機動戦士ガンダムSEED Illusion   作:ファルクラム

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PHASE-06「迷い込んだ蝶」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆気に取られる、とはこんな状況を言うのだろう。

 

 目の前に座するピンク色の髪をした少女に同席する3人、マリュー、ムウ、ナタルの3人は別の意味で圧倒される思いであった。

 

 少女は柔らかい表情を見せたまま、3人の不躾な視線をやんわりと受け止めている。

 

「ポッドを拾っていただき、ありがとうございます。わたくしはラクス・クライン。この子はお友達のハロです」

《ハロハロ、ラクス》

 

 主人の調子に合わせるように、手の中の球形ペットロボットが間抜けな音声を発する。

 

 どうにも、主従揃って人の意表を突く事に慣れた人種であるらしい。いや、ロボットに人種はおかしいか。

 

 いやいやいや、話が脱線してしまっている。

 

 ともかく、この少女の事が今は問題である。

 

 ふとある事に気付き、ムウが口を開いた。

 

「クラインって言うと、確か現プラント最高評議会議長はシーゲル・クラインって言った筈だが・・・・・・」

「あら、シーゲル・クラインはわたくしの父ですわ。ご存知ですの?」

 

 間髪入れない返答に、質問したムウは反応に窮した。ここは相手の言葉に驚くべきだろうか? それとも、そんな訳無いだろうと突っ込みを入れるべきか?

 

 ともあれここで重要なのは、ラクスがムウの言葉を否定しなかったと言う事だ。

 

 固まってしまったムウに代わり、今度はマリューが口を開いた。

 

「そのような方が、どうしてこんな場所で漂流していたのですか?」

「ええ、わたくし達はユニウスセブン追悼慰霊団の事前調査に来ておりましたの」

 

 どうやら、ようやく話が進んだようで、見ていたナタルとムウはそっと溜息を洩らす。

 

「そこで地球軍の船と遭遇いたしました。先方が臨検すると言うのでお受けしたのですが、どうも地球軍の方にはわたくし達の船の目的が置きに召さなかったようで、些細な諍いから、船内はひどい揉め事に・・・・・・わたくしは周りの者にポッドに入れられたのですが、あの後、どうなったか・・・・・・地球軍の方々がお気を静めてくださっていれば良いのですが」

 

 沈痛なラクスに、3人は掛ける言葉が無い。

 

 何はともあれ、扱いに困るカードが舞い込んで来てしまった事だけは確かだった。

 

 

 

 

 

 話は若干遡る。

 

 アルテミスに入港、そして脱出と、めまぐるしい事態の変化を迎えながらも、アークエンジェルは取り合えずまだ、無事に航行を続けていた。

 

 しかし表面上無事でも、根本となる解決策は未だに見出されていない。

 

 アルテミスでは味方に足を引っ張られたせいもあって、全く補給ができなかった。その為、早くも艦内では弊害が現れ始めていたのだ。

 

「み、水~!! 水~!!」

 

 食事をしていたトールが突然、苦しそうに胸を叩きながら叫ぶ。どうやら、食べていた物を喉に詰まらせてしまったらしい。

 

 向かいに座っていたミリアリアが、慌ててコップに半分ほど残った水を差し出す。

 

 それを一気に飲み下すトール。だが、どうやら足りなかったらしい。

 

「水!! もっと水を~!!」

「やめなよ、そう言うギャグ」

 

 食事を運んできたサイが、冷めた目でトールを見据える。

 

 と、そんなトールの前にまだ口の付けてないコップが置かれた。

 

「はい、ゆっくりね」

 

 そう言ってキラは、コップを差し出す。

 

 その水を受け取り、半分ほど飲み下しすと、トールはようやく落ち着いた。

 

「サンキュー、キラ。助かったぜ」

「大げさねえ」

 

 ミリアリアが苦笑を向けてくる。

 

 そんな2人の脇に、キラは腰を下ろした。サイはキラの向かいに座る。

 

 と、そんなキラの脇にもう1人、小柄な人影が腰を下ろす。エストである。

 

 アルテミス戦以降、キラに対する警戒レベルは若干引き下げられている。食事に関してもその一環であった。

 

 キラは確かに護送中の重罪人ではあるが、同時に艦の守りの要でもある。常にベストのコンディションを維持する為に、メンタルサポートは必要不可欠だった。

 

 そんな訳で、エスト・リーランドの監視下であるなら、艦内をある程度自由に歩きまわれる事になった。

 

 勿論、重要区画への立ち入りは厳禁であるが。ただし、状況に応じて機体に触れる事ができるようになったのは、キラとしてもあり難い事である。多少慣れてきたとはいえ、シルフィードはまだ、キラにとっても未知の部分が多すぎる。ザフト軍との戦いがまだまだ続く以上、もっと機体に慣れる必要があった。

 

 キラの横に腰を下ろしたエストは、黙々と食事を口に運んでいく。そんなエストを横目に見ながら、キラも食事に入った。

 

「お前は良いのかよキラ、水」

 

 食べ終えたトールが、さすがに心配そうに尋ねてくる。一度の食事辺りに飲める水の量には制限がある。その僅かな水をトールに与えてしまった以上、キラはもう水を飲めないことになる。

 

 そんなトールに、キラは食事の手を止めて微笑む。

 

「僕は良いよ。こう言うの、慣れてるから」

 

 元々テロリストとしてゲリラ作戦に従事する事もあったキラは、もっと苛酷な環境を、補給無しで何週間も過ごした事がある。それに比べれば、食べられる分だけ今の方がよほどましだった。

 

「本当に、そうなんだ・・・・・・」

 

 そう話すキラに対し、ミリアリアが少し悲しそうに言った。

 

 本当に、キラはテロリストだったんだ。ミリアリアはそう言いたいのだろう。

 

「・・・・・・ごめん、今まで隠してて」

 

 それに対してキラは、謝る以外に道を思いつかない。結局自分は彼等を騙し、隠れ蓑に利用していただけなのだから。

 

 だが、

 

「良いよ、もう」

 

 意外な程柔らかい言葉が耳に入り、キラは思わず顔を上げた。

 

「え?」

「どうせもう、過ぎた事だろ。今更謝んなくても良いよ」

 

 そう言って、サイは微笑を見せる。

 

「でも、僕は、」

「キラ」

 

 そんなキラの言葉を遮って、今度はトールが口を開いた。

 

「実はさ、俺、お前に黙ってた事があるんだ」

「な、何?」

 

 突然の申し出に、キラは困惑した表情を浮かべる。

 

 対してトールは、まるで面白い物でも見るかのような瞳をキラに向けている。

 

「この間、お前が教授に頼まれて書いたレポートで、何か計算が変な風にまちがってるトコ無かったか?」

「あった、けど・・・・・・」

 

 それはいつものように教授に頼まれた、と言うよりも押し付けられたレポートで、ちゃんと計算したはずなのに、いつの間にか僅かにずれていた箇所があった。幸い、提出前に気付いたから事無きを得たが。

 

「実はさ、あれ、俺がやったんだ」

「ええ!?」

 

 そうだったのか。と言うより、トールは何が言いたいんだ? 訳が判らず、キラは更に混乱する。

 

「ちょっとカズイと賭けしてさ。お前が提出前に気付くかどうかって。結局負けちまったけどさ」

 

 と言う事は、トールはキラが気付かないほうに賭けたのだろう。

 

 だが、しかし、

 

「あ、あの、それが?」

「だから、俺だってお前に隠してた事くらい、幾らでもあるって事だよ」

 

 そう言いながら、今度はミリアリアに目を向ける。

 

「それに、ミリィなんか、この間、『最近太り気味だ~』とか言ってたし」

「ちょ、ちょっとトール!!」

 

 恥ずかしい秘密を暴露され、ミリアリアは、顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

 その様子に、見ていたサイは堪えきれずに吹き出した。

 

「まあ、要するに、誰だって秘密の1つや2つはある。だから気にするなって事さ」

「そんな、それじゃただの屁理屈じゃないか」

「良いだろ、それで俺達が納得してるんだから」

「でも!!」

 

 尚も納得が行かないキラは食い下がった。

 

「・・・・・・僕は、みんなを傷付けるかもしれないんだよ?」

「大丈夫です」

 

 そう言ったのは、それまで黙々と食事に専念していたエストだった。それほど早く食べていた訳でもないのに、既にトレイは空になっている。

 

「そうなった時は、私があなたを撃ち殺しますので」

「いや、あのね・・・・・・」

 

 そんな事をサラッと言われても困る。

 

 だが、そんなキラの様子などお構い無しとばかりに、エストは口元を拭う。

 

「食事、早く済ませてください」

 

 淡々としたマイペースを崩さないエストに、キラは開いた口が塞がらない思いである。

 

 そんなキラの間の抜けた様子に、サイ、トール、ミリアリアの3人は堪え切れずに笑い出した。

 

 3人の笑い声を聞きながら、キラは少しむくれたようにそっぽを向いた。

 

 

 

 

 

『レノア・ザラ     CE33~CE70』

 

 そう刻まれた墓石の前に立ち、アスランは花を手向けた。

 

 この下に、母の遺体は無い。ただ冷たい石とそこに刻まれた文字だけが、個人を偲ぶ証となっている。

 

 ユニウスセブンを焼いた核の炎。

 

 開戦の引き金となった「血のバレンタイン事件」の犠牲となった母は、今も宇宙空間の中を冷たくなってさまよっている事だろう。

 

 ラウに伴われてプラントに帰還したアスランは、そのまま最高評議会に出廷。ヘリオポリス崩壊事件の際の証言をした。

 

 やはりと言うか、最高評議会は継戦派が主流を占めている。そしてその急先鋒は、他でもない、アスランの父である国防委員長パトリック・ザラだった。

 

 継戦の意思に、アスランも異論は無い。母の墓を前にしては、尚更その思いは強くなる。

 

 だがそれでも脳裏にチラつくのは、先日、戦場で再開したばかりの友の姿であった。

 

「キラ・・・お前は一体・・・・・・」

 

 再開した友人はしかし、刃を持ってアスランに向かってきた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言のまま首を振る。

 

 判らない。一体何故、キラが地球軍に居るのか? そして何故、自分の手を振り払ったのか。

 

 せめてもう一度、しっかりと会って話す事が出来れば違うのかもしれない。

 

 そこまで考えた時、非常呼集を告げるシグナルが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 シルフィードのコックピットに端末を繋ぎ、機体の状況をチェックしていく。

 

 さすがの地球連合軍期待の最新兵器Xナンバーの1機と言えど、緻密な整備を行わなければ本来の戦闘能力を発揮できない。

 

 機体各部に常備されたチェックシステムが、端末に状況を映し出していく。

 

「よう、どんな感じだ?」

 

 それを背後から、コジロー・マードック軍曹が覗き込んだ。

 

「あ、はい、異常は無いと思います」

 

 整備兵見習いとして志願してからはリリアは、コジローの下に付いて手伝いをする事が多かった。これには、学生であるリリアの経験不足を補い、なおかつ有効利用する為の措置である。

 

「ただ、やっぱり・・・・・・」

「弾薬か?」

 

 マードックの言葉に、リリアは頷いた。

 

 イーゲルシュテルン用の75ミリAP弾。ランチャーストライカーやアークエンジェルの各種ミサイル類、ガトリング用120ミリ弾、各種エネルギー・バッテリーなどなど、足りない物は目白押しである。

 

「このままだと、あと2~3回の戦闘が限界だろうな」

「それくらいしか駄目なんですか?」

「ああ、艦の方も武装が消耗してってるからな。好い加減、補給を何とかしねぇと干上がっちまうぜ」

 

 そう言いながら、リリアの手から端末を受け取る。その画面に目を落とすと、マードックは眉間に皺を寄せた。

 

「ん、おいこらッ」

 

 リリアの頭を軽く叩いて振り向かせる。

 

「何ですか?」

 

 叩かれた頭をさすりながら振り返るリリアに、マードックは端末のモニターを突きつけた。

 

「ここ、間違ってんぞ」

「え?」

 

 言われて、慌てて覗き込む。

 

「ほら、ここと、ここ。しっかりしろよ」

「は、はい。すいませんッ」

 

 そう言うと、慌ててチェックをやり直す。

 

 そんなリリアの様子を、マードックは溜息を混じりに見詰めていた。

 

 その時だった。

 

 ブリッジから手空きのクルーに招集が掛かったのは。

 

 

 

 

 

 食堂におけるキラ達の会話。そして格納庫でのリリアとマードックとのやり取りは、正しく今、アークエンジェルを蝕んでいる危機の象徴と言えた。

 

 当然の事だが、人は食わねば生きられない。燃料が無ければ機械は動かない。

 

 このままではアークエンジェルは物資不足から、早晩、深遠の宇宙空間で漂流する事になりかねない。

 

 しかし、そんな状況もムウが放った一言が、解決に導こうとしていた。

 

「不可能を可能にする男かな、俺は」

 

 その言葉に導かれるように、船外作業艇に乗り込んだクルー達はデブリ帯の中へと入っていった。

 

 現在アークエンジェルは、デブリ帯の手前まで進出している。

 

 ムウの発案とは、漂流するデブリの中から補給物資を求めると言うものであった。

 

 宇宙空間を浮遊する物質が、地球の引力に引かれて形成されたデブリベルトの中には難破した宇宙船や撃沈された艦艇なども存在し、その中には手付かずの物資が残っている可能性もある。それらを見付ける事が出来れば、補給の問題も解決する。

 

 船外作業にはサイ達ヘリオポリスの学生も参加していた。

 

 話を聞かされた当初は、墓荒らし的な行為に嫌悪感を示していた彼等だが、結局の所、効果的な代案があるわけではなく、最後はマリューの説得に応じる形で作業に参加した。

 

 そして彼らは程無く、「それ」を見付けた。

 

 「それ」は一面に広がる銀の世界。

 

 一種、幻想的な「それ」は無機質な漆黒の空に浮かぶ、伝説の浮遊大陸のような印象を受ける。

 

 しかし、「それ」が何なのか判らない人間は、この中には居ないだろう。

 

 ユニウスセブン。

 

 悲劇の元凶であり、「血のバレンタイン事件」の舞台となった始まりの地。

 

 その哀しいまでに美しい光景を前にして、一同は声を立てることすら忘れて見入っていた。

 

 

 

 

 

「あそこから、水を補給するって、それ、本気ですか!?」

 

 肩を怒らせて声を上げたのはリリアだった。

 

 一通り周辺の調査を終えて戻った後、マリュー達が下した結論は「ユニウスセブンで凍り付いている水を確保する」と言うものであった。

 

 彼女自身、先程まで船外作業に従事し、ユニウスセブンをモニター越しに目にしている。

 

 あそこには「血のバレンタイン事件」で散った多くの命が、今も埋葬されるアテも無く眠っている。まして、リリアはコーディネイターである。ユニウスセブンに対する思い入れは他の一同とは次元が違ってくる。

 

 勿論、誰もが抵抗が無いわけではない。現に、リリアほどではないにしても消極的な者が何人か見られる。そしてその多くが、ヘリオポリスの学生達だった。

 

「だが、あそこには1億トン近い水が凍っている。他に手が無い以上、やるしかないだろう」

 

 断定的な口調で告げたのはナタルだった。

 

 彼女の中でも、物資の充足は最優先課題である。ましてかユニウスセブンは元々、農業用の食料プラントで、水だけでなく食料も豊富に残っている可能性が高い。それを考えれば、逃す手は無かった。

 

「でもッ」

 

 尚も言い募ろうとするリリア。しかしそれを、マリューは目で制し、口を開いた。

 

「水は、本当にアレしか見付からなかったの?」

 

 その質問に、誰もが首を振った。

 

 他に見付かっていれば話は早かったのだが、生憎、調べた限りでは近辺に他に水は無い。

 

「誰だって、あそこに踏み込みたくは無いさ」

 

 少し諦めの入った口調でムウが言った。

 

「だが、俺達は生きてるんだ。 って事は、これからも生きなきゃいけないって事なんだ。そこのところを考えてみてくれ」

 

 諭すようなその言葉に、誰もが反論できない。

 

 結局、その一言が結論となった。

 

 

 

 

 

「ポイントG-7、クリア。作業を開始してください」

《了解だ》

 

 エールを装備したストライクは。作業班に先行して哨戒任務に就いている。

 

 コックピットに座すエストは、障害物の存在によって大幅に能力を制限されたセンサーを頼りに、ゆっくりとデブリの中を進んでいく。

 

 デブリの中には細かい物もあり、その存在がセンサーの探知能力を落している。その中を、モニターを睨みながら索敵に勤めるのは容易な事ではない

 

 ストライクの背後からは20隻近い作業艇が従い、氷の切り出し作業に入っていた。

 

 当初は作業に対して消極的だったサイ達も、初めての船外作業体験と言う事で、徐々に墓荒らし行為から来る背徳感よりも、宝探しのゲーム感覚のような高揚感が勝り始めていた。

 

 そんな作業艇の間を、エストのストライクは警戒しながら移動する。

 

 ここは地球寄りの宙域にあるとは言え、宇宙それ自体がザフト軍の庭と言っても過言で無い以上、警戒を怠る事は出来なかった。

 

 ちなみに今回、キラの出番は無い。戦闘以外の事でキラを使う気は、さすがのマリューも無いようだった。

 

 目の前をカズイ達が乗る作業艇が通過していく。

 

 それを見送りながら、エストはふと、現在の自分の状況を省みていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 何とも、奇妙な事になったものである。

 

 オーブ連合首長国所有の資源衛星ヘリオポリスに潜伏中のテロリスト「ヴァイオレット・フォックス」の捕縛、あるいは抹殺。その為に特殊部隊に加わって潜入したというのに、何がどうなったのか、今はモビルスーツのパイロットをやっている。

 

 いや、エストとて現状は判っている。現在使えるモビルスーツは2機。うち、パイロットとして戦場に立てるのは、自分と、当のヴァイオレット・フォックスしかいない。

 

 その事に、何ら不満があるわけではないのだ。

 

 ただ、

 

『そうか、貴様は「人形」か』

 

 アルテミスで言われた、ガルシアのあの言葉が、脳裏を掠めていく。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そう、自分は人形。戦う為に作り出され、そして戦場で死ぬ事を運命付けられた、タダの人形でしかない。

 

 だが、ならばなぜ、あのような言葉が胸に突っかかるのか?

 

 ガルシアは本当の事を言っただけだ。何も気にする必要は無いと言うのに。

 

 そこまで考えた時だった。

 

 突如、警報がコックピット内に鳴り響く。

 

「えっ!?」

 

 ハッと我に返り、モニターに目を走らせる。

 

 そこに映し出されている、黒い鉄騎の姿。

 

「強行偵察型ジン!!」

 

 索敵、偵察を目的に作られた複座のジン。隠密行動と長距離移動を視野に入れた戦闘偵察機型の機体である。まさか、ここで出くわすとは。しかも、その手にある長いライフルは、既に構えられている。

 

 その銃口の先にあるのは、カズイ達の乗った作業艇が。

 

「クッ!!」

 

 思わず、自分の迂闊さを呪うように、ビームライフルを掲げる。

 

 だが、その前にジンのライフルが放たれた。

 

 作業艇の左舷を砲弾が掠め、余波を食らって吹き飛ばされる。

 

 尚も追撃しようとするジン。

 

 だが、その前にストライクの放ったビームがジンのコックピットを正確に撃ち抜いた。

 

 一瞬、ぎこちないように後退するジン。すぐに熱が電送系を犯し発火、そのまま爆散して消えた。

 

《た、助かった・・・・・・》

《すまん、リーランド曹長》

「いえ・・・・・・」

 

 カズイと、同乗していたノイマンに返事を返すと、エストは通信機を切った。

 

 何を馬鹿な事を考えていたのか。自分は人形。戦うだけの人形。それで良いではないか。それ以外の事を考える必要など無い筈だ。

 

 そう思った時だった。

 

 センサーが、僅かな救難信号をキャッチした。

 

 カメラを転じるとそこには、1人乗り用の救命ポッドが浮いているのが見える。

 

「・・・・・・中に、人が?」

 

 訝るように呟くと、エストはストライクを慎重にポッドに近づけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出発の準備を終え港に行くと、完全に修理が完了した戦艦ヴェサリウスが、新品同然の艦体を誇るようにして、出港の時を待っていた。

 

 無重力状態の空間を泳ぎながら艦に向かうアスランは、少しだけ疑問を持て余している。

 

 本来、ヴェサリウス出航までには、まだ少々時間があったはず。それが急に呼び出されて出航すると言うのには、一体どんな理由があるのか?

 

 聞けば、同時に出撃する予定だったラコーニ隊とポルト隊の艦は、まだ出撃準備が整っておらず、戦力不足のヴェサリウスは、臨時に別部隊から戦力を補充しての慌しい出撃になるとか。

 

 アスランでなくても、何かあると思うのは当然であった。

 

 艦が近付いてくる。

 

 既に、アスランの愛機として認定されたイージスの搬入も終わっているはずだった。

 

 と、ハッチの前に見知った顔が2つある事に気付いた。

 

 ひとつは隊長のラウ・ル・クルーゼ。そしてもう1人は、

 

「父上?」

 

 プラント国防委員長を務め、対連合最強硬派筆頭としても知られる父、パトリック・ザラの姿がそこにあった。

 

 とは言え、今は軍人と政治家と言う公の立場を尊重せねばならない。

 

 アスランは敬礼したまま、2人の横を通り抜けようとした。

 

 だが、

 

「アスラン」

 

 ラウに呼び止められ、アスランは足を止めた。

 

「ラクス嬢の事は聞いているかね?」

「ラクス・・・いえ?」

 

 なぜここで、その名前が出てくるのか疑問だった。

 

 ラクス・クラインは、プラントを代表する歌姫であり、同時にアスランの婚約者でもある。もっとも今は、ユニウスセブン追悼慰霊式典の下見の為にデブリベルトに行っている為、帰還したアスランとは入れ違いになってしまった。それを密かに残念に思っていた矢先である。

 

 だが、次の瞬間、パトリックが言った言葉に思わず息を呑んだ。

 

「実はなアスラン、ユニウスセブンを下見にいった船が消息を絶ったのだ」

「何ですって・・・・・・」

 

 足元が歪んだ気がした。

 

 ラクスが行方不明? そんな、何で?

 

 そこで、飛びかけた意識が、頭の中で未完成のパズルを組み合わせる。

 

 予定を繰り上げての急な出航、そして、今の話。

 

「では、ヴェサリウスが出航するのは、」

「そう言う事だ、アスラン。ラクス嬢とお前が婚約者なのはプラント中が知っている。彼女が行方不明なのに、お前の部隊が休暇を満喫しているわけにもいかんだろう」

「それは、確かに・・・・・・」

 

 体裁的にもそうだろうが、アスラン個人としても見過ごしてはおけない。

 

 そんな風に逸るアスランに、ラウは続ける。

 

「既に捜索に向かった、ユンロー隊のジンが消息を絶った。それに今、ユニウスセブンは地球の重力に退かれてデブリベルトの中にある。嫌な位置だよ」

 

 確かに。デブリベルトは地球に近い。万が一、地球連合軍に捕捉されていたら厄介である。

 

「ラクス嬢の事、頼んだぞアスラン、クルーゼ」

 

 重々しく告げるパトリックに、敬礼を返す2人。

 

 それを見届けてから、パトリックはハッチから離れていった。

 

「彼女を助けて、ヒーローのように帰還しろ。そう言う事ですか?」

 

 父の背中を見送りながら、少し皮肉を利かせて尋ねるアスラン。要するに、この事をプロパガンダとして、最大限利用しようという父の意図が透けて見えていた。

 

 それに対してはクルーゼも同感のようで、その皮肉を受け止めて返す。

 

「あるいは、その亡骸を号泣しながら抱いて戻れ。という事だ」

 

 ラウの冷徹な一言に、アスランはハッとする。確かに、その可能性も充分に考えられるのだ。

 

「何にしても、君が行かないと話にならないと考えているのさ。君の御父上は」

 

 そう言ってラウは艦内へと入っていくのを、アスランは僅かに目を細めて見送る。

 

 その時、背後から近付いてくる気配に気付いて振り返った。

 

「ほう、あんたがアスラン・ザラか?」

 

 振り返るとそこには、大柄な男が立っていた。

 

 無精髭を生やし、日焼けで褐色に染まったその容貌は、いかにも歴戦の戦士といった感じである。

 

 もっとも、先進科学の塊であるプラントにいるよりも、何処かの紛争地域で銃を握っている方が似合いそうな男ではあるが。

 

「あの、あなたは?」

「おっと、これは失礼。俺はクライブ・ラオス。国防委員からの命令で、今回の任務に同行する事になった。よろしくな」

「はあ」

 

 差し出された手を握り返すアスラン。そのごつごつした手は力強く、容貌と相まって軍人と言うよりも傭兵と言う印象が強かった。

 

 だが同時にアスランは、ラオスと言う名前に聞き覚えがあった。

 

「クライブ・ラオスと言えば、あの、ラオス隊隊長の?」

 

 その言葉に、クライブは肩を竦めて苦笑した。

 

「やれやれ、俺も有名になったものだ」

 

 クライブ・ラオスは開戦初期からザフト軍の前線に立ち、グリマルディ戦線や新星攻防戦など、数々の激戦で名を上げてきた勇士である。そんな人物が、今回の任務に同行するとは。

 

「間抜けな事に、先日の小競り合いで乗艦を撃沈されてね。それで同乗させてもらおうって訳さ」

 

 そう言うと、クライブは意味ありげに笑った。

 

「そう言う、あんたの噂も聞いているぞ。士官学校始まって以来の秀才。クルーゼ隊きってのエースパイロット。あんたの実力は、いずれ戦場で見せてもらおう」

「ハッ」

 

 踵を揃えて敬礼するアスランの肩を叩き、クライブはヴェサリウスの艦内に入っていく。

 

 その後姿を見詰めるアスラン。

 

 握られた手を、ジッと見詰める。

 

 妙な違和感が、アスランを包んだ。

 

 物腰こそ穏やかだったが、あのクライブという隊長に、アスランは何か異質な物を感じるかのようだった。

 

 

 

 

 

 そこでやっと、冒頭のシーンに戻る。

 

 エストが拾ってきたポッドから出てきたのは、間抜けな顔のピンク色のペットロボットと、そしてペットと同じ色の髪を持った少女であった。

 

 しかも、その正体はラクス・クライン。

 

 現プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの1人娘で、自身もユニウスセブン追悼慰霊団の団長を務め、その可憐な容姿と天使のような美声から「プラントの歌姫」と呼ばれ親しまれている少女である。

 

 思いもかけず、強力なジョーカーが手元に舞い込んできてしまった。

 

 ともかく、可愛らしい少女の漂流者が収容されたのだ。民間人も多く乗っている艦内で、話題にならないはずもない。

 

 そして並列する形で、問題もまた必然的に起こっていた。

 

「嫌よッ 絶対に嫌ッ!!」

 

 着替えとシャワーを終えたエストが食堂の前を通り掛った時、中からそんな声が聞こえてきた。

 

 覗き込んでみると、ミリアリアとフレイが何やら口論しているのが見えた。

 

「どうかしましたか?」

 

 傍らには、ちょうど良くカズイが佇んでいた為、尋ねてみた。

 

「あのラクスって娘の食事。ミリィがフレイに持って行けって言ったら、フレイが嫌だって。それでああなったの」

 

 カズイが説明する間も、少女2人はなおも口論を続けている。

 

「大体、コーディネイターの娘の所になんて行けるわけないでしょッ 何されるか判らないじゃない」

「でも、あの娘は、君に飛び掛ったりはしないと思うけど?」

 

 横から口を挟んだカズイに、フレイはキッと視線を向けて睨みつける。

 

「そんなの判らないわよ。コーディネイターなんだものッ」

 

 取り付く島がなかった。

 

 ブルーコスモスと言う組織がある。コーディネイターの排斥を唱える集団で、タカ派に至ってはテロ行為に走る者も少なくない。

 

 フレイの言動は、正にそのブルーコスモスを連想させた。

 

 その時だった。

 

「あら、誰が、誰に飛び掛かるんですの?」

 

 ボヤッとした言葉遣いの声が傍らから発せられ、エストは不覚にも身構えてしまった。

 

 そこには噂の当人、ラクス・クラインがニコニコとした表情で立っていたのだ。

 

《ハロハロ~、オマエモナ~》

 

 その足元では、ピンク色の丸い物体が相変わらず能天気な音声を発している。

 

 言葉を失う一同を前にして、ラクスはあくまでマイペースのまま食堂に入ってきた。

 

「あら、驚かせてしまったようで、すみません。わたくし少し、喉が渇いてしまったので。それに、笑わないでくださいね。少し、おなかが空いてしまいましたの」

 

 そこまで言われて、一同はようやく我に返った。

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

「か、鍵とかって、してないわけ?」

「やだぁ、何でザフトの子が勝手に出歩いているのよ」

 

 カズイとミリアリアが驚愕の声を、フレイが嫌悪以外に取りようが無い声を発した。

 

 そんな中でエストは無言のまま佇む。しかし、やはり警戒するように身構えている。

 

 部屋には確かにロックを掛けてあったはず。一体彼女はなぜ、どうやってこの場に現れたのか?

 

 自身に視線が集中する中で、ラクス1人が悠々と佇んでいる。

 

「あら、勝手にではありませんわ。ちゃんと、お断りしました。それに、ザフトと言うのは軍の名称であって正式には、ゾディアック・アライブアンス、」

「何だって一緒よ。コーディネイターなんだから!!」

 

 ラクスの言葉を遮って、フレイが叫んだ。

 

 だが、ヒートアップするフレイに対して、ラクスはあくまでマイペースを崩さない。まるで、激高しているフレイのほうが追い詰められているかのようだ。

 

「一緒ではありませんわ。確かに私はコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの」

 

 そう言うとラクスは、フレイに右手を差し出す。

 

「あなたも、軍の方ではないのでしょう。でしたら、わたくしとあなたは一緒ですわ」

 

 ふんわりした雰囲気は、周囲の人間を和ませる力があるようだ。きっとそれゆえにラクスは、歌姫としてプラントの人間から慕われているのだろう。

 

 だがフレイは、差し出されたラクスの手を、汚らわしいものでも見るかのように睨む。

 

「ちょっと、やだッ やめてよ。なんであたしがアンタなんかと握手しなくちゃいけないのよ?」

 

 そして、決定的な一言を言い放った。

 

「コーディネイターの癖に、慣れ慣れしくしないでよッ!!」

 

 その瞬間、2人の間には何か、決して開く事のない扉が閉ざされた。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 エストに導かれて、ラクスは自室へと戻ってきた。

 

「また、ここにいなくてはいけませんの?」

「はい、規則ですので」

 

 抗議、と言うほどではないにしろ、不満を述べるラクスに、立場を弁えて欲しい。とはさすがに言わなかった。

 

 そのエストの手には、ラクスの食事が乗ったトレイがある。結局エストが運ぶ事で、あの場を収めたのだ。

 

「退屈です。わたくしもあちらで、皆さんとお話しながら頂きたいですわ」

「・・・・・・立場を弁えてください」

 

 結局言ってしまった。

 

 そんなエストの言葉に、ラクスは目に見えて落胆したように肩を落とした。

 

「残念ですわ」

 

 だが、すぐに顔を上げてエストを見る。

 

「でも、あなたは優しいですのね」

「え?」

 

 予期していなかった突然の言葉に、エストは返す言葉がとっさに出てこない。

 

「・・・・・・任務ですから」

 

 突然言われた事もあり、それだけしか返す事が出来なかった。別に、ラクスの食事を運ぶ事はエストの任務ではないのだが、それでもあのまま、彼女を食堂に置いておく訳には行かなかったので、仕方なく引き受けただけである。

 

「・・・・・・そうですか」

 

 ややあって、ラクスは静かに頷いた。

 

 面白みの無い発言で、落胆させてしまっただろうか。

 

 そう思って顔を上げたエストだが、その予想に反してラクスは笑顔を浮かべていた。

 

「でも、あなたが優しいのには、変わりないと思いますよ」

「私は、別に・・・・・・」

 

 言葉に詰まるエスト。

 

 そんなエストを見て、ラクスは言った。

 

「お名前を、教えていただけますか?」

 

 その言葉に、なぜか口はすんなりと開いた。

 

「エスト・・・・・・エスト・リーランドです」

「そう、ありがとう、エストさん」

 

 そう言うとラクスは、エストの手を優しく握った。

 

 

 

 

 

 ラクスの部屋を出て数歩進むと、中から歌声が聞こえてきた。

 

 澄み渡るような、空気に溶ける声。

 

 思わずエストは足を止めて、たった今出てきたドアに向き直った。

 

 プラントの歌姫。その名に相応しい、聞く者の心を癒すような歌声だ。

 

 流れを止めた水の上に、静かに身を横たえているかのような、そんな心地よい感覚に包まれ、思わず聞き入ってしまう。

 

「綺麗だね」

 

 不意に、背後から声を掛けられた。

 

「そう、ですね」

 

 あまり意識せずに答え、

 

 そして、

 

「えっ!?」

 

 慌てて振り返る。

 

 そこには、同じように歌に聞き入っているキラが立っていた。

 

「・・・・・・何で部屋を出ているのですか?」

 

 この男と言いラクスと言い、コーディネイターは随分と人の意表を突いてくれる。

 

 そんな事を内心で考えているエストを見ながら、キラは少し困ったように笑顔を見せた。

 

「何でって・・・・・・」

 

 ややあって、言った。

 

「僕、お腹空いたんだけど?」

「・・・・・・・・・・・・あ」

 

 そこでようやく、キラの食事を忘れていた事に気付いた。

 

 そんな2人の気まずい間を象徴するかのように、キラの腹の虫が情けなく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦内が喧騒に包まれたのは、食堂での騒ぎが収束してから暫く経った頃の事だった。

 

 通信手を務めているロメロ・パル伍長が、アークエンジェルを呼び出す通信を傍受したのだ。

 

 解析を進めると、大西洋連邦宇宙軍第8艦隊所属の先遣艦隊である事が判明した。

 

 その情報を聞いた艦内は沸き立った。

 

 何しろ、ヘリオポリスを脱出して以来、ザフト軍の影に怯えながら孤独な航海を続けてきたアークエンジェルである。ここでの味方との邂逅は、まさに天の助けだった。

 

 更に、フレイには喜ぶべき事に、その艦隊には彼女の身を案じるあまり、居ても立ってもいられなかったであろう父、ジョージ・アルスター大西洋連邦事務次官が乗船しているとの事だった。どうやら、娘の消息が心配で、いても立ってもいられず艦隊に同行して来たらしい。

 

 その事はすぐに、婚約者であるサイの口からフレイに伝えられ、彼女を喜ばせていた。

 

 第8艦隊は、開戦以来常に前線にあって奮戦を続けてきた歴戦の部隊で、司令官たるドゥエイン・ハルバートン准将は、その水際立った戦術指揮能力と的確な戦略眼から、敵味方を問わず「智将」の名を冠せられていた。

 

 何より、ハルバートン准将はG開発計画の発案責任者。すなわち、マリューやナタルの直接的な上官に当たる。それ故に、孤軍奮闘するアークエンジェルを救うべく捜索を続けていたのだろう。

 

 

 

 

 

 一方で、その先遣隊の背後から、不吉の鐘を鳴らす存在が忍び寄っている事には、まだ地球軍側は誰も気付いてはいなかった。

 

 仮面の下の目を細めながら、クルーゼは訝るように頷いた。

 

 映し出されたモニターの先には、少数で航行する地球軍の艦隊が見える。

 

 戦艦1隻、護衛艦2隻の小規模な艦隊だ。

 

 しかし、

 

「地球軍の艦隊が、こんな所で何を?」

 

 アデスの言葉を聞きながら、ラウは徐々に自分の頭の中で考えを纏めていく。

 

「・・・・・・『足付き』がアルテミスから月に向かうとすれば、どうするかな?」

「では、あれは、あの艦と合流する予定であると?」

「その可能性はある」

 

 ラウの口元に笑みが浮かんだ。

 

「ラコーニとポルトの隊の合流が予定よりも遅れている。もしあれが『足付き』に物資を届ける為の部隊なら見過ごしてはおけん」

「仕掛けるのですか? しかし、我々はラクス嬢を、」

 

 反論したのは、同席していたアスランである。婚約者の存在を軽んじるかのようなラウの発言に対し、抗議しているようだ。

 

 対してラウは、笑みをアスランに向ける。

 

「我々は軍人なのだよアスラン。確かにラクス嬢の捜索は我々に課せられた任務だが、たった1人の少女の為に、『足付き』を見逃すわけには行くまい。私も、後世の歴史家に笑われたくないしな」

 

 その一言が、運命を決した。

 

 

 

 

 

「レーダーに艦影捕捉。戦艦モントゴメリ、護衛艦バーナード、ローです」

 

 モニターには、正面から接近してくる友軍の艦が映し出されている。

 

 同時に通信可能領域に入った為、双方の回線が開かれる。

 

《本艦隊の到着予定は予定通り。合流しだい、アークエンジェルは本艦の指揮下に入り、月本隊との合流地点へ向かう。あとわずかだ。がんばってくれ》

 

 旗艦モントゴメリ艦長で先遣隊の指揮官であるコープマンが、励ましの言葉を掛けてくる。

 

 そこで、その傍らに座した男性が口を開いた。軍服ではなくスーツを着込んだ身形のよいこの男が、恐らくフレイの父親であるジョージ・アルスターなのだろう。

 

《大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれた事に礼を言いたい》

 

 そこら辺は、キラの機転のお陰だった。今後のアークエンジェルに対する評価を考えれば、おかしな話かもしれないが彼には感謝したい気分である。

 

 そんな事をマリューが考えていると、ジョージは更に続けて口を開いた。

 

《あー、その、乗員名簿の中に我が娘フレイの名があったのだが、できれば顔を見せていただけるとありがたい》

 

 その言葉には、さすがの一同も当惑せざるを得なかった。明らかに公私混同である。

 

 向こうでも同じらしく、コープマンの嗜める声が聞こえてくる。

 

 そんな中で1人、CICに座っているサイだけが、含み笑いを浮かべている。

 

「こう言う人なんですよ。フレイの父さんって」

 

 娘を溺愛する良き父。それ故にこそ、職権乱用を覚悟の上で、こうして捜索隊に加わって来たのだろう。

 

 コープマンが、続けて何か話そうとした。

 

 その時だった。

 

 それまで鮮明に映し出されていた映像が乱れ、あっという間に砂嵐に包まれる。

 

「どうしたの!?」

 

 突然の事に、驚愕がブリッジを包む。

 

「これは・・・・・・ジャマーです。エリア一帯に干渉しています!!」

 

 パルの声が、悲鳴のように響く。

 

 何が来たかなど、今更考えるまでも無かった。

 

 

 

 

 

PHASE-06「迷い込んだ蝶」      終わり

 

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