美少女九尾に喰われたと思ったら生きてて結婚することになった話   作:佐藤サイトウ

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十六話 人間

「ほれ、ここは任せて先にゆけ」

「ぐえっ」

狐に首根っこを掴まれ部屋の外に投げ出される。部屋の扉が閉じる直前、恍惚の表情で狐を見つめる犀禍が見えた。

「狐?」

先にいけと言われても、何処に行けば良いのかわからない。とりあえず、今投げ出されたばかりの部屋の扉を開ける。

「・・・・マジすか」

なんということでしょう。先程までのきらびやかな内装が見る影もなく、部屋の中はもぬけの殻ではありませんか。

無論、狐や犀禍の姿もない。

「はぁ〜・・。なんか、慣れたよ」

今起きた出来事は超常現象に違いないのであろうが、驚く気力ももはや無い。

とりあえず、狐に言われた通り、先に行くとするか。

「この建物から出れば良いのかな?」

目下の目標は建物からの脱出にしよう。幸い、剥がされた衣服と狐のマフラーも僕と一緒に廊下に叩き出されている。上半身裸で行動する恐怖から逃れたところで、現在位置を把握する。

「んー。この形状からして、やっぱりこの建物はホテルなのかな?ってことは少なくともこの場所は一階ではないだろうね」

何処かに階層が表示されているはずだ。ついでに階段やエレベーターがあれば御の字。そう期待を込めてあたりを見回すと、運良く階段らしき物を発見した。

階段を確認すると同時に、彼の目に現在の階数が示された看板が入る。

「これ、何階だ?」

何か表記されているが、意味を理解できない。

「まいったなー地下か地上かわかんないから降りりゃいいのか上がりゃいいのか分からんねー」

多分地上だろうが、万が一地下だった場合面倒極まる。

と、頭を抱えている僕の後ろから、足音が聞こえる。コツン、コツンと僕に近づいてきている。誰だろう、また僕を食べようとする妖怪変化の類かな?だとしたら、右腕の一本でもあげて、この建物から出るのを手伝ってもらおうかね。

「お困りかい?」

振り返ると、黒いコートを羽織り、深く帽子を被った女性が僕に話しかける。顔は見えないが、女物のスーツを着ているところを見るに、女性で間違いないだろう。

「・・・珍しいな」

「おや、何の話だい?」

「なんでもねーよ」

僕のこぼした独り言に彼女が返答する。

「お困りなら助けになるが、どうかな?」

敵意は見えない。紗桜と違って、僕を騙して喰らう気も無いだろう。友好的で、協力的だ。しかし、僕の中の何かが彼女を信じるなと警告音を鳴らす。

「・・・・じゃあ、教えてほしいんだけど、ここは何階だ?」

「壱阡八百弐拾弐階」

「なんて?」

「壱阡八百弐拾弐階」

「一八二二階?」

「そうだよ」

「なるほど」

嘘は言っていないようだ。彼女は信用できる。否、信用はできるが、好ましくない。

「ところで珍しいなって言っていたけれど、一体、何が珍しかったんだい?」

聞こえていたのかよ、と内心で舌打ちをする。まあ、あの顔を見るに、検討はついているだろうから、隠す意味はないだろう。

「こんなところで人間にあうなんて、珍しいなって思ってな」

彼女は、人間だ。

陥れ、恨み、悲しみ、怒り、躊躇い、常識、過ち、虚偽。あらゆる感情を内包し、互いに騙し合い、殺し合う。

 

 

僕が憎んで、僕を憎んだ、人間だ。

 

 

 

 

「今果てしない四桁の数字が聞こえた気がしたんだけどさ、僕の聞き間違いかな?」

切り替える。今は、憎んでいる場合ではない。演じて、欺き、利用しろ。

今の僕は、白宗治だ。心を無色に、透明に。

「残念ながら間違いじゃないのさ。この建物は二〇〇〇階まである」

二〇〇〇階。途方がなさすぎるだろう。一階まで降りるのにどんだけ時間がかかるんだよ

「あと、階段は使わないほうがいいよ。それ、進みたい方向と逆向きに進むから」

「なんだその最悪なシステム」

迷惑極まりなさすぎるだろう。家主は一体何を考えてそんな不便な構造にしたのだろうか。

「君、ここから出たいんでしょ?」

「まあ、そうだね。何か出る方法とかあるの?」

「エレベーター使えば出れるよ。こっち、ついてきて」

踵を返して彼女が歩き出す。今回は、前回喰われかけた(というか若干喰われた)時と違って、彼女から悪意は感じられない。純粋に、僕を助けるために動いていると分かる。

・・・・・・だが・・・・・。

「こないの?それならそれで、私一人で行くけど」

「・・・ついていかさせてもらいますよ〜」

彼女の後を追う。なんだか、いつも誰かの後を追ってるな、僕は。

 

 

 

 

 

 

案内されたエレベーターに乗り込む。名も知らぬ彼女と二人で。

彼女が何かボタンを押すと、エレベーターが下に向かって動き出した。

「ここが本当に一八二二階だとすると、一階までどれぐらい時間がかかるんだい?」

「大体、三時間ぐらいかな。途中誰も乗ってくることはないから、地上まで私とふたりきりだ、少年」

反対側の壁に彼女がもたれる。帽子を深くかぶり、顔を下げているため、その表情は伺えない。

「さいですか」

僕がそう答えると、静寂が襲う。ただ、エレベーターが揺れる音のみが空間に響く。

「せっかくだし、お話でもしようか」

「・・・・・・・・・・」

答えない。話したくない。

「沈黙は肯定として受け取る主義なんだ、私は」

 




ほのぼの!!ほのぼのするから!!多分!!!
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