部装甲で受け止めた。

 

 だが、刃を受けた場所には掠り傷一つ負っていない。鋼鉄ですら紙のように切り裂く高周波ブレードも、物理衝撃を相転移させる事で無効化するPS装甲には歯が立たないのだ。

 

「チィッ!?」

 

 攻め手を誤った事を悟ったキラは、舌打ちしつつ一時後退、腰からビームサーベルを抜き放つ。

 

 だが、それをみすみす見逃すライアではない。

 

「逃がすか!!」

 

 距離を置いたシルフィードに対して、ライフルを放ってくる。

 

 対してキラは、とっさに旋回しながらブリッツの攻撃をかわしていく。

 

 壁沿いを這うように飛行しつつ、辛うじてビーム攻撃をかわしていくシルフィード。

 

 それを追うライアは、盛んにビームを放つ。

 

 アルテミスの内壁には、逃げるシルフィードを追うように小爆発を繰り返す。

 

 キラは、僅かながら焦りを感じていた。

 

 シルフィードは元々、ザフト軍の空戦用モビルスーツ「ディン」に対抗する為に高い機動力を与えられている。対してブリッツは隠密行動、奇襲作戦と言った特殊任務を主眼にしている為に接近戦にメインを置いた武装をしている。

 

 このような閉鎖空間での戦闘は、相手を自分の間合いに捉え易い分ブリッツに分がある。

 

 対して、シルフィードのように高機動型の機体にとっては、逆に戦い難い環境と言える。何しろ、持ち前のスピードが発揮できない。速度を上げれば旋回率が落ちて壁に激突するし、さりとて速度を落せば狙い撃ちにされる。

 

 自由に動き回れる空間を確保できてこその高機動。疾風と電撃の対決は、電撃の方が有利に進んでいるようだった。

 

 そしてその事は、攻めるライアにも判っている。

 

「ここは攻め時ってね!!」

 

 ビームライフルを速射。シルフィードの動きを拘束しに掛かる。

 

 狙い通り、ビームの檻によって行動を制限されたシルフィードは動きを止める。

 

 そこへ、ライフルを放ちながら、接近するライア。

 

「貰ったわよ!!」

 

 その突撃の勢いのまま、トリケロス内蔵のビームサーベルを繰り出す。ライフルの銃口とサーベルの発振口が同一方向であるからできる力技である。

 

 その切っ先が、真っ直ぐにシルフィードのコックピットを目指した。

 

 しかし、

 

 次の瞬間、キラはブリッツの動きを見定め機体を急上昇、同時に、その頭部を蹴りつける。

 

「んなっ!?」

 

 その動きに、予測していなかったライアは、完全に虚を突かれてつんのめり、機体の体勢を崩す。

 

 その一瞬の隙に背後に回ったシルフィードは、勢いに任せてビームサーベルを、斬り上げるように振るった。

 

「クッ!?」

 

 とっさに回避しようとするライア。

 

 だが、間に合わない。

 

 次の瞬間、ブリッツの右腕は斬り落されて宙に舞った。

 

「クッ、そんな!?」

 

 最前まで押していたと言うのに、まさかの逆転。攻め時を焦ったのがまずかった。

 

 ブリッツは武装の大半が右腕のトリケロスに集中している為、それを失えばほとんど攻撃手段がなくなってしまう。

 

 それにしても、あの追い詰められた状況から、あのようなトリッキーな動きを見せた敵のパイロットに、舌を巻かざるを得なかった。

 

「覚えてろー!! って、これじゃあたしが悪役みたいじゃん」

 

 そう言いながらミラージュコロイドを展開、唯一残ったグレイプニールで鉄骨を掴みながら、シルフィードの間合いから離脱した。

 

 その頃には既に、後続したデュエルとバスター、更にガモフの艦砲射撃によって、傘の護りを失ったアルテミスは炎に包まれていた。

 

 一瞬ブリッツを追おうかと思ったキラだが、その炎に阻まれて果たせず、機体を後退させる。

 

 折り良く、アークエンジェルから通信が入った。

 

《キラ、脱出するわよ。戻って!!》

 

 ミリアリアからだった。どうやら艦のコントロールを奪還する事に成功したらしい。動き出しているところを見ると、艦長達とも合流できたのだろう。

 

 キラは機体を反転させると、炎から逃れるように発進するアークエンジェルへと向かう。

 

 その横目には、炎に包まれていく港の姿が映る。

 

 無敵を誇った要塞はこの日、朱に彩られながら難攻不落の4文字を返上する事となった。

 

 

 

 

 

PHASE―05「疾風VS電撃」      終わり

 

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