美少女九尾に喰われたと思ったら生きてて結婚することになった話   作:佐藤サイトウ

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十四話 大変だな、お前

「狐、君どっから出てきたの?」

いつの間にか、僕の背中にピタリとくっついている狐。先程僕を笑顔で送り出した狐がなぜここにいるのだろうか。

「そこらへんは企業秘密じゃ〜」

「企業なのか」

まあ、どうせ首に巻き付いてるこのふわふわの物を利用して居場所を特定したのだろう。

「というかなぜきたのさ。わざわざ僕だけを攫わせたから来ないと思ったのだけど」

「ふむ。では帰るとするかの」

「すみません待ってください」

踵を返し、出口へと歩みを進める狐を引き止める。こんな恐ろしい場所に一人にされるのはごめんだ。

「いやの、最初はうぬに任せて放っておこうと思ってたのじゃがの。なんだか知らぬが貴様が天狗に色々されると考えたら胸がざわついてきての。いつの間にか来てしまった次第じゃ」

当初の予定では放置する予定だったのかよ。勘弁してください。

「つまり、僕を心配してきてくれたんだね」

その心配の理由を作ったのはあんただけどな。

「まあ、そういうことになるな。ただ勘違いするなよ。妾はいざという時にうぬを守るために来たのであって、うぬの仕事を手伝いに来たわけではないぞ」

「え」

手伝ってくれないのか。それは大変残念なお知らせだが、守ってくれるだけまだ良いか。

「じゃあさ。一個だけお願いしたいんだけどさ。いいか?」

「一つだけなら良いぞ。言うてみぃ」

意外と素直に快諾してくれるんだ。なんだかんだで僕に甘いな、狐は。

「この石版?に書かれてる文字翻訳してくれない?」

背後の石版を指差す。

今の所下の誰が書いたか不明の血文字しか解読できてない。この文章に、なにか彼女を止めるためのヒントがあるかもしれないから教えてくれるとたいへん助かる。

「しょーがないのー。ふむふむ。どうやらこれは犀禍の日記のようじゃの。今から読み上げるから良く聞くのじゃぞ」

コホン、と咳をして狐が読み上げ始める。

「今日はサブローが死んだ。昨日はコタロが死んだ。その前はシキが死んだ。どうして、皆某を置いていくのだろうか。どうして某はいつも一人なのだろうか。一人にしないで。死なないで。一緒にいて。寂しい。怖い。誰もいない。死んじゃう。なんで。どうして。わからない。わからない。嫌だ。嫌だ。某を一人にしないで、じゃそうだ」

「ホラーゲームの日記みたいな内容だなぁ」

狐が淡々と読み進めていった文章の内容は、どうやら今まで攫ってきた人間が死んでしまった事を悲しんでいるというものらしい。

「一人が嫌なのか、犀禍は。ふむ。これは何か交渉材料として使えるかもしれないな。一人が嫌だということは、だれかと一緒に入れる環境を作り上げればいいのか?いや、結婚をしたいと言っていたな。なら、だれかと結婚してもらうのが一番か。あーでも人間を攫っちゃいけないからそれも難しいのか・・・」

そう、彼女を説得する方法を思考錯誤する僕を狐が冷ややかな目で見る。

「どうかしたの?」

「いやー。わかってはおったのじゃがの。こんな悲しみに満ちた話を聞かされても、ただの情報として処理して、同情することもなくただ説得の手掛かりとして扱うんだなーって思っての」

「酷いな。真剣に考えてるのに」

「なら申し訳ないのじゃが、さっきの内容は嘘じゃ。うぬを驚かせようと嘘をついたのじゃが、予想外の反応に一瞬黙ってしまった」

「嘘なんかい」

真剣に捉えた僕の心返せ。

「正しくは「サブローもコタロもなんか動かなくなっちゃったな〜。なんでなんだろ・・・ただずっと婚姻の儀をしてただけなのになぁー。んー、まあ動かなくなっちゃもんはしょうがない!!美味しく頂くとするか!!んでも一人じゃ暇だなー。もっかい男に声かけてくるかなぁ」じゃ」

先程と内容はあんまり変わってないけど、悲しさとかが皆無になってる。

「恐らくサブローとコタロとか言う人間は犀禍に休む暇も与えられず子作りを要求されて干からびて死んだのじゃろうな」

「なんというか、壮絶な死因だな」

男としては死ぬに十分な理由かもな、それ。僕は嫌だけど。

「ん?だとするとあの血文字は何なんだ?」

休む暇も与えられず死んだと言うのなら、こんなものを書いている暇はあったのだろうか。わざわざ日本をこんなに精巧に書く暇はあったのだろうか。

「血文字なぞないぞ?」

僕の独り言を聞いて、件の血文字を探す狐。

「ああ、分かりづらいと思うんだけど、下の方にあるんだよ。って、あれ?」

先程まで確かにそこにあった血文字は、最初からそんなものは無かったかのように綺麗に消えていた。

「あれ?」

おかしい。先程まで確かにそこにあった気がしたのだが。錯乱して幻覚でも見てしまったのだろうか。

「確かにあった気がしたんだけどな。まあ、無いなら無いんだな。ごめん狐、気にしないで」

と、狐に詫びようとするが、いつの間にか狐が僕の視界から消えていることに気がつく。

「あれ?」

え、狐が見えたのも幻覚だったりする?

「お茶持ってきたぞー、はっくー!!」

自分の頭がおかしくなっているという可能性に恐怖する暇も与えられず、犀禍が帰ってくる。

「あ、ありがとうございます」

こちらに差し出す木製のカップを受け取る。受け取った瞬間、甘ったるい異臭が鼻をつく。見れば、中に入っている液体はドロドロで、薄いピンク色をしている。

これは、お茶なんですかね。

「あのーちなみにこれって、お茶であってる?」

「ん?そうだぞ!!ただのお茶だ!!!」

恐らく僕に差し出したものと同じ物を犀禍が勢い良く飲み干す。

「ぷはぁー!!ほら、はっくーも早く飲めよ!!うまいぜ!!」

そんな事言われましても。こんな得体のしれないもの飲んでも大丈夫なのか。が、彼女に見られている今、飲まずに捨てるという事もできまい。

「じゃあ、いただきます」

覚悟を決めて、半分ゼリー状の液体を飲む。

「・・・・・・・・・」

口に含んだ瞬間、まるでその液体に意思があるように、喉の奥へと勝手に吸い込まれていった。咀嚼をする暇も与えられなかったため、一瞬呼吸ができなくなったが、その閉塞感もすぐに消える。

「どうだ、うまいか!?」

とびっきりの笑顔でこちらを覗き込む犀禍。

「・・・お”、お”い”・・じい”、でず・・・」

その言葉を聞いて、満足気にうなずく犀禍。忘れていたが、そういえば狐由来の物以外に関しては大自然の味がするのであった。しかし、その大自然の味を遥かに凌駕する、形容詞難い謎の刺激が僕の口腔内に広がる。

「そりゃ良かった!!じゃあ早速するか!!!」

とんでもねぇ物を飲まされ、その衝撃で脳が朦朧とする僕に彼女が元気良く言う。

「するって、何を?」

朦朧とする頭で一応聞いてみる。

「そりゃ決まってるだろう!!結婚だ!!!」

その言葉の意味を理解できないまま、僕の意識は途切れる。

 




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