仕事がきつい―心が折れそう―食欲がわかない。
社会人って辛いですよね………分かってはいましたが。
人気の無くなった市街地に発生する空間震―現れたのはウサギを模した霊装にフードを深く被る少女が姿を現す。
「……っ!?」
目を開けた少女…【精霊】四糸乃は狼狽に身を震わせた。
「ぇ………、ぁ………っ」
辺りを見回した。何処か知らない、町の真ん中。自分の周囲だけが、爆発でも起こったかのように消し飛んでいる。
空からは冷たい雨―別に、それらが彼女の心を乱しているわけではない。
ただ―違いがあるとすれば、何時も近くから感じられる。男の子の気配が感じられない事、そして何より、自身の左手にある無二の親友がいない事だ。
「…………っ!」
空からの聞き覚えのある音に空を見上げる。
そこには―機械の鎧を身に纏った幾人者人間が浮遊していた。
『目標を確認。総員、攻撃開始』
『はっ』
そんな会話の後、人間達の手や足から、幾つもの弾が四糸乃目掛けて放たれる。
四糸乃は息をつまらせて、地面を蹴った―そのまま、攻撃の軌道を掻い潜り逃げる。
その後ろからこわい人達が追い掛けて来る―さらに何発ものミサイルが射出された、
「…!…!」
動悸が激しくなってる。お腹が痛くなってくる。目がぐるぐると回る。
何時もなら左手の『よしのん』や何処からか駆けつけてくれる『くー君』が居て助けてくれる。
大丈夫って言ってくれて、護ると言ってくれて―だから平気だった。皆を傷つけずに居られた。
でも、今は―その二つの存在が居ない。
不意に背に凄まじい衝撃を感じた。そのまま地面に叩きつけられる。
痛い…どうしようもないくらいの恐怖感が、心に広がっていく。
ガチガチと歯が鳴って、ガタガタと足が震えて、グラグラと視界が揺れて、頭の中がグチャグチャになる。
そのまま、此方に禍々しい武器が向けられ無数の敵意殺意の塊が此方に向けられる。
もう嫌だ―恐怖が彼女の身体を動かす…右手を天高く振り上げ、叫んだ。
「――【氷結傀儡(ザドキエル)】……ッ!!」
【天使】と言う名の力―精霊が精霊と呼ばれる所以…精霊を護る霊装と言う最強の盾と対を成す、無敵の矛。 形を持った奇跡―彼女は…【武器】を手にとってしまった。
「やってるなぁ…どう思う、色欲?」
狙撃ポイントに到着し、戦況の様子を見守っていたリナルドはスコープ越しに状況を見定める。
精霊【ハーミット】出現から直ちに殲滅が開始された。
ただでさえあの精霊ちゃんは攻撃性を感じられないのだが―如何にも妙な気配を感じる。
『如何も何もなァ……はっきり言うなら―妙だ。』
妙…か。 確かにな―俺にはあのハーミットに普段の余裕っていうのが感じられない。
『余裕?』
ああ―過去の戦闘…前回の戦闘でも思ったが…アイツは戦闘には進んで行ったりはしない。
表情感情も乏しいと言うか―淡白と言うか…とにかく無表情だったんだ。 絶対的な力の持ち主ゆえの余裕とも思ったが―違う。 アイツは戦闘を好んでいない。
だが、今回は表情が表に出てる…しかも、余裕が無い。 明らかに動揺してる。
『如何する?撃つのかよ?』
いや、まだ様子見だ―このまま殲滅できれば問題ないんだが―
そう思った矢先―精霊の位置を中心に爆発が起きた。
AST達のミサイルが着弾したんだろう―
『やったか!?』
『ちょ―それフラグだぞ!それもダメな方向の…』
通信から聞こえてきた声に色欲が反応するが―
果たしてそのフラグが原因か……違うのか。
煙の中から現れたのは――【巨大な白いウサギ】だった。
いや、見た目はウサギだ。 けど、違う…口か覗く無数の牙、周囲を覆う白い冷気…そして、そのウサギの背中には
「あれが、天使か。」
精霊が持つ最強の武器―あれを顕現されたら、ただの人間が勝てるわけが無い。
「―穿て【閃紅魔銃(ラスト)】」
スコープを退かし、悪魔の罪名を呼ぶ―現れた深紅のマスケット銃構える。
此処からは俺の仕事だ―あの背中に張り付いている精励の本体を撃ち抜く…それで終わる。
『行くぞ、リード!』
「オーライ。日下部隊長!!俺も仕掛ける、ハーミットの動きを抑えてくれ…その間に俺が仕留める」
耳に付けた通信機を開く
『狙えるの?』
「俺の魔弾の軌道は変幻自在だ。背中の本体をぶち抜いて終わらせる。」
『分かったわ。聞こえたわね!こっちは動きを止める事に専念するわよ!!』
さてっと…行くぜ。
『ああ。』
引き金を引き魔弾が放たれる。標的はハーミット―逃げ惑う子を撃つのは気が進まないが…あんな状態を放っておけば、町にも被害がでかくなる。
仕方ないとは―割り切れないが………ん?
いきなり、ハーミットが動きを止まった…一体何が。
「……………ん!?」
ビルの屋上…この気配は―【怠惰】。 それに、もう一人居る。
『おいおい!民間人は普通避難してる筈だぞ?!戦場カメラマンか!?』
「知るかよ…クソッ!」
今、当てるのは簡単だが―それで仕留め切れなければあの民間人にも被害が及ぶ。
何よりも自分の意識がそっちに向いてしまった―魔弾の軌道も狂ってあらぬ方向に飛んでしまった。
「チッ………」
如何する―撃つか?いや、駄目だ…下手に刺激すればあの二人に被害が及ぶ。
【怠惰】はとにかく、無関係な人間を巻き込むのは俺のポリシーに反する。
此処は暫く様子を見るしかないだろ―
だが【閃紅魔銃】は解除せず、引き金から指を一度外す―ハーミットの動きが止まったのは良いが、何をしているんだ?
『見たところ…話をしているみたいだな。 3人で―』
3人?―ハーミットと怠惰とあの少年がか? 二人は分かるが―何で関係も無い少年が……いや、最初から無関係と考えるのは変だな。 それにあの少年は―何処かで……!
『そうだ。思い出したぞ!?前回のプリンセス狙撃の時に居た!』
ああ、そうだ。間違いない―あの時にプリンセスと一緒に居た少年だ。 だが、一体何故あんな所に―それも今度はハーミットと―何をやっているんだ。
とにかく、後で個人的に問いただすとして―これこそ様子を見るしか方法は―そう考えながら見ていたが、突如、ハーミット目掛けて攻撃が始まる。近くに民間人も居るにも拘らずにだ
「ッ!何やってんだあいつ等?!…おい、隊長ッ!!民間人が近くに居るんだ今すぐ攻撃を中止させろッ!!!」
『ええッ?!避難警報からは30分以上も経っているのよ!?』
「時間なんざ関係ねぇだろ!!とっとと避難させろ―ッ!拙いッ!!」
ハーミットを刺激したから向こうも反撃に転じやがった―あのままだと少年と怠惰が攻撃に巻き込まれるッ!!
仕方ねぇ―恨むなよ!!!
引き金に指を掛け、引き絞る―2発目の魔弾が巨大なウサギの背中に張り付いたハーミットに向けられて放たれる。
一発で脳天にぶち抜く―それでッ!!
「何もかも一件落着―とか考えてるんだったら、虫が良すぎるってものじゃないかな?なあ、【色欲】?」
「ッッ?!」
隠れていたビルの窓がぶち破られる―入ってきたのは、今まで気配なんて感じられなかった筈の―
「【強欲】ッ!?」
「せいかぁ~い…会いたかったよぉ、【色欲】さァん!!!」
バカな―何で場所がバレた…いや、そもそも一体何処に隠れて―
違う。隠れる以前の問題だ―契約者同士は嫌でも気配と言うものを感じてしまうものだ。その七体の中で例外として、最も気配を隠す事に長けた【色欲】だけが、自身の気配を他の契約者に悟られない術を持っているのに…それが何故、こうもいきなり見つかる?!
「驚いてるね―まぁ、上空一万二千メートルからずぅっとアンタの位置が分かるまで遠くで待ってるのには暇で死に掛けたけどさ。」
「上空一万二千メートル…だと?」
「気にしないで良いよ―どの道、此処まで近づいたのなら、やることは一つだろ?なあアッ!!!」
「チッ!」
言うや否やこっちに敵意むき出しで蹴りを放って来る―ただの脚甲じゃない。コイツが―【強欲】の悪魔かッ―だが、言うとおりだ。
理由はどうあれ接近されれば隠れるも何も無い―何よりもこっちの悪魔は接近戦には向いてないってのにッ!!クソが!!!
「悪い―隊長!敵に見つかったッ!!援護頼む!!!」
通信を使って日下部隊長に応援を要請するが―何だ?電波が悪い?
「おい!通信!!如何した!!」
『リナルド!…聞こえてるわね!!こっちもいきなり現れたプリンセスと交戦中―援護に迎える余裕が無いわ!!』
「ハア?!」
『こんな時にとは思うけど―貴方でそっちを対処して頂戴!』
そう言って通信が切られる……プリンセスの出現だと?!
偶然なのか?……いや、違う。
「お前の差し金か?―【強欲】」
「さぁ…如何だろうね?」
カッコイイ仮面をつけているせいで表情は伺えない。
だが、口調からすると―してやったりって言うのかな?
「……ったく、やられた。」
「これで、この前やられた分は返せたかな?」
「…釣りが出るぜ?このヤロウ。」
「そのお釣りは遠慮するよ―」
だろうな…さて、状況は不利だが―万事休すではない。
此処を乗り切れるのは俺の実力次第ってことなんだろうな―さてっと…契約者同士の戦いってのは初めてだが―仕方ないか。
「―援護はこれないってよ。お前とはこっから【さし】みたいだぜ」
「みたいだね―さっきの反応で察したよ。」
「ったく―狙撃手が見つけられるなんて失格ものだぜ?けどまあこうなれば仕方ないか―」
『如何する気だリード…』
【閃紅魔銃】は遠距離向けだ―お前は暫く能力に徹してくれ。
『了解だ―強欲の【魔風暴君】は、強力だ。 少なくとも空中には連れ去られるなよ?』
オーライ……腰のナイフと拳銃を取り出す
「それが武器?」
「ああ―今もそうだが、傭兵稼業でな…CQCも得意なんだよ。」
「…それで悪魔に勝てるとでも?」
「………自信はあるぜ?俺と色欲は何ていったって【無敵のコンビ】だからな」
「あっそう…」
間合いを計りながらの会話は此処で終了する―この先は言葉は不要だ。
攻撃力ははっきり言えば向こうが圧倒的に上―受け止めるのは愚策だ。受け流すのが吉か―
「そう言えば…名前聞いてませんでしたよね?」
「―一件落着したら自己紹介しようぜ。」
「―どっちかが屍になってたら如何する気さ」
「その時は運がなかったってことで―」
「了解…じゃあ、第二ラウンドを始めようか!!!」
と言うわけで、四糸乃編9話目でした!感想お待ちしております。
士道と悠輝は四糸乃の封印&救出へ
十香はASTへの囮
そして迅は色欲ことリナルドとの再戦
四糸乃編ももうすぐ完結!!