美少女九尾に喰われたと思ったら生きてて結婚することになった話 作:佐藤サイトウ
「ぐあ~マジで疲れた~」
ベッドに寝転ぶ。今日はろくでもないこと、もといわけのわからない事が多すぎた。
僕の初仕事、犀禍の説得は果たしてあれで成功と言えるのだろうか。巡る状況の流れにただ驚いていただけであったのだけれど。
結果良ければ全てよし、みたいな言葉があった気がするが、この場合は果たして良しとしていいのか、甚だ疑問ではあるが、不死身であるという一点を除けば、脆弱で軟弱な人間と何ら変わりない僕にしては、まあよくやった方なのかなと思ったりする。
狐がどうして直接交渉しなかったのか、なぜ僕がテレポートさせられたのか、消えた血文字は何だったのか、あの蠅のような物の正体は、あの建物内部に人間がいた理由は、犀禍がメイド服を着ている理由は。
考えれば考えるほど、今回の出来事、たった一日の間に起きた事象ではあるのだけれど、謎が残る点は大量に残されている。
「狐にでも、聞いてみるかな」
・・・・いや、やっぱりいいや。仕事は、今日だけじゃない。これからも膨大な謎が残るだろうし、全てにいちいち頭を傾げるのも骨が折れる作業だ。
それになにより
「・・・・・・・疑うのは、もうごめんだ」
「何を疑うんだ???はっくー」
「げ」
「どうした???」
メイド服の少女が、いつの間にか僕の顔を覗き込んでいた。ベッドに顔を伏せて寝ころんでいたので、彼女の接近にまるで気が付かなった自分が恥ずかしい。
「なんでもないよ。気にしないで」
「わかった!!!気にしない!!!」
意外と聞き分け良いな、この子。
よく考えれば、僕は彼女とまだまともに対話したことがない。どういうわけか、これから彼女との共同生活が始まってしまいそうな雰囲気であり、ならば共に生活するあやかしの性格ぐらいは把握しておかなければいけないだろう。
そう判断し、会話の切り口を探し始めていると
「なあ、はっくーって狐のどこが好きなんだ?」
「え?」
彼女に先手を取られる。
好き?僕が?狐を?
「まさか。分不相応すぎるでしょ。僕みたいな人もどきと、狐みたいな美人さん」
文字通り、住む世界が違う。彼女は、僕なんかが釣り合う存在ではないだろう。深く考えずとも、分かることだ。
「ん???でもはっくーと狐結婚してるんだろ?」
「結婚したことは好き嫌いに関係ないだろ?」
傾げた首を、さらに深く落とす。
「それじゃ、狐のことは好きじゃないのか?」
それは
「好きだけれど。好意はあるけれど。でもそれは、恋愛感情ではないね」
「なんだ!やっぱり好きなんじゃないか!!じゃあついでに私のことも好きになってくれ!!」
ついでって。
ついでで誰かを好きになっていいのか?
「んえー。検討しておきまーっす」
「ありがとう!!」
検討、という言葉の意味を理解していない犀禍は、肯定と受け取った。
この勘違いが、今後白を追い詰めてゆくのだが・・・
彼がその事実に気が付くのはまだまだ先になりそうである。
だが、良い事だ。他者からの好意に、気が付けない。
それこそ、彼の望んだ在り方だ。
「あれ。そういえば、ムジナさんだっけ?あの人はどこ行ったの?」
「ふむ。恐らくだが、逃げ出したな」
「え、なにゆえ?」
「野生の感というやつじゃろうな。まあ、どうせ行き先など無いから、すぐに帰ってくるじゃろう」
「ふうん」
自分から尋ねておいて、さして興味もなさそうに相槌を打つ。
窓から零れ落ちる月明かりが、僕と狐を照らす。
突然、僕と話している途中に、電池が切れたかのようにその場に犀禍が倒れた。
狐曰く、疲れて寝落ちしたとのことだ。確かに、眠くなったらどこでも寝るとは言っていたが、ここまで唐突なのは予想外だ。
「ねえ、狐?」
「なんじゃ」
昨日と変わらず、狐に抱かれる形で床についている。
未だ慣れないが、不快感はまるでなく、むしろ、少し楽しみだったりする。
「狐ってさ、今まで誰かを好きになったことってある?」
「唐突じゃのう。まあ、無くはないが。それがどうしたのじゃ?」
「狐の初恋が気になってね。よかったら教えてくれない?」
「恥ずかしいから断る」
それは残念。考えてみれば、僕を抱きかかえる彼女、狐について、僕は何も知らない。
「じゃあさ。狐。もう一個聞きたいことあるんだけど」
「なんじゃなんじゃ。妾は眠いのじゃ。手短にしてくれぇ」
「すぐ終わるからー」
彼女がいつ生まれ、どう育ち、誰と出会い、誰と過ごし、誰と別れたか
「狐ってさ」
それに、なにより
「名前、なんて言うの?」
狐と名乗る、彼女の、本当の名前を、僕は知らない。
なんでわかるの白君!
気がつくな!!