人助けなんて性に合わない 作:ナンセンス
「三五月」
「ん?比企谷か。どうしたの?こんなところで」
「いや、こんなところって。お前と俺同じクラスだろうが」
「でも基本部室でしか会話しないじゃん」
「それはそうだが。ほら、アレだよアレ。わかんだろ?」
「......?」
「いや、だから。さっきの厚木の話聞いてたよな?」
「厚木先生が何?」
「いや、その。ペアをだな」
「あー、二人一組とかってやつ?そこらへんの有象無象と組もうと思ってたけど、君いつもクソラノベと組んでなかったっけ?」
「その呼び方やめてやれよ......お前のあだ名のセンス由比ヶ浜並みに酷いぞ」
「アレと一緒にしないでよ。で、そのザイモク君は?休み?」
「材木座な。材木座はサッカーの方だ」
「それで組む相手がいなくなったから、僕に声をかけたと」
「まぁ、そういうことだ」
今は体育の授業中である。総武高校の体育は3クラス合同、月替わりの2種目に別れて行われる。今月はサッカーとテニス。比企谷と三五月はテニスを選択していた。
「お前、いつも誰と組んでんの?」
「ん?テキトーに、そこらへんのやつを捕まえて」
「マジかよ......コミュ力高すぎだろ」
「あとは2人組に見せかけた多人数グループに何食わぬ顔で紛れ込むかな。大体怪訝な顔されるけど」
「お前のメンタルどうなってんだよ......」
「有象無象に一々気をつかってても仕方ないじゃん」
「それ、後で陰口叩かれてたりしないのか?」
「さぁね。他人の会話内容とか、聞こえてても覚えてないから。それに、排水溝に湧いた蛆虫にどんな罵声浴びせられても気にならないでしょ?それと一緒だよ」
「クラスメイトは排水溝の蛆虫かよ。お前、雪ノ下並みに嫌な奴だよな......」
「そう?てっきり君も周囲を見下してるもんだと思っていたけど」
「それは否定しないが、お前みたいにすべてを割り切れるほどメンタルは強くない」
「メンタルの問題じゃないと思うけどなぁ」
ラリーをしながらくだらない会話を続ける2人。
そこへ、どこからか打球が飛んできた。
「あ、ごっめーん」
「そらっ!」
比企谷から三五月に向かって打ち出されていたボールを、声の方向へ打ち返す三五月。
「そのボール使っていいよー。代わりにそっちのボールもらうからー」
「うおっ!っと......はは、三五月くん、ありがとね......」
「......やっぱとんでもねぇやつだな。お前」
それから数日後、午前休を(勝手に)とって午後から登校した―欠席日数や欠課時数の管理も大変である―三五月は、珍しく教室内で比企谷に話しかけていた。
「午前の体育、ちゃんとペア組めた?」
煽る気満々で話しかけた三五月だったが、比企谷から予想外の返答がくる。
「あぁ、バッチリな」
「え?本気で言ってる?」
「無理ね」
「無理に決まってるでしょ」
放課後、部室で戸塚彩加―比企谷が今日の体育でペアを組んだ相手らしい―からの相談内容を打ち明けた比企谷だが、それは雪ノ下と三五月によってバッサリと切り捨てられてしまった。
「あなたに集団行動ができるとでも思っているの?」
「体育のペアが作れたぐらいで、自分のコミュニケーション能力を過大評価しすぎじゃない?」
「うぐっ......」
相談。それは、戸塚の所属するテニス部が弱すぎるため、比企谷に入部してほしいというものだった。テニスの授業中のラリーを見られていたらしく、当初は三五月も一緒になどと話していたようだが、比企谷の「アイツだけはやめておけ」という助言のおかげで、最悪の事態は回避された。もっとも、三五月が入部を頼まれたところで素直に頷くわけもないが。
比企谷を散々煽って満足した三五月はいつのまにかいつも通りに黒板に向かっていた。雪ノ下の長い演説が始まると、いつもこうである。
早くも黒板の半分ほどが埋まり始めたとき、謎の挨拶が聞こえた。
「やっはろー!」
「それ、流行んないからやめた方がいいよ」
「もっちーいつもあたしに辛辣すぎ!」
「その呼び方をやめるのと引き換えに雀の涙ほどの優しさをくれてやろう。僕は雪ノ下と違ってしつこいから、今のうちにやめた方がいいと思うよ」
ヒッキー、ゆきのん呼びを許している(半ば諦めている)2人と違い、三五月だけは事あるごとにあだ名を拒否していた。それで折れない由比ヶ浜も中々強情である。
「あ......比企谷くんっ!」
「戸塚か」
「お、1の人だ。ん?戸塚って、じゃあこの人が例の......」
「三五月くんもここにいたんだね」
「僕、君に名乗ったことあったっけ?」
「え......体育で1回ペアを組んだことあったよ?」
「ふーん。ちょっと失礼」
少し悲しそうな顔をする戸塚に対して興味なさげな返事をした三五月は、急に戸塚の顔の前に両手を持ってくると、そのままねこだましを食らわせた。
「うわぁっ!!」
「へー、本当に男なんだ......」
「ちょ、ちょっと!さいちゃんにいきなり何するの?!」
「驚いたとき、女性があげる悲鳴はキャーで、男性があげる悲鳴はウワァらしいよ。甲高い警告音か、低めの威嚇音かで性別がわかる」
「ほえー、そうなんだぁ......って、そういうことじゃないし!」
由比ヶ浜のリアクションに対して完全スルーを決め込む三五月。
一方、比企谷が尤もな疑問を口にする。
「戸塚、お前なんでここに?」
「比企谷くんこそ、ここで何してるの?」
「いや、俺は部活だけど......」
「さいちゃんはあたしが連れてきたの。やー、ほら、あたしも奉仕部の一員じゃん?だからちょっとは働こうと思ってさ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから」
「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど......」
「違うんだっ?!」
衝撃の事実が発覚した。
「えぇ。入部届をもらっていないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」
「あー、じゃあ部員じゃない由比ヶ浜さんには部室から出て行ってもらうということで」
「なんでっ?!書くよ!入部届くらい何枚でも書くよっ!」
「で、戸塚彩加くんだったかしら?」
この時点で、由比ヶ浜を煽って満足した三五月は、またもや会話から完全に離脱している。自由人ここに極まれり。
今回の話の顛末。
戸塚の依頼はテニス部を強くすることであり、昼休みに特訓をすることが決まったのだが、三五月は「昼休みに部活を強制されるのはおかしい」などと言い放ち不参加。すなわち、
放課後。突如として奉仕部にやってきた平塚先生による、比企谷VS雪ノ下の勝負判定を横で聞いていた三五月は、珍しく数学の手を止めて考え事をしていた。
自分自身が相当イヤなヤツであるということは自覚している。僕だって、自分がもう1人目の前にいたら即座にぶん殴っているだろう。それでも、僕は人を助けることに忌避感を抱く。勿論「助けない、力は貸すけど」なんて金髪アロハシャツの胡散臭いオッサンのような思想を持っているわけではない。それで言うなら、僕は力を貸すことすらも忌避する。僕の力は僕のためだけに振るわれればいいのであって、他人のために振るうことはしたくない。根っからの自己中、天邪鬼、頑固者、それが僕だ。しかし彼らを見ていると、そんな自分の生き方が余計に醜いものに見えてしまう。彼らはなぜ、他人に手を差し伸べられるのだろうか?
その精神構造を解明するために、少しだけ、
あともう少しだけ、この場所にいてみたいと思った。
でもやっぱり、人助けなんて性に合わない......
補足:ライトノベルを読まないオリ主が某金髪アロハシャツのオッサンを知っているのは、アニメだけ見たからです。