ラブライブ!短編集〜私たちとμ's〜   作:ちゃん丸

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作者:薮椿




フライング・ハッピーエンド

 

 

 

 国立音ノ木坂学院。僕が教師として初勤務することになった学校であり、親が通っていた学校でもあるため思い出深い場所だ。教師になって身内の母校に勤務できることを嬉しく思いながらも、社会人1年目として切磋琢磨しながら教師生活を送っている。

 

 自分で言うのもおかしいけど、そういった勤勉でひたむきな面があるからなのか他の教師の方から可愛がられている。それだけでなく生徒たちもフレンドリーに接してくれるので、職場の人間関係は非常に良好だ。生徒から友達感覚でコミュニケーションを取られるのはどうなのって思うかもしれないけど、僕としては変に堅苦しくなられるよりも多少砕けててもいいからフレンドリーな方がありがたい。教師なのにコミュ力はないから友達感覚で親しくされる方が楽なんだよね。

 

 そんな感じで新米教師として音ノ木坂学院に就職。それから半年以上経ち、教師生活が日常生活として身体に沁みついてきた頃だ。

 今日もいつも通り起床し、朝の支度をし、いつもの時間に家を出る。そして学院の校門をくぐり、職員室へと向かう。何も変わらない朝のルーティーン。今日もいつも通りの日常が開幕する――――と思っていた矢先だった。

 

 

「あっ、先生! おはようございます!」

「おはよう、高坂さん」

 

 

 太陽のような笑顔でこちらに手を振って挨拶してきたのは2年生の高坂穂乃果さんだ。スクールアイドルという学校でのアイドル活動をやっており、そのグループ『μ's』のリーダーを務めあげている子。僕とは違って陽キャオーラ全開で、その眩しさで目が潰れてしまいそうだ。

 

 そんな子がわざわざ職員室へ向かう道の真ん中に立っている。職員室の道なんて朝に生徒が通るところではないんだけど、一体何をしているのだろうか……?

 

 

「先生! 大きくなったよ!」

「大きく? もしかして背が伸びたとか?」

「う~ん、伸びたと言えば伸びたけど、もっと全体的に大きくなったと言うか……」

 

 

 もしかしてこれは――――逆セクハラ!? 思春期の女の子が大きくなったと言って喜ぶのは身長(これも怪しいけど)か胸しかないと思っている。背ではないとすると胸。これは女の子特有の『私のどこが変わったのか察して指摘して』というパターンのやつか?? それでも胸が大きくなったと言わせるなんて逆セクハラにもほどがある。それに制服の上からだと多少大きくなっても分からないと言うか……。いやいやいやいや! 生徒相手に何を考えているんだ僕は!?

 

 

「実際に見てもらった方がいいね」

「実際に!? み、見せてくれるの……??」

「だって先生と私の愛の結晶……だもんね♪」

「えっ、愛? 結晶?」

「ほら見て、この子。大きくなったでしょ?」

「へ……?」

 

 

 よく見たら高坂さんは子供、というより赤ちゃんを抱いていた。どことなく彼女に似て愛嬌があり可愛らしい。だけどどうして赤ちゃんを抱いているんだろう?

 そう思った瞬間、高坂さんの言葉を思い出す。愛の結晶。つ、つまりこの子は……ッ!!

 

 

「ね、ねぇ、もしかしてその子って僕と君の……」

「もう何言ってるの先生! 私と先生の子に決まってるじゃん!」

「えぇっ!? そ、そんないつ……」

「ん? 変な先生。あれだけ愛してくれたのに……」

 

 

 高坂さんは顔を赤らめて俯く。その自然に漏れ出す恍惚な表情から嘘をついていないと確信できた。

 それにしてもこの赤ちゃんが僕と高坂さんの子……? そ、そんないつ僕たちが愛し合ったと言うんだ?? 誤解がないように言っておくと、もちろんヤってない。そもそも教師が女子生徒を襲うのも問題だし、増して僕には女の子と交わる度胸なんてない。でも彼女はこの子が僕と自分の愛の結晶だと言い張る。もしかして酒で酔っている間に襲っちゃったとか、実は僕自身が二重人格で裏の顔はヤリチン野郎とか……?? ぜっっっんぜん何が起こってるのか分からない!!

 

 いや落ち着け。もしかしたら新手のドッキリかもしれない。高坂さんの表情や言動から嘘は感じられないけど、彼女はスクールアイドルだから演技は上手いはず。つまりこれは罠だ。僕が女子高生を孕ませるなんてありえない……ありえないんだ!!

 

 

「穂乃果ちゃん、先生! おはよう!」

「あっ、おはようことりちゃん!」

「南さん? よかった、高坂さんにドッキリを仕掛けられて――――って、え゛ぇ゛え゛えええ!?」

「? どうかされましたか?」

「そ、その腕に抱いてるのって……」

「この子ですか? 先生がくださったことりへの愛、に決まってるじゃないですか♪」

 

 

 そんな馬鹿な!? 1人だけじゃなくて2人も襲ってたのか!? いや襲ってないけど!!

 僕たちの目の前に現れたのは南ことりさん。なんと彼女も赤ちゃんを抱いていた。しかも僕との愛によって誕生した生命だと主張し、嘘偽りなど微塵も感じない幸せそうな笑顔をこちらに向ける。女子高生を孕ませるだけでも重罪なのに、それを2人も、しかもこんな美少女たちを……。

 

 

「ことりちゃんの赤ちゃん、ことりちゃんに似てとっても可愛いね!」

「それは穂乃果ちゃんの赤ちゃんの方だよ! やっぱり先生からたくさん愛情を注いで貰ったからだね! この赤ちゃんにも、そして私たちにも……♪」

「えっ、僕ってそんな凄いことしてたの……」

「覚えてないんですか? でもあの時の先生とっても興奮してたから仕方ないかな?」

「我を忘れるくらいの勢いで2人を襲っていたの僕!?」

「あの夜の先生ずっと止まらなかったもんね。みんなベッドの上でクタクタになってたのに」

「どれだけ性豪なんだ僕って……。ん? みんな……?」

 

 

 サラッと流しそうになったけど、今さっき気になる単語が聞こえた。みんなって……もしかしてこの2人だけじゃなくて他の子たちも子持ちってこと!? 高坂さんが言う『みんな』は恐らくμ'sのメンバーのことだろうけど、アマチュアとは言えアイドルにどんどん種付けするシチュエーションは背徳感が凄まじい。ただでさえ女子高生ってだけでも犯罪級なのに……。

 

 女子高生、スクールアイドル、美少女、複数人、孕ませ――――なんかAVやエロ同人の検索タグみたいな羅列だな……。

 

 

「この子の笑った顔、先生にそっくりで可愛いんだよね~。なんかこう、笑顔の温かさに包み込まれるって感じ」

「分かるよ穂乃果ちゃん! この子の笑顔を見てると、先生が微笑んでるみたいでずっと見ていられるもん」

「うんうんっ! 幸せってこういうことなんだね~」

 

 

 もう完全に僕との子供がいる前提の世界のようだ。ここまで2人が幸せそうだと『僕には子供なんていない』と否定して水を差すのも申し訳なくなってくる。

 それにしても2人が抱いている子が僕との赤ちゃんか……。最高級の美少女に自分の遺伝子を流し込み、そしてその結晶を形としてこの世に顕現させる。なんて淫靡な響きだろうか。しかも世間には彼女たちμ'sのファンは非常に多く、その人たちが憧れ焦がれるこの子たちを自分の色に染め上げたのだ。そう想像するだけでも愉悦を感じざるを得ない。教師と生徒の関係だから重罪なのは当然だけど、だからこそ全身を駆け巡るこの背徳感が溜まらない。

 

 あぁ、もう僕の悪いところが出ちゃってるな……。教師なのに性的欲求が完全に思春期男子並みだ。大人だから穢らわしい性欲、増してや教え子にそんな気持ちを抱くなんて絶対にしないでおこうと思っていたのにこれだよ。でも男って裏ではそういった誰にも言えないドス黒い性欲を持ってるものだよね……?

 

 

「全く、朝から騒ぎすぎですよ皆さん」

「あっ、海未ちゃんだ! おはよう!」

「おはよう、海未ちゃん」

「おはようございます。先生も、一緒になって騒いでいないで教師として注意してください」

「あ、う、うん……。そ、それよりその腕にいる子って……」

「なにを今更。あなたと私の子ですよ」

「やっぱり!!」

 

 

 次にやって来たのは高坂さんと南さんの幼馴染である園田海未さんだ。

 高坂さんたちの話を聞いて他の子たちも子持ちだってことが分かっていたから、事実を暴露されてもあまり衝撃はなかった。女子高生を孕ませた現実を既に受け入れている自分が怖いけど、もう起こった事象を有耶無耶にすることはできないんだから、だったら与えられたシチュエーションを堪能した方がいいよね理論。なんか僕のクズさがどんどん露呈してる気がするぞ……。

 

 

「海未ちゃんの赤ちゃん、海未ちゃんにて凄く美人さんだよね~」

「そうでしょうか……? だとしたらそれは私だけではなく、先生の整った容姿のおかげでもあると思います」

「先生カッコいいもんね!」

「そ、そんないきなり褒めないでよ……!!」

「でもエッチの時の興奮してる顔はとっても可愛いよね♪」

「ふぇぁ!? なに言ってるの南さん!?」

「ま、まぁ分からなくはないですね……」

「園田さんまで!? ていうか恥ずかしがるならわざわざ口に出さなくてもいいからね!?」

 

 

 興奮している表情が可愛いとか男のメス堕ちジャンルじゃないんだから需要ないって!! でも交わっている時の記憶が全然ないのでもしかしたら本当に女の子みたいな発情顔をしていたかもしれないんだよね……。高坂さんも南さんも、そして園田さんもみんな顔を赤くしてその時の光景を思い出しているようだ。

 

 

「そんなに僕って情けない顔でその……シてたの?」

「全然そんなことないよ! ずっこんばっこん激しかったんだから! 男らしくてとてもカッコよかったよ!」

「ちょっ、言い方生々しいからやめて!! あまり濃厚なのは苦手だから僕!!」

「えっ、でもベッド上では1人だけ一晩ずっとやる気でしたけど?」

 

 

 やっぱり僕って二重人格なのかもしれない……。僕が知らない僕がいるんだけど……。

 自分の手で美少女を子持ちにさせた快感が半分、自分の知らないところで性欲魔人となった自分が勝手に行動している恐怖が半分。どうせ女子高生を襲ったことが罪になるのであれば、今の意識を保った状態でベッドインしたかったな。だってほら、結局今の僕はその時の気持ちよさを味わえていないわけだし、どうせ処されるのであれば快感を味わいたかったなっていう……。

 

 

「なんか今日の先生、様子がおかしいよ? もしかして私たちとお付き合いしてること……後悔してる?」

「えっ、し、してない!! それだけは断じて!!」

「そうだよ穂乃果ちゃん。あれだけベッドの上で愛を囁きながら愛してくれた先生だもん!」

「そうですね。一度に私たちを複数相手にして、しかも相手に応じて告白の言葉まで変えるその律義さ。その行為だけでも先生が後悔していると思えません」

「う゛っ、そ、そうだよ……」

「だよね! いやぁ先生がさっきからずっと記憶がないフリをしてるから心配になっちゃったよ♪」

 

 

 いや記憶がないというかヤってないですけどね!! でもその事実をありのままに伝えるとみんなを悲しませることになるし、だったら女子高生をたくさん孕ませた教師として汚名を背負ってでも彼女たちの笑顔は守ってあげたい。それだけは例え記憶がなかったとしても僕が果たす義務だ。

 

 それより気になるのは告白の仕方がどうとか。一度に複数人を相手にしていたってのも凄いし、告白文も練りに練られていたらしい。どんな内容なのかは語られなかったけど、そもそも性行為しながら告白する行為自体が恥ずかしい。しかも順番が逆で、普通は先に告白して結ばれてから性行為な気がする。どれだけ痛い奴なんだよ裏人格の僕は……。

 

 

「そろそろ朝礼の時間ですね。私たちもそろそろ行きましょう」

「行くって、その子たちを連れて……?」

「はい、そうですけど……」

 

 

 園田さんたちはきょとんとした顔で僕を見つめる。まるで僕の方がおかしなことを言っていると言わんばかりの顔だ。

 そもそもそうだよ、どうして彼女たちは学校に赤ちゃんを連れてきているのだろうか? 百歩、いや千歩譲って女子高生が子持ちになるのはいいとして、自分が学校に行っている間って赤ちゃんの面倒は誰が見るの? 知らず知らずのうちに女子高生に手を出した事実に驚いてたせいでそのことをすっかり忘れていた。

 

 

「赤ちゃんを連れて授業を受けるなんて普通のことだよ! だってほら、みんなそうだしね!」

「いやみんなって言ったって、μ's以外の子たちにとっては迷惑になるんじゃ……」

「えっ、みんなはみんなだよ?」

「へ?」

「ほら見てよ! 登校してきたみんなも赤ちゃんを抱いてるでしょ??」

「な゛っ、なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?」

 

 

 僕は壮絶なる勘違いをしていた。高坂さんたちを子持ちにさせた事実を受け入れたのだが、『()()()』の定義をはき違えていたのだ。

 みんなとは本当のみんな。つまりこの学校の生徒みんな。ここは女子高、つまり生徒全員。そう、今登校してきている子たちもみんな子供を抱きかかえていたのだ。そして高坂さんたちの言葉から察するに、あの赤ちゃんは僕との愛の結晶。てっきりμ's9人だけ(だけって言うのもおかしいけど)だと思ってたのに、もはや僕は性豪どころかただのヤリチン野郎に成り下がっていた。この学校は廃校の危機に直面するくらいだから生徒数は少ないけど、それでも3桁人数は余裕。もう何が何だか分からないぞ……。

 

 

「ということで先生、今日もたっぷりお願いしますね! 何がとは言わないですけど……♪」

「これだけたくさんの女性を娶ったのですから、全員を愛せられるように頑張ってくださいね」

「先生なら大丈夫! 実はまだ先生のことが好きだけど赤ちゃんがいない子もいるから、全員愛せるようにファイトだよ!」

「へ……え゛っ、え゛ぇ゛ぇえええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はっ、こ、ここは……僕の部屋? ということはさっきのは……夢?」

 

 

 ここで目が覚める。見慣れた天井。見慣れたベッドに枕、家具の数々。うん、間違いなく僕の部屋だ。

 カーテンの隙間から差し込む光。時計を見るとどうやら朝のようだ。

 

 つまり、さっきのは全部夢ということ。

 そりゃそうだよね。教師が女子生徒を孕ませることも、学校のみんなに種付けをすることも、全部現実ではありえないことだ。でもああいった夢を見るってことは僕にその願望が―――――いやいやいや、ないないない! 僕は健全な教師。社会人1年目としてこれから頑張っていかなきゃならないのに、こんなところで牢にぶち込まれるわけには――――

 

 

「すぅ、すぅ……」

「えっ? な゛っ、こ、高坂さん!?」

 

 

 何やら気持ちよさそうな寝息が聞こえたと思ったら、僕のベッドに高坂さんが潜り込んでいた。それに何も着ていないようで、気づけば僕も何も着ていないようだ。

 そしてよく見渡すと南さんに園田さん、それに他のμ'sのみんなまでベッドで寝息を……。

 

 

 もしかして、さっきのって現実じゃないよね!? 夢……だよね??

 

 

 

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