作者:鍵のすけ
ことりと穂乃果、海未は生徒会室で向かい合っていた。
議題は机の上に置かれた一枚の紙。捺印された予算承認申請書。
「ことりちゃん、これは何だっけ???」
「予算承認申請書……です」
「これ、学校経理事務担当の人の印鑑押されているんだけど……どうして?」
物事には理由がある。予算会議の前に、美術部の部長が持ってきた予算承認申請書をことりが誤って、承認箱に入れてしまったことが今回の事件の始まり。
「はぁ~……。予算会議前に予算承認なんてありえないよね? どうしたの? 元気無いね? なんか言おうよ? ファイトだよ?」
「ご、ごめんね穂乃果ちゃん……」
泣きそうになっていることり。そんな彼女を横切り、穂乃果は窓際へ近づく。そして、穂乃果はことりをちらりと見る。その瞳は侮蔑の色に染まっていた。
「いや、謝らなくてもいいよ。こうなってしまったからには、私が責任を持って解決しようと思うからさ」
穂乃果は胸ポケットからココアシガレットを取り出し、吸ってみせた。煙はないが、ふぅと一息つく穂乃果。
海未は黙って二人のやり取りを見守っていた。
「まぁ……最悪、生徒会長の私が一言申し訳無さそうに謝り倒せば、何だかんだ収まるようになっているから良いけどさ~~~~~~。それでも反省はして欲しいというか、ね、分かる? ね? そのアルバイトで鍛えた立ち回りの良さを私に見せてよ」
「うん……本当に、ごめんなさい」
「海未ちゃんは? 何か一言、このことりちゃんに物申さなくても良いの? これ、重大な問題だよ? ファイトだよ?」
「それでは僭越ながら」
ことりがびくりと身体を震わせる。親友の穂乃果だけでもきついのに、海未からも責められてしまえば、もう立ち直れないかもしれない。申し訳無さと不安がことりの中に渦巻く。
「こういった書類の重みは理解すべきです。こうして承認されたということは、私たちがそれを認め、部活動を頑張ってくださいね、というように背中を押したことと同義なのです」
穂乃果が腕を組み、頷いていた。
「そのことを認識し、深く反省するべきだと私は思います――――穂乃果」
「うんうん、その通りだね! 海未ちゃん、これはことりちゃんに腹パンでもくれてやったほうが――――――ん、私?」
海未がことりの隣に立つと、穂乃果を指差した。力強き意思が込められていた。
「その通りです。今回の件、穂乃果に全ての責任があります。穂乃果……どうして、このような失態を……! 見損ないました!」
「ちょいちょいちょい! 何で私なの!? ことりちゃんが全部悪いじゃん! この鳥類が確認せずに書類を入れたから、今回の件は起きたんじゃん!」
直後、穂乃果は吹き飛ばされていたッ!
音もなく、接近した海未によるビンタ、腹パン、ついでに回し蹴り! 海未の高い身体能力から繰り出される必殺コンボは、穂乃果を沈黙せしめるッ!
「穂乃果! 見苦しいですよ! このままじゃ私、貴方に手を上げてしまいそうです!」
「もう、殴ってる……じゃん……」
「ちゅん!」
ことりが近づいたと思ったら、穂乃果へ蹴りを一発放ち、再び元の位置に戻る。
「海未ちゃん! 穂乃果ちゃんを責めないで!」
「おいこら鳥類。今、何で私を蹴った?」
「ことり……貴方、穂乃果を庇うのですか? どうして……! どうしてこんな人を!」
「大事な友達だからだよ!!!」
「今、その大事な友達に蹴りを入れられたのだが? というか海未ちゃんあとで覚えてろよ」
ことりの目には涙が溜まっていた。親友のことを
海未はその涙に心を打たれ、穂乃果は悔しさのあまり拳を握りしめていた。
「ハノケチェン! 失敗は誰にでもあるよ! ライブだって同じだよ! 失敗してもそこで終わりじゃないよね!? そこから私たちは立ち上がってきたじゃない! だからハノケチェン、今回の件はハノケチェン一人だけが悪いわけじゃないんだよ! 皆で、どうにかしよ? ファーストライブを思い出して!!!」
「ことり……ふっ、成長しましたね」
「私の親友二人の頭がおかしくなった件について。というか、何で私に全て押し付けられてるの!? おかしくない!? ねえ、海未ちゃんもう一回考えてよ! 誰に原因があるのか! そしてことりちゃん、お前、ほんと良く考えろ」
すると、ことりは静かに穂乃果の隣に立つと、海未へ向き直った。
「よく考えたら、ことりが失敗しちゃった原因って、海未ちゃんにあるよね?」
「はぁ!? 私ですか!?」
「うん。海未ちゃんが私に書類を渡さなかったら、こんな事にならなかったんだよ。というか、何でことりに書類を渡したの? もしかして私をパシった感じ……かな? それならだいぶ海未ちゃんのこと、下に見なくちゃならないんだけど……あはは。ちゅ~んちゅん」
「だよなぁ! ことりちゃん! 良く言った! っぱ、海未ちゃんが諸悪の根源じゃん! お詫びをしてよ! おーわーびー!」
「待ちなさい!!! 何故私が責められているのですか!? こんなのおかしいですよ!」
「海未ちゃんさぁ……そういう所あるよね。後ろから全てを見ているようで、実はばりばりの実行犯。私、前から海未ちゃんに不信感を抱いていたよ」
「ことりも穂乃果ちゃんと同じことを思ってたよ。ねえ、海未ちゃん……どうして……?」
「ぐ……が、ぎ……!」
あまりの理不尽さに、海未は血の涙を流していた。
ドロドロとした女の友情が、ここにはあった。
そこからしばらく三人による、見るに堪えない責任の押し付け合いが繰り広げられていた。たったの一言で揚げ足を取られるので、その一言一言が重要な、まるで将棋のような“口”防。
「二人共、喧嘩しないで!」
ついに限界を迎えたことりが穂乃果と海未の間に立った。
「分かったよ! それならことりに考えがある!」
そう言って、ことりは部室の備品であるパソコンへダッシュした。一体何をするつもりなのか、穂乃果と海未には予想もつかなかった。
「これだよ!」
高速タイピング、直後に出てきた画面。それを見た海未は驚き目を見開く。
「ふぉ、Foreign eXchange……! 外国為替保証金取引を、まさかことり……!」
「そうだよ海未ちゃん。ことりはこれで一発逆転を目指す!!!」
「む、無茶ですよ! それに一体どこに資金があるというのですか!!」
「私の資金は二千万だちゅん!!! アルバイトで貯めたよ、えへへ」
「レバレッジは!? レバレッジはどうなのですか!?」
するとことりは、右手を開いた。
「ご、五倍……?」
「ううん、違うよ海未ちゃん。――五億倍だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわあああああ!!」
海未は吹き飛んだ! 物理的な説明は一切ない!
その提案に穂乃果は笑った。大いに笑った。少し筋肉痛になってしまうほどだった。
「人生そんなに甘くない! ことりちゃん、そんなのは分の悪い賭け! 地獄行きが目に見えているよ!! ファイトだよ?」
「じゃあ、もしことりが一発当てたら、土下座してくれる?」
「ど、どどど土下座!? もちろんが過ぎるよことりちゃん! あーはっはっはっはっはっは! へそで茶が沸いちゃうねぇ!!! もし資産が一億円にでもなったら、土下座するどころか一生奴隷になっちゃうよぉぉぉ!!!」
「その言葉、忘れないでよ!」
早速手続きをし、ことりはパソコンの画面に集中する。その背後に立つ穂乃果と海未!
「いくよ穂乃果ちゃぁぁぁぁぁん!! 海未ちゃぁぁぁぁぁん!!」
「来いよぉぉぉぉぉぉ!!!」
◆ ◆ ◆
「で、ハノケチェン? 何か言うことは?」
「どうもはじめまして。私が奴隷です」
地面に額を擦り付ける穂乃果と、見下ろすことりが、そこにいた。
あの後、当たりに当たり、なんと三十分で二千万が一兆円にまで膨れ上がったのだッ!
ことりはすぐに稼いだお金を音ノ木坂学院へ寄付! 贅沢を極めた施設が乱造され、その魅力に撃ち抜かれた未来の若人達による入学に関する質問電話の雨嵐! 三十年先は入学者に困ることはないだろう!!
その余剰金を活かし、残り四十六都道府県に音ノ木坂学院の姉妹校を建設!
後に、『全国音ノ木坂学院ラブライブ』なるスクールアイドルのための催しが開催されたという話もあるが、これはいつの日か語ろう。
「災い転じて福となす! 穂乃果ちゃんたちの言いがかりに屈しなかったからこそ出来たことだね!」
「ことり? 何を言っているのですか!? 元々はことりと穂乃果が……!」
「はいー? いや、それはことりちゃんと海未ちゃんのせいで――」
仲良く喧嘩しなッ!
ちゃんちゃん!(強制終了)