美少女九尾に喰われたと思ったら生きてて結婚することになった話   作:佐藤サイトウ

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十二話 危ないなー気をつけろ?

「ねえ。あの恐ろしい球体は何だったのさ」

先程の出来事を改めて思い出す。想像するだけで、吐きそうだ。

「あれは主の心を測っておったのじゃ」

「心?」

分裂と僕の心に何か関係あるのだろうか。

「まあ気にするな。それよりも今は天狗に会いにゆくぞ」

「気になるなぁ。で、天狗ってどこにいるのさ」

場所は、先程八ヶ舞と名乗る女性に教えてもらったのだろう。

「心中猿無辞皮当尊禁日町じゃ」

「なんて?」

もしや、今の早口言葉が場所を指しているのだろうか。

「じゃから、心中猿無辞皮当尊禁日町じゃ。妖怪の世界にも集落のような場所があっての。本来人間が立ち入れる場所ではないから知らないのも当然か」

「そういう問題じゃなくてね」

知らないわけではなくてね。いや知らないけれどもさ、それよりも突っ込むべきところがあるでしょうよ。

「いくらなんでも長すぎじゃね、町の名前」

「昔は心中町だったのじゃがの。村の長が変わる度名前が追加されていって、今の心中猿無辞皮当尊禁日町が生まれたのじゃ。まあ住んでる者は皆心中町と呼んでおるがの」

「へー。妖怪もまとまって住んだりするんだ」

意外だ。自由奔放に動き回って定住する場所を持たないものだと思っていた。

「昔はまだ妖怪の力が強かった。故にわざわざ集まって住む必要も無かったのじゃが、最近はどの妖怪もめっきり力が落ちての。一人では暮らしていけぬのじゃ」

「なんで力が弱くなったの?」

「わからぬ。ある日突然多くの妖怪の力が落ちたのじゃ。妖怪全てというわけでなく、妾や爺、その他数名は力を保ったままじゃから、いまいち規則性がわからぬ」

ある日突然弱くなる。不思議だな。

「その現象って同時に起きたの?」

「完璧にタイミングが一致している訳ではないが、百年以内にほとんどの妖怪が力を失った」

「へー」

狐が突然足を止める。よそ見をしながら歩いていたため小さな狐にぶつかりそうになったが、間一髪のところで接触を防いだ。

「急にどうしたのさ。突然止まるなんて危ないじゃんか」

返事はない。

「白よ。妾から離れるな。可能なら目をつぶっておれ」

狐の雰囲気が変わる。何かを警戒しているような感じだ。

狐がじっと見つめる茂みが揺れる。

何かが、いる。見えるわけじゃないけど、嫌な気配がする。目をそらしたい。そこから出てくるであろう何かから視線を外したい。しかし、体が言うことを聞かず、そのままそこを見る。

「・・・・・・・・・・・・」

黒い、人のような、獣の様な影の塊がそこから現れる。

小さい九尾の後ろに隠れる自分が情けないが、めちゃくちゃ怖いからしょうがない。今まであった妖怪は人の姿をしていたけれど、こういうパターンもあるんだ。

「ふむ。申し訳ないが、近づくようであれば貴様を祓わねばならぬ」

狐が目の前の黒い何かに語りかけるが、聞こえていないのが、全く気にする様子がなくこちらに近づいてくる。

「・・・・・・・・・・・・」

何も言わない。黒い何かは、何も語らない。ただこちらに、近づいてくる。

黒いなにかの、恐らく顔の部分である場所に目のような空洞があった。僕がそこを見ると同時

「じゃから止めておけと言うたのに。全く損な仕事じゃ」

こちら、というか僕めがけて飛びかかってくる黒いなにかの腹部を、紫色の閃光が貫く。

「・・・・・・・・・・・・・」

何も言わず、ただ腕を必死に僕に向けて伸ばす。

「すまぬがそれは妾のじゃ」

狐が優しく語りかける。それと同時に、黒い何かを貫く紫色の光が彼、もしくは彼女の全身を包み込み

「さらばじゃ」

消えた。

 

 

 

 

「今のなに?」

「全ての力を失った妖怪の成れの果てじゃ。おや、立てぬのか?」

思わず腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなった。だって怖いじゃん。

「男じゃろ。しゃきっとせい、全く」

呆れるような口調ではあるが、後ろから僕の体を抱き、頭を撫でてくれてる。見た目年下の女の子に撫でられて安心感を覚える自分が情けない。

「あれは虚じゃ。自我を失い、ただ喰らうためだけに生きている」

「なんかめちゃくちゃ僕のこと見てなかった、あれ」

「うぬは全身からとてつもなく美味しそうな匂い撒き散らしとるからのう」

そう言って、僕の耳を噛む。

「はむはむ。うむ、やはり美味じゃ」

「なんかさっき僕を襲った人も僕のこと美味しいって言ってたけど、そんなに美味しいの、僕」

「果てしなく美味じゃ。正直隣にいるだけでよだれがでる」

「マジか」

怖い。一番の捕食者が隣にいるじゃねーか。

「じゃから、これより先出会う妖怪全てがうぬの体を狙っていると思え」

「なんか嫌だなーその言い方」

「おぬしは不死身じゃが、しかしだからといって安心してはならぬぞ。最悪捕らえられ、永劫その体を喰われ続けるやもしれぬ」

こっわ。めちゃくちゃ怖いことさらっと言うねマジで。

「ま、安心せい。うぬは妾の旦那じゃ。何がこようと精々守ってやる」

「か、かっこいい・・・」

「じゃろ?惚れても良いぞ。子作りもおーけーじゃ」

「惚れるだけで勘弁してください」

狐が「それは残念じゃ」と笑顔で言う。狐のおかげで、恐怖で固まった体も大分ほぐれた。

「もう大丈夫だよ、狐」

その場から立ち上がろうとする。

あれ。体が動かない。いや、押さえられて動けない。

「狐さん?もう大丈夫っすよ?」

返事はない。嫌な予感がする。背中から伝わる荒い息遣い。少し熱くなってくる狐の腕。

それらから判断するに、もしや

「また興奮したりしました?」

「すまぬ」

 

 

 

 

再び襲われそうになったが、なんとか僕の腕を犠牲にして事なきを得た。今度は舐められるだけではなく、少し食べられたが、まあ今更少し食べられるぐらい構わない。

「すまぬのう、白よ。定期的に食欲と肉欲が混じった未知の感覚が妾を襲うのじゃ」

「いいよ。僕は気にしないさ」

とぼとぼと歩く狐の頭を撫でる。先程僕を守ってくれた妖怪の貫禄はどこへやら、今の彼女はただ申し訳無さそうに歩く小さな女の子だ。

「恐らくは一日に一度の周期で妾はああなる。頑張って対処してくれ」

「へいへい」

心なしか、前回よりも勢いがすごかったのだが、あれは気のせいなのだろうか。日を追うごとに苛烈になっていく感じなのかな?

「もしそうだったら、そのうち耐えきれなくなるな・・・」

「どうかしたか?」

「いえ、なんでも〜」

「そうか。お、そろそろ心中町が見えてきたぞ」

見ると、そこには町があった。想像していたような旧い町並みではなく、モダンな住宅や店が立ち並ぶ、随分と現代的な街だった。

「すごいね。ここに住んでるの皆妖怪?」

町の中には多くの人が歩いている。ぱっと見ると現代にある普通の町にしか見えない。

「そうじゃ。この多くの妖怪たちの中に、件の犀禍がおる」

え。

「この人混みの中を探すの?」

町の一部しか見えないが、この規模で行くと恐らく数千はくだらない数の妖怪がいるだろう。その中から一人を探し出すのは労力が凄まじそうだ。

「そうせぬ為に八ヶ舞に占ってもらった。おおよその位置は掴んでおるから安心せよ」

「よかったー」

「では、行くぞ」

「へーい」

山道を抜け、町へと入る。

人探しならぬ妖怪探しの始まりだ。

 




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