士道は改めて目の前の二人を確認する―見間違いではない。
空間震は鳴っていない―十香の時と一昨日のときと同じパターンのようだ。
ひょっとしたら、彼女は頻繁に此方の世界と隣界を行き来しているのかもしれない。
それに、もう一人の男の子―あの子供は彼女が精霊である事を知っているのだろうか?
それとも、知っている上で一緒に居るのだろうか―まさかとは思うが……昨日の凌の言葉を思い出す。
―どちらにせよ、見つけてしまった以上、方っては置けないだろう。
「しかし、如何すりゃいいんだ?」
暫く考えて―携帯電話を取り出しボタンをプッシュする。
暫く呼び出しが続いた後、電話の向こうから眠たげな妹の声が聞こえてくる。
『ふぁ~~い……もしもぉし…?お兄ちゃん?』
「おう。おはよう琴理―緊急事態だ。よしのんを見つけた。」
電話の向こうから頬を叩くような音が聞こえた後、しゅりしゅるとリボンを結ぶような音が聞こえてきた。
『-詳しく状況を聞かせてちょうだい。』
「ああ―」
琴理はリボンの色を変えて普段と司令官モードを別けている。
白は妹モード、黒は司令官モード―そして、現在は黒のリボンなのだろう。
二人には気付かれないように距離を取って琴理に詳しい状況を話す。
当然、よしのんだけではない―もう一人の子供の方も話しておく
『―――インカムは持ってる?』
「え?―ああ、一応」
『よろしい。それを着けて、精霊を見失わないように待機してなさい。』
そう言って、電話が切られる―それから5分と立たずに装着したインカムの方から琴理の声が響いた。
『聞こえるわね士道。このまま彼女達をほうっておく事もできないわ。とりあえずコンタクトを取りましょう。』
『ったく、こんな朝っぱらから人の事叩き起こしやがって―。』
もう一人の不機嫌そうな男性の声―凌なのだろう。言葉からして恐らく彼も寝起きなのか。
『それより―此方でも確認した。』
「ええ、凌さん―あの男の子は?」
『ああ。間違いない―【怠惰】の【契約者】だ。』
「ッ!―」
ひょっとしたらとは思ったが―こんな小さな子供が迅達と同じ【契約者】だなんて―
『見たところ、【ハーミット】と仲良しみたいだな―攻撃性は皆無だが、警戒されると拙いからドジ踏むなよ?』
「分かってますよ―それじゃあ、声掛けるぞ―」
『ええ―っちょっと待ちなさい。』
<フラクシナス>では、ブリッジのモニタにウインドウが表示されている。十香の攻略でも合った選択肢だ。士道のサポートの為にフラクシナス内でもランダムで最善策(?)の行動が三択で現れる。それを隊員達が多数決で決めるのだが…
内容は―
①声を掛けると同時に仰向けに転がって腹を見せ、敵意がない事をアピール。
②すぐさまギュッとハグをして、こちらの愛を伝える
③此方が丸腰である事を示すため、全裸になって声を掛ける。
「ろくな選択肢がねぇな―前にも思ったが壊れてるんじゃねぇのか?」
あまりの内容に凌は辟易とした表情で椅子に寄りかかる
「そんなわけ無いでしょうが…令音が居ないのは痛いけれど、総員選択!」
クルー達が手元にあるスイッチで選択肢を選択する。琴理と凌のディスプレイにクルー達の総計が表示される。①~③がほぼ均等にバラけている…途端にクルーの間であーだこーだといい争いが始まる。
「黙れテメェ等ぶっ殺すぞ!!」
だが、凌の一喝でピタリと言い争いは終わる―そのまま、どかりと凌は座ると琴理のほうを見る。
「それで、如何する気だ?艦長さんよ…」
「そうねぇ……凌。アンタは如何なの?この選択肢―」
「知らんがな―普通に話しかけりゃあ良いじゃあねえか」
「それじゃあ、選択肢の意味ないじゃない―しかたないわね。―士道。声を掛ける前に服を脱ぎなさい。」
『ごめんだよ!!』
士道の即答が返って来た―そりゃあ、脱げ何ていわれれば悲鳴でも叫びたくも鳴るわな…しかしその声が聞こえたのか二人に気付かれてしまう。
「あのバカ兄は―」
「あぁ~あ…おい、琴理。お前よりによって何で全裸選びやがった?」
「私は脱げと言っただけで、全裸になれだなんて言ってないわよ」
「誰が聞いてもそう解釈するだろうが…ははぁん、お前、さてはお兄ちゃんの裸見たかったのか?」
「なッ?!ち、違うわよ!!」
「おいおい。顔真っ赤にしていっても説得力無いぜ…そんなに見たけりゃ、風呂場にでも突撃敢行するんだな。」
「う、五月蝿いわね!!ちょっとアンタ黙ってなさいよ!」
「司令!司令が望みとあらば、私はいつでも全裸になる覚悟が「そぉい!」ぐふぅ!!」
何を思ったのかいきなり服を脱ぎだす神無月に対して琴理の拳がみぞおちに叩き込まれる―苦しげな声と恍惚な表情を浮かべてそのまま倒れる変人。
『何やってんだかこいつ等は―』
「――やれやれだぜ。」
ッとは言え、先程の声はまずかったな―どうやら二人にも聞こえてしまったようだ。
一気に警戒度が増していくパラメーターを見て俺は、溜め息を吐いた。
「しまッ―」
思わず叫んでしまった事を士道は後悔した…大声だったため二人に気付かれてしまう。
よしのんはビクリと肩を震わせ、男の子は此方の存在に気付くと直ぐに良しのんの手を引っ張りその場を走り去る。
「あ!―待ってくれッ!!」
『追って士道!此処でコンタクトを取れなくなったら厄介よ!この際、多少強引でも良いから!』
「分かってるよ!」
折角、空間震警報もなっていないし、ASTにも気付かれていないんだ―此処で見失えば次のコンタクトを取る事も難しい。
二人の後を追う―精霊と契約者とは言え小さな子供―高校生の士道が追いつくのには然程の時間は掛からない…聊か犯罪臭いにおいがするのは、きっと気のせいではないだろう。
「待ってくれ!二人とも!」
二人を追いながら声を掛けるが、特に男の子の方は完全に此方を無視している。
っと、追いかけている時によしのんの左手にパペットがない事に気づいた―そういえば、先程も二人で何かを探しているような素振りをしていた。
ひょっとして―
「お前ら―パペットを探しているのか?!」
「「ッ!」」
その言葉に二人の足が止まる―のではなく360度方向転回してこっちに突撃してきた。
「ちょ?!グフッ!!」
そして、そのまま二人の頭突きが見事に自身の鳩尾にめり込んだ。
思わず、その場に蹲る―
『グフですって―陸戦型じゃない。』
『どーでも良いわんなこと…見事に入ったなぁ。生きてるか?』
「な、なんとか……」
幾ら子供でも鳩尾に衝突喰らえば相当の衝撃になる―正直、凄い呼吸しづらい。
「……っ!っ!」
おまけに現在進行で【よしのん】に問い詰められるように頭を前後に揺さぶられて口から出てはいけないものが出て来そう。
「ちょ、止めろって…!」
「……四糸乃。おちついて―」
「!」
契約者の男の子の言葉にハッとした表情になり、離れるよしのん―その間に何とか呼吸その他諸々を整えて立ち上がる。
「やっぱり……あれを探してるのか?」
「……」
こくりと二人はうなずく―
「そうか―すまん。俺も何処にあるかは分からないんだ。」
「!」
その言葉にまるでこの世の終わりを思わせる顔でへたり込んでしまう。
「! 四糸乃……」
男の子が彼女を支える―のだが、こっちに対する視線は鋭い。
こんな子供が契約者―とは信じがたいが、けれど―この子供から感じる視線は歳相応とは決して思えない、敵意に満ちた目―最初に会った時もそうだった。
一体何があればこんな子供がこんな目をするのだろうか…それでも、この子達を放っておくわけにはいかない。
「……良かったら、一緒に探そうか?」
『まぁ、それが妥当の判断だろうな…』
探し物をしているのなら、此処は手伝ってあげるのがベストな選択だろう―俺も伊達に訓練を重ねてきた訳ではない。
「―何がもくてきだよ。」
「目的って―ただ困ってるみたいだからさ。手伝おうかと思って―」
「………如何する?四糸乃。」
「………」
暫くすると、男の子の手を借りて立ち上がるよしのん―がこくりと小さく頷いた。
「分かった…言っとくけど、四糸乃に変な事したら許さないからな…。」
「しないって―えぇっと…」
「……【祇熊悠輝(しぐまゆうき)】。 ぼくの名前……別に好きに呼んでいいから」
「分かった…俺は【五河士道】って言うんだ。 えぇっと、じゃあよしのん。パペットは何時なくしたんだ?」
「え、えぇ………と」
視線を泳がせながらよしのんは顔を俯かせる。
そんな少女の代わりに悠輝が代わりに口を開く
「昨日…あいつ等が四糸乃苛めてた時に落としたんだって―後さ、お兄さん名前間違えてるから」
「え?」
「この子の名前は【四糸乃】…【よしのん】はぼく達の友達。」
「四糸乃?―そうなのか」
俺の問いに四糸乃と呼ばれた少女はこくりと小さく頷く…ああ、昨日の反応からそうなのかと思っていてちょっと恥ずかしいなぁ…
「悪かった―それじゃあ、四糸乃、悠輝君。一緒によしのん探すか。……あ、そうだ。もう濡れてっかも知れないけど、無いよりはマシだろ?」
開いていた傘を悠輝に手渡す。
「―良いの?お兄さん。」
「ああ、俺は大丈夫だよ。いいから使えって―」
「……四糸乃。使って―」
「あ……り、が…ぅ…ござい……ます。」
士道から悠輝に、悠輝から四糸乃に傘が手渡され、四糸乃からお礼を言われてしまった。
何というかちょっとこそばゆい…。
『格好良い事しちゃって―』
「う、うるせ―」
『パペットの捜索は此方でもやる―とりあえず、お前は捜索しながら二人の警戒を解いていけ―良いな?』
「はい―じゃあ、行こうか二人とも。」
その言葉に悠輝と四糸乃はこくりと頷いた。
そんな事が起きているなど露程も知らない迅達はファミレスで食事を取っていた。
「……此処なら、誰にも話を聞かれる心配もあるまい。」
そう言いながら、令音はカバンから機械を取り出す。
「何だ、それは?」
「……ああ、気にしないでおくれ。」
カタカタカタ……と令音が機械を操作する。
十香ちゃんは気になってみているようだが―何をやっているのかわかってないようだ…やがて、令音がこちらを向いてこくりと頷く。
「さて―じゃあ、十香ちゃん。お話しようか☆」
「……むぅ。」
確かに士道は此処にいない―彼女が不機嫌なのは間違いなく士道の昨日の出来事が原因だ…だが、彼女は口篭ってしまっている。
『まぁ、世界を滅ぼすって言っても―見た目と同じ歳相応な乙女なんだなぁ。』
それはあの学校生活見てれば分かるでしょ―でも、十香ちゃんって実際何歳なのかなぁ?
『本人も知らないみたいだし―分かってると思うがそんな会話振るなよ?』
地雷と分かってて踏みに行く様なバカじゃないよ―少なくとも僕は…
「……やっぱり、士道が別の女の子と一緒に居たのが原因?」
「――っ、私は、別に…だ、大体、何故そこでシドーが出てくるのだっ…」
「あれ?違った?」
こっちは何時も通りの表情を崩さない―何が原因かなんて考えるまでもない。
やがて観念したのか頭をくしゃくしゃとやると十香は大きな溜め息を吐く…
「……わからないのだ。」
「分からない?」
その返しに十香はこくりと首を縦に振る。
「自分でも、なぜこんな気分になってしまっているのか、わからないのだ。昨日―シドーが私を置いて、その、女の子と、キスとやらをしていたのだ。」
あぁ~~やっぱりそこが原因なのね―
『乙女だなぁ~~~。』
「別に…なにがいけないわけでもないはずなのだ。シドーが何処で誰と会おうが……だが、シドーがキスをしていたのを見た瞬間、もう、何と言うか―とても、そう、とても嫌な感じがしたのだ。」
「……ふむ。」
令音は機械のモニタを見ながら言葉を聞いているが―そっかそっか。
『何となく分かってはいたが、改めて聞くとなぁ―。』
うん、可愛いなぁ~十香ちゃん♪
「気付いたときには私は声を荒げて―って、おい迅、何だその顔は?」
「ん?顔?」
「何というか―何時もよりも、ニヤニヤ…してる風に見えるぞ」
「ああ…不快にさせちゃったのならゴメン。十香ちゃんがあまりにも可愛いからさ」
「か、かわ?!ふ、ふざけているか!?」
「違うよ。でも、十香ちゃんの気持ちの心情は良く分かった―大丈夫、十香ちゃんのその感情は誰もが持っている感情だよ。」
「むぅ?」
「……迅のいうとおりだ。非常に健康的な感情だ。だが―誤解は解いておいたほうがよさそうだな。」
「誤解…?」
「……ああ。あのキスは完全な事故だし。シンが十香、君よりもあの女の子の事を大事に思っているとか、そんなことは決してない。」
「っ、ほ、本当か…!」
その言葉に十香はバッと顔を上げる。
「ああ…あの場に僕は居なかったから何があったかはその全てを知ってるわけではないけど、士道の事は良く知っている。士道は君の事をとっても大事にしている…そこに嘘偽りは無いし、これからもないよ。」
「……それに、君の事を大切に思っていなければ、自らの命を危険にさらしてまで君を助けはしないと思うがね。」
「あ――」
「―何だか、とんでもない事しちゃったって顔してるね。」
「わ、私は…シドーに何て事を―」
「気に病むことはないよ―誰にだって失敗間違いはある。でも、今は買い物よりも大切な事ができたんじゃない?」
「うむ。すまん、今日のデェト、後日に回してもらうことはできないか?」
「ん~構わないけど、どーせデートするなら士道と行って来なよ。その胸のもやっとした感情も、何時かは自然と分かるものだからさ…いってらっしゃい♪」
「……行きたまえ。」
「感謝する。」
十香は短くそう言うと、ファミレスの扉を抜けて雨の街を走っていってしまった。
「ん~純粋な恋する乙女は一段と可愛いねぇ」
『あの朴念仁には勿体無い…とか思ってないだろうな?』
ちょっと―考えちゃった。
『やっぱりNTRか』
それは外道と書いてクズの行いです♪僕は外道だろうけど―普通の外道だよ。
『外道に普通も何もあるかい…』
「……さて、十香も居なくなったし。」
「そうですねぇ――本題に入りますか。」
令音が十香ちゃんの会話で出した機械をしまい、別の機械を取り出す。
「……君との話は昨日の戦いだ―色欲には手ひどくやられたようだね。」
「ええ、まぁ…向こうの作戦にまんまと嵌ってしまいましたよ。」
悪魔の能力・技術面での完全な敗北―
「契約者と戦うのはあるかもとは思ってましたけど―まさかこんな早い段階で来るなんて思いませんでしたし、それに―あっちは相当のプロですよ。」
【契約者】は魔導師達とは違う。 顕現装置が使えるわけでも、CRユニットなどの対精霊武装が可能なわけではない。
そんな者がASTに入っている―ただ契約者ってだけでは入れるような部隊ではないだろう。
でも、負けっぱなしは性分でもないですし―如何したものかと考えてるんですけど。
「『中々、良い方法が見つからないんですよねぇ~』」
実際、考えてみたけど―隠れて気配を完全に消してしまっているので見つけられない。
【強欲】からは【潜伏】中の色欲を見つけることは【欲望追跡】を使っても位置を完全に把握するのは不可能らしい。
「……それについてだが、私達に良い考えがある。」
「?―」
『?―』
良い考えがある?
「……詳しく聞かせてよ。それ―。」
その言葉に僕の口は大きく上に吊り上った。
以上、四糸乃編第6話でした! 感想お待ちしております!
と言うわけで四糸乃と一緒に居る男の子の名前が判明
【祇熊悠輝】君でした!気弱なロリっ子とそれを護るショタっ子―