人助けなんて性に合わない 作:ナンセンス
「三五月、なんだこれは?」
「何って、作文でしょう。あなたが出した課題の」
職員室で向い合う女教師と男子生徒。
男子生徒の呑気な物言いに、教師が苛立ちを露にする。
「これのどこが作文だって?」
高校生活を振り返って
2年F組
位相空間とは何か。それは大抵の場合“集合に位相構造を入れたもの”と説明される。では具体的に、位相構造とは何であろうか。それは、元になった集合(以下、$X$と呼ぶ)のある部分集合族(以下、$\mathcal{O}$と呼ぶ)のことであるといえる。この部分集合族というのは、なんでもよいわけではなく、開集合系の公理と呼ばれる3条件を満たす必要がある。1つ目、空集合と$X$自身が$\mathcal{O}$に含まれること。2つ目、任意の$\mathcal{O}$の元の和集合が、また$\mathcal{O}$に含まれること。3つ目、有限個の$\mathcal{O}$の元の共通部分が、また$\mathcal{O}$に含まれること。これはユークリッド空間、または距離空間において示される開集合系の性質を、そのままに抜き出したものであるといえるだろう。よって、この部分集合族$\mathcal{O}$の各元は開集合と呼ばれる。ここで、最初の問に戻ろう。位相空間とは何か。それはずばり、集合に開部分集合を定めたものである。
「どこからどうみても作文にしか見えませんが?平塚先生の目には、これが漫画に見えてるんですか?」
「この大馬鹿者!この怪文書の一体どこが作文だ!」
「怪文書とは酷い言い様ですね。我ながら、よくまとめられていると思いますが」
「高校生活を振り返って、と書いているだろう!」
「......ですから、去年一年間で得た学び、経験をそこに綴ってあるじゃないですか」
「......」
教師は絶句した。
二の句が継げなかった。
言葉が出なかった。
「同じ意味の言葉を違う言い方で三度も繰り返して、一体何のつもりですか?」
「メタいことを言うな」
「......」
「......」
再び沈黙が流れる。
「あの、もう帰っていいですかね?色々忙しいんで」
「ダメに決まっているだろう」
「じゃあ本読んでるんで、帰ってもよくなったら声かけてください」
「君は馬鹿なのか?」
「同年代の少年少女と比較しても、好奇心旺盛かつ勤勉な方だと思いますが?」
教師は大きくため息をついた。
「まさか比企谷よりも酷いヤツがいるとはな......」
「え、何ですか?ひ、ひき?」
「おいおい、同じクラスだろう」
「は、はぁ......?でも、クラスメイトかどうかって、2進法で振り分けるじゃないですか」
「君は一体何を言ってるんだ?」
「クラスメイトだったら1で覚えて、それ以外は0で覚えるって、先生も学生時代にやりませんでした?」
「もういい!お前もとりあえず奉仕部に強制入部だ」
「なんですか、その名前からして懲罰感のあふれる部活。第一、部活動というのは生徒の自由意志によって行われるべきものであって、強制入部なんてものは倫理的にアウトでしょう」
「いいから黙ってついてこい!」
「ハラスメントですね」
握られた拳が三五月の顔面の真横をすり抜ける。
「“黙って”ついてこい」
「......(有形力の行使、体罰だな)」