人助けなんて性に合わない   作:ナンセンス

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開始時点の時系列:雪ノ下と比企谷が一連のやりとりを終えた後、由比ヶ浜が奉仕部を訪れるまでの間。


第四話

三五月が部室に入ると、そこには既に2人が揃っていた。

 

「あら、あなたも来たのね。来ないと思っていたわ」

 

「自習のついでに非常識な人間どもを眺めに来たんだよ」

 

「ここは自習室ではないと、昨日も言ったでしょう」

 

「僕は無駄な時間が嫌いだと、昨日も言ったよね?」

 

「なら、わざわざここに来る意味は何かしら?」

 

「自分よりも変な人間を見ることで自分がまともだと思える。つまり、精神衛生を保ちながら数学ができる。実に無駄がなく効率的な手段だと思うけど?」

 

「そんな発想をする時点で十分まともじゃないわ」

 

比企谷は自分に飛び火しないようにと、必死に空気になろうとしている。

 

酷く剣呑な空気が漂うが、部室の扉をノックする音でそれは霧散する。

 

「どうぞ」

 

「し、失礼しま~す。平塚先生に言われてきたんですけど」

 

「1だね」

 

三五月の言葉に比企谷が反応する。

 

「え?......ってことは同じクラス?」

 

「な、なんでヒッキーがここにいんの?!」

 

「......」

 

比企谷は黙り込み、雪ノ下は一度三五月の方へ呆れたような視線を送ってから、来客の対応を行う。

 

「......2年F組、由比ヶ浜結衣さんよね。とにかく座って」

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ。」

 

「人の名前なんてよく覚えていられるね。何の意味もない文字列なのに」

 

「全校生徒を覚えてるんじゃねぇの?」

 

「いいえ、あなたのことなんて知らなかったもの」

 

「......そうですか」

 

「気にすることないわ。あなたの存在から目を逸らしたくなってしまう、私の心の弱さが悪いのよ」

 

「それ慰めてるつもりなの?」

 

「ただの皮肉よ」

 

雪ノ下と比企谷を交互に見る由比ヶ浜とは対照的に、三五月は雪ノ下の方だけを見ていた。

 

自分は前日に自己紹介を要求されたのにもかかわらず、知らなかったのは“あなたのこと”だけ。初日と先程のやりとりで、わざわざ会話から外すくらいに嫌われたか、または......

 

今の言葉には何か別の意味があって、比企谷だけがそれに該当したのか。

 

そこまで考えて、自分には関係のないことだと思考を打ち切った。

 

 

実際、雪ノ下雪乃は比企谷八幡の存在を知っていた。では、知らなかったのは一体何だろうか。

それは本来辿るはずだった物語の中で語られることだ。

 

 

「なんか楽しそうな部活だね!」

 

由比ヶ浜の言葉に、比企谷が微妙な表情を浮かべる。

 

「それにヒッキーよく喋るよね。」

 

「は?」

 

「あ、いや、なんていうかその......ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。なんつーか、いつもはキョドり方キモいし」

 

散々な言われように、比企谷は思わず言い返す。

 

「このビッチめ」

 

この言葉が引き金になって、更に騒がしくなる。

 

 

 

一方、いつの間にか黒板の方に移動していた三五月は、我関せずといった表情で、前日と同じく何かを書き始めた。

 

チョークが黒板に擦れる音に反応して、3人が一斉に三五月の方に視線を向ける。

 

「......」

 

「お前、よくこの状況でそんなことができるな......」

 

「え?何してるの?」

 

反応は三者三様である。

 

雪ノ下はもう何も言わない。比企谷は呆れ、由比ヶ浜は純粋に疑問を口にする。

 

三五月は由比ヶ浜の問いに答える。

 

「ヒルベルトの基底定理、その証明。あ、こっちにはお構いなく」

 

「ええっと......」

 

「本人が構わないと言っているのだから、続けましょう。それで、この部に一体何の用かしら」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、これさ。僕必要?」

 

「あなたも一応部員なのだから、必要不必要ではなく、この場にいるのが義務でしょう」

 

場所は変わって家庭科室。由比ヶ浜結衣の依頼はクッキー作りの手伝いらしいので、全員で移動してきたのだ。

 

“らしい”というのは、男性陣は雪ノ下によって話を聞かないことを強制されていたからだ。比企谷は部室を追い出され、黒板を使いたがった三五月はイヤホンを装着して音楽を聴くことでそれを回避した。

 

移動の際、三五月は一人部室に残ろうとしたが、雪ノ下によって強制的に連れてこられた。

 

「部員だからといって、常に他の部員と行動を共にしなきゃいけないとは限らないでしょ。むしろ他の依頼者が来たときのために、誰か一人が部室に残っておくというのも部活のうちに入ると思うんだけど?」

 

三五月は文句を言いながらも、持参したノートにまた何やら書き込んでいる。

 

なぜノートがあるのに部室では黒板を使うのか。

本人曰く、広いところに大きく書いた方が考えがまとまりやすいらしい。

 

「平塚先生からはあなたたちの矯正を頼まれているの。活動に参加させないという選択肢はないわ」

 

「じゃあ、最初の“部員だからこの場にいるのが義務”という言葉は撤回しようね」

 

「くだらない揚げ足取りね」

 

「重要なことだよ。結論に至るまでのプロセスに間違いがあってはいけない。証明と一緒」

 

「数学好きをこじらせるとこうなるのね」

 

「君もさっき、“飢えた人に魚を与えるのではなく、獲り方を教えて自立を図る”なんて言っていたじゃないか。結果が変わらないから過程はどうでもいい、なんて態度だといつか痛い目にあうよ」

 

「実体験かしら?」

 

「かもね」

 

「はぁ......それじゃあ、クッキーが焼きあがったみたいだから」

 

「味見は全部比企谷にさせといて」

 

 

 

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