人助けなんて性に合わない 作:ナンセンス
結局、比企谷の妙案により、由比ヶ浜の依頼は達成(?)された。まぁ、本人がよしとするなら何も問題はないのだろう。そもそも、クッキーを渡したい相手というのが......
「これ以上は野暮だね」
奉仕部の部室で放った独り言は、騒がしいやりとりにかき消され、誰の耳にも届かなかった。そう、“騒がしい”やりとりである。比企谷と雪ノ下が騒がしいところなんて誰も想像できない。あれから、何故か由比ヶ浜結衣は毎日のように部室に来ている。それ自体は何も問題ないのだが、定期的にこちらにも話を振ってくるので困っている。
最初は、空気を読むことに長けた彼女が除け者を作らないように自然とやってしまっているのだろうと推測していたが、前述の“野暮な話”を踏まえると事情が違って見えてくる。つまり、雪ノ下と比企谷だけを良い雰囲気(?)にさせないために、自分で割って入るだけに飽き足らず、たまたま周囲にいた人間(僕)までをも巻き込んで仲良しグループを作ってしまえという魂胆なのだろう。
その計算高さには感服するし、面白そうだから近くで見ていたいと思う気持ちもあれど、自分自身が巻き込まれる側になるならば話は変わってくる。
何より、ただ利用されるのは心底気に食わない。
だから、僕がとる手段は1つ。そう、退部である。
「ダメだ」
場所は職員室。生徒から教師への直談判は綺麗に突っぱねられた。
「そこをどうにかなりませんかね。このままだと由比ヶ浜の企みを全力で潰さなきゃいけなくなるんですが」
「ダメなものはダメだ。それに、君のその推測が正しいとも限らないだろう」
「まぁ、前半は推測というよりは確定情報なんですけどね。いや、ヘッドホンならともかく、イヤホンの遮音性能はそんなによくなかったということで」
大人しく退室しておくべきだった。今更後悔しても遅いが。
「なんだね?君もリア充に嫉妬するなんて、案外かわいいところもあるじゃないか」
「他人の恋愛事情はどうでもいいんですが、ただで利用される人間にはなりたくないので」
ただちに損害は発生しなくても、相手にナメられたままではいずれ不都合なことが起きかねない。
自分で言ってて“チンピラメンタルかよコイツ”とツッコミたくなったが、自衛は重要である。
893だって元々は自警団だったというじゃないか。
「そういうのは今のうちに慣れておけ。社会に出れば、利用されるのが当たり前になる」
「あぁ、安心してください。社会に出るつもりは毛頭ないです」
「......何に安心すればいいのかわからないが、一応君の人生設計を聞いておこうか?まさか専業主夫などとぬかすまいな?」
「とりあえず、博士号まではとりたいですよね。自分の名義で査読付き論文が世に出たのを見届けて、そのあとに自死ですかね」
「正気か?まったく、君は比企谷よりロクでもないな。若いうちから自殺を考えるな」
「いやいや、むしろ若いからこその自決なんですよ。自分の最期を自分で決めるんです。年をとれば、その体力すらも失います。そうなれば、あとは屍のように生きるだけ。若いうちに決め打たなければ、枯れて朽ち果てるのを待つしかなくなるんです」
「ハァ......一体どんな人生を送ったら16歳にしてそこまで歪んだ価値観を形成できるんだ。何か辛いことがあるとか、人生に不安があるとか、頼むからもっと引き止めやすい理由にしてくれ」
「むしろ軽々しく引き止めようとしないでほしいですね。まぁ、例えばもっと数学がしたくなったとか、そういうので思いとどまるかもしれませんが」
「是非とも思いとどまってくれ」
「それで......何の話でしたっけ?」
「君の退部希望の話だろう。それは認められないから、これを機に他者と上手くやる方法を見つけたまえ」
「現状、由比ヶ浜の邪魔をすると雪ノ下まで敵に回りそうな空気なんですよね。流石にそれは面倒くさいので、雪ノ下と上手くやる方法について、是非先生の知恵もお借りしたいんですが」
「そういう意味で言ったんじゃない。私は忙しいから、もう行け」
「あー、先生がまともに相談に乗ってくれないから自殺したくなってきたなぁ。さっき引き止めやすい理由ならどうとか言っていた人がいたような、いなかったような」
「三五月、いい加減にしろ。まともに相談に乗ってほしかったらまともな相談を持ってこい」
「チッ......使えねぇ」
「何か言ったか?」
「じゃ、失礼しましたー」
「アイツの更生が一番大変そうだな......」